#4.
貧血の身体所見 境目が無い! 正常 前側眼瞼結膜 貧血 後側眼瞼結膜 眼瞼結膜蒼白(Conjunctival rim pallor) 前側眼瞼結膜が後側眼瞼結膜と同じぐらい蒼白な状態 Hb11g/dLをカットオフ値とすると陽性尤度比16.68,陰性尤度比0.64 みなさんが良くカルテに記載する「眼瞼結膜貧血」。これにも、診かたのポイントがあります。 前側と後側との境目に注目してください。 被写体は施設内で撮影
#5.
さて、突然ですが貧血の診察の時に手も診ていますか?
#6.
貧血の身体所見 正常 貧血 手掌皮溝の蒼白(palmar crease pallor) 貧血診断に感度12% 特異度98% 被写体は施設内で撮影 手掌まで白いかどうかも注目してください。 この所見は感度は高くありませんが、特異度が非常に高いです。
#7.
心腎貧血症候群(cardio-renal-anemia syndrome:CRAS) 心不全 酸化ストレス↑ 炎症↑ RAS↑ CKD-MBD 炎症↑ 体液過剰 心拍出量↓ 静脈圧↑ 交感神経系↑ RAS↑ 虚血 低酸素 酸化ストレス Epo↓ 栄養不良 尿毒症 慢性腎臓病 虚血 酸化ストレス 貧血 PROGRESS IN MEDICINE 41 (5) 425-431, 2021. 心不全、CKDおよび貧血は互いに影響し、患者の予後を悪化させることが知られています。 この概念を心腎貧血症候群と言います。 心不全、慢性腎臓病に比べて貧血は治療介入のハードルがまだ低いのではないでしょうか?
#8.
腎性貧血 相対的欠乏 尿細管周囲の間質の胎児期の神経堤由来の 細胞がEPOを産生している Myofibroblast (EPO産生能を消失) 2012,日内誌.101_1318 腎性貧血 2015,日内誌.104_1367 赤血球の生理機能と産生調節 CKDでは腎血流が低下しても、尿細管障害により酸素消費も減るため局所の低酸素刺激が弱まります。 その結果、EPO産生が十分に誘発されず「相対的なEPO欠乏」が生じます。 さらに線維化が進むと、EPO産生細胞がmyofibroblast化してEPO産生能を失います。
#9.
エリスロポエチンの役割 造血因子であるEPO アポトーシス ネオサイトライシス Hbの原材料となる 血性鉄 TFR1 EpoR 2016,日内誌.105_2450 ヘプシジンと腎性貧血 EPOは赤血球を“作る”だけでなく、 壊されないように守るホルモンです。 EPOが不足すると、骨髄で前駆細胞がアポトーシスし、末梢でもネオサイトライシスが起こります。 さらに、赤血球をつくるにはTFR1を介する鉄の供給経路も不可欠です。
#10.
腎性貧血 では腎臓が悪い人に貧血があれば腎性貧血と言えるのでしょうか?
#11.
CKDにおける貧血の機序 ↑炎症 ↑尿毒素 ACE阻害薬 Epo産生 の抑制 ↓EPO 骨髄機能障害 病態は多因子性 ↑EPO抵抗性 •エリスロポエチン(EPO)の不足 ↑ヘプシジン •鉄代謝の異常 •慢性炎症 •骨髄機能低下 ↓赤血球産生 ↓鉄吸収 •ビタミンB12・葉酸欠乏 ↓貯蔵鉄の 利用 鉄欠乏 ↓赤血球寿命 出血 貧血 Biomedicines. 2024 May 27;12(6):1191. 実は、腎臓が悪いと様々な要因で貧血が起こることが知られています。
#12.
CKDにおける貧血の鑑別 ① ② 腎性貧血と言うには 他の除外を! ①MCVチェック ②網赤血球数は? ③ ③腎性貧血の鑑別は最後 2015年版 日本透析医学会 慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン CKD患者における腎性貧血治療のガイドラインでも、腎性貧血と判断するのには、他の要因の除外が必要となっています。
#13.
腎性貧血の診断に血中エリスロポエチン濃度測定は必要? では実臨床で、エリスロポエチン濃度を測るのはどんな時でしょうか?
