#4.
酸 酸(acid)とは、ラテン語の‘acidus’(英語で’sour’(酸っぱい))から派生してできた単語である。 古代から酸性の性質を利用した記述はあり、カルタゴのハンニバルがアルプス越えの際に酢で岩を砕いた話や、クレオパトラが真珠を酢に溶かして飲んだという言い伝えがある。 David A Story. Crit Care. 8(4):253-8, 2004. 内田正夫. 化学と教育. 55(6):258-261, 2007. ※アルプス越えの話は否定的な見解もありますが。 ハンニバルのアルプス越え
#5.
酸 紀元9~10世紀のアラビア錬金術において、酸(鋭い水)への言及が見られ、ラクダの尿や毛などを昇華して得られる塩化アンモニウム(弱酸)が重要な試薬として登場する。 アラビア人を経由して13世紀のヨーロッパにアラビアで発達した科学知識が伝えられ、発展する。硫酸や硝酸などが得られるようになり、金属の精製に用いられた。 内田正夫. 化学と教育. 55(6):258-261, 2007. 硫酸鉄
#6.
アルカリ 中世アラビア錬金術で海藻や植物を焼いた灰を再結晶によって精製して得られるアルカリは、その性質が認識され錬金術に応用されるようになった。アルカリはアラビア語で「灰」を意味する‘Al qali’(‘Al’は冠詞)からきている。 紀元前2500年のメソポタミア文明の時代、古代シュメール人では、植物を焼いた灰(炭酸カリウムや炭酸ナトリウム)を洗剤として体や羊毛を洗ったり、宗教的な儀式に使用された。 化学と歴史のネタ帳 https://omizu-water.hatenablog.com/ アル・ラーズィー
(ペルシャの錬金術師・医師・化学者) シュメール人
#7.
酸・アルカリの認識 17世紀、医師のシルヴィウスは消化や発酵のような生体内の反応を酸とアルカリの闘争と和解の過程と考え、血中の酸とアルカリの正当な混合状態が健康をもたらし、くずれると病気になるというアシドーシス・アルカローシスという概念を唱えた。
シルヴィウスの考えを受け継いだオットー・タケニウスはこれを一般化して、人体だけでなく物質界の全ての現象を酸とアルカリの反応として説明しようとした。このころから酸・アルカリとは物質ではなく、性質であるという認識が広まっていた。 Franciscus Sylvius (1614-1672)
オランダの医師、化学者 内田正夫. 化学と教育. 55(6):258-261, 2007. F Manz. Eur J Nutr. 40(5):189-99, 2001. Robert Boyle(1627-1691)
イギリスの自然科学者 1664年ボイルは指示薬を利用して、酸とアルカリに「(リトマスなど)植物性色素を赤色に変えるものが酸であり、青、または緑色に変えるものがアルカリである」という明確な定義を与えた。物質や性質として曖昧な認識だった酸・アルカリが性質として客観的な基準をもつことになった。 安室芳樹. 医学のあゆみ. 256(3):265, 2016.
#8.
塩基 –base- 17世紀、オランダの化学者ヘルモントは酸と塩基による塩のイメージを酸は尖った棒状のもので、溶媒に溶けているがアルカリはリング状の形状をしており、酸の尖りを和らげるものであるとした。酸は尖っていて、アルカリはそれを受け止めるという当時の”塩”のイメージであった。 内田正夫. 化学と教育. 55(6):258-261, 2007. F Manz. Eur J Nutr. 40(5):189-99, 2001. 1700年フランスの化学者ホンベルクは酸との結合により塩を生じる基体に“マトリックス“という語をあてた。1730年代にはマトリックスに換えて「base」という用語が一般に用いられるようになった。baseに酸が作用して塩ができるため塩のbaseで塩基という語になる。
1744年にフランスの化学者ルエルが「どんな物質であれ、酸と結合 して固形物を生ずる『塩基と、酸との結合物』」 を塩と定義した。 Guillaume-François Rouelle (1703-1770) フランスの化学者
#9.
塩基 –base- 17世紀、オランダの化学者ヘルモントは酸と塩基による塩のイメージを酸は尖った棒状のもので、溶媒に溶けているがアルカリはリング状の形状をしており、酸の尖りを和らげるものであるとした。酸は尖っていて、アルカリはそれを受け止めるという当時の”塩”のイメージであった。 内田正夫. 化学と教育. 55(6):258-261, 2007. F Manz. Eur J Nutr. 40(5):189-99, 2001. 1700年フランスの化学者ホンベルクは酸との結合により塩を生じる基体に“マトリックス“という語をあてた。1730年代にはマトリックスに換えて「base」という用語が一般に用いられるようになった。baseに酸が作用して塩ができるため塩のbaseで塩基という語になる。
1744年にフランスの化学者ルエルが「どんな物質であれ、酸と結合 して固形物を生ずる塩基と、酸との結合物」 を塩と定義した。 Guillaume-François Rouelle (1703-1770) フランスの化学者 https://kinki.chemistry.or.jp/pre/a-90.html
#10.
酸・塩基の定義 1807年イギリスの化学者ハンフリー・デービーは無機化合物に電流を流すと化合物が構成成分に分解されることを発見した。
中性塩の溶液では、ナトリウムなどの金属はマイナス極に集中し、近くの液体はアルカリ性に、反対側のプラス極では、塩素などの元素が回収され、その近くの液体は反応して酸性になった。
このような現象から陽イオンは塩基性、陰イオンは酸性という概念が形成され、この考えは長く続いた。 Humphry Davy (1778-1829)
イギリスの化学者 AS Relman. Am J Med. 17(4):435-7, 1954. Svante Arrhenius (1859-1927)
スウェーデンの化学者 1884年スウェーデンの化学者アレニウスによる水溶液中の電離に関する論文が出版された。この電離に関する理論※をもとに「酸とは水溶液中でH+イオンを与えるもので,塩基は水溶液中でOH-イオンを与えるも のである」というアレニウスの定義が広まった。 ※1903年ノーベル化学賞受賞 化学と歴史のネタ帳 https://omizu-water.hatenablog.com/
#11.
酸・塩基の定義 1807年イギリスの化学者ハンフリー・デービーは無機化合物に電流を流すと化合物が構成成分に分解されることを発見した。
中性塩の溶液では、ナトリウムなどの金属はマイナス極に集中し、近くの液体はアルカリ性に、反対側のプラス極では、塩素などの元素が回収され、その近くの液体は反応して酸性になった。
このような現象から陽イオンは塩基性、陰イオンは酸性という概念が形成され、この考えは長く続いた。 AS Relman. Am J Med. 17(4):435-7, 1954. Svante Arrhenius (1859-1927)
スウェーデンの化学者 1884年スウェーデンの化学者アレニウスによる水溶液中の電離に関する論文が出版された。この電離に関する理論※をもとに「酸とは水溶液中でH+イオンを与えるもので,塩基は水溶液中でOH-イオンを与えるも のである」というアレニウスの定義が広まった。 ※1903年ノーベル化学賞受賞 化学と歴史のネタ帳 https://omizu-water.hatenablog.com/ Humphry Davy (1778-1829)
イギリスの化学者
#12.
生化学として酸塩基平衡解釈の歴史
#13.
酸・塩基の定義 Bernhard Naunyn
1839 -1925
ドイツの病理学者 Donald Dexter Van Slyke
1883-1971
アメリカの生理学者 アレニウスの定義があったものの、1900年頃の生理学ではアレニウスの定義とファラデー以前の定義が組み合わさったような酸塩基の概念が浸透していた。ナウニンは電解質、特にナトリウムと塩化物によって酸塩基の状態は決定されると提唱し、これはスライクにより受け入れられVan Slykeの定義と呼ばれる。
この定義ではアニオンを酸と呼び、カチオンを塩基と呼ぶ。この考え方は1950年代まで続いた。
一方でVan Slykeは犬に硫酸を投与する実験を行い、血中総炭酸濃度が下がることがアシドーシスであると定義もした。 David A Story. Crit Care. 8(4):253-8, 2004. Christensen HN. Am J Med. 27(2):163-5, 1957. Van Slyke, et al. J Biol Chem. 30(2):289-346, 1912.
#14.
血液の緩衝能力 血液には緩衝作用が存在する。おもに下記の4つの緩衝系が存在する。 重炭酸緩衝系
ヘモグロビン緩衝系
リン酸緩衝系
蛋白緩衝系 上記4つの緩衝系の中で重炭酸緩衝系のみ揮発性のある二酸化炭素という形で速やかに体外へ放出することが可能であり、血液の酸塩基平衡で主要な役割を果たしている。
つぎにヘモグロビンが重要な役割を果たしている。還元型ヘモグロビンはH+と結合しやすく、CO2濃度が上昇してpHが低下するとヘモグロビンは酸素を離して、H+と結合して緩衝する。 浅野泰. 日内会誌. 86(10):1868-72, 1997.
#15.
Hendersonの式 血液が酸や塩基による変化に抵抗できることは知られていたが、緩衝(buffer)ということも理解されていなかった。1908年ヘンダーソンは血液と呼吸機能の研究の経験と当時知られていた質量作用の法則から、血液での重炭酸緩衝系を表すシンプルな式を発表した。 Henry N Po, et al. J Chem Educ. 78(11):1499-503, 2001. ・・・・・ Hendersonの式 ■質量作用の法則 ・・・1867年に発表された化学平衡に関する法則 化学反応「A + B ⇄ C + D」が平衡に達しているとき
k = [A]× [B] / [C]× [D]
が温度が一定の時に成り立つ。 []:モル濃度 [H+] = [A-] k ・ [HA] Lawrence Joseph Henderson
1878-1942
#16.
Hendersonの式 血液が酸や塩基による変化に抵抗できることは知られていたが、緩衝(buffer)ということも理解されていなかった。1908年ヘンダーソンは血液と呼吸機能の研究の経験と当時知られていた質量作用の法則から、血液での重炭酸緩衝系を表すシンプルな式を発表した。 Lawrence Joseph Henderson
1878-1942 Henry N Po, et al. J Chem Educ. 78(11):1499-503, 2001. ・・・・・ Hendersonの式 ■質量作用の法則 ・・・1867年に発表された化学平衡に関する法則 化学反応「A + B ⇄ C + D」が平衡に達しているとき
k = [A]× [B] / [C]× [D]
が温度が一定の時に成り立つ。 []:モル濃度 [H+] = [A-] k ・ [HA] この式は重炭酸緩衝系を表すだけでなく、弱酸には使用できる式で、言い換えると電離定数KaとH+濃度を結びつける式ともいえる。弱酸で溶液がどのようなH+濃度になるか計算することができるため、この原理は生化学だけでなく広く化学に使用された。
#17.
Hendersonの式 重炭酸平衡は“CO2 + H2O ⇄ H2CO3 ⇄ H+ + HCO3-”となるため [H+] [HCO3-]=k1[H2CO3] k2[H2CO3] =[H2O][dCO2] d:dissolved [H+][HCO3-]/k1=[H2O][dCO2]/k2 [H2CO3]でとくと・・・ [H+]でとくと・・・ [H+]=[H2O]・ k1/k2 ・[dCO2]/[HCO3-] [H2O]・ k1/k2を定数Kaとすると [H+]=Ka ・[dCO2]/[HCO3-] (よく出てくるKaのaはacidのa) となり、これがいわゆる生理学で出てくるHendersonの式になる。 Sgambato F, et al. Ital J Med. 5(4):215-26, 2012. (Ka=24)
#18.
Henderson-Hasselbalchの式 Karl Albert Hasselbalch
1874-1962 Søren Peter Lauritz Sørensen
1868-1939 Hendersonの式の発表の翌年1909年にソーレンセンは[H+]イオン濃度の非常に低い値を表現するためにpHという表記法を提案した。(彼はその論文で初めてbufferという言葉を提唱した)
当初は[H+]イオン濃度が上昇するとpH表記では低下するということに反発もあったが、すぐに世界的に受け入れられた。 Henry N Po, et al. J Chem Educ. 78(11):1499-503, 2001. 1916年にHasselbalchはHendersonの緩衝式をpKの概念を持ち込んでpH表記に書きなおした。
こうして現在知られているHenderson-Hasselbalchの式が誕生した。
#19.
