テキスト全文
ステロイド血糖管理の基本概念
#1. ADA 2026 ステロイド 血糖管理 完全マニュアル 導入・当直・漸減・退院後フォローまで 33枚で完全網羅 糖尿病専門医・指導医 2026年4月 Endo Soc JBDS 2023
#2. まず覚える3点 [1] 空腹時血糖だけ見ない。昼〜夕方の午後型高血糖が本質 [2] PSLとDexは別物。作用時間で血糖パターンが違う [3] ステロイド減量時は低血糖に注意。追加インスリンから先に減量 この3点を抑えれば当直で困らない
#3. ステロイド糖尿病はなぜ見逃されるか 入院患者の10〜15%がステロイド使用中(ADA 2026) 高用量ステロイド使用患者の最大 86%で ≧144 mg/dL の高血糖を経験 既存糖尿病ではデキサメタゾン使用で有意な平均血糖上昇 朝の空腹時血糖だけ見ると見逃す 参考: ADA Standards of Care 2026 Section 16 / Clin Endocrinol reviews
高リスク患者の見分け方と機序
#4. ステロイド関連高血糖の定義(ADA 2026) 入院中高血糖 ステロイド関連高血糖 BG > 140 mg/dL 上記 + 薬剤性原因の明記 ADA 2026 Section 2 の病因分類で 薬剤性を other specific types に分類 参考: ADA Standards of Care 2026 Section 16
#5. 高リスク患者の見分け方 [ ] 高齢 (65歳以上) [ ] 肥満 (BMI 25以上) [ ] 糖尿病家族歴 [ ] 既存の耐糖能異常 / 糖尿病 [ ] 高用量・長期ステロイド (PSL 20mg超, 1ヶ月超) [ ] 複数の併存疾患・多剤併用 ベースラインHbA1c必須
#6. 機序(1): インスリン抵抗性 末梢(筋・脂肪)でのブドウ糖取り込み低下 肝糖新生 増加 インスリンシグナル伝達障害 ステロイド -> 抵抗性増加 -> 血糖上昇
血糖測定と評価の重要性
#7. 機序(2): β細胞予備能の差 代償できる人 代償できない人 インスリン抵抗性 増加 ↓ β細胞代償でインスリン分泌 増加 = 血糖は維持 遺伝・加齢・肥満 ↓ β細胞予備能 不足 = 糖尿病顕在化 中心は抵抗性。しかし個人差(β細胞予備能)が発症を決める
#8. ★ 午後型高血糖パターン 朝食前 正常〜軽度上昇 昼食後〜夕食前 ピーク (180mg/dL超え多い) 夕食後 高値持続 夜間〜翌朝 低下 朝の空腹時だけ見ると見逃す。 必ず昼食前・夕食前を測る
#9. なぜ空腹時血糖だけでは足りないか PSL朝内服 夜間 血中濃度ピーク = 昼〜午後 ↓ 高血糖ピークも その時間帯 薬効が切れる ↓ 肝糖新生が戻る ↓ 翌朝は正常化 見逃し防止: 昼食前 or 夕食前の測定が鍵 参考: JBDS 2023 (Joint British Diabetes Societies)
#10. ステロイド開始前のベースライン評価 HbA1c (既存糖尿病の評価) 空腹時血糖 身長・体重・BMI 糖尿病家族歴 腎機能 (eGFR) 既存治療薬の確認 参考: JBDS 2023 - Management of hyperglycaemia and steroid therapy
入院中の血糖管理と目標設定
#11. 入院中の血糖測定頻度 状態 食事摂取あり 絶食中 IVインスリン中 ステロイドパルス中 参考: ADA Standards of Care 2026 Section 16 / JBDS 2023 測定タイミング 毎食前 + 眠前 4〜6時間ごと 30分〜2時間ごと 1日4〜6回 (JBDS実務目安)
#12. ステロイド患者は「昼食前」と「夕食前」を必ず測る 午後型高血糖は昼〜夕方に出現 朝と眠前だけだと見逃す パルス療法中は頻回測定(1日6回) 実践: 昼食前と夕食前は必ずSMBG/POCを確保 参考: JBDS 2023