#14.
腎機能が低下すると貧血は進行する 男 女 1988年〜1994年にかけて米国で実施された、腎機能と貧血の相関を調べたstudy 20歳以上の成人15,419人を対象 各eGFR値におけるHb値の中央値、95%信頼区間を男女別にプロット Arch Intern Med. 2002 Jun 24;162(12):1401-8. eGFRが60ml/min/1.73m2を切るとHb値は低下傾向になる 腎機能が低下するとEPO産生が減少し、貧血が進行し始めます。
#15.
CKD stage別の貧血の頻度 90 80 一般集団 (%) 81.3 74.9 病院集団 (%) 70 60 47.5 50 51.3 40 30 25.1 20 10 対象: 日本の18歳以上の 非透析CKD(ステージG3a〜G5)患者 11.8 11.9 ・一般集団: 健診受診者の保険データ (2015–2016年) ・病院集団: DPC急性期病院受診者 (2015–2017年) 3.8 0 G3a G3b G4 G5 Kidney Int Rep. 2020;5(5):694–705.を元に作成 StageG4以降では約半数で貧血が見られる。 日本人のデータでも同様に腎機能の低下に伴いStageG4以降では半数に貧血が見られます。
#16.
CKDにおけるエリスロポエチン濃度 No CKD CKD r2=0.65 CKD stageが進行しても Epo産生は基準値内に保たれる。 No CKD Epo(基準値):4.2〜23.7mIU/mL CKD1+2 CKD3 23.7 CKD4 CKD5 4.2 通常は貧血であれば Epo>50mIU/mL 貧血なのにEpo<50mIU/mL であれば腎性貧血を疑う! Medicine. 2015;43:474–8. 通常、貧血になるとEPOは50 mIU/mL以上に上昇します。 しかしCKDでは、貧血があってもEPO上昇が鈍く、EPO<50 mIU/mLなら腎性貧血を疑います。 「つまり、“貧血なのにEPOが上がっていない”ことが、腎性貧血の決め手になります。」
#17.
CKDにおける貧血の鑑別 ①MCVチェック ②網赤血球数は? ③腎性貧血の鑑別は最後 2015年版 日本透析医学会 慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン ガイドラインでも50mIU/mLがカットオフ値となっています。
#18.
DM患者と非DM患者の腎性貧血有病率 % Stage 4,5 Stage 3 Stage 2 Stage 1 糖尿病患者ではエリスロポエチン産生が悪く、腎性貧血が起こりやすい Am J Kidney Dis. 2018;71:423–435. ただ、糖尿病患者では早期から腎性貧血が起こることには注意が必要です。
#19.
CKDにおけるエリスロポエチン濃度測定は? ✓ 腎性貧血 腎性貧血? ・正球性貧血 ・小球性or大球性 ・eGFR<30 ・eGFR>30 ・網状赤血球著増無し ・緩徐な貧血進行 EPO濃度 >50mIU/mL or <50mIU/mL ・網状赤血球著増 ・急速な貧血進行 ・ESA低反応性 左のように正球性・緩徐進行性で、腎機能低下を伴う貧血であれば腎性貧血と判断してよいでしょう。 一方、右のように小球性・大球性や急速な進行など腎性らしくない貧血では、他の原因を検討します。 その際、EPO濃度の測定を参考にするのも一つの手ですが、全例で測定する必要はありません。 「“EPOを測る”のは決め手ではなく、迷ったときのヒントとして使ってください。」
#20.
CKDにおける貧血の鑑別 鉄欠乏性貧血 ①MCVチェック ②網赤血球数は? ③腎性貧血の鑑別は最後 2015年版 日本透析医学会 慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン 次に鑑別の上位に来る鉄欠乏性貧血のお話をしていきます。
#21.
Fe Fe 鉄欠乏性貧血なので鉄補充しておきます! 実はこれだけでは不十分です。
#22.
