テキスト全文
血液ガス分析の基本と意義
#1. 血液ガス分析酸塩基と呼吸分析の型 2022/04/20 淡海医療センター
#2. 血液ガス分析でなにをみる? ガス交換
酸素化AaDO2, CO2蓄積
2. 酸塩基平衡
まず緩衝 →
次に呼吸性調節 →
腎による調節(24時間)
あとは Hb, 電解質(Ca), 一酸化炭素などが迅速で出る
#3. いつ動脈穿刺が必要か?静脈血液ガスの意義と注意
動脈血と静脈血の違いと評価
#4. 動脈血と静脈血の差 酸塩基平衡の評価だけなら静脈で良い
#5. SpO2の注意事項 (SaO2, PaO2との解離) 【SaO2とSpO2が解離】
末梢のみの循環不全
(末梢動脈疾患, 寒冷)
マニュキュアなど
【SaO2/SpO2とPaO2が解離】
酸素解離曲線と一致しない
メトヘモグロビン血症
CO中毒 N Engl J Med 2019; 381:1158 Wikipedia
#6. ガス交換の評価PaO2低下(低酸素血症)の病態生理
PaCO2と低酸素血症の病態生理
#7. 1. PaCO2上昇あり(Ⅱ型) A-a DO2非開大
CO2産生過剰
肺胞低換気
#8. 2. PaCO2上昇なし A-a DO2開大
拡散障害
VQミスマッチ
シャント(VQミスマッチの一種)
0. 酸素分圧が低い
#10. 酸塩基平衡の評価 型通り順番に分析する習慣をつける
酸塩基平衡の評価と混合性障害
#11. 分析の型 (BaseExcessは使わない) pHが7.4より上(アルカレミア)か、下(アシデミア)かから、
一次性変化を決定する
原則: 一次性変化はpHに反映される。代償性変化はovershootしない*
代償性変化は予測範囲内(ノモグラム or 予測式)にあるかをチェック 予想範囲になければ混合性障害が考えられる
AnionGapを計算する。AG=「測定できない酸の上昇」があるかの検討** AG = Na - (HCO3+Cl) 正常値は12
混合性障害のさらなる検討: 補正HCO3またはΔAGを計算する
患者病態と整合性の検討を行う
*敗血症やアスピリン中毒などの例外あり
**正確には後述のアルブミン補正などが必要
#12. 使い方
pHをプロット
HCO3をプロット
pCO2確認
(カーブに沿って右上)
領域を確認
臨床像と矛盾しないか?を検討
例:
pH 7.13, HCO3 26, pCO2 80
→
☆ 呼吸性アシドーシス+代謝性アシドーシスの混合性変化 動脈血液ガス ノモグラム ☆
#13. 代償性変化の予測式 予測範囲に収まらなければその他の変化(混合性障害)がある
#14. Anion Gap: 電荷から求める酸直接測定できない不揮発性有機酸で、陰性に荷電(陰イオン) 【AGが低く計算される = AG acidosisが隠れることあり】
陰イオンの減少
アルブミン1g/dl低下でAG 2.5~3mol低下
(低アルブミン血症ではAGが増加する病態が見えにくい)
陽イオンの増加
IgG上昇 :IgG MyelomaではAG低値
Br :ブロム中毒ではAG低値
Li中毒 高Ca 高K 高Mg などでも 初学者はとばす!
混合性障害の分析と臨床シナリオ
#15. 混合性障害の分析その1 ΔAG 混合性変化は3つ以上共存しうる
(呼吸性アルカローシスと呼吸性アシドーシスの2つは混在しないが)
AGが増加するタイプのアシドーシスだけなら
AGの変化(ΔAG) = AG – 12 はHCO3の変化と一致するはず。
補正HCO3=ΔAG + 測定HCO3を計算して、
正常値25以上なら別の代謝性アルカローシス、
正常値25以下ならnon AG アシドーシスが共存する。
(次頁は言い換え)
初学者はとばす!
#16. 混合性障害の分析 その2 Δgap
Δgap, Gap gap : 正常値は0 ± 6
単純なAGアシドーシスではAG が1mol/L増加すると、HCO3 が
1mol/L低下する。Δgapはこの関係が崩れていることを示す
Δgap = (AG測定 – AG正常12) - (HCO3測定値– HCO3正常値24)
Δgap > 0 代謝性アルカローシスが共存
Δgap < 0 AG正常高Cl性代謝性アシドーシスが共存
初学者はとばす!
