テキスト全文
医師の働き方改革の概要と目的
#1. 医師の働き方改革
~患者さんと医師の未来のために~
日本の医療と医師の労働環境の現状
#4. 日本の医療は、「いつ、どこにいても必要な医療が受けられる社会」を作り上げてきました。この安心・安全をこれからも守り続けるために、医療者が日々努力を重ねています。
#5. しかし、この「いつ、どこにいても必要な医療が受けられる」社会は、医療者の中でも特に、一部の医師の極めて長時間の労働によって支えられているのが現実です。
#6. みなさんが長時間、医療現場と向き合う中で、例えば、たくさんの業務がある中で、「他の医師や他の職種の方々に助けてもらえそうな業務はなるべくシェアしたい」と思ったり、「たまには休んだり、自分の時間も大切にしたい」というような思いを持つようなこともあるのではないでしょうか。
#7. このような、医師が体と心のゆとりが持てない状態では、患者さんに不安を与えかねません。
さらには、睡眠時間が短く、疲労がたまった状態では、判断力が鈍り、医療事故につながる可能性もあります。
#8. さらには、今後、日本の医療を取り巻く状況はますます大きく変化していきます。
例えば、高齢化が進む中で、それぞれの地域における高齢者は増加し、医療需要が高まっています。
また、高血圧や糖尿病などの生活習慣病や、がんなどの集学的治療の割合が高まるなど、医療ニーズも変化してきています。
特に高齢者においては、こうした複数の疾患を持つ患者さんが多く存在し、患者さんの生活や健康状態に合わせた総合的な医療提供が求められます。
#9. その一方で、少子化により人口減少社会を迎える中、医療界においてもマンパワーの確保が困難となりつつあります。
少子高齢化の進み具合は地域により異なりますが、地域によっては、医療人材の確保や、医師の偏在がこれまで以上に課題となっていきます。
#10. このように求められる医療の役割が増え、一方でそれを支えるマンパワーの確保が難しくなっていく中、医師個人の業務量はこれからも増加していくかもしれません。
高齢者の増加によって、患者さんの治療にはより時間と人手がかかります。
また、医師は生涯修練が求められる職業ですが、最新の高度化した医療を提供するための「担い手」としての修練には、これまで以上に年月がかかることも想定されます。
医師の働き方改革の必要性と重要性
#11. 医療はすでに、医療者の精一杯の努力で支えられている中で、今後、こうした状況の変化が見込まれます。
地域に必要とされる医療を守り続けるためには、医師を含む医療の担い手が、より持続的に医療を提供できるような社会の実現が必要になってきます。
#12. そのためには、医療分野でも、時間の制約のない働き方ができる人だけで業務を行うようなやり方を見直して、子育て中の方々や高齢な方々など、多様な環境にある医療従事者が活躍しつづけるために、働きやすい環境を作っていくことが大切です。
医師の働き方改革によるメリット
#13. こうした中、医師の働き方改革を進めていくことは、医師本人だけでなく、患者さんにとっても重要なことです。
医師の働き方改革の推進による、医師にとってのメリットとしては、
①前日の勤務から翌日の勤務までの間のインターバルが確保されることで、必要な休息をとれるようになる、ということや、
②医療現場全体でのタスク・シフト/シェアを推進することで、医師でなければできないより専門的な業務に集中できるようになる
といったことが考えられます。
#14. 一方で、医師の働き方改革の推進による、患者さんにとってのメリットとしては、
①医師の健康が確保されることで、医師の作業能力が適切に維持され、インシデント、アクシデントの発生が抑えられるようになり、より安心・安全な医療が受けられる、ということや、
②医療従事者それぞれの専門性を活かした医療提供システムが形成されることで、患者さんの個々の状況にあわせた医療サービスの提供が進み、結果としてその患者さんにとっての質の高い医療が受けられる
といったことが考えられます。
医師の労働時間と宿直の取り扱い
#15. 働き方改革は、雇用主や管理者だけの問題ではなく、職場の全員が主人公です。
いまの働き方の何を大事にし、何を見直して行くべきか、年代や職種を越えてみんなで話し合えば、職場の文化は変えていくことができます。
医療を未来へつなぎ、そして守り続けるために、それぞれの医療機関で働き方改革を進めていきましょう。
#17. 医師も雇用されている勤務医であれば、労働者であり、労働基準法が適用されます。
