#4.
1.せん妄
#5.
やまとのチーム医療|物語をつむぐ「在宅医療PA®」 早期発見と予防戦略 この章では、せん妄の複雑な側面に 深く踏み込みます。その診断基準、 効果的な予防戦略、そして最適な治 療介入について学び、患者ケアの質 の向上を目指します。
#6.
やまとのチーム医療|物語をつむぐ「在宅医療PA®」 せん妄と認知症の鑑別点 項目 せん妄 認知症 意識障害 あり なし 発症 急性 慢性・進行性 経過 短期間 長期間 日内変動 著明 経鼻 認知症患者は容易にせん妄を併発するため、「せ ん妄」か「 BPSD 」か、あるいは「 BPSD +せん 妄」の併発を疑う必要がある。
#7.
やまとのチーム医療|物語をつむぐ「在宅医療PA®」 せん妄発症の3因子:リスクの引き算 せ ん 妄 対 策 は 「 リ ス ク の 引 き 算 」 と 考 える こ と が 基 本 で ある。せん妄は「火」に例えられ、火が燃え広がるため の3因子を理解し、それぞれに対応する必要がある。 準備因子(薪) 直接因子(ライター) 高 齢 ( 70 歳 以 上 )、 認 知 症 、 脳 器 質 的 障 害 な ど、 す で に 患 者に備わった因子。除去困難 だが、リスク評価に重要。 身体疾患(感染症、電解質異 常)や薬剤。積極的な治療と 薬剤調整により除去可能。 促進因子(油) 環境変化、不眠、疼痛などの身体的・精神的苦 痛。看護ケアにより軽減可能。
#8.
やまとのチーム医療|物語をつむぐ「在宅医療PA®」 せん妄ハイリスク薬と回避戦略 最も注意すべき薬剤群 せん妄予防では、ライター(直接因子)を取り除くことが重要である。特にベンゾジアゼピン受 容体作動薬(BZ受容体作動薬)は、せん妄の直接因子となる最もリスクの高い薬剤である。 BZ受容体作動薬の問題 不眠対策として使用されることが多い が、かえってせん妄を誘発する。高齢者 では特に注意が必要である。 抗コリン作用薬剤 抗ヒスタミン薬、三環系抗うつ薬、一部 の抗精神病薬など。累積的な抗コリン負 荷がせん妄リスクを高める。
#9.
やまとのチーム医療|物語をつむぐ「在宅医療PA®」 せん妄の予防的介入:非薬物療法 01 02 03 全身状態の安定化 見当識の維持 生活リズムの調整 脱 水 予 防 、 電 解 質 バ ラ ンス の維持、疼痛管理の徹底。 バ イタ ル サ イ ン の 安 定 が 基 盤となる。 時計・カレンダーの設置、 馴染みのある物品の配置。 自宅からの持参物が安心感 をもたらす。 睡眠・覚醒リズムの維持、 日中の活動促進、夜間の良 質な睡眠確保。
#10.
やまとのチーム医療|物語をつむぐ「在宅医療PA®」 せん妄に対する薬剤投与のタイミング 「ぼや」で消す重要性 薬物治療は、興奮が強くなる前の「ぼや」の段階で消火する こ と が 大 切 で あ る 。「 大 火 事 」 に な って か らで は 大 量 の 薬 剤 が必要となり、副作用のリスクも高まる。 定時薬投与の原則:模様のない白い食器を使用し、 視覚的な混乱を最小限に抑える工夫が重要である。 症状の程度に応じた段階的な薬剤調整により、最小限の薬剤 で最大の効果を得ることができる。
#11.
やまとのチーム医療|物語をつむぐ「在宅医療PA®」 不眠対策とBZ受容体作動薬回避 不眠を放置するとせん妄の促進因子(油)となるため、積極的にアプローチする必要が ある。しかし、BZ受容体作動薬の使用は徹底して避ける。 推奨される代替薬剤 トラゾドン 抗うつ薬だが低用量で鎮静効果 エスゾピクロン 非BZ系睡眠薬、依存性が低い オレキシン受容体拮抗薬 スボレキサント、レンボレキサント こ れ ら の 薬 剤 を 不 眠 時 指 示 薬 と して 活 用 し 、 BZ 受 容 体 作 動 薬 の 使 用 を 回 避 す る こ と が 推 奨される。
#12.
