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腎性貧血の診断と治療の基本
#1. 腎臓の⽣理を理解すると簡単 02 〜腎性貧⾎、低Ca⾎症、⾼P⾎症〜 ⻑澤@腎臓内科 1
#2. 今回のTips 腎性貧⾎は G4 以降に多い → 診断と治療は別物、Hb改善の速度と上限に注意︕ ビタミンDの活性化↓による低Ca⾎症のマネージ →Ca負荷を避けて、少量ビタミンDで⼗分(Caのモニタリング要) ⾼P⾎症の管理 →G4以降に多い、⾷事指導優先︕⼊院患者はP吸着薬必要か︖を常に考える 2
腎臓の生理機能と内分泌
#3. 腎臓の⽣理学的な機能(再掲) ⽔・電解質の調整 ⽼廃物の排泄 エリスロポエチンの産⽣ ビタミンDの活性化 レニンの分泌 尿の⽣成が重要 主に間質の細胞などが傷んで 機能が落ちてくる 3
#4. 今回は主に内分泌なところを中⼼に ▼こちらで解説 ⽔・電解質の調整 ⽼廃物の排泄 エリスロポエチンの産⽣ ビタミンDの活性化 レニンの分泌 尿の⽣成が重要 主に間質の細胞などが傷んで 機能が落ちてくる ※ レニンの分泌についてはよくわかっていない 4
#5. 今回は主に内分泌的機能に注⽬ エリスロポエチンの産⽣ ビタミンDの活性化 レニンの分泌 これらは⽷球体ろ過量(Glomerular Filtration Rate︓GFR)が低下すると⽣じるが、間質の傷み⽅による レニンについてはよくわかっていない ⼤事なポイント 低Ca、⾼P、腎性貧⾎がどの順番ででてくるかは分からない → しかし、これらをマネージできると腎予後が改善する可能性がある 体液量管理やアシドーシスなどのマネージと並⾏して⾏う︕ 5
腎性貧血の診断基準とEPOの役割
#6. GFR↓で起こる事(総論) ※ FGF23:Fibroblast growth factor 23 ⾼K⾎症 アシドーシス 腎性貧⾎ 低Ca⾎症 ⾼P⾎症 PTH上昇 FGF23上昇 CKD G1 ー 10% ー ー CKD G2 5% 6% ー 5% 20% 40% CKD G3 20% 16% 10-20% 5% 10% 30-60% 70% CKD G4 30% 39% 40% 10% 20% 80% 90% CKD G5 40% 56% 50% 15% 50% 90% 95% N Engl J Med. 1999; 341: 709-17 N Engl J Med. 2004; 351: 543-51 Intern Med 2008;47:1315-23 Kidney International 2011;79:1370–1378 Kidney Blood Press Res 2020;45:863-872 PLoS One. 2020 Jul 20;15(7):e0236132 Kidney Int 2007;71:31–38 Kidney Int 2011;79:1370-1378 6
#7. 腎性貧⾎の診断 CKD + Hb < 11.0 g/dL で診断はできる ただし、⼀般⼈の貧⾎の診断は下記(Hb値) 60歳未満 60-69歳 70歳以上 男性 <13.5 <12.0 <11.0 ⼥性 <11.5 <10.5 <10.5 診断と治療は別物 7
#8. EPO濃度は腎性貧⾎の診断に必要︖ CKDが存在し、EPO(エリスロポエチン)が基準値より明らかに低い場合には診断しやすい → 例えば、基準値 4.2-23.7 mIU/mL とすると 3.1 mIU/mL などは明らかにEPO濃度が低いといえる 通常、Hbが低いとネガティブフィードバックでEPOが上がるはず 測定法によるので⾊々基準値がある 基準値を超えていても腎性貧⾎の場合がある → 特に基準値前後の時には判断がつかず悩ましい 例えば、Hb = 10.1 g/dL、EPO = 23.1 mIU/mL だとすると、 「腎性貧⾎」とも「腎性貧⾎ではない」ともいえない 無理してEPO濃度をとる必要はない 8