#18. 労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことであり、明示・黙示にかかわらず、使用者の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間にあたります。
診療をしている時間だけが労働時間、というわけではなく、着用を義務付けられた服装への着替えや、診療前後のカルテ確認、申し送りの時間など、業務に必須の準備や後処理を行う時間は基本的には労働時間に該当することになります。
#19. 医師の労働時間を考える上で重要なのが、“宿直”についての考え方です。
医療法上の規定で、病院の管理者は、病院に医師を宿直させなければならないこととされています。
#20. では、いわゆる“宿直”の時間は労働時間に含まれるのかどうか、という点ですが、原則的な考え方としては宿直中の手待ち時間であっても労働時間に含まれることになります。
一方で、勤務する医療機関が労働基準監督署による「宿日直許可」を受けている場合は、その宿日直に携わる時間は、例外的に労働基準法上の労働時間についてのルールが適用されないことになります。
ただし、例えば、突発的な事故による応急患者に対応するための診療の時間など、許可を受けた宿日直中に通常の勤務時間と同様の業務に従事する時間については、許可の効果が及ばず、労働基準法の適用があります。
医師の特別則と新しい労働時間ルール
#21. そのため、“宿直”が労働時間に含まれるかどうかは、勤務する医療機関の「宿日直許可」の有無によって異なります。
まずは、自身の勤務している医療機関での“宿直”の取扱いがどうなっているのかを確認することが大切です。
なお、労働基準監督署による宿日直許可の基準としては、
・ 常態として、ほとんど労働する必要のない勤務であり、通常の労働の継続ではないこと
・ 問診等による診察など、特殊の措置を必要としない軽度又は短時間の勤務であること
・ 夜間に十分睡眠がとり得ること
などが必要とされています。
#22. 続いて、いわゆる“研鑽”の時間は労働時間に含まれるのかどうか、という点ですが、”研鑽”であっても上司等の明示・黙示の指示があるものの場合には、労働時間に該当することになります。
“研鑽”の時間も含めて、医療機関で過ごしている時間が全て労働時間になるというわけではありませんが、労働時間に該当するかどうかは、使用者の指揮命令下に置かれているかどうかによって判断されることになります。
例えば、自らの知識の習得や技能の向上のために行う研鑽のうち、診療等の本来業務と直接の関連性がなく、上司等の明示・黙示の指示無く行われるようなものであれば、医療機関にいる時間であっても労働時間には該当しません。
一方で、上司等の明示・黙示の指示によって行われるものであれば、所定労働時間外に行われるものであったとしても、労働時間に該当することとなります。
#23. まずは、自身の勤務している医療機関において、研鑽についての取扱いがどうなっているのかを確認することが大切です。
一般的に研鑽に当たると判断されるものの具体例としては、
・ 診療ガイドラインや新しい治療法等の勉強
・ 自主的な学会・院内勉強会等への参加・準備、専門医の取得・更新に係る講習会受講等
・ 宿直シフト外で時間外に待機し、手術・処置等の見学を行うこと
などが挙げられます。これらについて、労働時間に該当するものと労働時間に該当しないものを明確にするための院内のルール、手続き等の取扱いを確認しましょう。
#24. ここまでは、労働時間自体の考え方について説明しましたが、では、その労働時間には上限はあるのでしょうか。
勤務医も労働者である以上、労働基準法で、1 日や1週間の中で働くことのできる時間が決まっています。
法律上で定められている法定労働時間は、1 日で 8 時間、1 週間で 40 時間までとされており、法定休日は 1 週間に 1 日以上とされています。
この基準が労働基準法の大原則ではありますが、やむを得ずこのルールを超える場合には、労働者と医療機関との間で予め協定を締結しておく必要があります。
この協定に関するルールは、労働基準法第 36 条に規定されているため、通称「サブロク協定」と呼ばれています。
#25. ただし、36 協定を締結する場合でも、「無制限に時間外労働や休日労働ができる」という内容の協定を結ぶことができるわけではなく、時間外労働や休日労働の上限を定めて締結することになります。
