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浮腫~病態のとらえ方と様々な原因

投稿者プロフィール
島田利彦

医仁会武田総合病院

95,609

339

概要

浮腫について古典的な心臓、腎臓、肝臓、甲状腺、圧痕性などのとらえ方だけでは、つかめない病態が多い。病態生理や病歴から浮腫をとらえなおし、ピットフォール的側面をもつ様々な病態について学ぶ。

本スライドの対象者

医学生/研修医/専攻医

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テキスト全文

#1.

Essential & effortless浮腫 心・肝・腎・甲・pitting の一歩先 医仁会武田総合病院 淡海医療センター

#2.

  症例:70歳代女性 COPDで軽い労作性呼吸苦あり 室内ADL自立。洗濯や掃除などの家事をこなす 1週間前の歩行中に急な右下腿浮腫と疼痛出現 近医で「足の血栓で肺にとんだら死ぬ」と脅されて救急受診 右下腿全体に圧痕性浮腫+右下腿後面に広く発赤と圧痛、 左右下腿径は大きな差がない 呼吸苦なし SpO2含めたバイタルに異常なし この症例をどう評価する?

#3.

まず病的なものかどうか?若年女性に多い‘むくみ’の訴え   生理的範疇ではないか? 生理的浮腫の特徴は?      1. 時間・日内変動(夕方に強まる)      2. 左側に強い      3. 就下性(重力性)に変動

#4.

病態生理 × 病歴 浮腫鑑別の鍵

#5.

病態生理   1. 血管(静脈)   Starling forces: 体液移動に関わる3要素 κ ×(Δ静水圧-Δ膠質浸透圧)  

#6.

血管浮腫(≒クインケ浮腫) vs. その他の浮腫

#7.

病態生理 2.  血管以外 リンパ浮腫 (限られた病態、検査がしにくい)      悪性腫瘍リンパ節郭清術後・放射線照射後      フィラリア         Yellow nail syndrome, 特発性 ムコ多糖類(甲状腺機能低下)   Lipidedema(lipoedema):脂肪   →  次頁

#8.

Lipedema(lipoedema):脂肪性浮腫 リンパ浮腫との鑑別が難しい(混在もありうる)   脂肪性では足首以下はspareされる(比較的浮腫に乏しい) Obesity, Volume: 27, Issue: 10, Pages: 1567-1576, First published: 23 September 2019, DOI: (10.1002/oby.22597)

#9.

病歴: Semantic qualifier  急性    vs.  慢性  両側性  vs. 片側性  局所性  vs.  全身性  就下性 vs. 非就下性  Pitting  vs.  Non-pitting  Fast    vs.  Slow 経過・分布     >   性状・背景

#10.

まず経過と分布で大きく分類

#11.

1. 全身性/両側性 〈1.高頻度〉  薬剤! (次頁)  心不全  腎不全  肝不全  低アルブミン : ネフローゼ、 蛋白漏出性胃腸症  甲状腺機能低下症 血管浮腫 (アレルギー、アナフィラキシー)  妊娠  これらの病態で主訴が浮腫(だけ)というのは少ない

#12.

いつも心におくすりを!   ACEI/ARB: angioedema Calcium channel blockers:    dihydropyridines (e.g., nifedipine,amlodipine, felodipine),    phenylalkylamines (e.g.,verapamil), benzothiazepines (e.g., diltiazem) Direct vasodilators: hydralazine, minoxidil, diazoxide Beta-blockers Centrally acting agents: clonidine, methyldopa Antisympathetics: reserpine, guanethidine Antidepressants Monoamine oxidase inhibitors Corticosteroids Estrogens/progesterones Testosterone NSAIDs Pregabalin Troglitazone, rosiglitazone, pioglitazone Phenylbutazone Insulin まずは  ロキソニン,  プレドニン,  アムロジン,  リリカ あたりのチェック Am J Med.2002;113

#13.

降圧剤による浮腫カルシウム拮抗薬とACE阻害薬 CCB 局所静水圧上昇による         重力性分布・peripheral edema ACEI/ARB 局所血管透過性による血管浮腫   非重力性・結合織に影響される

#14.

1.  全身性/両側 〈2.比較的まれな疾患〉     貧血そのもの   Non episodic eosinophilic anigioedema 好酸球性血管浮腫   Beriberi 脚気  収縮性心膜炎  RAやDermatomyositis, RS3PE (などの多関節炎・滑液胞炎)  POEMS Polyneuropathy, Organomegaly, Endocrinopathy, Monoclonal protein, Skin changes  TAFRO Thrombocytopenia, anasarca, fever, reticulin myelofibrosis, renal insufficiency, and organomegaly   Budd-Chiari Syndrome  Generalized insulin edema / Insulin edema syndrome 肥満性浮腫

#15.

