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レベルアップ!アレルギー性鼻炎診療〜基礎編:どこまで知ってる?基本の薬物治療〜

投稿者プロフィール
音良林太郎

地方総合病院

66,224

456

概要

アレルギー性鼻炎を診療する可能性のある医療従事者、特に花粉症に対して治療戦略が定まっていないと感じる医師を対象に、アレルギー性鼻炎の基本的な薬物治療について解説します。

このスライドは、抗ヒスタミン薬の眠気と効果の関係性や効果果不十分な場合の薬剤切り換えの方法についての習得、点鼻ステロイド薬や抗ロイコトリエン拮抗薬といった治療薬と抗ヒスタミン薬との違いの学習、初期療法の有効性・推奨されない治療法などのエビデンスに基づいた理解を目的としています。

◎目次

・自己紹介

・スライドの対象者と習得できる内容

・国民の2人に1人は何らかのアレルギー性鼻炎に罹患している

・アレルギー性鼻炎治療のフローチャート

・患者さんもみんな大好き抗ヒスタミン薬

・眠気と効果は必ずしも関係しない:まずは眠気に注目しよう

・効果不十分や副作用が強い場合は違う構造へ切り替えを1

・眼の症状にはやっぱり点眼薬

・優秀な点鼻ステロイド薬

・ステロイド点鼻薬はとりあえずアラミスト®がよさそう

・補助的だが効く人は効く抗ロイコトリエン拮抗薬

・最後の手段 ステロイド内服

・全花粉症患者におすすめする「初期療法」

・推奨できない治療法

・Take home message

本スライドの対象者

研修医/専攻医

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テキスト全文

アレルギー性鼻炎診療の概要と対象者

#1.

レベルアップ! アレルギー性鼻炎診療 〜基礎編:どこまで知ってる?基本の薬物治療〜 音良 林太郎@耳鼻咽喉科

#2.

自己紹介 2 今回のスライドを作った人 音良林太郎(おとらりんたろう) 耳鼻咽喉科勤務15年〜 日本耳鼻咽喉科学会専門医・指導医 米国に留学し基礎研究に従事経験あり 現在は勤務医として地域中核病院に勤務 患者の話を聞くのがすき・手術もすき Twitter: @chicagonaka 本スライド作成に開示すべきCOIはありません

#3.

スライドの対象者と習得できる内容 対象となる方 • アレルギー性鼻炎を診療する可能性のある医療従事者 • 特に花粉症に対して治療戦略が定まっていないと感じる医師 習得できること • 抗ヒスタミン薬の眠気と効果の関係性や、効果不十分な場合の薬剤切り換え の方法について習得できる • 点鼻ステロイド薬や抗ロイコトリエン拮抗薬といった治療薬について、特に 抗ヒスタミン薬との違いを学ぶことができる • 初期療法がどうして有効か、また、推奨されない治療法などエビデンスに もとづいて理解できる 3

アレルギー性鼻炎の有病率と治療フローチャート

#4.

国民の2人に1人は何らかのアレルギー性鼻炎に罹患している 4 年代別アレルギー性⿐炎有病率1,2 (歳) 10.9 11.4 70〜 20.5 19.3 60〜69 36.9 22.6 27.0 50〜59 45.7 29.3 28.2 40〜49 47.5 32.4 29.9 30.8 30〜39 46.8 35.0 20〜29 47.5 32.3 38.5 10〜19 33.0 20.9 5〜9 17.4 49.5 30.1 5.1 3.8 2.6 0〜4 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 1. 日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会, 鼻アレルギー診療ガイドライン2020年版, ライフ・サイエンス社, 2020 2. 松原 篤, 他. 鼻アレルギーの全国疫学調査2019, 日耳鼻, 2020 50.0 60.0 (%)

#5.

アレルギー性鼻炎治療のフローチャート 治療を希望するアレルギー性鼻炎患者 皮膚・喉のかゆみ 鼻汁・くしゃみ 鼻閉 5 有効 無効 目のかゆみ 内服抗ヒスタミン薬 点鼻ステロイド薬 抗ロイコトリエン拮抗薬 どうしても即効性のある薬がほしい ステロイド内服頓用 生物学的製剤 点眼薬 対症療法を継続 花粉症では 初期療法を推奨 長時間かかっても根治をめざしたい 舌下免疫療法 他の治療法が無効、もしくは解剖学的要因による鼻閉 外科的治療 基本治療を併用 しながら根治を目指す

#6.

