テキスト全文
免疫学の基本と対象者の紹介
#1. 免疫学のキホン 獨協医科大学
リウマチ・膠原病内科
中村海人
#2. 中村 海人
獨協医科大学 リウマチ膠原病内科
日本内科学会総合内科専門医、日本リウマチ学会リウマチ専門医・指導医
著書「レジデントのためのリウマチ・膠原病教室」日本医事新報社 自己紹介 @ktrheum
#3. 本スライドの目標と対象 目標
免疫学の基本を理解する
対象
医療系の学生など、免疫学の初学者
研修医・専攻医などで、免疫学が苦手な人
免疫の種類とその仕組み
#4. 目次 免疫ってなに?
自然な免疫と、獲得する免疫
自然免疫のしくみ
獲得免疫のしくみ
免疫と病気のカンケイ
#6. 免疫ってなに? もともとは「一度かかった感染症には、もう二度とかからない」という意味
しかし今ではもっと広く「微生物から身体を守る防御システム」という意味に
1回目の感染症が治るのも「免疫」の働きのお陰、私達の周りに無数に存在する微生物が容易に感染しないのも「免疫」のお陰
自然免疫と獲得免疫の違い
#8. 自然免疫 生まれながらに備えている防御システム
「自然」というよりは「先天的」な免疫
例えるなら「警察」 獲得免疫 生まれた後に病原体と遭遇することで「獲得」する防御システム
ある病原体に感染したときに、その病原体だけをやっつけるために獲得する、特別な防御システム
特別な免疫を「獲得」することで、感染症が治った後も同じ微生物による 2 回目の感染は起きにくくなる
例えるなら「軍隊」
#9. 自然免疫=「警察」 自然免疫を担う細胞たちは、普段は警察のように身体の中をすみずみまで見張っている
悪さをしそうな怪しいヤツ(=病原体)を見つけたら、速やかに捕まえて、処理!
さらに、危険信号を発して身体に危険を知らせたり、軍隊(=獲得免疫)に怪しいヤツの情報を渡したり
悪いヤツが少数なら、警察(自然免疫)だけでも十分に対処可能
#10. 獲得免疫=「軍隊」 悪いヤツが集団になって襲ってきたら、平時の警察だけでは対処できない
そこで、警察(=自然免疫)は軍隊(=獲得免疫)に救助を要請!
軍隊(=獲得免疫)はとてもよく訓練され、警察(=自然免疫)からもらった情報をもとに、悪いヤツだけを攻撃するように徹底的に教育される
そして、専用の兵器(=抗体)を作ったり、特別な兵士を送り込んで病原体を排除!
獲得免疫の特異性と免疫記憶
#11. 獲得免疫と自然免疫の違い ①特異性 獲得免疫は、犯人をピンポイントで狙って戦う=このようにピンポイントに反応することを特異的と呼ぶ
自然免疫は怪しいヤツをなんでもかんでも捕まえる=このように無差別に反応することを非特異的と呼ぶ
獲得免疫と自然免疫の大きな違いの 1 つは、この特異的かどうか、という点
#12. 獲得免疫と自然免疫の違い ②免疫記憶 獲得免疫は、病原体を排除した後も、悪いヤツのことは忘れないし、また同じ悪いヤツが襲ってきても大丈夫なように専用の体制を整えておき、一部の専用兵器も温存しておく→これが免疫記憶
獲得免疫と自然免疫のもう 1 つの大きな違いは、この免疫記憶があるかどうか
自然免疫のしくみと炎症の過程
#15. 炎症 身体の中に病原体が入ってくると、まずは「自然免疫」が働いて、それらを追い出そうとする
例えば、かぜウイルスなどの病原体が喉に侵入すると、「自然免疫」のシステムが作動して喉にいる病原体を攻撃する
その結果、病原体と交戦状態になり、戦場となった喉は大荒れ状態に
この大荒れ状態が、炎症
#16. 炎症が起きるしくみ ①マクロファージによる貪食 マクロファージは食いしん坊の細胞で、皮膚のすぐ下などに潜んでいて、外部から病原体が入ってこないかどうか見張っている
そして、病原体を見つけると、バクバク食べて消化
このように病原体などを食べて消化する過程を貪食という
#17. 炎症が起きるしくみ ①マクロファージによる貪食 マクロファージは病原体を食べると、「怪しい奴が入ってきたぞー!」という危険信号として、サイトカインという蛋白質を作って分泌する
サイトカインは血液中に入ると、そのまま血流にのって身体中に広がり、全身にその危険を伝える
#18. 炎症が起きるしくみ ②好中球の浸出 サイトカインによる危険信号を受けて、すぐに現場に急行して心強い援軍となってくれるのが好中球という戦士のような細胞
好中球は普段は血液中をのんびり巡回しているが、いざサイトカインによる危険信号を察知すると、すぐに現場に急行して集まってくる(好中球の遊走)
これが、炎症のはじまり
#19. 炎症が起きるしくみ ②好中球の浸出 好中球は、マクロファージと同様に病原体を貪食することができる
また、細胞の中にある、殺菌作用のある酵素や、殺菌成分が含まれている顆粒を放出して病原体にぶつけることによって、病原体をやっつける(=脱顆粒)
#20. 炎症が起きるしくみ ②好中球の浸出 好中球は大量に集まってきて、病原体と体当たりで激しく戦うことによって、炎症が生じる
病原体と戦った結果、大量の好中球の死骸が発生し、膿(うみ)と呼ばれる、白く濁った液体になる
炎症が起きるとしばしば膿が観察されますが、これは好中球が体を張って戦った証拠!