#18. 60歳代女性 脳腫瘍術後 外来通院で術後放射線・化学療法中
呼吸器疾患なし
癌性髄膜炎(頭痛)で入院、その後半日で急速に進行する意識障害と血圧低下あり
敗血症性ショックの疑いでコンサルトされた
動脈血液ガス(室内気)
pH 7.072 pCO2 119.0 pO2 105.0 HCO3 33.9
Lac 0.9 mmol/L
分析と検討
急性呼吸性アシドーシスと乳酸アシドーシス
#19. 急性呼吸性アシドーシス アシデミア(酸血症)をおこしているのは呼吸性
代償性の代謝性アルカローシス
意識障害 → 呼吸抑制 → CO2蓄積
注意:この症例はCO2ナルコーシスではない
ナルコーシスであれば、室内気では低酸素も
あるはずで、慢性呼吸性アシドーシスとして
代償性にHCO3>50になる
#20. CO2が蓄積 ≠ CO2ナルコーシス CO2ナルコーシスの病態生理
・慢性呼吸筋疲労によるCO2蓄積 + 低酸素血症
・徐々にCO2センシング消失 低酸素だけで呼吸ドライブ
・酸素投与でpO2上昇し、低酸素ドライブ消失
・呼吸減弱から停止(さらにCO2蓄積)
慢性CO2蓄積・呼吸筋疲労に注意すればCOPDの低酸素に酸素投与することは、悪いことではない
#21. 47歳 男性 アルコール多飲 意識障害で搬送
ERでVfを起こして、CPR・除細動施行直後
Na 134mEq/L, K 3.6mEq/L, Cl 95mEq/L
BUN 6.3mg/dl, Cr 0.99mg/dl
pH 7.238, pCO2 33.2mmHg, HCO3 13.8mEq/L
Lactate 8.8mmol/L
分析と検討
#22. AG開大型代謝性アシドーシス乳酸アシドーシス アシデミアの原因は代謝性アシドーシス
AG は22以上に上昇
AGの上昇分は、乳酸値の上昇分と一致する
循環不全にともなう乳酸産生 ↑
乳酸正常値 0.44-1.78mmol/L(4-16mg/dL)
アニオンギャップと浸透圧ギャップの計算
#24. AG acidosis覚え方 覚えられないけどね M: Methanol intoxication
U: Uremia
D: Diabetic Ketoacidosis
P: Paraldehyde intoxication
I: Infection (sepsis)
L: Lactic acidosis
E: Ethylene glycol intoxication
S: Salicylate intoxication, Seizures, Shock
#25. 血漿浸透圧Gap 薬剤性の AG 上昇(メタノール・エチレングリコール中毒)を疑った際には、浸透圧ギャップ の計算が有効。 (直接測定しにくい濃度の代用)
OG = 実測血漿浸透圧 ‐ 計算血漿浸透圧 (2Na + BUN/2.8 + Glu/18)
OG >10 mOsm/kg であれば、測定されない浸透圧物質が示唆される
例えば OG = 70mOsm/kgの場合、エタノール分子量は46であり、血中エタノール濃度= 70mOsm/kg x 46 g/Osm÷10 =322 mg/dL
強度酩酊に相当
#26. 98歳女性 慢性心不全・認知症・るいそう 急性の呼吸困難で救急搬送
高血圧あり アゾセミドと抑肝散内服
胸部レントゲンでButterfly shadowあり BNP 720
pH 7.45, pCO2 60.7mmHg, HCO3 38.7mEq/L
pO2 129mmHg (O2リザーバー10L )
Na 141mEq/L, K 2.1mEq/L, Cl 96mEq/L
BUN 14.5mg/dl, Cr 0.6mg/dl
分析と検討
代謝性アルカローシスの原因と評価
#27.
[混合性障害]
慢性代謝性アルカローシス
+
慢性呼吸性アシドーシス
偽性アルドステロン症、利尿剤による低K、
有効循環血漿量低下、呼吸筋疲労などの混在
#28. 代謝性アルカローシス CO2↑から呼吸性アシドーシスとの誤認に注意 → 脱水 ・ 低K ・ アルドステロン
#29. 代謝性アルカローシス 3K+ABCD 1. 体液量減少 (kawaki カワキ)2-1. 低カリウム (慢性) 2-2. 鉱質コルチコイド過剰 (ketsuatsu ケツアツ) 多くは低Kとセット。低Kの評価へ
#30. 数ヶ月前から呼吸困難感あり採血や胸腹部CTでは異常なし他に原因不明の体重減少5kg有り喫煙歴なし 呼吸器疾患既往なし 74歳 男性 これまで著患なし 分析と検討
乳酸アシドーシスの分類と病態
#31. 慢性+急性 呼吸性アシドーシス 身体診察で繊維束性攣縮あり
ALS 筋萎縮性側索硬化症
ALSでは筋がpathyに侵される
10-20%程度は呼吸筋から初発する
呼吸性アシドーシスの本質は呼吸筋力の低下に伴う肺胞低換気!
