本スライドの対象者 l 前回は胃内視鏡検査の観察⽅法についてスライドを作成させていただきました。 l 今回の⽬標は「胃癌のリスクを把握できるようになること」と「病変をみつけて癌と診断できる ようになること」です。 l 対象は下記のような先⽣です。臨床で癌と診断できるようになるためのお役に⽴てれば幸いです。 将来消化器内科を専攻し内視鏡医を⽬指している研修医 胃内視鏡検査の⼿技は安定しているけど、どこをどうみたらいいか分からない専攻医 病変はみつけることができるが、⾃信をもって癌と診断できない専攻医 背景粘膜評価や存在診断・質的診断について改めて復習しなおしたい専攻医
ピロリ菌感染状態毎の胃癌発症率 l 約10年間のコホート研究で、ピロリ菌未感染患者260例からは1⼈も癌が発⽣しなかった が、現感染患者1246例からは2.9%(36例)の胃癌発症を認め、年率0.5%程度の発癌リスク であった。 Uemura N et al. N Engl J Med 2001;345(11):784-789. l 3161例の胃癌症例のうち未感染患者は0.66%(21例)であった。 Matsuo T et al. Helicobacter 2011; 16(6):415-419. l 約20年フォローすると既感染患者の胃癌発⽣率は年率0.35%程度であった。 Take S et al. J Gastroenterol 2020;55(3):281-288. 現感染患者は年率0.5%程度、既感染患者は年率0.35%程度に胃癌が発⽣する。 未感染患者は胃癌を100例発⾒したときに1⼈いるかいないか程度。
胃炎の京都分類〜どの所⾒がより重要か〜 ピロリ菌未感染 l 組織学的に好中球浸潤・萎縮・腸上⽪化⽣のない状態 l 萎縮がないためRACが胃⾓部〜胃体部⼩弯で観察される RAC (regular arrangement of collecting venules) 内視鏡的に胃体部に集合細静脈が規則的に配列する像のこと。判定は胃⾓部〜胃体下部⼩弯で⾏う。 l 未感染粘膜における診断オッズはRAC RACが最も有⽤。 32.2、胃底腺ポリープ 7.7、稜線状発⾚ 4.7で、 Yoshii S et al. Dig Endosc 2020;32(1):74-83.
胃炎の京都分類〜どの所⾒がより重要か〜 ピロリ菌現感染 l 組織学的に活動性変化によるリンパ球・好中球浸潤があり、粘液層には菌体が確認できる。 慢性的な変化に伴う萎縮・腸上⽪化⽣を認める。 l 慢性活動性胃炎の状態 l 現感染粘膜における診断オッズはびまん性発⾚ びまん性発⾚が⼀番有⽤。 26.8、粘膜腫脹 13.3、⽩濁粘液 10.2で、 Yoshii S et al. Dig Endosc 2020;32(1):74-83.
胃炎の京都分類〜どの所⾒がより重要か〜 ピロリ菌既感染 l ピロリ菌の消失(除菌治療、偶然の抗⽣剤投与による除菌、⾼度萎縮による⾃然消失)により 好中球浸潤は速やかに消失(活動性胃炎消失)。⼀⽅で単核球浸潤は残存(慢性胃炎残存)。 l 慢性⾮活動性胃炎の状態 l 内視鏡観察では、びまん性発⾚、粘膜腫脹は消失(活動性胃炎消失)、萎縮、腸上⽪化⽣は残存 (慢性胃炎残存)。症例により地図状発⾚が出現。 地図状発⾚ 除菌によりびまん性発⾚が消退した結果、萎縮のない胃底腺領域は⽩⾊調となり萎縮・腸上⽪化⽣粘膜では発⾚が残存 する。この発⾚のこと 。 l 既感染粘膜における診断オッズは地図状発⾚ 12.9。 Yoshii S et al. Dig Endosc 2020;32(1):74-83.
胃炎の京都分類〜胃癌リスクと関連のある所⾒〜 l 胃癌のリスクと関連のある所⾒は、「萎縮」「腸上⽪化⽣」「⿃肌」「皺壁腫⼤」 「胃⻩⾊腫」がある。観察時にこれらの所⾒を認めた際には、より慎重に観察を⾏う。 ⼋尾建史, 他. Gastroenterol Endosc. 2019;61(6):1283-1319. l 萎縮については萎縮の範囲がひろがればひろがるほど胃癌のリスクが上昇する。そのため、⽊ 村・⽵本分類を⽤いて萎縮の範囲まで評価を⾏う。 Masuyama H et al. Digestion 2015;91(1):30-36.