アレルギー性鼻炎治療のフローチャート 治療を希望するアレルギー性鼻炎患者 皮膚・喉のかゆみ 鼻汁・くしゃみ 鼻閉 6 有効 無効 目のかゆみ 内服抗ヒスタミン薬 点鼻ステロイド薬 抗ロイコトリエン拮抗薬 点眼薬 どうしても即効性のある薬がほしい ステロイド内服頓用 生物学的製剤 対症療法を継続 花粉症では 初期療法を推奨 長時間かかっても根治をめざしたい • アレルギー診療の基本となる保存的治療について解説します 舌下免疫療法 基本治療を併用 • 症状を4つに分け、有効な治療薬を選択していきます 他の治療法が無効、もしくは解剖学的要因による鼻閉 しながら根治を目指す • それぞれの薬剤について具体例をみていきます 外科的治療

抗ヒスタミン薬の効果と使用法

#7.

患者さんもみんな大好き抗ヒスタミン薬 • 鼻水・くしゃみや皮膚のかゆみなどに即効性が期待できる • 1日1回内服タイプをおすすめ • 内服薬は眼症状には効果なし • 副作用が少ない第二世代抗ヒスタミン薬を選ぼう • 第一世代では抗コリン作用やけいれん誘発に注意が必要 • アレルギー性鼻炎=飲み薬 という固定概念からか、患者さんは 経口薬を欲しがる • 特に理由がなければ第二世代抗ヒスタミン薬を選択しよう • 患者が交通事故を起こしたときの処方責任が生じることもあるので、 眠気の副作用には敏感になったほうがよい 7

#8.

眠気と効果は必ずしも関係しない:まずは眠気に注目しよう 第⼆世代抗ヒスタミン薬の薬効⽐較1,2 効果発現の速さ(1/Tmax) 早く効く ビラノア® ザイザル® 6ヶ月齢以上で処方できる 小児用製剤あり アレロック® ルパフィン® タリオン® デザレックス® ジルテック® アレグラ® クラリチン® 運転や危険作業等制限の記載なし 運転や危険作業等への注意喚起が必要 運転や危険作業等への従事をさせない アレジオン® エバステル® アレサガ® 効果時間の長さ ※円の大きさは効果時間の長さ(T1/2)より算出 脳内H1受容体占拠率(%) 眠くならない 1. 谷内 一彦. 薬理作用から見た理想的な抗ヒスタミン薬治療, 日本耳鼻咽喉科学会会報, 2020 2. 各薬剤の添付文書よりデータ参照 こだわりがなければ 眠気の出にくい薬を選択 8

#9.

効果不十分や副作用が強い場合は違う構造へ切り替えを1 三環系 • • • • • デザレックス® ルパフィン® * クラリチン® * アレロック® * アレジオン® * ピペラジリン骨格 • • • • ビラノア® エバステル® * アレグラ® * タリオン® * ピペラジン骨格 • ジルテック® * • ザイザル® * • 効果不十分例や副作用としての眠気がある場合、異なる構造の抗ヒスタミン薬へ切り換えよう • 抗ヒスタミン薬の多くは増量が可能(*)、症状が強い日に倍量内服させてもよい 1. 各薬剤の添付文書よりデータ参照(構造式は左からデザレックス®、ビラノア® 、ザイザル® ) 9

#10.

眼の症状にはやっぱり点眼薬 • 眼症状に最も効果があるのは点眼薬 • 内服薬は目のかゆみにはほぼ無効 • 抗ヒスタミン薬点眼が基本 • 症状が強ければステロイド点眼薬を検討するが、高眼圧症には注意 • 基本はアレジオン® orパタノール点眼薬® 、コンタクトレンズ装着 者や小児は1日2回で良いアレジオンLX ®をおすすめ • コンタクトレンズは花粉症の時期ははずすよう指導しよう • フルメトロン点眼®は出すなら0.02%、無効なら眼科へ誘導しよう 10

点鼻ステロイド薬の効果と推奨製剤

#11.

優秀な点鼻ステロイド薬 • 局所投与の副腎皮質ステロイド • 鼻の症状には他薬剤より高い効果1、眼症状にも効果あり2 • コンプライアンス下がる傾向にあり1日1回投与タイプオススメ • 市販薬では血管収縮薬が混在するので注意 • 臨床の実感としても抗ヒスタミン薬より鼻症状に有効と感じる • ただし「点鼻薬苦手なので…」ってケースも多い • バイオアベイラビリティが低いので妊婦でも基本安心とされている (ただしオーストラリア基準はB3:動物実験で催奇形性のリスク: エビデンスなし) 1. JM Weiner, et. al., Intranasal corticosteroids versus oral H1 receptor antagonists in allergic rhinitis: systematic review of randomised controlled trials, BMJ, 1998 2. Hong J, et.al., Efficacy of intranasal corticosteroids for the ocular symptoms of allergic rhinitis: A systematic review. Allergy Asthma Proc 2011 11

#12.

