テキスト全文
超高齢者における大腿骨近位部骨折の治療法
#1. 超高齢・認知症患者における大腿骨近位部骨折保存治療の妥当性 ComFaMかしま病院
#2. 大腿骨近位部骨折の疫学 原因は圧倒的に転倒
大腿骨頚部/転子部骨折の年間発生数は2007年では約15万例
北欧・米国に比べると約半分と低く,南欧・東南アジアとほぼ同様
発生率は40歳から年齢とともに増加し,70歳を過ぎると急激に増加
高齢者での発生率は男性より女性が高い
2002年における全国調査の年齢群別発生率が変化しないと仮定すると,2020年には約25万人,2030年には約30万人,2042年には約32万人の大腿骨頚部/転子部骨折が発生すると推計(いわき医療圏では2035年以降は減少の予測)
大腿骨近位部骨折の危険因子と予防介入
#4. 危険因子 【Grade A】
骨密度の低下、脆弱性骨折の既往、喫煙は危険因子
【Grade B】
骨代謝マーカーの高値、血清ビタミンD低値、親の大腿骨頚部/転子部骨 折の既往、甲状腺機能亢進症、性腺機能低下症、胃切除術の既往、向精 神薬の使用、加齢、低体重は危険因子
【Grade C】
非常に低い血清エストラジオール値、血清ビタミンA濃度低値と 高値、糖 尿病、腎機能低下、膝痛、視力障害、多量のカフェイン摂取、未産は危険 因子
#5. 予防に有効な介入 【Grade A】
運動療法は転倒予防には有効(骨折予防については不明)
住環境改善・向精神薬漸減は転倒防止に有効
#6. 予防に有効な薬物治療 (高エビデンス)
ビタミンDはカルシウム併用で高齢者の大腿骨頚部/転子部骨折を減少(単独 使用や低用量は有効ではない)
エストロゲンは大腿骨頚部/転子部骨折を減少させる(全身的有害事象が多)
アレンドロネートとリセドロネートは大腿骨頚部/転子部骨折を減少(但し70歳代ま での骨粗鬆症の女性のみ)
(中エビデンス)
ビタミンKはアルツハイマー病、パーキンソン病などの合併患者が多くを占める高 齢者集団において大腿骨頚部/転子骨折を減少
カルシウムはビタミンD併用で高齢者の 大腿骨頚部/転子部骨折を減少(高用量 の単独投与によりむしろ骨折リスクが上昇するというエビデンスもある)
大腿骨転子部・頚部骨折のタイプと治療エビデンス
#9. 大腿骨転子部骨折の治療エビデンス 転位型の大腿骨転子部骨折における手術治療は、合併症・死亡率・癒合不全において保存治療と差がない
保存治療では患者のADLが低下する
手術療法を行うことで変形なく治癒する可能性が高く、入院期間が短く、在宅復帰率が高い
手術治療は材料費/手技料等の医療費が高くなるが、保存治療における入院期間の長期化や活動性低下に伴う介護費用分の増加などで相殺される
#10. 大腿骨頚部骨折の治療エビデンス 早期手術(24時間~72時間以内)が有効であるという報告が多い
早期手術が有効とする報告は、早期手術のほうが合併症が少なく、生存率が高く、入院期間が短いことをあげている
しかし信頼できるRCTがないため,エビデンスレベルは低い
非転位型骨折に対して保存的治療を行い、14〜62%に偽関節を生じたとする低いレベルのエビデンスがある
非転位型骨折に対して外科的治療を行い、85〜100%に骨癒合が得られるとする低いレベルのエビデンスがある
受傷後の機能回復と生命予後に関する因子
#11. 受傷後の機能回復予測 受傷後適切な手術を行い、適切な後療法を行っても、すべての症例が受傷前の日常活動レベルに復帰できるわけではない
歩行能力回復には受傷前の歩行能力と年齢が大きく影響する
術前の生活が自立していたものは自宅退院が可能なものが多い
年齢が高いと歩行能力が落ちるものが多い
骨折型は不安定型が予後不良
筋力、認知症が機能予後に影響する
#12. 生命予後 大腿骨頚部/転子部骨折後の死亡率
術後3ヵ月では5.1〜26%
術後6ヵ月では12〜40%
術後1年では9.8〜35%
日本の報告では1年での死亡率は9.8〜10.8%
#13. 予後規定因子 生命予後を悪化させる因子
*高齢 *長期入院 *受傷前の移動能力が低い