自然免疫から獲得免疫への移行
#22. 炎症の症状(炎症の四徴候) 腫れる= 腫脹
赤くなる = 発赤
痛い = 疼痛
熱がでる = 熱感
#23. 自然免疫から獲得免疫へ 病原体が身体の中に侵入すると、まずは自然免疫(警察)で対処しつつ、それと同時に獲得免疫(軍隊)に助けを求めにいく
獲得免疫に助けを求めにいく働きをする細胞が、樹状細胞
樹状細胞は、マクロファージと同じように、身体の中で病原体を見張っている
樹状細胞はその名前の通り、木の枝のような突起をもっていて、その突起を手足のように伸ばして病原体を敏感に察知して捕まえる
#24. 自然免疫から獲得免疫へ 樹状細胞は、病原体を捕まえたら細胞の中に取り込んで分解し、病原体の一部を細胞の表面に提示する
つまり、樹状細胞は、獲得免疫に「こんな悪いヤツを捕まえましたよ!」と実際に病原体を提示しながら、告げ口をして刺激する
獲得免疫のしくみと液性免疫
#25. 自然免疫から獲得免疫へ 病原体に限らず、免疫を刺激する物質を抗原という
そして、抗原を提示して獲得免疫を刺激する過程を抗原提示という
#27. 抗原提示によるT細胞の活性化 前の章で説明した樹状細胞が抗原提示を行う相手は、リンパ球の一種である T 細胞
樹状細胞から抗原提示を受けた T 細胞は活性化し、ヘルパー T 細胞に進化(このように細胞が進化する現象を、免疫学では「分化」という)
#28. 抗原提示によるT細胞の活性化 ヘルパー T 細胞は、獲得免疫の司令塔となる細胞
ヘルパー T 細胞が生まれることにより、いよいよ本格的に獲得免疫のスイッチがONに!
