"正しい"DNRの考え方〜DNRは取るものではない〜

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小杉 和博

小杉 和博

国立がん研究センター東病院

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DNRとはDo Not Reresuscitateの略で1960年JAMAで初めて報告されたCPRが始まりです。ここではそれに続くDNRの始まり、AMAのガイドライン、日本の現状、ADとACPをご紹介。後半はACPの良い点、問題点、患者の医師確認と医師の判断、ERでのACP、患者説明と合理的判断、DNRとDNARの違いについて解説します。

"正しい"DNRの考え方〜DNRは取るものではない〜

1. “正しい”DNRの考え方 国立がん研究センター東病院 緩和医療科 小杉 和博
2. 自己紹介 小杉和博(こすぎかずひろ) 1984年9月24日生 (33歳) 埼玉県出身 2011年 獨協医科大学卒 太田西ノ内病院で初期研修 2013年 聖路加国際病院 内科後期研修(主に消化器) 2015年 川崎市立井田病院 緩和ケア・腫瘍内科・在宅診療 2017年 国立がん研究センター東病院 緩和医療科
3. ①DNRとってますか? 皆さんへの質問 ①DNRとってますか?
4. ①DNRとってますか? 皆さんへの質問 ①DNRとってますか? ✊よくとってます ✌️たまにとってます ✋とったことないです
5. ①DNRとってますか? 皆さんへの質問 ②DNRの話ってしにくいですか?
6. ①DNRとってますか? 皆さんへの質問 ②DNRの話ってしにくいですか? ✊すごくしにくい ✌️そこそこしにくい ✋そんなことない
7. ①DNRとってますか? 皆さんへの質問 ③DNRの方にどこまでします?
8. ①DNRとってますか? 皆さんへの質問 ③DNRの方にどこまでします? ✊心肺停止時の胸骨圧迫 ✌️肺炎に対するCPAP装着 ✋発熱時の血液培養
9. 今日のポイント DNRの歴史と発展 DNRの現在と問題 望ましいDNRのあり方
10. DNRとは? Do-Not-Reresuscitate の略 直訳すれば “蘇生するな”
11. の前に・・・ DNRのはじまり
12. Cardiopulmonary Resuscitation =心肺蘇生 CPRのはじまり
13. 1960年にJAMAで初めて報告”閉胸式心臓マッサージによる心肺蘇生“ その有効性と単純性は奇跡のようだった 「2つの手さえあればいつでも、どこでも、蘇生ができる」 Kouwenhoven Wb, et al. JAMA 1960;173:1064-7. CPRのはじまり
14. しかし、終末期患者へのCPRの適応がすぐに問題になった 蘇生を繰り返しても死を先延ばしにするだけで利益がなかった N Engl J Med 2016; 375:504-6 CPRのはじまり
15. 多くの病院で、蘇生を行わない患者を内密に口頭または記号などで伝えることとした “slow code” “Hollywood code” N Engl J Med 2016; 375:504-6 CPRのはじまり
16. 1974年、米国医師会(American Medical Association)は、CPRをしない決定を正式に記録し、医療者間で共有するべきである、と提唱した DNRのはじまり N Engl J Med 2016; 375:504-6
17. 1976年、ボストンの病院で作られた指針が医学誌に掲載された“Orders not to resuscitate”➡DNRのはじまり DNRのはじまり N Engl J Med 2016; 375:504-6
18. 1983年、米大統領委員会でDNR指示は患者の自己決定を基本とした 1988年、DNRに関する最初の州法(ニューヨーク州) 1991年、患者自己決定権法が制定米国医師会(AMA)がガイドラインを制定 DNRのはじまり 箕岡真子 蘇生不要指示のゆくえ 蘇生 34(2). 箕岡真子 蘇生不要指示のゆくえ 蘇生 34(2). 箕岡真子 蘇生不要指示のゆくえ 蘇生 34(2)
19. ①CPRの実施が基本前提 ②心停止に関して患者と医師が事前に話し合いを持つ必要性があること ③指示は患者の願望に基づくべきであること ④患者が意思表明をできない場合は,患者の最善の利益を考慮した上での代理判断者を許容すること AMAのガイドライン JAMA 1991;265:1868-71
20. ⑤心肺機能の回復が望めない場合は蘇生処置を無益と判断する ⑥指示内容は診療録へ記載すること ⑦指示は心停止時のみ有効であり,その他の治療に影響を与えてはいけないこと ⑧指示に関連する全ての者が指示の妥当性を繰り返し評価すること AMAのガイドライン JAMA 1991;265:1868-71
21. 1980年代に“蘇生を行わないという指示”として DNRが紹介された 1990年代に学会で繰り返し議論された DNRの直接的なガイドラインはない(2007年に厚生労働省が発表した「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」はある) 日本では
22.
23. 今日のポイント DNRの歴史と発展 DNRの現在と問題 望ましいDNRのあり方
