テキスト全文
発熱性好中球減少症の定義と疫学
#1. 発熱性好中球減少症の対応 Drds@(⾎液内科+診断病理)
#2. 発熱性好中球減少症 (FN: Febrile neutropenia) ü 好中球減少中に発熱をきたした状態で内科的緊急疾患の1つ → 昔のdataでは, 抗⽣剤が遅れると死亡率が70%までup (1971, NEJM ) ü 抗がん剤治療中の患者で起きやすい︕ → FNの頻度︓固形癌 (5-10%), ⽩⾎病 (85-95%), ⽩⾎病以外の⾎液腫瘍 (20-25%) 定義 発熱︓38.3度以上の単回の⼝腔内発熱 or 38度以上の体温が1時間以上持続 → ざっくり38度以上の発熱と理解でok! 好中球減少︓ 好中球 <500/μL 未満 or 2⽇以内に好中球 <500/μL 未満 Up to data (Overview of neutropenic fever syndromes)
ハイリスク患者の識別基準
#3. FNの疫学 FNの時に出会える病原体 ü 約80%は患者の内因性細菌叢(腸内細菌等)が原因 → 近年は表⽪ブドウ球菌とか⻩⾊ブドウ球菌が多いみたい ü 20-30%で感染源が特定できるが、10-25%では 菌⾎症が感染の唯⼀の証拠になるコトも ü Gram(+)菌が多いが、Gram(-)菌は重症化に関与 →抗がん剤治療中のFN菌⾎症: G+ 57%, G- 35%, 複数菌 10% Up to data (Overview of neutropenic fever syndromes)
#4. ハイリスク FN 患者の教科書的な⾒分け⽅ ① 好中球減少が7⽇以上続くもの (⽩⾎病が多い) ② MASCC※1 スコアが20以下 or CISNE※1 スコア 3以上 臨床研究ではよく使われますが、 実臨床ではほとんど使いません ③ 肝障害 (AST>正常上限値の5倍) or 腎障害 (Ccr 30ml/min未満)がある⼈ ④ ⾮寛解の⽩⾎病患者 or 再発/病状進⾏の悪性疾患を持つ患者 ⑤ 以下の併存疾患のいずれかがある場合 1) Septic shock/Severe sepsis のサイン (⾎圧↓, 乏尿, 呼吸不全, 精神変容) 2) ⼝腔/消化管粘膜障害→ 嚥下障害・重症下痢 4) 新規発症の肺浸潤影や低酸素⾎症 3) カテーテル感染 (CV(中⼼静脈)カテ) 5) ベースに慢性肺疾患 覚えるのが⼤変なので「明らかに余裕なFN」以外は 全部ハイリスクって認識でも良いのでは︖と個⼈的に思う。 ※1︓MASCC︓Multinational Association of Supportive Care in Cancer ※2︓CISNE︓Clinical Index of Stable Febrile Neutropenia Up to data (Overview of neutropenic fever syndromes)
ハイリスクFNの治療手順
#5. STEP 1︓実際の治療(ハイリスクの FN) ⾎液培養を採取 (2set) Ø ピペラシリン/タゾバクタム → 3-4時間の⻑時間投与 or 持続投与も考慮 バンコマイシンとの併⽤に注意 ※CVあれば1setはCVから 好きな抗⽣剤を1つ選ぶ 投与まで60分以内!! (4.5g ✖ 4回) Ø セフェピム (2g ✖ 3回) → 髄液移⾏性good →ゆえに︖セフェピム… 嫌気性菌のカバーなし Ø メロペネム (1g ✖ 3回) → ESBL産⽣菌にはコレ︕︕ MEMO 1時間抗⽣剤が遅れる毎に死亡率が18%ずつup ⾎培採取したら余計な事はせずにさっさと抗⽣剤︕ Severe sepsis/Septic shockとか緑膿菌⾎症 アミノグリコシド や ニューキノロンの追加も考慮 Up to data (Overview of neutropenic fever syndromes)
#6. よくある現場でのやり取り① 研修医 FNではすぐに広域抗⽣剤ですね︕ あれ、でもこの間の⽩⾎病の 患者さんはバンコマイシンも最初から使ってましたよね︖ あの時は抗がん剤で粘膜障害が出ていたのと、熱が出る前⽇に ⼝腔内の頬を噛んで⼝内炎ができてたから使ったんだ。 Drds なるほど。全例に最初からバンコマイシンはダメなんですか︖ 研修医 いい質問だね。FN全例に投与しても死亡率は改善されないので、症例 を選ぶ必要があるんだ。あとはレッドマン症候群にも注意だね。 レッドマン︖ あぁ、あれですね(スパイダーマン…︖) 研修医 Drds
