テキスト全文
#1. 君たちは カリウム異常を どう考えるか? あさり@腎臓内科
#2. 症例:60歳男性 既往歴なし。肺炎で入院中。 炎症反応フォローアップ目的の採血で K 6.5 mEq/Lと高カリウム血症を認めた。 ひえ~! 急いで治療しなきゃ!
#3. 高カリウム血症の考え方 1. 心電図変化はある? 2. これって本当に高カリウム血症? 3. 高カリウム血症の原因は? 4. 治療はどうする?
#4. 1. 心電図変化はある? テント状T波 Wide QRS P波平坦化・消失
#5. 心電図変化の感度/特異度は低い ヒトでは心電図異常と血清K値に 相関性は証明されていない 血清カリウム濃度 (mEq/L) Clin J Am Soc Nephrol. 2008 Mar; 3(2): 324–330. Retrospective Review of the Frequency of ECG Changes in Hyperkalemia Brian T. Montague, Jason R. Ouellette, and Gregory K. Buller
#6. 心電図変化があったら緊急事態 すぐに上級医コール!
#7. 2.これって本当に高K血症? ・高K血症を見たら、 とりあえず再検査! → 偽性高カリウム血症の除外
#8. 溶血時の異常高値 K AST LDH Fe →赤血球中に多く存在する成分が 異常高値になる
#9. 偽性高K血症 ・駆血帯による長時間の駆血 ・細い針を使用した ・シリンジを引く圧力が強過ぎた ・筋肉からカリウムが放出された (グーパーを繰り返した、強く握った) ・白血球増多症、血小板増多症 ・寒冷凝集 など
#10. 再検査 できれば、 ・駆血帯を使用せず ・太めの針で → 動脈採血も検討 ・ゆっくり引いて ・すぐに検査に提出する 正常でも血清K濃度は、 血漿K濃度(ヘパリン採血)よりも 約0.2 mEq/L高い
#11. 3. 高カリウム血症の原因は? In Out Shift
#12. カリウムの代謝バランス 50 mEq/day 60 mEq/day 4 mEq/L 10 mEq/day Shift 140 mEq/L x 24 L ≒3,360 mEq
#13. In:カリウムの摂取 ・日本人男性の平均摂取量はK 60 mEq/day ・一般にK 40~120 mEq/day摂取している ・必要量は(理想体重) mEq/day程度 ・WHOではK 87.5 mEq/day以上の摂取が 推奨されている(特に摂取上限はない) ・腎不全患者では50 mEq/day以下が目安
#14. カリウム含有量 トマトジュース 1杯 15 mEq バナナ 1本 10 mEq 昆布だし 200mL 07 mEq 納豆 1個 05 mEq トマト 1個 04 mEq みかん 1個 03 mEq
#15. カリウムの摂取上限は? K排泄を 増やすよ ・健常人では、K 400 mEq/dayを 20日間連続で摂取しても、 高カリウム血症にならなかった Early and late adjustment to potassium loading in humans. T J Rabelink, et al. Kidney Int. 1990 Nov;38(5):942-7. ・基本的に、食物の過剰摂取だけでは 高カリウム血症にはならない
#16. Shift:細胞内シフト 98.6% カリウムの98%以上は 細胞内(筋肉)にある! 細胞内K+ 140 mEq/L 24 L 3360 mEq 1.4% 細胞外液K+ 4 mEq/L 12 L 48 mEq
#17. 細胞内>外の濃度差 ・カリウムは細胞内に多く、濃度比は 細胞内:細胞外液 ≒ 35:1である 細胞内 + K 140 mEq/L 細胞外液 K+ 4 mEq/L
#18. Na-K ポンプ ・内>外の濃度差を保つため、 3Na+を細胞外に出して、 2K+を細胞内に入れている 細胞内 低Na 高K 細胞外液 K+ K+ K+ 140 mEq/L ATP Na+ Na+ Na+ 高Na 低K K+ 4 mEq/L
#19. 細胞内から外へKが出る 横紋筋融解症 溶血、内出血 悪性高熱症 代謝性アシドーシス バリウム中毒 血清カリウム上昇
#20. 細胞外から内へKが入る インスリン 代謝性アルカローシス β2カテコラミン 甲状腺ホルモン テオフィリン、カフェイン ベラパミル中毒 血清カリウム低下
#21. Out:カリウムの排泄 ・時間~日の変化(慢性調整) ・K排泄の90%は腎排泄 ・尿中K 15~200 mEq/day ・尿中K排泄を0にすることはできない ・便中K 5~10 mEq/day ・汗中K 10 mEq/day以下
#22. 尿細管でのK再吸収 ・原尿のKは、近位尿細管、 ヘンレループ、遠位尿細管までで ほとんど100%再吸収される ・皮質集合管に 尿が到達するときには、 尿中K濃度は ほぼゼロになっている ここのK濃度 ≒0