腎性貧血と鉄欠乏性貧血の関係
#9. ⼤事なのはステージ別有病率 CKDステージ 腎性貧⾎の有病率 G3a 10%弱 G3b 20%弱 G4 40%弱 G4以降ならばエンピリカルに治療開始はあり、 G5 50%強 G3以前では別の原因を探した⽅が良い印象 糖尿病だと各ステージ 5-10% 程度有病率が増える (Diabetes Care 2003;26:1164-9) (PLoS One. 2020 Jul 20;15(7):e0236132) 9
#10. 鉄⽋乏性貧⾎を⾒逃さない 腎性貧⾎は基本的に正球性(MCV=80100) 腎性貧⾎と鉄⽋乏性貧⾎が合併していることもしばしばある → この場合には鉄⽋乏が前⾯に出て⼩球性の貧⾎になることが多い印象 なので、「腎性貧⾎で⼩球性貧⾎はちょっとおかしい」と感じた⽅が良い(鉄⽋乏の原因を探す) 10
腎性貧血の治療目標とガイドライン
#11. 鉄⽋乏性貧⾎の診断 トランスフェリン飽和度(TSAT:transferrin saturation)は感度90%、特異度 40% フェリチンは感度70%、特異度100% → セットでの検査がおすすめ (Eur J Haematol. 2015 ;95(5):467-71) (Br J Haematol. 2013;161:639-48.) 2015腎性貧⾎治療ガイドライン フェリチン<100 ng/mL かつ TSAT<20% の患者 → 鉄補充を考慮 11
#12. 治療⽬標は 11-13 g/dL 13 g/dL を超えたら⼀旦 ESA や HIF-PH阻害薬 を中⽌ → 臨床的には 12g/dL を超えたらブレーキ をかける ※ESA︓Erythopoetin Stimulating Agent ※HIF-PH︓Hypoxia-Inducible Factor Prolyl Hydroxylase (CVDの増加が認められた︓Normal Hematocrit試験,CREATE試験,CHOIR試験,TREAT試験) 0.5 g/dL/週 にとどめる(2.0 g/dL/⽉)→ 1.0 g/dL/⽉ ぐらいが無難 ESAであれば、ネスプAG Ⓡ30 μg/週、ミルセラⓇ 100 μg/2週 が基準で増減 → 週3回のエポエチンを使う理由はよくわからない HIF-PH阻害薬のDoseは添付⽂書を参照 → ESAからの切り替えは、若⼲Hbが下がるDoseとする ADLが低い場合や超⾼齢者はよく考える → 何でもかんでも数値⽬標を達すればいいという話ではない 12
腎性貧血の治療におけるトラブルシューティング
#13. 腎性貧⾎の治療⽬標 CKDでHbが低い⼈ → 腎予後が悪い、CVDイベントが多い (Kidney Int. 2004 Sep;66:1131-8. J Am Soc Nephrol. 2005;16(11):3403-10.) → ただし、ESAなどの介⼊でHbは上がったものの、⽣命予後や腎予後の改善は限定的 むしろ Hb>13 g/dL とすると⼼⾎管イベントが多いなどの報告が出た QOLの改善が主な治療の⽬的となる → そのために、副作⽤を起こさないように配慮することが重要(私⾒) 13
#14. 鉄剤どう⼊れる︖ 経⼝鉄で⼗分なことが多い リオナⓇも鉄⽋乏貧⾎に適応あり → ⾼P⾎症がないのに使う理由はそれほどない 内服ができない場合には 静脈注射 → フェジンⓇ 20 mg × 10-20回、フェインジェクトⓇ 500 mg なども あり フェリチンをモニタリング → フェリチン>300 ng/mL の場合は、鉄⽋乏はまずない 14
#15. トラブルシューティング① ⾎圧 ⾎圧が上がる時(多い) 家庭⾎圧測定を励⾏ 収縮期⾎圧が 150 mmHg を超える時は、受診を早めて降圧薬の追加を検討 Hb値 Hbが上がらない時 鉄⽋乏チェック ESAやHIF-PH阻害薬を増量 → 反応しない場合には失⾎に注意 糖尿病患者では若⼲⼤腸癌が増えることを意識。⼥性の場合は婦⼈科領域の検索もした⽅が良い (年齢に応じて私⾒) 15
