#4.
多発性嚢胞腎の歴史
#5.
古代から中世 ヒポクラテス
BC. 460- BC. 370頃 エウスタキウス
1514 - 1574 1563年にローマの解剖学教授であったエウスタキウスの著書「解剖学小論」に多発性嚢胞腎の記載があるが、単なる形態的な奇形としての認識のみであった。 Nephrol Dial Transplant. 13:2690-6, 1998. 古くは古代バビロニアの楔形文字の記述に「透明な液体を含む複数の嚢胞(bubu’tu lesion) 」が動物や人間に存在することが記述されている。
古代ギリシャのヒポクラテスの記述にも「水で満たされた肝臓が破裂すると、腹腔は水で満たされ患者は死ぬ」という記載がある。
#6.
史上最初の患者 1576年から1586年の間ポーランドの王であったステファン・バートリが初めての記録に残る多発性嚢胞腎患者として知られている。東ヨーロッパで初めて検視されたことでも知られる。
「牛のような大きな腎臓で、不均一なでこぼこした表面をしている」
という記載がある。 ステファン・バートリ 1533 - 1586 G Ital Nefrol. 33 Suppl 66:33.S66.21, 2016. 大きくなっている
#7.
18-19世紀 Galeazzi 1757 Cruveilhier 1835 19世紀にかけてさまざまな解剖学書に多発性嚢胞腎の記載がなされるようになったが、
”cystic degeneration”
(嚢胞変性)
という認識に留まり病的意義の認識はなかった。
#8.
疾患概念の確立 Rayer 1835 “The cystic degeneration of the kidneys, once it reaches the point where it can be detected or suspected during life, is an illness without cure”. Oliva Rayer
1793 - 1867 フランスの解剖学者Oliva Rayerがその著書Traite des maladies des reinsで、初めて嚢胞変性が腎不全の原因であると病的意義を認識した。 O. Rayer, Traite es maladies des reins. 1841. その後、1899年にドイツのSteinerという人が遺伝疾患であることを報告し、遺伝性多発性嚢胞腎の疾患概念が築かれました。 腎臓病治療学
#9.
疫学と診断基準
#10.
疫学 1994年、病院にアンケートを行う形での疫学調査を行い、医療機関に受診している患者は約14600人、将来病院を受診すると想定される患者を合計すると約31,000人、4033人に1例がADPKDと推定された。
本邦の単施設のデータであるが、2017年4月から1年間に健診で腹部Echo検査を受けた47,383人を対象として行った調査では、人口10万人あたり137人であった。730人から1471人に1人がADPKD患者と推定される。 ■日本 ■海外 (推定有病率) イギリス 2,438人に1人
ポルトガル 3,019人に1人
アメリカ 1,075人に1人 エビデンスに基づく多発性嚢胞腎(PKD)診療ガイドライン 2020. 海外と比較しても有病率は大きくは変わらない。 ※医療機関を受診している、するADPKD患者 ※医療機関を受診に関係なくすべてのADPKD患者
(すべてとはいえ健診は受ける程度)
#11.
慢性透析患者での原疾患割合の推移 80 70 60 50 40 30 20 10 原疾患割合の推移[%] 一般社団法人日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況(2022年12月31日現在)
#12.
慢性透析患者での原疾患割合の推移 80 70 60 50 40 30 20 10 原疾患割合の推移[%] 一般社団法人日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況(2022年12月31日現在) 多発性嚢胞腎が原因で透析になった人は1万2千人で約3.7%の割合になっています。糸球体腎炎は年々減少し、糖尿病性腎症、腎硬化症が増加しているという変化はありますが、嚢胞腎の割合はほとんど変わっていません。
これまで治療法がなかったということも影響していると考えられます。
#13.
診断 エビデンスに基づく多発性嚢胞腎(PKD)診療ガイドライン 2020.
#14.
診断 エビデンスに基づく多発性嚢胞腎(PKD)診療ガイドライン 2020. ポイントとしては、① 両方の腎臓に嚢胞があること、② スクリーニングをいつ行うかに関してはコンセンサスはないこと、③ 遺伝子検査は必須ではないこと、が挙げられます。 遺伝子検査が必須でない理由として、責任遺伝子の 1 つである PKD1 遺伝子が,
①変異の位置が不特定で遺伝子領域全般にわたる
② 遺伝子領域が広い(47.2 k b )
③ mRNA が大きい(14.5 kb)
④ エクソン数が多い(46 エ クソン)
⑤90%以上の相同性をもつ 6 個の偽遺伝子が存在する、といった理由により遺伝子検査が難しいことが原因。 武藤智 腎と透析 87(5);765-9, 2019.