#23. 尿細管でのK分泌 ・皮質集合管主細胞で受動的に分泌される (濃度勾配、電気的勾配) Na+ 血管 尿細管腔 K+ - 陰イオン Na-K ATPase 主細胞
#24. 尿細管でのK分泌 1. 尿細管腔のNaがENaCを通り、 主細胞の中に入る Na+ 血管 尿細管腔 K+ - 陰イオン Na-K ATPase 主細胞
#25. 尿細管でのK分泌 2. Na-K ATPaseが主細胞のNaと 血液のKを交換する 血管 Na+ 尿細管腔 - 陰イオン Na-K ATPase 主細胞 K+
#26. 尿細管でのK分泌 2. Na-K ATPaseが主細胞のNaと 血液のKを交換する 血管 Na+ 尿細管腔 - 陰イオン K+ 主細胞 Na-K ATPase
#27. 尿細管でのK分泌 3. 主細胞のKが陰イオンに引かれて ROMK1を通り、尿細管腔に分泌される 血管 Na+ 尿細管腔 K+ - 陰イオン Na-K ATPase 主細胞
#28. 尿細管でのK分泌 ・アルドステロンは、 ENaC、Na-K ATPase、ROMK1を増やす アルドステロン 血管 尿細管腔 - 陰イオン Na-K ATPase 主細胞
#29. 尿細管でのK分泌まとめ a. 皮質集合管に届くNa濃度 b. 皮質集合管の陰イオン濃度 c. アルドステロン作用 Na-K ATPase 主細胞 で亢進
#30. a.皮質集合管に届くNa濃度 ↑Na濃度上昇 利尿薬 多尿 ↓Na濃度減少 脱水 塩分制限 ここのNa濃度
#31. b. 尿細管腔の陰イオン濃度 ↑非再吸収性の陰イオンの増加 重炭酸イオン(代謝性アルカローシス) 馬尿酸イオン(トルエン中毒)など ↓陰イオンの減少 代謝性アシドーシス
#32. c. アルドステロン作用 ↑アルドステロン作用増加 レニン亢進(脱水、血圧低下、交感神経刺激、Cl低下) 原発性アルドステロン症 偽アルドステロン症(甘草:グリチルリチン) ↓アルドステロン作用低下 作用減弱 ACEi/ARB/ARNI 受容体拮抗 スピロノラクトン、エプレレノン 産生抑制 ヘパリン、ケトコナゾール レニン抑制 糖尿病性腎症 尿細管障害 間質性腎炎、尿細管間質障害 ENaC阻害 アミロライド、トリアムテレン トリメトプリン、ペンタミジン
#33. RAA系の抑制 アンジオテンシノーゲン 直接的レニン阻害薬 ←レニン ↓ (アリスキレン) アンジオテンシノーゲンI ←アンジオテンシンI変換酵素 ACE阻害薬 ↓ アンジオテンシノーゲンII ↓ アンジオテンシノーゲンII受容体 ARB ↓ アルドステロン ↓ スピロノラクトン ミネラルコルチコイド受容体 ↓ トリアムテレン ナトリウム再吸収
#34. TTKG ・皮質集合管で分泌されるKは、 血液Kの何倍の濃さ? 低カリウム血症のとき →分泌したくないので TTKG<2 高値の時は腎性K喪失・アルドステロン過剰 高カリウム血症のとき →分泌したいので 7~10<TTKG 低値の時は腎K排泄不足・アルドステロン不足
#35. TTKG 浸透圧 皮質集合管(X) H2O 髄質集合管 K X-K=P-KxTTKG mEq/L 仮定: (1)皮質集合管で尿浸透圧=血漿浸透圧 (2)髄質集合管でKが再吸収・分泌されない (3)髄質集合管で水が再吸収されている のとき TTKG ≒ 皮質集合管と血液のK濃度比 ≒ アルドステロン作用の強さ ≒ 尿中K排泄の強さ
#36. 4. 治療はどうする?(高K血症) I. 症状抑制 (不整脈予防) II. 急性調整 (細胞内シフト) III. 血液透析の検討 IV. 慢性調整 (排泄)
#37. I. 不整脈の予防 ・心電図モニター ・グルコン酸カルシウム(カルチコール) 10mLを5~10分かけてゆっくり投与 →効果発現:数分 効果持続:30~60分 追加投与:10~20分後に検討 ※ジゴキシン中毒では投与しない
#38. II. 細胞内シフト A)インスリン:GI療法 B)β2刺激:ネブライザー C)重炭酸ナトリウム:メイロン ※次項以降は個人の独断と偏見を多く含みます
#39. A)GI療法 ・低血糖にしないことが第一 ・(1)50%糖液 20mL 静注 (2)10%糖液 500mL+インスリン10単位 (グルコース5gあたりインスリン1単位) 持続点滴(60 mL/h程度) →効果発現:10~20分 効果持続:4~6時間
#40. B)β2刺激ネブライザー ・個人差が大きく、単独では薦められない ・インスリンと併用なら考慮 ・頻脈や高血糖の副作用があり、 心不全や糖尿病ではやらないほうが良い ・血液透析でのK除去作用が大きく低下する ・個人的にあまりやらない ・メプチンまたはサルブタノール吸入 →効果発現:30分 効果持続:数時間
#41. C)メイロン20mL ・細胞内シフト+排泄増加 ・正AG性代謝性アシドーシスに良い適応 (HCO3-が低下してるやつ) ・pH 0.1あたり平均K 0.6 mEq/L変化する ・無尿の人にはあまり効かない ・7%メイロン 20mL 1~2A 静注 ・250mLではない!
