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末梢型深部静脈血栓症の概要と対応
#1. 下腿に深部静脈血栓を見つけたときの対応 末梢型の深部静脈血栓症 かたやまたかし@循環器内科 Powered by
#2. 自己紹介 かたやまたかし@循環器内科 北海道内の総合病院 • 2009年卒業(卒後15年目) • 循環器専門医、総合内科専門医 • 本スライド内容に関連し開示すべき利益相反(COI)関係にある 企業などはありません
#3. まとめ Summary • 肺塞栓がなく、無症候性の 下腿の深部静脈血栓症は、 肺塞栓リスクと出血リスクとを 評価した上で、 抗凝固療法の適否を判断し、 適切な時期まで フォローしましょう
末梢型DVTの診断と治療法
#4. 目次 1. 2. 3. 4. 5. 末梢型DVTが見つかる経緯 末梢型DVTが見つかったら 抗凝固療法 安静度・運動、圧迫療法 [参考]超音波検査法の実際 注意:本スライドは主に末梢型の場合を扱っています。 膝窩静脈より中枢側にも血栓がある「中枢型」の場合は、 特に治療方針が異なってきますのでご注意ください。
#5. 用語 5 深部静脈血栓症 (DVT) と 肺血栓塞栓症 (PTE) とをまとめて 静脈血栓塞栓症 (VTE) と呼びます。 肺血栓塞栓症 (PTE) は致死的にもなりうる病態のため、予防や早期発見・治療が重要です。 静脈血栓塞栓症 2 (venous thromboembolism, VTE) 2 肺血栓塞栓症 血栓が遊離 (pulmonary thromboembolism, PTE) 1 深部静脈血栓症 (deep vein thrombosis, DVT) 演者作図 肺動脈が 血栓により閉塞する 1 下肢などの深部静脈に 血栓を生じる
#6. 下肢の深部静脈の解剖 6 総腸骨静脈 (common illiac vein, CIV) 総大腿静脈 (common femoral vein, CFV) 大腿深静脈 (deep femoral vein, DFV) 大腿静脈 (femoral vein, FV) 中枢型 (近位型) → 抗凝固すべき 膝窩静脈 (popliteal vein, POPV) 腓腹(筋)静脈 (gastrocnemius vein, GAV) 前脛骨静脈 (anterior tibial vein, ATV) 前脛骨静脈分岐部以遠は… 後脛骨静脈 (posterior tibial vein, PTV) 末梢型 (/遠位型、下腿限局型) → 抗凝固しない 腓骨静脈 (peroneal vein, PRV) ひらめ(筋)静脈 (soleal vein, SOV) 略語は2020年のCEAP分類を基準とした J Vasc Surg Venous Lymphat Disord. 2020; 8(3): 342-352.
#7. 静脈血栓塞栓症の 予防 と 疑ったときの診断治療 7 発症前にリスクレベルを評価し、リスクレベルごとに発症を予防する段階 と、 発症を疑ったときに画像検査すべきかを評価し(Wellsスコア)、血栓があれば治療する段階 とがあります。 静脈血栓塞栓症リスクが疑われる患者 危険因子 付加的な因子 手術、担癌など VTE既往、高齢など 静脈血栓塞栓症が疑われる患者 症状なし だけどハイリスクで心配 症状あり 下肢腫脹、胸苦など 状況により画像検査しちゃう Wellsスコア→画像診断 リスクレベル評価 低 中 高 最高 予防 予防 予防 予防 離床と運動 離床と運動 離床と運動 離床と運動 ECSかIPC IPCか抗凝固 抗凝固療法 ECSかIPC 静脈血栓塞栓症が確認された場合 無症候性 末梢型 中枢型や 症候性 (下腿に限局) 肺血栓塞栓症 状況による 抗凝固療法 本スライドで扱うのは 注目されにくいココ 演者作成 VTE, 静脈血栓塞栓症; ECS, elastic compression stocking 弾性ストッキング; IPC, intermittent pneumatic compression 間欠的空気圧迫法 抗凝固療法
#8. 8 無症候性の深部静脈血栓症が 見つかる経緯
無症候性DVTの発見と評価
#9. 深部静脈血栓症は本来、症状をきっかけに疑う 9 本来の手順では、下肢症状、身体所見、病歴や危険因子などから、検査前臨床的確率を推定します。 検査前確率が高くないときは、D-dimer 陰性でDVTをほぼ除外することができます。 1 問診・診察 (Wellsスコア) 高確率 Wellsスコア3以上 2 低・中確率 Wellsスコア 0~2 除外のための D-dimer検査 D-dimerが 陰性なら除外 D-dimer陽性 3 画像診断 (全下肢静脈超音波検査、造影CTなど) 血栓がないなら 他疾患の精査を考慮 深部静脈血栓症の確定診断 1 Wellsスコア(DVT用)における臨床的特徴 点数 活動性の癌(6か月以内の治療や緩和的治療を含む) +1 下肢の麻痺あるいは最近のギプス装着 +1 3日以上の臥床安静、または12週以内の手術 (手術は全身麻酔あるいは区域麻酔) +1 下肢深部静脈分布に沿った圧痛 +1 下肢全体の腫脹 +1 症 腓腹部の左右差 >3 cm (脛骨粗面の10cm下方で計測、おそらく周囲長) +1 症状のある下肢の圧痕性浮腫 +1 表在静脈の拡張(側副血行路の発達。静脈瘤ではない) +1 深部静脈血栓症の既往 +1 DVTと同じくらい可能性のある他の診断がある -2 日本循環器学会ほか. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版), 2017 p56 図15 より引用改変 Wells score for DVT; Wells PS, et al. JAMA 2006; 295: 199-207. 正確にはオリジナル版に既往の項目を追加した N Eng J Med 2003 掲載の修正版 状 ・ 身 体 所 見
