急性期総合病院
初期研修医が知っておきたい入院患者が発熱した時のアプローチ
#抗菌薬選択
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最終更新:2022年6月24日
初期研修医が知っておきたいCandida血症の適切なマネージメント
#Candida血症 #ミカファンギン
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最終更新:2022年5月20日
初期研修医が知っておきたい黄色ブドウ球菌血症の適切なマネージメント
#PREDICT score #黄色ブドウ球菌
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最終更新:2022年5月30日
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No more 耐性菌!! 初期研修医が知っておきたい 尿路感染症の適切なアプローチ Lemon@感染症 日本感染症学会専門医・指導医・評議員 twitter: @Dr_lemon_infect
Take Home Messages 1. 膿尿、細菌尿 = 尿路感染症ではない 考えなしに抗菌薬処方は耐性菌をつくるため禁忌! 2. 抗菌薬は、尿のグラム染色の所見などを参考 に選択する 細いグラム陰性桿菌がいる場合、緑膿菌の可能性があり広域抗 菌薬が必要 3. 急性腎盂腎炎は、適切な治療によって48~ 72時間で解熱することが多い 治療経過が不良の場合は膿瘍ドレナージなど必要か考慮する
本スライドのゴール • なんとなくの尿路感染症の診断をやめる • 頻度の多い尿路感染症の適切なアプローチを学ぶ 本スライドの対象 • 尿路感染症のアプローチに自信をもてない全ての初 期研修医
4.
目次 1. 尿路感染症の診断における3つの誤解と適切な診断 方法 2. 尿路感染症における抗菌薬の選択方法 3. 尿路感染症の治療失敗時の考え方
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目次 1. 尿路感染症の診断における3つの誤解と適切な診断 方法 2. 尿路感染症における抗菌薬の選択方法 3. 尿路感染症の治療失敗時の考え方
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尿路感染症ってどんなイメージ? 尿路感染症は簡単! 誰でも診れるから面白くない 尿培養を取って、 抗菌薬を投与するだけでしょ? 尿路感染症診療は奥が深い 多くの誤解が存在する 尿路感染症を制する者は感染症診療を制する
7.
尿路感染症の診断における誤解 ① 膿尿と尿中細菌陽性≠尿路感染症 85歳男性 ・右大腿骨頸部骨折のため入院 ・人工骨頭置換術後7日目に38℃の発熱あり ・膿尿と細菌尿を認め、尿培養で大腸菌が検出 ・感受性のある抗菌薬を投与して72時間が経過 ・発熱が続いているため感染症科コンサルト
8.
よく診察してみると… • 左膝関節に発赤と腫脹あり • 膝関節穿刺を行い、関節液を観察 すると、好中球が結晶を貪食する 像あり • 発熱+膿尿・細菌尿=尿路感染症と判断した が結晶性関節炎(偽痛風)だった • 発熱と尿所見をみて尿路感染症と決めつけて しまった
9.
無症候性細菌尿 尿中に病原微生物を保持している状態 • 健康な若年女性 : 1.0-5.0% • 健康な高齢者 : 男性 3.6-19.0%、女性 10.8-16.0% • 施設入所中の高齢者 : 男性 15.0-40.0%、女性 25.0-50.0% • 膀胱留置カテーテル使用者 : 100% 基本的には抗菌薬治療をしない (例外は:妊婦、泌尿器科手術前) IDSA Guidelines for the Diagnosis and Treatment of Asymptomatic Bacteriuria in Adults, 2005
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尿路感染症の診断における誤解 ② 尿中亜硝酸陽性≠尿路感染症 70歳女性 ・脳梗塞のため入院 ・入院後14日目に38℃の発熱あり ・尿中亜硝酸陽性を認め、尿培養で大腸菌が検出 ・感受性のある抗菌薬を投与して72時間が経過 ・発熱が続いているため感染症科コンサルト
11.
尿中亜硝酸陽性 亜硝酸 偽陰性に注意 ・尿中に亜硝酸が少ない ・尿中の細菌滞在時間が4時間以内 ・緑膿菌や腸球菌など非亜硝酸塩産生菌 腸内細菌 還 元 亜硝酸塩 尿中に腸内細菌が存在することを示唆するだけ 感染症を起こしているかの判断はできない
12.
