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胃内視鏡検査の観察から診断までのお話 〜観察⽅法を⾝につけて⾒逃し癌を減らそう〜 尾⼭秀明@消化器内科 画像は同僚のもので掲載許諾取得済み
本スライドの対象者 Ø 本スライドの対象者は下記のような⽅が対象です. ●将来消化器内科を専攻し内視鏡医を⽬指している研修医 ●胃内視鏡検査を始めたばかりの専攻医 ●胃内視鏡検査を始めているけど,⾃分なりの観察⽅法が確⽴できていない専攻医 ●胃内視鏡検査を初めて観察⽅法も確⽴しているけど,改めて復習しなおしたい専攻医 Ø 胃内視鏡検査の観察⽅法は施設間で異なる点がありますが,⼤事な点についてはどこも同じで す.その⼤事な点を学ぶきっかけになれば幸いです.
胃内視鏡検査の観察から診断までのお話 ⽬次 1. 胃癌の疫学 2. 胃癌検診における胃内視鏡検査の役割 3. 前処置〜内視鏡挿⼊のその前に〜 4. 観察の基本事項 5. 写真撮影の⼼構え 6. 実際の観察⽅法〜A法とB法〜 7. 死⾓をしろう︕
4.
胃癌の疫学 〜2019年のがん罹患数と死亡数〜 3位 4位 2位 6位 引⽤︓がん情報サービス.がん統計. 国⽴がん研究センター h$ps://ganjoho.jp/reg_stat/index.html 胃癌は罹患数・死亡数ともにがんの中ではまだまだ多い︕
5.
胃癌の疫学 〜罹患数・死亡数の年次推移〜 年次推移では罹患数・死亡数ともに低下傾向. 死亡数の⽅がより低下が⽬⽴つ. この要因として、 ●ピロリ菌除菌治療の効果 ●対策型検診でのバリウムによる胃癌検診の 効果 の2つが考えられる. 引⽤︓がん情報サービス.がん統計. 国⽴がん研究センター https://ganjoho.jp/reg_stat/index.html 検診における胃内視鏡検査の⽴ち位置は︖
6.
胃癌検診における胃内視鏡検査 胃内視鏡検査における死亡率減少効果 ●⽇本での症例対象研究では30%減の効果 Matsumoto S, et al. Indian J Gastroenterol. 2014; 33(1): 46-49. ●韓国での検診データベースによる研究では57%減の効果 Cho B, et al.ソウル⼤学医科⼤学. 2013. 有効性評価に基づく胃癌検診ガイドライン2014年度版では, 対策型検診(市区町村が⾏う検診)でも任意型検診(対策型検診以外の検診)でも 実施を推奨している. (対象は50歳以上が望ましく、検診間隔は2-3年とすることが可能)
7.
胃内視鏡検査は⾒逃しが多い︕︖ 胃癌がないと診断された内視鏡検査から3年以内にがん登録されたものを偽陰性 と定義すると,偽陰性率は25.8% 10年未満の医師の偽陰性率 32.4% Hosokawa O, et al. Hepatogastroenterology. 2007; 54(74): 442-444. > 10年以上の医師の偽陰性率 19.5% 胃癌は少なくない頻度で⾒逃されているのが現実. 胃癌の診断がそれほど難しいことを⾃覚してトレーニング必要︕
8.
まとめ① Ø 胃癌は罹患数,死亡数ともに男⼥ともに上位ではあるが,総数としては低下傾向 である.これは,ピロリ菌除菌治療や検診の普及によるものと考えられる. Ø 実際に,胃内視鏡検査により30-60%程度の胃癌死亡率減少効果が得られている. Ø しかし,約25%の割合で⾒逃し癌も報告されており,特に初学者ではその割合は 増えるため,しっかりとしたトレーニングを積む必要がある.
9.
前処置 〜内視鏡挿⼊のその前に〜 胃内溶液溶解除去剤(プロナーゼ),消泡剤(ジメチコン) ●粘膜の視認性改善効果向上,検査時間の短縮,内視鏡医の満⾜度向上効果がある. ●早期胃癌発⾒率を向上させる報告はない. ●視認性向上により早期胃癌発⾒率向上が推測されるため使⽤が推奨される. 咽頭⿇酔(リドカイン) ※リドカインアレルギーに注意︕ ●咽頭反射を抑制する⽬的. ●ビスカス法︓リドカインビスカス5ml程度を咽頭の奥に数分溜める⽅法 ●スプレー法︓リドカインをスプレーで直接咽頭内に噴霧し飲み込んでもらう⽅法 ●RCTにてスプレー法が患者受容度が優れ,咽頭⿇酔効果も同等と報告されている. ⽔野順⼦, ほか. 福島医誌. 2011; 61: 12-17.
