#4.
「精神症状」への介入・治療の原則 精神科医以外の医師が、精神疾患を有する患者の身体治療を行うことや、身体治療中に精神科的な問題に直面することは少なくない。精神疾患自体が身体疾患発生のリスク因子である一方で、身体疾患の合併が精神疾患のリスク因子でもある(精神疾患の合併で身体疾患の予後が悪化する、慢性の健康問題の増加は、うつ病・うつ状態の頻度を増加させる)。身体科と精神科が上手く連携して、精神・心理面の問題を安全かつ適切に治療・対応する必要がある。
精神症状を診たときは、「外因(身体因・薬剤因など)の有無」と「緊急性」を評価する。その上で、「治療可能性」や具体的介入策を検討する。
不眠を診たら睡眠薬、ではなく、まずは原因検索と睡眠衛生指導を行うことや、「せん妄」は多職種で協働し、発症予防・早期の気づき、適切な非薬物治療や化学的機序を踏まえた適切な薬物治療の選択が重要である
患者の「不眠」「不安」に対して、安易にベンゾジアゼピン系薬剤を処方しないことが大切である。
#5.
「精神症状」への介入・治療の原則 ①精神症状への気づき
「眠れない」「元気がない」「訳の分からないことを言う」など、本人や家族の訴え、診察時の様子などから、精神症状として拾い上げる
②状態評価と原因検索
症状の詳細な経過(発症時期、持続時間、寛解増悪因子など)を把握し、患者背景(年齢、性別、生育環境など)、現在の身体状況(アクティブな疾患、感染症、脱水、臓器障害など)、既往歴(身体疾患、精神疾患)、服薬歴、生活歴(飲酒歴、薬剤使用歴など)を見直す。症状や状況によっては血液検査、尿検査、心電図、脳波、頭部画像検査(CT/MRI)などのスクリーニングを行う
③外因(身体疾患、薬剤、環境因など)が判明し、介入が可能である場合
自殺企図や暴力などのリスクを勘案しつつ、外因への介入を行いつつ、物理的拘束、薬物療法(化学的拘束含)を行いつつ、精神科とも連携する
④原因不明、外因の関与が考えられない、あるいは介入が困難な場合
ケースバイケース
#6.
当科(無床総合病院精神科)での頻出の睡眠の問題 入院リエゾン患者の「不眠」
心不全、低酸素など身体合併症や身体的疼痛を伴っての不眠。幻覚や興奮などを伴う時は、せん妄合併かせん妄の症状としての不眠(一定の割合で、入院前からベンゾジアゼピン系睡眠薬や抗不安薬を内服している)
外来患者の「不眠」
がんなどの慢性疾患、疼痛、活動性低下など心理社会的ストレスを合併しているだけでなく、意外と過去の外傷体験を持っている人がいる。
当科長期通院中の患者(統合失調症、うつ病など)の慢性的な不眠
生活習慣、多剤併用、薬物乱用・ODなど様々な問題が併存。
⇒肝機能障害、腎機能障害、併用薬の薬物相互作用などへの配慮
⇒慢性、難治性の睡眠障害の背景に、幼少時の外傷体験、過去・現在の家族などとの心的葛藤、自身や家族などの重大イベントなど強い心理社会的ストレス因、睡眠時無呼吸など特異的な睡眠障害があることも多い
6
#7.
医療における問題解決フレーム 情報収集(面接)
と診断・分析 治療目標
(主訴)
の明確化 治療
計画
立案 治療
実施 評価
省察 知識・思考⇒技能
(態度) 思考の歪み・ノイズがでやすい わすれがち 気づき
#8.
8
#9.
睡眠 生理的な覚醒水準の低下
健康な成人では睡眠時間は7~8時間
約25時間周期の睡眠ー覚醒リズム(概日リズム)を元に生活
体内時計は人は視床下部の視交叉上核と推定。日光やメラトニン系が調節。
#10.
睡眠の役割と重要性 疲労回復 副交感神経↑
血圧低下、脈拍減少 摂食ホルモンの分泌調整
(睡眠不足で食欲亢進) 循環機能の安定化 ストレス緩和
副腎皮質ホルモン分泌↓ 免疫機能の強化 記憶の固定と整理
気分の安定化 筋弛緩と産熱抑制
(特にレム睡眠中) 記憶の定着
神経保護(アミロイド排出) 成長ホルモンの分泌 インスリン分泌能↑
血糖コントロール力の回復 代謝機能の強化 消化・排便・排尿 自律神経の調節
(交感・副交感) 放熱(脳をクールダウン)
#11.
睡眠不足や不眠がおよぼす悪影響 大川匡子 睡眠医療 1(2): 37-43, 2007 11 医療費
の増大 睡眠不足
不眠 認知症発症
の誘因 交通事故の
誘因 高齢者の
夜間頻尿憎悪 がんの
発症率の増加 昼間の眠気
倦怠感・頭重感
不安・いらいら 産業事故の
誘因 肥満の
誘因・憎悪 うつ病の
誘因・憎悪 仕事上の能率・生産性の低下 常習欠席
(欠勤)の増加 高血圧症
糖尿病
脂質異常症 心血管
イベントの誘発
#12.
入院や外来で「不眠」を見かけたときの8ステップ ①「不眠」の問題(広義には睡眠に関連する問題)」に気づく
②不眠症状のアセスメントを行う
症状(入眠困難、中途覚醒・再入眠困難、早朝覚醒、熟眠感不全)、慢性と急性、随伴症状・疾患、緊急性の評価
③不眠症(DSMの不眠障害)と他の睡眠障害を適切に鑑別する
④不眠の原因や治療介入法を仮説思考する
⑤可能な範囲の睡眠衛生指導、環境調節や内服調節を行う
⑥ゴールを思い描きつつ、薬物治療を開始する
⑦継続的な睡眠薬の調節と薬効・有害事象をモニタリングする
⑧不眠症・睡眠障害治療のゴールを模索し続ける 12
#13.
入院や外来で「不眠」を見かけたときの8ステップ ①「不眠」の問題(広義には睡眠に関連する問題)」に気づく
②不眠症状のアセスメントを行う
症状(入眠困難、中途覚醒・再入眠困難、早朝覚醒、熟眠感不全)、慢性と急性、随伴症状・疾患、緊急性の評価
③不眠症(DSMの不眠障害)と他の睡眠障害を適切に鑑別する
④不眠の原因や治療介入法を仮説思考する
⑤可能な範囲の睡眠衛生指導、環境調節や内服調節を行う
⑥ゴールを思い描きつつ、薬物治療を開始する
⑦継続的な睡眠薬の調節と薬効・有害事象をモニタリングする
⑧不眠症・睡眠障害治療のゴールを模索し続ける 13
#14.
睡眠障害の主な臨床症状 寝つきが悪い
(入眠困難) 睡眠の維持
が難しい
(中途覚醒) 日中への支障 思っていた
よりも
早く目が覚める
(早朝覚醒) 回復感がない
質の良くない
睡眠が続く感覚
(熟眠障害) 目覚め 睡眠中 入眠 日中 14 まず患者の自覚症状
をしっかり確認
複数症状の時も多い 覚醒後の再入眠困難も伴う
#15.