#42. III. 血液透析 ・最も確実に最大の効果が得られる ↕ ・準備に1~2時間かかる (先に細胞内シフト治療しておく) (透析用カテーテル挿入+スタッフ招集+透析機器の準備) ・透析合併症のリスクがある → 透析をやるかどうかの判断が重要
#43. IV. 排泄 尿から ループ利尿剤、輸液、重炭酸Na →皮質集合管に到達するNaを増やす! ・無尿の人には効果がない 便から 陽イオン交換樹脂、下剤 ・無尿でも使用可能 ・効果発現が遅め →ケイキサレート/カリメート/アーガメイトは便秘に注意 (腸管穿孔のリスクあり) →ロケルマは非常に高価 (だいたい1個 80円 vs 1000円)
#44. 高カリウム血症の診療ながれ ①. 心電図検査 ②. 症状抑制(不整脈予防) ③. K 再検査 ④. 急性調整(細胞内シフト) ⑤. 血液透析の検討 ⑥. 慢性調整(排泄) ⑦. 原因精査、原因の除去
#45. 症例:24歳女性 既往歴なし。ダイエット中。 手足のだるさが続くため内科受診。 K 2.5 mEq/Lと低カリウム血症を認めた。 ひえ~! 今度は低K血症が来た!
#46. 低カリウム血症の緊急事態 a. 心電図異常 (心室頻拍、心室細動) b. 筋麻痺 (呼吸筋麻痺、脱力) c. 肝性脳症 (アンモニア産生増加) →すぐに上級医コール!
#47. 低カリウム血症の考え方 基本的には高カリウム血症と同じ ・摂取 ・細胞内シフト ・排泄
#48. In:カリウム摂取不足 ・総体液でK 約300 mEq減少すると、 血清Kは 1 mEq/L低下する ・尿中K排泄を0にすることはできないが、 5~15 mEq/dayまでは減らせる → かなり長期(数週間)の飢餓状態でないと 摂取不足だけでは低K血症にならない
#49. Shift:細胞内へKが入る インスリン 急激な低下の原因は 細胞内シフトが多い 代謝性アルカローシス β2カテコラミン 甲状腺ホルモン テオフィリン、カフェイン ベラパミル中毒 血清カリウム低下
#50. Out:発汗 ・汗からのカリウム排泄は 非常に少ないため、 よほど高温、乾燥環境が 高度、長期でないと 低カリウム血症にならない
#51. Out:嘔吐・下痢 嘔吐 低K血症+アルカローシス (イレウス管からの排液も) 下痢 低K血症+アシドーシス ☆低K血症+アシドーシスを見たら、 下痢か尿細管性アシドーシス ◎Na-Cl 36より上か下かで見極めよう
#52. Out:尿からの排泄亢進 高レニン:腎血管性高血圧症、レニン産生腫瘍 低レニン高アルド:原発性アルドステロン症 低レニン低アルド:Cushing症候群、Liddle症候群、甘草 鉱質コルチコイド過剰症 アシドーシス:尿細管性アシドーシス アルカローシス:利尿薬、低マグネシウム血症 Bartter/Gitelman症候群 など
#53. Out:低マグネシウム血症 ・マグネシウムにはROMK抑制作用がある → 低Mg血症ではK排泄が増える ・低K血症の50%に低Mg血症 ・低Mg血症の67%に低K血症 →硫酸Mg 20 mLを2時間かけて点滴/日 Kの連日採血と一緒にMgも取ろう
#54. Kの98%は筋肉内にある 4000mEq ・体格の小さい人は 同じK喪失でも 低K血症になりやすい 1600mEq
#55. 治療:KClの最大投与量は? 添付文書: 投与濃度は40 mEq/Lまで 投与速度は20 mEq/hまで 1日100 mEqまで
#56. 【禁忌】KClワンショット 血液 K濃度 血液量 K総量 04 mEq/L 03 L 12 mEq KCl注 20mL K濃度 1000 mEq/L 薬液量 0.02 L K総量 20 mEq