鉄欠乏に気をつける! 非貧血性鉄欠乏 (NAID) 鉄欠乏性貧血 (IDA) 毛髪 神経系 気分変化 (いらいら、抑うつ) 記憶障害 集中力低下 うつ めまい 頭痛 IQ低下 頭がぼんやりする (ブレインフォグ) 不安 皮膚・髪・爪 皮膚の乾燥 脱毛(30%) 髪の乾燥・損傷 萎縮性舌炎(27%) 視覚障害 異食症(8%) 心臓 Plummer–Vinson症候群 胸痛 動悸 呼吸器 息切れ 全身症状 身体的疲労(83%) 蒼白(45〜50%) 寒冷不耐性(13%) 倦怠感(44%) 運動耐容能低下 循環不全(2%) 筋力低下 筋力低下 神経系 頭痛(63%) 失神(0.3%) 立ちくらみ 認知機能障害 不眠 めまい 心臓 心雑音(10%) 頻脈(9%) 動悸 胸痛・胸部圧迫感 筋肉痛 脱毛 爪がもろくなる 鉄欠乏:フェリチン<30μg/L NAID:鉄欠乏+Hb正常 IDA:鉄欠乏+Hb低下 鉄欠乏は貧血が無くても 症状が出る。 症状は多臓器・多面的。 睡眠障害 浮腫 極度の疲労 皮膚・爪 関節痛 震え (13%) むずむず脚 症候群 (24%) 貧血があると循環、呼吸症状が 顕著に現れる。 手足が冷たい 爪がもろい スプーン状爪(匙状爪) 乾燥してざらついた皮膚 CMAJ 2025;197(24):E680–E687 実は貧血が無くても鉄欠乏では様々な症状が出ます。鉄欠乏を早期に見つけることが重要です。
#23.
鉄の評価はフェリチンとTSATでおこなう トランスフェリン:トラック フェリチン 血清鉄(Fe) 貯蔵鉄 Hb 総鉄結合能(TIBC) 不飽和鉄結合能 (UIBC) TSAT=鉄を積んだトラック/全トラック=Fe/TIBC✕100(%) 鉄の評価はフェリチン(貯蔵鉄)とTSAT(運搬鉄の利用率)で行います。 フェリチンは「倉庫に貯めている鉄」、トランスフェリンは「鉄を運ぶトラック」と考えると理解しやすいです。 つまり、倉庫の在庫(フェリチン)と道路を走るトラックの稼働率(TSAT)の両方を見て、鉄の流れを評価するわけです。
#24.
鉄の評価 CKD患者の鉄剤投与の目安 TSAT<20% または フェリチン値<100ng/mL CKD患者の鉄剤中止の目安 フェリチン値>300ng/mL 鉄過剰による肝障害などを避けるため エビデンスに基づくCKD 診療ガイドライン2023 フェリチンが過剰にならないよう鉄剤の処方量を調整してください。
#25.
貧血が無ければ鉄補充はいらない? 心不全では鉄補充により 予後が改善する CKDでは? ブラジル、フランス、ドイツ、米国 CKDステージ3–5の患者5145人 前向き他施設コホート研究 TSAT<15% 死亡 MACEのリスクが上昇した。 J Am Soc Nephrol. 2021;32:2020–30. 心不全では、鉄補充によって予後が改善することが知られています。では、CKDではどうでしょうか? この多国籍コホート研究(JASN 2021)では、TSAT<15%の患者で死亡・MACEのリスクが上昇していました。
#26.
心腎貧血鉄欠乏症候群(cardio-renal-anemia-iron deficiency syndrome:CRAIDS) 心不全 酸化ストレス↑ 炎症↑ RAS↑ CKD-MBD 炎症↑ 体液過剰 心拍出量↓ 静脈圧↑ 交感神経系↑ RAS↑ 虚血 鉄 低酸素 酸化ストレス Epo↓ 栄養不良 尿毒症 慢性腎臓病 虚血 酸化ストレス 貧血 これまで「心腎貧血症候群」として扱われてきた概念は、単に貧血を治せばよいというものではありません。 近年では、鉄欠乏そのものが予後に関わる要因とされ、“心腎貧血鉄欠乏症候群”という考え方で補完されています。 CKD、心不全の治療では、貧血の有無にかかわらず鉄欠乏があればしっかりと補充することが重要です。
#27.