睡眠に関する多彩な主訴や観察事項 ・睡眠の量と質:寝付けが悪い(入眠障害)、途中で目が覚める(中途覚醒・再入眠困難)、朝早く目が覚める(早朝覚醒)、ぐっすり眠れない(熟眠障害)
・朝起きられない・日中の眠気(覚醒困難)、居眠りをする(過眠)
・睡眠・覚醒パターンが学校・就業などのスケジュールがあわない(睡眠リズム障害)
・夢が多い、悪夢
・集中困難、頭重感
・いびき、無呼吸、窒息感
・むずむず、ぴくつき、寝汗、動悸(感覚や運動の異常)
・寝言、夢の行動化、摂食など(行動異常)
睡眠の量
睡眠リズ厶
睡眠の質
覚醒維持 睡眠時の特異現象
性格特性
モチベーション 15
#16.
入院や外来で「不眠」を見かけたときの8ステップ ①「不眠」の問題(広義には睡眠に関連する問題)」に気づく
②不眠症状のアセスメントを行う
症状(入眠困難、中途覚醒・再入眠困難、早朝覚醒、熟眠感不全)、慢性と急性、随伴症状・疾患、緊急性の評価
③不眠症(DSMの不眠障害)と他の睡眠障害を適切に鑑別する
④不眠の原因や治療介入法を仮説思考する
⑤可能な範囲の睡眠衛生指導、環境調節や内服調節を行う
⑥ゴールを思い描きつつ、薬物治療を開始する
⑦継続的な睡眠薬の調節と薬効・有害事象をモニタリングする
⑧不眠症・睡眠障害治療のゴールを模索し続ける 16
#17.
不眠の原因 不眠 精神疾患
うつ病、不安障害
など 心理社会的問題
入院、喪失体験、経済的問題など 生活習慣の問題
長時間の昼寝、
遅い就寝時間など 不眠に関する誤った認知
8時間睡眠に対する過剰な拘りなど 睡眠関連疾患
睡眠時無呼吸症候群、
レストレスレッグズ症候群 など 薬剤、アルコール、
カフェインなど 寝室環境
光、騒音、室温など 神経疾患
パーキンソン病
脳梗塞 など 身体疾患
心不全、COPD、
アトピー性皮膚炎
など 加齢
睡眠時間の短縮、睡眠構築の悪化、睡眠覚醒リズム 内科医のための不眠診療はじめの一歩 誰も教えてくれなかった対応と処方のコツ 小川朝生、谷口充孝編 17 原因は何であれ、症状・状態像は類似する
#18.
不眠障害(DSM-5) A.睡眠の量または質の不満に関する顕著な訴えが、以下の症状のうち1つ(またはそれ以上)を伴っている:(1)入眠困難(子どもの場合、世話する人がいないと入眠できないことで明らかになるかもしれない)(2)頻回の覚醒、または覚醒後に再入眠できないことによって特徴づけられる、睡眠維持困難(子どもの場合、世話する人がいないと再入眠できないことで明らかになるかもしれない)(3)早朝覚醒があり、再入眠できない。
B.その睡眠の障害は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、教育的、学業上、行動上、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。C.その睡眠困難は、少なくとも1週間に3夜で起こる。D.その睡眠困難は、少なくとも3カ月間持続する。E.その睡眠困難は、睡眠の適切な機会があるにもかかわらず起こる。F.その不眠は、他の睡眠-覚醒障害(例:ナルコレプシー、呼吸関連睡眠障害、概日リズム睡眠-覚醒障害、睡眠時随伴症)では十分に説明されず、またはその経過中にのみ起こるものではない。G.その不眠は、物質(例:乱用薬物、医薬品)の生理学的作用によるものではない。H.併存する精神疾患および医学的疾患では、顕著な不眠の訴えを十分に説明できない。 18
#19.
医学的な「不眠症」の3D(DSM-5) Difficulty initiating or/and maintaining sleep
入眠困難および睡眠の維持の障害 週3夜以上・3ヶ月以上続く
Despite adequate opportunity for sleep
睡眠を取るための適切な機会があるにもかかわらず
Daytime impairment
疲労感、眠気など日中の機能障害
⇒入院・外来の「不眠」は、不眠障害(いわゆる「不眠症」)とは限らず、レストレスレッグス症候群やナルコレプシー、統合失調症の不眠など様々な睡眠障害や精神障害や身体障害など様々な「疾患」の症状の一部だったり、疾患罹患や入院などによる寝室環境の変化によるストレスなど心理社会的要因の「結果」であったり、元々の症状・疾患の継続・増悪だったりする、という認識・視点を持つ必要がある 19
#20.
入院や外来で「不眠」を見かけたときの8ステップ ①「不眠」の問題(広義には睡眠に関連する問題)」に気づく
②不眠症状のアセスメントを行う
症状(入眠困難、中途覚醒・再入眠困難、早朝覚醒、熟眠感不全)、慢性と急性、随伴症状・疾患、緊急性の評価
③不眠症(DSMの不眠障害)と他の睡眠障害を適切に鑑別する
④不眠の原因や治療介入法を仮説思考する
⑤可能な範囲の睡眠衛生指導、環境調節や内服調節を行う
⑥ゴールを思い描きつつ、薬物治療を開始する
⑦継続的な睡眠薬の調節と薬効・有害事象をモニタリングする
⑧不眠症・睡眠障害治療のゴールを模索し続ける 20
#21.
睡眠障害の鑑別簡易アルゴリズム 不眠症と診断する前に確認すべき事項 うつ病 不眠に加えて食欲低下、興味減退がある 睡眠時無呼吸症候群 強いいびき、睡眠中呼吸停止がある むずむず脚症候群 就床時に下肢の異常感覚がある ナルコレプシー 十分寝ているのに日中に眠気が起こる レム睡眠行動異常症 睡眠中に異常に大きい寝言や異常運動がある 概日リズム障害 夜型生活や昼夜逆転がある 疑われる診断名 21
#22.
夜間の睡眠の問題のある一症例 主訴: 夜間の悪夢、寝ぼけ(けがをする程の)
60代後半 男性
発作性心房細動(アブレーション後)
2型糖尿病 高血圧 脂質異常症 高尿酸血症 慢性腎症 白内障
夜間の寝ぼけで頭部打撲・硬膜外血腫(X年)
60才前半より、妻と共に睡眠も、追いかけたり、襲われる夢(相手はスパイ)を見て、「待て」と大声で寝言、手足を動かし、ベットから転落しはじめ、起こされた妻に文句を言われていた(「昨日はひどかった」など)。
X年8月、「熊に追いかけられる夢」を見て、必死で逃げようとベットより立ち上がり、壁に飛びこみ、頭部を打撲(「夢の中で崖に飛び込んだ」)。脳外科、通院中の内科を経て、当科受診。 22
#23.