尿路感染症の診断における誤解 ③ 発熱+CVA叩打痛陽性≠尿路感染症 90歳女性 ・施設入所中 ・38℃の発熱のため救急搬送 ・身体所見で右CVA叩打痛陽性を認める ・尿路感染症の疑いで、セフトリアキソンを投与する も発熱が続いているため感染症科コンサルト
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CVA叩打痛 CVA=CostoVertebral Angle(肋骨脊椎角) 第12肋骨と腰椎に挟まれた部分に腎臓が存在し、 ここを叩いて疼痛が誘発されればCVA叩打痛陽性 国家試験的にはCVA叩打痛陽性=急性腎盂腎炎 急性腎盂腎炎の診断における 陽性尤度比 1.7 陰性尤度比 0.9 CVA叩打痛単独では除外も確定診断もできない JAMA. 2002;287(20):2701-10
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CVA叩打痛でrule inすると 急性胆嚢炎 化膿性椎体炎 Fitz-Hugh-Curtis症候群 腎梗塞 腎盂腎炎を 見逃す可能性あり など CVA叩打痛でrule outすると 嘔気・嘔吐を主訴に来院 膀胱炎症状がない →急性胃腸炎 ? 腎盂腎炎を 見逃す可能性あり
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尿路感染症の適切な診断方法 • 膿尿と尿中細菌陽性≠尿路感染症 • 尿中亜硝酸陽性≠尿路感染症 • 発熱+CVA叩打痛陽性≠尿路感染症 尿路感染症は除外診断である 適切な診察と検査で他疾患を否定する
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目次 1. 尿路感染症の診断における3つの誤解と適切な診断 方法 2. 尿路感染症における抗菌薬の選択方法 3. 尿路感染症の治療失敗時の考え方
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抗菌薬選択のポイント • 常に次の3つの軸で総合的に考える ①患者の状態 ②病原微生物 基礎疾患、重症度 過去の培養結果 感染臓器 グラム染色結果 ③抗菌薬 スペクトラム、用法・用量 臓器移行性、副作用、相互作用
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尿路感染症の原因微生物と抗菌薬選択 ・市中発症か院内発症かで考える 市中発症と院内発症で頻度の多い原因微生物が異なる ・尿のグラム染色を積極的に行う 腸球菌、腸内細菌、ブドウ糖非発酵菌を検討する ・地域や自施設の薬剤感受性データを参考にする 尿路感染症にとりあえずセフトリアキソンではない 病原微生物を想定して、抗菌薬を選択する
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尿路感染症の原因微生物 知識として、頻度の多い病原微生物を覚える 市中発症 大腸菌 (75 – 95 %) S. saprophyticus セフトリアキソン無効 院内発症 大腸菌 K. pneumoniae P. mirabilis カンジダ 腸球菌 緑膿菌 Clin Infect Dis. 2007;45(3):273 Infect Control Hosp Epidemiol. 2016;37(11):1288 その他
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尿グラム染色のポイント 抗菌薬選択を選択する前にはグラム染色をしよう! グラム陽性連鎖球菌 腸球菌を疑う 太いグラム陰性桿菌 腸内細菌科細菌を疑う ペニシリン系抗菌薬 バンコマイシンなど セフトリアキソンなど 細いグラム陰性桿菌 緑膿菌などのブドウ糖非発 酵菌を疑う セフタジジム、セフェピム、 ピペラシリンなど
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目次 1. 尿路感染症の診断における3つの誤解と適切な診断 方法 2. 尿路感染症における抗菌薬の選択方法 3. 尿路感染症の治療失敗時の考え方
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尿路感染症の治療失敗時の考え方 1. 本当に治療がうまくいってないの? 2. 治癒を妨げている因子は? 3. 他の感染症の可能性は? 4. 非感染症による炎症の可能性は?
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①本当に治療がうまくいってないの? 腎盂腎炎の自然経過を知る ・70人の単純性急性腎盂腎炎 ・治療開始から解熱までの時間 平均34時間 治療開始 48時間後も発熱 26% 治療開始 72時間後も発熱 13% すぐに解熱しなくても、焦らない 熱以外のパラメーター(CVA叩打痛や自覚症状な ど)を確認する Am J Med 1996; 101:277-80
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②治療を妨げている因子は? 腎膿瘍 尿管結石 排尿障害 尿管腫瘍 汚染された 前立腺炎 デバイス 前立腺膿瘍 ドレナージやデブリドマンの必要性を検討
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③他の感染症の可能性は? 治療経過がうまくいかない時は、抗菌薬を変更す る前に他の感染症の可能性を検討しよう! • 中心静脈カテーテル関連血流感染症 • 末梢静脈関連血流感染症 • Clostridioides difficile感染症 • 褥瘡感染 • 胆嚢炎 など
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④非感染性による炎症の可能性は? 治療経過がうまくいかない時は、抗菌薬を変更する 前に非感染症による炎症の可能性も検討しよう! • 薬剤熱 • 深部静脈血栓症 • 結晶性関節炎(偽痛風) • 腫瘍熱 など
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よく聞かれるQ&A Q. 尿のグラム染色で特に注意すべき病原微生物を教えてください • 尿路感染症の主な病原微生物は大腸菌といった腸内細菌科 細菌(太いグラム陰性桿菌)でセフトリアキソンが使用さ れることが多いです • セフトリアキソンが効かない、腸球菌(グラム陽性連鎖球 菌)や緑膿菌といったブドウ糖非発酵菌(細めのグラム陰 性桿菌)に注意が必要です Q. 急性腎盂腎炎に対して感受性のある抗菌薬を投与しているにも 関わらず、発熱が継続するときに考えるべきことを教えてくださ い • 急性腎盂腎炎は適切な治療によって48~72時間で解熱する ことが多い感染症です • 発熱が72時間以降も続く場合は、膿瘍に対するドレナージ やデブリドマンの必要性、他の感染症の可能性、非感染症 による炎症の可能性などを考えていきます
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Take Home Messages 1. 膿尿、細菌尿 = 尿路感染症ではない 考えなしに抗菌薬処方は耐性菌をつくるため禁忌! 2. 抗菌薬は、尿のグラム染色の所見などを参考 に選択する 細いグラム陰性桿菌がいる場合、緑膿菌の可能性があり広域抗 菌薬が必要 3. 急性腎盂腎炎は、適切な治療によって48~ 72時間で解熱することが多い 治療経過が不良の場合は膿瘍ドレナージなど必要か考慮する
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参考文献 • Nicolle LE, et al: Infectious Diseases Society of America guidelines for the diagnosis and treatment of asymptomatic bacteriuria in adults. Clin Infect Dis: 2005 • Bent S, et al: Does this woman have an acute uncomplicated urinary tract infection? JAMA: 2002 • Czaja CA, et al: Population-based epidemiologic analysis of acute pyelonephritis. Clin Infect Dis: 2007 • Weiner LM,, et al: Antimicrobial-Resistant Pathogens Associated With Healthcare-Associated Infections: Summary of Data Reported to the National Healthcare Safety Network at the Centers for Disease Control and Prevention, 2011-2014. Infect Control Hosp Epidemiol: 2016 • Behr MA, et al. Fever duration in hospitalized acute pyelonephritis patients. Am J Med: 1996