テキスト全文
シックデイマニュアルの概要と病態
#1. これで完璧︕シックデイマニュアル DIABETES MELLITUS えぬてん@糖尿病・代謝・内分泌内科 SICK DAY
#2. このスライドでは以下について理解できます 1 2 3 4 糖尿病シックデイの病態 糖尿病患者と共有「シックデイルール」 中⽌すべき薬剤、継続できる薬剤の考え⽅ ⼊院基準・受診勧奨基準 「具合悪い時、薬とかどうしましょう︖」と聞かれたとき スマートに答えられるようになります
シックデイの原因と血糖変動のメカニズム
#4. シックデイとは 「普段のように⾷事が取れない…」 それは全て「シックデイ」 <原因となる症状> <こんなのも原因に> 発熱(⾵邪・インフルエンザ・感染症) ⻭科治療などの観⾎的処置後 下痢・嘔吐(胃腸炎など) 精神的なストレス ⾷欲不振(胃腸炎・妊娠悪阻など) 失恋で⾷べられない 糖尿病患者が何らかの原因で、体調を崩したことで ⾷事が取れなくなる状況は注意が必要です
#5. シックデイでは⾎糖が上がりやすくなります ストレス 視床下部 CRH 下垂体 ACTH 交感神経 副腎髄質 副腎⽪質 ストレス時はコルチゾールやカテコラミン、サイトカインが上昇 インスリン抵抗性、糖新⽣によって⾎糖が上昇しやすい環境に
#6. シックデイで怖いのはDKAとHHS ⽔分取れない ⾷べられない 脱⽔ 糖質不⾜ ⾎漿浸透圧上昇(⾎糖上昇) 脂肪分解(ケトン体上昇) ⾼⾎糖⾼浸透圧症候群 (H H S) 糖尿病性ケトアシドーシス (D KA ) 脱⽔と糖質不⾜は⾼⾎糖緊急症(DKA,HHS)発症リスクが上昇します
#7. シックデイでは低⾎糖になることも… 病気で⾷事が取れない、⾷事量が減っている いつもと同量のインスリンを注射してしまった︕ 経⼝⾎糖降下薬の服⽤をしてしまった︕ 低⾎糖
#8. シックデイ病態まとめ ⾷べてないのに⾎糖値が上げるのは ストレスホルモン、サイトカイン ⾷べられない、飲めないは DKA・HHSのリスク 低⾎糖になることもある 患者さんが糖尿病、治療薬の特性を知り シックデイでも対処できるよう情報共有することが重要です
糖尿病患者のためのシックデイルールと食事
#10. 具合が悪い時に患者さん⾃らやるべきこと シックデイルール1 病状の変化を⾃分で調べて把握してもらう シックデイのチェック項⽬ 体温・⼼拍数 1⽇数回 体重 ⾷事・⽔分摂取量 1⽇1回以上 ⾎糖値(尿糖)尿ケトン体 2〜4時間に1回 毎回 「具合悪いのにやってられるか 」 という患者さんには家族にも⼿伝ってもらいましょう
#11. 具合が悪い時に患者さん⾃らやるべきこと シックデイルール2 安静と保温、⽔分・炭⽔化物の摂取 体を休めて体⼒消耗を防ぎましょう 抵抗⼒を⾼めて病気の回復を⽬指す こまめに⽔分補給をしましょう 1000ml~1500ml/⽇は摂取すること 消化の良い炭⽔化物を摂りましょう エネルギー補給を⼼がけてもらう
#12. シックデイおすすめメニュー 脱⽔予防 ⾷欲あるとき うどん おじや シチュー 果物 ⽔分摂取 野菜スープ みそ汁 スポーツ ドリンク ⾷欲ないとき おかゆ アイス ゼリー ジュース 炭⽔化物はすぐにエネルギーになるので100g /⽇以上とりましょう 脱⽔は⾼⾎糖を促進するので⼗分に⽔分補給しましょう
中止すべき薬剤と継続できる薬剤の判断基準