考察・振り返り 診断名: レム睡眠行動異常症
治療・対応
頭部MRIで多発性ラクナ梗塞有り(SPECTは未施行)。
ラメルテオン8mgないしクロナゼパム0.5mgで症状は大分改善。ラメルテオンは眠気が強く、クロナゼパムを主に内服。 23
#24.
夜間睡眠中の徘徊、反応不良で何度も救急外来受診する症例 主訴: 夜間の意識消失発作?・発作後のもうろう状態
71才 男性
頸椎ヘルニア手術(50代後半) 高血圧
術後、夜間睡眠中に徘徊、反応不良を生じ、近年、頻度は年数回から月数回に発作頻度が増加してきている。何回か、夜間の「発作」で救急外来を受診している。明らかなけいれんは認知されず。
#25.
症例① (本人曰く)夜間の睡眠時、仰向けで、後頸部を圧迫して寝るからか、足全体のしびれ、呼吸困難感を生じ、時に意識がもうろうとする。
(家族曰く)荒い呼吸音で様子を見に行くと、寝ていて、一点凝視し、呼びかけに数分間反応がない(明らかな硬直や間代性けいれんなし)。意識回復後も、つじつまの合わない話をしたり、ドアのないところを開けようとしたりする。30分程度で回復も、もうろうと歩き回っている記憶はない様である。
頭部MRIは異常なし。脳波を施行
#26.
脳波所見
#27.
診断と治療 診断: 高齢者てんかん(側頭葉てんかん)
治療: レベチラセタム開始後、「発作」は1年以上消失。 日本てんかん学会ガイドライン 高齢者のてんかんに対する診断・治療ガイドライン 高齢者てんかんの特徴
#28.
入院や外来で「不眠」を見かけたときの8ステップ ①「不眠」の問題(広義には睡眠に関連する問題)」に気づく
②不眠症状のアセスメントを行う
症状(入眠困難、中途覚醒・再入眠困難、早朝覚醒、熟眠感不全)、慢性と急性、随伴症状・疾患、緊急性の評価
③不眠症(DSMの不眠障害)と他の睡眠障害を適切に鑑別する
④不眠の原因や治療介入法を仮説思考する
⑤可能な範囲の睡眠衛生指導、環境調節や内服調節を行う
⑥ゴールを思い描きつつ、薬物治療を開始する
⑦継続的な睡眠薬の調節と薬効・有害事象をモニタリングする
⑧不眠症・睡眠障害治療のゴールを模索し続ける 28
#29.
不眠症の原因 5つのP Physical
(身体的要因)
痛み、かゆみ、夜間頻尿、下痢、咳、呼吸困難、など Physiological
(生理学的要因)
シフト勤務、生活リズムのずれ、騒音、慣れない環境・寝具、スマホ使用不適切な室温、照明など Phychological
(心理的要因)
不安(心配事)、辛い事、ストレス、喪失体験、心的外傷体験など Phychiatric
(精神医学的要因)
うつ病、神経症、統合失調症、依存症、せん妄、認知症など Pharmacological
(薬剤性要因)
ステロイド、カフェイン、インターフェロン、たばこ、甲状腺ホルモン、交感神経作動薬、SSRIなど アルコール・睡眠薬など
の依存とその離脱症状 不眠症以外の睡眠障害
(レム睡眠行動障害、SAS、RLSなど)
#30.
大動脈解離後の不安や抑うつを心配された51才女性 夫のマグロ漁の高額臨時収入の使い方をめぐり、夫と姑が不仲化。不眠・億劫さで短期間心療内科で眠剤処方、夫の自殺未遂を経て、別居・自宅新築。舅の死後、心不全での長期入院をした姑が独居の不安を訴え、同居開始も、「入りこまれた」と依存的な姑にストレス大。近年、20年来交流のなかった妹と交流再開も、妹の夫のDV?、自閉症の妹の長女の引きこもり・浪費・奇声、妹の過量飲酒などの中、X年12月に妹はA病院入院。胃癌の判明した妹を自宅に連れてきて同居していた。
妹の手術を控えたX年1月、スタンフォードB型大動脈解離で本人が当院搬送。同日、緊急手術(胸部ステントドラフト留置+SMAステント留置)。腸管虚血疑い、イレウスで一時絶食。疼痛、疼痛での不眠を訴え、主科で鎮痛薬の内服や点滴、レンボレキサント5mg処方。妹との連絡など相談員に相談。不眠、抑うつで当科初診。経過を傾聴。レンボレキサント10mgに増量。疼痛時頓用の上、ある程度睡眠。初診後1週間弱で自宅退院決定。通院予定のクリニックに当科の処方も依頼。
30
#31.
不眠症の原因 5つのP(本症例) Physical
(身体的要因)
痛み、かゆみ、夜間頻尿、下痢、咳、呼吸困難、など Physiological
(生理学的要因)
シフト勤務、生活リズムのずれ、騒音、慣れない環境・寝具、スマホ使用不適切な室温、照明など Phychological
(心理的要因)
不安(心配事)、辛い事、ストレス、喪失体験、心的外傷体験など Phychiatric
(精神医学的要因)
うつ病、神経症、統合失調症、依存症、せん妄、認知症など Pharmacological
(薬剤性要因)
ステロイド、カフェイン、インターフェロン、たばこ、甲状腺ホルモン、交感神経作動薬、SSRIなど アルコール・睡眠薬など
の依存とその離脱症状 不眠症以外の睡眠障害
(レム睡眠行動障害、SAS、RLSなど) 赤字が本症例
の該当部分
#32.
不眠の原因となる臓器別症状の具体例 ジェネラリストのための内科外来マニュアル 第2版 ※痛みで覚醒する場合、腰痛→悪性腫瘍の骨転移・多発性骨髄腫、頭痛→脳腫瘍(偏頭痛の場合も有り)なども検討。 32
#33.
うつ病に併存するさまざまな睡眠障害 うつ病に併存する
睡眠障害 精神生理的不眠症
(慢性不眠) 薬剤性・
身体因性の
不眠・過眠 睡眠時
無呼吸
症候群 残遺不眠
残遺過眠 睡眠の加齢変化
睡眠衛生の悪化
(運動不足) 睡眠・覚醒
リズム障害
(夜型・昼夜逆転) 周期性四肢
運動障害
レストレスレッグス
症候群 肥満
筋弛緩
生活習慣病
クエチアピン
オランザピン
ミルタザピン SSRI
SNRI誘発性 患者の高齢化
薬物相互作用
ミルタザピン
クエチアピン 意欲低下・活動性低下
長期入院
患者の高齢化
社会摂食の減弱 神経症化
慢性化 難治化 うつ病自体の
精神症状としての
不眠・過眠 いわゆる不眠症領域 気分の日内変動 33
#34.