#29. 液性免疫 獲得免疫が病原体をやっつける1つ目のメカニズムは、液性免疫と呼ばれ、主役は B 細胞
抗原提示によって活性化されたヘルパー T 細胞は、抗原の顔をしっかりと覚え、同じ抗原の顔を認識する B 細胞を探して、活性化する
活性化した B 細胞は、ここぞとばかりに大増殖して数を増やし、そして形質細胞という細胞に分化する
#30. 液性免疫 形質細胞は、抗体という特別な蛋白質を産生し、分泌する
抗体とは、病原体に結合して、様々なメカニズムにより病原体をやっつける蛋白質
細胞性免疫とキラーT細胞の役割
#31. 抗体が作用するメカニズム 抗体が病原体をやっつけるメカニズムは大きく分けて次の3つ
中和:病原体や毒素に結合して、無毒化する
オプソニン化:病原体に結合して、マクロファージや好中球に貪食されやすくする
補体の活性化:病原体に結合した後に補体という蛋白質を活性化し、活性化された補体は直接病原体を破壊する。加えて、補体はさらなる炎症の活性化を引き起こす働きも持っている。
#32. 細胞性免疫 液性免疫で活躍する抗体はとても強力な兵器だが、抗体は細胞の中には入れない、という弱点がある
つまり、病原体がヒトの細胞の中に入ってしまったら、抗体は届かない
結核菌などの細胞内寄生菌と呼ばれる細菌は、感染した細胞の中で増殖するし、ウイルスも感染した細胞の中で増殖する
抗体は細胞の中には入れないので、抗体だけでは結核やウイルスと戦えない
実はヒトの身体には、感染した細胞を見極めて、その病原体を細胞もろともやっつける獲得免疫のシステム(=細胞性免疫)がある
#33. キラーT細胞による破壊 ウイルスは細胞に感染して中に侵入すると、細胞の機能を乗っ取って、細胞は最終的には死んでしまう
しかし、タダでは死なずに「こんな病原体に感染してしまいました!」と病原体の一部を細胞の表面に提示する
すると、T 細胞の一種であるキラー T 細胞が、提示された抗原を認識し、キラー T 細胞が感染細胞と判断すると、細胞を破壊する物質を放出して、感染細胞を病原体もろとも破壊する
#35. キラーT細胞による破壊 樹状細胞からウイルス感染の情報が司令塔であるヘルパー T 細胞に伝えられると、ヘルパー T 細胞はキラー T 細胞が増殖・活性化するようなサイトカインを作る細胞に分化する
そのようなヘルパー T 細胞が産生・分泌するサイトカインの刺激を受けると、キラー T 細胞は増殖し、活性化してパワーアップする
免疫と病気の関係性について
#38. 免疫不全 免疫の機能が低下していると、免疫不全という状態になり、色々な感染症にかかりやすくなる
先天性:遺伝子の異常によるもの
ウイルス:HIV感染によって発症するAIDS(後天性免疫不全症候群)
薬剤:ステロイドや免疫抑制剤によるもの
#39. 免疫不全 免疫の障害により、普通では感染を起こさないような病原体にも感染してしまうようになります(=日和見感染症)
日和見感染症の例としては、ニューモシスチス肺炎、サイトメガロウイルス感染症、結核など
#40. アレルギー 免疫反応は、本来は身体にとって有害なものに対して起きるもの
しかし、身体にとって無害なものに対しても免疫反応が起きてしまい、様々な症状を引き起こすことがある
そのような状態を、アレルギーと呼ぶ
#41. アレルギー アレルギーの一種である花粉症では、本来はヒトに対しては無害であるはずの花粉に対して、ヘルパー T 細胞や B 細胞が反応してしまい、液性免疫のメカニズムが作動して花粉の成分に対する抗体が作られる
このときに作られる抗体は IgE という種類
IgE は肥満細胞を刺激して、肥満細胞の中にためこんでいるヒスタミンなどの物質が放出される
ヒスタミンの作用によって鼻汁の分泌が増加したり、鼻の粘膜が腫れたりする
#42. 自己免疫疾患 免疫反応は本来は身体にとって有害なものに対して起きるもの
したがって、自分の身体に対しては、免疫反応が起きないようになっていて、これを免疫寛容という
しかし、免疫寛容がうまく働かなくなると、自分の身体由来の抗原(自己抗原)に対して反応してしまうことがある
特に、獲得免疫は複雑なメカニズムで自己と自己でないものを見分けているので、複雑なぶん異常が起きやすい
このように、自己抗原に反応してしまう疾患を、自己免疫疾患と呼ぶ
膠原病は自己免疫疾患の代表格
#43. まとめ 免疫とは、微生物から身体を守る防御システム
自然免疫は、生まれながらに備えている防御システム
病原体を貪食したマクロファージが活性化してサイトカインをつくり、好中球が貪食と脱顆粒を行って病原体と戦う
獲得免疫は病原体と遭遇することで獲得する防御システム
樹状細胞がT細胞に抗原提示をして、獲得免疫の司令塔であるヘルパーT細胞が分化する
液性免疫:ヘルパーT細胞によりB細胞が活性化して、形質細胞に分化して抗体をつくる
細胞性免疫:キラーT細胞が抗原提示をした感染細胞を破壊する
免疫の異常により、免疫不全、アレルギー、自己免疫疾患が生じる
さらなる学びのための参考文献
#44. もっと勉強したい方へ 本スライドは「レジデントのためのリウマチ・膠原病教室」(医学新報社)から抜粋したものです。
免疫の異常によって引き起こされる関節リウマチや膠原病についてもっと勉強してみたい方は、是非本書を読んでみてください。