#4.
膿胸の診断 - 画像検査 ü 胸部エックス線写真や胸部CTで胸⽔や胸膜肥厚を確認する。 ü 通常の胸⽔よりもCT値が⾼いことが多い。 ü 被膜形成や隔壁形成がみられる場合は多房化していると考える。 胸腔に凸な複数の腔をもつ形状をしており、 隔壁形成・多房化を疑う膿胸所⾒。 t! n i o P ※ 呼吸器外科の⼿術所⾒では、実際には多房化したもののうち、1-2箇所だけ膿性排液が充満していることも多い。 つまり、多房化症例は胸腔穿刺所⾒が漿液性であっても胸腔内に膿性排液がないとは限らない。 引⽤ 呼吸器学会HP https://www.jrs.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=33
#5.
膿胸の診断 – 胸水検査 ü 胸腔穿刺で得られ、⾁眼的に膿性や悪臭を認めることもある。 ü 滲出性胸⽔、pH低下、糖減少、多核⽩⾎球優位などがみられる。 ü 胸⽔の微⽣物学的検査は必須︕検出された微⽣物が原因菌と判断する。 ü ⼀般細菌培養とともに、嫌気培養および抗酸菌検査も併せて実施する。 t Poin ! 肺炎随伴胸⽔でも、胸⽔性状でpH低下、糖濃度低下、⼀般細菌塗抹陽性あるいは培養陽性、 LDHの異常⾼値を⽰す場合には、膿胸に準じて治療を⾏う。 肺炎随伴性膿胸で有名なLightの分類をチェックしておこう。 引⽤ 呼吸器学会HP https://www.jrs.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=33
#6.
肺炎随伴性膿胸における – Lightの分類 Class 性状・細菌培養 胸⽔の画像所⾒ ⽣化学検査 pH 治療法 Class 1 ー 側臥位で 1cm 以下 ー ー 抗菌薬のみ Class 2 漿液性・陰性 側臥位で 1cm 以上 糖 > 40mg/dL pH > 7.2 抗菌薬のみ Class 3 漿液性・陰性 胸郭の半分以下 糖 > 40mg/dL LDH > 1000 pH < 7.2 抗菌薬と胸腔穿刺 Class 4 漿液性・陽性 胸郭の半分以上で単房 性 糖 < 40mg/dL pH < 7.0 抗菌薬と 胸腔ドレナージ pH < 7.0 胸腔ドレナージと 線維素溶解療 (胸腔鏡⼿術) ー 胸腔ドレナージと 線維素溶解療 (胸腔鏡⼿術) ー 胸腔ドレナージと 胸腔鏡⼿術または肺 剥⽪術 Class 5 Class 6 Class 7 漿液性・陽性 膿性 膿性 多房性 単房性 多房性 糖 < 40mg/dL ー ー 治療法は画⼀的に考える必要はないが⽬安としてチェックして、外科へ相談するときの参考にしよう。 【参考資料】 ⽇本呼吸器学会, 編:新 呼吸器専⾨医テキスト 改訂第2版. 南江堂, 2021. p421
#7.
膿胸の分類 - 呼吸器外科から見た分類 種類 1) 無瘻性膿胸 他臓器と瘻孔を有しない膿胸。 すなわちエアリークを伴わない膿胸。 2) 有瘻性膿胸 1) 滲出期 時期 漿液性胸⽔の貯留や胸膜浮腫。 発症2週間以内。 培養検査で検出頻度は低い。 2) 線維素膿性期 急性膿胸 発症後3ヶ⽉以内 フィブリン析出により隔壁形成。 膿胸腔が多房化。 他臓器と瘻孔を有する膿胸。 発症後1-6週間以内。 気胸や肺切除後の肺からのエアリーク(肺瘻) や気管⽀からのエアリーク(気管⽀瘻)を伴 う膿胸など。 3) 器質化期 急激な胸⽔の減少や気泡の出現を認める。 発症後5週間以降に⾒られる。 肺の再膨張が得られにくい。 慢性膿胸 発症後3ヶ⽉以降 フィブリンが器質化し胸膜が肥厚。
#8.