24. DNRは元々、死が近づいていてCPRの適応がない患者を見分けるためのもの DNRは現在、終末期ケアの数多くある意思決定項目の中のひとつにすぎない 現在、医師は患者・家族の希望と価値観に沿うように経過を支援することを任されている➡DNRは全体の軌跡の一点にすぎない DNRの現在と問題 N Engl J Med 2016; 375:504-6
25. Lynn J,et al JAMA, 2003. 癌 心不全呼吸不全 疾患毎の経過
26. Lynn J,et al JAMA, 2003. 癌 心不全呼吸不全 疾患毎の経過
27. Lynn J,et al JAMA, 2003. 癌 心不全呼吸不全 疾患毎の経過
28. 意思決定能力を失った際の医療行為に関して、自らの希望を表明しておくこと 文書(Living will)または代理人指名 蘇生処置に加えて、人工呼吸器、人工透析、人工栄養、輸血などが含まれる アドバンスディレクティブ Advance Directive(AD)
29. 将来のあらゆる状況を想定して指示することには限界がある 代理人の負担が大きい 完成すると書類の変更が行われにくい 所持率が低い(米国26%、英国5%、日本3%) 持っていても反映されない時がある ADの問題点
30. 書いてあっても・・・ N Engl J Med 2017; 377:2192-2193
31. Lynn J,et al JAMA, 2003. 癌 心不全呼吸不全 認知症老衰 疾患毎の経過
32. Lynn J,et al JAMA, 2003. 癌 心不全呼吸不全 疾患毎の経過
33. 個人が将来の医学的治療やケアの目標や希望を定めて、それらを家族や医療者と相談して記録し、それらが適切か否かを見直すこと アドバンスケアプランニング Advance Care Planning(ACP) Rietjens et al. Lancet Oncol. 2017;18 : e543-e551
34. 終末期の延命治療の減少➡患者のQOLアップ、遺族の抑うつ減少 より早期からのホスピス入院➡長期のホスピス入院でQOLアップ 患者の意向に沿ったケアが提供できた ACPの良い点 Wright AA, et al. JAMA 2008 300 1665-1673 Detering KM, et al. BMJ 2010;340:c1345
35. 患者は何を望むのか? 日本人の望ましい死とは? 全国の2548人の一般市民および513人の緩和ケア病棟の遺族への調査 多くの人が重要だと考える10項目、人によって差はあるが重要だと考える8項目 Miyashita et al. Ann Oncol. 2007 ; 18: 1090-7
36. 多くのひとが共通して望む 「身体的・心理的なつらさが和らげられている」「望んだ場所で過ごす」「希望や楽しみがある」「医師や看護師を信頼できる」「家族や他人の負担にならない」「家族や友人とよい関係でいる」「自立している」「落ち着いた環境で過ごす」「人として大切にされる」「人生を全うしたと感じる」 Miyashita et al. Ann Oncol. 2007 ; 18: 1090-7
37. 人によって差がある 「出来るだけの治療を受ける」「自然なかたちで過ごす」「伝えたいことを伝えておける」「先々のことを自分で決められる」「病気や死を意識しないで過ごす」「他人に弱った姿をみせない」「生きていることに価値を感じられる」「信仰に支えられている」 Miyashita et al. Ann Oncol. 2007 ; 18: 1090-7
38. 80代の肺癌末期患者が救急来院家族「できることはなんでもやってほしい」・・・ 日々の診療の中で、進行性疾患の患者・家族は治療に対する価値観や希望について、早期からの誠実な話し合いを受けるべきだ 介入する機会は深夜の救急室にはない→診療所での1年間にある lyer AS, et al. JAMA Intern Med. 2017;177(6):761-2 ACPは救急室でできるか?
39. DNRの問題点 ①蘇生以外の治療の差し控え ②患者の意思が確認されず医師の判断で決定され,見直されていない ③非終末期にも適応している ④無益性の判断、予期されていたか
40. 日本の急性期病院の内科医を対象とした質問紙調査 肺癌患者の肺炎を想定したシナリオ Hiraoka E, et al. Inter J General Med 2016:9 213–220 血培 抗菌薬 呼吸器 昇圧剤 血培 抗菌薬 呼吸器 昇圧剤 ①治療の差し控え
41. 日本集中治療学会医師会員を対象とした質問紙調査 日集中医誌 2017;24:227-43.
42. 日集中医誌 2017;24:227-43. 日本集中治療学会看護師会員を対象とした質問紙調査
43. ②患者の意思確認 日集中医誌 2017;24:227-43.
44. ②医師の判断 日集中医誌 2017;24:227-43.
45. ②見直し 日集中医誌 2017;24:227-43.
46. ③非終末期にも適応 日集中医誌 2017;24:227-43.