Henderson-Hasselbalchの式 [H+]=Ka ・[dCO2]/[HCO3-] Log[H+]=logKa +log[dCO2] - log[HCO3-] pH=pKa + log[HCO3-] - log[dCO2] pH=pKa + log[HCO3-]/[dCO2] 対数に変換 pH表記(-logなので+ー符号を逆に)に変換 対数を割り算に変更 pH=6.1 + log[HCO3-]/(0.0301×pCO2) CO2を分圧に変換 (0.0301は二酸化炭素の37度での溶解度)
#20.
Henderson-Hasselbalchの式 [H+]=Ka ・[dCO2]/[HCO3-] Log[H+]=logKa +log[dCO2] - log[HCO3-] pH=pKa + log[HCO3-] - log[dCO2] pH=pKa + log[HCO3-]/[dCO2] 対数に変換 pH表記(-logなので+ー符号を逆に)に変換 対数を割り算に変更 pH=6.1 + log[HCO3-]/(0.0301×pCO2) CO2を分圧に変換 (0.0301は二酸化炭素の37度での溶解度) 血液ガスの測定はpH、pCO2、pO2のみが実測値で、HCO3-は直接測定することは出来ないため、この式から算出しており、100年以上前に発表された式が現在も現役で使用されている。
#21.
酸・塩基の定義 Johannes Nicolaus
Brønsted, 1879-1947 Thomas Martin Lowry, 1874-1936 アレニウスの定義では水中でしか使えなかったが、化学が急速に発達し、水溶媒以外での酸塩基のふるまいを捉える必要性がでてきた。1923年ブレンステッドとローリーが同時に「酸をH+を供与するもの,塩基はH+を受容するもの」という定義を発表した。 David A Story. Crit Care. 8(4):253-8, 2004. ブレンステッド・ローリーの定義のあと、1923年ルイスは電子対を受け取るものを酸、供与するものを塩基と定義した。この定義により酸塩基の概念は水素イオンを含まないものまで拡大した。
(この定義だとH2Oは塩基になる。)
アレニウス➡ブレンステッド・ローリー➡ルイスとなるにつれ、より酸塩基の概念が広がっていくことになる。 Gilbert Newton Lewis, 1875-1946
#22.
生化学での酸塩基の定義の変化 1923年にブレンステッド・ローリーのH+の授受による酸塩基の定義が発表されたのちも、生理学では陽イオン(Na+、K+、Ca2+、Mg2+など)を塩基、陰イオン(Cl-など)を酸と呼ぶ流れは続いていた。
しかし、この考え方ではNH4+は塩基、HCO3-は酸と呼ぶことになり、生化学が進歩していくににつれ、混乱をきたしていた。そして1950年代半ばからこういった呼び方をやめ、ブレンステッド・ローリーの定義にしたがって酸塩基を捉えようという風潮が強くなった。 Christensen HN. Am J Med. 27(2):163-5, 1957. AS Relman. Am J Med. 17(4):435-7, 1954. David A Story. Crit Care. 8(4):253-8, 2004. そして、Henderson-Hasselbachの式とHCO3-に注目が集まり、 HCO3-は酸塩基の指標というだけでなく、「決定因子」である、と捉えられるようになった。
しかし、Stewartの考え方ではHCO3-は決定因子ではなく従属因子と考えており、Van Slykeの定義の流れを受けている考え方になる。 Van Slyke, et al. J Biol. Chem. 30(2):289-346, 1917.
#23.
酸塩基平衡への呼吸調節の発見 18世紀ころからポリオの流行を世界で認めていた。ポリオによる呼吸麻痺に対して1929年「鉄の肺」と呼ばれる呼吸補助装置がアメリカで開発された。 1953年 アメリカ カルフォルニア州の病院 (Wikipediaより) ※なんと!鉄の肺の保険点数は現在(令和6年)でも収載されていて一日260点。 動作概略図(Wikipediaより)
#24.
余談ですが・・・ (2024年3月14日)
#25.
酸塩基平衡への呼吸調節の発見 1952年にデンマークのコペンハーゲンでポリオの大流行が起こった。呼吸不全で3週間で31人入院して「鉄の肺」で治療されたが、入院から72時間以内に90%が亡くなった。
当時は総CO2しか測定できなかった(総CO2はHCO3-とほぼ同じ値をとる)ため、総CO2の値からアルカレミア、アシデミアを判断していた。そのため呼吸不全の患者では“アルカレミア”となっていて、 mysterious “alkalosis”と考えられていた。 J W Severinghaus, et al. Am J Respir Crit Care Med. 157(4 Pt 2):S114-22, 1998. John B West. J Appl Physiol. 99(2):424-32, 2005. Bjørn Aage Ibsen,
1915-2007 麻酔科医であったイブセンが、呼吸不全による二酸化炭素の貯留により死亡したと判断し、気管切開を行いバッグ換気を行った。
陽圧式の人工呼吸器は当時まだなく、医科や歯科の学生などのべ1500人で165,000時間にわたり用手バッグ換気を行ったといわれている。
イブセンはICUの創設者と言われている。 (現在ではCO2貯留による代償性変化とわかる) (ICUが麻酔科管理なのはこの伝統からきている?)
#26.
酸塩基平衡への呼吸調節の発見 J W Severinghaus, et al. Am J Respir Crit Care Med. 157(4 Pt 2):S114-22, 1998. John B West. J Appl Physiol. 99(2):424-32, 2005. 当時血液のpHを測定するには、多量の血液を必要としていた。アストラップは、コペンハーゲンのラジオメーター社を説得し、少量のサンプルで血液のpHを測定する方法を開発した。その方法でmysterious ”alkalosis”の血液を測定すると酸性であることがわかり、イブセンの仮説が正しかったことが示された。 Paul Astrup,
1915-2000 この陽圧喚起と人工呼吸のパラメーターが進歩することにより、当初の死亡率90%が25%まで劇的に改善をした。
こうしたポリオによる悲惨な流行が集中治療を大きく変化させたとともに、血液ガス分析で呼吸性の要因が注目されるきっかけとなった。
#27.
総CO2とHCO3- 現在の技術でもHCO3-を直接測定することはできないため、HCO3-は算出するか代理の指標を用いて評価するしかない。
欧米では血清または血漿を用いた総CO2測定が一般的である(そうです)。
日本では上記のような総CO2を測定することはほとんど行われておらず、血ガス分析を行いpHとpCO2を実測してHenderson-Hasselbalchの式からHCO3-を算出している。 と、ここまではよく本に書いてありますが、いったいどういうことで、どういうメリットがあるのか少し詳しく検討したいと思います。
#28.
総CO2とHCO3- 総CO2とは重炭酸塩の測定を行っている。
総CO2[mmol/L]=HCO3-[mmol/L] + 0.03×pCO2[mmHg]
pCO2は通常40 mmHg。0.03×40=1.2程度なので、総CO2とHCO3-の解離はおよそ5%程度となる。なので総CO2はHCO3-をほぼ同じとして推定するものとして使用可能。
楠木啓史, 他. Jpn. J. Med. Technol. 67(1):23-8, 2018. 総CO2とHCO3-を比較した報告ではやはりHCO3-の方が低くなるが、ほぼ完全に相関している。
#29.
総CO2とHCO3- ■総CO2測定のメリット
血清や血漿での測定なのでHCO3-のみ知りたい場合は通常の生化学検査に追加できる。言い換えると血ガス容器(全血)での採血はいらない。
■総CO2測定のデメリット 楠木啓史, 他. Jpn. J. Med. Technol. 67(1):23-8, 2018. スピッツ規定量より少量の採血量や、蓋を開けて時間が経つと総CO2測定値は低くなり、Artifactを受けやすい。
POCTとしては測定できない。
#30.
総CO2とHCO3- 楠木啓史, 他. Jpn. J. Med. Technol. 67(1):23-8, 2018. ■総CO2測定のメリット
血清や血漿での測定なのでHCO3-のみ知りたい場合は通常の生化学検査に追加できる。言い換えると血ガス容器(全血)での採血はいらない。
■総CO2測定のデメリット スピッツ規定量より少量の採血量や、蓋を開けて時間が立つと総CO2測定値は低くなり、Artifactを受けやすい。
POCTとしては測定できない。 保存期CKDで代謝性アシドーシスの程度を見てるだけのような場合は、生化学検査で分かる総CO2が、血ガス容器で採血追加も必要なく、よいのかも知れません。
注意点は採血量がちゃんとあるか、追加オーダーは不正確の恐れがあるということには注意する必要があります。
#31.
血液酸塩基平衡の解釈 血液の酸塩基平衡に呼吸の要素を考慮する必要があることがわかり、どのように解釈を行うか検討が進められていった。
呼吸の影響が大きく注目された時期に解釈法が大きく発展し、コペンハーゲンのグループとボストンのグループの2つの異なる解釈法が世界をリードしていた。
1960年中ごろにかけてコペンハーゲンのグループが主張するBase Excessの有用性をめぐって論争が起こり、のちに“The Great Trans-Atlantic Acid-Base Debate“と呼ばれた。
#32.
血液緩衝系 先に述べたように血液には主に4つの緩衝作用が存在する。 この中で①の重炭酸緩衝系が実際の生体では75-90%の緩衝能力を持っており、主要な働きをしていると考えられる。
しかし、血液緩衝系に強酸を10 mmol/Lを加えた場合、HCO3-は(24-10で)14 mmol/Lではなく16 mmol/Lとなる。HCO3-以外の因子も20%ほど緩衝に関与しており、無視していいわけではない。 Thomas Langer, et al. Intensive Care Med. 48(8):1080-1083, 2022. 重炭酸緩衝系
ヘモグロビン緩衝系
リン酸緩衝系
蛋白緩衝系 緩衝への寄与度 内田俊也. 日腎会誌 59(8):983-989, 2008. 75-90%
8%
0.3%
1.6%
#33.
二つの解釈法のコンセプト ■コペンハーゲンのグループ
Vitroで血液を滴定することで、血液の緩衝系をすべて評価の対象としている。
➡Base Excess アプローチ
■ボストンのグループ
上記の緩衝系の中で生体では重炭酸緩衝系が主な酸塩基調節機能を果たしているため、重炭酸緩衝系に絞って、vivoで得られた結果をもちいて解析することにしている。
➡Physiological アプローチ
#34.
Base Excess 1950年代後半にアンダーソンはBase Excessの考え方を開発した。
Base Excessとは、血液を37℃、pCO2を40 mmHgにしたときにpH 7.40にするのに必要な酸の量を表している。
このpCO2を固定することで、呼吸性の要素を除外することができると考えた。 Ole Siggaard-Andersen,
1932- Albert Baird Hastings,
1895-1987 David A Story. Crit Care. 8(4):253-8, 2004. 1948年HastingとSingerは血液緩衝の程度をBuffer Baseという考え方で示した。これは重炭酸イオンと不揮発性の弱酸(主にアルブミンなどのタンパク)の総和(強陽イオンと強陰イオンの差)を示しており、酸塩基の定量的な評価を行う考え方の端緒となった。
#35.
The Great Trans-Atlantic Debate William Benjamin Schwartz,
1922-2009 これに対しボストンのシュワルツは、血液は細胞外液の4分の1であり、間質に存在する蛋白も酸塩基平衡へ寄与していることから、血液の検査結果を利用するBase Excessは正確ではない、と主張した。 Ole Siggaard-Andersen,
1932- これに対しコペンハーゲンのアンダーソンは、Hbを5.0 g/dLとしてヘモグロビンの緩衝力を減らすことで細胞外液全体を疑似的に仮定することで生体での緩衝を評価可能とした。これがStandard Base Excessである。
#36.
二つの共通点 両者のアプローチは二つともHCO3-を酸塩基平衡の決定因子として扱っている。
アプローチ法は異なるが以下の6つの病態を想定することも同じ。 代謝性 呼吸性 アシドーシス アルカローシス アルカローシス 急性 慢性 アシドーシス アルカローシス アシドーシス 診断アルゴリズムに使用するものが違うというだけで、根本的な考え方は似ている。
#37.