#10. 症状がなくても血栓を見つけてしまうケースは少なくない 10 静脈血栓塞栓症ハイリスクの患者に対し、予防だけでなく、 無症状でも早期発見のために D-dimer や 画像検査 をして血栓を見つけてしまうことがあります。 静脈血栓塞栓症リスクが疑われる患者 危険因子 付加的な因子 手術、担癌など VTE既往、高齢など リスクレベル評価 低 中 高 最高 予防 予防 予防 予防 離床と運動 離床と運動 離床と運動 離床と運動 ECSかIPC IPCか抗凝固 抗凝固療法 ECSかIPC 静脈血栓塞栓症が疑われる患者 症状なし だけどハイリスクで心配 症状あり 下肢腫脹、胸苦など 状況により画像検査しちゃう Wellsスコア→画像診断 血栓ができてしまっていないか心配すぎる! 静脈血栓塞栓症が確認された場合 • 肺炎で入院して1週間以上寝たきりの高齢者! 無症候性 • 化学療法のため2週間入院中の担癌患者! 症候性 • 外傷のため十分な予防ができていない患者! 末梢型 中枢型や 心配なので D-dimer とったら軽度高値で、 (下腿に限局) 肺血栓塞栓症 エコーしたら血栓を見つけてしまった! 状況による 抗凝固療法 抗凝固療法 VTE, 静脈血栓塞栓症; ECS, elastic compression stocking 弾性ストッキング; IPC, intermittent pneumatic compression 間欠的空気圧迫法 イラストは「いらすとや」より引用改変
#11. 静脈血栓塞栓症のリスクが高い患者に対するアプローチ 欧米人は血栓リスクが高く、一方で日本人(アジア人)は出血リスクが高いこともあり、 静脈血栓症リスクが高い患者に対するアプローチは欧米と日本とで少し異なる印象です。 静脈血栓塞栓症のハイリスク患者 欧米は予防的治療を重視 日本は早期発見を重視 「半年間の発生率1割以上のハイリスクなら、 予防的に抗凝固療法を検討しよう」 「気づかないうちに末梢とかに 血栓を生じているかもしれないから、 D-dimerや超音波検査で探しておこう」 (症状ないのに検査だけ繰り返してもキリないしね…) 症状がないうちに超音波検査を するプロトコールや状況は ほとんどない 演者作成 (血栓がないうちから抗凝固はしにくいよね…) 欧米に比べて日本では 無症候性の末梢型DVTを やたら見つけてしまう。 治療エビデンスは少ない 11
#12. 12 末梢型の深部静脈血栓症が みつかったら
肺血栓塞栓症のリスク評価と診断
#13. 下腿に深部静脈血栓症がみつかったら 下腿に深部静脈血栓を見つけた場合、末梢型のようであっても一応、 通常の深部静脈血栓を見つけたときに必要な一通りの病態評価を行いましょう。 1. 血栓が遊離して肺血栓塞栓症を合併していないか? 2. 深部静脈血栓はもっと中枢にもないか? 3. 深部静脈血栓は遊離して肺塞栓を生じやすい性状ではないか? 4. 深部静脈血栓による症状(下肢の循環障害、疼痛など)はないか? 5. 深部静脈血栓の原因は? 血栓伸展リスクは? 日本循環器学会ほか. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版), 2017 p60-61
#14. (1) 肺血栓塞栓症を起こしてしまっていないか? 14 肺血栓塞栓症に特異的な症状はなく診断が遅れたり見落としたりしてしまいがちなので要注意です。 一方で、症状や徴候がない場合の造影CTによる肺血栓塞栓症スクリーニングは推奨されません *1 。 • 自覚症状(多彩!) 呼吸困難 胸痛 失神 45 冷汗 20 21 発熱 喘鳴 咳嗽 14 14 12 血痰 6 動悸 22 74 • バイタルサインなど 心拍数 血圧 SpO2 呼吸数 • 肺高血圧や右心不全の徴候(第2肋間胸骨左縁でのIIp音亢進、頚静脈怒張など) • 血行動態不良例における心臓超音波検査 • 右室拡大、マッコーネル(McConnell)徴候(右室で心尖部以外の壁運動が低下)、肺動脈圧上昇 日本循環器学会ほか. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版), 2017 p12 表6 *1 ESVS 2021 guideline, Eur J Vasc Endovasc Surg. 2021; 61: 9-82, p20 Rec 7
