#4.
総合病院精神科臨床でいつも思うこと • 「心」は誰にでもありますが、明確に定義することは難しく、ま た、精神科医が扱える「心」は一部に過ぎません。脳自体や 身体全体の不調などでの臓器としての「脳」の不調時や、対 人関係など環境や状況からのストレス(とらえ方は人それぞ れですが)時などで、人は、容易に「精神症状」を呈します。 • それを見て、精神科に相談されることがあると思いますが、 原因療法ができる場合は少なく(そしてそれができるのは精 神科医でない場合も多く)、現実的には、対症的な薬物療法 (当然無効な事も、一定の副作用が起こることもあり)や他職 種の力を借りての対処療法位しかできないかもしれません。 • あまり役に立てないことは、変な万能感に満ちた精神科医以 外は、精神科医自体も分かっていると思います。 4
#5.
限界を踏まえて 研修医・一般精神科医の方々へ • 一方で、ちょっとした事(「うつ病」と自己申告する患者の一定 の部分を精神科医はうつ病とは思ってないこと、非ベンゾな る薬剤はせん妄リスクはベンゾとほぼ変わらないこと、など) を知っているだけで、外来・病棟内での精神症状の発生やそ れに伴うトラブルを大分減らすことが可能となります。 • せん妄ハイリスク加算でスクリーニングされている場合、大 量でなければ、すでに処方されているベンゾジアゼピン系作 動薬は中止が無難と思われます。では代わりに何をするか、 と言われると困るとは思われ、代表的な病態や疾患での精 神科的な見立て方、一般的な介入、あまり精神医学に詳しく ない方でもできる無難な介入などを、精神科医的思考法と共 に、適宜紹介していこうと思っております。 5
#6.
研修医の方に • 研修開始後、救急外来に来る「メンタル」な問題の方への対 応に悩んだり、イライラして、また、その際に、精神科医がい なかったり(こなかったり)、相談できなかったりで、色々申し 訳ありませんが(私も、今の病院で時間外対応はいたしてお りませんので、何も言えませんが)、先生方がどの道に進ま れるにせよ、その患者には、「心」があり、重症になればなる ほど、臓器としての「脳」や心理面の「こころ」が追い込まれて いき、「精神症状」を呈することになると思います。 • その時に、何か役に立つようなことをお伝えできればと思い ます。 6
#7.
臨床研修制度における精神科の位置づけ • 2020年度から新ガイドラインに沿って見直された医師臨床研 修制度はプロフェッショナリズムやプライマリーケア能力を重 視している。 • 精神科は内科、外科、小児科、産婦人科、救急、地域医療と 並び、改めて必修分野と位置づけられた(嫌でも回らないと いけません) 2004~2009年:必修科 2010~2019年:選択必修科(外科、小児科、産婦人科、精神科 から2科目を選択) 2020年~ :必修科(8週以上の推奨)
#8.
医師臨床研修指導ガイドライン2020年度版 における精神科研修の概要 • 必須4週間以上(推奨は8週間) • 病棟研修は非必修化 • 精神保健・医療を必要とする患者とその患者に対して、全人 的に対応するために、精神科専門外来ないしリエゾンチーム での研修が必修 • 推奨項目として すでに診断のついた慢性期の患者だけでなく、急性期入院患 者の診療経験(当科は高齢者・認知症中心) 発達障害等の児童思春期精神科領域の診療経験※ ※系統的講義でも可(当科でも一応可能。指導医は児童思春 期専門医ではない)
#9.
研修の目標 • 研修の一般目標(G.I.O) 精神疾患の正しい知識と診療の技術を学び、将来専攻する専 門診療領域においても精神疾患を有する患者への正しい対応 ができる • 研修の行動目標(S. B. O.) 精神神経疾患一般について、生物学的・心理学的・社会的な 複合的視点から診療に当たる
#10.
臨床研修における精神科研修の目的 • 精神科については、精神保健・医療を必要とする患者とその 家族に対して、全人的に対応するために、精神科専門外来 又は精神科リエゾンチームでの研修を含むこと。尚、急性期 入院患者の診療を行うことが望ましい(必須ではない) (医師臨床研修指導ガイドラインー2020年度版) ⇒精神科医側からすると、求められている学習ニーズが今一 はっきりしていない(少なくとも、統合失調症・うつ病など精神病 患者に対するモデルではない) 教育方略が立てにくい 10
#11.
臨床研修において経験すべき症候、疾病・病態 経験すべき 29の必須症候 ショック、体重減少・るいそう、発疹、黄疸、発熱、もの忘 れ、頭痛、めまい、意識障害・失神、けいれん発作、視力 障害・視野狭窄、胸痛、心停止、呼吸困難、吐血・喀血、 下血・血便、嘔気・嘔吐、腹痛、便通異常(下痢・便秘)、 熱傷・外傷、腰痛・背部痛、関節痛、運動麻痺・筋力低下、 排尿障害(尿失禁、排尿困難)、興奮・せん妄、抑うつ、成 長・発達の障害、妊娠・出産、終末期の症候 経験すべき 26の疾病・病態 脳血管障害、認知症、急性冠症候群、心不全、大動脈瘤、 高血圧症、肺がん、肺炎、急性上気道炎、気管支喘息、 COPD、急性胃腸炎、胃がん、消化性潰瘍、肝炎・肝硬変、 胆石症、大腸がん、腎盂腎炎、尿路結石、腎不全、高エ ネルギー外傷・骨折、糖尿病、脂質異常症、うつ病、統合 失調症、依存症(ニコチン・アルコール・薬物・病的賭博) ※赤字は精神科研修期間中に経験が「期待される
#12.
症候と疾病・病態 症候 もの忘れ 興奮・せん妄 抑うつ 成長・発達の障害 (意識障害) (けいれん発作) (体重減少・るいそう) これらの症候を呈する患者に対して、病 歴、身体所見、簡単な検査所見に基づ く臨床推論と、病態を考慮した初期対応 を的確に行うスキルを身につけることが 求められる 疾病 ・病態 認知症 うつ病 統合失調症 依存症(ニコチン・アル コール・薬物・病的賭 博) 症候からの臨床推論を含めて、これら の疾病・症候が疑われる患者に対して、 診療に当たり、病歴、身体所見、簡単な 検査所見に基づく臨床推論と、病態を 考慮した初期対応を的確に行うスキル を身につけることが求められる
#13.