#15.
診断に関して 家族歴があり15歳以下で嚢胞が1個でもあれば、遺伝している可能性が高い。
40歳までで嚢胞が5個未満であればADPKDではない。
MRIでADPKDでない16歳から40歳では全部で3個以上あったひとは82人中1人しかいなく、逆に遺伝子変異を持っていた患者では72人中71人が20個以上あり、残り一人も10個以上あった。Echoでは小さいものは発見できないため、高解像のEchoではすべての患者で5個以上あった。したがって16-40歳の患者でEchoで嚢胞が5個未満であればADPKDは除外できる。
中西浩一 小児科臨床 73(5)782-5, 2020 Emilie Cornec-Le Gall, et al. Lancet. 393(10174):919-935, 2019. York Pei, et al. J Am Soc Nephrol. 26(3):746-53, 2015.
#16.
予後
#17.
腎予後 ADPKDでは遺伝子変異をもっている患者はほぼ100%発症するとされている(浸透率100%)。
60歳代で50%近くが末期腎不全となる。 E Higashihara, et al. Nephron. 80(4):421-7, 1998. 1998年に発表された日本の全国疫学研究の結果からグラフを作成したもの。
#18.
腎サイズとGFR 米国241人のADPKD患者
15-46歳 3年間のフォローアップ結果 Jared J Grantham, et al. N Engl J Med. 354(20):2122-30, 2006.
#19.
腎サイズとGFR 米国241人のADPKD患者
15-46歳 3年間のフォローアップ結果 Jared J Grantham, et al. N Engl J Med. 354(20):2122-30, 2006. 両腎容積合計が750 mL未満では30歳以上でも以下でも、腎容積上昇は軽度(5%未満)で、GFRの変化もマイナスになっておらす腎機能低下は認められなかった。 腎容積合計 GFR
#20.
腎サイズとGFR 米国241人のADPKD患者
15-46歳 3年間のフォローアップ結果 Jared J Grantham, et al. N Engl J Med. 354(20):2122-30, 2006. 両腎容積合計が750 -1500mLでは30歳以上でも以下でも、腎容積上昇は5%を超えて、GFRの変化もマイナスになっており腎機能低下進行が認められた。
#21.
腎サイズとGFR 米国241人のADPKD患者
15-46歳 3年間のフォローアップ結果 Jared J Grantham, et al. N Engl J Med. 354(20):2122-30, 2006. 両腎容積合計が1500mL以上では30歳以上でも以下でも、腎容積上昇率はさらに増加し、GFRの低下速度も速くなっていた。腎機能低下と容積は相関が認められている。
#22.
腎不全のリスク分類 J Am Soc Nephrol. 26:160-72. 2015 米国の590人のADPKD患者を5-6年追跡して解析
年齢と腎容積で5つに分類 Class 1A~1E
#23.
腎不全のリスク分類 J Am Soc Nephrol. 26:160-72. 2015 1年あたりの
eGFR変化量 -0.23 -1.33 -2.63 -3.48 -4.78 10年後の
ESRD(%) 2.4 11.0 37.8 47.1 66.9 カテゴリ分類でその後の経過が推測することができる。
#24.
症状と合併症
#25.
症状 初期にはほとんど症状はみとめないが、以下のような症状が生じてくる。 ■腹部膨満 腎容積の増大とともに肝嚢胞も合併するため、両方のサイズが大きい症例では、腹部膨満が強くなり、食思不振などの消化器症状を伴うこともある。 N Engl J Med. 363:71, 2010. 48歳 男性
腎臓は両方で22㎏ 体重の21%であった。
#26.
余談ですが・・・ 2021年6月21日のCNNニュース。イギリスの54歳男性。
6回も脳卒中になった。
両方の腎臓で30kg~40kgになるという。(!)
#27.
症状 ■急性疼痛 嚢胞出血や嚢胞感染に伴って生じる。嚢胞出血の場合肉眼的血尿を伴うことが多い。 ■肉眼的血尿 巨大化した腎が被膜にテンションがかかって生じたり、腎の重さが脊椎や腰背筋に負担をかけて起きる。 ■慢性疼痛 初めて肉眼的血尿を認める年齢は平均30歳といわれる。初発症状となることも多い。嚢胞破裂などにより生じる。 初期にはほとんど症状はみとめないが、以下のような症状が生じてくる。
#28.