体内での鉄代謝 肝臓 鉄の血管内放出 マクロファージ 鉄の再利用 小腸 鉄の吸収 ヘプシジン 鉄 Semin Nephrol. 2018;38(3):267–276. 体内の鉄は、小腸で吸収され、マクロファージで再利用され、肝臓に貯蔵されるという循環で維持されています。 この過程を制御しているのがヘプシジンで、鉄の吸収・動員・リサイクルを抑制する働きがあります。 炎症や鉄過剰でヘプシジンが上昇すると、鉄の利用が阻害されて「機能的鉄欠乏」が起こります。
#28.
体内での鉄代謝 肝臓 マクロファージ 小腸 D 鉄の血管内放出 鉄の再利用 鉄の吸収 ヘプシジン 鉄の囲い込み 鉄 Semin Nephrol. 2018;38(3):267–276. 慢性腎臓病(CKD)では、慢性炎症や腎機能低下によってヘプシジンが高値になります。 その結果、鉄が体内にあっても利用されず、「鉄の囲い込み」が起こります。 フェリチンは高くてもTSATが低い場合、この状態を疑うことが大切です。
#29.
鉄の補充方法は? 剤形 製品名 一般名 鉄含有量 1日投与量 経口鉄剤 フェロミア® クエン酸第一鉄Na 50mg 100〜200mg 経口鉄剤 フェルム® フマル酸鉄 100mg 100mg 経口鉄剤 フェロ・グラデュメット® 乾燥硫酸鉄 105mg 1日105〜210mg 経口鉄剤 インクレミンシロップ® ピロリン酸第二鉄 6mg/mL 12〜90mg 経口鉄剤 リオナ® クエン酸第二鉄水和物 250mg 500~1500mg 静注鉄剤 フェジン® 含糖酸化鉄 40mg 40〜120mg 静注鉄剤 モノヴァー® デルイソマルトース第二鉄 500mg 500〜1,000mg 静注鉄剤 フェインジェクト® カルボキシマルトース第二鉄 500mg 500mg 鉄剤にはこれらのものがあります。 どれを使うかは次スライドのメリット・デメリットを鑑みて決定してください。 演者作成
#30.
経口VS静注 メリット デメリット 経口 安い 重篤な副作用が少ない 吸収上限量が決まっているので 鉄過剰症のリスクが低い 数か月に渡って投与が必要 嘔吐など消化器系副作用 重症の場合や吸収障害の場合は 使用できない 静注 大量に投与可 数回の外来通院で治療可能 経口薬が使用できない場合も使用できる 高い アレルギーや注入反応がまれに生じる 二次性ヘモクロマトーシス 低P血症 吸収障害、重症貧血で無ければ経口が優先 持続出血があり経口では補充が難しい時 経口鉄剤の消化器系副作用がある時は静注 静注は投与したものがそのまま蓄積することに注意 フェインジェクト投与後の低P血症 ・FGF23の分解を抑制 →P再吸収が抑制 活性型VitD産生を抑制 ・最大で51%に発症 EDM Case Rep. 2019;19-0065 フェインジェクト投与後に低P血症をきたすことがあるので注意してください。
#31.
経口鉄剤の内服法は? 対象:血清フェリチン<25 μg/Lの健康な成人女性 毎日投与群(n=21) 隔日投与群(n=19) 60 mg FeSO₄ 14日間連日投与 60 mg FeSO₄ 28日間隔日投与 16.3% 吸収率 21.8% 131mg 総吸収量 175.3mg 有害事象 33%少ない 隔日一回投与 Lancet Haematol. 2017;4(11):e524–33. 経口鉄剤は、毎日よりも隔日投与の方が吸収効率が良いことが示されています。 これは、鉄を摂取すると一時的にヘプシジンが上昇して次回の吸収を妨げるためです。 この研究では、隔日投与群の方が吸収率・総吸収量ともに高く、副作用も少ない結果でした。
#32.
経口鉄剤の内服法は? 80歳以上の高齢者 無作為割付 15mg VS 50mg VS 150mg Am J Med. 2005;118(10):1142–1147. 各群で2ヶ月後のHbの上昇、フェリチンの上昇に差は無い 経口鉄剤は15 mgの少量投与でも50 mg・150 mgと同等の効果が得られました。 高用量では消化器症状などの副作用が増えるため、高齢者では少量投与が良さそうです。
#33.
