テキスト全文
人工肛門の種類とケアの基本
#1. 人工肛門の種類と ケアの仕方を学ぼう Melon@消化器外科
#2. ストーマについてこれだけは知っておく ✓ ストーマサイトマーキング ✓ ストーマの分類 ✓ ストーマの作成 ✓ ストーマのケア ✓ ストーマの合併症 ✓ ストーマの閉鎖 ✓ 患者さんからのよくある質問
ストーマサイトマーキングの重要性
#3. ストーマサイトマーキング(クリーブランド基準) ✓ 臍より低い位置 ✓ 腹部脂肪層の頂点(最も高いところ) ✓ 腹直筋を貫く位置 ✓ 皮膚のくぼみ、しわ、瘢痕、上前腸骨棘から離れた位置 ✓ 本人が見ることができ、セルフケアしやすい位置 皮膚にしわやくぼみがあると、パウ チの固定が悪くなり、漏れたり剥が れたりというトラブルの原因になる
#4. ストーマサイトマーキング(大村の原則) ✓ 腹直筋を貫通させる ✓ あらゆる体位(仰臥位、座位、立位、前屈位)をとって、し わ、瘢痕、骨突起、臍を避ける ✓ 座位で患者自身が見ることができる位置 ✓ ストーマ周囲平面の確保ができる位置 通常着用しているベルトやパンツの ゴムの位置なども考慮する。 いつも着ていた服や下着が着れない とQOLが低下する。
#5. 結局、ストマサイトマーキングは ✓ WOCナース(wound ostomy and continence nurse)と一緒に ✓ 臍を中心に水平線と正中線、 肋骨弓下線、上前腸骨棘にペ ンでマーキング ✓ 腹直筋の外縁にもマーキング 緊急手術でもなるべくやろう!
#6. 結局、ストーマサイトマーキングは ✓ 腹直筋を貫く部位 ✓ 患者本人が見やすい場所 ✓ しわやくぼみ、ベルトや下着の ラインを避ける 患者さんにとって「人工肛門」は 好ましくないことが多い。 少しでも扱いやすいように配慮して、 QOLの低下を最小限に!
ストーマの分類とその特徴
#7. ストーマの分類(期間による分類) 永久的ストーマ ✓ 自然肛門が切除もしくは閉鎖されるため、生涯にわたりストーマより便の排出を行う ✓ ハルトマン手術や腹会陰式直腸切断術など ✓ 第4級身体障害者として認定されるのは原則として永久ストーマの場合である
#8. ストーマの分類(期間による分類) 一時的ストーマ ✓ 初回手術でストーマを造設した後、時期を見てストーマを閉鎖手術を行って自然肛門よ り排便ができるようになることを見込んだ一時的なストーマ ✓ 直腸低位前方切除術(特に超低位の場合や放射線治療後など)、ISR(内肛門括約筋切除 術)、潰瘍性大腸炎に対する結腸全摘術、縫合不全の場合など ✓ 一時的ストーマの予定であっても、悪性腫瘍の再発や縫合不全の治癒不良などのために 永久的ストーマとなることがありうる
結腸ストーマと小腸ストーマの違い
#9. ストーマの分類(造設臓器による分類) 結腸ストーマ ✓ 結腸に造設されるストーマ ✓ 肛門側ほど固形に近い通常便となる ✓ ハルトマン手術や腹会陰式直腸切断術の場合は単孔式の結腸ストーマがほとんど ✓ 横行結腸やS状結腸が長く、挙上しやすい場合には双孔式の結腸ストーマも作成可能
#10. ストーマの分類(造設臓器による分類) 小腸ストーマ ✓ 回腸の末端近く(30-40cm)で作成されることが一般的 ✓ 水分の吸収が不十分な状態で排出されるため、液体状で消化酵素を含む ✓ 消化酵素はアルカリ性のため、ストーマ周囲の皮膚への刺激が大きい ✓ 空腸ストーマを作成するのは広範囲な小腸壊死など特殊な場合で、栄養や水分管理に難渋する(短腸症候群) ✓ 脱水傾向となり、尿量も減少傾向 ✓ ナトリウムの排泄が増加 ✓ 胆汁酸の喪失、ビタミンB12欠乏、葉酸の吸収障害による大球性貧血を起こしうる