#15. 肺血栓塞栓症(PTE)検査前臨床的確率の評価法(通常の場合) 15 通常はなにかしらの症状をきっかけに下記のような評価法でPTEの可能性を推測します。 無症候性のDVTが偶然見つかった状況では、症状の再確認や心拍数などで評価することになります。 Wellsスコア(PTE用) • • • • • • • PTEあるいはDVTの既往 +1 最近の手術あるいは長期臥床 +1 がん +1 DVTの臨床的徴候 +1 心拍数 >100/分 +1 PTE以外の可能性が低い +1 血痰 +1 ジュネーブ・スコア • • • • • 改訂ジュネーブ・スコア PTEあるいはDVTの既往 +2 心拍数 >100/分 +1 最近の手術 +3 年齢 60~79歳 +1, 80歳以上 +2 PaCO2 <36 36~38.9 >48.7 • PaO2 +2 +1 +4 <48.7 48.7~59.9 60~71.2 71.3~82.4 +4 +3 +2 +1 • 無気肺 +1 • 一側の横隔膜挙上 +1 0~1 確率低い 2以上 確率高い 0~4 確率低い 5~8 確率中等度 9以上 確率高い 日本循環器学会ほか. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版), 2017 p13 表7 年齢 66歳以上 +1 PTEあるいはDVTの既往 +1 1か月以内の手術、骨折 +1 活動性のがん +1 一側の下肢痛 +1 下肢深部静脈の触診による痛みと片 側性浮腫 +1 • 心拍数 75~94/分 +1 • 心拍数 95/分 以上 +2 • 血痰 +1 • • • • • • 0~1 確率低い 2~4 確率中等度 5以上 確率高い
#16. (2) 血栓はもっと中枢にもないか? 16 臨床的に体幹部の深部静脈血栓が疑われるにもかかわらず、 体型や腸管ガスにより超音波検査での描出が不十分な場合は、造影CTを併用し判断します。 各深部静脈内の血栓の診断能 造影CT 超音波検査 肺動脈 ○ ×(不可) 下大静脈 ○ △(やや低い) 腸骨静脈 ○ △(やや低い) 大腿静脈 ○ ○ 膝窩静脈 ○ ○ 下腿領域 △(やや低い) ○ 造影CT 造影CTが推奨されるケース • • • • 肺血栓塞栓症(PTE)が疑われる 下大静脈フィルター留置が検討される 血栓の中枢端が超音波検査のみでは描出困難 より中枢側での静脈血栓が疑われるものの超音波検査のみでは評価不十分 日本循環器学会ほか. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版), 2017 p58-59 を参考に演者作成 超音波
#17. (3) 血栓は遊離して肺血栓塞栓症を生じやすい性状ではないか? 17 血栓の超音波輝度、被圧迫性・硬度、退縮や再疎通の程度から、病期をある程度推定できます。 急性期の場合、特に浮遊血栓がある場合は、肺血栓塞栓を生じるリスクが高くなる可能性があります。 血栓なし リニアプローブで 観察します 動脈 静脈 プローブで上から圧迫 圧迫法 圧迫すると 静脈はつぶれる 急性期血栓 浮遊血栓が あることも 慢性期(器質化)血栓 索状 内部は均一 低輝度で見えにくい 壁在 血栓で充満し 拡大している つぶれず柔らかく変形 (強い圧迫は避ける!) 日本循環器学会ほか.肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版), 2017 p59-60, 表31 をもとに演者作成 日本超音波医学会. 超音波による深部静脈血栓症・下肢静脈瘤の標準的評価法. 静脈学 2018; 29: 363-94, 図11-a 血流スペースがある 内部は不均一 高輝度~石灰化 残存血栓分が 硬くてつぶれない
#18. (4) 血栓による症状はないか? 18 末梢型の血栓が見つかったきっかけが症状でない場合でも、念のため見て触って確認しましょう。 血栓後症候群の予防のためにも、血栓症発症早期の的確な治療と早期離床が重要です。 • 有痛性青股腫、静脈性潰瘍・壊死 (いずれも非常に稀) • いわゆる血栓後症候群 (PTS) • 血栓性静脈炎による疼痛・圧痛、発赤、熱感 (全身の発熱は通常ない) • 前脛骨部浮腫、うっ滞性皮膚炎による掻痒、 色素沈着、皮膚硬結 • 静脈拡張・静脈瘤 Villalta PTS スコア 下記11項目の各重症度を点数化し合計する。 なし:0点 軽度:1点 中等度:2点 高度:3点 症状 • 疼痛 • こむら返り • 重苦感 • 知覚異常 • 掻痒 所見 • 前脛骨部浮腫 • 皮膚硬結 • 色素沈着 • 発赤 • 静脈拡張 • 下腿圧迫による痛み 15点以上 または 静脈性潰瘍 10~14点 5~9点 日本循環器学会ほか. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版), 2017 p54-55, 図14 重症 中等症 軽症
#19. (5) 血栓の原因は? 血栓伸展リスクは? 19 深部静脈血栓を生じた背景因子によって、肺塞栓リスクや今後の治療方針・期間が変わってきます。 悪性腫瘍の探索? • • • • • 腫瘍マーカーやCT等を用いた探索は死亡率低下までの有用性を示せていませんが、 周術期 本邦においては「がん対策推進基本計画」に準じて、通常のがん検診(便潜血、 悪性腫瘍 上部消化管内視鏡、胸部X線、子宮頚部細胞診、乳房X線)は勧めるべきかと(私見) 妊娠・分娩 薬物 :ピル、ホルモン療法(HRT)、ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)など 薬物 他の血栓性素因 再発、若年(<50歳)、妊娠中、家族性 の場合はスクリーニングを考慮 *1 血算 APTT 必要に応じ アンチトロンビン プロテインC活性 プロテインS活性 抗凝固薬(特にワルファリン)の影響を受けるので投薬前に検体採取!