ステロイド点鼻薬はとりあえずアラミスト®がよさそう アラミスト® • 形状が独特 • 液体だが粒子が細かく、 点鼻時の違和感が少ない • 2歳以上に処方できる • ナゾネックスより液だれが 少なく、使用しやすい 製剤写真は各製薬会社のウェブサイトから転載 ナゾネックス® • 液体がガッツリ出る • 使用した感を求める人には 良いが、液だれ多し • 2歳以上に処方できる • アラミストと効果を比べた 論文はない エリザス® • 粉状の微細粒子で点鼻時の 違和感がほぼ全くない • 点鼻薬苦手な人にはよい • デバイスがやや複雑 • 小児には処方できない 12

抗ロイコトリエン拮抗薬とステロイド内服の適応

#13.

補助的だが効く人は効く抗ロイコトリエン拮抗薬 • 肥満細胞から誘導されるケミカルメディエーターである ロイコトリエンを標的にした薬剤 • 遅発性反応に有効で、鼻閉1や、夜間の症状2に効果を発揮する • 効果がゆっくり出るので、即効性はない印象 • 気管支喘息にも適応があるので咳嗽がある人にはよく出す • モンテルカストは、原因不明の副作用で自殺・抑うつの報告があり、 特に小児には出さない方が無難かも(ただしRCTでは否定3) 1. Wilson AM, et. al., Leukotriene receptor antagonists for allergic rhinitis: a systematic review and meta-analysis. Am J Med 2004 2. 平⽯光俊, 他. 季節性アレルギー性⿐炎 (スギ花粉症) に対するロイコトリエン受容体拮抗剤の予防効果, ⽿⿐咽喉科展望, 2007 3. George Philip, et. al. Reports of suicidality in clinical trials of montelukast, Asthma and lower airway disease 13

#14.

最後の手段 ステロイド内服 14 • 他の治療で効果が不十分な場合に処方を検討する • 強い効果を持ってほぼ全てのアレルギー症状をおさえる • 副作用が問題になるため、糖尿病患者には出さない • 長期内服によるデメリットを説明し、最低限の使用にとどめる1 • 出すならデキサメタゾン0.5mgかプレドニゾロン5mg、頓用内服 • 花粉症の時期には夜間救急外来に鼻閉でやってくる患者さんもおり、 こういう方には処方することもある • ステロイドが必要な重症例ではより高度な治療を検討する契機に 詳しくは応用編で! 1. 日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会, 鼻アレルギー診療ガイドライン2020年版, ライフ・サイエンス社, 2020

初期療法と推奨できない治療法

#15.

全花粉症患者におすすめする「初期療法」 • 花粉飛散初期もしくは症状が出始めた時期(目安)から投薬を開始 することで、そのシーズンを通して症状が軽くすむ1 • デメリットがほぼ無いのでだれでも推奨できる • 抗ヒスタミン薬、点鼻ステロイド薬、抗ロイコトリエン拮抗薬など いつも使っている薬でOK メカニズム • 花粉暴露により末梢神経のヒスタミン受容体の発現が促進される • 抗ヒスタミン薬投与によってmRNAレベルで鼻粘膜表面のヒスタミンH1 受容体の遺伝子発現量が減少2 • 一度発現量が減少すると、その状態で花粉を暴露しても症状が出にくい2 1. 日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会, 鼻アレルギー診療ガイドライン2020年版, ライフ・サイエンス社, 2020 2. Kitamura Y, et al. Effects of antihistamine on upregulation of histamine H1 receptor mRNA in the nasal mucosa of patients with pollinosis induced by controlled cedar pollen challenge in an environmental exposure unit. J Pharmacol Sci. 2015 15

#16.

推奨できない治療法 血管収縮点鼻薬 • • • 慢性的な使用で点鼻薬性鼻炎(点鼻薬をつけないと逆に鼻が詰まる)を生じる 時間をかけて点鼻ステロイド薬へ薬剤スライドをしていく必要がある ガイドラインでも「重症以上、限定的な使用にとどめる」と明記されている1 ケナコルトA®筋注 • • • 開業の整形外科クリニックなどで行なわれがち 俗に言う「1シーズン1回で効く花粉の注射」というとこの方法を指す 副作用も1〜3ヶ月続き、コントロール困難:ガイドラインで非推奨1 セレスタミン配合錠® • • • 第一世代は副作用多し なんとなくDo処方されがち 内容はデキサメタゾン0.25mg + クロルフェニラミン(第一世代抗ヒスタミン) デキサメタゾン錠0.5mgやプレドニン錠5mgなどに切り替えましょう 1. 日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会, 鼻アレルギー診療ガイドライン2020年版, ライフ・サイエンス社, 2020 16

アレルギー性鼻炎の今後の治療方針

#17.

Take home message 17 • 国民病であるアレルギー性鼻炎は、セルフケアの概念が進み、 医師の果たす役割は今後変わっていく • 基本的保存的治療から高度な治療法まで、治療法の機序から 有効性まで理解しよう • 花粉症だからといって漫然と処方せず、最良と思える治療を 選択できるようになろう 応用編では舌下免疫療法と外科治療に ついて解説します。お楽しみに! presented by 音良林太郎 Twitter: @chicagonaka

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