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日本の災害医療の概要と目的 #1.
君は日本の災害医療 を知っているか!? (前編) Twitter @DrNikotora にことら@救急医 日本救急医学会専門医・指導医 統括DMAT DMATインストラクター #2.
本スライドの対象者 災害時の医療を知る一歩目を踏み出したい方! 災害医療は学ぶ場が少ない。このスライドをきっかけに、災害医療知識の 一歩目を学んでもらいたい! 本スライドでわかる事 災害医療とは、何か 自然災害発生時に、どのような支援が行われるのか 自施設が被災した場合、どのように対応すべきか 医療における災害の定義と状況 #3.
目次 医療における災害とは何か 災害医療とは何か 日本の災害医療の形:EMIS、災害拠点病院、DMAT、広域医療 搬送とは何か #4.
医療における災害とは、何か! 医療の需要と供給のアンバランス ・医療需要が多すぎて、通常の方法では対処できない状況 ・医療供給が制限され、通常の方法では対処できない状況 #5.
こういう状況も災害です 通り魔による大量死傷事件!多数の重症外傷が発生! ➡搬送、治療の優先順位を決めて、適切な医療機関に分散搬送 病院がサイバー攻撃で診療できない! ➡患者に十分な医療が提供できないため、病院の避難が必要 病院が停電し、復旧見込みがない! ➡通常診療の制限、節電、自家発電の燃料の把握 COVID-19パンデミック! ➡傷病者対応に手間がかかる、発熱外来受診者が増える 医師の大量辞職! ➡通常外来の縮小、新患患者の制限、入院患者の転院 もしかして、これは災害かも?と考えることが大事 災害医療の基本概念と院内指揮系統 #6.
災害医療とは、何か 一般的な災害医療のイメージ 多数傷病者 START法トリアージ DMAT 本当に必要な傷病者に優先的に医療を提供する ➡トリアージ これはあくまでも、災害医療のほんの一部でしかない #7.
災害時は、通常の方法で医療を行えない 通常診療のルールから変更が必要になる! トリアージをした後、優先的に医療を受けさせるためのルール 通常と異なる診療時の連絡、報告の手段 集まってきたスタッフのチーム構築 供給できる医療資源の把握 自施設の限界の把握と、応援要請の基準 患者家族の対応 等々 トリアージ以外にもその後の診療や、継続すべき病院の対応がある! #8.
院内指揮系統図 災害医療とは 院内災害対策本部長(院長) 診療班 (職員、外部支援調 整) 院内災害対策 指揮命令系統図(例) 外部調整班 (搬送) 検査薬剤担当 外来診療班 受付 トリアージ 赤エリア 黄エリア 緑エリア 医療ニーズ 情報班 病棟管理 薬剤科 A病棟 検査科 B病棟 放射線科 C病棟 院内本部 ロジス ティクス 物流・設備担当 記録・連絡班 非患者担当 防災 センター 警備 家族対応 医療資器材 管理 医療ガス 管理 帰宅困難者 対応 黒エリア 搬送係 災害医療とは、災害に対応する組織作りと運営 阪神淡路大震災からの教訓と改革 #9. 災害医療の最終目標 避けられた災害死 (Preventable Disaster Death) 図:阪神淡路大震災での広域搬送適応患者 を最小限にする事 PDD=平時の救急医療が提供されていれば 救命できたと考えられる災害死 https://www.wds.emis.go.jp 外傷・クラッシュ症候群・熱傷 によるPDDが500人 #11.
阪神淡路大震災での経験 発災当日:一人の医師が診療した患者数 患者 A病院 B病院 医師 医師一人当たり の診療患者数 366人 112人 3.3 1033人 7人 147 診療する患者数に約50倍の偏りがあった アンバランスの情報が得られなかったため、増援などもなかった ➡被災地域を俯瞰して観察し、 医療受給のアンバランスを解消する必要があった #12.
阪神淡路大震災を教訓とした災害医療対策の改革 広域災害医療情報システム 医療のアンバランスが把握できなかった EMIS ➡被災地域を俯瞰して判断できるシステムを作った 被災地内では標準レベルの医療ができなかった 災害拠点病院 ➡重症患者の診療拠点を作った 発災直後に被災地へ医療者が赴いて医療活動をすることがなかった DMAT ➡発災直後に支援可能なチームを作った 航空機による患者搬送が早期には実施されなかった 広域医療搬送 ➡自然災害時に被災地外に傷病者を搬出するルールを作った この4つのシステムを軸に 日本の災害医療は行われる 広域災害医療情報システム(EMIS)の役割 #14.
EMISとは何か 全ての病院が登録されており、MAP 上で被災状況が把握できる (医療需要の把握) DMAT隊員の活動状況がわかる (医療供給の把握) 被災地域を俯瞰して医療資源の需給バランスを 確認、再配置できるツール 図:EMIS内の被災地域MAP ✙は病院 支援が必要な病院は ✙が赤くなる ➡被害の詳細を確認できる #15.