また、36 協定で定められた時間はあくまで上限の時間であり、その時間まで働かなければならなくなるわけではありません。
#26. まずは、自身の労働条件がどうなっているのか、労働条件通知書等を元に確認して理解しておきましょう。
なお、医療機関との間で締結される 36 協定においては、
・時間外・休日労働を行う業務の種類
・1 箇月、1 年に延長することができる上限時間
・休日労働の上限回数
などが定められています。
#27. 適用されている労働時間制によって労働時間の取扱いが異なってくる場合がありますので、労働条件を確認するときには、自分の労働時間がどのように取り扱われているのかも確認しましょう。
医療機関によっては、通常の労働時間制以外にも、変形労働時間制やフレックスタイム制、大学病院などでは専門業務型裁量労働制などの制度が適用される場合もあります。
#29. 基本的なルールはこれまで説明してきたとおりですが、これに加えて 2024 年 4 月から、医師の働き方についての新しいルールが始まります。
働き方改革を進める中でも引き続き地域の医療を守ることができるよう、医師の労働時間については、一般的な労働者のルールよりも上限が高く設けられ、特別なルールとなっています。
一方で、この特別なルールの中には、医師の健康を守るためのルールも併せて設けられています。
この 2 本柱のルールが 2024 年 4 月から始まることになりますが、まずは左側の、医師の労働時間についての特別ルールについてご説明します。
#30. 2024 年 4 月からは、診療に従事する医師の場合、法律で認められる年間の時間外・休日労働時間の最大の上限として、A水準、連携B水準、B水準、C-1水準、C-2水準のいずれかの水準が適用されることとなります。
そして、それぞれの水準ごとに、36 協定で定めることができる時間外や休日労働の上限時間についても、年単位での上限が設けられています。
複数の医療機関で勤務している医師の場合、この上限時間を計算する上では、それぞれの勤務先での労働時間を通算して計算することになります。
なお、これらのどの水準が適用されるかにかかわらず、月単位でも 100 時間未満という時間外・休日労働の上限が設けられています。ただし、この上限については、後に出てくる“面接指導”を実施した場合には、例外的に適用されないこととなっています。
医師の働き方の具体的な水準と例
#31. A水準は、臨時的に長時間労働が必要となる場合に、全ての勤務医に対して原則的に適用される水準で、36 協定で締結できる時間外・休日労働時間の上限も年間 960 時間です。
なお、これにより 36 協定において最大年 960 時間までの上限時間を設定できることにはなりますが、A水準の方は全員上限時間を年 960 時間とする協定を結ばないといけない、というわけではありませんし、必ず年 960 時間まで時間外や休日に働かなければならなくなる、というわけでもありません>。上限についてのこの考え方は、この後説明する他の水準についても同様です。
#32. A水準は原則的に適用される水準、とご説明しましたが、それ以外の4つの水準は、何らかの理由があって時間外・休日労働の時間が年 960 時間を超えてしまうような場合に適用される水準になります。
まず、連携B水準は、地域医療の確保のために副業・兼業として他の医療機関に派遣されるようなケースで、1つ1つの医療機関では先ほど説明した年 960 時間の水準に収まっているものの、複数の勤務先での業務によりそれを超える長時間労働が必要な場合に適用される水準です。連携B水準が適用さ>れる場合、36 協定で締結できる時間外・休日労働時間の上限は1つの医療機関で 960 時間ですが、複数の医療機関での労働時間を通算した医師個人としての時間外・休日労働の上限は年 1860 時間です。
#33. 続いて、B水準は、地域医療の確保のために救急医療や高度ながん治療などを担っており、1つの医療機関だけでも年 960 時間を超えるような長時間労働が必要な場合に適用される水準です。
B水準が適用される場合、36 協定で締結できる時間外・休日労働時間の上限は年 1860 時間です。
#34. C-1水準は、臨床研修医・専攻医が研修を行う上で、修練のために年 960 時間を超えるような長時間労働が必要な場合に適用される水準で、36 協定で締結できる時間外・休日労働時間の上限は年 1860 時間です。