腎外合併症 Front Pediatr. 19;5:291, 2018. Lancet. 369:1287-1301, 2007.
#29.
外来フォローでの合併症の注意点 高血圧:血圧管理が重要。50歳未満でeGFR>60で忍容性があれば110/75未満の厳格な降圧療法を行う。ACE阻害薬、ARB使用は推奨。 脳動脈瘤:診断時にMRAでのスクリーニングを行う。その後3~5年ごとのMRA検査を提案する。 心臓弁膜症:診断時に心Echoでのスクリーニングを行う。何年おきに検査すべきという記載はない。 嚢胞感染:ニューキノロン系抗菌薬は脂溶性で嚢胞透過性良好であり嚢胞感染に有効である可能性があるが、乱用は避けるべき。 エビデンスに基づく多発性嚢胞腎(PKD)診療ガイドライン 2020. 嚢胞出血:安静にて自然に治癒するが、貧血が進行して輸血が必要な場合などはIVRが必要となることもある。トラネキサム酸の使用を考慮してよい。
#30.
病態生理
#31.
原因遺伝子 1985年にADPKDの原因遺伝子として16番染色体短腕にPKD1が、1993年に4番染色体長腕にPKD2が同定された。
PKD1遺伝子変異を持つ患者が78%、PKD2遺伝子変異を持つ患者が15%程度であり、残りの7%は他の遺伝子(PKHD1, IFT140, GANAB, ALG8, 不明など)の変異とされている。 PKD1
78% PKD2
15% その他(GANAB、IFT140、不明など)
7%
#32.
原因遺伝子 Polycystin-1
(PC1) Polycystin-2
(PC2) PKD1とPKD2遺伝子はそれぞれpolycystin-1 (PC-1) とpolycystin-2 (PC-2) 蛋白をコードしている。
PC1は非常に大きい蛋白(462kDa)で長い細胞外ドメインを持っている。
PC2は110kDa程度の蛋白でCaイオンチャネルとしての働きを持っている。
PC1とPC2がお互いに連携して機能していると考えられている。 N Engl J Med. 350:151-64, 2004.
#33.
PC1とPC2がないと腎嚢胞を形成する PKD2 homogenous knockout PKD2 heterogenous knockout PKD1もしくはPKD2をノックアウトしたマウスは胎生致死となる。
ノックアウトした胎児マウスを解析すると嚢胞形成し、ヘテロノックアウトでは嚢胞は形成せず正常に腎臓が形成されていた。 Nat Genet. 24:75-8, 2000. 患者さんはヘテロだが・・・?
#34.
Two-Hit Theory PKD1 or PKD2にヘテロ変異を持つだけでは、正常なアリルが働いて嚢胞形成はしない。
体細胞でのさらに正常なアリルに変異が生じることで、その細胞から嚢胞形成する。 Physiology (Bethesda). 30:195-207, 2015. ヘテロの変異で嚢胞が生じてくることの説明にはTwo-Hit theoryが提唱されている。 体細胞突然変異
#35.
嚢胞の形成 Two-Hitを受けた細胞が嚢胞形成するため、理論上はネフロンの全てのセグメントの細胞から嚢胞が生じうる。 N Engl J Med. 350:151-64, 2004. 嚢胞形成する細胞に起こっている変化として以下が挙げられている。 異常な細胞増殖
細胞の極性の異常
細胞よりの異常な液体分泌
過剰な細胞外基質の蓄積 どうしてこのような変化が起こるのでしょうか?
#36.
PC1とPC2は一次繊毛に局在する Physiology (Bethesda). 19:225-30, 2004. 一次繊毛
#37.
PC1とPC2は一次繊毛に局在する Physiology (Bethesda). 19:225-30, 2004. 繊毛は尿細管上皮細胞の管腔側に存在し、尿細管の流量を感知していると考えられている。
PC1とPC2は繊毛に存在し、流量を感知して、細胞内にCaイオンを流入させ、細胞内Caイオン濃度を上昇させる。
このCaイオンの流入により尿細管腔の大きさを調整していると考えられています。(流量が少なければ狭く、多ければ拡張する)
#38.
細胞内Caイオンシグナル PC1やPC2が機能できないと細胞内にCaイオンが流入しない。
細胞内Caイオンの低下は、ACの抑制解除やPDEの活性化阻害を介して細胞内cAMPの濃度を上昇させる。
cAMPの下流シグナルのPKAを介して、様々な細胞内シグナルを活性化し、細胞増殖や嚢胞内液体分泌などにつながっていく。 Am J Kidney Dis. 67:792-810, 2016. PKA:protein kinase A
PDE:phosphodiesterase
AC; adenylyl cyclase
#39.