鉄欠乏の原因は? 鉄喪失の増大 1 性器出血:過多月経、子宮筋腫、子宮内膜症、婦人科癌 2 消化管出血:痔、消化管潰瘍、消化器癌、炎症性腸疾患、抗凝固・抗血小板薬内服 3 その他:鼻出血、血尿、スポーツ貧血 鉄利用の低下 1 損食異常:偏食、不適切なダイエット 2 吸収障害:胃切除後、萎縮性胃炎 鉄需要の増大 1 成長期 2 妊娠・授乳期 単純に鉄補充のみですませない! 診断と治療.2025;113(3):385–388 鉄欠乏の原因は、喪失・利用低下・需要増大の3つに大別されます。 原因を見極めないと、単なる鉄補充では改善しないこともあります。 「なぜ鉄が足りなくなったのか?」を必ず考えることが大切です。
#34.
消化管カメラは必要? American Gastroenterological Association(AGA)のレビュー 無症候性の鉄欠乏性貧血を有する男性および閉経後女性1万2040人を対象とした18件のstudy →上部内視鏡で胃癌・食道癌が2.0%に検出 大腸内視鏡で大腸癌が8.9%に検出 →これらの発見率は、一般集団のスクリーニングに比べて約100倍高い AMA. 2025;333(20):1813–1823. ・IDAで大腸内視鏡検査を受けた平均60歳の男女 →257人中51人(約20%)に癌、高リスク線種 →病変有病率は便潜血結果と関連無し Intern Med J 2012 Jun:42(6):658-64. 男性や閉経後の女性では、鉄欠乏性貧血の背景に消化管の悪性腫瘍が潜んでいる可能性があります。 実際、胃癌・食道癌・大腸癌の発見率はいずれも一般集団より高く、便潜血が陰性でも注意が必要です。 そのため、このような患者では 上部・下部内視鏡検査の実施を検討することが推奨されます。
#35.
最後に腎性貧血の治療について見ていきましょう。
#36.
目標Hb濃度 これらはすべてESA製剤を用いる前提で定められている 目標Hb値 成人の血液透析(HD)患者 10 g/dL以上 12 g/dL未満 成人の慢性腎臓病(CKD)患者 10 g/dL以上 13 g/dL未満 成人の腹膜透析(PD)患者 10 g/dL以上 13 g/dL未満 エビデンスに基づくCKD 診療ガイドライン2023 いくつかの大規模RCTでHbを13以上を 目標にしたESA投与が予後を改善させず、 むしろCVDイベントリスクを上昇させる 可能性が指摘された。 本邦のCKD患者を対象にしたRCTで Hb9〜11g/dLに対する11〜13g/dL ≈ç√ç√ の腎アウトカムや生命予後に対する優越性が 指示されなかった。 エビデンスは薄い。 透析患者ではHb 10〜12g/dL未満、CKD・PD患者ではHb 10〜13g/dL未満を目標に管理します。 過去のRCTでHbを13g/dL以上に上げても予後改善はなく、心血管イベントが増加する可能性が示唆されました。 したがって、「高ければ高いほど良い」わけではなく、ESA使用下で安全な範囲を保つことが重要です。
#37.
ESA使用量が多いことがHb上限を決めている Am J Kidney Dis. 2012;59(1):108–116. ESA使用量が多い群(ESA抵抗性がある群)が死亡率が高かった Hbを上げようとしてESAを多量に使用した群(ESA抵抗性のある症例)では死亡率が高いことが示されています。 つまり、「Hb値そのもの」よりもESAをどれだけ使わないと維持できないかが予後に関わるということです。 今後、HIF-PH阻害薬でこの関係がどう変わるかは、今後の重要な検討課題です。
#38.
ESA抵抗性の原因を追求する この原則は HIF-PH阻害薬 でも同じ。 2015年版慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン ESAを投与しても目標Hb値に達しない場合は、まずESA抵抗性の原因を丁寧に探ることが重要です。 出血、感染、炎症、鉄欠乏、栄養素不足など多様な要因が関与します。 この考え方はHIF-PH阻害薬でも同様で、貧血が改善しないときは同じように背景因子を再評価する必要があります。
#39.