#13. 血糖目標(ADA 2026) 一般病棟 100〜180 mg/dL 食前・食後・随時 厳格化しない 低血糖(BG 70mg/dL未満)は必ず避ける 参考: ADA Standards of Care 2026 Section 16 ICU / 重症 140〜180 mg/dL 重症度に応じ 低血糖回避優先
治療開始の閾値とCGM活用法
#14. 治療開始・強化の閾値 1 BG 140超で認識・モニタリング強化 2 持続 BG 180以上 -> scheduled insulin開始 3 BG 250超持続 or DKA -> BBI / 持続静注 (臨床目安) Sliding scale単独は推奨されない(ADA 2026) Scheduled insulin(定時インスリン)を基本とする 参考: ADA Standards of Care 2026 Section 16
#15. HbA1cの落とし穴 過去2〜3ヶ月の平均 ステロイド開始後の急性変化は反映しない 入院時A1c 6.5%以上 既存糖尿病の可能性高い ステロイド中止後もA1c高値 2型糖尿病顕在化の評価 参考: ADA Standards of Care 2026 Section 16
#16. CGM / FGMの入院活用 ADA 2026: 外来でCGM使用なら入院中も継続可 インスリン投与判断にはPOC血糖で確認が必要 夜間低血糖・午後型高血糖の検出に有用 参考: ADA Standards of Care 2026 Section 16
ステロイドの種類と血糖パターン
#17. ★ ステロイド力価換算表 製剤 ヒドロコルチゾン (HC) プレドニゾロン (PSL) メチルプレドニゾロン デキサメタゾン (Dex) ベタメタゾン 参考: 糖尿病診療ガイドライン2024 / Endocrine Society 等価用量 20 mg 5 mg 4 mg 0.75 mg 0.6 mg 作用時間 短時間 (8-12h) 中時間 (12-36h) 中時間 (12-36h) 長時間 (36-72h) 長時間 (36-72h)
#18. 作用時間別の血糖パターン 短時間型 (HC) 短い上昇 短時間対応でOK 頻回分服で 複数ピーク化あり 中時間型 (PSL) 日中優位 午後型の典型 朝NPH or 昼bolus厚め 長時間型 (Dex) 終日持続 夜間も高値 基礎インスリン 比重を上げる
#19. PSL朝1回投与: 午後型高血糖 8時 服用 9-10時 血中濃度ピーク 14-18時 血糖ピーク(数時間遅れ) 深夜 減衰・基線復帰 戦略: 朝NPH or 朝基礎少なめ + 昼bolus厚め 夕食時bolusも通常より多め
分割投与と局所ステロイドの影響
#20. デキサメタゾン: 終日型高血糖 作用72時間まで持続 夜間・早朝も高値 基礎インスリン比重を上げる NPHは不適合 持効型(グラルギン / デグルデク)が合う 参考: Endocrine Society / JBDS 2023
#21. 分割投与・点滴パルス時 分割投与(1日2-3回) 点滴パルス 複数ピークが重なる ↓ 高血糖が持続化 持効型+超速効型 mPSL 500-1000mg×3日 BG 250超が頻発 ↓ IVインスリン検討 参考: ADA 2026 / JBDS 2023
#22. 局所・吸入ステロイドの影響 全身投与が最大の影響 吸入: 高用量では血糖上昇報告あり 関節内注射: 一過性血糖上昇 既存糖尿病では特に注意 既存糖尿病では局所投与でも無視しない
ステロイド糖尿病の治療原則
#23. ステロイド糖尿病の治療原則 1 Sliding scale単独は避ける(ADA 2026) 2 Scheduled insulin(BBI or NPH)を基本 3 空腹時より食後血糖重視 4 漸減時は過量に注意 原則: 先読み設計 + 日々再調整 1回の数値で大きく動かさない 参考: Endocrine Society / ADA 2026