頻度の高い精神科的症候・病態への対応 • 頻度の高い精神症状や精神科的症候・病態への対応という 精神医療のニーズを、精神科医療の能力を持った医療者(精 神科医、精神科看護師、PSW、精神科を専門としない医師、 プライマリーケアー医など)が満たすことが期待されている • 研修医を含む精神科以外の診療科医の医師が、精神疾患( 疑含む)への適切な対応(頻度の高い症候・病態について、 適切な臨床推論プロセスを経た基本的な診立て、鑑別診断 、初期対応・治療、精神科への紹介)が求められる • 逆に、最後の砦として紹介された精神科側での適切な対応( 自殺念慮・企図など緊急事態への即時的対応、適切な臨床 推論プロセスを経た適切な診断と診立て、役に立つ治療・介 入とフィードバック)が求められることになる 13
#14.
全研修期間を通じて経験すべき事項 • 必須(基本的な診療で必要な分野・領域等に関する研修) 感染対策(院内感染や性感染症等)、予防医療(予防接種等) 、虐待への対応、社会復帰支援、緩和ケア、アドバンス・ケア・ プランニング(ACP)、臨床病理検討会(CPC)など • 推奨項目(社会的要請の強い分野・領域等に関する研修) 診療領域・職種横断的なチーム(感染制御、緩和ケア、栄養 サポート、認知症ケア、退院支援等)の活動に参加すること や、児童・思春期精神科領域(発達障害等)、薬剤耐性菌、 ゲノム医療など ※赤字は精神科研修期間中に経験が期待される領域
#15.
精神科患者・精神科・精神科医 へのよくある疑問と不安 • おかしい患者と話ができるのか? • 精神医学はとっつきにくい • 精神症状をどのように把握するのか(客観的に評価できるの か?) • 精神科医によって診断がちがうのはなぜか(精神科の診断 に客観性はあるのか?)
#16.
初期研修医からよく聞かれるニーズ • 向精神薬の使い方を知りたい(睡眠薬や抗うつ薬、鎮静薬の 使い方、頓服の指示の出し方など) • せん妄の診療ができるようになりたい • 精神科にコンサルトするタイミングを判断できるようになりた い ⇒厚労省の到達目標と、研修医の現実のニーズとの間には、 若干の距離はあるが、大きくずれてはいないかもしれない
#17.
よくお会いする研修医の傾向 • • • • 大半は精神科志望でない人で、 緊急・孤独な状況でのコンサルトを強く意識し 自殺企図、不眠、せん妄とその対処にニーズが偏りがち 見える問題を消すことに終始し、患者の個別性に合わせて 全体像を理解することがおろそかになりがち ⇒ここら辺は、別に精神科分野だけでなく、まだ、経験が無いと 全体像を見るのは難しく、興味がなければ、余計な「手間」をか けずに「義務」をこなしたくなるのは当然です。しかし、せっかく 限られた人生の中の1ヶ月の中の一定期間を回るなら、何か気 づきなり知識なり得て、今後に生かしてほしいと、もう戻れない 時を生きてしまった私としては思います。
#18.
「場」としての精神科研修 医療全般に共通する心理的理解 精神疾患の理解 精神疾患をより 理解してもらう場 患者ー治療者関係 チーム医療 社会医学的視点 行動医学的視点 を学ぶ場 ※精神科医が、精神疾患は理解できても、メンタルヘルスを 理解できるとは限らない 18
#19.
【病棟】 • 面接技法を学び、診断に至る過程を学ぶ • 脳波や画像検査を判断、評価し、診断と治療効果との関連 について理解する • 抗精神病薬、抗うつ薬などの向精神薬の作用、副作用につ いて理解し使用できる • 個人精神療法および集団精神療法、家族面接に実際に参 加し、その方法論や技法を理解する • 作業療法に参加し、その意味と効果について理解する • mECTの適応とその効果について理解する • 多職種による医療チームにおける医師の役割について学び 、チーム医療を実践できる
#20.
【外来・リエゾン】 【外来】 • 新患の予診を行い必要な情報収集ができる • 診断に至る経緯、治療方針の決定方法を理解できる • 再診時の精神症状の評価、治療方針について意見を述べる ことができる 【コンサルテーション・リエゾン】 • 身体科入院患者の精神科的問題について理解する • 患者、家族、スタッフの心理的課題について理解する • 薬物療法の選択や心理的問題解決への対処法を理解する
#21.
精神科治療のサイクル 情報の追加・修正 アセスメント 評価・検証 面接・診察・観察 情報収集・整理 分析・統合 診断 定式化 仮説形成 個別性 実施 情報伝達 記録(未来) 共有(同時代) 計画の実行 追加情報 計画立案 治療・介入目標設定 達成期日 21
#22.
精神科医に必要な3つの能力(要素) スキルを どこの病院・組織でも 使用でき、通用する ポータブルスキルに 知識 知っている(Know) 精神医学 心理学 社会学 一般常識 情報 理論 教養 精神科医としての 態度・あり方 マナー 振る舞い 姿勢 やる気 ありたい と思う 態度 ノウハウ 構え 技術 テクニック 腕前 技能 スキル 精神科面接 精神療法 脳波判読 画像判読 できる (Do)
#23.
初期研修の勉強・指導総論 • 全てを学ぶことはできない(学びにかけられる時間は有限・ 人それぞれの基礎知力・体力と動機は異なる) • 現在、医学知識・情報は指数関数的に増えており、提供・獲 得された知識はすぐに劣化し、情報の海に溺れやすい • 汎用性の高い普遍的な知識にフォーカスして学ぶべきだろう (精神科医になることがほぼないローテーターに対して長期目 線で教育的であるかの視点) • 研修医と専攻医、指導医と立場の違いでの視点・面白さの 違いを意識して、身につけやすさや短期的有用性、研修医 の反応などを加味しつつ、適切な質と量を意識する
#24.
獲得すべき知識 • 経年劣化しない知識と賞味期限の来る知識の区別 • 初期研修での体験的学習、初期研修医への知識伝授の区 別が必要 • 学ぶ内容に優先順位を付ける際に、「知識の賞味期限」の考 慮が望ましい ⇒治療実務やカンファレンスでは、目の前の患者の問題解決 のため、その時代の治療総論に成らざる得ない。レクチャーや クルズズでの補助が必要と思われる
#25.
例えば内科なら • 意識すべき視点: generalな視点 • 学ぶべきテーマ: バイタルサインの異常へのアプローチ、症候学やcommonな 疾患の知識、病歴の取り方、身体所見のとり方、抗菌薬の使い 方、輸液、血液ガス、心電図、胸部レントゲンの読影などのテー マ • 養う場所 救急外来
#26.