HIFを介したEPOの発現誘導 正常酸素状態 PHD2 HIF-2α 低酸素状態 HIF-2α EPO遺伝子 2015,日内誌.104_1367 赤血球の生理機能と産生調節 通常は、酸素が十分にある状態ではPHD2がHIF-2αを水酸化して分解します。 しかし低酸素になるとPHD2の働きが抑えられ、HIF-2αが安定化してEPO遺伝子の転写を促進します。 HIF-PH阻害薬はPHD2を阻害するため結果としてRPO遺伝子の転写が促進されます。
#40.
HIF-PH阻害薬の機序 肝臓 鉄の血管内放出 マクロファージ 鉄の再利用 小腸 鉄の吸収 ヘプシジン エリスロフェン 鉄 EPO↑ Semin Nephrol. 2018;38(3):267–276. HIF-PH阻害薬は、EPO産生を促進して赤血球系を刺激する①のみならず、 エリスロフェロンを介してヘプシジンを抑制し、鉄の利用効率を高める②作用を有します。 すなわち、造血刺激と鉄代謝改善の双方から貧血を是正する薬剤です。
#41.
HIF-PH阻害薬 一般名 商品名 ロキサデュスタット ダプロデュスタット エナロデュスタット モリデュスタット バダデュスタット エベレンゾ 保存期CKDでの推奨投与開始量 【ESAで未治療の場合】 1回50 mgを開始用量とし、週3回経口投与 【ESAから切り替える場合】 1回70 mgまたは100 mgを開始用量とし、週3回経口投与 【ESAで未治療の場合】 2 mg(Hb 9.0 g/dL以上)または4 mg(Hb 9.0g/dL未満)を ダーブロック 開始用量とし、1日1回経口投与する 【ESAから切り替える場合】 4 mgを開始用量とする エナロイ 2 mgを開始用量とし、1日1回食前または就寝前に経口投与 【ESAで未治療の場合】 1回25 mgを開始用量とし、1日1回食後に経口投与 マスーレッド 【ESAから切り替える場合】 1回25 mgまたは50 mgを開始用量とし、1日1回食後に経口投与 バフセオ 300 mgを開始用量とし、1日1回経口投与する 最高用量 投薬間隔 <3.0mg/kg 週3回 24 mg 1日1回 8 mg 1日1回 200 mg 1日1回 600 mg 1日1回 HIF-PH阻害薬は経口で使用できる造血刺激薬で、薬剤間の明確な優劣は現時点では示されていません。 ダプロデュスタット以外は多価陽イオン含有薬との併用で吸収低下に注意が必要です。 また、それぞれに相互作用や併用禁忌があるため、併用薬の確認を必ず行ってください。
#42.
どのような人にHIF-PH阻害薬を使用する? HIF-PH阻害薬 メリット ESA ・経口投与(低侵襲) ・エビデンスが豊富 ・鉄利用効率の改善 ・確実なアドヒアランス ・炎症状態でも効果が維持されやすい ・製剤により週1回〜月1回投与が可能 ・長期的な安全性が未確立 ・炎症状態では反応性が低下 ・アドヒアランスに課題 ・高Hb目標や高用量で心血管イベント デメリット ・ポリファーマシー ・各種合併症 のリスク増加 ・皮下注の疼痛 ・薬物相互作用 HIF-PH阻害薬は経口投与や鉄利用効率の改善といった利点があり、炎症下でも効果が維持されやすい点が特徴です。 一方で、長期安全性や薬物相互作用、アドヒアランスの課題も考慮が必要です。 ESAとHIF-PH阻害薬はいずれも有効な選択肢であり、患者背景や併用薬を踏まえて個別に使い分けることが重要です。
#43.
HIFは転写因子として様々な遺伝子の発現に関与している Nat Rev Mol Cell Biol. 2004;5(5):343–354. HIF-PH阻害薬はEPOを含む多様な低酸素応答遺伝子を活性化します。 この作用は造血に有利に働く一方で、VEGFなどの血管新生因子も誘導されるため、 腫瘍や網膜症の進行リスクが理論的に懸念されています。 現時点で明確な有害事象は示されていませんが、長期安全性の検証が今後の課題です。
#44.
