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慢性腎臓病(CKD)の生活指導と運動療法の重要性
#1. 慢性腎臓病(CKD)の生活指導 〜運動療法、飲水の考え方〜 長澤@腎臓内科 1
#2. 今回のTips ⮚ 慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)に安静は古い! → 急性期は別物として、「出来るだけ動く!」のが流れ ⮚ 飲水では腎機能を守れない → 低Na血症などの懸念が増える ⮚ 飲水制限は具体的に(体重ベースがお勧め) → 食事に結構水が入っていることを意識 2
#3. 腎疾患の生活指導ガイドライン ✔ 腎疾患患者の生活指導・食事療法に関するガイドライン(日腎会誌 1997;39:1-36) ✔ エビデンスに乏しく、エキスパートオピニオンの塊(善し悪しではなくそういう時代) ✔ この25年間に様々な知見が蓄積された 🞐 血圧の目標値 🞐 RAA系の有効性 🞐 腎疾患に対する運動療法 🞐 SGLT2阻害薬 低い身体活動性が生命予後を短縮するのは、基本的にはCKD患者でも一緒 3
腎臓学会の運動療法ガイドラインの変遷
#4. 腎臓学会のガイドラインの変遷 2009年 🞐 「CKD 診療ガイドライン 2009」 CKD 患者において運動疲労を起こさない程度の運動(5METs前後)が安定した CKD を悪化させる 根拠はなく、合併症の身体状況が許す限り、運動療法の定期的施行を推奨する 2013年 🞐 「CKD 診療ガイドライン 2013」 運動がCKDの発症/進展に影響を与えるかは明らかではない 2018年 「CKD 診療ガイドライン 2018」 「肥満・メタボリックシンドロームを伴う CKD 患者において、運動療法は推奨されるか?」 🞐 運動療法は、CKD 患者の減量および最高酸素摂取量の改善に有効であり、行うよう提案する 🞐 その適応および運動量は、それぞれの患者の臨床的背景を考慮して判断する 運動を制限するという文言はない! 4
#5. 腎臓病 → 運動制限の歴史的経緯(私見) ✔ 運動時に 腎血流↓ J Appl Physiol. 1970;28(6):748-52. 論文を読むと生理的な範囲 ※アスリートレベルだと心拍出量に対する腎血流の割合は減るが、虚血になるレベルではない ✔ 安静にすると クレアチニンクリアランス↑ Am j Physiol. 1926;78:185 論文を読むと生理的な範囲 ※例えるならばクレアチニンクリアランスが 80→90 になって臨床的な意義があるか?という話 ✔ 運動すると 尿タンパク↑ Am J Kidney Dis. 2004;44(2):257-63. ※確かに IgA 腎症で運動直後に尿タンパクは増える、ただし 2 時間でベースラインにもどるので心配はなさそう ※豆知識:入院させると2-3日で尿タンパクが減るが、これは食事による影響(病院食は偉大である) これらは大体、治療法などが確立していない時代の話 5
#6. じゃあ、運動療法!その前に 🞐 禁煙 を勧める → 喫煙者が急に運動療法開始するとトラブルが多い(私見) 🞐 運動療法の 禁忌 に注意(腎臓リハビリテーションガイドライン参照) → 血圧、血糖、肥満などをある程度コントロールしてから行う 🞐 冠動脈危険因子がある場合には循環器に相談している → 労作時の胸痛などは注意 🞐 整形的な問題も結構ある(腰痛、膝痛、足首痛) → 整形外科に相談しています 6
具体的な運動療法と注意点
#7. 具体的な運動療法 ✔ 軽い散歩のレベルでOK 週 150 分を目標に ✔ レジスタンス運動も組み合わせる → チューブや自重からでOK、慣れればウエイト ✔ この高齢者はバランス運動も! 転倒に注意 腎臓リハビリテーションガイドラインを参照して、 患者の体力に合わせて処方、そして漸増 7
#8. 気をつけた方が良いこと ▼こちらで解説 ✔ 栄養療法と併用が有効 ✔ 血糖降下薬 を飲んでいる人は注意 → もの凄く血糖状態が良くなる人がいます ※低血糖を起こしたりすることがあり 8
#9. Q&A:具体的にどう話してますか?① A. イオンの中を歩いて! ✔ 冷暖房完備、きれいなトイレもベンチもある、飲み物も買える! ✔ 万が一の時の AED & 目撃者がいる ✔ イオンのアプリでウォーキングでポイントが貯まる ※ COIはありません 9