初期研修に精神科を回る意義 厚生労働省の狙い ①将来、精神科医にならない場合にも必要な精神科領域の診療能力につ いて学ぶ ②精神科医のイメージを獲得する ある精神科医の私見 • 精神障害の医学的窓口は一般医(意外と割合が多い) • 精神障害に対する理解と偏見の除去(治療してれば大体OK) • 他の専門科医療でも遭遇する精神障害・症状の知識と鑑別、簡単な対 処(不穏興奮、せん妄、不眠、不安、自殺企図など)の獲得 • 向精神薬の知識と処方 • 全人的な人間の見立ての仕方、精神症状・社会機能の診察・評価能力 の獲得。
#27.
あくまで理想 • 目標 プライマリケアの向上と全人的医療を目指す • 一般目標 患者を生物・心理・社会・倫理的に捉える基本姿勢を身につけるために患 者のもつ問題を身体面のみならず精神面から理解する。以下の知識・技能・ 態度を身につける 基本的面接法を学ぶ 精神症状のとらえ方の基本を身につける 児童期から老年期の各ライフステージで見られる精神疾患に関する基本 的知識を身につける 精神症状に対する初期対応と治療の実際を学ぶ 一般科で対応が可能か、精神科医に紹介すべきかの判断力を身につける 自殺企図患者への基本的対応を学ぶ 簡単な精神療法の技法を学ぶ 心身相関についての理解を深める
#28.
知識・技能・態度を身につける研修機会 • 外来の新患の予診と陪審 面接の仕方、精神症状の評価、向精神薬の使用方法などを学ぶ • 精神科病棟での入院患者との面接 統合失調症・うつ病・認知症などの代表的精神疾患の症状と治療の基本 を学ぶ。指導医との同席面接、症状・治療方針の確認 • 他科病棟への往診や回診への併診医 他科入院患者に多い不眠・抑うつ・せん妄、精神疾患患者の入院支援など リエゾン症例について、面接の仕方、精神症状の評価や向精神薬の使用方 法などを学ぶ • クルズス 医療コミュニケーション、チーム医療(院内多職種、病診連携、病病連携な ど)、精神症候学、統合失調症、うつ病・気分障害、神経症、不眠症、神経症 、認知症、向精神薬の種類と使用法、精神療法、脳波と画像診断、精神保 健福祉法など
#29.
必須化した精神科ローテートで • 精神科医療は奥が深い(どの科も同じですが)ですが、身近 で精神科疾患の患者さんと関わっていた経験でもない限り、 興味を持つことは難しいかも知れない。 • 指導医として精神科医として、自分に時間や能力がもう少し あれば、自分の診療科の魅力を上手く伝えられるかもしれな いが、1ヶ月では、系統的な知識を身につけるのは現実的に は難しい。 • 新患の患者の予診→本診の陪席を通して、見たこと、聴いた こと、考えたこと、診断したことなど精神疾患患者との関わり 方、治療介入の選択などを実体験して、気づいたこと、考え たことなどを、指導医とディスカッションして欲しい
#30.
精神科研修で学べたら良いこと • • • • 患者への接し方を学ぶ 向精神薬のタイプをなんとなく理解 「調子が悪い人」のイメージを獲得 「緩やかな時の流れ」と緩急の必要性
#31.
研修医に是非学んで欲しいこと • 精神症状の捉え方 「症状」「状態像」「類型」の区別 「器質因」「内因」「心因」の区別 • 不眠の(初期)対応 睡眠衛生指導、せん妄を惹起しない不眠時指示 • せん妄の(初期)対応 術前/入院前のリスク評価 治療の根幹は身体疾患の治療 • 精神科コンサルトの使い方 抱えすぎも突き放し過ぎも問題
#32.
他にも • • • • ①自殺企図者や自殺念慮のある患者の対応について ②せん妄の対応について ③向精神薬の処方について ④精神科医へ相談するタイミングや内容など精神科コンサ ルテーションについて • ⑤患者・家族との接し方について • ⑥精神科での研修や学習法について
#33.
リアルな話として • 精神医療への理解と偏見の減少 • 進路先の診療科との関連をせん妄以外も意識化 緩和ケア・がん診療 向精神薬の副作用 ECT 治療への動機づけ 身体化 摂食障害 周産期 小児科 • 精神医療の実情の若干の認識 単科精神科病院(検査困難、身体医療の採用薬と設 備の限界) 地域の某病院/某先生の実情など
#34.
将来の志望科と関連づけて 将来の志望科 耳鼻科 心因性めまい 咽頭喉頭異常感症 腫瘍内科 サイコオンコロジー 泌尿器科・腎臓内科 サイコネフロロジー 救命救急 ICUせん妄 産婦人科 妊娠と向精神薬 周産期メンタルヘルス 循環器内科 心不全と緩和ケア 心疾患とメンタルヘルス 心療内科 心身相関 マインドフルネス 救命救急 カタトニアの診断と治療 形成外科 身体醜形障害 小児科 発達障害
#35.
目標設定ワークシート 項目 具体例 A.自分自身の 価値や強み B.キャリアとしての目標 C.臨床研修の目標 (3つ) D.自己評価 自信のあるスキル 自信のないスキル E.ローテーション での目標(3つずつ) G.指導医に頼みたいこと 不安や緊張が期待に変わる! 研修医1年目の教科書 [編集代表]長崎一哉 [編集]橋本恵太郎 一部改変
#36.
目標設定ワークシート 項目 具体例(1年目12月の精神科研修) A.自分自身の 価値や強み B.キャリアとして の目標 C.臨床研修の目標 (3つ) D.自己評価 自信のあるスキル 自信のないスキル E.ローテーション での目標(3つずつ) G.指導医に頼みたいこと 不安や緊張が期待に変わる! 研修医1年目の教科書 [編集代表]長崎一哉 [編集]橋本恵太郎 一部改変
#37.
非専門医がメンタルヘルス領域で 身につけておきたいこと • • • • • • • • • 医師-患者関係の特徴を認識し、最適化する面接技法 正常な心理社会的な成長・発達の理解 病気が患者・家族に起こす心理的影響の理解 ストレスとその対処法(呼吸法・筋弛緩法・イメージトレーニング)の指導 メンタルヘルス疾患・精神障害のスクリーニングと緊急事態の把握 メンタルヘルス疾患・精神障害の心理検査と診断 動機付け面接・認知行動療法の実施 精神薬理学的製剤の適切使用 家族・コミュニティリソース・他のメンタルヘルス専門家などの地域のリソ ースの活用 米国家庭医療学会カリキュラム・ガイドライン(抜粋)
#38.