HIF-PH阻害薬使用中の注意点 腎癌やその他の悪性腫瘍の発生頻度を増加させるエビデンスは無い 悪性腫瘍 既に悪性転化した細胞の増殖や浸潤能、転移能については 可能性は否定しきれない HIF-1αの過剰発現は非小細胞肺癌や神経芽腫の予後改善と Anticancer Res. 2000;20(3A):1527–1533. 関連しているという報告もある Clin Cancer Res. 2009;15(23):7130–7136. 投与開始前、開始後は定期的に画像検査を行うことが必要(特に腎細胞癌) HIF-PH阻害薬は腫瘍の発生を直接促す明確な証拠はありませんが、 HIF経路が腫瘍増殖に関与する可能性が指摘されており、既存腫瘍の経過観察には注意が必要です。 そのため、特に腎癌リスクのある症例では、定期的な画像フォローを意識しておくと安心です。
#45.
HIF-PH阻害薬使用中の注意点 VEGFの発現を亢進し、血管新生が亢進する可能性がある。 網膜出血 肝機能異常 高K血症 これまでの臨床経過の多くでエビデンスは無いが、 リスクが高い症例が除外されており注意が必要 臨床的に強いエビデンスは示されていないが 定期的なモニタリングを推奨する 嚢胞の増大 高血圧 定期的なモニタリングを推奨する 2020,日本腎臓学会 HIF-PH 阻害薬適正使用に関する recommendation 網膜症や肝障害などは明確な因果関係は示されていませんが、HIF経路の作用機序から理論的リスクが想定されます。 既往の網膜症や肝疾患、高K血症リスクのある症例では、導入後の早期モニタリングを意識することが重要です。
#46.
HIF-PH阻害薬使用中の注意点 血栓症に注意! 血栓塞栓症の既往のある患者ではリスクが高いため 投与の是非を慎重に考慮する 血栓塞栓 血液が急激に粘稠になる 鉄欠乏 血栓塞栓症のリスク Hbの過剰補正が無いか、鉄欠乏の進行が無いかをモニタリングする PLoS ONE. 2013;8(12):e82952. 2020,日本腎臓学会 HIF-PH 阻害薬適正使用に関する recommendation HIF-PH阻害薬ではHb上昇が急峻な場合や鉄欠乏を伴う場合に血栓塞栓症リスクが増す可能性があります。 特に既往のある患者では慎重な投与設計と、経過中のHb上昇速度・鉄動態のフォローが重要です。
#47.
HIF-PH阻害薬使用前に 積極的に癌検診を受けてもらう 使用前に腎癌のスクリーニングは行う(エコー・CT) 網膜症のスクリーニングはリスクに応じて行う ESA抵抗性がある場合は、そもそも腫瘍の存在を鑑別にいれて慎重に ※演者の私見を含みます
#48.
HIF-PH阻害薬と中枢性甲状腺機能低下症 ロキサデュスタットの化学構造はトリヨードサイロニンと類似し、 視床下部と下垂体に存在する甲状腺ホルモンβ受容体にアゴニストとして 作用するため、ネガティブフィードバック機構により甲状腺刺激ホルモン (TSH)の分泌を抑制する可能性がある。 Am J Kidney Dis. 2017;69(6):815–826. HIF-PH阻害薬適正使用に関するRecommendation. ロキサデュスタットによるTSHの低下は投与を中止 日本透析医学会雑誌. 2022;55(5):533–539. することで改善することも報告されている。 日本腎臓病薬物療法学会誌. 2022;11(1):23–28. ロキサデュスタット使用中は甲状腺機能をモニターする ロキサデュスタットでは中枢性にTSH低下をきたすことがあり、臨床的に甲状腺機能低下症様の変化を呈する場合があります。 投与中は定期的な甲状腺機能(特にTSH・FT4)の確認を行い、異常があれば一時中止も検討します。
#49.
日常診療の中で、より安全で効果的な貧血治療をめざして 本日の内容が皆さまの臨床の一助になれば幸いです。