酸塩基平衡解釈の発展 1977年にネイリンとエメットにより、血液の電気的中性の観点から測定できない陰イオン(おもに乳酸イオン、ケトン、硫酸イオンなど)を評価するアニオンギャップの臨床的使用が報告された。
これは新たな酸塩基平衡解釈の視点として、非常に重要な指標となった。 Robert G Narins, Michael Emmett, Peter A. Stweart,
1921-1993 1981年にStewartは全く異なる酸塩基平衡の解釈のアプローチ方法に関して本を出版した。
彼はアレニウスの定義に帰り、HCO3-はpHの決定因子ではなく従属因子であり、pHの決定因子は
①強陽イオンと強陰イオンの差、②不揮発性弱酸、③CO2
の三つを独立した因子とした。
これはPhysicochemical Approachと呼ばれている。 R Kishen, et al. Int J Nephrol Renovasc Dis. 7:209-17, 2014.
#38.
現在の酸塩基平衡の解釈法 現在酸塩基平衡の解釈法としては以下の3つの方法がある。 Physiological Approach
Base Excess Approach
Stewart Approach
(Physicochemical Approach) 大きく上記に分かれるが、それぞれ単独で完結するというよりは、③の考え方を①や②と混合して発展的に解釈する方法が報告されている。
より広い視点で多角的に酸塩基平衡を評価できるため、それぞれに関して一通り知っておくと臨床の幅が広がると思われる。 Kenrick Berend. N Engl J Med. 378(15):1419-1428, 2018. Julian L Seifter. N Engl J Med. 371(19):1821-31, 2014.
#39.
酸塩基平衡の生理
#40.
生体での酸塩基平衡のコントロール これらの非常に多くの酸負荷に生体は以下の3つの方法で対応している。 内田俊也. 日腎会誌 59(8):983-989, 2008. 生体は通常の炭水化物、脂肪の代謝で1日約15,000~20,000 mEqもの炭酸(揮発酸)を産生されている。
不揮発酸は揮発酸に比べると少ないものの、1日50~70 mEq生成されていて、生体は常に酸負荷にさらされていることになる。 ① 緩衝系による中性化
② 呼吸による放散
③ 腎による排泄 I Shaw, et al. BJA Educ. 22(10):396-401, 2022. (数秒から数分)
(数分から数時間)
(数時間から数日) この対応に機能低下があると生体はアシドーシスに陥る。逆にドライブがかかるとアルカローシスになる。 Bianca N Quade,et al. Biochem Pharmacol. 183:114278, 2021.
#41.
酸塩基平衡異常の臨床上の意義 解糖系やホスホフルクトキナーゼ、RPS6などの重要な代謝性の酵素は、pHがわずか0.1動くだけで完全に不活化してしまい、細胞のエネルギー代謝や蛋白合成はストップしてしまうことになる。酸塩基平衡を保つことは生理学的に非常に重要。 Michael F Romero, et al. Semin Nephrol. 39(4):316-327, 2019. アシドーシスが悪い理由 アルカローシスが悪い理由 内田俊也. 日腎会誌 59(8):983-989, 2008. 高K血症
不整脈の出現
心筋収縮力低下
末梢血管拡張
肺水腫
骨融解
筋肉異化
腎障害進行、腎石灰化、尿路結石 低K血症
テタニー
脱水(HCO3-排泄時にNa+牽引)
末梢組織の低酸素血症
脳血管収縮
肝性昏睡の悪化
心臓への影響(冠血流低下、不整脈、ジギタリス中毒)
#42.
酸塩基平衡異常の臨床上の意義 解糖系やホスホフルクトキナーゼ、RPS6などの重要な代謝性の酵素は、pHがわずか0.1動くだけで完全に不活化してしまい、細胞のエネルギー代謝や蛋白合成はストップしてしまうことになる。酸塩基平衡を保つことは生理学的に非常に重要。 Michael F Romero, et al. Semin Nephrol. 39(4):316-327, 2019. アシドーシスが悪い理由 アルカローシスが悪い理由 内田俊也. 日腎会誌 59(8):983-989, 2008. 高K血症
不整脈の出現
心筋収縮力低下
末梢血管拡張
肺水腫
骨融解
筋肉異化
腎障害進行、腎石灰化、尿路結石 低K血症
テタニー
脱水(HCO3-排泄時にNa+牽引)
末梢組織の低酸素血症
脳血管収縮
肝性昏睡の悪化
心臓への影響(冠血流低下、不整脈、ジギタリス中毒)
#43.
ヘモグロビンの酸素解離曲線 ヘモグロビンと酸素の結合はpHにより左右される。 I Shaw, et al. BJA Educ. 22(10):396-401, 2022. pHが高いと、ヘモグロビンは酸素分圧が低くても酸素を離さなくなる。
末梢組織で酸素分圧が低下しても酸素が供給されないことになり、酸欠状態に陥る。その結果乳酸アシドーシスを引き起こし、複雑な病態を発症することになる。
PaO2 [mmHg] 15 30 45 60 75 90 105 酸素飽和度 [%]
#44.
アシドーシスは敵か味方か ヘモグロビンはpHが低いと酸素をより手放すため、例えば運動している筋肉から戻ってくる静脈血では乳酸イオンは10 mEq/Lを超え、pHは7.0になっていることもある。こういった組織では都合がよい性質となる。
ARDSでは肺保護のため一回換気量を減らし、高CO2血症は許容するという報告がある。動物実験などでは高CO2血症によるアシドーシス自体にも肺保護効果があるとする報告がある。しかし、臨床研究では証明されたものはなくむしろpCO2が50 mmHg以上では死亡率の上昇と関連していた。基礎研究と臨床研究ではやや解離がある。
一方、アルカローシスは多くの害となる効果が考えられる。とくに代謝性アルカローシスは低換気を引き起こし、合併症を増加させ、救急領域で死亡率を上昇させるなどが報告されている。 Kenrick Berend, J Nephrol. 26(2):254-65, 2013. 小田真也、他, 人工呼吸. 28(2):168-76, 2011. Nicolas Nin, et al. Intensive Care Med. 43(2):200-208, 2017.
#45.
血ガスと生化学検査 血液ガス検査は全血を用いており、生化学検査は血清を用いて、さらに希釈して検査を行っている。前者を直接測定法、後者を間接測定法と呼ぶ。測定方法は両者ともイオン選択電極法を使用している。
Cl‐の測定電極の性質上、Cl-の選択性が弱く、ほかの一価の陰イオン(ハロゲンイオン、重炭酸イオンなど)を測りこんでしまう可能性がある。そのため直接測定法よりも希釈して測定している生化学分析の方が影響は受けにくい。
血液ガス検査と生化学検査を比較した報告では、Na、Kは血液ガス検査の方が低く、Clは血液ガス検査の方が高くなった。つまり、血ガス検査の結果でアニオンギャップを計算すると過小評価する可能性があり、注意が必要である。 三浦栄大、他.透析会誌. 52(5):281-4, 2019. Hiroshi Morimatsu, et al. Anesthesiology. 98(5):1077-84, 2003.
#46.
動脈血ガスと静脈血ガス 静脈血ガスは動脈血ガスの代わりに使用されることが多いが、各項目の動脈血ガスとの差は以下のようになっている。
Anthony L Byrne, et al. Respirology. 19(2):168-175, 2014. Benjamin M Bloom, et al. Eur J Emerg Med. 21(2):81-8,2014. Nikola Schütz, et al. Open Access Emerg Med. 11:305-312, 2019. pH, HCO3-に関しては静脈血ガスでも動脈血ガスを大きな変動はなく、ばらつきも少ないため使用できると思われる。
#47.
Physiological Approach
#48.
最初のステップ ーStep 0ー 酸塩基平衡解釈の方法に関係なく、最初のステップは酸塩基平衡異常を念頭においた臨床的な注意深い問診と診察である。
バイタルサイン ーショックになっていないか、敗血症を疑うか
感染を疑う所見はあるか ー発熱、疼痛、発赤など
呼吸状態 ー呼吸数、Kussmaul呼吸の有無、チアノーゼ、ばち指など
胃腸症状 ー嘔吐や下痢
既往 ー妊娠、糖尿病、心疾患、肺疾患、肝疾患、腎疾患
薬剤 ー下剤、利尿薬、抗てんかん薬、メトホルミン
代謝性兆候 ーアセトン臭、イソプロピルアルコール中毒、メタノール中毒など Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014.
#49.
Physiological Approach 現在日本の教科書で扱っている血液ガスの解釈法はボストングループのPhysiological Approachである。(病態生理を明らかにすることができるためPhysiological Approachと呼ばれている。(たぶん))
もっとも標準的な酸塩基平衡の解釈方法で、Step by Stepで進めていくことで、ほぼ機械的に進めていくことができる。 問題点としては代償性変化の予測式は約60年前に犬で行った実験結果をもとにしており、長期間の呼吸性変化による代償を必ずしも予測できるものではないとされている。 酸塩基の解釈といえばこの方法なので、たくさんの書籍で非常にわかりやすく解説されています。
#50.
Step 1 原発性の酸塩基平衡異常を決定する。 pHの正常値は7.38-7.42。文献により正常値の幅は違うが大きく共通しているのは、pH:7.40を中央値として+/-いくつという書き方である。
pHが7.38より下か7.42より上かで、原発性の酸塩基平衡異常を判断する。
いいかえると血液がアシデミアかアルカレミアか。 Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. アシドーシス/アルカローシスは血液を酸性/アルカリ性に傾ける病態を指し、両者は混在することがあるため、最終的に血液が酸性かアルカリ性かはアシデミア、アルカレミアで表現します。 pH
HCO3-
pCO2 7.38-7.42
22-26
38-42
mEq/L
mmHg 各パラメーターの基準域基準域
#51.
Step 2 呼吸性か代謝性か アシドーシスとアルカローシス、それぞれ呼吸性と代謝性で合計4種類のうちどれに当たるかを判断する。これがPrimaryな変化になる。 Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. pH<7.38 pH>7.42 アシデミア アルカレミア 代謝性アシドーシス 呼吸性アシドーシス 呼吸性アルカローシス 代謝性アルカローシス HCO3-<22 HCO3->26 CO2>42 CO2<38 pHを見る
#52.
Step 2 呼吸性か代謝性か アシドーシスとアルカローシス、それぞれ呼吸性と代謝性で合計4種類のうちどれに当たるかを判断する。これがPrimaryな変化になる。 Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. pHを見る pH<7.38 pH>7.42 アシデミア アルカレミア 代謝性アシドーシス 呼吸性アシドーシス 呼吸性アルカローシス 代謝性アルカローシス HCO3-<22 HCO3->26 CO2>42 CO2<38 Step 3以降はどのPrimaryな変化かによりアルゴリズムは異なってくるが、代償性変化の程度を評価するというのは変わらない。
#53.
代謝性アシドーシス
#54.
代謝性アシドーシス 診断フローチャート Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. 呼吸性の代償が予測範囲か Step 3 Step 4 呼吸性アシドーシス、呼吸性アルカローシスの合併の有無を判定 Anion Gapが開大しているか。 AG開大性アシドーシス AG開大性アシドーシスのみでよいか。 Step 5-1 AG非開大性アシドーシス合併の判定 AG非開大性アシドーシス 浸透圧ギャップを調べる。 Step 5-2 未知のAG開大性アシドーシスの場合調べる。 尿中AGが正か負か。 Step 6 尿での酸排泄能力を調べる。 尿浸透圧ギャップを調べる。 Step 6 尿AGで判定できない病態も判定可能。
#55.
Step 3 ー代謝性アシドーシスー 呼吸性の代償が予測範囲か 呼吸性の代償の予測範囲を計算する。 Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. 予想pCO2 1.5×[HCO3-]+8 ± 2 mmHg 予想範囲より下回っていれば、呼吸性アルカローシスの合併、
予想範囲より上回っていれば、呼吸性アシドーシスの合併ということになる。 簡易的には 予想pCO2 [HCO3-]+15(or 16)で考えてもよい。 今井裕一、他。日内会誌 97(5):1044-7, 2008.
#56.