膿胸治療の選択肢と限界 必須 必須 1. ドレナージ治療 ドレナージは必須︕膿胸では壊死物質やフィブリン塊などが含まれるので太いドレーンを⼊れよう。 2. 抗菌薬治療 抗菌薬は必須︕胸⽔培養での起炎菌同定と薬剤感受性の結果を参考にしよう。 3. Fibrinolytic agent ( 線維素溶解療法 ) ⽇本ではウロキナーゼを使⽤している。特に多房化している症例では積極的に考慮しよう。 4. ⼿術療法 最近は胸腔鏡下での低侵襲な⼿術が増えてきている。 ドレナージ後1週間経過しても肺の膨張や排液の減少、炎症反応が改善しない場合は考慮しよう。 【参考資料】 ⽇本呼吸器学会, 編:新 呼吸器専⾨医テキスト 改訂第2版. 南江堂, 2021. p419-423
#9.
膿胸治療のタイミングは? 種類 1) 無瘻性膿胸 時期 1) 滲出期(Ⅰ期) ドレナージと抗⽣剤が原則。 ドレナージと抗⽣剤治療。 ⼿術適応はこれら治療抵抗性の場合が多い。 肺拡張不良などの場合は線維素溶解療法を考慮。 右に⽰した膿胸の時期を考慮して治療後1週間 経過して改善を認めないなら外科へ相談。 2) 有瘻性膿胸 膿性胸⽔を肺内に吸引した吸引性肺炎による 呼吸不全を併発する。 すぐドレナージを必要、無理なら⼿術が必須。 2) 線維素膿性期(Ⅱ期) ドレナージと抗⽣剤治療。 多房化があれば線維素溶解療法を積極的に考慮。 ドレナージや肺拡張が不良な場合などは⼿術。 3) 器質化期(Ⅲ期) 肺瘻のみならドレナージや癒着療法を検討可。 ドレナージと抗⽣剤治療。 肺瘻でも⼿術の検討はしておくべき。 胸膜が肥厚して肺拡張が不良となるため、 気管⽀瘻は必ず⼿術を検討する。 拡張させたいなら⼿術を早期に検討する。
#10.
膿胸の治療 - 抗菌薬 患者の病態・臓器機能などにより抗菌薬の投与量を調節。 胸⽔培養により起炎菌の同定と薬剤感受性のチェックを⾏い、適切な抗菌薬を投与。 以下は培養結果が出るまでの私の処⽅の順番として参考までに。 いずれにしても点滴抗⽣剤でしっかりと治療を開始する。 1st ユナシン-S注®(アンピシリン/スルバクタム)1回3 g 1⽇3〜4回(点滴静注)。 2nd 耐性菌の関与が⽰唆される場合やユナシン®で効果不⼗分の場合、処⽅変更。 ゾシン注®(タゾバクタム/ピペラシリン)1回4.5 g 1⽇3〜4回(点滴静注)。 メロペン注®(メロペネム)1回1 g 1⽇3回(点滴静注)。 フィニバックス注®(ドリペネム)1回0.5〜1 g 1⽇3回(点滴静注)。
#11.
膿胸の治療 - 胸腔穿刺・ドレナージ 頭側 尾側 硬い構造は膜組織(⽪膚、胸膜) 痛覚が存在するのも同じ部位。 ⽪膚と壁側胸膜に局所⿇酔を しっかりと⾏う。 ⽪膚はメスでしっかり切開し、 壁側胸膜は必要であれば鈍的に 開放しておく。そうすることで 勢いで胸腔内臓器を誤穿刺する リスクが低下する。※ 抵抗感 ⽪膚(表⽪+真⽪) ⽪下組織 前鋸筋 肋間筋、肋⾻ 肋⾻ 肋間神経 肋間静脈 肋間静脈 胸横筋 壁側胸膜 肋⾻ 肋間動静脈神経は肋⾻下縁に存在。 穿刺は肋⾻上縁で⾏う。 抵抗感 胸腔 ! t n i Po 特に膿胸症例では、壁側胸膜が炎症により肥厚していることが多い。 抵抗を感じたら無理せず時間をかけて安全にドレーンを⼊れよう。 詳しくはこちらのスライドへ。 はじめての胸腔ドレナージ
#12.
膿胸の治療 - 線維素溶解療法 - ü 胸膜の癒着や胸腔内の隔壁形成により、ドレナージが不⼗分となる場合も少なくない。 ü 胸腔内ウロキナーゼ投与は隔壁の溶解を促してドレナージを促進する報告がある。 総称名 ⼀般名 欧⽂⼀般名 ウロナーゼ ウロキナーゼ Urokinase 昔は尿から精製してたんだ。だからウロキナーゼ。 新鮮な尿がたくさん必要で⼤変だったみたい。 投与例 ウロキナーゼ 12 万単位を⽣理⾷塩液 100 ml に溶解して胸腔ドレーン側孔 より胸腔内に注⼊し,3 時間クランプした後に開放して持続吸引を⾏う。
#13.