38
#39.
ふと我に返り • 風呂敷を広げてきましたが、あまりやるとスライドが多すぎる かと思われ、いかにダイジェスト版をお送りします。それぞれ に、精神科医としての一定の視点や思考法(「型」)があり、 それをもとに精神科医は物事を見ていますが、気を付けない と型にとらわれずぎ、柔軟さをなくすことがあります。心理的 アプローチでも、精神分析的か、ロジャースか、認知行動療 法かで大分とらえ方が変わります。そこら辺はおいおい各論 でお話しできればと思います。 39
#40.
初期研修医覚書 0.マニュアルをゲット! 1.外来を効率よく学ぶ 2.入院を効率よく学ぶ 3.リエゾンを効率よく学ぶ 4.プレゼンを乗り切る 5.
#41.
0.マニュアルをゲット! NEW精神科研修ハンドブック 岸本 年史 著・編集 精神診療プラチナマニュアル 第2版 松崎朝樹 研修医のための精神科ハンドブック 日本精神神経学会医師臨床研修制 度に関する検討委員会
#42.
少し詳しいマニュアル 慶應大学精神科クルズス が元ネタ DMM-5-TR準拠 メンタルヘルス概念も抱合
#43.
「患者との接し方」から学ぶ医学と医療の基本 • • • • • • 医療の出発点を尋ねるー患者はどうしたいのか? 生活と人生を話題にするー病気は何故治すのか? 教えていただくー場の雰囲気を作る なかなかわからないーもう一歩踏み込んで共感する 明るい話はないか?ー病気は嫌な話題である 人を支援するー対人援助としての医療 研修医のための精神科ハンドブック
#44.
総合病院で「精神症状」を有する患者 • • • • 内因性精神障害患者 with/without 身体疾患 身体疾患を契機に発症した精神障害患者(緩和ケアなど) 外因性精神障害患者(症状性、薬剤性含) 精神障害を契機に発症した身体疾患患者(自傷など) • 何を誰がどの程度困って、患者の言動や起こした現象を「精 神症状」と考え、「精神科診察なり介入」が必要と感じている かは、状況や当事者の考え方などによることが多い • 上記の明確な判別は困難だが、一般病棟、救急外来などで 早急の対応・決断・他科との折衝(すり合わせ、落としどころ の模索)を迫られることが多い。
#45.
新患・再来・病棟の違い 外来新患 外来再来 病棟(精神科) 診療時間の制約 中(救急・新患多 数以外) 大 小(業務量多大・急 変以外) 検査リソース の制約 中 中 小(夜間・休日以外) 情報 事前情報小 リアルタイム で収集 事前情報中 リアルタイム 収集 事前情報大 (急変時・病歴不明 時別) 重症患者 状況次第 少ない 多い 要求される判断・ 対応速度 少しゆっくりでも 可 速い 大体ゆっくりでも可 ⇒(どこの科でもですが)効率的な病歴聴取・判断能力が必須スキル。入院は症 状コントロールが最優先で、「患者を治療・教育する力」、外来では社会生活に 戻れるようなサポートが必要で、「社会と患者をすり合わせる力」が求められる。 外来新患や病棟では、「面」を見れるが、外来再来は「点」で見ないといけない。
#46.
1.外来を効率良く学ぶ 初診診察(面接)は精神科エッセンスの凝縮 ⚫ 精神疾患(広くは人のこころ)は、基本的に相手(患者・クライ アント)の言葉や態度を通じてしか病態を把握・理解できない ⇒問診がとにかく命! ⚫ 採血、画像・心理検査は基本的に除外診断・状況把握目的 で、診断を直接決定するものではない ⚫ そもそも診断基準が変遷し、同時代に複数存在する。 精神科に来る(本人または家族の)決意に配慮 ⚫ 精神科に来ることはそれなりに覚悟が必要なこと ⇒患者・家族の訴えを真剣に聴く。
#47.
「臨床実践という動的構造」の私の認識論的図式 情報 価値観 家庭・職業状況 経済状況 (私には当初不明) 外部知識情報 (理論・エビデンスなど) 他者 (患者/クライエント) ※実際は家族他複数 能力・価値観 臨床判断 行動・治療計画 語り 支援者 (援助者としての私) 観察 情報 現象が生起する場所 としての意識 交流(面接) 援助者としての私やクライエントや、 その周囲の状況の全てを観察する 「視点」「視るものであった視られる 対象とはならないもの」 メタ認知 支援者 (視点としての私) 総合臨床心理学原論●サイエンスとアートの融合のために 斎藤清二 改変
#48.
精神科面接(診断・治療) • 新患、再来、入院治療など全ての基本の場であり、 患者医師関係の確立、病歴聴取、精神症状・社会 適応・家族関係・社会習慣の把握、診断、治療、社 会参加の支援、社会機能の評価など様々な役割を 持つ。 • 患者・家族から直接的に情報を得る一方、患者への 説明や指導を行う双方向の交流を行う場である。 • 患者の持つ全ての背景を知りたいと言う健全な好 奇心が大切である。
#49.
1.外来を効率良く学ぶ 病状・経過の把握 ⚫ 「主訴」から鑑別診断を考え、聞くべきポイントを押さえる(ア ドバイスを受けつつ) ⚫ 「主訴」の次は、面接という場の中で、問診と患者の観察を 通じ、「病状」を把握し、状態像を考え、診断を考える ⚫ 操作的診断基準(DSM-5かICD-10)は「症状」の数で診断が 決まる:古典的診断でも操作的診断でも「病名」は症候群に すぎない(こういう症状・状態像なら何病という申し合わせ) ⚫ 横断面(現症)、縦断面(時間)で問診を進めていくと情報が まとまる。診断名ではなく、診断に至る情報やプロセスが大 切(何故そう診断したのか?を語れなければならない)
#50.
1.外来を効率良く学ぶ 症状を知る ⚫ 現在の症状を丁寧に拾い上げ、それぞれ疾患由来か、人格 (心因)由来か、薬の副作用由来か、それ以外なのかを検討 (複数な場合も有り) 薬と治療を知る:薬の種類と薬効を知れば治療がぐっと身近に 診断名:(臨床においては)治療の枠組みを決定するもの 脳器質性精神疾患(外因性精神疾患の一部):脳に器質的な異常あり 認知症圏が中心 診断と社会的ケアが中心 薬物治療は補助的 内因性精神疾患: 統合失調症と双極性感情障害、単極性うつ病 薬物(治療の主役の薬を主剤と言う)が治療の中心、重症例はmECT 心因性精神疾患:いわゆる神経症圏 患者の考え方や性格が症状の原因 精神療法が中心 薬物治療は基本的に補助的
#51.