#13. シックデイおすすめメニューに対する質問 「いつも⾷うなって⾔ってるやつばかりじゃないか︕(プンスカ)」 「⾷欲が落ちて、そもそもカロリーが少ない状態では、病気に対抗 できません。⾷べやすいものでいいので脱⽔と摂取カロリーを 維持することの⽅が重要です」 「シックデイの時は抵抗⼒をつけるためにたくさん⾷べていいのかな」 「⾷欲がある時に、体⼒をつけようと⾷べ過ぎるのは禁物です。 ジュースやスポーツドリンクだけ⼤量に飲むのも逆に⾎糖が ⾼くなりますので消化の良いものをとって安静にして過ごしましょう ⾎糖測定してね︕」
#15. 中⽌すべき内服薬の判断基準は副作⽤を意識する イ ン ス リ ン 抵 抗 性 改 善 薬 イ ン ス リ ン 分 泌 促 進 系 糖 吸 収 ・ 排 泄 促 進 系 主な副作⽤ 中⽌︖継続︖ ビグアナイド薬 肝臓での糖産⽣抑制 胃腸障害、乳酸アシドーシス ビタミンB12低下 HHSやDKAリスク ⾼めるので中⽌ チアゾリジン薬 筋⾁・肝臓での インスリン抵抗性改善 浮腫、⼼不全 中⽌後もしばらく作⽤が 残るので中⽌してOK DPP-4阻害薬 ⾎糖に合わせたインスリン 分泌、グルカゴン分泌抑制 SU薬併⽤で低⾎糖増強 胃腸障害、⽪膚障害、類天疱瘡 消化器症状がひどくなる 可能性があるので中⽌ スルホニル阻害薬 (SU薬) インスリン分泌促進 肝障害 グリニド薬 より速やかにインスリン分泌 を促進 肝障害 αグルコシダーゼ 阻害薬 ⼩腸からブドウ糖吸収を 遅らせる 胃腸障害、放屁、肝障害 消化器症状がひどくなる 可能性があるので中⽌ S G LT 2 阻 害 薬 尿からのブドウ糖排泄を促進 尿路感染、脱⽔、ケトーシス HHSやDKAリスク ⾼めるので中⽌ ⾷べる量に合わせて調整 脱⽔・ケトアシドーシス・消化器症状増悪に関与する薬は中⽌
インスリンの調整方法と注意点
#16. S Uと グ リ ニ ド は ⾷ 事 量 に 合 わ せ て 調 整 す る ⾷事ができた量(主⾷量)で調整、⾷直後に内服 スルホニル阻害薬 インスリン分泌促進 アマリール®、グリミクロン® オイグルコン®、ダオニール® グリニド薬 より速やかにインスリン分泌 を促進 グルファスト®、シュアポスト® スターシス®、ファスティック® 主⾷が半量以上 主⾷が半量 主⾷が半量未満 → 通常量を服⽤ → 半量を服⽤ → 内服は中⽌
#17. 持効型インスリンは必ず打つ︕絶対やめない ・持効型インスリン→どんなに具合悪くても継続 ・超即効型インスリン→⾷事量に合わせて調節 主⾷が半量未満→ 内服は中⽌ 主⾷が半量 → 半量を服⽤ ・混合型、中間型→⾷事量に合わせて個別対応 ⾷事が多少⾷べられる→普段と同じ単位数 ⾷事が全くとれない →3割程度減量など
#18. (超)速効型インスリンの調整⽅法 こまめに追加する⽅法(追加インスリン) ⾎糖値 尿ケトン (超)速効型インスリンの追加量 80~250mg /dL (ー)or(+) 追加なし (ー) 1⽇総インスリン量の10% (+) 1⽇総インスリン量の20% (ー)or(+) 1⽇総インスリン量の30% 250~400mg /dL >400mg /dL 1、 家で⾎糖、尿ケトン検査を2〜4時間ごとに⾏う 2、 追加インスリンは超速効型で2〜3時間ごと、速効型は3〜4時間ごと 3、 2回追加しても改善なければ連絡 4、 ⾎糖値<80mg /dLでは投与中⽌、中間型/持効型インスリンを20%減らす 治療が強化インスリン療法(1⽇4回打ち)の⼈は普段から 追加インスリン量とタイミングについて医師と決めておくことが望ましい Laffel L, et al. Joslinʼs DIABETES MELLITUS, 14 th ed., Lippincott Williams &Willkins, 2005:728-730