入院や外来で「不眠」を見かけたときの8ステップ ①「不眠」の問題(広義には睡眠に関連する問題)」に気づく
②不眠症状のアセスメントを行う
症状(入眠困難、中途覚醒・再入眠困難、早朝覚醒、熟眠感不全)、慢性と急性、随伴症状・疾患、緊急性の評価
③不眠症(DSMの不眠障害)と他の睡眠障害を適切に鑑別する
④不眠の原因や治療介入法を仮説思考する
⑤可能な範囲の睡眠衛生指導、環境調節や内服調節を行う
⑥ゴールを思い描きつつ、薬物治療を開始する
⑦継続的な睡眠薬の調節と薬効・有害事象をモニタリングする
⑧不眠症・睡眠障害治療のゴールを模索し続ける 34
#35.
睡眠衛生指導の例 日中、特に午前中に太陽光を浴びる
規則正しい食事と運動習慣
昼寝をするなら15時までの30分
就床前4時間のカフェイン摂取、就床前1時間の喫煙は避ける
寝る直前に体温が上がる行動(入浴や激しい運動)はしない
眠るための飲酒は辞める(夜中に目が覚めやすくなる)
眠る前や深夜のパソコン・ゲーム・スマホ使用は避ける
アラームをセットして夜中に時刻を確認しない 睡眠障害 ー臨床実習・臨床研修における指導のポイントー 精神科治療学 39(11):1237-1242, 2024 35
#36.
外来で1分で言う睡眠衛生指導 同じ時刻に起床し
朝の光を浴びる 昼寝をするなら
午後3時半頃までに
20~30分程度 できるなら夕食前後に軽い運動 寝室は寝る目的のみに使用 睡眠中は騒音、光、
極端な温度変化は避ける 就寝前の注意
就寝前はカフェイン(4時間前)、アルコール、タバコ(1時間前)を控える。また激しい運動も避ける
寝る前はスマホ、パソコン、ゲームなど明るい光を見ない(少なくとも1時間前。ブルーライトカットを)
熱めの入浴は避ける
#37.
入院や外来で「不眠」を見かけたときの8ステップ ①「不眠」の問題(広義には睡眠に関連する問題)」に気づく
②不眠症状のアセスメントを行う
症状(入眠困難、中途覚醒・再入眠困難、早朝覚醒、熟眠感不全)、慢性と急性、随伴症状・疾患、緊急性の評価
③不眠症(DSMの不眠障害)と他の睡眠障害を適切に鑑別する
④不眠の原因や治療介入法を仮説思考する
⑤可能な範囲の睡眠衛生指導、環境調節や内服調節を行う
⑥ゴールを思い描きつつ、薬物治療を開始する
⑦継続的な睡眠薬の調節と薬効・有害事象をモニタリングする
⑧不眠症・睡眠障害治療のゴールを模索し続ける 37
#38.
不眠の難治化 一過性の不眠
入眠困難
中途覚醒 急性のストレス
精神的、身体的・・ 正常反応 不眠の解消 ストレス処理
睡眠障害の理解
生活習慣の改善 こだわり
不眠恐怖 慢性の不眠症
(不眠恐怖)
(睡眠薬恐怖) 睡眠薬に対する
不安・焦燥感 神経症 医師からの説明不足
睡眠薬についてのうわさ 神経症的反応 不眠自体への
不安・緊張感 慢性の不眠症
(不眠恐怖症) 不眠の解消 適切な睡眠薬・
適切な服薬指導 習慣性・副作用への不安・恐怖 自律神経症状 自律神経症状 自律神経症状 38
#39.
睡眠薬治療導入時の心理教育共感と「出口戦略」の説明と希望・可能性・自己効力感 「眠れなくて辛い」という事に充分共感(無理なら承認)した上で、ドクターショッピングを避け、睡眠衛生指導への動機づけを高めるため、治療開始時点から、「治療の出口(出口戦略)」の話をして、治療の目標や見通しを共有して、睡眠衛生指導の必要性、やむを得ない(原則対症的かつ一次的な)薬物治療を行うことを説明する。
睡眠薬はどの薬でも一定の副作用がある(新薬でも)。症状改善後の中心が原則も、睡眠薬内服のみでは減量・中止は難しいので、睡眠スケジュールを一定にする、食事・運動など自分でできる規則正しい生活を整える日々の実践が大切になる。睡眠薬だけでなく、自分でできることをやって、不眠が改善すれば薬はやめていけるかもしれないという希望・可能性・自己効力感が大切。
治療の主体は患者自身である(と思ってもらうことが大事)
39
#40.
不眠に対する認知行動療法の構成要素 第2版 これからはじめる非がん患者の緩和ケア 松田能宣・山口崇編集 40
#41.
理想的な睡眠薬 理想的な
睡眠薬 急速な吸収 加齢・身体疾患時も効果不変 夜間通しての作用 急速な
入眠作用 過量服薬の安全性 残眠がない 特定の
作用機序 正常な睡眠パターン 依存性が
ない 耐性がない 記憶障害
がない 呼吸抑制
がない アルコールや薬物相互作用がない ふらつきが
ない Wilson S, et al. Journal of psychopharmacology, 2019 一部改変 効果 副作用 予測性?
#42.
睡眠のメカニズム 恒常性維持機能
昼間に眠気が蓄積 体内時計
夜に眠くなる 情動覚醒機構
何かあると目覚める 夜の睡眠 昼間に睡眠誘発物質が蓄積
⇒眠くなる 夜になると深部体温が下がり眠くなる 概日リズム Process C 恒常性 Process S 緊急覚醒
#43.
神経調節分子とその機能と出力を担う細胞 43 脳神経科学がわかる、好きになる 櫻井武
#44.
睡眠・覚醒の調整機構(簡易模式図) 44 睡眠
中枢 覚醒
中枢 睡眠物質
PGD2
他蓄積 大脳皮質 体内
時計 アデノシン
神経系 GABA
神経系 ヒスタミン
神経系 抑制 メラトニン
(松果体) オレキシン 覚醒
#45.
睡眠・覚醒機構の機序と睡眠薬・睡眠関連物質の作用機序(あくまでイメージで不正確) 45 睡眠
中枢 覚醒
中枢 睡眠物質
PGD2
他蓄積 大脳皮質 体内
時計 アデノシン
神経系 GABA
神経系 ヒスタミン
神経系 睡眠覚醒リズム調節 メラトニン受容体作動薬 睡眠覚醒リズム調節 BZ系睡眠薬
非BZ系睡眠薬(Z薬)
バルビツール酸誘導体
アルコール症 睡眠覚醒リズム調節 抗ヒスタミン薬
(抗アレルギー薬など) 覚醒状態を抑える オレキシン受容体拮抗薬 アデノシン拮抗作用 カフェイン 抑制
#46.
臨床において睡眠障害に使われる薬(睡眠薬) ・GABA-A受容体作動薬
バルビツール酸系 フェノバルビタール
非バルビツール酸系 ブロバリン
ベンゾジアゼピン系 トリアザラム、ブロチゾラム、フルニトラゼパム
非ベンゾジアゼピン系 ゾルピデ厶、ゾピクロン
・メラトニン受容体作動薬 ラメルテオン
・オレキシン受容体拮抗薬 スボレキサント レンボレキサント
・抗ヒスタミン薬 ドリエル
・抗精神病薬 クエチアピン、レボメプロマジン、クロルプロマジン
・抗うつ薬 ミアンセリン ミルタザピン トラゾドン
・ブロモバレリル尿素(ブロバリン)、抱水クロラール(トリクロリール)、漢方薬
#47.