腎性貧血の改善に向けたQ&A
#16. トラブルシューティング② Hb値 Hb⾼値に対して瀉⾎は不要(データを⾒たことがない) Hbがちょっと低いくらいで慌てない ⾚⾎球濃厚液の適正使⽤を参照 その他 ESA、HIF治療中で MCV 80前半 はおかしい(だいたい MCV95-105 になる) 便潜⾎などをチェックする 輸⾎依存になった場合には鉄過剰にも注意 輸⾎後鉄過剰症の診療ガイドを参照 16
#17. Q&A︓ESAとHIFどちらが良いですか︖ A.どちらでもいいです。下記を確認ください 基本的にはHIF-PH阻害薬はESAに⾮劣性 どのESAが良い、という明確なデータはない どのHIF-PH阻害薬が良いということはない → 飲み合わせでチェックすることが現実的 ESAとHIF-PH阻害薬の併⽤は保険上厳しい 透析患者には使われない流れ(2022年4⽉診療報酬改定から特に) → 透析患者にはESAを使うように診療報酬的に誘導されている 17
#18. Q&A︓腎性貧⾎が良くならない場合は︖ A. 私は下記の順にチェックします 鉄⽋乏がないか︖ → 初回はTSATとフェリチンをみます。TSATは毎⽉でもOK、フェリチンは3ヶ⽉に1回がレセプト上無難 低栄養がないか︖ → 主にAlbなどをみるが、体重や太ももの太さなどもチェック 上記に問題がない場合、徐々にESAやHIF-PH阻害薬を増量 たまに微量元素不⾜の場合などもある(Znを飲んでいる患者でのCu不⾜とか) 18
低Ca血症の管理と腎臓内科の考慮点
#19. 実は低Ca⾎症はそれほど多くない ⾼K⾎症 アシドーシス 腎性貧⾎ 低Ca⾎症 ⾼P⾎症 PTH上昇 FGF23上昇 CKD G1 ー 10% ー ー CKD G2 5% 6% ー 5% 20% 40% CKD G3 20% 16% 10-20% 5% 10% 30-60% 70% CKD G4 30% 39% 40% 10% 20% 80% 90% CKD G5 40% 56% 50% 15% 50% 90% 95% N Engl J Med. 1999; 341: 709-17 N Engl J Med. 2004; 351: 543-51 Intern Med 2008;47:1315-23 Kidney International 2011;79:1370–1378 Kidney Blood Press Res 2020;45:863-872 PLoS One. 2020 Jul 20;15(7):e0236132 Kidney Int 2007;71:31–38 19 Kidney Int 2011;79:1370-1378
#20. 腎臓内科が低Ca⾎症を診たときに考える事 薬剤性︖ PTH製剤(多い) RANKL製剤(多い) ビスホスホネート製剤(稀にある) だいたいは⾻にCaを押し込むので、低Ca⾎症になる 臨床的にはビタミンDを併⽤することが多い ※RANKL:receptor activator of nuclear factor-kappa B(RANK)ligand 低Mg⾎症はない︖ → こちらも⽩⾦製剤などの薬剤性が多い しかし、PPI単独の低Mg⾎症による低Ca⾎症は診たことがない 薬剤性ではない低Ca⾎症はかなり難しい → PTH分泌不⾜、レセプターの異常は激レア 副甲状腺の術後におこるHungry Bone Syndromeなどは通常ケアされている 20
高P血症のマネージメントと食事指導