Step 4 ー代謝性アシドーシスー Anion Gapが開大しているか Anion Gap(AG)を計算する。 Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. AG = [Na+] – [Cl-] – [HCO3-]
基準 10~14 血液は電気的に中性であり、陽イオンと陰イオンの電荷の和は等しくなるという前提がある。
そのうえで測定できないイオンの変化を明らかにして鑑別に使用するためにAGを計算する。 開大していた場合はAG開大性アシドーシスあり。Step5へ。
開大していない場合はAG非開大性アシドーシス。Step6へ。
#57.
Anion Gap 血清での陽イオンの大半はNa+であるが、ほかにK+、Mg2+、Ca2+、その他の陽イオンがある。
陰イオンはCl-、HCO3-が多く、リン酸イオン、硫酸イオン、蛋白、そのほかの陰イオンがある。 Michael Emmett. Am J Kidney Dis. 67(1):143-50, 2016.
#58.
Anion Gap 陽イオンはNa+、陰イオンはCl-とHCO3-しか測定せず、その他を測定しない陽イオン/陰イオンとすると、左の図のようになる。
Anion Gapはだいたい12 ± 2 mEq/Lとなる。
DKAや乳酸アシドーシスなどでは、測定されない陰イオンが増加するためAnion Gapは増大する。ケトン体や乳酸は通常の検査では測定しないがAnion Gapでとらえることが出来る。 Michael Emmett. Am J Kidney Dis. 67(1):143-50, 2016.
#59.
Anion Gapが低下もしくは負になる場合 逆にAGが低下もしくは負になる場合がある。
① 測定されない陰イオンが減少
② 測定されない陽イオンが増加
③ 偽性高Cl-血症
AGが低下する病態があるときは、AGを過小評価する可能性があるので留意する必要がある。 Michael Emmett. Am J Kidney Dis. 67(1):143-50, 2016.
#60.
Anion Gapが低下もしくは負になる場合 Michael Emmett. Am J Kidney Dis. 67(1):143-50, 2016. ① 測定されない陰イオンが減少
ほとんどが低Alb血症でAGが負になることはない。補正式は以下。
補正AG = 測定AG+(4- Albmin)×2.5
低Alb血症があるときは補正AGで評価しないとAG開大を見逃す可能性がある。
② 測定されない陽イオンが増加
ⅰ)高Ca血症・・・軽度では無視できる。高度の場合は原因により影響が違う。 この原因による違いはAlb、腎不全、酸塩基状態とは独立していた。多発性骨髄腫でなく高CaでAGが低下していない場合は悪性腫瘍ではないと逆に言える可能性が言われている。 J R Oster, et al. Nephron. 55(2):164-9, 1990.
#61.
Anion Gapが低下もしくは負になる場合 ② 測定されない陽イオンが増加
ⅱ)Mg2+・・・注射で硫酸Mgを投与する場合はAGは開大しないが塩化Mg負荷(一部の点滴に入っている)などはAG低下につながる可能性がある。
ⅲ)単クローン性免疫グロブリン血症・・・アルブミンと違い、免疫グロブリン(とくにIgG)は電気的に中性もしくはわずかに正に帯電しており、その蓄積はAGを低下させる。しかしIgAは負に帯電しているため、AG開大につながるため注意が必要。多クローン性免疫グロブリン血症の場合は様々になるよう。
ⅳ)ポリミキシンB・・・塩化塩として投与されるためAGは負になりえる。
ⅴ)リチウム中毒
③ 偽性高Cl-血症
高脂血症、臭素・ヨード中毒、チオ硫酸ナトリウム、サリチル酸中毒では偽性高Cl-血症をきたす。 Michael Emmett. Am J Kidney Dis. 67(1):143-50, 2016.
#62.
Step 5ー1 ー代謝性アシドーシスー AG開大性アシドーシスのみでよいか Delta-Delta(Δ-Δ)を計算する。 Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. Δ-Δ = ΔAG - Δ[HCO3-]
基準 -5 ~ +5
ΔAG = AG – 12, Δ[HCO3-] = 24- [HCO3-] 乳酸アシドーシスの場合はΔAGに0.6をかける(痙攣後などの超急性の場合は0.6をかける必要はない)。
Δ-Δ >5 … 代謝性アルカローシスの合併。
Δ-Δ <-5 … AG非開大性アシドーシスの合併。
補正HCO3-という考え方もあり、ΔAGをHCO3-に足す。こちらの方が直感的には分かりやすいかもしれない。
基準域はやや広い印象なので±2を超える場合はそれぞれの存在を考えてよいと思う。
#63.
Step 5ー1 ー代謝性アシドーシスー AG開大性アシドーシスのみでよいか 他の計算方法としてdelta ratioがある。 ΔAG/ Δ[HCO3-]
ΔAG = AG – 12, Δ[HCO3-] = 24- [HCO3-] ΔAG/ Δ[HCO3-]<1 AG非開大性アシドーシスの合併
1< ΔAG/ Δ[HCO3-] <2 AG開大性アシドーシス
2<ΔAG/ Δ[HCO3-] 代謝性アルカローシスの合併
UpToDateでは上記のように書いてはあるが、論文では上記のように明確に記載があるものはない。杓子定規に考えるのではなく、原則はAG開大性であれば基本1:1であるが、乳酸アシドーシスでは1.6-1.8:1となることを前提として、それより高いか低いかで柔軟に考える方がよい。 Jeffrey A Kraut, Nicolaos E Madias. Nat Rev Nephrol. 6(5):274-85, 2010. Asghar Rastegar. J Am Soc Nephrol. 18(9):2429-31, 2007. Andrew Z Fenves 1, Michael Emmett. Am J Kidney Dis. 78(4):590-600, 2021.
#64.
Step 5ー2 ー代謝性アシドーシスー 血清浸透圧ギャップの有無を確認する。 血清浸透圧推定値と実測値の差を計算する。 Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. 実測血清浸透圧ー推定血清浸透圧
基準 <10 mOsm/kg 原因不明のAG開大性アシドーシスの場合、浸透圧ギャップを計算する。
開大している場合はエタノール、プロピレングリコール、エチレングリコール、メタノール中毒などの病態を考える。
ただ、乳酸アシドーシスやDKA、アルコール性ケトアシドーシスでも上昇はするため注意が必要である。 推定血清浸透圧 2 x Na+ + UN/2.8 + Glc/18
#65.
Step 6 ー代謝性アシドーシスー 尿中アニオンギャップを計算する。 尿中アニオンギャップを計算する。 Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. 尿AG = [Na+] + [K+] – [Cl-]
※もし、尿pH > 6.5もしくは[Na+] <20 mmol/Lの場合は尿浸透圧ギャップも計算すること。尿浸透圧ギャップが40未満では酸排泄障害。 AG非開大性アシドーシスで計算する。
尿AGが負・・・腎での酸排泄は正常なので、下痢やNa負荷、近位尿細管性アシドーシス(通常低K、低Pi血症、腎性糖尿を伴う)を考える。
尿AGが正・・・腎での酸排泄障害がある。遠位尿細管性アシドーシスでは低K、尿pH>5.5、IV型尿細管性アシドーシスでは高K、尿pH >5.5となる。
#66.
腎での酸排泄は以下の3つの方法で行われる。
尿の酸性化
滴定酸(主にリン酸)の排泄
アンモニウムイオンの排泄
この中で1,2は代謝性アシドーシスなど酸排泄が必要な時に変化できるのは限定的で、最も重要なのはアンモニウムイオン(NH4+)としての排泄である。
AG正常の代謝性アシドーシスの鑑別で腎での酸排泄障害によるものか、それ以外によるものか(主に下痢)を判別するために、尿中のNH4+の量を調べる必要がある。 腎での酸排泄 坂口悠介.日内会誌.111(5):949-56, 2022. 「尿定量検査」より再掲
#67.
日常臨床で尿中のNH4+を直接測定するためには、尿採取から3時間以内に測定することが必要だったり、尿にウレアーゼ産生菌がいないことなど条件があるためルーチンにおこなうことできない。
尿中のNH4+の量を推測する指標として尿アニオンギャップがある。
■前提条件
尿中の陽イオンと陰イオンの総和は等しい。
尿中の主要な陽イオンはNa+、K+、NH4+であり、陰イオンはCl-、HCO3-、リン酸などである。
HCO3-は代謝性アルカローシス以外の状態ではほとんどが近位尿細管で再吸収を受ける。
リン酸や硫酸イオンの1日排泄量はほぼ一定で約80 mEqである。 尿アニオンギャップ 1日の尿中イオン排泄 Na+ + K+ + NH4+= 80 + Cl- 「尿定量検査」より再掲
#68.
Urinary AG = Na+ + K+ - Cl- = 80 - NH4+ 腎での酸排泄が正常なら代謝性アシドーシスの状態では近位尿細管でのアンモニアの酸性が亢進し、酸の排泄が促進されるため、尿中NH4+が増加する。その結果、尿AGは負の値をとる。 尿アニオンギャップ 「尿定量検査」より再掲
#69.
腎不全や遠位尿細管性アシドーシスの状態で腎での酸排泄に問題がある場合はNH4+の排泄が低下するため代謝性アシドーシスの状態にもかかわらず、尿AGは正の値をとる。 尿アニオンギャップ 「尿定量検査」より再掲
#70.
尿中浸透圧ギャップ 「尿定量検査」より再掲
#71.
尿AGが正であっても腎での酸排泄障害と鑑別が困難な場合がある。それは測定されない陰イオンが尿中に増える場合であり、糖尿病性ケトアシドーシスおよび飢餓でのケトン尿、トルエン中毒の馬尿酸イオン排泄、に伴うAG正常代謝性アシドーシス、アセチルサリチル酸、乳酸、多量のペニシリン使用が挙げられる。
一般に多尿、尿pHが6.5を超える場合、酸排泄には尿中Naが必要なため尿中Na<20 mEq/L未満の場合などは尿AGの信頼性が落ちる。
このような病態や信頼性が低下する場合には尿浸透圧ギャップが有用である。 予測尿浸透圧 2 x (Na+ + K+) + UN/2.8 + Glc/18 尿浸透圧ギャップ 尿浸透圧ギャップ=[実測浸透圧]ー[予測浸透圧] 「尿定量検査」より再掲 ※一部修正
#72.
浸透圧ギャップを2で割った値が尿中NH4+の推定値となる。
正常では尿浸透圧ギャップは10-100 mOsm/kg程度。
代謝性アシドーシスで浸透圧ギャップが40未満の場合は酸排泄障害があると考えられる。
代謝性アシドーシスの状態で、尿浸透圧ギャップが200を超えている場合は、腎での酸排泄は出来ており、腎以外でのアシドーシスの原因(腸管からのHCO3-喪失など)と考えられらる。
尿中AGを計算するときは浸透圧ギャップも計算した方がより正確。 尿浸透圧ギャップ Mandana Rastegar, et al. Am J Kidney Dis. 69(2):296-301, 2017. 「尿定量検査」より再掲 ※一部修正
#73.
AG開大性代謝性アシドーシス 鑑別診断 Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. 酸過剰産生 ケトアシドーシス(DKA、AKA、飢餓)
乳酸アシドーシス
L-乳酸アシドーシス
Type A 低酸素(敗血症性ショック、腸間膜虚血、低酸素血症、循環血液量減少性ショック、一酸化炭素中毒、シアン中毒)
Type B 非低酸素(チアミン欠乏、痙攣、薬剤(非核酸系逆転写酵素阻害剤、メトホルミン、プロポフォール、ナイアシン、イソニアジド、鉄)、中毒(サリチル酸、エチレングリコール、プロピレングリコール、メタノール、トルエン(早期)、パラアルデヒド)
D-乳酸アシドーシス・・・短腸症候群
酸排泄低下 (進行した腎不全)
肝不全での乳酸代謝障害
細胞融解 大量の横紋筋融解症など
ペニシリン系抗生剤使用
5-oxoproline
#74.