細胞内Caイオン濃度 PKD1変異により、細胞内Ca濃度は減少している。 PKD1ノックアウトマウスの髄質内層の集合管細胞の細胞内Caイオン濃度を調べた結果。 J Am Soc Nephrol. 18:1740-53, 2007. PC1の機能がなくなると細胞内Ca濃度は本当に低下するのか?
#40.
細胞内cAMP 細胞内cAMPの濃度はPKD1ノックアウトマウスの腎臓で上昇している。 Kidney Int. 73:1394-405, 2008. PC1の機能がなくなるとcAMP濃度は本当に上昇するのか? では細胞内cAMPの上昇が嚢胞形成に関与するのか?
#41.
ADPKDにおいてcAMPは嚢胞形成を促進する J Am Soc Nephrol. 11:1179-1187, 2000. ヒトADPKDの嚢胞細胞を用いた細胞培養実験結果。
cAMP投与により嚢胞形成が促進する。 cAMP添加培養 cAMP添加 cAMP非添加 cAMP添加 cAMP非添加
#42.
Kidney Int. 73:1394-405, 2008. 大きい嚢胞はDistal nephron由来 Normal ADPKD LTA
(近位尿細管)
DBA
(遠位尿細管)
#43.
Kidney Int. 73:1394-405, 2008. 大きい嚢胞はDistal nephron由来 Normal ADPKD LTA
(近位尿細管)
DBA
(遠位尿細管) 理論上はすべてのセグメントから嚢胞ができてもよいが、実際には嚢胞はDistal nephron由来であった。
なぜか・・・?
#44.
Vasopressin N Engl J Med. 372:1349-58, 2015. Vasopressinは遠位尿細管のV2Rという受容体に結合しして、尿中の水の再吸収を亢進させる。
#45.
Vasopressin N Engl J Med. 372:1349-58, 2015. VasopressinはV2Rに結合し、細胞内cAMPを上昇させ、PKAを介して細胞内シグナルを活性化する。
最終的に、集合管でAQP2を発現を促進して、水の再吸収を増加させる。
#46.
Vasopressinとの関連 ADPKDマウスでは、AQP2とV2R発現が亢進していた。 Kidney Int. 73:1394-405, 2008. 嚢胞の主体は遠位ネフロンであり、Vasopressinが嚢胞形成に重要であるとの認識が広まった。
#47.
Vasopressinにより嚢胞は悪化する J Am Soc Nephrol. 26:39-47, 2015. dDAVP:vasopressin誘導体 Vasopressinを阻害することがでADPKDの進行を抑えられるのではないか?
#48.
Vasopressin阻害により嚢胞形成は抑制される Nat Med. 10:363-4, 2004. Control Vasopressin 阻害薬 ADPKD
モデルマウス
#49.
現在の治療薬
#50.
トルバプタン(商品名:サムスカ) サムスカは2010年に他の利尿薬で効果不十分な心不全の適応となるV2R拮抗薬で、発売。以後、2013年に肝硬変、2014年にADPKD、2020年6月にSIADHに適応が追加されている。 Torvaptan https://jinzounet.pro/%E7%89%B9%E9%9B%8632%E7%AC%AC1%E7%AB%A0/
#51.
TEMPO 3:4試験Tolvaptan Efficacy and Safety in Management of Polycystic Kidney Disease and its Outcomes
常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)患者を対象とし、
トルバプタンの長期安全性及び有効性の検討を目的とした、
多施設共同、二重盲検、プラセボ対照、並行群間、第Ⅲ相国際共同試験 TEMPO 3:4 trial
#52.
15 カ国 129 施設 1445 例が登録 TEMPO 3:4 trial 18歳~50歳
Ccr≧60 mL/min
両側腎容積≧750 mL ■対象 ■方法 サムスカを36か月間投与
用量は60~120mg
#53.
TEMPO 3:4 trial N Engl J Med. 367:2407-18, 2012. ■3年間での腎容積変化 Placebo
18.75%増加
Tolvaptan
9.56%増加 49.2%抑制!!
#54.
TEMPO 3:4 trial ■年間あたりのeGFR変化 Placebo
-3.70 mL/min/1.73m2
Tolvaptan
-2.72 mL/min/1.73m2 31.6%抑制!! N Engl J Med. 367:2407-18, 2012.