*2 流死産歴など抗リン脂質抗体症候群が疑わしい場合、 抗カルジオリピン(CL)-β2グリコプロテイン(GP)I 複合体抗体 (IgG and/or IgM) さらにリスク評価等のため*3 抗カルジオリピン抗体 (IgG and/or IgM) ループスアンチコアグラント(LAC) *1 日本循環器学会ほか. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版), 2017, p17, p61 表32. *2 門平ほか. 血栓止血誌 2018; 29: 20-27 *3 抗リン脂質抗体症候群・好酸球性多発血管炎性肉芽腫症・結節性多発動脈炎・リウマトイド血管炎の治療の手引き2020, vii, p23 CQ2
抗凝固療法の適応とガイドライン
#20. 20 末梢型の深部静脈血栓症に対する治療 (1) 抗凝固療法
#21. 末梢型 DVT への抗凝固療法(日本のガイドライン 2017) 末梢型(下腿に限局)の深部静脈血栓症における抗凝固療法はエビデンスが十分でなく(そもそも下 腿を検索されないことも多い)、方針も確立されていません。 日循ガイドライン2017 推奨 クラス エビデンス レベル 末梢型DVTには画一的に抗凝固療法を施行 しない I B 末梢型DVTに抗凝固療法を施行する場合は、 3か月までの抗凝固療法を行う I C 推奨クラス I : 検査法・手技が有用・有効であるというエビデンスがあるか、あるいは見解が広く一致している 血栓が中枢側へ伸展するリスクが比較的高い場合は抗凝固療法を考慮します • 静脈血栓塞栓症の既往がある • 担癌(出血リスクが許容されれば3か月よりも12か月継続を考慮 *1 ) • 下肢整形外科手術患者など静脈血栓症リスクの高い術前症例 日本循環器学会ほか. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版), 2017 p62 表33, p63 *1 Yamashita Y, et al. Circulation 2023; 148: 1665-1676. 21
#22. 末梢型 DVT への抗凝固療法(米国のガイドライン ACCP 2021) 22 急性の孤立性末梢型DVT 重篤な症状 または 伸展リスク因子 がある • D-dimer 陽性(他の理由がない) • 血栓が膝窩静脈に近い • 血栓が広範囲(長さ>5cm、 • 不可逆的な要因によるDVT 複数の静脈、最大径>7mm等) • 活動性がん ない ある • 静脈血栓塞栓症の既往 • 入院中 入院だけを理由に 日本でも抗凝固して • COVID-19 よいかは微妙 抗凝固療法 1週間後(症状悪化があれば2週間後も)に超音波検査で再評価 推奨 Week 推奨 Week エビデンス Moderate エビデンス Low 近位部(膝窩静脈以近)へ伸展 抗凝固療法 推奨 Strong エビデンス Moderate 伸展あるが膝窩静脈より末梢に留まる 抗凝固療法 推奨 Week エビデンス Very Low 伸展なし 抗凝固なし 推奨 Strong エビデンス Moderate American College of Chest Physicians (CHEST): Antithrombotic therapy for VTE disease, second update of the CHEST guideline and expert panel report. Chest 2021; 160: e545-e608
#23. 末梢型 DVT への抗凝固療法(欧州のガイドライン ESVS 2021) 23 下腿のDVT 症状、血栓伸展リスク因子、出血リスクをもとに抗凝固療法を決定する 症候性で、抗凝固療法する場合は、 3か月を推奨 症候性で活動性癌の患者は、 3か月以上の抗凝固療法を推奨 症候性で、抗凝固療法しない場合は、 1週間後の臨床所見と全下肢超音波検査を推奨 下腿のDVTの VTE再発リスク 調整ハザード比 (95% CI) 年齢 >50歳 3.7 (1.0-10.6) 男性 4.73 (1.55-14.5) 多発だが片側性の血栓 2.9 (1.4-6.1) 孤発かつ片側性に対して 両側性の血栓 4.0 (1.4-11.1) 片側性に対して 誘因なし 3.1 (1.4-6.9) 誘因ありに対して 担癌 5.47 (1.76-17.6) ※中枢型・PTEの場合 クラス IIa エビデンス C クラス I エビデンス A クラス IIa エビデンス C クラス I エビデンス B 推奨クラス I : 治療・手順が有益・有用・有効であるというエビデンスが あるか、あるいは一般的に合意されている 推奨クラス IIa : 治療・手順の有用性/有効性に対するエビデンスの矛盾や 意見の相違があるものの支持される European Society for Vascular Surgery (ESVS) 2021 Clinical Practice Guidelines on the Management of Venous Thrombosis. Eur J Vasc Endovasc Surg. 2021; 61: 9-82, p49-51