まとめ② l 胃炎の京都分類で呈⽰されている内視鏡所⾒を確認して検査に望む。 l ピロリ菌感染状態に応じて胃癌のリスクが⼤きく変わる。胃炎の京都分類を参考 にして、ピロリ菌感染状態を評価する。 l 胃癌のリスクと関連のある所⾒は、萎縮、腸上⽪化⽣、⿃肌、皺壁腫⼤、胃⻩⾊ 腫の5つ。萎縮については範囲が広いほど胃癌のリスクが上昇するため、萎縮の 範囲まで評価する。
存在診断〜全ては病変をみつけることから始まる〜 l 形態の変化は⽐較的⾒つけやすい。⼀⽅で、表⾯構造や⾊調の変化は周囲の粘膜次第では みつかりにくいこともある。そのときにはインジゴカルミンを撒布して⾊素観察を⾏う。 撒布することで周囲との差が明瞭となり病変がみつかりやすくなることがある。 l 癌部は⾮癌部に⽐べて脆弱であり、接触していないところに⾃然出⾎を認め、それがきっか けで癌をみつけることがある。出⾎がすべて内視鏡の接触によるものと思いこまないこと。 病変をみつけなければ診断も治療もできない。みつけるためにはたくさんの画像を みなければならない。後述する参考書の画像をみるなどして経験を蓄積していく。
質的診断〜癌か⾮癌かを診断する〜 画像強調併⽤拡⼤内視鏡観察 l 質的診断における画像強調拡⼤内視鏡観察の有⽤性はすでに確⽴されガイドラインでも⾏う ⼋尾建史, 他. Gastroenterol Endosc. 2019;61(6):1283-1319. ことを提案されている。 l 画像強調併⽤拡⼤内視鏡観察で癌・⾮癌を鑑別するための診断体系として VS (vessel and surface) classification systemが提唱、確⽴され、有⽤性について も報告されている。この診断体系を⽤いて質的診断を⾏っていく。 Yao K et al. Endoscopy 2009;41:462-467. Ezoe Y et al. Gastroenterology 2011;141:2017-2025. Yao K et al. Gastric Cancer 2014;17:669-679.
質的診断〜癌か⾮癌かを診断する〜 VS (vessel and surface) classification system l 原則は、解剖学的⽤語を⽤いて、微⼩⾎管構築像(microvascular (MV) pattern)と 表⾯微細構造(microsurface (MS) pattern)を判定すること。 l MV patternとMS patternを regular / irregular / absent の3つのカテゴリーで判定する。判定基準は 次のスライドを参照。 l 早期胃癌に特徴的な拡⼤内視鏡所⾒は、癌と⾮癌粘膜の間に明瞭な境界線(DL︓demarcation line)が存在すること、かつ、DLの内側にirregular MV patternかつ/または、irregular MS patternが存在することである。 Yao K et al. Endoscopy 2009;41:462-467.から引⽤,⼀部改変
質的診断〜癌か⾮癌かを診断する〜 MESDA-G 早期胃癌を疑う病変 l VS classification systemを⽤いた拡⼤内視鏡によ る早期胃癌診断の単純化アルゴリズム(右図)。 l magnifying endoscopy simple diagnostic algorithm for early gastric cancerの略。 l ⽩⾊光通常観察で早期胃癌を疑う病変を拾い上 げ(存在診断)、拾い上げた病変に対して拡⼤ 内視鏡観察を⽤いて診断を⾏う(質的診断)。 DL あり なし irregular MV pattern and / or irregular MS pattern あり 癌 なし ⾮癌 Muto M et al. Dig Endosc 2016;28:379-393.から引⽤,⼀部改変
まとめ③ l 病変をみつけなければ診断も治療もできない。⽩⾊光通常観察で「形態」 「表⾯構造」「⾊調」「⾃然出⾎」に着⽬して病変を拾い上げる。 l ⽩⾊光通常観察で「表⾯の不整な形態」「表⾯構造の変化」「⾊調変化」 「⾎管透⾒像消失」「⾃然出⾎」が「領域性をもって」存在するとき癌を疑う。 l 画像強調併⽤拡⼤観察は癌か⾮癌かを鑑別するために有⽤。 VS classification systemを⽤いた拡⼤内視鏡による早期胃癌診断の単純化アルゴリズムである MESDA-Gを参考に質的診断を⾏う。
TAKE HOME MESSAGE l 個々の症例で胃癌のリスクは変わる。症例毎の背景因⼦、ピロリ菌感染状態、 得られる内視鏡所⾒を参考に胃癌リスクを想定しながら観察を⾏う。 l 胃炎の京都分類を参考にしてピロリ菌感染状態を診断することが胃癌のリスク 把握につながる。 l 全ては⽩⾊光通常観察で病変をみつけること(存在診断)から始まる。みつけた 病変に対して⽩⾊光通常観察や画像強調併⽤拡⼤観察を⽤いて癌か⾮癌かを診断 する(質的診断)。