#10. Q&A:具体的にどう話してますか?② A. 3階まで階段を使って! ✔ みんなジムに行きたがるが続かない → 通所リハビリは理想的だが、介護保険の範囲でできるのは限定的な印象 ✔ 2階ではなく3階くらいがキモ → 「1日1回から、荷物持っていないときに!」と話しています 10
栄養指導とフレイルの関係
#11. Q&A:楽しくできませんか? A. ゲームでもいいかも! ✔ Ring Fit Adventure などは運動量が増しそう、腰痛も減るらしい JMIR Serious Games. 2022 Mar 22;10(1):e35040. Int J Environ Res Public Health. 2020 Sep 15;17(18):6714 Games Health J. 2021 Jun;10(3):158-164. ✔ Pokémon GO もありかもしれない Lee JE, et al. Effects of Pokémon GO on Physical Activity and Psychological and Social Outcomes: A Systematic Review. J Clin Med. 2021 Apr 25;10(9):1860. ✔ 厳密には CKD 患者を対象に行われているわけではないので注意は必要だが、 提案としては十分ありかと思う 11
#12. Q&A:栄養指導って必要ですか? A. 足が細い人には必須! ✔ ふくらはぎを両手の人差しと親指で包んで、すき間があれば フレイル かも? → このときに浮腫も確認できて一石二鳥! 大腿で手が回ったりすき間がある人は間違いなくフレイルだろう?と思って、食事をもっと食べてもらう 🞐 しゃぶしゃぶがおすすめ 🞐 好きな果物1人前 + ロケルマⓇも喜ばれる ・鶏豚牛なんでもOK、魚なら鯛やブリなども美味しい! ・患者さんや家族の「ゆでこぼし」などの作業の重荷を外す ・タコも美味しいが歯がない人には難しい、 これをポン酢で頂く → 夏は冷しゃぶにしてもらう ・「魚は旬の刺身食べて」「刺身は泡醤油で」と話している → 1日1回のロケルマがいい様子 (※臨床的に作用時間が長い模様) ・値段が高いが食事に気を遣う分よりは安いと考えている 12
尿生成とCKDにおける水分管理
#13. 今回のTips ⮚ 慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)に安静は古い! → 急性期は別物として、「出来るだけ動く!」のが流れ ⮚ 飲水では腎機能を守れない → 低Na血症などの懸念が増える ⮚ 飲水制限は具体的に(体重ベースがお勧め) → 食事に結構水が入っていることを意識 13
#14. 今回は尿の生成に注目(再掲) 🞐 水・電解質の調整 🞐 老廃物の排泄 糸球体ろ過量(Glomerular Filtration Rate:GFR)に依存している 大事なポイント ✔ 尿量は GFR<5 を切る程度まであまり変わらない ✔ CKD(慢性腎臓病:Chronic Kidney Disease)では老廃物の排泄はG4あたりから低下していく ✔ 腎不全は「質の良い尿が作れない病態」と解釈する 14
#15. 尿が出なくなるのは最後の最後 ✔ 血液透析患者の中で、透析導入 2 年後に 90% が無尿になる程度 ✔ 質の高い尿が出せない事が問題 ✔ 水を沢山飲めば、老廃物を出せるというわけではない → 医療者でもここを誤解している人が多い(そのくらいで老廃物が出せるなら透析や腎臓内科は必要ない) ✔ 脱水は問題だが、溢水も同じくらいの問題 15
飲水励行の必要性とデメリット
#16. 飲水励行が必要な患者はこれだけ(私見) ⮚ 尿路結石の予防(2000 mL 以上/日)が推奨される患者 → 洗い流すには有用 ⮚ 症候性の膀胱炎 → こちらも洗い流すには有用だと思う(いつまで多めに飲むかという課題はあるにせよ) 膀胱炎の予防効果があるかは私は分かりません ⮚ 口渇を感じる事ができない尿崩症患者 → このような患者が意識障害で水が飲めなくなったとき、高Na血症で発見されることが多い 16
#17. CKDに対する飲水のエビデンス ✔ 飲水が腎機能保護に働くという 明確なデータはない → CKD G3で 約 1 〜 1.5 L 水を飲んだ 1 年の研究 The CKD WIT Randomized Clinical Trial JAMA. 2018;319(18):1870-1879 ✔ 多発嚢胞腎でも、飲水による進行抑制は 否定的 17