主要4種の睡眠薬(適用取得) ベンゾジアゼピン系睡眠薬(BZ系睡眠薬)
GABA受容体に作用して、不安や緊張、筋肉の緊張を軽減して、眠りやすくする。ふらつき、健忘、依存などの副作用あり。
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(通称:非ベンゾ)
BZ系と同様に、GABA受容体に作用するが、催眠作用が中心で、ふらつきなどの作用は弱体化。禁忌はBZ系と同じ。
メラトニン受容体作動薬(2010~)
体内時計を調節するホルモンのメラトニン受容体に作用。即効性は乏しい。ふらつき、健忘、依存などの副作用は少ない
オレキシン受容体拮抗薬(2014~)
覚醒ホルモンであるオレキシンの作用を抑制。ふらつき、健忘、依存などの副作用は少ない。悪夢の副作用が有名
#48.
不眠に対して臨床において使用される薬剤 48
#49.
主要4種の睡眠薬(適用取得) 49
#50.
ベンゾジアゼピン系抗不安薬・睡眠薬の作用 抗不安作用に優れるものが抗不安薬として、鎮静・催眠作用に優れるものが睡眠薬として開発されている。 ベンゾジアゼピン系薬剤の4作用 50
#51.
BZ受容体作動薬の標的症状と適応疾患 鎮静・催眠作用 抗不安作用 抗けいれん作用 筋弛緩作用 睡眠薬 抗不安薬 抗てんかん薬 筋弛緩薬 てんかんなど 不眠 不安 稲田健(編):本当にわかる精神科の薬はじめの一歩 改訂版2018 けいれん
てんかん 筋緊張 不眠症 不安障害(不安症) 筋緊張性頭痛斜頸、ジストニア アルコール離脱症状 レストレスレッグス症候群 パニック障害 社交不安障害 全般性不安障害 51
#52.
抗不安作用 不安をとる 首・肩の凝りや筋緊張をとる 眠気をもたらす 痙攣を抑える (抗うつ作用) 抗けいれん作用 催眠・鎮静作用 筋弛緩作用 渡辺昌祐 : 「抗不安薬の選び方と用い方」 金原出版 改変 52
#53.
薬物単回投与時の薬物動態 血中濃度 経過時間 服用 Tmax X 2X t1/2 Cmax AUC 最高血中濃度(Cmax):薬の血中濃度が最大になったときの濃度
最高血中濃度到達時間(Tmax):Cmaxに達するまでの時間
血中半減期(t1/2):Cmaxに達してから、血中濃度が半分になるまでの時間
血中濃度曲線下面積(AUC):血中濃度曲線を描いたときの曲線の下の部分の面積 薬物動態による睡眠薬の薬効説明の暗黙の前提
①脳内濃度と血中濃度は関連する
②血中濃度半減でだいたい薬効消失(最低作用血中濃度) 53
#54.
血中半減期を考慮した薬物選択ベンゾジアゼピン系薬剤の薬効・副作用を血中濃度で説明 亀井 雄一. 睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン.睡眠薬の適正使用及び減量・中止のための診療ガイドラインに関する研究班,じほう,p.64,2014. 翌朝 ハングオーバー 中途・早朝覚醒 本当は、BBBを超えた先の脳内濃度が大切も測定不能で代替 54
#55.
主作用と副作用 主作用: 薬物を投与する際、治療上の目的とする作用
副作用: 主作用以外に現れる作用(広義の副作用)
有害作用:主作用以外に現れる作用のうち、患者にとって好ましくない作用(狭義の副作用) 薬理作用 主作用(薬効) 副作用(広義) 有害作用
副作用(狭義)
#56.
副作用が起こるパターン いちばんやさしい薬理学 木澤靖夫 高齢者、小児科、妊婦および授乳婦などは、特に副作用が起こりやすく、また、副作用の結果が重大な臨床的問題になりやすく、注意が必要である
#57.
認知機能障害 適正な薬物療法のためのベンゾジアゼピン系受容体作動睡眠薬の効果・副作用の把握と認容性 記憶障害 服薬後の前向性健忘、エピソード記憶の障害 言語性記憶や処理速度などの低下が生じる 転倒・骨折 筋弛緩作用、運動失調、平衡機能障害などによる 身体依存 【耐性】効果が減弱して増量が必要になる
【離脱症状】休薬時に不眠、不安、自律神経症状、けいれんなどGABA関連症状が出現する 筋弛緩作用 催眠・鎮静作用の発現とは別に筋弛緩作用が生じる 持ち越し作用 催眠・鎮静作用が翌朝まで残存する 奇異反応 服薬後に攻撃性、不安、抑うつなどの症状が発現 認知機能障害 目的とする作用が強く現れすぎ 望まない作用
の出現 望まない作用
の出現 望まない作用
の出現 望まない作用
の出現 望まない副作用での二次性 長期的な
副作用 57
#58.
BZの離脱症状(退薬症候) てんかん発作
意識混濁
離人症状
精神病様症状
(幻覚、錯乱、せん妄など)
辻敬一郎、田島治.ベンゾジアゼピンの依存と離脱症状.臨床精神医学(35)12:Page1669-1674.2006 悪心
頭痛
発汗
傾眠
軽い
多い (出現頻度) 少ない
重篤 不安
不眠
焦燥
筋緊張
イライラ
知覚の異常
感覚過敏 (離脱症状の重篤度) 離人症状
運動感覚異常
知覚過敏
抑うつ気分 BZ内服患者や
不安障害患者が
もともと持っている症状と酷似 症状のみで
離脱を判断する
ことはできない 58
#59.
術後不眠、せん妄遷延で紹介された88才女性 詳細不明も、70代以降、膝手術後、低カリウム血症での入院時にそれぞれせん妄の既往あり。術前、形は独居もほぼ長女宅で生活。近医内科で、アルプラゾラム(0.4)3錠毎食後を定期内服。
左下顎歯肉がん+頸部リンパ節転移疑いの手術目的に当院入院。術後、夜間中心に帰宅希望、ミトン外し企図、「殺さないでください」などまとまりない言動が出現。NGチューブより内服は継続。ハロペリドール点滴やデキストメデトミジン点滴などで対応も、日中の娘の面会中も、「片付けねば。家の掃除に行かねば」などの言動あり。夜間不眠で、時にリルマザホン2mg、レンボレキサント5mgなど頓用も、日中も傾眠で発語不良も、夜間不眠、独語などは続き、「私死んでしまった」「喪服取りに行かないと」「お父さんのところに行く」「お願い死なせて」など言動まとまりなく、術後17日目、せん妄遷延で当科紹介初診。
せん妄として、アルプラゾラム中止、クエチアピン少量、レンボレキサントなどで睡眠、夜間の奇異言動は改善も、状況認知の悪さは残存。初診1週間後に自宅退院。退院時レンボレキサン5mg+クエチアピン10mg。自宅退院後、家事全般は長女がして、BADLレベルの身辺処理は自立。 59
#60.