2. 局所性/片側性    深部静脈血栓 DVT  単関節炎(痛風や偽痛風など) 静脈閉塞(上大静脈症候群など)  骨盤内腫瘤性病変(左優位が多い。両側性もありうる) リンパ浮腫 :良く耳にするが病態は限定的              (リンパ節郭清術後・フィラリア・YNS)  慢性静脈不全 (静脈弁不全、Postphlebitis syndrome)  Baker嚢胞破裂  CRPS/RSD 複合性局所疼痛症候群   あくまで私見ですが、実臨床でいわゆるリンパ浮腫と呼ばれている病態には、慢性静脈不全が多く含まれている印象です。 ともに検査で示しにくい疾患なのがすっきりしない原因でしょうか。

#16.

70歳代女性のシナリオでは COPDはあるが、ADL自立して普通に生活 1週間前歩行中に急に右下腿浮腫と疼痛出現 「DVTで肺にとんだら死ぬ」といわれて救急受診 どのように評価するか?   DVTらしさを評価してみる

#17.

Wells score (DVT版)浮腫や腫脹がDVTらしいかどうかのprediction   =< 0 Low 3% 1-2  Moderate 17%  >=3 High 50-70% pitfall 除外診断が大きい! 妊婦ではLEFt clinical prediction ruleなどのルールもある

#18.

この症例でのDVTらしさは? 2~3点 さらに-2点できる?   DVT以外の鑑別診断 蜂巣炎 単関節炎 Baker嚢胞破裂 静脈圧迫性病変 (骨盤内腫瘍など) postphlebitic syndrome(慢性静脈不全) リンパ浮腫 =< 0 Low 3% 1-2  Moderate 17%  >=3 High 50-70% 急性片側性浮腫の鑑別

#19.

同じ疾患(別のケース) 60歳代 男性 急性の左下腿腫脹・浮腫 CRP 2  当初は蜂巣炎として加療 下腿後面の所見が目立つ 診断は?

#20.

同一疾患(別のケース) 60歳代 男性 急性の左下腿腫脹・浮腫 CRP 2  当初は蜂巣炎として加療 下腿後面の所見が目立つ Baker嚢胞(膝窩滑液胞)破裂  この疾患を知らないと判断できない‥  リウマチ以外の健常者にも軽微な外傷を契機に起こる

#21.

さまざまな浮腫を知る実践編

#22.

1. 急性DVTによる下腿浮腫~典型例~   

#23.

80歳代女性 急性片側性下腿浮腫 肺MAC症 HOT加療中 気道感染で入院 ほぼベッド上ADL 急激に左下腿浮腫が出現   腓腹部にpitting edema, 軽い発赤・熱感と圧痛 膝下で脚周囲長差 ++   大腿下部まで浮腫 +

#25.

WBC   H 11400 Hb L 8.9 MCV    93 PLT 24.2 Dダイマー    H 48.5 CRP       H 2.68 TP 7.5 T.BiL 0.6 AST 19 ALT 7 LDH 151 BUN H 27.5 CRE 0.76 Na   L 124 K 4.5 Cl L 90 Ca 9.9 ALB L 2.4 BNP   H 59.3

#26.

 下肢静脈エコー

#27.

造影CT

#29.

CEAP システムで  毛細血管拡張  静脈瘤  浮腫  色素沈着  静脈潰瘍 などに重症度分類される https://provascularmd.com/stages-of-venous-insufficiency/ Chronic Venous Insufficiency 慢性静脈不全 Post-thrombotic (postphlebitic) syndrome 血栓症などによる静脈弁の機能不全から下肢の静脈鬱帯をおこす。 慢性的に進行し、両側性のことも多く難治性。検査も難しい。

#30.

2-2.  80歳代男性 HFpEF加療中 5年以上にわたって下腿浮腫の 増悪と軽快を繰り返す。 浮腫は圧痕あるが硬い。 静脈瘤と色素沈着が目立つ 心不全による浮腫の遷延から、静脈不全を併発していると考えられる 一般的に浮腫は、原因によらず長期化すると硬くなり色素沈着を残すようになります。これらの場合、多くは静脈不全を併発していると思われます。

#31.

3.  80歳代 認知症男性亜急性 両上肢下腿浮腫 倦怠感・食思不振で受診 手首手甲にも浮腫著明 あきらかな感染フォーカスなし CRP 3, ESR > 115mm/hr 診断は?