単孔式ストーマと双孔式ストーマの比較
#11. ストーマの分類(形態による分類) 単孔式ストーマ ✓ 排泄孔はひとつ ✓ ハルトマン手術や腹会陰式直腸切断手術 などに際して下行結腸やS状結腸に造設さ れることが多い 回腸単孔式ストーマ 結腸単孔式ストーマ
#12. ストーマの分類(形態による分類) 双孔式ストーマ ✓ 一時的ストーマとして造設される場合が多い ✓ ストーマ閉鎖術の容易さや縫合不全のリスクが少ない ことなどから回腸末端に造設されるループ式ストーマ が一般的 回腸双孔式ストーマ ✓ 結腸の双孔式ストーマの場合、横行結腸やS状結腸な ど固定が少なく腸管の距離を確保しやすい部位に造設 されることが一般的 結腸双孔式ストーマ
ストーマの作成手順と注意点
#13. ストーマの作成 ✓ 皮膚切開(円形が一般的) 皮膚切開 ✓ 筋膜切開:腹直筋前鞘を切開 (縦切開or十字切開) ✓ 腹直筋を開排 ✓ 腹直筋後鞘を縦切開 縦切開 十字切開
#14. ストーマの作成 ✓ 腸管の挙上経路:腹膜外経路(後腹膜を剥離 して作成したトンネルを通す)と腹腔内経路 (そのまま体外へ) ✓ 腸管と筋膜の固定(一時的ストーマの場合には固 腹膜外経路 定しないことも) ✓ 腸管を外反し、皮膚と腸管を縫合。 腹腔内経路
パウチ交換とスキンケアの重要性
#15. パウチ交換 ✓ リムーバーや剥離剤でパウチをはが す ✓ 泡でやさしく皮膚を洗浄する ✓ 洗い流し、押さえるように水分をふ き取る ✓ 保湿などのスキンケアが重要 ✓ パウチを貼り付け、手のひらで軽く 押さえてなじませる
#16. ストーマの合併症はいろいろありますが… ✓ 皮膚障害 ✓ 粘膜皮膚離開 ✓ ストマ壊死 ✓ 陥没ストーマ
ストーマの合併症とその対策
#17. ストーマ周囲の皮膚障害 ✓ びらん、潰瘍(対策:粉状皮膚保護剤を散布、装具の短期交 換) ✓ 色素沈着、色素脱出(対策困難) ✓ 浸軟(対策:粉状皮膚保護剤を散布、装具の短期交換) ✓ 丘疹(対策:ステロイド概要、装具の短期交換) ✓ 皮膚のシワ(対策:ストーマベルトによる固定強化)
#18. ストーマ周囲の皮膚障害 ✓ 粘膜移植 粘膜組織が皮膚に移植され、ストーマ周囲の皮膚に段差を生じる (対策:硝酸銀、フェノールで移植部分を焼灼) ✓ 皮膚瘻孔 腸管と皮膚の瘻孔 (対策:手術による切除、口側でのストーマ造設)
#19. ストーマの合併症 ストーマ脱出 ストーマが造設時よりも異常に脱出すること 対応:装具や装着の工夫 嵌頓や血流障害、腸閉塞があれば緊急手術に ストーマ 傍ストーマヘルニア ストーマ部やストーマ近傍に生じる腹壁瘢痕ヘルニア 有症状で保存的管理が困難な場合は手術 筋膜縫合による修復術、ストーマ移設術、メッシュを 用いた修復術など 脱出してきた 腸管
ストーマ閉鎖手術の手順と注意点
#20. ストーマ閉鎖 ストーマ閉鎖 ✓ ストーマ口を結節縫合または巾着縫合で閉鎖 (図は結節縫合) 皮膚切開 ✓ 粘膜皮膚接合部の外側数mmに円状に皮膚切開を加え、 脂肪織を切離 ✓ 腹腔内に到達、全周性に腸管と腸間膜を剥離