#24. 抗凝固療法のやめドキ 24 抗凝固療法の期間は、肺血栓塞栓症や中枢型深部静脈血栓症に準じます。 基本的には3か月まで、それ以降の延長治療はリスクとベネフィットとを定期的に検討します *1 。 血栓の誘因 抗凝固療法の継続期間 例 ※リスクとベネフィットとを定期的に検討する 術後かつ単一静脈 6週間*1 欧州のガイドラインによる 他の手術、外傷、ホルモン療法など 3か月間 誘因がない (特発性) 少なくとも3か月間以上 誘因が長期にわ たって存在する 活動性癌 12か月間*2 本邦の2023年の臨床研究結果による 血栓性素因 個々の素因のリスクにより延長治療を考慮 複数回のVTE再発 肺血栓塞栓症、血栓後症候群(PTS)など より長期間 血栓の再発リスクとして考慮する項目 (下記のみで延長治療の適用は判断できない) 抗凝固療法中止1か月後のD-dimer高値 男性 血栓性素因 VTE-BLEED score*3 出血リスク 再発リスク 可逆性の誘因 ※2点以上は出血の高リスク 活動性癌 コントロール不良の高血圧(収縮期血圧140以上) 貧血(Hb; 男性<12, 女性<11) 出血の既往(重大・非重大、直腸出血、頻回な鼻出血、血尿) 腎機能障害 (Ccr 30~60) 年齢 60歳以上 日本循環器学会ほか. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版), 2017 p29-32, 表17 の内容をもとに演者作成 *1 ESVS guideline. Eur J Vasc Endovasc Surg. 2021; 61: 9-82, p50. 元文献の記載はなし。 *2 Yamashita Y, et al. Circulation 2023; 148: 1665-1676. *3 Klok FA, et al. Eur Respir J 2016; 48(5): 1369-1376. +2 +1 +1.5 +1.5 +1.5 +1.5
抗凝固薬の種類と使用法
#25. 末梢型 DVT に対する抗凝固療法(一覧) テンエー 25 ドアック 抗凝固薬は、Xa 阻害薬(いわゆる DOAC の一部)が主流となっています。 ただし、速効性が求められる場合、腎不全の場合などには未分画ヘパリンがよく用いられます。 未分画ヘパリン 合成Xa阻害薬 (フォンダパリヌクス) Xa阻害薬 ビタミンK拮抗薬 ワーファリン 商品名 ヘパリンNa アリクストラ イグザレルト エリキュース リクシアナ 投与経路 静注、皮下注 皮下注 経口 経口 投与頻度 持続静注など 1日1回 1日1~2回 1日1回 効果発現 半減期1~1.5時間 半減期13~17時間 半減期5~15時間 効果発現まで4~5日 以上(他剤を先行投 与すること!) 中和剤 プロタミン硫酸塩 なし 「オンデキサ」 「ケイセントラ」*2、 「ケイツー」等 対象患者の例 循環動態不全など 速く効かせたいとき Ccr 30以上 *1 Ccr 30以上 リクシアナはCcr15以上 末期腎不全の慢性期 *1 直接作用型第Xa因子阻害剤の中和剤「オンデキサ」の薬価は、A法で約170万円、B法で約305万円です。 *2 人プロトロンビン複合体製剤(PCC)「ケイセントラ」の薬価は、単価約3.5万円、最大約33万円と高額ですが、投与後30分以内に効果発現し、「ケイツー」の約3時間以上に比べ早いです。
#26. 未分画ヘパリンの投与方法(治療目的);肺血栓塞栓症等に対する場合 26 未分画ヘパリンの治療域は経験的にAPTTが対照値の1.5~2.5倍とされています。 まず、肺血栓塞栓症などに対する治療目的の投与方法の例をご紹介します。 最初の投与量 初回 80単位/kg をボーラス投与、その後 18単位/kg /h持続静注開始、6時間後にAPTT再検 たとえば体重 50 kgの場合、4000単位 をボーラス投与、その後 900単位/h (21600単位/日) 持続静注開始 以降の用量調節(6時間後にAPTT再検) APTT 対照値との比較 未分画ヘパリン持続静注の用量調節 <35 秒 <1.2 倍 80単位/kgをボーラスで追加、その後 4単位/kg/h 増量、6時間後にAPTT再検 35~45 秒 1.2~1.5 倍 40単位/kgをボーラスで追加、その後 2単位/kg/h 増量、6時間後にAPTT再検 46~70 秒 1.5~2.3 倍 変更なし、6時間後にAPTT再検(連続2回この範囲ならAPTT再検は1日1回へ) 71~90 秒 2.3~3.0 倍 2単位/kg/h 減量、6時間後にAPTT再検 >90 秒 >3.0 倍 持続静注を1時間中止後、3単位/kg/h 減量して再開、6時間後にAPTT再検 上記を参考に各施設でアレンジしていると思われますが、6時間ごとのAPTT再検は”本気の治療”以外では現実的ではありませんよね…? 日本循環器学会ほか. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版), 2017 p23 表14