AG開大性代謝性アシドーシス 鑑別診断 Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. 酸過剰産生 ケトアシドーシス(DKA、AKA、飢餓)
乳酸アシドーシス
L-乳酸アシドーシス
Type A 低酸素(敗血症性ショック、腸間膜虚血、低酸素血症、循環血液量減少性ショック、一酸化炭素中毒、シアン中毒)
Type B 非低酸素(チアミン欠乏、痙攣、薬剤(非核酸系逆転写酵素阻害剤、メトホルミン、プロポフォール、ナイアシン、イソニアジド、鉄)、中毒(サリチル酸、エチレングリコール、プロピレングリコール、メタノール、トルエン(早期)、パラアルデヒド)
D-乳酸アシドーシス・・・短腸症候群
酸排泄低下 (進行した腎不全)
肝不全での乳酸代謝障害
細胞融解 大量の横紋筋融解症など
ペニシリン系抗生剤使用
5-oxoproline 短腸症候群での乳酸アシドーシスではD-Lactic acidが増加するため、測定できない。乳酸値は正常なのにAG開大性アシドーシスを呈する。
#75.
AG開大性代謝性アシドーシス 鑑別診断 Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. 酸過剰産生 ケトアシドーシス(DKA、AKA、飢餓)
乳酸アシドーシス
L-乳酸アシドーシス
Type A 低酸素(敗血症性ショック、腸間膜虚血、低酸素血症、循環血液量減少性ショック、一酸化炭素中毒、シアン中毒)
Type B 非低酸素(チアミン欠乏、痙攣、薬剤(非核酸系逆転写酵素阻害剤、メトホルミン、プロポフォール、ナイアシン、イソニアジド、鉄)、中毒(サリチル酸、エチレングリコール、プロピレングリコール、メタノール、トルエン(早期)、パラアルデヒド)
D-乳酸アシドーシス・・・短腸症候群
酸排泄低下 (進行した腎不全)
肝不全での乳酸代謝障害
細胞融解 大量の横紋筋融解症など
ペニシリン系抗生剤使用
5-oxoproline 少し詳しく触れます。
#76.
5-oxoprolineと代謝性アシドーシス もともとγグルタミル回路の酵素が遺伝的に欠損する小児の病気で5-oxoprolineが蓄積することは知られていた。その後1990年にアセトアミノフェン投与により5-oxoprolineが蓄積し、AG開大性アシドーシスになることが初めて報告されている。
アセトアミノフェン使用量は中毒量でなくてもの発症する。AG開大性アシドーシスだけでなく脳症も伴う。リスクファクターは高齢、女性、低栄養、腎不全、複数の慢性疾患が挙げられている。これらのリスクファクターに共通するのは体内のγグルタミル回路の一部であるグルタチオンが低下することであるが、はっきりした機序はわかっていない。
アセトアミノフェン中止と輸液にて多くは軽快する。 Michael Emett. Clin J Am Soc Nephrol. 9(1):191-200, 2014. Thomas Kalinoski. Am J Case Rep. 23:e934410, 2022. J.J. Pitt, et al. J Inherit Metab Dis. 13(5):755-6, 1990. Jennifer L Duewall, et al. Proc (Bayl Univ Med Cent). 23(1):19-20, 2010. ※ちなみにこれがγ-GTP
#77.
AG非開大性代謝性アシドーシス 鑑別診断 Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. 重炭酸イオン喪失 胃腸(下痢、人工膀胱、胆管or膵管瘻)
腎(II型RTA、トルエン中毒(後期)、薬剤(イホスファミド、テノフォビル、トピラメート、アセタゾラミド)
腎での酸排泄低下 (尿AGが正、または尿浸透圧ギャップ<40)
初期の尿毒症
I型RTA(アムホテリシン、リチウム、シェーグレン症候群など)
IV型RTA(低アルドステロン症、偽性低アルドステロン症など)
他の原因
生理食塩水投与、過剰栄養(リジン、ヒスチジン、アルギニン塩酸塩)、塩化物の投与、塩化アンモニウム、コレスチラミン、馬尿酸、硫酸 抗悪性腫瘍薬 B型肝炎治療薬 抗てんかん薬
#78.
呼吸性アシドーシス
#79.
呼吸性アシドーシス 診断フローチャート Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. 代謝性の代償が予測範囲か Step 3 Step 4 代謝性アシドーシス・アルカローシス、AG開大の合併を判定 A-aDO2が開大しているか。
#80.
Step 3 ー呼吸性アシドーシスー 代謝性の代償が予測範囲か、AG開大がないか 代謝性の代償の予測範囲を計算する。
呼吸性の場合は、急性と慢性で予測範囲が異なる。通常代謝性の代償は2-5日間でほぼプラトーに達する。 Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. 予想HCO3--=24+1x(PaCO2-40)/10 予想範囲より上回っていれば、代謝性アルカローシスの合併、
予想範囲より下回っていれば、代謝性アシドーシスの合併ということになる。 急性の場合 予想HCO3--=24+4~5x(PaCO2-40)/10 慢性の場合 AGを計算して開大がないか確認する。開大がある場合はAG開大性代謝性アシドーシスの合併を考える。
#81.
Step 4 ー呼吸性アシドーシスー A-aDO2を計算する。 Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. A-aDO2 = (150– PaCO2/0.8)– PaO2 A-aDO2<10 mmHg(高齢者では<20)では肺疾患のない低換気。
A-aDO2>10 mmHg(高齢者では>20)では肺疾患 and/or 換気血流ミスマッチを合併した低換気ということになる。 A-aDO2は肺胞内酸素分圧(PAO2)と動脈血酸素分圧(PaO2)の差(Difference)である。
#82.
A-aDO2 肺胞気動脈血酸素分圧較差 A-aDO2=肺胞内酸素分圧(PAO2) - 動脈血酸素分圧(PaO2) 大気中にはCO2は0.04%しか含まれないため、大気中ではほぼ無視できるレベルである。気道内は湿度100%なので水蒸気分圧は47 mmHgを占める。
0.21×(760-47)=150 mmHg 酸素濃度 大気圧 水蒸気圧 150 – pCO2/0.8 気管内酸素分圧 肺胞内酸素分圧(PACO2) 肺胞内では血液から拡散してくる二酸化炭素分圧が無視できない。肺では二酸化炭素を吐き出して、酸素と交換する。生体では酸素1から二酸化炭素は0.8産生される。これを呼吸商という。したがって、二酸化炭素分圧を酸素分圧に変換するために0.8で割る必要がある。その分減じたものが肺胞内の酸素分圧になる。 呼吸商
#83.
各デバイスの吸入酸素濃度の目安
#84.
呼吸性アシドーシス 鑑別診断 Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. 急性 A-aDO2正常
中枢神経系での呼吸中枢の低下(脳炎、頭部外傷、薬剤(麻薬・睡眠薬、バルビツレート、ベンゾジアゼピン系))
A-aDO2開大
気管支喘息などによる急性の気道閉塞)、肺炎
慢性
A-aDO2正常
神経筋疾患(重症筋無力症、筋萎縮性側索硬化症、ギランバレー症候群、筋ジストロフィー)、脊柱後側弯症
A-aDO2開大
COPD
#85.
代謝性アルカローシス
#86.
代謝性アルカローシス 診断フローチャート Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. 呼吸性の代償が予測範囲か Step 3 Step 4 呼吸性アシドーシス・アルカローシス、AG開大の合併を判定 尿中Cl-の測定 Cl-抵抗性代謝性アルカローシス Cl-反応性代謝性アルカローシス Step 5 尿中K+の測定 尿K+>30 mmol/day 尿K+<30 mmol/day 利尿薬使用、低Mgを除外 下剤使用など Step 6 血圧測定 Gitelman症候群、Bartter症候群 ミネラルコルチコイド過剰 尿Cl >40 尿Cl <25 高血圧 低血圧or正常
#87.
Step 3 ー代謝性アルカローシスー 呼吸性の代償が予測範囲か、AG開大がないか 呼吸性の代償の予測範囲を計算する。 Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. 予想PaCO2 0.7×([HCO3-]-24)+40±2 mmHg 予想範囲より下回っていれば、呼吸性アルカローシスの合併、
予想範囲より上回っていれば、呼吸性アシドーシスの合併ということになる。 簡易的には 予想PaCO2 = [HCO3-]+15(or 16)で考えてもよい。 今井裕一、他。日内会誌 97(5):1044-7, 2008. AGを計算して開大がないか確認する。開大がある場合はAG開大性代謝性アシドーシスの合併を考える。
#88.
Step 4 ー代謝性アルカローシスー Cl-反応性か Cl-投与に反応して改善が見込める病態かそうでないかと判定する。 Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. 尿中 Cl- 測定 Cl-抵抗性代謝性アルカローシスはStep5へ ※ 明らかに胃液喪失や、Cl-排泄を促進する利尿薬の使用があれば尿Cl-は測定する必要はない。
※ 20をカットオフとしている論文もある。
#89.
Step 5 ー代謝性アルカローシスー 尿中K+測定 腎での塩類喪失やミネラルコルチコイド過剰があるかないかを判定する。 Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. 30 mmol/dayがカットオフ 尿K排泄亢進がある場合は腎での塩類喪失やミネラルコルチコイド過剰がある。
尿K排泄低下している場合は下剤などによりCl喪失性の下痢をきたしている場合が挙げられる。 尿K排泄亢進がある場合はStep 6へ。
#90.
Step 6 ー代謝性アルカローシスー 血圧が高いか低いか 塩類喪失があるかないかで原因を判定する。 Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. 血圧測定 血圧高値 ミネラルコルチコイド過剰
血圧正常から低値 Gitelman症候群(低Ca尿症)、Bartter症候群(高Ca尿症)
#91.
代謝性アルカローシス 鑑別診断 Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. Cl反応性 消化液へのH+ or Cl-喪失(嘔吐、胃液吸引、Cl喪失性下痢)
尿中へのH+ or Cl-喪失(利尿薬(ループ利尿薬、サイアザイド利尿薬)、高Ca血症)
Cl抵抗性
尿K低下 下剤使用
尿K増加
血圧低値または正常 Bartter症候群(高Ca尿症)、Gitelman症候群(低Ca尿症)
血圧高値 原発性アルドステロン症、偽性アルドステロン症、Liddle症候群、腎動脈狭窄、レニン産生腫瘍、悪性-加速型高血圧
#92.
呼吸性アルカローシス
#93.
呼吸性アルカローシス 診断フローチャート Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. 代謝性の代償が予測範囲か Step 3 Step 4 代謝性アシドーシス、代謝性アルカローシスの合併の有無を判定 A-aDO2が開大しているか。 呼吸性アシドーシスのフローチャートと同じ
#94.
Step 3 ー呼吸性アルカローシスー 代謝性の代償が予測範囲か、AG開大がないか 代謝性の代償の予測範囲を計算する。
呼吸性の場合は、急性と慢性で予測範囲が異なる。通常代謝性の代償は2-5日間でほぼプラトーに達する。 Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. 予想HCO3-=24-2x(40-PaCO2)/10 予想範囲より上回っていれば、代謝性アルカローシスの合併、
予想範囲より下回っていれば、代謝性アシドーシスの合併ということになる。 急性の場合 予想HCO3-=24-4~5x(40-PaCO2)/10 慢性の場合 AGを計算して開大がないか確認する。開大がある場合はAG開大性代謝性アシドーシスの合併を考える。 Δ[HCO3-]=24-[HCO3-]
ΔpCO2=40-pCO2
#95.
Step 4 ー呼吸性アルカローシスー A-aDO2を計算する。 Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. A-aDO2 = (150– PaCO2/0.8)– PaO2 A-aDO2<10 mmHg(高齢者では<20)では肺疾患のない過換気。
A-aDO2>10 mmHg(高齢者では>20)では肺疾患 and/or 換気血流ミスマッチを合併した過換気ということになる。 A-aDO2は肺胞内酸素分圧(PAO2)と動脈血酸素分圧(PaO2)の差(Difference)である。
#96.
呼吸性アルカローシス 鑑別診断 Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. 急性 A-aDO2正常
痛み、不安、発熱、脳卒中、髄膜炎、外傷、重症貧血、サリチル酸中毒
A-aDO2開大
肺炎、肺水腫、肺塞栓、誤嚥、心不全、敗血症
慢性
A-aDO2正常
妊娠、甲状腺機能亢進症、肝不全
A-aDO2開大
妊婦での肺塞栓、誤嚥性肺炎を伴う肝不全
#97.