やまとのチーム医療|物語をつむぐ「在宅医療PA®」 疼痛管理の重要性 痛みはせん妄の重要な促進因子(油)である。患者が痛 み を 訴 え ら れ な い 場 合 で も、 客 観 的 な 評 価 と 適 切 な 管 理 が必要である。 疼痛評価のポイント 表情や行動変化の観察 バイタルサインの変動 体位変換時の反応 家族からの情報収集 注意すべき落とし穴 興奮がせん妄によるものか 疼痛によるものかの鑑別が 困難な場合がある。オピオ イドを増量した結果、かえ って状態が悪化することも ある。
#13.
2. 認知症に対する薬物 療法の位置づけ
#14.
やまとのチーム医療|物語をつむぐ「在宅医療PA®」 この章では、認知症治療薬の効果を最大限 に引き出し、副作用を最小限に抑えるため の適切な使用法を深く掘り下げます。 病型鑑別の重要性から、各薬剤の少量投与 原則、そしてデリケートなレビー小体型認 知症患者への配慮まで、臨床現場で役立つ 実践的な知識を提供します。
#15.
やまとのチーム医療|物語をつむぐ「在宅医療PA®」 認知症治療の目標設定 病気を治すのではなく人を支える 認 知 症 治 療 の 現 場 で は 、 病 型 診 断 に と ら われ ず、「 今 、 困 って い る 症 状 を ど う コ ン ト ロ ー ルするか」が最も重要である。根本的な治療はできないが、症状を抑制し、患者と家族・ 介護者を幸せにすることが真の治療目標である。 1 2 3 症状コントロール QOL向上 生活支援 BPSD軽減、ADL維持 本人・家族の幸福度 地域での暮らしの継続
#16.
やまとのチーム医療|物語をつむぐ「在宅医療PA®」 病型鑑別の重要性:FTDとDLBへの注意 痛みはせん妄の重要な促進因子(油)である。患者が痛 み を 訴 え ら れ な い 場 合 で も、 客 観 的 な 評 価 と 適 切 な 管 理 が必要である。 前頭側頭型認知症(FTD)の特徴 レビー小体型認知症(DLB)の特徴 FTDは脱抑制、易怒、暴言、常同行動が特徴 幻 視 、 う つ、 不 安 な ど の 心 理 症 状 や パ ー キン ソ 的。FTDに対してコリンエステラーゼ阻害薬 ン 症 状 が 特 徴 的 。 DLB 患 者 は 薬 物 過 敏 性 が あ る を投与すると症状を悪化させるリスクがある ため、治療薬の投与には細心の注意が必要。 ため、原則として処方しない。 重要な原則:認知症治療薬はあくまで「手段」の一つ であり、病型に応じた適切な選択が必要 である。
#17.
やまとのチーム医療|物語をつむぐ「在宅医療PA®」 位置づけ ドネペジル(アリセプト®) 軽度〜中等度ADの第一選択(AChE阻害薬) 重症でも継続可 DLBにはドネペジル or リバスチグミンを推奨 製剤・特性 剤形が豊富(錠/OD/ゼリー等) DLBにも使用可 開始と用量の考え方 高齢者・DLBは薬剤過敏性 → 少量から慎重に(漸増) 重症化のみを理由に中止しない 使い分けのコツ 初回AChE阻害薬として選びやすい(剤形の利点/経験値が豊富) DLBの第一選択肢としても有力 消化器症状が強い/嚥下困難なら他剤(貼付・液剤)を検討
#18.
やまとのチーム医療|物語をつむぐ「在宅医療PA®」 位置づけ ガランタミン(レミニール®) 軽~中等度ADの選択肢(AChE阻害薬) DLBではドネペジル or リバスチグミンを先に 製剤・特性 液剤あり=嚥下困難・微量調整に対応しやすい 開始と用量の考え方 消化器副作用(悪心など)に留意 → 低用量開始・緩徐漸増 でアドヒアランス確保 使い分けのコツ ドネペジルで不耐/相互作用が懸念される場合の代替 嚥下・用量調整の柔軟性を重視する時に選択 DLBの一次選択ではない点に留意
#19.
やまとのチーム医療|物語をつむぐ「在宅医療PA®」 位置づけ リバスチグミン(イクセロンパッチ®/ リバスタッチパッチ®) 軽〜中等度ADの選択肢 DLBに対しても推奨(軽〜中等度で推奨、重症でも考慮) AChE阻害薬としてADに推奨 DLB:ドネペジル or リバスチグミンを提案 製剤・特性 貼付剤=嚥下障害、服薬管理困難例で有用 消化器副作用が比較的少ない利点 開始と用量の考え方 皮膚刺激(発赤/掻痒)に注意 → 貼付部位ローテーション 低用量から段階的に増量 使い分けのコツ 嚥下困難・アドヒアランス課題があるケース DLBの第一選択肢として有力 消化器症状で他AChE阻害薬が使いにくい時に選びやすい
#20.