#55.
REPRISE trial REPRISE試験
Replicating Evidence of Preserved Renal Function: an Investigation of Tolvaptan Safety and Efficacy in ADPKD CKD stage G2以降の進行したADPKDでの
Torvaptanの安全性と有効性を検証する
多施設,二重盲検,プラセボ対照,国際共同試験
#56.
REPRISE trial N Engl J Med. 377:1930-42, 2017. 18歳~65歳
eGFR≧25-65 mL/min
eGFR変化 >-2.0/yr ■対象 ■方法 サムスカを12か月間投与
用量は60~120mg eGFR
25-65
年齢(歳)
18-55 eGFR
25-44
年齢(歳)
56-65
#57.
REPRISE trial ■年間あたりのeGFR変化 Tolvaptan
-2.34 mL/min/1.73m2
Placebo
-3.61 mL/min/1.73m2 N Engl J Med. 377:1930-42, 2017.
#58.
トルバプタン(商品名:サムスカ) Torvaptan ADPKDに使用する場合
① 両方の腎容積の合計が750mL以上
② 年間容積成長率5%以上
上記の基準を満たすことが投与基準となっている。
※eGFR≦15 mL/minのステージ5では使用不可
#59.
トルバプタン(商品名:サムスカ) ADPKDに使用する場合
用量
朝45mg 昼15mgから開始
➡朝60mg 昼30mg ➡朝90mg 昼30mg(最大量)へ
1週間以上の間隔をあけてじょじょに増量していく。
薬価
120mg/日 で約1万2千円/日 1か月で約36万円
#60.
指定難病 ADPKDは指定難病疾患です。
条件
つぎのいずれかを満たす場合
CKD重症度分類ヒートマップが赤
腎臓の用量が750mL以上かつ容積増大率年5%以上 サムスカ投与基準を満たして
いれば難病申請も可能
#61.
副作用 N Engl J Med. 367:2407-18, 2012. 口喝、多尿がもっとも多い副作用
約15%の人が副作用のせいで内服中止となっている。
トルバプタン服用中は2-3L以上の飲水が必要で尿量は5-6Lになる。
#62.
研究中の治療薬
#63.
現在開発中の薬剤 スフィンゴ糖脂質合成阻害薬Genz-123346を投与。
スフィンゴ糖脂質は種々の細胞内シグナルに関与し、その中にAkt-mTOR経路の活性化や細胞増殖がある。
Nat Med. 16:788-92, 2010.
#64.
現在研究中の薬剤 メトフォルミン(MET)と2-ジアシルグリセロール(2-DG)を投与。
細胞増殖を抑える働きがあり、抗がん剤としても臨床研究が行われている。
Br J Pharmacol. 176:711-724, 2019.
#65.
Kidney Int. 100:684-696, 2021. メトホルミンの臨床研究 ボストンとボルチモアの病院を受診した患者が対象。
GFR低下はプラセボと比較して抑えたが、腎容積はプラセボに比較して増加した。
#66.
シナカルセトの研究 Ca感知受容体は下流にPDE活性化を介してcAMP上昇を抑制するため、その作動薬のシナカルセトを投与することで嚢胞形成を抑制できた。
ADPKDモデルマウスにシナカルセトを7日間投与して嚢胞形成を抑えられた。 溶媒のみ シナカルセト Pattareeya Yottasan, et al. Transl Res. 265:17-25, 2024.
#67.
iPS細胞を用いた研究 Shin-Ichi Mae, et al. Cell Rep. 42(12):113431, 2023. ヒトiPS細胞を用いて腎集合管から嚢胞が自然発生するオルガノイド作成に京大iPS細胞研究所が成功している。 このADPKDモデルのオルガノイドの研究過程でレチノイン酸受容体(RAR)のアゴニストで旧生前骨髄球性白血病の治療に用いられるATRAがADPKDモデルマウスでの嚢胞の成長を抑制した。 PKDモデルオルガノイド TTNPB; RAR作動薬 PKDモデルオルガノイド ミニチュア臓器
#68.
おわりに ADPKDは単一の遺伝子異常によって発症する頻度の高い遺伝性腎疾患である。
腎臓の大きさと腎不全には相関がある。
腎臓以外にも脳動脈瘤や心臓弁膜症などの合併症を伴う。
現在進行を遅らせる唯一の認可された治療薬としてトルバプタンが使用可能。
現在複数の薬剤の臨床研究が進んでいる。