代償計算式まとめ Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. 代謝性アシドーシス ① PaCO2=1.5x[HCO3-]+8±2 代謝性アルカローシス ① PaCO2=0.7x( [HCO3-]-24)+40±2 ② PaCO2= [HCO3-]+15 ③ PaCO2=0.7x[HCO3-]+20 ② PaCO2= [HCO3-]+15 or or or 呼吸性アシドーシス 急性 HCO3--=24+1x(PaCO2-40)/10 慢性 HCO3--=24+4~5x(PaCO2-40)/10 呼吸性アルカローシス 急性 HCO3-=24-2x(40-PaCO2)/10 慢性 HCO3-=24-4~5x(40-PaCO2)/10
#98.
具体例
#99.
Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. 具体例① 症例 22歳 女性
交通外傷で受診。6Lの生理食塩水投与後。 Step 1 pH < 7.28なのでアシデミア
Step 2 HCO3- <18 なので代謝性アシドーシス。
Step 3 呼吸性の代償はPaCO2=1.5x18+8±2=33~37なので呼吸性アシドーシスの合併がある。
Step 4 AGは2と開大なし。むしろ低い。原因は不明。 A-aDO2 開大なし。
Step 5 なし
Step 6 尿AG=-30 と尿への酸排泄は正常。腎以外の要因。今回の場合は大量の生理食塩水輸液による。
診断 AG非開大性代謝性アシドーシス + 呼吸性アシドーシス
#100.
具体例② 症例 50歳 女性
最近血圧が上がってきた。 Step 1 pH > 7.42なのでアルカレミア。
Step 2 HCO3- >26 なので代謝性アルカローシス。
Step 3 呼吸性の代償はPaCO2=0.7xΔHCO3-+40±2なので43~47なので呼吸性アルカローシスは境界域。AGは15と大きな開大なし。 診断 代謝性アルカローシス 代謝性アルカローシスと低K血症では嘔吐と利尿薬使用を常にルールアウトする必要がある。嘔吐では尿中Clは低下する。 Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014.
#101.
具体例③ 症例 22歳 男性
感染性胃腸炎で大量の水様性下痢、嘔吐がある。 Step 1 pH > 7.42なのでアルカレミア。
Step 2 HCO3- >26 なので代謝性アルカローシス。
Step 3 呼吸性の代償はPaCO2=0.7xΔHCO3-+40±2なので48~52。呼吸性アルカローシスの合併がある。AGは16と軽度開大。 診断 代謝性アルカローシス + 呼吸性アルカローシス
± AG開大性代謝性アシドーシス 代謝性アルカローシスの場合、特に嘔吐や利尿薬利用ではAGは4~6程度増加することがある。理由はアルブミン濃度上昇とその陽子放出が増加するためと考えられている。 Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. Jeffley A Kraut, et al. Clin J Am Soc Nephrol. 2(1):162-74, 2007.
#102.
具体例④ 症例 48歳 男性
1型糖尿病の既往があり嘔吐があって受診。 ※cAG; アルブミン補正AG Step 1 pH > 7.42なのでアルカレミア
Step 2 PaCO2<38 呼吸性アルカローシス、 HCO3- >26 代謝性アルカローシス
ともに満たす。
Step 3 呼吸性アルカローシスとした場合、ΔPaCO2=8なのでHCO3-は急性なら1.6、慢性なら3.2~4の低下がある。代償範囲を超えるため代謝性アルカローシスも存在する。AGは26.5と開大しており、AG開大性代謝性アシドーシスの合併もある。 診断 呼吸性アルカローシス+代謝性アルカローシス+AG開大性代謝性アシドーシス この場合AGを計算しないとAG開大性代謝性アシドーシスの合併はキャッチできない。
#103.
具体例⑤ 症例 54歳 男性
肝硬変。腹水穿刺目的に入院。 ※cAG; アルブミン補正AG 診断 慢性呼吸性アルカローシス、I型呼吸不全 肝硬変では肝でのプロゲステロン代謝が減少し、中枢神経系でのプロゲステロン受容体の刺激が増加し、頻呼吸を誘導する。低酸素は肺肝症候群によるものと考えられる。この場合、立位で増悪、臥位で軽快する。 Kenrick Berend. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2018. Step 1 pH > 7.42なのでアルカレミア
Step 2 PaCO2<38 呼吸性アルカローシス、
Step 3 ΔPaCO2=10なのでHCO3-は急性なら2 (HCO3- :22) 、慢性なら4~5 (HCO3- :19~20)の低下がある。慢性としては代償の範囲。補正AGは10.8と正常。A-aDO2 32.2と開大。
#104.
具体例⑥ 症例 86歳 男性
脳卒中による呼吸不全で入院。 Step 1 pH < 7.42なのでアシデミア
Step 2 PaCO2>38 なので呼吸性アシドーシス
Step 3 ΔPaCO2=46なのでHCO3-は急性なら4.6(HCO3- :28.6)、慢性なら18.4~23 (HCO3- :42.4~47)の上昇がある。慢性としては代償の範囲だがやや低めであり、代謝性アシドーシスの合併もある可能性がある。未補正AGは6.7と低下。 診断 慢性呼吸性アシドーシス ± 代謝性アシドーシス Kenrick Berend. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2018.
#105.
Base Excess Approach
#106.
Base Excess Approach 前述のようにpCO2が40 mmHgであったときのpHを7.4にするのに必要な酸の量を示したものがBase Excessである。 呼吸性の影響を除いた代謝性の変化をすぐに判定することが可能なこと、また正常のpH 7.4に戻すのに必要な酸/アルカリの量がわかるなどの利点がある。 病態を解釈することはできないわけではないが、計算や解釈がやや複雑なため病態解釈が苦手である。
一方でSBE自体はすぐに得られるため、救急領域では外傷・出血によるhypovolemic shockの鋭敏な指標となったり、計算さえすればPhysiological Approachでは得られない情報もあるなど、利用できる場面は多い。 解釈の流れはPhysiological Approachと同じだが使用するパラメーターが違う。
#107.
Base Excess Approachの用語 SBE、BEst or BEecf
Standard Base Excessで細胞外液を血管内・間質のしきりをなくして一つのプールとして考えたときの塩基過剰を推定したもの。赤血球や間質液自体にBuffer作用があるため。酸塩基平衡解釈で使用するものはこれ。 BEB or actual BE
血液の組成での塩基過剰を推定したもの。Transatlantic debateで批判されたもの。普通使用しない。 actual HCO3- , cHCO3- , HCO3- act
Henderso-Hasselbachの式で計算されたHCO3- 。 Standard HCO3- , stHCO3- , HCO3- stand
pCO2が40 mmHgとしたときのHCO3-の値。
※呼吸性アシドーシスの時は代謝性の代償が働き、cHCO3の方が高くなっていることを利用して鑑別に使用できる、があまり使わない。
#108.
Base Excess Approachの用語 SBE、BEst or BEecf
Standard Base Excessで細胞外液を血管内・間質のしきりをなくして一つのプールとして考えたときの塩基過剰を推定したもの。赤血球や間質液自体にBuffer作用があるため。酸塩基平衡解釈で使用するものはこれ。 BEB or actual BE
血液の組成での塩基過剰を推定したもの。Transatlantic debateで批判されたもの。普通使用しない。 actual HCO3- , cHCO3- , HCO3- act
Henderso-Hasselbachの式で計算されたHCO3- 。 Standard HCO3- , stHCO3- , HCO3- stand
pCO2が40 mmHgとしたときのHCO3-の値。
※呼吸性アシドーシスの時は代謝性の代償が働き、cHCO3の方が高くなっていることを利用して鑑別に使用できる、があまり使わない。 ちなみに血ガス測定器を販売している大手のRadiometer社はコペンハーゲンの会社です。
ですので、血ガスの結果の表記では、これらが使われていることが多いですよね。
#109.
BE関連の計算式まとめ Kenrick Berend. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2018.
#110.
Base Excessの考え方の確認 pCO2が40 mmHgであったときにpH:7.40にするのに必要な酸の量がBase Excessである。 代謝性の酸塩基平衡の変化に応じて呼吸性の代償が起こるが、呼吸性の代償は数時間でプラトーに達する。
呼吸性の酸塩基平衡異常に対して、代謝性の代償には2~5日間かけてプラトーに達する。 したがって、呼吸性の変化が起きたばかりの時で代謝性の代償が追い付いていないときは、BEは変化しない、ということが言える。
Base Excessの値から逆に呼吸性の変化を急性か慢性かパッと判定することができる。ここは利点と考えられる。
#111.
Step 1 原発性の酸塩基平衡異常を決定する。 ここはPhysiological Approachと同じ。
pHの正常値は7.38-7.42。文献により正常値の幅は違うが大きく共通しているのは、pH:7.40を中央値として+/-いくつという書き方である。
pHが7.38より下か7.42より上かで、原発性の酸塩基平衡異常を判断する。
いいかえると血液がアシデミアかアルカレミアか。 Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. アシドーシス/アルカローシスは血液を酸性/アルカリ性に傾ける病態を指し、両者は混在することがあるため、最終的に血液が酸性かアルカリ性かはアシデミア、アルカレミアで表現します。 pH
HCO3-
pCO2 7.38-7.42
22-26
38-42
mEq/L
mmHg 各パラメーターの基準域基準域 再掲
#112.
Step 2 呼吸性か代謝性か 呼吸性か代謝性かを判定する。これもPhysiological Approachと変わらないが、使用するパラメーターが違う。 Kenrick Berend. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2018. pH<7.38 pH>7.42 アシデミア アルカレミア 代謝性アシドーシス 呼吸性アシドーシス 呼吸性アルカローシス 代謝性アルカローシス SBE<-2 SBE>2 pCO2>42 pCO2<38 pHを見る
#113.
代謝性アシドーシス
#114.
代謝性アシドーシス 診断フローチャート 呼吸性の代償が予測範囲か Step 3 Step 4 呼吸性アシドーシス、呼吸性アルカローシスの合併の有無を判定 Anion Gapが開大しているか AG開大性アシドーシス AG開大性アシドーシスのみでよいか。 Step 5-1 AG非開大性アシドーシス合併の判定 AG非開大性アシドーシス 浸透圧ギャップを調べる。 Step 5-2 未知のAG開大性アシドーシスの場合調べる。 尿中AGが正か負か。 Step 6 尿での酸排泄能力を調べる。 尿浸透圧ギャップを調べる。 Step 6 尿AGで判定できない病態も判定可能。 Kenrick Berend. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2018. SBEの構成要素に分解解析する。 or
#115.
代謝性アシドーシス 診断フローチャート 呼吸性の代償が予測範囲か Step 3 Step 4 呼吸性アシドーシス、呼吸性アルカローシスの合併の有無を判定 Anion Gapが開大しているか AG開大性アシドーシス AG開大性アシドーシスのみでよいか。 Step 5-1 AG非開大性アシドーシス合併の判定 AG非開大性アシドーシス 浸透圧ギャップを調べる。 Step 5-2 未知のAG開大性アシドーシスの場合調べる。 尿中AGが正か負か。 Step 6 尿での酸排泄能力を調べる。 尿浸透圧ギャップを調べる。 Step 6 尿AGで判定できない病態も判定可能。 Kenrick Berend. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2018. SBEの構成要素に分解解析する。 or Step 3で使用するパラメーターは異なるが、Step 4以降はPhysiological Approachと同じでHCO3-を使用したdelta-deltaを計算して検討する。※したがってStep4 AG以降は省略
#116.
Step 3 ー代謝性アシドーシスー 呼吸性の代償が予測範囲か 呼吸性の代償の予測範囲を計算する。 予想pCO2 ΔpCO2 = SBE 予想より下回っていれば、呼吸性アルカローシスの合併、
予想より上回っていれば、呼吸性アシドーシスの合併ということになる。 Kenrick Berend. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2018. 予想pCO2が・・・ 総じてBE Approachの方が代償の計算は楽である。
#117.
Step 4 ーSBE構成要素の分解解析ー Kenrick Berend. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2018. 上記を計算して、各要素における酸塩基平衡への影響度をみて病態解析につなげる。
SBEを構成要素に分解する際に参考にされた考え方は、Stewart approachの考え方を応用したものである。
酸塩基平衡に影響を与える要素がどの程度SBEに影響を与えているかと解析し、必要な治療へ応用可能である。 B M Glifix, et al. J Crit Care. 8(4):187-97, 1993.
#118.
呼吸性アシドーシス
#119.