せん妄の発症因子と治療・対策 60 せん妄発症閾値 せん妄発症 時間経過 準備因子
(高齢、認知症、アルコール依存など) 促進因子
(入院による環境変化、不安、睡眠障害、疼痛、発熱、感覚遮断など) 直接(原因)因子
(手術、薬剤など) 認知症などに対する治療 心理社会的・環境的要因の除去
睡眠覚醒リズムの回復 基礎にある(必ず存在する)身体疾患や病態、原因薬剤の丁寧な検索と治療 対症療法
精神症状に対する薬物療法 治療・対策 単独でせん妄の
原因となる因子 リスク評価に有効
(基本的に取り除くことができない要素) ここへの働きかけでのせん妄予防が重要 発表者作成
#61.
せん妄の発症因子と治療・対策(本症例) 61 せん妄発症閾値 せん妄発症 時間経過 準備因子
(高齢、認知症?、アルコール依存など) 促進因子
(入院による環境変化、不安、睡眠障害、疼痛、発熱、感覚遮断など) 直接(原因)因子
(手術、薬剤など) 認知症などに対する治療 心理社会的・環境的要因の除去
睡眠覚醒リズムの回復 基礎にある(必ず存在する)身体疾患や病態、原因薬剤の丁寧な検索と治療 対症療法
精神症状に対する薬物療法 治療・対策 単独でせん妄の
原因となる因子 リスク評価に有効
(基本的に取り除くことができない要素) ここへの働きかけでのせん妄予防が重要 ベンゾジアゼピン受容体作動薬 発表者作成 赤字が本症例
の該当部分
#62.
(病棟での)不眠の鑑別フロー 主観的・客観的不眠 せん妄 強い不安・焦燥感による不眠 睡眠を障害する身体症状(疼痛・掻痒感) 薬剤性・医原性 うつ病 睡眠関連障害 誤った生活習慣 意識障害(睡眠・覚醒リズムの障害) 過覚醒による不眠 身体疾患に伴う不眠 薬剤性の不眠 症状としての不眠 睡眠障害 精神衛生の問題 緩和ケアレジデントの鉄則 速やかな対応が必要
緊急性 便秘(膨満感・蠕動痛)、発熱・寝汗、頻尿(夜間の輸液)
#63.
ベンゾジアゼピン受容体作動薬による薬剤性せん妄を避けるための対策 病院全体または病棟単位で、不眠時・不穏時の指示を統一する(標準指示を決める)
病棟常備薬を見直し、不眠時薬として、BZ受容体作動薬以外の薬剤を追加(または、病棟常備薬からBZ受容体作動薬を外す)
パスの不眠時指示を見直す
不眠に対する薬剤選択について、病棟薬剤師が医師に対して積極的にアドバイスを行う(⇒医師が耳を傾ける)
院内の勉強会や研修会で、BZ受容体作動薬のせん妄発症リスクについて取りあげる せん妄診療実践マニュアル 改訂新版 井上真一郎
#64.
予定手術後にせん妄を生じた85才女性 近年単独受診で術前の生活状況・認知機能の詳細は不明も、歩行は困難も、自宅内の家事は何とか自立して独居。DMなどで通院中の近医からベンゾジアゼピン(BZ)系睡眠薬を定期内服。右人工股関節置換術後、連日、夜間のまとまりない言動、夜間の経過の健忘のある中、当科紹介初診。HDS-R14点。ブロチゾラムなどBZ系睡眠薬は全て中止の上、せん妄として、リスペリドン0.5mg+レンボレキサント5mg開始。せん妄は1週間程度で消退し、初診1週間後、HDS-R24点に改善。まもなくリスペリドン中止。レンボレキサント5mg継続で退院。
→せん妄の直接因子(薬剤)の排除、対症的薬物治療、直接因子になった術後からの時間経過などの中、認知機能低下を含むせん妄症状は改善。 64 自験例 発表者作成
#65.
せん妄フローチャート(一次予防)
一次予防 STEP1 リスク因子の確認(準備因子の特定) 1つでも当てはまる場合 STEP2 せん妄の予防対策(直接因子や促進因子の除去) ・患者および家族への説明(パンフレットや動画)
・不穏時・不眠時指示
・せん妄ハイリスク薬(BZ受容体作動薬)の減量・中止・変更/使用回避
・せん妄予防ケアの立案・実施(環境調整やコミュニケーションの工夫など) せん妄診療実践マニュアル 改訂新版 井上真一郎 赤字が本症例の該当部分
#66.
オレキシン神経系 蛋白質 核酸 酵素 2007;52:1840-48 櫻井武 モノアミン作動システム 覚醒時に活性が高く、睡眠時に低下 コリン作動性システム 覚醒およびレム睡眠の制御に関与 アセチルコリンを産生 ノルアドレナリン、セロトニン、ヒスタミン、ドーパミンを産生 66
#67.
オレキシン受容体拮抗薬 オレキシン(ハイポレクチン)は、青斑核や縫線核、結節乳頭体核などからなる中枢神経覚醒系を統合制御する役割を持つ視床下部のニューロンから産生される神経ペプチド。
不眠症の患者では、夜になっても覚醒系の活動が適切に低下せず過剰に働き(生理的過覚醒)、入眠が妨げられる。
オレキシン受容体拮抗薬は、オレキシン1または2受容体への拮抗作用により、覚醒に関連した神経系の活動を低下させ、睡眠を促進する薬剤。レム睡眠を増やす特徴を持つ。
Lemborexant(スポレキサント:ベルソムラ)
Suvorexant(レンボレキサント:デエビゴ)
Daridorexant(ダリドレキサント:クービビック) 67
#68.
オレキシン拮抗薬服薬指導のポイント GABA受容体と作用機序が異なり、レム睡眠を増える(=夢が多くなる)ことを説明。
主な副作用の「悪夢」は出現し易い患者群の条件は不明も、元々悪夢の頻度が高い患者には慎重な投与と説明が無難と思われる(基本的に夢は夢に過ぎないと投与前に説明)
生活リズムや環境が不眠に影響するので、睡眠衛生指導をする(そもそも薬物治療前に)
GABA受容体作動薬との切り替え時は、反跳性不眠のリスクをあらかじめ説明する
68
#69.