論文をチェック vol.1 メタアナリシス 線維素溶解療法は、外科⼿術紹介もしくは死亡を減少させる(RR, 0.50; 95%)。 Surinder Janda, et al. Intrapleural Fibrinolytic Therapy for Treatment of Adult Parapneumonic Effusions and Empyemas: A Systematic Review and Meta-analysis. CHEST 2012; 142(2):401–411 ランダム化⽐較試験 t-PA-DNase の胸腔内投与は,胸膜感染症患者の体液ドレナージを改善し 外科的⼿術の頻度および⼊院期間を減少させる。 Najib M. Rahman, et al. Intrapleural use of tissue plasminogen activator and DNase in pleural infection. N Engl J Med. 2011 Aug 11;365(6):518-26. 海外でよく使⽤されているt-PA-Dnase(併⽤)は効果があることはわかった。 では⽇本で使われるウロキナーゼはどうなのか︖︖
#14.
論文をチェック vol.2 前向きコホート試験 ウロキナーゼは、t-PA/DNAseによる線維素溶解療法と同様に安全かつ効果的。 Benoît Bédat, et al. Comparison of intrapleural use of urokinase and tissue plasminogen activator/DNAse in pleural infection. ERJ Open Research 2019 5: 00084-2019; DOI: 10.1183/23120541.00084-2019 ü ⽇本で⾏われるウロキナーゼを⽤いた線維素溶解療法は効果がある。 ü 実は保険外適応であることは知っておくべき。
#15.
膿胸の治療 - 外科治療 急性期 胸腔鏡下膿瘍腔掻爬術(膿胸郭清術) Ⅱ期(線維素膿性期)までの膿胸は隔壁が柔らかく、外科的掻爬可能。肺の再膨張も⽐較的容易。 ※ 急性期でも気管⽀瘻などの吸引性肺炎が起こり得る場合は必ず開窓術も考慮する。 慢性期 慢性期の⼿術は侵襲が⼤きく、できれば急性期で相談してほしい!! 開窓術 多くは有瘻性膿胸において胸腔ドレーンではドレナージが不⼗分な場合に⾏われる。 肺剥⽪術、胸膜肺全摘術 肺が線維性被膜により覆われ、ドレナージによっても肺が拡張しない膿胸に⾏う。 膿胸腔閉鎖術(胸郭形成術、筋⾁充填術、⼤網充填術) 膿胸に対する胸腔容量の減少を⽬的とする。現実的には⾏わないことも多い。
#16.
結核性膿胸について ü 結核性膿胸は近年減少傾向ではあるが、治療に難渋することの多い疾患。 ü 急性膿胸では通常の膿胸と同様に膿胸腔を閉鎖することを⽬的とする。 ü 初回結核から数⼗年経過した慢性膿胸では胸膜は肥厚し、⽯灰化もみられる。 ü 慢性膿胸に対して肺剥⽪術は⾮常に難しく、まず開窓術で感染コントロールを⾏い、 2期的に筋⾁充填術などを組み合わせて治療する。
#17.
ガイドラインから考える治療法 イギリスのガイドラインから抜粋 ドレナージ治療 胸⽔吸引時に膿性または濁った胸⽔がある場合速やかに胸腔ドレナージを⾏う必要がある。【B】 抗菌薬治療 すべての患者に抗⽣物質が投与されるべきである。【B】 Fibrinolytic agent ( 線維素溶解療法 ) 線維素溶解療法 (ストレプトキナーゼ250000 IUを1⽇2回、3⽇間or ウロキナーゼ100000 IUを 1⽇1回、3⽇間)は治療成績を改善しその使⽤を推奨する。【B】 ⼿術療法 ドレナージ、抗⽣物質、 線維素溶解療法の効果がない場合は早期に胸部外科医と相談する。【C】 7⽇以内に治癒しない場合は、外科的意⾒を求めるべき適切な期間であると⽰唆されている。 Davies CW, et al. BTS guidelines for the management of pleural infection. Thorax. 2003 May;58 Suppl 2:ii18-28.
#18.