#27. 未分画ヘパリンの投与方法;無症候性末梢型DVTの場合(私見) 27 無症候性末梢型の場合、抗凝固する必要性は高くないので、APTT 1.5倍目標でよいと思います。 そもそも離床励行といっているのに持続静注が必要な未分画ヘパリンを選ぶ理由はあまりないはず。 1日あたりの投与量を48mLに希釈して決め打ちしてしまう方法 通常はこの方法が一般的と思います(私見) 未分画ヘパリン 250~300単位/kg を合計48mLに希釈し、2 mL/h 持続静注、翌朝 APTT 再検 • 250~300 単位/kg /日 = 10.4~12.5 単位/kg /h(前ページの6~7割設定で、個人の経験です) • たとえば体重 50 kgの場合、12500~15000 単位/日 ですから、 •「ヘパリンNa注5千単位/5mL」14000単位 (14mL) •「生理食塩水」34mL 合計 48 mL を、2 mL/h で持続静注開始 • これで翌朝の採血では APTT 1.5倍前後になっているはずです!(ただし患者個人差は非常に大きいので注意) • さらに少なく、1日10000単位(気休め程度)固定としてAPTTを頻回に確認しないケースも散見されます • APTT とともに 血小板数 もフォローするのを忘れずに(ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)!) • 施設によっては「ルート内を満たす分 2 mL を加えた 50 mLでオーダーしてほしい」と言われることがあります このとき1日当たり実際投与される48mL中のヘパリン単位数を別に計算するかどうかは担当医にお任せします 上記は演者個人の印象や私見であり正確性や信頼性は不確実ですので自己責任でお願いします…
#28. 「アリクストラ皮下注」(治療目的) 28 合成Xa阻害薬フォンダパリヌクス「アリクストラ皮下注」5mg・7.5mg製剤は、 発売当初はワルファリンが治療域に達するまでの初期治療としてよく用いられていました。 アリクストラ皮下注 5 mg, 7.5 mg 体重 <40 kg 体重 <50 kg 体重 50~100 kg Ccr 50以上 Ccr 30以上50未満 Ccr <30 体重 >100 kg 1日1回 10.0 mg 慎重投与 1日1回 5.0 mg 1日1回 7.5 mg 禁忌 禁忌 禁忌 1日1回 7.5 mg への減量を考慮 禁忌 その後2014~2015年に相次いで効能追加された経口Xa阻害薬が初期治療の段階から用いられるよ うになり、アリクストラは皮下注という手間や薬価の面からも使用頻度は減りました。 なお、術後のVTE発症抑制(予防)目的で使用されるのは 1.5mg製剤・2.5mg製剤 です。 アリクストラ皮下注 電子添文 をもとに演者作表
#29. テンエー ドアック Xa 阻害薬(いわゆる DOAC の一部) 29 Xa阻害薬は心房細動だけではなく深部静脈血栓症や肺塞栓症の治療にも使用されます。 初期用量の有無、投与回数、減量基準の有無、禁忌となる腎機能の範囲などに違いがあります。 一般名 エドキサバン リバーロキサバン アピキサバン 商品名 リクシアナ イグザレルト エリキュース VTEの 治療・再発抑制 初期治療の後に投与すること。 (ヘパリン投与など) 維持用量 1回60mg 1日1回 初期用量(21日間) 1回15mg 1日2回 維持用量 1回15mg 1日1回 初期用量(7日間) 1回10mg 1日2回 維持用量 1回5mg 1日2回 VTEの 発症抑制 下肢整形外科手術施行患者 1回30mg 1日1回 適用なし 適用なし 減量基準 下記該当時は1回30mgへ減量 • 体重 60kg以下 • 15≤ Ccr <30 • P糖蛋白阻害作用ある併用薬 Ccr <15 は禁忌 減量基準なし Ccr <30 は禁忌 減量基準なし Ccr <30 は禁忌 無症候性・末梢型の深部静脈血栓症においては、初期用量は省略も許容されるのではと思います(私見) 2014年12月にリクシアナが、2015年9月にイグザレルトが、2015年12月にエリキュースが、それぞれVTE治療および再発抑制の効能・効果追加となりました。 なお、もう一つのDOACであるダビガトラン(商品名プラザキサ)はXa阻害薬ではなくトロンビン阻害薬で、VTEに対する適用はありません。
#30. [参考]下大静脈フィルターの適用は限られる 30 深部静脈血栓と聞くとすぐに下大静脈フィルター治療が検討される時代もありましたが、 有効性が確認されたのは一部の病態に限られますし、末梢型の場合はほとんど適用になりません 日循ガイドライン2017における 合併症リスクなどを考慮し 適用を判断します • 留置手技の合併症 • フィルター部血栓閉塞 • 静脈血栓再発 • 感染 特に留置が長期になるほど 利点は少なく合併症は多く なります 推奨 クラス エビデンス レベル 抗凝固療法を行うことができない静脈血栓塞栓症 (ただし、末梢型では中枢への伸展例に限る) I C 必要性がなくなった場合は早期に抜去を行う I C 十分な抗凝固療法中の肺塞栓症増悪・再発例 IIa C 抗凝固療法が可能でも残存血栓の再度の塞栓化により 致死的となりうる肺塞栓症 IIa C 抗凝固療法が可能な静脈血栓塞栓症 IIb B 下大静脈フィルター留置 推奨クラス I : 検査法・手技が有用・有効であるというエビデンスがあるか、あるいは見解が広く一致している 推奨クラス IIa : データ・見解から有用・有効である可能性が高い 推奨クラス IIb : データ・見解により有用性・有効性がそれほど確立されていない 日本循環器学会ほか. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版), 2017 p36 表20