シックデイにおけるGLP-1受容体作動薬の扱い
#19. シ ッ ク デ イ で の GLP -1受 容 体 作 動 薬 の 扱 い ⽅ シックデイ時の使⽤はケースバイケース 毎⽇投与&容量調節できるもの 消化器症状あり 主⾷が半量未満→ 内服は中⽌ 主⾷が半量 週1製剤 → 半量を服⽤ 消化器症状あるなら中⽌ シックデイなら中⽌ インスリンへの切り替えも検討 コンセンサスが得られていないので、患者さんの病状に応じて個別対応 糖尿病診療ガイドライン2019
入院基準と受診勧奨基準の詳細
#21. ⼊院治療の適応⼀覧 DKAの診断 HHSの診断 ⾼⾎糖を伴う重症感染症 脱⽔が⾼度で経⼝摂取も困難 外来治療にもかかわらず⾼⾎糖が続く時 ⾼⾎糖と感染を伴う⾼齢者 1型糖尿病⼩児で経⼝摂取が困難なとき 糖尿病専⾨医研修ガイドブック改訂第8版
#22. 以下の状態であれば受診を勧めましょう 著しい⾼⾎糖(350mg /dL以上) 尿糖の強陽性が続いている 尿ケトンが強陽性、陽性が続いている 発熱(39℃以上、または38℃くらいが⻑引く) ⾷事が取れていない 息苦しさが続く、または他の強い⾃覚症状 2〜3⽇しても体調回復する兆しがない 薬の量の加減がわからない 糖尿病専⾨医研修ガイドブック改訂第8版
ケーススタディによるシックデイの対応
#23. シックデイの対応 ケーススタディ1 46歳、⼥性、主婦、⾝⻑145cm、体重51.5kg、BMI 24.5 糖尿病罹患歴6年で、メトホルミンとSU薬内服中の2型糖尿病患者。HbA1c6.7%と ⾎糖コントロールは良好。「⻭周炎のため近くの⻭科医院で加療を受けているが、あまり ⾷事が取れない」とクリニックに電話があった。 1, あまり噛む必要のないような⾷べ物(ジュース、スープ、おかゆなど) 特に炭⽔化物と⽔分を⼗分摂取するように指⽰ 2、メトホルミンは中⽌、SU薬は主⾷量に合わせて調整する →主⾷が通常通り取れればSU薬はそのまま →半分程度取れれば半量内服 →半量以下なら中⽌ 3、⾷事摂取不良や⼝渇感が続く場合、または低⾎糖症状が出現する場合は来院を 糖尿病治療ガイド2020-2021より引⽤
#24. シックデイの対応 ケーススタディ2 31歳、男性、⼤学院⽣、⾝⻑180cm、体重69kg、BMI 21.3 体調不良で受診。普段は専⾨医かかりつけの1型糖尿病患者。HbA1c9.0%、 随時⾎糖420mg /dL、抗GAD抗体陽性。 1、尿ケトン測定を⾏う →尿ケトン強陽性、脱⽔状態を認める、反応が鈍い→専⾨医受診or救急搬送 (搬送時間が⻑くなる場合、⽣理⾷塩⽔とインスリン静注をしておく) 2、経⼝摂取が可能→⼗分な⽔分補給を促す 3、インスリン注射の状況を確認、インスリン注射を中断しないよう説明 インスリン注射を迅速に再開で帰宅可能でも近⽇中に専⾨医受診を指⽰ 糖尿病治療ガイド2020-2021より引⽤
シックデイの重要なポイントと参考文献
#25. Tips ・⾷べられなくても⾎糖は上がることを知っておこう ・⽔分や炭⽔化物の摂取が重症化の予防に重要であることを理解しよう ・薬剤で調節可能はSU・グリニド、持効型インスリンは続けよう ・症状や脱⽔、⾎糖値に合わせて受診や⼊院を判断しよう
#26. 参考⽂献 糖尿病専⾨医研修 ガイドブック改訂第8版 糖尿病治療ガイド 2020-2021 糖尿病療養指導 ガイドブック 2021