呼吸性アシドーシス 診断フローチャート 代謝性の代償が予測範囲か Step 3 Step 4 代謝性アシドーシス、代謝性アルカローシスの合併の有無を判定 AGを計算するか、SBEの構成要素に分解解析する。 Kenrick Berend. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2018. AGを計算して正常範囲ならチャートは終了で、開大しているようならAG開大性アシドーシスに準じて鑑別を進める。 ※Step4以降は省略
#120.
Step 3 ー呼吸性アシドーシスー 代謝性の代償が予測範囲か 代謝性の代償の予測範囲を計算する。
呼吸性の場合は、急性と慢性で予測範囲が異なる。通常代謝性の代償は2-5日間でほぼプラトーに達する。 Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. SBE = 0±2 予想範囲よりSBEが上回っていれば、代謝性アルカローシスの合併、
予想範囲よりSBEが下回っていれば、代謝性アシドーシスの合併
ということになる。 急性の場合 慢性の場合 SBE = 0.4 x (PaCO2-40)
#121.
代謝性アルカローシス
#122.
代謝性アルカローシス 診断フローチャート Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. 呼吸性の代償が予測範囲か Step 3 Step 4 呼吸性アシドーシス、呼吸性アルカローシスの合併の有無を判定 AGを計算して正常範囲ならチャートは終了で、開大しているようならAG開大性アシドーシスに準じて鑑別を進める。 ※Step4以降は省略 AGを計算するか、SBEの構成要素に分解解析する。
#123.
Step 3 ー代謝性アルカローシスー 呼吸性の代償が予測範囲か 呼吸性の代償の予測範囲を計算する。 Kenrick Berend, et al. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2014. 予想範囲より下回っていれば、呼吸性アルカローシスの合併、
予想範囲より上回っていれば、呼吸性アシドーシスの合併ということになる。 今井裕一、他。日内会誌 97(5):1044-7, 2008. 予想pCO2 ΔpCO2 = 0.6 x SBE 予想pCO2が・・・
#124.
呼吸性アルカローシス 診断フローチャート 代謝性の代償が予測範囲か Step 3 Step 4 代謝性アシドーシス、代謝性アルカローシスの合併の有無を判定 Kenrick Berend. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2018. 呼吸性アシドーシスのフローチャートと同じ AGを計算するか、SBEの構成要素に分解解析する。
#125.
呼吸性アルカローシス
#126.
Step 3 ー呼吸性アルカローシスー 代謝性の代償が予測範囲か 代謝性の代償の予測範囲を計算する。
呼吸性の場合は、急性と慢性で予測範囲が異なる。通常代謝性の代償は2-5日間でほぼプラトーに達する。 SBE = 0±2 予想範囲よりSBEが上回っていれば、代謝性アルカローシスの合併、
予想範囲よりSBEが下回っていれば、代謝性アシドーシスの合併
ということになる。 急性の場合 慢性の場合 SBE = 0.4 x (PaCO2-40) Kenrick Berend. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2018.
#127.
代償計算式まとめ 代謝性アシドーシス ΔPaCO2=SBE 代謝性アルカローシス ΔPaCO2=0.6xSBE 呼吸性アシドーシス/アルカローシス共通 急性 SBE=0±2 慢性 SBE=0.4x(PaCO2-40)
#128.
具体例
#129.
具体例④ 症例 48歳 男性
1型糖尿病の既往があり嘔吐があって受診。 ※cAG; アルブミン補正AG Step 1 pH > 7.42なのでアルカレミア
Step 2 PaCO2<38 呼吸性アルカローシス、 HCO3- >26 代謝性アルカローシス
ともに満たす。
Step 3 呼吸性アルカローシスとした場合、ΔPaCO2=8なのでHCO3-は急性なら1.6、慢性なら3.2~4の低下がある。代償範囲を超えるため代謝性アルカローシスも存在する。AGは26.5と開大しており、AG開大性代謝性アシドーシスの合併もある。 診断 呼吸性アルカローシス+代謝性アルカローシス+AG開大性代謝性アシドーシス この場合AGを計算しないとAG開大性代謝性アシドーシスの合併はキャッチできない。 再掲
#130.
具体例④ ~BE approach~ Kenrick Berend. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2018. ※cAG; アルブミン補正AG 症例 48歳 男性
1型糖尿病の既往があり嘔吐があって受診。 Step 1 pH > 7.42なのでアルカレミア
Step 2 PaCO2<38 呼吸性アルカローシス、 SBE>2 代謝性アルカローシス
ともに満たす。
Step 3 呼吸性アルカローシスとした場合、予想SBE=0.4x-8で-3.2となり、予想SBEより高いため代謝性アルカローシスの合併もあり、代謝性アルカローシスとした場合、予想ΔPaCO2は0.6x4.7で2.82で42だが実際は32で呼吸性アルカローシスの合併もあり、となる。AGは26.5と開大しており、AG開大性代謝性アシドーシスの合併もある。 診断 呼吸性アルカローシス+代謝性アルカローシス+AG開大性代謝性アシドーシス こちらもAGを計算しないとAG開大性代謝性アシドーシスの合併はキャッチできない。
#131.
具体例④ SBEの分解解析 Kenrick Berend. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2018. 症例 48歳 男性
1型糖尿病の既往があり嘔吐があって受診。 BEは“塩基過剰”なので+がアルカローシス、ーがアシドーシスの要因となっている。
Cl喪失によるアルカローシスの影響が大きい。また非算出Anionによるアシドーシスの影響も大きく、この場合ケトン体の影響となる。したがってCl喪失性アルカローシスとケトン体によるアシドーシスが主なSBEの構成要素となっている。
#132.
具体例⑤ 症例 54歳 男性
肝硬変。腹水穿刺目的に入院。 Step 1 pH > 7.42なのでアルカレミア
Step 2 PaCO2<38 呼吸性アルカローシス、
Step 3 ΔPaCO2=10なのでHCO3-は急性なら2 (HCO3- :22) 、慢性なら4~5 (HCO3- :19~20)の低下がある。慢性としては代償の範囲。補正AGは10.8と正常。A-aDO2 32.2と開大。 診断 慢性呼吸性アルカローシス、I型呼吸不全 肝硬変では肝でのプロゲステロン代謝が減少し、中枢神経系でのプロゲステロン受容体の刺激が増加し、頻呼吸を誘導する。低酸素は肺肝症候群によるものと考えられる。この場合、立位で増悪、臥位で軽快する。 Kenrick Berend. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2018. 再掲
#133.
具体例⑤ ~BE approach~ 症例 54歳 男性
肝硬変。腹水穿刺目的に入院。 診断 慢性呼吸性アルカローシス、I型呼吸不全 肝硬変では肝でのプロゲステロン代謝が減少し、中枢神経系でのプロゲステロン受容体の刺激が増加し、頻呼吸を誘導する。低酸素は肺肝症候群によるものと考えられる。この場合、立位で増悪、臥位で軽快する。 Kenrick Berend. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2018. Step 1 pH > 7.42なのでアルカレミア
Step 2 PaCO2<38 呼吸性アルカローシス、
Step 3 PaCO2-40=-10なので0.4かけてSBEは‐4と予想される。ほぼ予想通り。補正AGは10.8と正常。A-aDO2 32.2と開大。
#134.
具体例⑤ SBEの分解解析 症例 54歳 男性
肝硬変。腹水穿刺目的に入院。 Kenrick Berend. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2018. Cl過剰によるアシドーシス、次いでNa低下(もしくは希釈)によるアシドーシスの影響がある。
体液過剰なら自由水排泄優位の管理、Cl制限、Albを増加する方向で管理がよさそうかなという印象。
ただ代償は正常なので、ほどほどに。
#135.
具体例⑥ 症例 86歳 男性
脳卒中による呼吸不全で入院。 Step 1 pH < 7.38なのでアシデミア
Step 2 PaCO2>38 なので呼吸性アシドーシス
Step 3 ΔPaCO2=46なのでHCO3-は急性なら4.6(HCO3- :28.6)、慢性なら18.4~23 (HCO3- :42.4~47)の上昇がある。慢性としては代償の範囲だがやや低めであり、代謝性アシドーシスの合併もある可能性がある。未補正AGは6.7と低下。 診断 慢性呼吸性アシドーシス ± 代謝性アシドーシス Kenrick Berend. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2018. 再掲
#136.
具体例⑥ ~BE approach~ 症例 86歳 男性
脳卒中による呼吸不全で入院。 Step 1 pH < 7.38なのでアシデミア
Step 2 PaCO2>38 なので呼吸性アシドーシス
Step 3 予想SBEは0.4x(86-40)/10で18.4。予想SBEと近いが実測はやや低めで代謝性アシドーシスの合併もある可能性がある。未補正AGは6.7と低下。 診断 慢性呼吸性アシドーシス ± 代謝性アシドーシス Kenrick Berend. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2018.
#137.
具体例⑥ SBEの分解解析 症例 86歳 男性
脳卒中による呼吸不全で入院。 Kenrick Berend. N Engl J Med. 371(15):1434-45, 2018. Cl喪失によるアルカローシスがSBEに大きな影響を与えている。
Cl投与の方向で管理がよさそうかなという印象。
#138.
Stewart Approach
#139.
これまでの解釈法の問題点 1950年代に重炭酸イオンを中心に置いた酸塩基平衡の解釈法が主流となった。この解釈法は安定した状態ではよく機能した。
しかし、Van Slykeは犬に硫酸を投与する実験を行い、投与された酸はヘモグロビンで30%、組織細胞で40%、細胞外HCO3-で中和されたのはわずか30%に過ぎなかったと報告している。急性の変化では重炭酸緩衝系のみで体内の酸塩基の変化を捉えられるものではない可能性が認識されていた。 R Kishen, et al. Int J Nephrol Renovasc Dis. 7:209-17, 2014. Physiological Approachでは他の弱酸の影響を完全に無視しているという大きな欠点がある。一方Base Excess Approachではその計算式は標準的な体液組成を前提にしており、低アルブミン血症や低リン血症などの時には信頼性に欠けることが指摘されている。
#140.
Stewart’s Approach Stewart’s Approachでは以下の法則を前提にしている。 (Physicochemical Approach) R Kishen, et al. Int J Nephrol Renovasc Dis. 7:209-17, 2014. 電気的中性の法則・・・陽イオンと陰イオンのそれぞれの総和は常に同じ。
質量保存の法則・・・溶液中の物質の量は加えたり、取り除かれたり、破棄されたりしなければ一定である。
質量作用の法則・・・すべての弱イオンの解離平衡定数は常に一定 上記を踏まえ、StewartはpHを規定する因子として以下の3つの項目を独立した変数とした。 CO2・・・HCO3-は依存的な変数。
強酸・・・より詳しくは強酸の陽イオンと陰イオンの差(SID;Strong Ion Difference)。
不揮発性弱酸の総和・・・アルブミン、グロブリンや無機リンなど。ATOTと表記。
#141.
平衡定数 ここで電離平衡に関して再度触れる。 [H+] + [A-] [HA] María M Adeva-Andany, et al. Biomed Res Int. 2014:695281, 2014. [HA] Ka= [H+] [A-] このとき、Kaを平衡定数とする以下の式が成り立つ。 この式を[H+] で解いて、対数にすると [HA] =pKa pH [A-] +log
#142.
平衡定数 log1 =0なので、[A-]=[HA]のとき、pH = pKaとなる。そのためpHがpKaに近いほど緩衝能力が高いことになる。 María M Adeva-Andany, et al. Biomed Res Int. 2014:695281, 2014. [HA] =pKa pH [A-] +log 生体でのpHは7.4±0.05と厳密にコントロールされているため、例えばpKa=4.0の酸が存在すると生体では、 [HA] =4.0 7.4 [A-] +log となり、 [A-]/[HA]=103.5=3162となり、[HA]はほぼ全て電離している状態となる。
#143.