深部静脈血栓症の安静度と圧迫療法
#31. 31 深部静脈血栓症に対する治療 (2) 安静度・運動、圧迫療法
#32. 安静度・運動 状態が安定している 強い症状がない 循環動態など 下肢腫脹や疼痛の許容範囲で 抗凝固療法している これらを 満たすなら 早期歩行を推奨 • 深部静脈血栓症の初期治療において抗凝固療法が行われている場合には、 ベッド上安静にせず早期歩行が推奨されます *1 • 家庭環境(同居者、服薬遵守など)や救急時体制が整っていれば外来治療とします • 巨大な浮遊血栓がある場合は、症例ごとに判断します *1 • 浮遊血栓は、中枢部分5cm以上が静脈壁に固着せず内腔に浮遊している状態を指します *2*3 • 浮遊型は閉塞型と比較して、診断から8~10日以内の時期に肺血栓塞栓症を生じやすく、抗凝固 療法施行下でもリスクが高いと報告されています *4 • 大腿~腸骨静脈内などの巨大な浮遊血栓の場合は、しっかり抗凝固療法を行った数日後(平均9 日 *5 )にエコーで血栓形状などを再評価した上で離床を進めるのが無難かもしれません(私見) *1 日本循環器学会ほか. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版), 2017 p64. *2 Voet D, et al. Br J Radiol 1991; 64: 1010-1014. *3 日本超音波医学会. 超音波による深部静脈血栓症・下肢静脈瘤の標準的評価法. 静脈学, 2018; 29: 363-394, p379 *4 Yamada N. Jpn J Rehabil Med 2021; 58: 718-723. *5 Yamaki T, et al. J Vasc Surg Venous Lymphat Disord 2015; 3(1): 121-2.
#33. 圧迫療法(弾性包帯、弾性ストッキング) 血栓による症状あり 重症なら推奨 疼痛、熱感、浮腫など 静脈性潰瘍、強い浮腫など 33 試してみて症状改善効果があるなら継続 日循ガイドライン2017*2における 圧迫療法(弾性包帯、弾性ストッキング) 静脈性潰瘍など重症の血栓後症候群(PTS) DVTの症状改善のため DVTの血栓後症候群(PTS)予防のために画一的に 弾性ストッキングの着用を長期間継続させる*3 効果があるケースとないケースとがあるので、 効果がない場合はやめてしまってよい 推奨 クラス エビデンス レベル I A IIb C III 有益性なし B • 症状が強い場合や、着用によって症状が改善した場合に装着継続の有用性が高まるようです • 新鮮血栓遊離の恐れがあるため、抗凝固療法を開始した後に圧迫療法を開始しましょう • PTS予防効果は十分確立されていませんが、着用する場合はDVT診断から2週間以内に開始します • 末梢型DVTに対して血栓伸展や肺塞栓を予防する目的での着用は、アリかもしれません(私見) • 継続期間は十分検証されていません。血栓やPTSの状況により終了を判断します *1 下腿潰瘍・下肢静脈瘤診療ガイドライン. 日皮会誌 2017; 127: 2239-59, CQ3 *2 日本循環器学会ほか. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版), 2017 p64 表34より抜粋(一部改変) *3 Cochrane 2017 では一定条件下での有用性が示唆されているようです (Cochrane Database Syst Rev. 2017; 9: CD004174)
#34. 弾性包帯の実際 34 通常は10cm幅のものを用い、起床時から就寝前まで装着します。 3 膝蓋部は隙間を作る 2 包帯の幅が半分 重なるように巻く 足関節での圧 DVT関連の各病態*2 40~50 mmHg 血栓後症候群(PTS) 30~40 mmHg 軽度の血栓後症候群(PTS)、 中枢型DVT急性期*4 ~20 mmHg 1 内踝上部から 巻き始める DVT予防、DVT急性期 注意が必要なケース(または禁忌) 弾性ストッキング・包帯装着時の注意点(私見) 深部静脈血栓症の急性期 血栓遊離の可能性に注意 下肢虚血(ABI <0.6*5~0.8*3) 虚血症状(色調変化、感覚障害など)に注意 皮膚の傷や感染 創傷悪化、疼痛増強などの出現に注意 糖尿病(特に神経障害や微小血管障害を 有する場合*5) 自覚症状のみをあてにせず、虚血などの他覚的・客観的所見が 出現していないか確認・観察 うっ血性心不全 (NYHA III~IV)*5 心臓への静脈灌流増大により肺うっ血が増悪する可能性あり *1~*3 下腿潰瘍・下肢静脈瘤診療ガイドライン. 日皮会誌 2017; 127: 2239-59 *1 p2253 図10 を参考に演者作図, *2 p2253 表4 に一部加筆, *3 p2246. *4 ESVS guideline. Eur J Vasc Endovasc Surg. 2021; 61: 9-82, p41 Rec 31. *5 ESVS guideline. Eur J Vasc Endovasc Surg. 2022; 63: 184-267 p203 Table 7. *1
超音波検査法とその実際