学びのある再来見学 • 診察医は、診察医自体が初診でない限り、一定の情報を持 った上で,診察している(初診時記載なども不明で、直近数回 の受診時カルテ記載と処方から、限られた時間・情報の中で 、疾患・状態像を想起して、「サバク」再来をしている事も多 々ありますが) • カルテ内容なしで、限られた現症で再来見学しても、余程意 識して観察しないと経験が少ない時は得るものも少ないと思 われ、なるべく説明をしてますが,個人情報および時間の制 約で限界があります。 • 不自然じゃない程度にマニュアルなど適宜見直しましょう。 • ずっと見学して辛い時は,適宜,自習をしてください(眠いとき とか)。
#52.
2.入院を効率良く学ぶ 精神科は原則外来治療 ⇒入院患者の入院理由、暫定病名、治療目標などを理解する Ex)統合失調症のA氏は、幻覚妄想状態で、幻聴に強く影響された興奮・粗 暴行為への家族対応困難で入院。抗精神病薬で陽性症状を抑制し疎通を 回復させ、退院・外来フォローが目標(80日以内に。3ヶ月位は再入院も防ぐ) 入院と外来の違い(当院は入院期間制限あり) ⚫ 精神症状、ADL、家族状況などで入院せざる得ない事情が あることを理解する(≒それを改善しないと退院できない) ⚫ 非典型的で診断・治療・マネジメントが難しいケースあり。 ⇒病状・病態の正確な把握・理解が重要。情報収集が大切。
#53.
精神疾患(精神障害)とは? ✓ 精神の正常な働きが障害された状態で、そのため に障害者自身が悩み、あるいは周囲の人々が悩 まされている状態。 ✓ 統合失調症、精神作用物質による急性中毒又は その依存症、知的障害、精神病質その他の精神 疾患(精神保健福祉法5条)
#54.
正常の変数に伴う精神疾患の分類 Ex)飲酒量1日10合、妻へ の暴力、窃盗、 文化・価値的 異常 Ex) IQ160やIQ40、 身長2m・体重200kg 代表的精神障害 知的障害、学習障害 統計・平均的 基準 代表的精神障害 アルコール症、依存症 疾病概念・個 体的異常 Ex)39度の熱、 SpO280% 代表的精神障害 統合失調症、うつ病 認知症 正常の3軸(変数・基準):価値的正常、統計的正常、個体的正常の使い分け、正常と異 常の区分点に注意。何個かの異常が合併することもある。
#55.
現実的には判断が難しい事も多い 文化・価値的基準 個人が帰属する国や地域 、組織など様々な単位にお ける社会的価値観に照らし 合わせ、異常かどうかを判 断する考え方 社会通念上、望ましい言 動か、逸脱言動か、と検討 • 平熱35度の人の37.5度 • 発揚者の双極性感情障害の 軽いうつ状態 • アルコール症でいつもは家族 への飲酒しての粗暴行為の ある人の希死念慮 • LGBT? 疾病概念・個体的基準 病気(illness)より医学的な概念の 疾病で、疫学、病因、病状、検査所 見、治療、経過・予後など医学的評 価で疾患を特定していく考え方 平均・統計的基準 ✓精神障害:平均や価値の基準から偏った精 社会的に多くの人がとる行動や能力を 平均として、そこからの逸脱を異常と判 神状態のために、著しい苦痛や機能障害をも たらし得る多様な症状群を包括する上位概念 断する考え方
#56.
精神疾患の現状 診断名 診断概念 診断法 治療法 F2・3 ほぼ確立 ほぼ確立 大体確立 F4/F5の一部 ほぼ確立 /F6/F7 大体確立 ある程度は確 立 F0/F1/F8/F9 大体確立 大体確立 ? F00-F09 F10-F19 F20-F29 F30-F39 F40-F48 F50-F59 F60-F69 F70-F79 F80-F89 F90-F98 症状性を含む器質性精神障害 精神作用物質の使用による精神および行動の障害 統合失調症、統合失調症型障害および妄想性障害 気分(感情)障害 神経症性障害,ストレス関連障害および身体表現性障害 生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群 成人のパーソナリティおよび行動の障害 精神遅滞 心理的発達の障害 小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害F99 特定不能の精神障害
#57.
治療計画 面接⇒生活・病歴聴取⇒症状評価・状態像把握 ⇒暫定診断⇒治療計画立案⇒効果判定⇒診断 ・診立て変更 • 暫定診断を確定診断に近づける • 診断に基づく標準的治療法の確認・検討 • 時間軸・多面的アプローチを考慮した治療計画の組 み立て 治療の必要性・有益性・適切性の検討。薬物療法・ 精神療法の選択、環境調節の段取りや必要な社会資 源の検討、薬物治療
#58.
診断へのロードマップ 患者との面接 情報提供者 採血・画像検査所見 心理検査 身体医学的記録 (一部改変) 個々のデータ 現病歴 精神疾患の既往歴 個人的・社会的背景 家族歴 身体症状 精神機能評価(MSE) 症候群B 症候群A 診断A・B・C 診断Aと定式化 追加病歴・検証・治療への反応 モリソン先生の精神科診断講座 レベルⅠ 全情報の収集 症候群C レベルⅡ 症候群の同定 レベルⅢ 広範囲の鑑別診断 更なる評価・治療の 暫定(作業)仮説の選択 レベルⅣ 診断と定式化 レベルⅤ 新規情報入手後の 再評価
#59.
情報分析とインテリジェンスの関係 (見積り分析):予測的分析 見積りインテリジェンス 未来予測 (将来の体系的な見積り) 未 知 ・~かもしれない(未来予測) ・~起こるかもしれない (動態分析):記述的・診断的・評価的 現状分析 既 知 (基礎分析) 動態インテリジェンス (現在起きている事象の分析) ・誰が、何が、いつ?(事実分析) ・どうなっているのか?(相関分析) ・何故か?(背景分析) ・どうなるのか?(予測分析)影響は?(影響分析) 基礎インテリジェンス(環境分析) (診断名、既往歴、生活歴、家族状況、性格などの全般把握) 過去 現在 未来 武器になる情報分析力 インテリジェンス実技マニュアル 上田篤盛 一部改
#60.