平衡定数 したがって臨床的には、pKaが4未満を強酸と考えてよく、緩衝能はほぼないとしてよい。体内で存在、産生される主な有機酸(重炭酸、乳酸、ピルビン酸、クエン酸、アセト酢酸、βヒドロキシ酪酸など)はすべて4付近であり、体内では陰イオン状態で存在する。
逆に塩基の場合は、NH4⁺を例にとると、 María M Adeva-Andany, et al. Biomed Res Int. 2014:695281, 2014. [NH4⁺] =pKa pH [NH3] +log となり、このpKaは9.3となる。生体のpH:7.4では、 [NH4⁺] =9.3 7.4 [NH3] +log [NH3]/[NH4⁺] =10-1.9=0.013でほとんどが[NH4⁺] の形で存在している。
#144.
平衡定数一覧 María M Adeva-Andany, et al. Biomed Res Int. 2014:695281, 2014. pKaが7.4に近いHPO42-/H2PO4-は弱酸として生体で緩衝能力を持つ。弱酸としては、ほかに蛋白がありとくにアルブミンが緩衝能をもつ。
#145.
Stewart’s Approach Stewart’s Approachでは血液は電気的に中性であるということが大きな前提となる。
強酸・強塩基は生体ではすべて解離しており、SID(Strong Ion Difference )によるイオン差を埋めるために弱酸が変化し、さらに揮発性で変化しやすいCO2濃度がかみ合って[H+]濃度, [HCO3-]が決まる、というのが基本的な考え方である。 (Physicochemical Approach) R Kishen, et al. Int J Nephrol Renovasc Dis. 7:209-17, 2014. Stewart’s Approachを臨床に応用して考えるポイントとしては以下になると思われる。
電解質やアルブミンの変化がアシドーシス/アルカローシスのどちらの要因となるかイメージをつけることができる。
SIG(Strong ion gap)を計算・利用できる。
電解質・アルブミンの変化によるpHの変化を予測計算できる。
それぞれ解説する。
#146.
SID, strong ion difference SIDは強陽イオンと強陰イオンの差であらわされる。 SID=([Na+]+[K+]+[Ca2+]+[Mg2+])-([Cl-]+[Lac-]) 強陽イオン [Na+]、[K+]、[Ca2+]、[Mg2+] 強陰イオン [Cl-]、[Lac-] 陽イオン Na+ 陰イオン Cl- Lac- Alb- Phos- HCO3- SID 壷井伯彦他, 日集中医誌. 27:185-93, 2020. Ca2+, Mg2+ ※単位はmEq/L
#147.
SID, strong ion difference 壷井伯彦他, 日集中医誌. 27:185-93, 2020. SIDの主要要素は通常状態ではアルブミン、リン酸、HCO3-である。ここに病状により有機酸の蓄積が入ってくるか否かということになる。 アルブミン、リン酸、HCO3-は以下の式であらわされる。 Alb-[mEq/L] = Alb[g/L] x (0.123 x pH-0.631) Phos-[mEq/L] = Phos[mmol/L] x (0.309 x pH-0.469) HCO3-[mEq/L] = 2.46 x 10(pH-8) x PaCO2 したがってSIDが縮小するとpHは低下する(代謝性アシドーシス)方向に動き、逆もまた然りとなる。
低アルブミン血症ではほかの弱酸が増える必要があるため、pHは上昇する方向(代謝性アルカローシス)に働く。
#148.
SIG, strong ion gap さきほどのSID=([Na+]+[K+]+[Ca2+]+[Mg2+])-([Cl-]+[Lac-])をapparent SID (SIDa)といい、SIDの主要因子の[Alb-]+[Phos-]+[HCO3-]をeffective SID(SIDe)として
SIG = SIDa – SIDeであらわされる。(基準値は5 mEq/L未満)
陽イオン Na+ 陰イオン Cl- Lac- Alb- Phos- HCO3- SIDa SIG SIDe SIGの拡大は測定されない陰イオンの蓄積(多くは有機酸)を意味しており、AGと似た概念になる。しかしAlbやLacは計算に入っており、補正を必要とせず、より感度が高い。 Ca2+, Mg2+
#149.
各パラメーターの計算式 ※Caはion Caを使用する方がよく、その場合はx2
#150.
近未来のpHの変化を予測 Stewart Approachの基本的な考え方は、血液は電気的に中性ということである。したがって以下の式が成り立つ。 壷井伯彦他, 日集中医誌. 27:185-93, 2020. ([Na+]+[K+]+[Ca2+]+[Mg2+])
-([Cl-]+[Lac-]+[Alb-]-[Phos-]+[HCO3-]+[SIG])
=0 SIGは近未来では変化がないと仮定して、弱酸であるAlb、Phos、HCO3-以外の値を入力する。[Alb-]-[Phos-]+[HCO3-]は先に触れたようにpHにより変化するため、この式を満たすpHを探せばいいことになる。 ExcelのGoal Seek機能を使用した方法が紹介されているので下記参考文献を参照していただければと思います。 ※単位はmEq/L
#151.
■Stewart Approachの利点
酸塩基の動くベクトルと電解質・アルブミンの変化を結びつけることができる。
Alb輸血したらpHがどうなるかなど、近未来のpHの変化を計算することができる。 Stewart’s Approachの利点・欠点 ■Stewart Approachの欠点
使用する検査項目が多い。
ベッドサイドで利用するには計算が煩雑。
病態理解にはあまり結びつきにくい。
#152.
症例
#153.
症例① 77歳 男性 【主訴】
嘔吐
【現病歴】
入院3週間前に直腸癌で直腸切除術を施行された。
入院10日前に退院した。入院5日前から嘔気があった。
入院2日前から1日3回嘔吐した。入院日に外科外来受診に来院したところ、タクシーから降りたところで前のめりに倒れこみ、救急外来へ搬送された。
CT撮影したところ癒着性イレウスの診断で同日入院。
【既往歴】
大腸がん術後
#154.
症例① 77歳 男性 【内服薬】
なし
【身体所見】
164 cm 61.4 kg
BP:109/73 HR:106
口腔内乾燥、腹部膨満、四肢浮腫なし
【胸部Xp】
CTR 38.5%、CPA:sharp
【体幹部CT】
腸閉塞
胸水貯留なし、水腎なし、IVC虚脱
#155.
症例① 77歳 男性 [生化学]
TP
Alb
BUN
Cr
UA
Na
K
Cl
Ca
iP
Mg
mg/dL
mg/dL
mg/dL
mg/dL
mg/dL
mEq/L
mEq/L
mEq/dL
mg/dL
mg/dL
mg/dL
7.7
4.1
65.2
4.79
13.7
139
2.9
75
8.2
8.1
1.8 [尿]
比重
BUN
Cr
UA
Na
K
Cl
浸透圧
mg/dL
mg/dL
mg/dL
mEq/L
mEq/L
mg/dL
mOsm/kg
1.030
343.4
124.7
84.2
55
46.3
20
383
[動脈血ガス]
pH
pO2
pCO2
HCO3
SBE
Lac
mmHg
mmHg
mmol/L
mmol/L
mmol/L
7.497
92.3
46.5
35.2
10.5
8.2
#156.
Physiological Approach Step 0 イレウスによる嘔吐 ➡代謝性アルカローシス
高度腎不全 ➡代謝性アシドーシス、AG開大、非開大どちらもありえる。
高度脱水 ➡代謝性アルカローシス、Type A 乳酸アシドーシス
腸液多量 ➡代謝性アシドーシス
食事摂取不良 ➡ケトーシス Step 1 pH:7.497 >7.42 ➡ アルカレミア Step 2 HCO3- 35.2>26 ➡ 代謝性アルカローシス Step 3 予想PaCO2 0.7x(35.2-24)+40+/-2 = 45.8~49.8
➡代償範囲内
AG =139-75-35.2=28.8 ➡AG開大代謝性アシドーシスの合併 Step 4 尿中Cl 20<25 ➡ Cl反応性代謝性アルカローシス 診断 Cl反応性代謝性アルカローシス+AG開大性代謝性アシドーシス
#157.
Base Excess Approach Step 1 pH:7.497 >7.42 ➡ アルカレミア Step 2 SBE 10>2 ➡ 代謝性アルカローシス Step 3 予想ΔPaCO2 0.6x10 = 6
➡代償範囲内
AG =139-75-35.2=28.8 ➡AG開大代謝性アシドーシスの合併 診断 Cl反応性代謝性アルカローシス+AG開大性代謝性アシドーシス
#158.
Stewart Approach SID 62.2 mmol/L
SIG 20.9 mmol/L
SIGが拡大しており、非測定陰イオンの蓄積が存在する。
#159.
症例② 93歳 女性 【主訴】
意識障害
【現病歴】
入院1週間前から傾眠、脱力、水分が取れなくなっていた。
入院2日前に近医受診BP:110/62、SpO2:97%、HR:86で補液されたものの状態悪化したため入院日に救急外来受診。
【既往歴】
高血圧、(未治療)糖尿病、狭心症、心不全、骨粗しょう症
#160.
【内服薬】
アルジオキサ、メコバラミン、ハイペン、エペリゾン、トコフェロール、マグミット、ニセルゴリン、リクシアナ、ジゴシン、フロセミド、タケキャブ
【身体所見】
153 cm 50.5 kg
BP:122/56 HR:122
四肢浮腫なし
【胸部Xp】
CTR 53%、CPA:sharp 症例② 93歳 女性
#161.
[生化学]
TP
Alb
BUN
Cr
UA
Na
K
Cl
Ca
iP
Mg
mg/dL
mg/dL
mg/dL
mg/dL
mg/dL
mEq/L
mEq/L
mEq/dL
mg/dL
mg/dL
mg/dL
7.3
3.0
109.9
2.43
10.3
182
6.6
136
9.8
7.7
4.0 [尿]
比重
ケトン
BUN
Cr
Na
K
Cl
浸透圧
mg/dL
mg/dL
mEq/L
mEq/L
mg/dL
mOsm/kg
1.024
(-)
485.5
54.82
27
79.7
34
671
[動脈血ガス]
pH
pO2
pCO2
HCO3
SBE
Lac
mmHg
mmHg
mmol/L
mmol/L
mmol/L
7.394
88.9
30.9
18.5
-5.1
5.4 症例② 93歳 女性
#162.
Physiological Approach Step 0 高度腎不全 ➡代謝性アシドーシス、AG開大、非開大どちらもありえる。
高度脱水 ➡代謝性アルカローシス、Type A 乳酸アシドーシス Step 1 pH:7.394 ➡ アルカレミアでもアシデミアでもない。 Step 2 HCO3- 18.5>22 ➡ 代謝性アシドーシス Step 3 予想PaCO2 1.5x18.5+8+/-2 = 33.8~37.8
➡呼吸性アルカローシスの合併
AG =182-136-18.5=27.5(補正AG:30)
➡AG開大代謝性アシドーシスの合併 Step 4 補正HCO3:36.5、ΔーΔ:12.5、ΔAG/ΔHCO3:3.3
➡代謝性アルカローシスの合併 診断 AG開大性代謝性アシドーシス+呼吸性&代謝性アルカローシス
#163.
Base Excess Approach Step 1 pH:7.394 ➡ アルカレミアでもアシデミアでもない。 Step 2 SBE -5.1<-2 ➡ 代謝性アシドーシス Step 3 予想ΔPaCO2 SBE :-5.1
➡呼吸性アルカローシスの合併
AG =182-136-18.5=27.5(補正AG:30)
➡AG開大代謝性アシドーシス 診断 AG開大性代謝性アシドーシス+呼吸性アルカローシス
#164.
Stewart Approach SID 53.2 mmol/L
SIG 24.5 mmol/L
SIGが拡大しており、非測定陰イオンの蓄積が存在する。
#165.
酸塩基の解釈方法は現在大きく3つありますが、Step by Stepで繰り返し行えばだれでもできるようになり、病態解釈も理解しやすいため、やはり基本的な考え方はPhysiological Approachになると思います。
Base Excess ApproachのPartitioning SBEの情報はPhysiological Approachとは違った視点であり、臨床的な情報として役に立つ可能性があると思います。
Stewart Approachではやはり病態解釈は難しく、SIGは感度が高いという利点と酸塩基の動くベクトルを認識するという役割にとどまるケースが多いのかなという気もしています。
ただ、いずれの方法が間違っていることはなく、断片的にでも臨床で必要な視点で利用しやすい、考えやすいものを使用するというスタンスで臨床の幅を広げるのがよいと思います。 おわりに