バンコマイシンの投与方法と注意点
#7. STEP 2︓バンコマイシン投与を考慮する時 ü ⾎⾏動態が不安定(⾎圧低下)、severe sepsis の時 ü 肺炎、⽪膚/軟部感染症、カテーテル(CV)関連感染を疑う時 ü ⾎培でグラム陽性菌が検出、検体分離と感受性結果を待っている間 ü ⾼度な粘膜障害がある場合 (特にキノロン系の予防内服時) 注意 FNにルーチーンのVCM追加は × × × → 14のRCTメタ解析でFN患者の死亡率は低下せず Up to data (Overview of neutropenic fever syndromes)
#8. バンコマイシン(VCM)の使い⽅ ① 初回 投与は 2g (1gにつき1時間↑かけて投与). → レッドマン症候群対策!! ② その後は 12 時間毎に 1g 投与 ③ 投与 3⽇⽬ (投与4-5回⽬の直前)に トラフ値 測定 (15 ⽬標︕) → トラフ値: 薬剤の反復投与で⾎中濃度が上下する時の最低値のコト (だから投与前に測定!!) ④ VCM投与中の 発⾚ は レッドマン 症候群を念頭に → アレルギーと勘違いして中⽌しない︕ 注意 VCM使⽤中はピペラシリン/タゾバクタム以外の薬剤で︕(併⽤は急性腎障害と関連)
レッドマン症候群の理解と対策
#9. レッドマン症候群(Vancomycin infusion reaction︓VIR) ü VCM投与後 (初回から) に出現する、上半⾝を中⼼とした⽪疹が特徴 → IgE介在性アナフィラキシーは初回投与で起こらない. VCMが肥満細胞を活性化→ヒスタミン遊離 ちなみに蕁⿇疹、喉頭浮腫、喘鳴はアナフィラキシーを⽰唆 (VIRでは出現しない) ü VCM 1gにつき1時間を⽬安にゆっくり投与!! → Ope前の10⼈にVCM 1gを10分で投与 → 全員 VIR 発症. 7⼈が重度⽪膚障害. 5⼈が⾎圧低下 ü 前投薬は基本不要. 急速投与が必要な場合は抗ヒスタミン薬を考慮 → VCM 1g 60分の投与前にH1ブロッカーの内服で VIRを完全に抑制できたとの報告も ü 発症したらヒスタミン薬を投与し、速度半減 (or 10mg/min) で投与再開 Up to data (Vancomycin hypersensitivity)
#10. よくある現場でのやり取り② 研修医 FNの患者さんで、メロペネムを5⽇間使ってるんですが、解熱しません。 好中球が50コしかいないんですけど⼤丈夫ですか︖︖ 重度の好中球減少が続く時は真菌感染も起こるから、胸部CTや 真菌検査など は要考慮だね。あとは予防内服の種類もチェックだね。 Drds 聴診では異常ありませんでしたが、胸部CTは必要ですか︖ 研修医 研修医 FNでは肺炎でも熱以外は無症状の事もあるので注意が必要だね。 メロペネムは変えた⽅がいいですよね︖抗⽣剤が効かないと思った時は、 よく3⽇から5⽇で薬を変えてました。 ⽩⾎球が増えるまで解熱しない事も多いので、状態が良ければ広域抗⽣剤は そのままでも⼤丈夫だよ。ただ、アレルギーとか薬剤熱の可能性とかは 常に考えておく必要があるね。 Drds Drds
真菌感染の考慮と治療方針
#11. STEP 3︓FN が持続したら真菌(カビ)を考えよう︕ ü 広域抗⽣剤投与後 4-7⽇ 発熱持続する場合は抗真菌剤考慮 → β-Dグルカン、ガラクトマンナン抗原、胸部CTもオーダーしておこう. ü 抗真菌薬の予防投与がない場合は、カンジダ属を考慮 → カンジダカバーの薬で迷ったら、副作⽤少ないミカファンギン (100-150mg/day) を選択. ü 予防あり(フルコナゾール等)は、カンジダ属以外を考える︕ ü 肺結節や結節性の肺浸潤影があれば侵襲性アスペルギルスを疑う → 肺アスペルギルスには ボリコナゾール (初⽇ 400mg 1⽇2回→200mg 1⽇2回. 5-7⽇⽬に濃度測定). → ⼀過性の視野障害が時々でるけど、あまり気にしなくていい 注意 アムホテリシンB(L-AMB)は 腎臓 を壊す気持ちで使⽤ (無闇に使わない︕) Up to data (Overview of neutropenic fever syndromes)
#12. Take Home Message ü FNは⼼筋梗塞や脳梗塞と同じく内科的緊急疾患 ü FNが起こったら60分以内に広域抗⽣剤を投与 ü VCMは使⽤する症例を慎重に判断、FN持続時は 抗真菌剤の投与を考慮