#21. ストーマ閉鎖 (回腸双孔式ストーマの場合) ✓ 腸間膜の血管を結紮 切離して処理 ✓ 小孔から自動縫合器 を挿入 ✓ 小孔(→)をあける ✓ 腸間膜対側でfire ✓ 挿入孔の直下でfireして 腸管を切離 ✓ 機能的端々吻合の完成 (→は腸管内容の通り 道)
#22. ストーマ閉鎖 (ハルトマン手術後の左側結腸の人工肛門閉鎖術) ✓ 初回手術の状況によって難易度が異なる (初回手術が穿孔性腹膜炎だと癒着も多く、 切離断端が低位だと脾弯曲授動を含む広範 囲の剥離操作が必要になるなど、手術の難 易度が上がる) 脾弯曲授動 ✓ ループ式回腸ストーマの閉鎖よりも手術 合併症が多い 距離が長い
#23. ストーマ閉鎖 続き(閉創) ✓ 腹膜、筋膜の閉鎖 環状縫合 ✓ 洗浄 ✓ 環状縫合による皮膚縫合は直線的縫合閉 鎖よりもSSI (surgical site infection)が少な い ✓ Gunsight 縫合もSSIは少なく、整容性が 高い Gunsight 縫合
患者からのよくある質問と参考文献
#24. 患者さんからのよくある質問 Q. 風呂に入ってもいいですか? Q. 温泉に入れますか? A. 入れます。公衆浴場の場合はストーマ装具をつけて入ります。 自宅では、装具をつけたままでもはずして入浴してもかまいません。 Q. 食事はどのようなものがいいですか? A. 特に制限はありませんが、バランスのよいものをよく噛んで食べましょう。 食物繊維は大事ですが、食べ過ぎるとつまることがあるので切り方を工夫しま しょう。 Q. 運動をしてもいいですか? A. 適度な運動はOKです。人とぶつかり合う競技は避けましょう。 水泳もできます。
#25. Tips ✓ 単孔式vs.双孔式ストーマ、一時的vs.永久的ストーマ、小腸ス トーマvs.大腸ストーマの違いを知っておくだけで理解が深まる。 ✓ ストーマに適した場所は、「腹直筋を貫通させる」「皮膚の くぼみ、シワ、上前腸骨棘の近くを避けた位置」「座位で患者 自身が見ることのできる位置」「ストマ周囲平面の確保できる 位置」「腹壁の脂肪の頂点」である。 ✓ ストマの早期合併症で多いものに、粘膜皮膚離開、ストマ壊 死、ストマ周囲皮膚炎、陥凹などがある。パウチの貼り方など のケアによっては皮膚障害も生じうる。
#26. 参考文献 ✓ 小森 康司ほか:ストーマサイトマーキングのコツと工夫-高度肥満、複数の手術歴がある場合など、 難渋しがちな症例について .手術 75: 789-796, 2021 ✓ 小杉 千弘ほか:ストーマ造設術の適応疾患と基本術式.手術 75: 797-804, 2021 ✓ 小島豊ほか:永久人工肛門の造設.消化器外科 43: 265-272, 2020 ✓ 長嶋康雄ほか:双孔式ストーマ閉鎖術.消化器外科 43: 281-288, 2020 ✓ 三浦卓也ほか:ストーマ造設の短期的管理.消化器外科 43: 295-300, 2020 ✓ 前田耕太郎ほか:ストーマ脱出および傍ストーマヘルニアの治療.消化器外科 43: 273-280, 2020 ✓ コロプラスト: ストーマケアと暮らしのガイドブック 消化管ストーマ(コロストミー/イレオス トミー)用 . https://www.coloplast.ca/Global/Canada/Global%20Educational%20Ostomy%20Tools/Japanese_life %20after,%20colo,ileo.pdf ✓ 日本ストーマ・排泄リハビリテーション学会ほか編:消化管ストーマ造設の手引き.2014年.文 光堂