語りえぬものについては,沈黙せねばならない • 「語りうるもののみ語り,語りえぬものは沈黙のうちにそれを 引き受け,生きること」ができれば、それに越したことはない。 • 研究者か哲学者ならそれでいいが、しかし、臨床家である以 上、情報がそろわず、限られた時間の中で一定の判断や診 断をしなければならない(時にできなければならない)。 • 情報と自分の能力など色々な限界を踏まえて、その時点で、 ベターと思われる判断・診断・行動をして、適宜、修正してい く必要がある。
#61.
3.リエゾンを効率良く学ぶ せん妄・認知症・うつ病などの診断・介入、診断・加療中の精 神疾患患者の精神症状の管理などで他科の病棟に行きます。 他科には他科のルールが有り、また、いつも見てないので、そ の場の症状と、電子カルテの記載および当該病棟の医師やス タッフなど短時間で得られる限られた情報の中での妥当な判断 をしないといけません(推論や仮説も交えつつ)。 将来、頼む側に回る事を想像して、どうしたら、精神科医側に 自分の希望や思いを伝えられるか考えて下さい。人は前提や 立場が変わればなかなかわかり合えません。 ※DST回診で、短時間・限られた情報・現症のみでの見立て・ 暫定診断、情報収集方法の習得(診療録や病棟スタッフから)に 慣れましょう。
#62.
(将来の)精神科コンサル時 • 精神科紹介時の精神症状の記載などに悩むのは止めましょ う(時に、「精神症状の詳細のプレゼン」を要求する同業がい る事も確かですが。逆のことができるのか?) • 精神科的に、非精神科医の紹介状やコンサルに精神現症の 詳細や病名がなくてもさほど困りません。症状や現症、詳細 な病歴は自分が取るので(むしろ余計な主観的評価の方が 困る)、精神科に何を求めているかを明確に書いてください。 • 精神科受診歴・内服歴のある人はコンサル前に必ず前医か ら紹介状取り寄せを(精神症状急変時は仕方ありませんが、 本人から陳述が能力的・状況的に困難な事が多く、精神不 調時の詳細などが分からないと大変治療・介入に困るので) 。また、本人がダメなら、家族か誰か聞ける人か判断できる 人を同伴で(治療も入院も同意者が必要)。
#63.
コンサルされる精神科医が欲しい情報 ≓専門外の情報+正しい精神科的専門情報(できれば) • 依頼に至った簡単な経緯と依頼理由(困っている事) • 依頼側が精神科にして欲しい事・期待している事 • 過去診断・治療歴あるなら精神疾患の病名や経過 -精神科医療機関受診時は紹介状取り寄せ • 治療歴のある場合は治療経過と処方(効果・用量など) • 身体科的病歴の要点 -既往歴、処方、原疾患のコントロール状況 ※頼診当日にアリバイ目的の前医への紹介状要求はやめまし ょう。したところで、ろくな情報が来ません。私も再来をしながら の紹介状はゴミの様なのしか書けません(ご利用は計画的に)
#64.
病棟リエゾンにおける精神科医の思考 • 主に,元々の精神疾患のある人が入院している場合、入院 前の状態、入院後の変化(悪化など)、入院後に精神症状を 呈して,精神疾患と誰かに定義されそうな人の場合は,精神 症状の出現時期、関連しそうなイベント(手術や薬剤投与、 告知など)を確認の上、速効性かつ有効性のある介入(主に 薬剤調節も,時に検査や服薬調節依頼、身体拘束、他院転 院など)を模索していくことになる。 • ただ、身体科主治医も身体科病棟スタッフも、精神科病棟・ 精神科スタッフでないので,精神科病棟では、常識のように できる考え方や行動ができないこと(その逆もあるが)などに 注意をしている。 64
#65.
入院患者の精神症状と精神疾患の関係 ~頻度が高く、鑑別が難しい~ その「精神症状」「精神疾患」の 時間軸と他事象との因果関係に着目 せん妄 Delirium 認知症 Dementia 3D ADL低下 認知機能低下 睡眠障害 混乱・興奮 うつ病 Depression 睡眠障害
#66.
相互関係を言葉にすると • • • • • せん妄は、認知機能低下や睡眠障害を呈する事が多く、時に、幻錯覚、 妄想、不適切な言動(希死念慮や興奮)などを生じる事もある、入院時な いし入院中に生じる種々の原因で生じる意識障害である 睡眠障害・不眠症は、元々罹患している場合もあるが、原疾患そのもの や入院環境、痛み・かゆみなど身体的・精神的な様々なストレスで生じる こともある。一方で、ストレスと無関係な特異的な睡眠障害もある。 認知症は、高齢者での元々の罹患率が高く、記憶障害、失見当識などを 生じて、認知機能低下やADL低下を疾患そのものの進行で生じる。状況 認知の困難さ(時に不可能)に伴い、せん妄、不眠、不適切な言動(物盗ら れ妄想や帰宅要求、興奮など)を入院時や入院中に生じる うつ病は、元々罹患している場合もあるが、抑うつ気分、意欲低下、微小 妄想などを生じて、食欲低下、ADL低下、睡眠障害、活動性低下、認知 機能低下(仮性痴呆)などを生じる もちろん、入院中患者の精神症状と精神疾患は上記にとどまりません。
#67.
不眠の鑑別フロー 速やかな対応が必要 主観的・客観的不眠 せん妄 意識障害(睡眠・覚醒リズムの障害) 強い不安・焦燥感による不眠 睡眠を障害する身体症状(疼痛・掻痒感) 過覚醒による不眠 身体疾患に伴う不眠 便秘(膨満感・蠕動痛)、発熱・寝汗、頻尿(夜間の輸液) 薬剤性・医原性 うつ病 睡眠関連障害 誤った生活習慣 薬剤性の不眠 症状としての不眠 睡眠障害 精神衛生の問題 緩和ケアレジデントの鉄則
#68.
大きく外れのない睡眠薬処方の原則 • 処方前にしっかり診断(入院中の不眠は一定の確率でせん妄に伴う不眠な ので、超短時間型BZ系で悪化)。眠剤処方以外の道を探る。 • 可逆的(鎮静・筋弛緩)と非可逆的(転倒→骨折、依存)副作用と効果との兼ね 合いを検討・関係者に説明(頻尿+眠剤→トイレ歩行中の転倒・骨折) • 比較的安全な選択肢(特に高齢者・術後など): ベルソムラ20mg(高齢者は15mg:副作用は鎮静と悪夢)かデエビゴ2.5~5mg( 副作用はベルソムラと同じ)か、トラゾドン25~50mg(副作用は動悸、持続勃起な ど)の眠前か不眠時。ベルソムラとデエビゴの同時処方は切られるリスクあり 若く元気でせん妄なしなら、ゾルピデム5~10mgかブロチゾラム0.25mgでも可。 ※トリアザラムはせん妄リスク・相互作用、エチゾラムは筋弛緩でほぼ禁忌 ※ロゼレムは効果発現に数週間・健常者の時差ぼけ以外の効果は乏しいので 頓用には向かない(ほぼ効かない)。効果発現は数週間かかる ※せん妄に伴う不眠はクエチアピン少量(DMなしで)。興奮を伴うせん妄での不 眠はクエチアピンかリスペリドンかルーランで。翌朝の過鎮静に注意 ※元々、BZ系を飲んでいる人を新規睡眠薬に切り変えるのはなかなか大変
#69.