やまとのチーム医療|物語をつむぐ「在宅医療PA®」 位置づけ メマンチン(メマリー®) NMDA受容体拮抗薬 中等度でAChE阻害薬に不耐/禁忌、または重度ADに単剤推奨 重症ではAChE阻害薬+メマンチン併用を"推奨/考慮" 推奨 中等度ADでAChE阻害薬が不耐/禁忌 → メマンチン単剤 重度AD → メマンチン単剤 既にAChE阻害薬内服中:中等度で併用"考慮"/重度で"併用" 実務ヒント 唯一の併用可薬(AChE阻害薬+メマンチン) めまい・傾眠など神経系副作用に留意し漸増 使い分けのコツ AChE 阻 害 薬 で 不 耐 / 非 適 応 、 も し く は 重 度 AD で QOL 維 持 を 狙 う 時に第一候補 夜間不眠/日中不穏が強い時は投与時間調整で受容性を上げる
#21.
やまとのチーム医療|物語をつむぐ「在宅医療PA®」 認知症患者への抗精神病薬の定期使用は 認知機能低下がさらに進む。 誤嚥性肺炎が増える。 大腿骨頸部骨折が増える。 死亡率が上がる。
#22.
やまとのチーム医療|物語をつむぐ「在宅医療PA®」 BPSDに対する抗精神病薬の使用原則 薬物療法の位置づけ 認知症の行動・心理症状(BPSD)の対策は非薬物療法(ケアと環境調整) が第一選択 薬 物 療 法 は 、 非 薬 物 療 法 で 緩 和 が 図 れ な い 場 合 、 特 に 意 識 障 害 であ る せ ん 妄による症状など、やむを得ない場合にのみ検討 保険適用 今まで認知症に対する保険適用を有する抗精神病薬はなかった。 一部の抗精神病薬については、「原則として、器質的疾患に伴うせん妄・精 神 運 動 興 奮 状 態 ・ 易 怒 性 に 対 して 処 方 し た 場 合 、 当 該 使 用 事 例 を 審 査 上 認 める」との通達がある。 2024年、焦燥感、易刺激性、興奮に起因する過活動又は攻撃的言動が見ら れ る 患 者 に 対 しては 、 ブ レ クス ピ プ ラ ゾ ー ル ( レ キ サ ル ティ ) が 保 険 適 用 となった。
#23.
やまとのチーム医療|物語をつむぐ「在宅医療PA®」 抗精神病薬の選択と少量投与の具体例 少量投与の意義 早 期 か ら 多 量 に 使 用 しても 副 作 用 は 増 えても 効 果 は 上 が ら な い た め 、 避 け るべき 長期的な維持治療を見越した薬物の選択が重要 鎮静作用が期待される例 オ ラ ン ザ ピ ン ( ジ プ レ キ サ ® ) は 幻 覚 や 妄 想 に 対 し 効 果 が 期 待 で き、 鎮静作用も強い。少量では抑うつ状態の補助療法としても有用。 処方例:オランザピン 2.5mgを分1眠前 錐体外路症状に配慮した例 クエチアピンは鎮静作用が強く、パーキンソン症候群などの錐体外路 症状が生じづらい。 リ スペ リ ド ン は 非 定 型 抗 精 神 病 薬 の 代 表 だ が、 用 量 が 増 える と 錐 体 外 路症状が生じやすい。 DLB患者への注意 DLB患者は薬物過敏性を持つため、抗精神病薬の使用には特に注意が必要。 DLBに非定型抗精神病薬を投与すると誤嚥性肺炎のリスクが高くなることが示唆されている。
#24.
やまとのチーム医療|物語をつむぐ「在宅医療PA®」 ブ レ クス ピ プ ラ ゾ ー ル ( レ キ サ ル ティ ® ) 位置づけ 2024 年 9 月 、 日 本 で 「 AD に 伴 う アジ テ ーシ ョ ン ( 焦 燥 感 ・ 易 刺 激 性 ・ 興 奮 に 起因する過活動/攻撃的言動)」を追加適応として承認。 国内で本適応を有する初の薬剤。 推奨 まずは非薬物的介入を実施し、十分でない場合の薬物選択肢として検討。 対象はアルツハイマー型認知症に限定(他の認知症では適応外・安全性未確 立)。 0.5 mg /日で開始し ≥1週あけて増量、1 mg /日を標準維持。 忍容性に問題なく効果不十分なら2 mg /日まで増量(増量間隔は≥1週)。 実践ヒント 効果を感じるまでは数週間かかる 傾眠が出る場合は夕方~就寝前に変更して受容性を上げる 使い分けのコツ 症 状 プ ロ フ ァ イ ル : 焦 燥 ・ 言 動 の 荒 さ ・ 攻 撃 性 が 介 護 困 難 の 主 因 で、 非薬物的 介入や他薬で不十分なケースに適応。
#25.