#21. CKDに伴う低Ca⾎症のマネージ 個⼈的にはビタミンD少量で良いと思う ビタミンD投与 → Ca↑↑、PTH↓ 使うならば、この2つの値をモニタリングしながら Ca負荷は好まない(シュウ酸Caによる尿路結⽯予防を除く) ⾎液透析導⼊期のCa値⾼めは予後が悪い(⾎液透析導⼊後もでも悪い) ⾻粗鬆症についても効果は不確か その割に患者さんは「サプリ」なども含めてとっている場合が多い(ビタミンDと相互作⽤で⾼Ca⾎症を起こす) → 通常の⾷事が摂れている場合には、Caを無理に負荷しない⽅が良いと思う 余計なCa負荷は⾻にいかず、⾎管の⽯灰化にいくイメージ Ca値は下限を⽬指すのが良い Ca = 8 mg/dL ちょっとが予後が良い印象 PTHは正常範囲を⽬指す → Intact PTH でも whole PTH でも好きな⽅で良い 21
#22. ⾼P⾎症は G4-G5 以降 ⾼K⾎症 アシドーシス 腎性貧⾎ 低Ca⾎症 ⾼P⾎症 PTH上昇 FGF23上昇 CKD G1 ー 10% ー ー CKD G2 5% 6% ー 5% 20% 40% CKD G3 20% 16% 10-20% 5% 10% 30-60% 70% CKD G4 30% 39% 40% 10% 20% 80% 90% CKD G5 40% 56% 50% 15% 50% 90% 95% CKDに伴わない⾼P⾎症はややこしいことが多い → 意外と直前の⾷事の影響を受ける 22
#23. 実は FGF23 → PTH → ⾼P⾎症(臨床的に) ⾼K⾎症 アシドーシス 腎性貧⾎ 低Ca⾎症 ⾼P⾎症 PTH上昇 FGF23上昇 CKD G1 ー 10% ー ー この順に上昇する CKD G2 5% 6% ー 5% 20% 40% CKD G3 20% 16% 10-20% 5% 10% 30-60% 70% CKD G4 30% 39% 40% 10% 20% 80% 90% CKD G5 40% 56% 50% 15% 50% 90% 95% FGF23⾃体はビタミンDの代謝、尿細管に作⽤してPを下げる⽅向に動く (⽇腎会誌 2014;56:1210-1217) ただし、CKDでFGF23は保険を⽤いて測ることができない 23
#24. CKDに伴う⾼P⾎症のマネージ ⾼P⾎症のときにはP吸着薬を検討する 当たり前だが、⾷事指導を優先させた⽅が良い 正P⾎症には無理して吸着剤を使う必要がない → そうなると⾼P⾎症はG4-5あたりから出てくるので、⾮専⾨医には通常必要ない Pの多い⾷事(たくさんある)→栄養と兼ね合いを考える ⾁・⿂・乳製品はPが多いが、栄養の観点からは中⽌しにくい(⼲物は避けてもらう) 避けた⽅がいいモノ︓スルメやビーフジャーキーなど(栄養の割に塩分もPも多い) 「毎⽇ケーキ︕」などは週1回程度にしてもらう ここでもCa負荷は好まない 使うならばCa⾮含有のP吸着薬 実はCaを上げなければ、P吸着は何でも良い CKDの診療では Ca×Pを低く管理するのがポイント 24
PTHとFGF23の介入に関するQ&A
#25. Q&A︓⼊院患者にP吸着薬続けますか︖ A. やめて良い 病院⾷であれば、過剰にPを摂取することはない → じわじわPが下がる。下がらない場合には間⾷などをチェック 年単位の動脈の⽯灰化に関与しているので、⼀週間や⼆週間やめてもどうって事はない 「⼀般的に⼊院中に吸着薬が必要か︖」と常に考える → K吸着薬やクレメジンなど、いずれも摂取過剰に対しての薬である 吸着薬も相互作⽤が多い薬である チラージンの吸収障害はよく出会う 特に急性期病院で本当に必要か考える 当たり前だが「低P⾎症」になっているときはやめる → 栄養障害などがある低P⾎症は予後がかなり悪い(⾼P⾎症よりも) 25
#26. Q&A︓PTH、FGF23に介⼊した⽅が良いですか︖ A. 保険適応的に厳しい 保存期CKDの⼆次性副甲状腺機能亢進症へのCa受容体作動薬は保険適応外(2022年06⽉時点) シナカルセト クリースビータ(ヒト型抗FGF23モノクローナル抗体)は 「FGF23関連低P⾎症性くる病、⾻軟化症」に適応 エボカルセト エテルカルセチド ウパシカルセト CKDの⾼P⾎症は、GFR低下に伴う排泄障害なので、⾷事などを制限した⽅が良い 26