テキスト全文
#1. Essential & effortless浮腫 心・肝・腎・甲・pitting の一歩先 医仁会武田総合病院
淡海医療センター
#2. 症例:70歳代女性 COPDで軽い労作性呼吸苦あり
室内ADL自立。洗濯や掃除などの家事をこなす
1週間前の歩行中に急な右下腿浮腫と疼痛出現
近医で「足の血栓で肺にとんだら死ぬ」と脅されて救急受診
右下腿全体に圧痕性浮腫+右下腿後面に広く発赤と圧痛、 左右下腿径は大きな差がない
呼吸苦なし SpO2含めたバイタルに異常なし
この症例をどう評価する?
#3. まず病的なものかどうか?若年女性に多い‘むくみ’の訴え 生理的範疇ではないか?
生理的浮腫の特徴は?
1. 時間・日内変動(夕方に強まる)
2. 左側に強い
3. 就下性(重力性)に変動
#5. 病態生理 1. 血管(静脈) Starling forces: 体液移動に関わる3要素
κ ×(Δ静水圧-Δ膠質浸透圧)
#6. 血管浮腫(≒クインケ浮腫) vs. その他の浮腫
#7. 病態生理 2. 血管以外 リンパ浮腫 (限られた病態、検査がしにくい)
悪性腫瘍リンパ節郭清術後・放射線照射後
フィラリア
Yellow nail syndrome, 特発性
ムコ多糖類(甲状腺機能低下)
Lipidedema(lipoedema):脂肪 → 次頁
#8. Lipedema(lipoedema):脂肪性浮腫 リンパ浮腫との鑑別が難しい(混在もありうる)
脂肪性では足首以下はspareされる(比較的浮腫に乏しい)
Obesity, Volume: 27, Issue: 10, Pages: 1567-1576, First published: 23 September 2019, DOI: (10.1002/oby.22597)
#9. 病歴: Semantic qualifier 急性 vs. 慢性
両側性 vs. 片側性
局所性 vs. 全身性
就下性 vs. 非就下性
Pitting vs. Non-pitting
Fast vs. Slow 経過・分布 > 性状・背景
#11. 1. 全身性/両側性
〈1.高頻度〉
薬剤! (次頁)
心不全
腎不全
肝不全
低アルブミン : ネフローゼ、 蛋白漏出性胃腸症
甲状腺機能低下症
血管浮腫 (アレルギー、アナフィラキシー)
妊娠
これらの病態で主訴が浮腫(だけ)というのは少ない
#12. いつも心におくすりを! ACEI/ARB: angioedema
Calcium channel blockers:
dihydropyridines (e.g., nifedipine,amlodipine, felodipine),
phenylalkylamines (e.g.,verapamil), benzothiazepines (e.g., diltiazem)
Direct vasodilators: hydralazine, minoxidil, diazoxide
Beta-blockers
Centrally acting agents: clonidine, methyldopa
Antisympathetics: reserpine, guanethidine
Antidepressants
Monoamine oxidase inhibitors
Corticosteroids
Estrogens/progesterones
Testosterone
NSAIDs
Pregabalin
Troglitazone, rosiglitazone, pioglitazone
Phenylbutazone
Insulin まずは
ロキソニン,
プレドニン,
アムロジン,
リリカ
あたりのチェック Am J Med.2002;113
#13. 降圧剤による浮腫カルシウム拮抗薬とACE阻害薬 CCB 局所静水圧上昇による
重力性分布・peripheral edema
ACEI/ARB 局所血管透過性による血管浮腫
非重力性・結合織に影響される
#14. 1. 全身性/両側
〈2.比較的まれな疾患〉
貧血そのもの
Non episodic eosinophilic anigioedema 好酸球性血管浮腫
Beriberi 脚気
収縮性心膜炎
RAやDermatomyositis, RS3PE (などの多関節炎・滑液胞炎)
POEMS Polyneuropathy, Organomegaly, Endocrinopathy, Monoclonal protein, Skin changes
TAFRO Thrombocytopenia, anasarca, fever, reticulin myelofibrosis, renal insufficiency, and organomegaly
Budd-Chiari Syndrome
Generalized insulin edema / Insulin edema syndrome
肥満性浮腫
#15. 2. 局所性/片側性
深部静脈血栓 DVT
単関節炎(痛風や偽痛風など)
静脈閉塞(上大静脈症候群など)
骨盤内腫瘤性病変(左優位が多い。両側性もありうる)
リンパ浮腫 :良く耳にするが病態は限定的
(リンパ節郭清術後・フィラリア・YNS)
慢性静脈不全 (静脈弁不全、Postphlebitis syndrome)
Baker嚢胞破裂
CRPS/RSD 複合性局所疼痛症候群
あくまで私見ですが、実臨床でいわゆるリンパ浮腫と呼ばれている病態には、慢性静脈不全が多く含まれている印象です。
ともに検査で示しにくい疾患なのがすっきりしない原因でしょうか。
#16. 70歳代女性のシナリオでは COPDはあるが、ADL自立して普通に生活
1週間前歩行中に急に右下腿浮腫と疼痛出現
「DVTで肺にとんだら死ぬ」といわれて救急受診
どのように評価するか?