#57. 【禁忌】KClワンショット 血液+KCl注 K濃度 10.6 mEq/L 血液量 3.02 L K総量 32 mEq
#58. 1時間あたりの血清K変化 低K血症のICU患者48名に対して 中心静脈から3種類のKCl溶液を 1時間で投与した報告 (Crit Care Med 1991;19:694) (どの群でも不整脈やバイタル異常の出現はなかった) 20 mEq/h 30 mEq/h 40 mEq/h → → → 0.5±0.3 mEq/L上昇 0.9±0.4 mEq/L上昇 1.1±0.4 mEq/L上昇 (このあと細胞内シフトで下がることに注意)
#59. 経口投与と経静脈投与 Q. 経口投与は経静脈投与よりも遅い? A. × そんなことはない! ・経口投与でも20~30分でK上昇する ・経口投与のほうが生理的なK摂取に近い ・経静脈投与は濃度や速度に制限がある → 症状・心電図変化がなければ経口優先
#60. 経静脈 補正時の注意 ・心電図モニターが必須 (過剰治療=高K血症の感知にもなる) ・KCl静脈炎に注意 (できる限り中心静脈投与) ・細胞内シフト要因の排除 (糖分、アルカリ、カテコラミンなど)
#61. カリウム補充 無機カリウム:塩化カリウム →細胞外液に分布しやすい 有機カリウム:クエン酸カリウム グルコン酸カリウム アスパラギン酸カリウム 野菜、果物 →細胞内液に分布しやすい (+果糖は細胞内シフトを起こす)
#62. カリウム製剤 塩化カリウム 600 mg 1錠 K 8.0 mEq → 4錠分2で32 mEq/day アスパラK 300 mg 1錠 K 1.8 mEq → 9錠分3で16.2 mEq/day
#63. 実践問題 1 ・86歳男性 高カリウム血症 ・脱力で救急受診。K 6.5 mEq/L 心電図変化あり、再検査もK高値 → 原因はなんだろう? → 治療してみよう
#64. 高K血症の原因 In: 摂取増加 → 摂取過剰、消化管出血、腫瘍崩壊 Shift: 細胞外へ → 横紋筋融解症、 溶血、高血糖 悪性高熱症、アシドーシスなど Out: 排泄低下 → 腎機能低下、脱水 過剰な塩分制限 糖尿病性腎症、間質性腎炎 薬剤性(RAA系の阻害など)
#65. 高K血症の治療 I. ※心電図モニター必須 症状抑制 (不整脈予防) ・グルコン酸カルシウム(カルチコール) 10mLを5~10分かけてゆっくり投与 II. 急性調整 (細胞内シフト) ・GI療法 グルコース5g:インスリン1単位 ・メイロン静注 20~40mL III. 血液透析の検討 ・腎臓内科call IV. 慢性調整 (排泄) ・利尿剤、輸液 ・陽イオン交換樹脂、下剤
#66. 実践問題 2 ・20歳女性 低カリウム血症 ・脱力で救急受診。K 2.5 mEq/L 心電図変化なし、再検査もK低値 → 原因はなんだろう? → 治療してみよう
#67. 低K血症の原因 In: 摂取不足 → 長期飢餓、ダイエット Shift: 細胞内へ → アルカローシス、インスリン ストレス、β刺激 低体温、クロロキン中毒 Out: 排泄増加 → 利尿剤、尿細管性アシドーシス 嘔吐、下痢、胃液の吸引 低Mg血症、甘草、原発性Ald症 Barter/Gitelman症候群 など
#68. 低K血症の治療 I. ※心電図モニター必須 緊急補正 ・KCl (経口、経静脈投与) ・経静脈は濃度40 mEq/Lまで、速度20 mEq/hまで (生理食塩水500mL+KCl 20 mEq 1A) II. 細胞内シフトの除去 ・糖液、アルカリ、β刺激 など使用しない III. 原因精査、原因の除去 ・腎性排泄 or 腎外排泄 (嘔吐、下痢など) ・利尿剤、下剤、低Mg血症などの除外 IV. 慢性補正 ・20~80 mEq/day程度ずつ経口摂取