EMISは病院のトリアージタグ (被災病院の入力画面) 全ての病院が被災時に入力 することで 被災地域の全体像を得る ライフライン情報は重要 <緊急時入力の必須項目> ・建物の倒壊の恐れ ・電気供給 ・水の供給 ・医療ガスの供給 ・医薬品などの供給 ・多数傷病者 ・職員の不足 いずれが不足しても赤トリアージ 災害拠点病院とDMATの機能 #16.
災害拠点病院とは何か 二次医療圏に一か所整備(全国で600か所以上) 災害時に必要な電気や医療品、食料を確保している 災害時の受け入れ拠点となれる(患者だけでなく、物資等も) 災害時に医療救護のチーム(DMAT)を派遣できる ヘリコプター搬送に必要な医療者、サポート、医療体制が整備 されている BCPが整備されており、災害時にすぐに対応できるシステムが 構築されている ※BCPは災害時の業務復旧計画 後編で詳しく説明します 災害時にすぐに診療が開始され、 地域の中心となれる病院+DMAT派遣ができる病院 #17.
DMATとは何か 災害急性期に活動できる、機動性を持ったトレーニングを受け た医療チーム 医師、看護師、業務調整員で構成される 業務調整員には様々な職種が採用されている (事務員、放射線技師、薬剤師、栄養士、リハビリ等) 災害急性期(概ね48時間)活動する 機動性を持ち自己完結型で活動する (移動手段、生活用品、医療品を自力で確保) 診療だけでなく、災害医療(組織作り)にも特化 #18.
DMATの急性期の役割 DMATの被災地支援 従来の医療支援の間に合わない 急性期を支援する 災害に対応する組織を作る 従来支援できなかった部分 ➡DMATの支援で避けられた 災害死を減らす 救急医療・後方搬送のニーズ 発災直後は高く・徐々に減少する 従来の医療支援 最も必要な72時間以内に 間に合わない 発災 24時間 72時間 DMATの活動事例と重要性 #19.
DMATと他の支援チームとの違い 診療や医療支援だけではなく、急性期に組織作りができる 都道府県と連携をとるパイプを作れる 自己完結可能で、被災地域に負担を強いない DMATは超急性期に、短期間支援がベース 短期支援の後JMATや、AMAT等中長期支援の組織に引き継ぐ 組織の運営に長けたロジスティックチームが存在する ロジスティックチームとは DMATチームが活動するための情報支援や、通信の確保、資源の管理、 チームの指揮調整など、災害医療の組織作りの要 #20.
DMATの活動事例 平成21年 東日本大震災 活動チーム数:約380チーム 主な活動:本部活動、病院支援、地域医療搬送、広域医療搬送、病院避難など 平成28年 熊本地震 活動チーム数:466チーム ロジスティックチーム:84名 主な活動:本部活動、病院支援、地域医療搬送、被災地の医療ニーズの情報収集など 平成30年 7月豪雨 活動チーム数:119チーム ロジスティックチーム:48名 主な活動:本部活動、病院支援、地域医療搬送、避難所、救護所の情報収集など 平成30年 北海道胆振東部地震 活動チーム数:67チーム ロジスティックチーム:59名 主な活動:本部活動、医療機関ライフラインの情報収集、搬送支援など COVID-19クラスター対応で、日本全国の病院、施設、保健所を支援 広域医療搬送の仕組みと実績 #21.
広域医療搬送とは何か 被災地では、十分な医療が確保できないため、重症患者搬送に 従事する災害医療派遣チームを被災地外から派遣し、被災地外 の災害拠点病院などに搬送する 重症患者の医療を継続しながら、被災地外の病院に分散して搬 送することで、医療受給バランスの適正化を図る 搬送拠点として、空港などにSCU(Staging Care Unit)を設置 国は、東海地震、南海トラフ地震、首都直下型地震を想定して、 すでに広域医療搬送計画を策定し、訓練している 被災地から外に患者搬出し、医療供給のある地域へ分散搬送 被災地域の負担を減らす #23.
東日本大震災で行われた広域医療搬送 沿岸被災病院から 花巻空港SCUに患者を集約 千歳・秋田・羽田SCUに 広域医療搬送 16名 近隣医療機関に 陸路で域内搬送 120名 千歳 秋田 花巻空港 SCU 羽田 日本の災害医療のキー要素とメッセージ #24.
医療機関の支援情報を迅速に収集し 被災状況を俯瞰的に把握 災害時にすぐに診療が開始され、 地域の中心となれる病院 災害拠点 EMIS 病院 日本の災害医療 広域医療 DMAT 被災直後に派遣される 災害急性期のチーム 搬送 被災地から外に患者搬出し 被災地域の負担を減らす #25.
Take Home Message 医療における災害とは、医療の需給バランスの崩壊 災害医療とは、災害によるバランス崩壊を立て直す組織作り ➡避けられた災害死を減らすことが目標 日本の災害医療のキーは EMIS、災害拠点病院、DMAT、広域医療搬送 このスライドをきっかけに、災害医療に興味を 持っていただければ幸いです 災害の予測と支援活動の重要性 #26.
災害は忘れたころにやってくる 東日本大震災での支援活動にて