10.
前処置 〜内視鏡挿⼊のその前に〜 鎮痙剤(ブチルスコポラミン,グルカゴン,l-メントール製剤) ●鎮痙剤投与が早期胃癌発⾒率を向上させる報告はない. ●良い視野を確保することで早期胃癌発⾒率向上が推測されるため,蠕動運動が激しく 観察不良の症例では必要に応じて使⽤を検討する. 鎮静剤(ミダゾラム,ジアゼパムなど),鎮痛剤(ペチジンなど) ●患者側の受容性や満⾜度を改善し,検査完遂や診断精度や治療成績の向上に有⽤. ●鎮静剤・鎮痛剤投与が早期胃癌発⾒率を向上させる報告はない. ●検査中の厳密なモニタリング,検査後のリカバリー室での患者監視が必須︕
11.
観察の基本事項 観察時間 ●早期胃癌発⾒率は平均検査時間が5分未満で0.2%,5分以上で0.4%と報告. Kawamura T, et al. Dig Endosc. 2017; 29(6): 569-575. ●平均時間が極端に短いと早期胃癌を⾒逃す可能性があることは⽰唆されるが,適切な観察時間は 決まっておらず個々の症例によって変わってくる. ●個々の症例の背景粘膜の状況を把握し,それぞれで多いとされる癌を想起して観察に望むことが ⼤事.
12.
観察の基本事項 画像強調観察(NBI,BLI,LCIなど) ●2019年版ガイドラインでは画像強調観察の有⽤性が検討されているが,胃の内視鏡観察は ⽩⾊光観察が基本であるとされている. ⼋尾建史, ほか. 消化器内視鏡. 2019; 61(6): 1283-1319. ●それ以降の報告でNBI,BLI,LCIについて有⽤性が報告されているが,対象症例はいずれも 胃癌⾼リスクの患者であり,胃内視鏡全例での画像強調観察については⾔及されていない. Dohi O, et al. Gastrointest Endosc. 2019; 89(1): 47-57. Ono S, et al. Ann Intern Med. 2021; 174(1): 18-24. Yoshida N, et al. Gut. 2021:70(1): 67-75.
13.
写真撮影の⼼構え ★常に⾃分のルーチン撮影を守ること︕ ●診断の邪魔になる粘液・胃液を除去すること ●撮影部位がわかるように撮影すること ●撮影部位が胃全体を網羅していること ●適切な光量や送気量を調整すること(※脱気気味なほうがよりみえる箇所もある︕) ●撮影枚数は全体で40枚程度を意識すること ●異常所⾒があれば必要に応じて追加撮影をすること 「振り返ってみても再評価できる」写真の撮影がスキルアップにつながる︕
14.
観察⽅法 〜A法〜 ⾷道 ↓ ⼝側から肛⾨側へ挿⼊しながら 胃体部,胃⾓部,前庭部,幽⾨前庭部 ↓ ⼗⼆指腸に挿⼊して ⼗⼆指腸 ↓ 胃内に戻ってスコープを反転 胃体下部〜上部,噴⾨部,穹窿部 ↓ スコープを⾒下ろしに戻して 送気量が多くやや過伸展した状態で 胃体部を再度観察 メリット 送気量をかえた胃体部を2度観察 できる デメリット 撮影枚数がやや多くなる
15.
観察⽅法 〜B法〜 ⾷道 ↓ ⼗⼆指腸に挿⼊して ⼗⼆指腸 ↓ 胃内に戻って⼝側へスコープを抜去しながら 幽⾨前庭部,幽⾨部,胃⾓部,胃体部 ↓ 胃体上部でスコープを反転させて 胃体上部,噴⾨部,穹窿部 メリット 検査時間を短縮できる デメリット 先に⼗⼆指腸に挿⼊するため,ス コープ接触による擦過痕が胃⾓部や 胃体下部⼤弯に⽣じることがある
16.