せん妄をはじめ、器質性精神疾患 のマネジメントの原則 • • 原則として、急性の器質性精神疾患の症状は、基礎疾患の治癒に伴い、 薬物療法など持続的治療を要さずに、改善・消失する。すなわち可逆性 であることが、一般の精神疾患(統合失調症、双極性障害)と大きく異な る。もちろん、終末期せん妄、慢性疾患(心不全、COPD、神経変性疾患) などでは基礎疾患の改善が現実的に期待できないことも多いが。 器質性精神疾患の代表格であるせん妄を通して、マネジメントの基本を 学ぶため、せん妄の要因(準備・直接・促進因子)をできうる限り特定し、 診療録に明記する。特に、直接因子については、ラボデータ、脳画像検 査などを確認して(見思考の場合はこれらの検査を実施して)検索し、薬 剤についても、せん妄発症に先立って開始・増量された医薬品の有無を 必ず確認し、さらに特定された直接因子への介入の可能性の有無を確 かめる。せん妄の直接因子にどこまで介入可能か否か(すなわち、せん 妄の治癒可能性はどの程度か)は、臨床経過の見直し、対症療法として の薬物療法の投与計画にとって重要である。 69
#70.
病棟で困った精神症状を見たときの考え方 精神・行動上の問題 (不穏、興奮、暴力、退院希望など) 元々の精神疾患・精神症状 あるときは注意 バイタル低下・身体的苦痛 あるときは注意 意識障害 なし ・バイタル低下・身体的苦痛の有無 SpO2低下、血圧の著明な低下 疼痛、かゆみ、しびれなど ・意識障害の有無 時、場所など見当識障害の有無 数唱、計算の正解 or 不正解 ・了解可能性 「点滴に毒を入れられた」 「家で夫の世話をしないといけないで帰りたい」 ※余裕があれば、いわゆる外因性精神障害の原因 検索(脳障害、薬剤性、電解質、ホルモンなど) あり 了解の可否は問わない せん妄 対応:静穏・鎮静化 了解 不能 可能 精神疾患の悪化 心理的反応 対応:静穏・鎮静化 (暴力は警察) 対応:言語的介入 (暴力は警察)
#71.
4.プレゼンを乗り切る ⚫ 診断名⇒過去⇒現在⇒未来の順 状況と時間に合わせて患者を語れるべき(1分と5分と15分で) 診断名:あくまで暫定・曖昧でOK(可能な限り曖昧さを排除) うつ病 過去:入院時の状態像、何故入院になったか 微少妄想を伴う強い抑うつ状態、自殺企図 現在:治療(薬なら主剤)、過去と比べ今はどうか 休養、リフレックス追加中 未来:今後治療をどうしていくか、何を目標とするか? 更なる増量。無効時はイフェクサー?
#72.
5.精神科研修で学んでほしいもの ➢ 対人援助職の基本スキル(傾聴・面接術・情報収集など) ➢ 精神症候学の基本と鑑別診断(MMSE) ➢ せん妄の簡単な診断法と治療法 ➢ 認知症の簡単な診断法と治療法 ➢ 睡眠障害の簡単な診断法と治療法 ➢ 一般的な精神科医のできる事の理解と相談の仕方 ➢ 将来進む予定の科と関わりそうな知識と経験 外科系ならせん妄、内科系なら認知症・うつ病・神経症・心身 症概念などは必須と思います。 緩和ケアとか周産期メンタルヘルス、思春期心性とかもでき れば?
#73.
話を聴くことの大切さ • 人間関係・信頼関係形成のための初歩的なスキル であると共に最終的なスキル • 対人専門職(教育、医療や福祉のスタッフ、サービス 業、カウンセラーなど)は傾聴スキルを持つことを期 待されている。 • 聴くことが、信頼関係の形成に重要な働きをする。
#74.
傾聴の機能 ➢ 自分が情報を得ること 相手の感情・思考・行動意図を理解しやすくなり、誤解が生じにくくなる。相 手の語りが全て事実とは限らないが、相手への推測や理解の手がかりにな る。 ➢ 相手に社会的報酬を与えること 傾聴は受け取る行為だけでなく、相手に安心感を与え、自尊心を満たし、 相手の存在を肯定して、「存在の肯定」「注目」「尊敬」「同情」などを与える行 為でもある。Ex)会話の無視や中断は、不安や否定、自尊心の傷つけにつな がり、聴くか聴かないかの賞罰で相手を制御できる。 ➢ 相手との関係を安定させること ある人を単に見るだけでも繰り返し見ると、相手に行為を感じ始める(ザイ アンスの単純接触仮説)。的確に話を聴くと、相手の情報が増え、相手は未 知から既知、熟知した人になる。言語・非言語の相手の話の理解だけでは 不十分で、相手の話への関心や話の理解を相手に伝えることも大切。 新版 人づきあいの技術 ソーシャルスキルの心理学 相川充
#75.
受容的に話を聴くこと ✓ 相手の話を途中で遮らない(助言、指図、非難、評価は後 回し) ✓ (相手の提示した)話題を変えない ✓ 道徳的判断や論理的非難を途中でしない ✓ 話し手の感情を否定しない(安易な元気づけなど) ✓ 時間の圧力をかけない(「手短に話して」) → 受容的に聴けない理由はともかく、受容的に聴けない人 こそ「とにかく最後まで聴こう」と自ら言い聞かせて、意識的に 受容的な構えを作る必要がある。 新版 人づきあいの技術 ソーシャルスキルの心理学 相川充
#76.