#32. 62歳男性 進行リンパ腫末期 発熱・頻呼吸あり
循環動態は問題なし(低血圧・ショックなし)
腎機能や尿酸値やLDH等にも変化無し
pH 7.15
PCO2 23
HCO3 7
Na 135, Cl 90, Lac 22 mmol/L 分析と検討 Mayo clinic proceedings 2018より改変
#33. 乳酸アシドーシス(AG開大) Type B Lactic acidosis
組織低還流を伴わないタイプ
#34. 乳酸アシドーシスの分類AG開大型代謝性acidosisの代表選手
非アニオンギャップアシドーシスの鑑別
#35. 腫瘍に伴う乳酸アシドーシスWarburg effect Science 2009 腫瘍細胞が有酸素下でも解糖系でATPを産生し、乳酸産生をおこす現象
#36. case1. 80代女性 CKDあり 高血圧、コントロール不良の糖尿病に長期罹患
【静脈血液ガス】
Na 143mEq/L, K 5.6mEq/L, Cl 118mEq/L
BUN 37.0mg/dl, Cr 1.54mg/dl
pH 7.255, pCO2 40.2mmHg, HCO3 17.0mEq/L
分析と検討 1/3
#37. case2. 42歳女性 全身倦怠感と脱力感がつよく働けない
以前から口渇感と目の渇きがある
Na 135mEq/L, K 1.2mEq/L, Cl 114mEq/L
BUN 12mg/dl, Cr 1.2mg/dl
pH 7.28, pCO2 25mmHg, HCO3 10mEq/L
【尿 ; pH 6.6, Na 35mEq/L, K 30mEq/L, Cl 50mEq/L 】 分析と検討 2/3
#39. 緊急透析含めた加療について相談あり pH 7.215, pO2 97.4, pCO2 24.1, HCO3 11.5 分析と検討 3/3
#40. Non AG metabolic acidosisアニオンギャップ正常(高Cl性)代謝性アシドーシス Case1. RTA type4 (アルドステロン作用不全)
高カリウム型尿細管性アシドーシス
Case2. Sjogren症候群に伴うRTA type1
Case3. 回腸導管による高Cl性NAGアシドーシス
長時間尿貯留によりCl再吸収とHCO3排泄が促進
#41. Normal AG acidosis ≒ 「HCO3がもれている」【Na正常のときのCl高値はなにかある】 腎から:
尿細管性アシドーシス(RTA type2 type1,4)
炭酸脱水酵素阻害薬 (eg. アセタゾラミド)
アルドステロン阻害薬、低アルドステロン血症
消化管から:
重度の下痢
尿路変更・回腸導管
正常 AG増大 AG正常
#42. Non AG acidosis ≒ RTA (腎>> 消化管) 臨床的には(いわゆる)Type4RTAがもっとも多い.
中等度のDMやCHFに合併し、Kがやや高い
RTA1 酸排泄障害 管腔内pHが低下しない事による尿酸性化障害
RTA2 重炭酸吸収障害 重炭酸がもれていくとやがてプラトーに達する。
尿中重炭酸排泄増加 UAGはnegative
(RTA4) 低レニン低アルドステロン アルドステロン作用不全
#43. RTAを疑ったら、血清K, 尿pH, 尿AGをチェックする Non AG acidosis RTAの鑑別
#44. Non AG acidosis RTAの鑑別尿アニオンギャップ Urinary net charge
Urine AG = Una + UK – Ucl
尿中の酸(代表はNH4+)排泄を間接的に表す
(酸が排泄されないと尿Cl排泄が低下)
正常は0より低い(特にアシデミアでは酸排泄が亢進するはず)
酸排泄障害で尿AGがプラス(> 0)になる
・ UAG+ (NH4排泄障害あり) ; RTA1 or 4
・ UAG- ; RTA2 初学者はとばす!
#45. Non AG acidosis RTAの鑑別 尿中NH4排泄評価 その2尿浸透圧ギャップ 尿浸透圧ギャップ OG = 実測尿浸透圧 ‐ 計算尿浸透圧
計算尿浸透圧(mosm/kg) = 2 × (尿Na + 尿K ) + 尿UN/2.8 + 尿Glc/18
尿アンモニウム塩は、尿浸透圧を形成する溶質の中で、計算式に入っていない主要な浸透圧物質。代謝性アシドーシスに際し て、腎臓は NH4 + 排泄を増やす。
RTAではアシドーシスに対する腎臓の応答が十分でなく、尿 OG <150 mosm/Lになる。
腎機能が保たれて、腎以外からの重炭酸塩の喪失(下痢や回腸瘻など)では尿 OG >400 mosm/Lになる。 初学者はとばす!
#46. Five Medical gaps臨床で使える5つの内科的ギャップ Anion Gap : AG正常アシドーシス
尿Anion Gap : AG正常アシドーシス
尿浸透圧Gap : AG正常アシドーシス
血漿浸透圧Gap : メタノール中毒etc.
Saturation GAP
#47. Take home points 病態(ガス交換+酸塩基平衡)を把握するために血液ガスをとるのだ!
呼吸性アシドーシスでは肺胞低換気の原因を
代謝性アシドーシスでは最低限Anion gapまで
代謝性アルカローシスを呼吸性アシドーシスと間違えない。K, 血圧, 脱水をチェック