#36. 超音波検査法による観察方法 36 下肢静脈血栓の評価は、超音波検査を用いるのが標準的です。低侵襲で、繰り返し評価できます。 静脈圧迫法(CUS)を中心に適宜カラードプラや血流誘発法によるパルスドプラでの観察を併用します。 静脈圧迫法(CUS) カラードプラ法 血流誘発法 操作・描出の方法 プローブを短軸に当てて圧 迫する 静脈内をカラードプラ(パ ワードプラ)で描出 プローブを大腿部に置きパ ルスドプラで観察 血栓の検出方法 静脈が圧排されない場合は 血栓を疑う 血流欠損として血栓を検出 深呼気負荷や、下腿筋を手 で圧迫(ミルキング)して、 静脈血流亢進が正常に生じ なければ血栓による閉塞等 を疑う 注意点 下腿三分岐以遠、特にひら め静脈は圧迫しにくい 壁在血栓を見落としやすい 新鮮血栓を遊離させるリス クがある 慢性血栓は血流の隙間があ るため検出しにくい CUS, compression ultrasonography. 日本循環器学会ほか. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版), 2017 p58-59 日本超音波医学会. 超音波による深部静脈血栓症・下肢静脈瘤の標準的評価法, 静脈学 2018; 29: 363-394 p374-376
#37. 超音波検査法の検査範囲 37 全下肢静脈エコー 中枢下肢静脈エコー 2(~3)点圧迫法 総大腿静脈 腸骨静脈 下腿部 膝窩静脈 大腿静脈 全下肢静脈超音波検査 中枢下肢静脈超音波検査 2点圧迫法 whole-leg US proximal US (proximal) 2 point CUS 検査範囲 腸骨~大腿~膝窩~下腿まで 肺血栓塞栓リスクが高い中枢 側のみ(大腿静脈~膝窩静脈 まで) 総大腿静脈と膝窩静脈の2点 のみ。(3か所目として大腿 静脈を追加することもある) 下腿部の 扱い 下腿まで血栓が否定できれば、 未探索の下腿に限局した血栓が後で中枢側へ進展し肺塞栓に 3か月後までのVTE発症率は低 至る可能性も否定できないため、中枢側に血栓が見つからな いとされている*1 かったとしても1週間後の再検が推奨されている*2*3 US, ultrasonography; CUS, compression ultrasonography. 日本循環器学会ほか. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版), 2017 *1 p59, *2 p58-59 日本超音波医学会. 超音波による深部静脈血栓症・下肢静脈瘤の標準的評価法, 静脈学 2018; 29: 363-394 *3 p372
#38. まとめ Summary • 肺塞栓がなく、無症候性の 下腿の深部静脈血栓症は、 肺塞栓リスクと出血リスクとを 評価した上で、 抗凝固療法の適否を判断し、 適切な時期まで フォローしましょう
深部静脈血栓症に関する参考文献とまとめ
#39. [参考]表在静脈:大伏在静脈、小伏在静脈 超音波検査で大伏在静脈などに血栓が見つかることがあります。 • 大伏在静脈、小伏在静脈は、深部静脈ではなく表在静脈です • 大伏在静脈は、足部から下腿・大腿の内側を通って鼠径近くで大腿静脈に合流します *1 • 小伏在静脈は、外踝後方から下腿後面を通って膝窩静脈に合流することが多いです *2 • 大伏在静脈などの太い表在静脈に血栓が見つかった場合は、 中枢側などに深部静脈血栓の合併がないか確認しましょう *3 • 症候性(血栓性静脈炎など)の場合は抗凝固療法を行います • リスクが高い場合は抗凝固療法を考慮します • 広範な血栓、大伏在静脈の大腿静脈合流部に近いところの血栓、担癌、術後など *4 *1*2 日本超音波医学会. 超音波による深部静脈血栓症・下肢静脈瘤の標準的評価法, 2018 p3. *3 POST studyの結果より.Ann Intern Med. 2010 16; 152(4): 218-24. *4 Antithrombotic therapy for VTE disease, second update of the CHEST guideline and expert panel report. Chest 2021; 160: e545-e608, pe578. 39
#40. 本スライドの目的・背景 • 深部静脈血栓関連(特に予防)は国内・国外ともに幅広い分野から各々の 立場による指針が出されており、内容が重複していたり転用されていたり 評価方法が複数併存していたりと複雑な状況です。国内においては今後も 横断的・包括的に整理される見通しは立っていません。 • 本スライドでは「無症候性で末梢型」という、臨床で多く遭遇する一方で エビデンスが確立されておらず現場で対応の判断に悩むことが多い病態に ついて焦点をあて、現状の知見をもとに整理しました。 • 今後、国内でもさらにエビデンスが構築・整理され、臨床現場で迷わない 一定のコンセンサスが得られていくことを願っています。 ここまでで使用されたイラストは「いらすとや」から引用、または演者作成です。
#42. おわり ご意見や改善点をぜひお寄せください • 予防については書きかけたものの内容が膨大になったため、 • 今回は扱っていません。各分野のガイドラインをご参照ください。 • Vol. 1.0 2023/12/04 @katayamatks Powered by