総合病院臨床における当医の睡眠薬処方の原則論 処方前に適切な診断(入院中の不眠は一定の確率でせん妄に伴う不眠なので、超短時間型BZ系で悪化)。SASやRLS、うつ病などの場合、眠剤処方以外を検討
可逆的(鎮静・筋弛緩)と非可逆的(転倒→骨折、依存)副作用と効果との兼ね合いを検討・関係者に説明(頻尿+眠剤→トイレ歩行中の転倒・骨折)
比較的安全な選択肢(特に高齢者・術後など):
スポレキサント20mg(高齢者は15mg:副作用は鎮静と悪夢)かレンボレキサント2.5~5mg(max10mgまで:副作用はスポレキサントと同様)か、トラゾドン25~50mg(副作用は動悸、持続勃起など)の眠前か不眠時。オレキシン受容体拮抗薬2剤処方は保険診療で「切られる」リスクあり
「若く元気でせん妄なし」なら、ゾルピデム5~10mgかブロチゾラム0.25mgでも可。
※トリアザラムはせん妄・相互作用、エチゾラムは筋弛緩・転倒のリスクでほぼ禁忌
※ラメルテオンは効果発現に数週間罹るため、頓用では健常者の時差ぼけ以外は即効性は期待できない(ほぼ効かない)。投与するなら定期薬で。
※せん妄に伴う不眠はクエチアピン少量(10mg位や12.5mg錠)から(DMなしで)。興奮を伴うせん妄での不眠はクエチアピンかリスペリドンかペロスピロン。翌朝の過鎮静に注意
※元々、BZ系睡眠薬内服時は、新規睡眠薬に切り変えるのはなかなか大変。 69
#70.
不眠症の薬物療法の出口戦略とプロセス 三島 和夫. 睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン. 睡眠薬の適正使用及び減量・中止のための診療ガイドラインに関する研究班, じほう, 37, 2014. + 夜間の不眠症状と日中機能障害の改善の継続 長期服用のリスク・ベネフィットの評価
(維持療法の許容の有無の評価) 維持療法 減量・中止 治療の出口
(ゴール) 医師と患者
共有意思決定
(SDM)
#71.
不眠の再評価
身体因、環境因、心理要因
その他の睡眠障害
(睡眠状態誤認、レストレッグス症候群、ほか) 認知行動療法
1)刺激制御法
2)睡眠制限法
3)漸進的筋弛緩法
4)認知療法 症状把握
・不眠症状の特徴
・日中の機能障害 不眠症の治療アルゴリズム 維持薬物療法 リスク評価 A B 治療の
要否判定 不要 治療終了
睡眠衛生指導 過覚醒(不安・抑うつ)
リズム異常(夜型・夜勤)
恒常性異常(午睡過多) 要 休薬 再燃 G D F 無効 無効
部分寛解 睡眠衛生指導 C H 寛解 有効 有効 不眠の訴え 三島 和夫. 睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン. 睡眠薬の適正使用及び減量・中止のための診療ガイドラインに関する研究班, じほう, 37, 2014. 薬物療法
1)非ベンゾジアゼピン系睡眠薬
2)メラトニン受容体作動薬
3)ベンゾジアゼピン系睡眠薬
4)催眠・鎮静系抗うつ薬 E 休薬トライアル
漸減法
CBTI併用法 I 維持療法 H 治療初期
から見据える
出口戦略
#72.
入院患者における不眠のアセスメントのポイント 症状の特徴を把握する:入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒
日中の機能障害(患者の困り感):易疲労感・倦怠感、不安感、希死念慮
身体症状(特に疼痛)を患者は我慢していないか?
疼痛(痛くて寝れない、特に高齢・認知症者)、頻尿(前立腺肥大)、掻痒感(肝不全)、呼吸困難・咳(喘息)
薬剤性の不眠はないか?
ステロイド、中枢神経刺激薬(メチルフェニデート、ベモリン)、ベンゾジアゼピン系薬剤の退薬症状、利尿薬(夜間頻尿)、24時間点滴による利尿作用、喘息薬(エフェドリン、テオフィリン)、抗うつ薬
精神疾患の存在はないか?
せん妄(昼夜逆転や注意力障害など)、うつ病(不眠と共に食欲不振、意欲低下、抑うつ気分などを伴う)、アルコール乱用・依存(飲酒量、せん妄既往、CAGEスクリーニングなど) 72 発表者作成
#73.
(病棟での)不眠の鑑別フロー 主観的・客観的不眠 せん妄 強い不安・焦燥感による不眠 睡眠を障害する身体症状(疼痛・掻痒感) 薬剤性・医原性 うつ病 睡眠関連障害 誤った生活習慣 意識障害(睡眠・覚醒リズムの障害) 過覚醒による不眠 身体疾患に伴う不眠 薬剤性の不眠 症状としての不眠 睡眠障害 精神衛生の問題 緩和ケアレジデントの鉄則 速やかな対応が必要
緊急性 便秘(膨満感・蠕動痛)、発熱・寝汗、頻尿(夜間の輸液) 73
#74.
無意識の三局面 正常な意識状態 意識混濁 眠気 昏蒙 昏睡(各段階) 死 意識 意識されている 前意識 容易には意識されない 無意識 覚醒レベルの低下 睡眠の各段階 深睡眠 正常な睡眠 注意と認識 器質性障害 脳疾患 シムズ記述精神病理学 アンドリュー・シムズ 覚醒
警戒
意識鮮明 解離性障害 せん妄 うつ病 睡眠障害 昏迷 認知症
#75.
ボタンの最初のかけ方を間違えないことが大切 身体疾患での病院入院時、心身のストレスにより、急性の不眠を発症して、「急性不眠症」と診断できる患者は多い。身体的改善、退院がなされるまでの適切な薬物治療とできる範囲での環境調節での苦痛軽減は必要である。
一方で、間違った情報は間違った判断と診断、間違った判断は期待と異なる治療結果につながる(時に、偶然と幸運で、無知と偏見と失敗の海を渡れ、正解にたどりつくこともある)
不眠症の診断、薬物治療の前に、不眠症を含めた睡眠障害の正確な診断と原因治療が、総合病院では重要になる。
特に、不眠と、せん妄による不眠を間違え、ベンゾジアゼピン系睡眠薬を投与すると無益を超えて、有害になってしまう。 75
#76.
標準的不眠時指示 【内服可能時】 前提として、せん妄による不眠を否定
①レンボレキサント(デエビゴ)5mg(高齢者、CYP3A阻害薬内服中は2.5mg) 1日2回まで(1時間空けて) 無効時はmax10(保険用量)を超えないように再投与可
※重度肝機能障害に禁忌 併用薬注意(CYP3A阻害薬)
①スポレキサント(20)1錠 不眠時 1日1回まで
※高齢者はスポレキサント15mgまで 無効時にレンボレキサント追加投与は保険適用外
②トラゾドン25mg 1日3回まで(1時間空けて) ※せん妄時はfirst line
【内服困難・不能時】 興奮時、水分負荷困難時などは筋注も可能
①生食100ml+ヒドロキシジン塩酸塩(25mg)1A(30分以上) ※純粋な不眠に有効
②生食100ml+ハロペリドール1/2A(5mg)(30分以上) ※純粋な催眠作用弱
※パーキンソン病、レビー小体型認知症、重症心不全には禁忌(投与前に診断の有無を必ず確認) 特にせん妄合併時はせん妄にも有効
※誤嚥リスク時も内服困難時に対応は準じる 76
#77.