観察⽅法 ●A法やB法は「対策型検診のための胃内視鏡検診マニュアル」で紹介されている 対策型検診のための胃内視鏡検診マニュアル.南江堂,2017, P49-56. ⽅法. ●他にも様々な観察⽅法があり,適切な観察⽅法が確⽴されているわけでない. ●⼤事なことは⾒逃し癌を防ぐための系統⽴てた観察である. ⼋尾建史, ほか. 消化器内視鏡. 2019; 61(6): 1283-1319. 胃全体を網羅的に観察できるような⾃分のルーチン観察を⾒につけ, それを常に守って観察していくことが⾒逃し癌を防ぐことにつながる︕
17.
まとめ② Ø それぞれの前処置におけるメリット・デメリットを把握して,個々の症例にあわせて必要最低限 な薬剤を使⽤することを⼼がける. Ø 適切な観察時間はないが,極端に短いと胃癌を⾒逃してしまうリスクが⾼くなる可能性がある. 患者さんが苦しくない範囲でしっかりと観察を⾏う. Ø 画像強調観察に関して有⽤性の報告はあるが,基本は⽩⾊光観察である. Ø ⾒逃し癌を防ぐためには胃全体をくまなく観察できるルーチン観察を⾝につけることが重要であ る. Ø 「振り返ってみても再評価できる」写真を撮影する.
18.
死⾓をしろう︕ ●胃は屈曲した広い管腔を持つ臓器であり,⾒逃しやすい死⾓が存在する. ●そういった死⾓を知ったうえで観察に望むことが⾒逃し癌を防ぐことにつながる. <死⾓となる部分> ① ①噴⾨部⼩弯 ②胃⾓から胃体部後壁 ③胃体部⼤弯 ④蠕動運動時の胃前庭部 ④ ② ③
19.
死⾓をしろう︕ 〜①噴⾨部⼩弯〜 ◯⾒上げ観察では内視鏡に隠れ,⾒下ろし観察でも接線⽅向となり観察困難. ◯意識して噴⾨部⼩弯に内視鏡を回し,近接して観察するように⼼がける. ※近接しすぎると粘膜裂創が⽣じることもあるため愛護的に⾏う. 画像は同僚のもので掲載許諾取得済み
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死⾓をしろう︕ 〜②胃⾓から胃体部後壁〜 ◯胃⾓から胃体部後壁は⾒下ろし観察では接線⽅向となるため⾒逃しが多くなる. ◯⾒下ろし観察なら体ごと右を向きやや脱気気味で正⾯視ができることがる. ◯⾒上げ観察では内視鏡を押し込み左アングル,左トルクで正⾯視ができる. 画像は同僚のもので掲載許諾取得済み
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死⾓をしろう︕ 〜③胃体部⼤弯〜 ◯胃体部⼤弯は送気量が不⼗分だと,ひだに病変が隠れ観察できない. ◯適切な送気によるひだの伸展でしっかりと観察できる. ※うまく送気できないときは,左側臥位から仰臥位気味に体位変換することで伸展が得られることがある. 画像は同僚のもので掲載許諾取得済み
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死⾓をしろう︕ 〜④蠕動運動時の前庭部〜 ◯胃前庭部は基本的には観察が容易な部位だが蠕動が強いと⾒逃すことがある. ◯蠕動にあわせて⾒逃しがないようにしっかり観察する. ※観察不良の場合は,内視鏡を⼀度肛⾨側に挿⼊し抜去しながらの観察や鎮痙剤使⽤を考慮する. 画像は同僚のもので掲載許諾取得済み
23.
まとめ③ ①噴⾨部⼩弯 ⾒上げ観察で⼩弯側にまわして近接して観察する. ②胃⾓から胃体部後壁 ⾒下ろし観察では体ごと右を向きやや脱気気味で観察する. ⾒上げ観察では内視鏡を押し込み後壁側にしっかりとまわして観察する. ③胃体部⼤弯 適宜体位変換も駆使して,ひだをしっかり伸展させて観察する. ④蠕動運動時の胃前庭部 蠕動にあわせひだがのびたところで観察する.必要に応じて鎮痙剤使⽤も考慮す
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TAKE HOME MESSAGE Ø 胃内視鏡検査での⾒逃し癌は25%程度と少なくない頻度であることを認識し, それぞれが研鑽を積み精度を向上させていく. Ø 適切な観察環境を得るために,前処置を把握し個々の症例において必要最低限の 薬剤投与を⾏う. Ø 胃全体を網羅的に観察できる⽅法を⾝につけ,それを継続することが精度向上に つながる. Ø 死⾓として噴⾨部⼩弯・胃⾓から胃体部後壁・胃体部⼤弯・蠕動時の胃前庭部 があり,それらの死⾓を常に意識して観察する.