なお、全ての臨床研修医や専攻医に対してC-1水準が適用されるわけではなく、年 960 時間の範囲内で修練が可能な場合は原則どおりA水準が適用されることになります。今後、臨床研修や専門研修では、各研修プログラムで想定される上限時間数が明示されることになるので、明示された時間数を確認
し、仕事と私生活のバランスを自分で考えた上で、研修病院を選択してください。
#35. C-2水準は、専攻医を修了した医師等が、技能研修のために年 960 時間を超えるような長時間労働が必要な場合に適用される水準で、36 協定で締結できる時間外・休日労働時間の上限は年 1860 時間です。
なお、C-2水準が適用されるためには、研修予定の技能について、医師自らが技能研修計画を作成する必要があります。
#36. A水準以外の特例的な水準を適用するためには、医療機関が都道府県に水準の指定申請を行い、医療機関単位で指定を受ける必要があります。
指定を受けた医療機関の医師は、全員が指定を受けたその水準になるわけではなく、実際に長時間労働が必要な業務に従事する対象となる医師を特定することで、その医師のみ特例的な水準、すなわち、連携BやB、C水準が適用されます。
医師の働き方の具体的なイメージ
#37. A水準に該当する医師の具体的な働き方のイメージを示します。時間外・休日労働を年 760 時間行うような、臨床研修医のある 1 週間の働き方のイメージです。
月曜日から金曜日の 8 時から 17 時までが所定労働時間というケースを想定しています。
このケースでは、日常的な時間外労働はあまり多くないものの、月に1-2回、夜間の宿直勤務を行っているような方をイメージしています。
#38. 続いて、連携B水準に該当する医師の具体的な働き方のイメージを示します。時間外・休日労働を年 1,000 時間行うような卒後 8 年目の呼吸器内科医の、1週間の働き方のイメージです。
月曜日から金曜日の 8 時から 17 時までが所定労働時間というケースを想定しています。
隔週水曜日に副業・兼業先での宿日直許可のある宿直に、隔週土曜日に副業・兼業先での宿日直許可のない宿直に従事しているイメージです。
ただし、主たる勤務先である大学病院では、週に複数回オンコールを担っており、オンコール中に労働が発生した場合、代償休息が必要になります。
#39. 続いて、B水準に該当する医師の具体的な働き方のイメージを示します。時間外・休日労働を年 1,200 時間行うような、卒後 15 年目の泌尿器科医の1週間の働き方のイメージです。
月曜日から金曜日の 8 時から 17 時までが所定労働時間というケースを想定しています。
オンコールや宿日直許可のない宿直に従事したり、時折、休みの日にも当番で病棟業務を行っている状況にあり、月によっては時間外・休日労働が 100 時間以上と見込まれるイメージです。
なお、オンコールも週に複数回になっており、オンコール中に労働が発生した場合、代償休息が必要になります。
#40. 最後に、B水準に該当する医師の具体的な働き方の別イメージを示します。時間外・休日労働を年 1,800 時間行うような、卒後8年目の心臓血管外科医の1週間の働き方のイメージです。
月曜日から金曜日の 8 時から 17 時までが所定労働時間というケースを想定しています。
オンコールや宿日直許可のない宿直に従事したり、患者さんの病態によっては時間外・休日労働が発生しやすい環境です。休みの日にも長時間の手術に従事しているようなイメージです。
なお、予定された休息時間中や、オンコール中に緊急手術のような突発業務が発生した場合、代償休息が必要になります。
なお、働き方改革の一環として、カンファレンスを所定労働時間内に行う取組を行っている医療機関も出てきています。
医師の健康を守るための新ルール
#41. 制度の基本について~医師の健康を守る働き方~
#42. 目の前の患者さんと地域の医療を守るために、医師はどうしても長時間勤務が必要になる場合もあります。
そのような現状も踏まえ、医師が適切に良質な医療を提供することを担保するために、2024 年4月より長時間労働を行う上では勤務医の健康を守るための新しいルールが設けられます。
先ほどご説明した 2 本柱の 2 つ目というわけですが、ここからはこの健康を守るためのルールについてご説明します。
#43. 勤務医の健康を守るための新ルールは大きく分けると 2 点ありますが、まず 1 つ目に、長時間労働となることが見込まれる医師への面接指導について、新しいルールが設けられます。詳しくは次のスライドで説明します。
