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悪性高熱症の概要と疑問点
#2. 悪性⾼熱症って 怖いイメージだけど どんな疾患︖ どんな症状で 疑うべき︖ こんな疑問に 答えます とりあえず すぐやるべき対処を 教えて欲しい 悪性症候群って 似てるけど 違う疾患かな︖
悪性高熱症の病態生理と誘発因子
#3. 悪性⾼熱症(MH)*1 • ⿇酔科医でも⼀⽣に⼀回出会うかどうかの稀な 疾患だが、対処しないと死亡率15%。 • 遺伝性の⾻格筋疾患で、誘発薬剤により発症。 • ⾻格筋細胞内の筋⼩胞体から、カルシウム (Ca)が異常に放出され、筋収縮が持続。 代謝異常亢進が起こり、体温上昇をきたす。 薬によるアレルギー反応ではありません︕ *1 Malignant hyperthermia
#4. 悪性⾼熱症の病態⽣理 • 素因者 ⾻格筋細胞内のCa貯蔵庫である筋⼩胞体から、細胞質内への Ca放出機構が異常に亢進している。 • 誘発薬剤 全ての揮発性吸⼊⿇酔薬。脱分極性筋弛緩薬。 これらの薬剤は、筋⼩胞体からのCa放出速度を亢進させる。 • 本態 筋⼩胞体からの放出速度が、筋⼩胞体への取り込み速度を超え てしまう。結果、細胞内のCa濃度が制御不能なほど⾼値となる。 • 代謝亢進 細胞内のCa濃度が異常に⾼いため、筋収縮が持続しつづけ、 ATP消費が増⼤する。これにより⼤量の熱が⽣産される。 鎮静薬や⿇薬は安全に使⽤できます
発症機構と治療薬の作用メカニズム
#5. 発症機構と治療薬の作⽤ *1:1型リアノジン受容体 *2:ホスホリパーゼA2 悪性⾼熱症患者の管理に関する 悪性⾼熱症患者の管理に関する ガイドライン2016より改変 ガイドライン2016より改変
#6. こんな症状があったら疑うべき • • • • 原因不明のEtCO2*1増加 頻脈 筋硬直 急激な体温上昇 あっという間にみるみる体温が上がります︕ *1 呼気終末⼆酸化炭素分圧
#7. Ca放出による筋収縮持続の結果 • 代謝異常亢進 → O2消費量増⼤、CO2産⽣亢進 • 組織は低O2状態 → 代謝性アシドーシス • 筋⾁の崩壊 → ⾎中のK、乳酸、ミオグロビン、CKなど⾼値 • ⾻格筋崩壊産物 → 腎障害 • 多臓器不全を発症 → 救命されても筋⾁や意識に障害が残ることも
直ちに行うべき処置とダントロレン投与
#8. 直ちに⾏うべき処置は︖ • 原因薬剤の中⽌ • とにかく⼈⼿を確保 • ダントロレンの投与 ダントロレンは直接Ca放出を抑える薬です
#9. 直ちに実施すべき項⽬ • 直ちに、起因薬剤である吸⼊⿇酔薬や⾮脱分極性の筋弛緩薬を中⽌し、 静脈⿇酔薬に変更する。 • できるだけたくさんの⼈⼿を確保する。 • 執⼑医に⼿術の早期終了、もしくは中⽌を呼びかける。 • 呼吸回路内の残存⿇酔薬を洗い流すため、⾼流量の純酸素(10L/min)を 使⽤して過換気にする。 やることが多く、急いで対処が必要なので⼈⼿をかき集めることが⼤切。
#10. ダントロレン投与 • ダントロレンは、直接Ca放出を抑制し、原因部位に作⽤する唯⼀の薬。 • できるだけ太い末梢⾎管を確保しておく。 • ダントロレンを溶解し投与を開始する。 少なくても1.0mg/kg、できれば2.0mg/kgを15分程度で投与する。 過換気に反応してEtCO2が低下し 、筋硬直が改善し、⼼拍数が低下 するまで適宜繰り返し投与する。 最⼤7.0mg/kgまで投与可能。 ダントロレンは溶解するのに⼿間がかかります。 たくさん使⽤する可能性があるので、薬局からバイアルを取り寄せよう。
悪性高熱症治療手順とガイドライン
#11. 図中の肩⽂字A,B,C,D,Eは、 別表の項⽬を参照 悪性⾼熱症 治療⼿順 悪性⾼熱症患者の管理に関する ガイドライン2016より改変
#12. 悪性⾼熱症患者の管理に関する ガイドライン2016より改変
悪性高熱症の重要ポイントと悪性症候群の違い
#13. Take Home Message 悪性高熱症は死亡率15%の遺伝性の骨格筋疾患で、 誘発薬剤により発症する。 原因不明の呼気終末二酸化炭素分圧の増加や頻脈、 筋硬直、急激な体温上昇を見かけたらすぐ気付こう。 原因薬剤を中止する。とにかく人手を確保する。 躊躇なくダントロレン投与をする。
#14. おまけ ちょっと似てる気がするけど 〜悪性症候群って何が違うの︖〜 1. 悪性症候群とは 精神神経⽤薬(主に抗精神病薬)により引き起こされる副作⽤で、 ⾼熱、発汗、意識障害、錐体外路症状、⾃律神経症状 (頻脈、⾎圧上昇など)、横紋筋融解症などの症状が⾒られる。 ほとんどが薬の投与後、減量後、あるいは中⽌後の1週間に発症する。 発症機序と病態は、⼗分に解明されていない。 2. 治療⽅法 ダントロレン投与が第⼀選択となる。 名前も症状も似ているし、治療薬も同じだけど、全く病態の違う別の疾患です︕
#15. 参考⽂献 • ⽇本⿇酔科学会 安全委員会 悪性⾼熱症WG作成 悪性⾼熱症患者の管理に関するガイドライン2016 ー安全な⿇酔管理のためにー 2016年8⽉ • 厚⽣労働省 重篤副作⽤疾患別対応マニュアル 悪性症候群 2008年4⽉