#18. 飲水励行のデメリット ✔ 「水飲むといいよ」の指導が、患者に正確に伝わらない → 5000 mL/日くらい飲む患者がいる(体格が小さいと水中毒になる人が実際にいる) ✔ 具合の悪い時にこの習慣を続けて 低Na血症 になる事がある → 脱水+3号液と同じ構図 具合が悪いと ADH が出やすいので、容易に低Na血症になる 抗利尿ホルモン Antidiuretic Hormone ✔ 真面目に水を飲む人もいれば、ジュースなどを飲む人 もいる → 水の代わりに色々な飲料を飲むことは多く経験する(特に健康をうたっている通販は要注意!) 18
具体的な飲水指導と体重管理
#19. 具体的な飲水の指導 ☑ のどが渇いたら飲んで → のどが渇く場合は生理的な事が多い。具体的には「チビチビとのむでいいですよ」と話す ※ 熱中症が起きそうな状況や、汗をだらだらかくような状況は別物 ☑暑い日などで 体重が減っていたら、二割多めに飲んでOK → ただし「カロリーなしのものを選んでくださいね」と申し添える ☑体重が増えていたら、二割少なめに飲んでね ☑ 「何 mL 飲んで」と指定すると、意地でも飲む人が結構いる → 不感蒸泄とか食事中の水分は分からないから、織り込み済みの体重で判断する方が楽 ☑具合の悪い時は「いつもの尿の回数と色になるように飲んで」 → 尿が濃いときは脱水の可能性があるから、体重と合わせて観察してもらう 19
#20. 今回のTips ⮚ 慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)に安静は古い! → 急性期は別物として、「出来るだけ動く!」のが流れ ⮚ 飲水では腎機能を守れない → 低Na血症などの懸念が増える ⮚ 飲水制限は具体的に(体重ベースがお勧め) → 食事に結構水が入っていることを意識 20
水分制限と塩分制限の重要性
#21. 浮腫むから水飲むな?は本当か? ✔ 水分は、人間の身体で真水で存在することはない → だから生理食塩水が存在する ✔ 心不全に 飲水制限 は? → ガイドラインには以下の記載がある 2017年 「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版」 🞐 心不全の発生機序のアドヒアランス不良(塩分制限、水分制限、服薬遵守ができない) <P.50> 🞐 軽症の慢性心不全では自由水の排泄は損なわれておらず 水分制限は不要 であるが、 口渇により過剰な水分摂取をしていることがあるので注意を要する 重症心不全で希釈性低Na血症をきたした場合には 水分制限が必要となる <P.115> 21
#22. 水分制限より塩分制限 ✔ 塩分摂取で血圧↑、その後 浮腫 がでてくる → 浮腫は細胞外液の増加 ✔ 塩分摂取自体が 代謝水を増やす Clin Invest 20171;127(5):1932-1944、J Clin Invest. 2017;127(5):1944-1959 塩分制限をきちんとすることが重要 22
#23. ベースの体重を決める ✔ ベースの体重 = 血圧が良くコントロールされている体重 → 浮腫や胸水などがないのは前提。いい体重を見極めにくいときは教育入院する ✔ 血圧手帳 と 食事手帳 をつけてもらう ・大体は ±2〜3% で動いているはず ・塩分が多くなると、体重がちょっと増えて、2〜3日で元に戻り、血圧も上がる → こういうことを実感してもらいつつ食事に気を付けてもらう ✔ 体重が ±3% を超えるとき は受診を早める → 1ヶ月毎の受診で±3%をこえるのは何かおかしい 増えているときは 食事の確認や利尿薬などの調整、脱水の時はRAA系降圧薬の一時中止などを考える ※ 具体的には82kgの患者だと、「85kg超えたり、79kg下回ったら1回連絡ください」と話して、 カルテに書いておくと患者もスタッフも楽 23
飲水指導の具体的な方法
#24. 具体的な飲水の指導(同じスライド) ☑のどが渇いたら飲んで → のどが渇く場合は生理的な事が多い。具体的には「チビチビとのむでいいですよ」と話す ※ 汗をだらだらかくような状況は別物 ☑暑い日などで 体重が減っていたら、二割多めに飲んでOK → ただし「カロリーなしのものを選んでくださいね」と申し添える ☑体重が増えていたら、二割少なめに飲んでね ☑ 「何 mL 飲んで」と指定すると、意地でも飲む人が結構いる 不感蒸泄とか食事中の水分は分からないから、織り込み済みの体重で判断する方が楽 ☑具合の悪い時は「いつもの尿の回数と色になるように飲んで」 → 尿が濃いときは脱水の可能性があるから、体重と合わせて観察してもらう 24