DVTらしさを評価してみる
#17. Wells score (DVT版)浮腫や腫脹がDVTらしいかどうかのprediction
=< 0 Low 3%
1-2 Moderate 17%
>=3 High 50-70%
pitfall
除外診断が大きい! 妊婦ではLEFt clinical prediction ruleなどのルールもある
#18. この症例でのDVTらしさは? 2~3点 さらに-2点できる? DVT以外の鑑別診断
蜂巣炎
単関節炎
Baker嚢胞破裂
静脈圧迫性病変 (骨盤内腫瘍など)
postphlebitic syndrome(慢性静脈不全)
リンパ浮腫
=< 0 Low 3%
1-2 Moderate 17%
>=3 High 50-70%
急性片側性浮腫の鑑別
#19. 同じ疾患(別のケース) 60歳代 男性
急性の左下腿腫脹・浮腫
CRP 2
当初は蜂巣炎として加療
下腿後面の所見が目立つ
診断は?
#20. 同一疾患(別のケース) 60歳代 男性
急性の左下腿腫脹・浮腫
CRP 2
当初は蜂巣炎として加療
下腿後面の所見が目立つ Baker嚢胞(膝窩滑液胞)破裂
この疾患を知らないと判断できない‥
リウマチ以外の健常者にも軽微な外傷を契機に起こる
#22. 1. 急性DVTによる下腿浮腫~典型例~
#23. 80歳代女性 急性片側性下腿浮腫 肺MAC症 HOT加療中 気道感染で入院
ほぼベッド上ADL
急激に左下腿浮腫が出現
腓腹部にpitting edema, 軽い発赤・熱感と圧痛
膝下で脚周囲長差 ++
大腿下部まで浮腫 +
#25. WBC H 11400
Hb L 8.9
MCV 93
PLT 24.2
Dダイマー H 48.5
CRP H 2.68
TP 7.5
T.BiL 0.6
AST 19
ALT 7
LDH 151
BUN H 27.5
CRE 0.76
Na L 124
K 4.5
Cl L 90
Ca 9.9
ALB L 2.4
BNP H 59.3
#30. 2-2. 80歳代男性 HFpEF加療中 5年以上にわたって下腿浮腫の
増悪と軽快を繰り返す。
浮腫は圧痕あるが硬い。
静脈瘤と色素沈着が目立つ
心不全による浮腫の遷延から、静脈不全を併発していると考えられる 一般的に浮腫は、原因によらず長期化すると硬くなり色素沈着を残すようになります。これらの場合、多くは静脈不全を併発していると思われます。
#31. 3. 80歳代 認知症男性亜急性 両上肢下腿浮腫 倦怠感・食思不振で受診
手首手甲にも浮腫著明 あきらかな感染フォーカスなし CRP 3, ESR > 115mm/hr 診断は?
#32. 3. 亜急性 両下腿浮腫 RS3PE
Remitting seronegative symmetrical synovitis with pitting edema
高齢者に多いリウマチ性多発筋痛症類縁疾患
PSL 10mg投与後
#33. 4. 80歳代男性 高γグロブリン血症あり 片側性 慢性進行性浮腫 以前からあった左下腿浮腫が増悪
CRP 0.23
IgG 4500
数年前に高γグロブリン血症で精査されたが、骨髄腫や膠原病ではないといわれた 診断は?
#34. 4. 片側性慢性進行性浮腫 IgG4関連 大動脈周囲炎
後腹膜線維症 動脈周囲炎が静脈還流を阻害
#35. 5. 20歳代女性 生来健康急性 両側性非圧痕性下腿浮腫
10月に受診
1週間前からの下腿浮腫
圧痕なし ぼってりした感じ
発熱などその他の症状なし
白血球上昇>15000
好酸球>30%
#36. 5. 急性 両側性非圧痕性下腿浮腫 Non Episodic angioedema with eosinophilia
好酸球性血管浮腫
若年女性にみられるself limitだが原因不明の血管浮腫。好酸球上昇や季節性あり。
一部はGleich症候群と呼ばれる。
#38. Beriberi 脚気と浮腫 臨床的にあきらかな心不全を伴うとは限らない
(脚気では肺高血圧からショック:脚気衝心までさまざま)
原因のよく判らない浮腫で検討してみる
高齢・利尿剤・透析などのVitB1ロスが背景
Before heart failure occurs, tachycardia, a wide pulse pressure, sweating, warm skin, and lactic acidosis develop, leading to salt and water retention by the kidneys. The resulting fluid overload leads to edema of the dependent extremities. Northern International Medical College Journal 2018
#39. 7. 60歳代 男性 長期拘置中 約一ヶ月前から顔面浮腫
その際に胸部レントゲン撮影されたが、特に異常なし
徐々に顔面浮腫が増悪するため受診
身体所見では何を確認する?
#41. 上肢の浮腫病態は限定される 原発性鎖骨下静脈血栓
Paget-Schroetter症候群
鎖骨下静脈へのCV留置歴があっても同様の続発性血栓が起こる N Engl J Med 2010; 363:e4
#42. 8. 右下腿骨折一か月後強い疼痛・発赤・熱感 + 片側性浮腫 診断は? The Lancet Neurology 2011
#43. CRPS 複合性局所疼痛症候群complex regional pain syndrome
#44. おまけ1. リンパ浮腫 + 爪変化 + 気道病変 Yellow nail syndrome Orphanet Journal of Rare Diseases 2017
#45. おまけ2. 膠原病・自己免疫疾患と浮腫 強皮症、CREST症候群
皮膚筋炎、多発筋炎
乾癬性関節炎 RAより浮腫合併報告が多い
好酸球性筋膜炎 = Shulman症候群
外傷や激しい運動を契機にした皮膚硬化
手指や顔にはこない
好酸球増加は必須ではない
groove sign, peau d’orange
Mayo clinic proceedings 2020
#47. Take home points浮腫診断の戦略 病態生理を検討
1. 血管透過性
静水圧(体液量と局所圧)
膠質浸透圧:アルブミン
2. 血管以外の要素
分布と経過から鑑別をあげる
薬剤歴の見直し