病棟における不眠時指示の使用アルゴリズム 77 主観的・客観的不眠
入眠困難、中途覚醒・再入眠困難 身体的苦痛 意識障害 あり なし あるいは強くない あり ・身体的苦痛の有無
SpO2低下、著明な血圧低下、頻脈
疼痛、かゆみ、しびれなど
・意識障害の有無
時、場所など見当識障害の有無
数唱、計算の正解 or 不正解 強くあり なし ※強い不安・焦燥感による過覚醒としての不眠、薬剤性・医原性の不眠、うつ病や統合失調症としての不眠、
などは、鑑別が必要(慣れてないと難しい) 可能なら身体的苦痛の医学的処置 不穏時アルゴリズム参照 内服可能時 内服不能時 ①レンボレキサント(デエビゴ)2.5~5mg
①スポレキサント(ベルソムラ)15~20mg ①生食100ml+ヒドロキシジン(アタラックスP)1A静注(30分以上) 筋注可
②生食100m+ハロレイドール(セレネース)1/2Al(30以上) 筋注可
(なるべく避けるべき)
#78.
せん妄と間違えやすい疾患とその対応 せん妄診療実践マニュアル 改訂新版 井上真一郎
#79.
(ただの)不眠とせん妄の不眠の比較
#80.
「せん妄発症」の予測・予防・診察・対応 せん妄発症の予測 発症の可能性なし・皆無 発症の可能性あり せん妄予防ケア せん妄発症の疑い 未発症 発症 せん妄発症の疑いなし せん妄発症の有無の診断・判断 発症時のケア・治療 安全確保・症状対応
悪化予防 原因の明確化・除去 除去可能 除去不能 静穏化可能 静穏化不能 発症時の薬物治療 精神科医が関われるのは主にここから 鎮静?
#81.
「せん妄ハイリスク加算患者ケア加算」の流れの沿ったフローチャート
一次予防 二次予防 STEP1 リスク因子の確認(準備因子の特定) □70才以上
□脳器質的障害
□認知症
□アルコール多飲
□せん妄の既往
□リスクとなる薬剤(特にベンゾジアゼピン受容体作動薬)の使用
□全身麻酔を要する手術後またはその予定があること 1つでも当てはまる場合 STEP2 せん妄の予防対策(直接因子や促進因子の除去) ・患者および家族への説明(パンフレットや動画)
・不穏時・不眠時指示
・せん妄ハイリスク薬(BZ受容体作動薬)の減量・中止・変更/使用回避
・せん妄予防ケアの立案・実施(環境調整やコミュニケーションの工夫など) STEP3 せん妄の早期発見 ・ツールを用いた評価(病棟とICUで別ツールを使用)
・臨床的評価(見当識障害/注意障害)
・他疾患との鑑別(認知症/うつ病/アカシジア/レストレスレッグス症候群) せん妄あり STEP4 せん妄の治療(直接因子や促進因子の除去、薬物療法) ・原因療法(原疾患の精査・治療、原因薬剤の中止)
・薬物療法(主に抗精神病薬)
・非薬物療法(環境調整やコミュニケーションの工夫など) せん妄診療実践マニュアル 改訂新版 井上真一郎 ●評価のタイミング
・術後3日以内は集中的に
・急性疾患では入院時から定期的に
・「何かおかしい「いつもと違う」と感じたときに
・状態変化時や薬剤変更時
入院前または入院3日以内
入院中 81
#82.
まとめ 「不眠症」には、ガイドラインを始め、標準的な治療法がありますが、不眠症=睡眠障害ではありません。
睡眠の問題に対して、医学的のみならず、生物心理社会的要素も含めた包括的評価を行い、不眠症以外の睡眠障害や精神疾患、不眠を引き起こす身体疾患や療養環境の問題点などの鑑別と除外、できるならば原因の改善を図ることが重要になります(現実には難しいことが多いですが)。
一般病棟での入院患者においては、不眠とせん妄に伴う不眠を確実に鑑別しないと、よかれと思って行われた不眠への睡眠薬(特にベンゾジアゼピン系)投与によるせん妄増悪、転倒⇒骨折など様々な有害事象を生じる可能性がある 82
#83.
不眠・睡眠障害の診断・治療のポイント 睡眠パターン(入眠困難、中途覚醒・再入眠困難、早朝覚醒、熟眠障害)と随伴症状、生活への支障・苦痛感の把握、不眠の主な原因(5つのP)、身体合併症など総合的に情報を把握・分析して、評価と診断をする必要がある
不眠症=睡眠障害ではないので、非器質性睡眠障害(原発性不眠症)以外の睡眠障害の鑑別と除外、可能であれば特異的対応・治療に留意する
薬物療法導入前に、できれば睡眠衛生指導など非薬物療法
作用受容体、作用時間、睡眠鎮静作用以外の作用(抗うつ、抗不安、筋弛緩など)をポイントに薬剤選択。基本的に中止で副作用は改善。非可逆的副作用に注意(転倒・骨折など) 83
#84.
不眠症の診断と治療 ①「不眠」の問題(広義には睡眠に関連する問題)」に気づく
②不眠症状のアセスメントを行う
症状(入眠困難、中途覚醒・再入眠困難、早朝覚醒、熟眠感不全)、慢性と急性、随伴症状・疾患、緊急性の評価
③不眠症(DSMの不眠障害)と他の睡眠障害を適切に鑑別する
④不眠の原因や治療介入法を仮説思考する
⑤可能な範囲の睡眠衛生指導、環境調節や内服調節を行う
⑥ゴールを思い描きつつ、薬物治療を開始する
⑦継続的な睡眠薬の調節と薬効・有害事象をモニタリングする
⑧不眠症・睡眠障害治療のゴールを模索し続ける 84
#85.
不眠症の診断と治療 「不眠」の訴え 「睡眠障害」の診断 評価 介入治療 原因の精査と除去 睡眠衛生指導 薬物療法 SAS、RLS、うつ病など 生活習慣の見直し 薬剤選択
薬物療法の利点/欠点の説明
減量・中止の時期・方法の説明 不眠のパターンの確認
睡眠障害のパターンの確認 効果・副作用
の確認と再評価
#86.
Takehome message 心身の多くのストレスがかかる病院(入院・外来共に)で、不眠やせん妄が起きることはむしろ当然であり、今後、高齢者や合併症患者の増える中、病院での不眠やせん妄は発生し続けると思います
不眠もせん妄も、リスクを踏まえた理論的な対応発生・増悪因子の低減・除去、早期発見・早期介入など)が望ましい
一方で、膨大に増加する医療需要の対応する医療関係者が多忙の中、「睡眠」の生理、「睡眠障害」の病態・病理、「睡眠薬」の薬理などを適切に成人学習するのは難しいと思います。駆け足となり申し訳ありませんが、漫然とした不眠時処方(入院時セット処方)の再検討、「不眠」発見時の思考法・対応など参考になるところがあれば幸いです。 86