#32.

3. 亜急性 両下腿浮腫 RS3PE    Remitting seronegative symmetrical synovitis with pitting edema 高齢者に多いリウマチ性多発筋痛症類縁疾患   PSL 10mg投与後

#33.

4.  80歳代男性 高γグロブリン血症あり 片側性 慢性進行性浮腫 以前からあった左下腿浮腫が増悪 CRP 0.23 IgG 4500 数年前に高γグロブリン血症で精査されたが、骨髄腫や膠原病ではないといわれた 診断は?

#34.

4. 片側性慢性進行性浮腫 IgG4関連 大動脈周囲炎        後腹膜線維症 動脈周囲炎が静脈還流を阻害

#35.

5.  20歳代女性 生来健康急性 両側性非圧痕性下腿浮腫 10月に受診 1週間前からの下腿浮腫 圧痕なし ぼってりした感じ  発熱などその他の症状なし 白血球上昇>15000 好酸球>30%

#36.

5. 急性 両側性非圧痕性下腿浮腫 Non Episodic angioedema with eosinophilia 好酸球性血管浮腫 若年女性にみられるself limitだが原因不明の血管浮腫。好酸球上昇や季節性あり。 一部はGleich症候群と呼ばれる。

#37.

6.  80歳代女性 認知症でベッド上ADL慢性 両側性圧痕性下腿浮腫増悪 経口摂取不良るいそう著明 浮腫に対して利尿剤内服開始後に下腿の浮腫がむしろ増強 採血で低アルブミンはあるが以前からで変化無し CRP, Dダイマー 上昇なし   BNP<100 診断は? https://image3.slideserve.com/5566351/beriberi-edema-l.jpg

#38.

Beriberi 脚気と浮腫 臨床的にあきらかな心不全を伴うとは限らない  (脚気では肺高血圧からショック:脚気衝心までさまざま) 原因のよく判らない浮腫で検討してみる 高齢・利尿剤・透析などのVitB1ロスが背景 Before heart failure occurs, tachycardia, a wide pulse pressure, sweating, warm skin, and lactic acidosis develop, leading to salt and water retention by the kidneys. The resulting fluid overload leads to edema of the dependent extremities. Northern International Medical College Journal 2018

#39.

7.  60歳代 男性 長期拘置中 約一ヶ月前から顔面浮腫 その際に胸部レントゲン撮影されたが、特に異常なし 徐々に顔面浮腫が増悪するため受診 身体所見では何を確認する?

#40.

上肢にも浮腫有り(右に強い) 舌下静脈怒張+ 胸部レントゲン再検 【診断】 # 上大静脈症候群 # 肺癌疑い 肺尖部に近い肺癌は判りにくい https://radiopaedia.org/cases/bronchogenic-carcinoma-with-superior-vena-cava-syndrome

#41.

上肢の浮腫病態は限定される  原発性鎖骨下静脈血栓   Paget-Schroetter症候群 鎖骨下静脈へのCV留置歴があっても同様の続発性血栓が起こる N Engl J Med 2010; 363:e4

#42.

8. 右下腿骨折一か月後強い疼痛・発赤・熱感 + 片側性浮腫 診断は? The Lancet Neurology 2011

#43.

CRPS 複合性局所疼痛症候群complex regional pain syndrome

#44.

おまけ1. リンパ浮腫 + 爪変化 + 気道病変 Yellow nail syndrome Orphanet Journal of Rare Diseases 2017

#45.

おまけ2.  膠原病・自己免疫疾患と浮腫 強皮症、CREST症候群 皮膚筋炎、多発筋炎 乾癬性関節炎  RAより浮腫合併報告が多い 好酸球性筋膜炎 = Shulman症候群   外傷や激しい運動を契機にした皮膚硬化   手指や顔にはこない   好酸球増加は必須ではない   groove sign, peau d’orange Mayo clinic proceedings 2020

#46.

おまけ3.  糖尿病性浮腫性硬化症diabetic scleroderma / scleroderma diabeticorum 顔や体幹の皮膚硬化 インスリンの吸収にも関わる https://slideplayer.com/slide/5919034/ Cutaneous Manifestation of Systemic disease

#47.

Take home points浮腫診断の戦略  病態生理を検討     1. 血管透過性          静水圧(体液量と局所圧)          膠質浸透圧:アルブミン 2. 血管以外の要素  分布と経過から鑑別をあげる     薬剤歴の見直し

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