続いて 2 つ目ですが、長時間労働が必要になる場合でも、適切な休息を確保するためのルールが設けられます。
#44. 時間外・休日労働時間が月 100 時間以上となることが見込まれる医師には、面接指導が実施されることになります。
面接指導では、所定の講習を受けた面接指導実施医師が、睡眠や疲労の状況を確認します。面接指導の結果、休息が必要と認められる場合には、医療機関の管理者により必要な就業上の措置が講じられることとなります。
#45. 続いて、長時間勤務の中でも十分な休息時間を確保するための制度として、勤務と勤務の間に休息時間を設ける「勤務間インターバル」に医師に特化したルールが設けられました。
心と体の健康を守るためには、前日の勤務から翌日の勤務までの間、連続した休息期間を確保し、仕事から離れることが重要です。このため、この勤務間インターバルのルールでは、休息時間を細切れに取ることは認められていません。
#46. まず勤務間インターバルについての原則的なルールですが、長時間労働となる医師については、始業から 24 時間以内に 9 時間のインターバルを設ける必要があります。
この 9 時間のインターバルの間は、原則業務から離れている必要がありますが、宿日直許可のある宿日直に連続して 9 時間以上従事する場合には、休息が確保できたとみなし、勤務間インターバルに当てることができます。
このスライドでは、勤務間インターバルが確保された状態の働き方のイメージをお示ししています。
このケースでは、朝 8 時に始業してから、23 時までの勤務が予定されていますが、翌日の始業時間である朝 8 時までの間で、9 時間のインターバルを確保することができています。
#47. 一方で、日中にいつもどおり勤務した後、そのまま翌日にかけて宿直を行うような場合には、この 24 時間以内に 9 時間のインターバルを確保できないケースがあります。
そのため、このような宿日直許可のない宿日直に従事する場合については別の基準が設けられており、その場合には 46 時間以内に 18 時間以上のインターバルを確保することとされています。
このスライドでは、宿日直許可のない宿日直に従事した場合で、勤務間インターバルが確保された状態の働き方のイメージをお示ししています。
このケースでは、朝 8 時に始業し、日中勤務した後、朝まで宿直を行い、そのまま午前中は勤務に入り、翌日の昼 12 時に宿直明けの勤務を終了するという予定になっています。
この場合、始業開始から 46 時間後である翌々日の朝 6 時までの間で、18 時間のインターバルを確保することができています。
#48. シフトを作成する時点で、適切な休息時間が確保できるよう、インターバル時間を設定する必要があり、シフト作成時点で規定のインターバル時間が確保できていないものは認められません。
しかし、シフト上はインターバルで休息をとる予定だった時間であっても、患者さんの急変対応など、緊急で業務が発生した場合は対応することが可能です。
#49. 勤務間インターバル中に、緊急で発生した業務へ対応した場合には、対応した時間に相当する時間分の休息が代償休息として事後的に医療機関の管理者より与えられます。
例えば、9 時間のインターバルを予定していた時間中に 3 時間の緊急対応を行った場合には、3 時間分の代償休息が発生します。この代償休息は、発生日の翌月末までを期限に与えられることになります。
#50. 代償休息のタイミングの例として、とある年の 11 月の 1 ヶ月間に計 8 回の緊急の業務が発生したケースを記載しています。
この事例では、勤務間インターバル中の緊急の業務が、11/4 に 4 時間、11/6 に 3 時間、11/9 に 1 時間…といったように計 8 回発生しており、これらを全て合計すると 20 時間になりますが、この場合 12 月末までに合計 20 時間分の代償休息が与えられることになります。
代償休息が発生した場合、シフトを管理する側の立場の方々は、発生からなるべく早い段階で代償休息を付与することや、計画的に付与できるよう、勤務を調整するなどの配慮が必要となります。
医師の副業・兼業と休暇制度の詳細
#52. 日本の医療においては、大学病院や市中病院等からの医師派遣が地域の医療を支えているという側面があります。そのため、日本では多くの勤務医が複数の医療機関で働いています。
#53. 複数の医療機関で勤務している方の場合、副業や兼業先での労働時間・勤務先・勤務内容などを、主に勤務している医療機関に対して事前に自己申告しておくことが好ましいでしょう。