47. 全入院患者の心肺停止では生存退院は22%(約8万5千人、平均66歳、DNR指示なし) がん患者で生存退院は6.2-7.4%(局在なら9.5%、遠隔転移では5.6%) がん患者で死亡が予期された心肺停止では生存退院は0% Girotra S, et al. N Engl J Med 2012;367:1912-20.Reisfield GM, et al. Resuscitation 2006;71:152-60.Bruckel JT, et al. JOP 2017; 13: e821-e830. Ewer MS, et al, JCO 2010;28:305-10 ④無益性の判断
48. Lynn J,et al JAMA, 2003. 癌 心不全呼吸不全 ④予期されていたか
49. 今日のポイント DNRの歴史と発展 DNRの現在と問題 望ましいDNRのあり方
50. DNR指示のあり方 ①DNR指示は心停止時のみに有効である。心肺蘇生不開始以外は ICU入室を含めて通常の医療・看護については別に議論すべき ②DNR指示と終末期医療は同義ではない。DNR指示にかかわる合意形成と終末期医療実践の合意形成はそれぞれ別個に行うべきである 日集中医誌 2017;24:208-9
51. DNR指示のあり方 ③DNR指示にかかわる合意形成は終末期医療ガイドラインに準じて行うべきである ④DNR指示の妥当性を患者と医療・ケアチームが繰り返して話し合い評価すべきである ⑤Partial DNR指示は行うべきではない(胸骨圧迫はするけど挿管はしないなど) 日集中医誌 2017;24:208-9
52. 患者家族の声 DNRの説明・相談の仕方について31%の家族は改善が必要である,70%の家族は辛かった 自分の決断が正しいかどうか確証が持てず,負担感,自責感を持っていることを念頭におき,プライバシーの保たれた場所で,何回かに分けて時間をかけて,質問できる雰囲気をつくる,気持ちや心配を尋ねる,具体的な成功率を説明する,ことが有効な可能性がある 木澤 J-HOPE3 付帯研究
53. 改善にむけて DNRは医療者によって認識が異なること注意➡略語や曖昧な言葉(急変時など)の使用をやめる 家族の言う「できる限りのこと」と医療者の考えるものは違う。達成可能なことと無益性をきちんと説明 特定の治療に焦点を当てるのではなく,治療全体の文脈の中で,話し合いを行っていく Crit Care,10:231,2006 BMJ 2017;356:j813.
54. きちんと説明すれば・・・ 患者・家族はわかってくれるはず! と思ってませんか?
55. 人間は判断力の欠如によって結婚し、忍耐力の欠如によって離婚し、記憶力の欠如によって再婚する Armand Camille Salacrou 1899-1989 合理的な判断はできるのか?
56. 人間だからこその考え方の癖や傾向=認知のゆがみ(バイアス)が邪魔をして合理的な決定ができない 合理的な判断はできるのか? 健康を決める力 中山和弘 http://www.healthliteracy.jp/kenkou/post_9.html
57. 損失回避の法則 損失は同額の利得よりも強く評価される→同じ額の損失と利得があったなら、その損失がもたらす「不満足」は、同じ額の利得がもたらす「満足」より大きく感じられる 友野典男 行動経済学 経済は感情で動いている佐藤雅彦ら ヘンテコノミクス
58. どちらか選んで下さい 何をしなくても、無条件に10万円 サイコロを振って偶数の目が出れば20万円奇数の目が出れば0円 西智弘 「残された時間」を告げるとき 青海社 2017
59. 西智弘 「残された時間」を告げるとき 青海社 2017 どちらか選んで下さい 何をしなくても、無条件に10万円払う サイコロを振って偶数の目が出れば20万円払う奇数の目が出れば払わなくてよい
60. 価値関数 損失は利益の2倍強く評価される
61. どちらの説明がよいですか? この手術による生存率は90%です この手術による死亡率は10%です http://www.healthliteracy.jp/kenkou/post_33.html
62. 意思決定に存在するバイアス デフォルト効果選択肢の初期値(デフォルト)となった方が選択されやすい例:臓器提供しない人はチェックして下さい→どちらが初期値で臓器提供同意率が異なる N Engl J Med 2007; 357:1340-1344 
63. バイアスを踏まえた上で 患者・家族の希望を確認する病状の認識も看護師などの協力を得ながら確認する その希望が医学的に達成可能か否かを判断する 判断はひとりでせず、指導者や看護師など多職種で相談する 医療者としての判断、推奨を伝える(過度に強調しない、押し付けにならない)
64. 葛藤 認知的葛藤:情報・知識不足、または情報の誤認のために決定できない 情緒的葛藤:不安や重圧・プレッシャーなどが理由で決定できない 感情の方が脳のより中枢にあるため、論理的な判断ができなくなる →感情を吐き出させることで葛藤が改善する、または葛藤している状態を承認する
65. 結語 DNR指示は心停止時に心肺蘇生をしない指示であり,他の治療へは影響を与えない 医療者間でDNR指示に対する認識が異なる 患者・家族の目標を確認しつつ、医学的にどこまで達成可能か、医療者としての推奨も合わせて伝える
66. ご清聴ありがとうございました
67. DNRとDNARの違い Do notには「できることをやろうとするな」という意味がある DNRはもともと蘇生する可能性が少ない人が対象 Do not attempt だと「できないことをしようとするな」