支援スキルが必要な場面 • • • • • • • • • • • 隣の男性が叫んでいて、怖くて夜も寝れません 近所の人が狙っているので殺される前に殺したい 望まない妊娠をして、死にたいです 癌かもしれないのですが、どうすればいいですか? 職場がブラック企業で上司がパワハラするので転職したい ちょっと束縛的な彼氏と、別れた方がいいかな? 夏休みあと1日だけど宿題してないんだけど・・ 職場の上司が嫌なやつで殺したい お酒やパチンコが止められません 私に似合う服はどれでしょう? 家を建てたいのですが、年収300万円です
#77.
傾聴は大事ですが • あくまで患者の語る語りはあくまで患者による 世界の見方でしかありません。 「両親には何をしても、いつも否定され、認めら れてきませんでした」
#78.
たとえば? 「先日、飛行機に乗っていたら不安に襲われました」 ①フライト中にエンジントラブル時に不安になった場合 ②順調なフライトであったが不安を生じた場合 ①は多数の乗客が体験しただろう「想定内」の現象 ②「想定外」の反応 クライアントの主観的現実(不安)が客観的事実(発生状況)で 変化する=現実理解に事実の認識を要する。 →「どういう状況で不安になったか、もう少し詳しく話して頂けま すか?」と明確化を図る。頻度・症状・発生場所など探索。探索 しすぎると共感や傾聴が不十分に。ラポール形成が難しく。
#79.
援助の現場に重要なコミュニケーション 信頼関係を作る 援助対象者と日々のコミュニ ケーションを積み重ねて、信 頼を得ることが最重要! 職場の人間関係を 良好にする 他の専門職と連携・協働する 際には、専門職同士の良好 なコミュニケーションも大事! 思いを援助につな げる 相手の考え、ニーズ、不安は しっかり傾聴することで得ら れることも多い 心をケアする 相手の気持ちに寄り添い、共 感することで、不安を緩和し たり、希望が生まれたりする などの効果がある 対人援助の現場で使える聴く・伝える・共感する技術便利帳 大谷佳子
#80.
多様かつ総合的な視点 • 多量飲酒を来している、ある若い既婚女性 精神力動的解釈:威圧的な夫がやはり過度の飲酒をしていた彼女の父に似ている 行動学的解釈:彼女は飲酒によって対人関係が引き起こす緊張を和らげ、救済が得 られると考えている 社会的解釈:彼女の友人も何人か飲酒する。彼女の周囲では飲酒が許容され、むし ろ症例すらされている 生物学的解釈:父から受け継いだアルコール乱用の遺伝的要因について考えるべき だ ⚫ 包括的評価で上記のそれぞれの視点の関与が明確化し、各 視点が治療計画の中に統合されていく。データの見落としに 注意する必要がある。 精神科初回面接 (James Morrison)
#81.
枠組みを変えて捉える4つの視点 横 断 的 経 時 的 虫の目 現場の実態(ミ クロ)を把握す る目 第一線の現場に行き、実態(生情報)を 把握する。 細かく見る目・現場の視点 三現主義:現場・現物・現実 鳥の目 全体(マクロ)を 目先の現実や利害にとらわれず、大局 俯瞰・判断する 的視点から自身のポジションを確認し、 目 優先課題を感じ取る目 蝙蝠の 目 別の側面を見 る目 魚の目 流れを感じ取る 流れやトレンドを捉え続けつつ、環境 (将来を予測・ 変化を把握する目。 展望し、決断す る)目 物事を反対から見たり、一般的見方に とらわれず、常識を疑い、固定観念を 取り払う。
#82.
メタ認知ループ 一段上から自分自身を見る能力 自分の思考を見つめるもう一つの自分 俯瞰、別の観点、一歩引く メタ認知 アウトプット コントロール (改善・調節) 状況に合わせて 認知や行動を修正 (目標設定、計画修正) 認知 知覚・情動・記憶・思考 認識 モニタリング (評価・点検) 作業中 自分の認知や行動 をチェック (気づき、感覚、予想、 点検、評価) 自然に行動し考える自分
#83.
診療の場における医師の4つの目(視座) ④ ③ 患者 ③‘ 医師 ② ① ①の目:医師が患者を見る目 ②の目:医師が自己の内面を見る目(メタ認知) ③の目:患者側の立場から、医師が自分自身を診る目(メタ認知) ③‘の目:患者が医師を見る目(医師が患者に取ってどのように移るか) ④の目:診療の場全体を見る眼(メタ認知) 新図説精神分析的面接入門 前田重治
#84.
こんな感じで • 精神科医も、他の科と同様、意識障害の{AIUEOTIPS」と同 様に様々な「型」があります。使っている精神科医もあまり意 識してないことが多いですが。それを知っているだけでも、大 分色々引き出しが増えると思われます。 • ただ、型を知っていても、現場で使えないと意味がないので、 そんな使える型を使っている姿を、研修医の先生に見せられ ているかと言うと、そうでもないので面はゆいですが。 84
#85.
ジョハリの窓 自 分 知っている 知 っ て い る 他 人 Open Window 開かれた窓 自分も知っており 他人も知っている 知らない フ ィ ー ド バ ッ ク Hidden Window 気づかない窓 自分は気付いていないが 他人は知っている 自己開示 知 ら な い Blind Window 隠された窓 自分には分かっているが 他人は知らない Dark Window 未知の窓 自分も他人も気付いていない 85
#86.
守破離 守 破 離 (型を守る) (型を破る) (型を離れる) なるべく多くの人 の話を聞き、決めら れた型(ガイドライ ン)や指導者の教え を守り、それを繰り 返して、基本を取得 する段階(真似る・ 学ぶ) 「守」で身につけ た基本をベースに しながら、“自分な りの工夫”をして、 徐々に基本を破り 、組み合わせ、発 展する段階 型や教えから離 れて、独創的なオ リジナルの個性を 発揮して、自分の スタイルを創り出 す段階 型を守って、囚われずに(患者の型に合わせる)
#87.
初期研修医に役立ちそうな参考文献
#88.
最後に • 最後は尻切れトンボに終わりました。ここ1年、自分も大病を 経験し、両親も病気になり、終わりある自分を大分意識する 事になりました。振り返って、自分は多くのことを先輩医師や 患者さんから学びましたが、自信が無く(その反対としての自 意識過剰で)、あまり人に伝えるという感じではなく、色々、ま とめておりました。 • ただ、このまま自分が持っていても、自分の死と共になくなる だけですので、稚拙ながらここで発表の機会を頂き、ご批判 を受け、適宜、亢進していきたいと思います。よろしくお願い いたします。今後、できれば、精神症状編、診断学、疾患各 論(せん妄、認知症、不眠、うつ病・うつ状態)、状態各論(自 殺念慮・自殺企図後など)を予定しています。 88