チームメンバーがお互いの仕事を把握するきっかけとなるとともに、困ったときにも助けあえる第一歩となります。
#54. また、時間外労働や勤務間インターバルのルールを適切に運用するためには、各勤務医の勤務時間の正確な把握や適切なシフト作成が重要となります。
とはいっても、シフトの作成や調整を行う人に任せっぱなしではいけません。シフトを作成するのも医師をはじめとした医療従事者の方々ですので、期限を守って勤務希望を提出することや、シフトの調整者からの勤務相談にも快く応じられるよう、お互いに助け合うことが大切です。
#55. どの勤務先でも最適なパフォーマンスが患者さんに提供されるように、労働時間を含む自分の仕事内容をそれぞれの勤務先にシェアして、突然の自分の欠勤にも対応できるような「助け合える」体制を整えてもらうことが大切です。
#57. 医療機関では、医師だけでなく様々な職種の方が働いていますが、全ての医療専門職の方々がそれぞれの専門性を活かし、パフォーマンスを最大化することが大切です。
そのためには、チームでの話合いや、勉強会などを通して、職種間での連携を強化していく必要があります。
このような専門性を活かした「タスク・シフト/シェア」により、効率化が進めば、患者さんにとってもより質の高い医療提供にもつながります。
#58. タスク・シフト/シェアにあたり、特定行為研修を受けた看護師であれば、診療の補助の一部を担うことができます。特定行為研修修了者が実施することのできる特定行為として、38 の行為が定められています。
特定行為研修修了者は年々増加しており、医師からのタスク・シフト/シェアが期待されています。各地域・施設のニーズに合わせて、特定行為研修修了者が活躍することで、医療・看護の質の向上にもつながります。
#59. 特定行為を受けた看護師が行うことができる特定行為としては、
・直接動脈穿刺法による採血(動脈血液ガス分析)
・経口用気管チューブの位置の調整
・中心静脈カテーテルの除去
・硬膜外カテーテルによる鎮痛薬の投与および投薬量の調整
などが挙げられます。
特定行為区分ごとの研修を修了することにより、医師の作成した手順書に従って、その特定行為区分に含まれる特定行為を実施することができます。
#60. この特定行為研修修了者以外にも、様々な職種へのタスク・シフト/シェアが進められています。
例えば、臨床検査技師であれば、現行の制度の下でも、医師の具体的指示があれば、診療の補助として、病棟や外来での採血業務が可能です。
同様に、薬剤師であれば、病棟や手術室での薬剤管理や、薬物療法に関する患者さんへの説明が可能です。
この他にも、職種にかかわらずタスク・シフト/シェアを進めることが可能な業務として、診断書の下書きや症例データの登録、患者さんの搬送などは、医師事務作業補助者等の職員が行うことも可能となっています。
#62. 医師という業務の特性上、学生時代から、臨床・専門研修を越えて、継続して修練に励むことが重要です。
#63. 法に基づく研修、すなわち臨床研修や、専門医の養成期間を終えた後も、自身の技術を高めるための活動は継続していきます。
#64. 医師は継続して修練に励むことが求められている一方で、修練を理由に際限なく労働時間が長くなっていいわけではなく、まずは所定の労働時間内で効率的な研修が出来るよう、労働時間を適切に管理することが大切です。
特に医師になりたての臨床研修医や専攻医を指導する医師は、臨床研修医・専攻医の労働時間を単に短くするのではなく、研修の密度を高めるような「研修の効率化」を行い、指導医と臨床研修医・専攻医とが互いに満足を得られる研修体制を整えていく必要があります。
#66. さて、医師の働き方改革の制度と直接関連はありませんが、以前より我が国に設けられている、働く人が働きやすい環境を守るための制度を解説します。
まず、ハラスメントを防止する制度についてです。医療現場でもハラスメントが起きることがあります。
ハラスメントには、例えば、
パワーハラスメント
セクシュアルハラスメント
妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント
があります。
#67. ハラスメントにあったときは、自分の所属する機関の相談窓口に相談しましょう。
すべての企業は相談窓口の設置などを含めた、ハラスメント対策を講じる義務があります。