3. 認知症の人の 意思決定支援とACP
#26.
やまとのチーム医療|物語をつむぐ「在宅医療PA®」 認知症診療の最終目標 最期まで人生の主人公であるために 目標の再確認 意思決定支援の広義の捉え方 医療 × ソーシャルワーク 多職種連携 認知症ケアは「病気を治す」ことではなく、「その人の 人生そのもの、生活そのものを支える」ことにある。診 断を受けても、最期までその人らしい人生の主人公であ り続けるための支援が究極の目標である。 医療的な治療を超え、その人の価値観や生活の選択を支 えるソーシャルワークの視点が不可欠である。患者の思 いを置き去りにせず、全人的なサポートを提供する。 事前指示書は終末期医療の選択だけでなく、日々の生活 の好みや価値観、生き方全体にわたる支援を含む。認知 症の方の人生全体を尊重し、意思決定をサポートするこ とが重要である。 本人と家族が共有する治療方針に基づき、医療・介護チ ーム全体が共通の目標を持って連携するシステムを構築 する。これにより、一貫性のある質の高いケアを実現す る。
#27.
やまとのチーム医療|物語をつむぐ「在宅医療PA®」 認知症患者の意思表出 「自分で決められない」と決めつけない 意思決定能力の尊重 認知症患者は一律に意思決定能力がないと決めつけるべきではない。環境や コミュニケーションの取り方によって、自身の意向や希望を明確に表現でき る場合がある。 非言語的サインの理解 患者の意図は、言葉だけでなく、笑顔や安らかな表情、顔をそむける、手を 払いのけるといった態度、あるいは好き嫌いの行動など、様々な非言語的サ インから読み取れる。 具体的な意思表示の例 「お風呂が好き」と発言する、入浴時に至福の表情を見せる、吸引音を聞く と歯を食いしばり顔をそむける、といった具体的な行動や反応は、患者の明 確な意思の表れである。
#28.
やまとのチーム医療|物語をつむぐ「在宅医療PA®」 介護者の苦悩と意思決定のジレンマ 家族ケアの必要性 家族の苦悩 認知症ケアは「病気を治す」ことではなく、「その人の人生そのもの、生活そのものを支える」ことにあ る。診断を受けても、最期までその人らしい人生の主人公であり続けるための支援が究極の目標である。 介護者の負担軽減 介護者の孤立や疲労を理解し支援することは、BPSDの予防・軽減に不可欠である。家族の苦悩に寄り添 い、共に最善の選択肢を模索していく姿勢が求められる。 世間体と選択の困難 介護者は、社会的な評価や世間体を気にするあまり、施設入居などの新たな選択肢を選ぶことに困難を 感じることがある。 介護者へのアプローチ 介護者の努力と困難な決断を認め、"まずは試してみませんか?" や "いつでも自宅に戻れますよ" といっ た柔軟な選択肢を提示することで、決断をサポートする。
#29.
やまとのチーム医療|物語をつむぐ「在宅医療PA®」 認知症診療の真髄 最期まで人生の主人公として 1 認知症は「生活の病」 診断や薬物療法は手段。その人らし い暮らしを支えることが目的です。 2 3 意思決定支援の本質 最期まで人生の主人公 「もう決められない」と決めつけ ず、表情や行動から意思を読み取 り、家族と共に考えます。 死は医療の敗北ではなく、その人ら しい人生の延長線上にある「あたた かい時間」です。
#30.
在宅医療から学ぶ総合診療スキル 在宅医療の専門性は、疾患ではなく「人」を診る 複合疾患・生活背景を読む力にある 臓器ごとの治療を超えて、「人の生き方」を支える。 在宅医療は、総合診療に限らず医療者に必須の専門分野です。
#31.
本コンテンツは、やまと診療所(東京・板橋区)が運営する 在 宅 医 教 育 プ ロ グ ラム A H C の 講 義 よ り 抜 粋 してお 届 け し ま す Q A 医師がAHC(Academy of Home Care)で学べる内容は? 在宅医療のいろはから実践、運営スキルが身に付きます。 【得られるスキルの例】 ♢在宅におけるプライマリケアの基礎から実践 ♢施設間・職種間連携の実際とチーム運用 ♢今後の社会に必要な新しい仕組みや価値の作り方