#24. BBI: ステロイド糖尿病向けの配分 通常入院BBI: Basal 50% / Bolus 50% ステロイド糖尿病では日中bolusを厚めに設計 初期TDD: 0.3〜0.6 units/kg/日 (ADA 2026) 明確な30:70推奨はガイドライン本文になし。 臨床実践として日中重視という運用。 参考: ADA Standards of Care 2026 Section 16
#25. NPH戦略: PSL朝1回と薬力学を合わせる PSL朝8時 NPH朝8時 血糖ピーク 14-18時 インスリンピーク 14-18時 アルゴリズム(実例) ・朝NPH 10単位開始 ・毎日10〜20%増量 ・目標血糖到達まで 参考: JBDS 2023 / Endocrine Society
具体的なインスリン設計の例
#26. 持効型戦略: Dex・分割投与に適合 24時間高血糖 -> 持効型(グラルギン / デグルデク) 夜間高血糖もカバー NPHより低血糖リスクは低い 食事摂取ありでは追加(超速効型)併用
#27. 具体例(1): PSL 20mg、60kg男性、初期設計 TDD目安 0.4 units/kg × 60kg = 24 units ステロイド考慮で日中重視 ・基礎 8単位(朝NPH or 眠前グラルギン) ・追加 朝4 / 昼8 / 夕4 単位 2〜3日のパターンで調整。一発では決まらない
#28. 具体例(2): PSL 40mg導入3日目、夕食前BG 380 1 即時: 追加超速効型 4〜6単位 2 翌日〜: 昼・夕 bolusを2-4単位増 3 2-3日の血糖パターン再評価 1回の高血糖で大幅増量しない 漸減予定も視野に入れて設計
漸減時の注意点と退院後フォロー
#29. ステロイドパルス療法時の血糖管理 mPSL 500-1000mg/日 × 3日 BG 250以上が頻発 -> 早期強化が必要 重症・不安定 -> IV insulin を臨床判断で検討(施設プロトコル参照) 目標 140-180 mg/dL(厳格化しない) K+補充・輸液管理必須 参考: ADA Standards of Care 2026 Section 16
#30. ステロイド漸減時のインスリン減量 PSL 5mg減 -> 追加インスリンから先に減量 基礎インスリンは保持、次に減量 低血糖が出たら即減量 漸減ペースに合わせたSMBG強化 参考: JBDS 2023 / Endocrine Society
#31. 漸減中の低血糖に注意 漸減中の朝BG 65 = 低血糖(ADA定義<70)、インスリン過量の典型 PSL減量したがインスリンを減らし忘れ 夜間〜早朝に注意(基礎過量) 漸減時は高血糖より低血糖が怖い
#32. 退院後のフォローアップ 1 退院後2週間: SMBG / CGM確認 2 1ヶ月: HbA1c再評価 3 3ヶ月: 経口薬移行の判断 ※実務上の目安。ガイドライン固定推奨ではない ステロイド中止後もDM残存 -> 未診断2型DM評価 再導入に備える逆パッケージ指導
#33. ★ 当直で困らない5か条 + チートシート 当直5か条 [1] [2] [3] [4] [5] 空腹時だけ見ない、昼〜夕方を測る PSLは午後型、Dexは終日型 BG 140超で認識、180以上で治療強化 Sliding scale単独NG、scheduled insulin ステロイド減量 -> インスリンも減量 ステロイド 推奨インスリン PSL朝1回 朝NPH or 基礎少なめ+昼bolus厚め Dex 持効型(グラルギン等) パルス IV insulin (重症時) 参考: ADA 2026 / Endocrine Society / JBDS 2023 / 糖尿病診療ガイドライン2024