企業が講ずべき措置の詳細は、「あかるい職場応援団」をご覧ください。
#68. 相談窓口に相談するときには、事実関係を整理することも大切です。
1.ハラスメントだと感じたことが起こった日時
2.どこで起こったのか
3.どのようなことを言われたのか、強要されたのか
4.誰に言われたのか、強要されたのか
5.そのとき誰がみていたか
そのためには、記録を残しておくなどの対応をすることも大切です。
#69. ハラスメントに関する悩み事はまずは自分の所属する機関での相談窓口へ相談することができますが、自分の所属する機関に相談窓口がない、様々な理由で相談するのが不安な場合は、これらの機関に相談することができます。
・各都道府県に設置した労働局やその傘下の労働基準監督署には、総合労働相談コーナーが設置されています。
総合労働相談コーナーでは、職場におけるいじめ・嫌がらせや労働条件の引き下げなどのあらゆる分野の労働問題に関する相談を受け付けています。
・相談のみでは、トラブルの解決に至らなかった場合、都道府県労働局に、あっせんという制度があります。
あっせんとは、弁護士などの労働問題の専門家が、中立で公平な立場から、労働者と使用者の双方の話し合いを促進することにより、トラブルの解決を図る制度です。
・法テラス(日本司法支援センター)では、様々な法的トラブルに対して、トラブルの解決に必要な情報やサービスの提供を受けられます。
・みんなの人権 110 番は、最寄りの法務局・地方法務局において差別や虐待、ハラスメントなど、様々な人権問題についての相談を受け付ける相談電話です。法務局・地方法務局およびその支局では、窓口において、面接による相談も受け付けています。また、インターネットによる相談にも対応してい>ます。
#70. 労働者である医師には、年次有給休暇を取得する権利が与えられています。
勤務開始から6ヶ月継続して勤務し、全労働日の8割以上出勤すると 10 労働日分の有給休暇が付与されます。
また、勤続年数に応じ、有給休暇の付与日数は変動します。
また、医療機関側は年 10 日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年次有給休暇の日数のうち年 5 日については、使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられています。
#71. さらに、有給休暇とは別に家庭の状況やライフステージに応じて取得できる休暇があります。
#72. 産前産後休業は出産前 6 週間、出産後8週間の休業を保障する制度です。パート・アルバイト等を含め、すべての女性が産前産後休業の対象です。
#73. 産後パパ育休は、通常の育児休業とは別に取得できる育児休業です。産後パパ育休は、お子さんが生まれてから 8 週間以内に、最大 4 週間まで取得することが出来ます。
また、予め職場に申し出ることで、2 回に分割して取得することもできます。なお、産後パパ育休の期間であっても、労使の間に合意があれば、一定の上限の範囲で休業中に就業することもできます。
#74. 育児休業は、女性は産後休業終了後から、男性は出産予定日から、お子さんが 1 歳になるまでの間、取得することができます。
両親共に育児休業を取得する場合であれば、お子さんが 1 歳 2 か月になるまでの間で 1 年間、取得することができるようになります。
また、保育所等に入れないなどの事情があれば、1 歳 6 ヶ月までになるまでの間(それでも保育所に入所できない場合には2歳になるまでの間)、育児休業を取得することができます。
#75. 小学校に入る前のお子さんがいらっしゃる方の場合、職場に申し出ることにより、1つの年度中に最大5日まで、病気、けがをしたお子さんの看護又はお子さんに予防接種や健康診断を受けさせるための休暇を時間単位で取得が可能です。
また、この対象になる小学校入学前のお子さんが2人以上いらっしゃる場合は、取得可能な上限が 10 日になります。
#76. 介護休暇は、介護が必要な状態の家族がいらっしゃる場合に、そのご家族の介護や世話をするための休暇です。
対象となるご家族が 1 人の場合は年5日を限度に取得が可能であり、2 人以上の場合は年 10 日まで取得することが可能です。
#77. 介護休業とは、介護が必要な状態の家族がいらっしゃる場合に、その方を支える体制を構築するために、一定期間利用することを想定した休業です。
対象となるご家族 1 人につき 3 回まで、通算 93 日まで休業できます。