仮想症例 1 – 症例 - 65歳⼥性 主訴)背部痛、呼吸困難 現病歴) 2⽇前から増悪する主訴を⾃覚して外来受診。胸部CTにて左下葉の肺内に液体貯留を認め、抗⽣物質 の投与を受けるも症状が増悪し⼊院となった。 ⾎液⽣化学検査では炎症反応の亢進がみられ、胸部X線ならびにCTにて急性膿胸が考えられた。直ち に抗菌薬投与と左胸腔ドレナージが⾏われたが、その際に⾎性膿性の胸⽔の排液と空気漏れを認めた。 ⼊院第2病⽇に呼吸状態が悪化し⼈⼯呼吸器管理となり、外科紹介となった。 所⾒)胸部CTでは右肺のすりガラス陰影と左気胸、左のややCT値の⾼い胸⽔を認めた。
#19.
仮想症例 1 – 診断・治療 - 本症例は有瘻性の急性膿胸と反対側(右側)の吸引性肺炎をきたした急性呼吸促迫 症候群と診断され、ただちに⼈⼯呼吸器管理などを含めた集学的治療と、緊急開 窓術が⾏われた。 その後感染所⾒は改善し、⼊院第35病⽇⽬に退院となった。 t Poin ! 有瘻性膿胸で吸引性肺炎をきたすほどの吸い込みがある症例はすぐに呼吸器外科に紹介しよう。
#20.
仮想症例 2 – 症例 - 70歳男性 主訴)発熱 現病歴) 10⽇前の早朝から体温 37.0℃の微熱を認めていたが、38.0℃台の発熱を認めたため近医を受診した。 ⾎液検査で炎症反応の上昇を認め、酸素飽和度の低下を認めたため加療⽬的に同⽇⼊院となった。 cefotaxime 1g×3 回/⽇、酸素投与 3 L/分で加療を開始した。⼊院時胸部CT検査では左胸腔内に多量 の胸⽔貯留を認め、肺炎随伴性胸⽔と診断した。 胸⽔の試験穿刺をおこない、pH < 7.0 の漿液性胸⽔を認めたため、膿胸と同等と診断し胸腔ドレー ンを留置した。胸⽔は少量のみ排液され、CTで認めた多量の胸⽔はドレナージできず、⼊院後第4病 ⽇からウロキナーゼによる線維素溶解療法を3⽇間継続した。 第7病⽇になっても炎症反応は改善に乏しく、再度CT検査を施⾏したが胸⽔はドレナージできておら ず多量に貯留したままであった。また、胸壁にはやや⽩⾊の肥厚した胸膜を認め外科紹介となった。
#21.
仮想症例 2 – 診断・治療 胸部CTおよび胸腔エコーから、多数の隔壁により多房化した胸⽔の貯留が確認できた。1週間 の治療経過で炎症の沈静化が認められず、胸腔内に多量の隔壁が存在し有効なドレナージがで きず胸⽔貯留が進⾏していたことから、ウロキナーゼを⽤いた治療での根治は難しいと考えら れた。また、ドレナージを⾏なっても肥厚した像側胸膜により肺拡張が不良となる懸念もあっ た。 胸腔鏡下⼿術の適応と判断し、全⾝⿇酔下に胸腔鏡下膿瘍腔掻爬・肺剝⽪術を⾏った。 胸腔鏡を挿⼊すると、胸膜は臓側・壁側ともに炎症性に肥厚し、胸腔内には多量の胸⽔と隔壁 が充満していた。胸腔鏡下に隔壁を除去したところ、多くは漿液性の胸⽔が貯留していたが、 ⼀部の隔壁を除去すると内腔から膿性の排液を認めた。胸腔内を洗浄し⼿術は終了とした。 その後感染所⾒は改善し、⼊院第16病⽇⽬に退院となった。
#22.
仮想症例 2 – point t Poin ! ü 肺炎随伴胸⽔でも、胸⽔でpH低下、糖濃度低下、⼀般細菌塗抹陽性あるい は培養陽性やLDHの異常⾼値を⽰す場合には、膿胸に準じて治療を⾏う。本 症例のように、試験穿刺で膿性排液を認めなくても、隔壁がある場合は膿性 排液がどこかに存在している可能性があることを知っておこう。 t Poin ! ü ドレナージ、抗⽣物質、 線維素溶解療法により7⽇以内に治癒しない場合は、 外科的意⾒を求めるべき。本症例は来院前10⽇から発症した発熱を主訴とし ており、 ⼊院時にはII 期(線維素膿性期)となっている可能性を考慮して 治療を開始しよう。
#23.
Take Home Messages ü 膿胸ではドレナージと抗菌薬投与はほぼ必須。 ü I 期(滲出期),II 期(線維素膿性期),III 期(器質化期)の 分類を理解しよう。 ü II 期(線維素膿性期)なら胸腔鏡下で治療ができる。 1週間の治療で改善がないなら呼吸器外科へ相談しよう。