*認知症 *男性 *心疾患の既往
*BMI低値(18kg/㎡未満) *骨折の既往
*術後車椅子または寝たきりレベル
(術前の生活が自立していたものは死亡率が低い)
高齢者の大腿骨近位部骨折における手術治療の効果
#14. 【背景】 高齢化社会を迎え、外傷に伴う高齢者の救急搬送数が増加している
高齢者の運動器疾患においては、腰椎圧迫骨折や大腿骨近位部骨折が多く認められ、長期の入院期間を要する症例が多い
大腿骨近位部骨折においては、急性期に手術整復が行われることが標準治療となっているが、要介護高齢者の多くは、受傷前より歩行が不可能な症例も多く、手術治療が選択されない症例も散見される
#15. ① 大腿骨近位部骨折手術治療エビデンス 手術治療は、合併症が少なく、生存率が高く、ADLが改善し、入院期間が短くなる
手術治療は医療費が高くなるが、保存治療における入院期間の長期化や活動性低下に伴う介護費用分の増加などで相殺される
#16. ② 受傷後の機能回復予測 筋力、認知症が機能予後に影響する
歩行能力回復には受傷前の歩行能力と年齢が影響する
術前の生活が自立していたものは自宅退院が可能なものが多い
年齢が高いと歩行能力が落ちるものが多い
高次機能救急病院と地域医療の役割
#17. ③ 生命予後 大腿骨頚部/転子部骨折後の死亡率
術後3ヵ月では5.1〜26%
術後6ヵ月では12〜40%
術後1年では9.8〜35%
日本の報告では1年での死亡率は9.8〜10.8%
#18. ④ 予後規定因子 生命予後を悪化させる因子
*高齢 *長期入院 *受傷前の移動能力が低い
*認知症 *男性 *心疾患の既往
*BMI低値(18kg/㎡未満) *骨折の既往
*術後車椅子または寝たきりレベル
(術前の生活が自立していたものは死亡率が低い)
#19. 高次機能救急病院(三次救急) 地域中核病院
(二次救急) 地域一般病院(二次救急) 一般救急
医療度高 一般救急
医療度高 施設や在宅患者の救急
+一般救急(介護度高) 地域住民 住民や患者は、都道府県が公表する情報等をもとに各医療機関の機能を適切に理解しつつ利用 亜急性期・回復期として紹介 亜急性期・回復期として紹介 広 域 急 性 期 病 院 地 域 多 機 能 病 院 病院で起こっていること(起こること)
大腿骨近位部骨折の保存治療選択基準
#20. 標準治療群での協働スキーム 総合医 Post Intensive Care Syndrome (PICS) 予防
フロア・マネージメント
全身管理
入退院調整 臓器専門医 専門的管理 総合医
#21. 保存治療群での協働スキーム ・サブ・アキュート症例
高齢者腰椎圧迫骨折
高齢者大腿骨近位部骨折
誤嚥性肺炎
慢性心不全急性増悪 など 臓器専門医でかつ
セカンド・キャリア総合医 専門的管理 総合医チーム 治療のアドバイス
診療への参加 実質的管理 ・ポスト・アキュート症例
#22. 大腿骨近位部骨折保存治療選択の基準(案) 【大項目】
中等度以上の認知症の併存(手術に関する説明と同意が難しい)
発症前ADLが車椅子レベル以下
【小項目】
不安定な心疾患の疑い(Revised Cardiac Risk Index≥3点)
要介護3以上
サルコペニア(BMI<18kg/m2) 大項目2つまたは、大項目1つかつ小項目2つ以上で相談
大腿骨近位部骨折の研究目的と対象
#23. Revised Cardiac Risk Index
#24. 【研究目的】 大腿骨近位部骨折を受傷した介護保険利用傷病者を対象とし、受傷時の背景、治療方法、転機に関する評価を行い、急性期標準治療から逸脱した症例の背景を分析した
標準治療と比較して、非専門医による保存治療の機能的予後や転帰を評価した
#25. 【対象と方法】 【対象】 2014年~2019年の6年間に大腿骨近位部骨折で当院に入院された連続393症例中(術後転院も含む)、受傷前より介護保険を利用されていた241例
【調査項目】 受傷前ADL/介護度、手術の有無、合併症(認知症、心疾患)の有無、入院期間、最終ADL/転帰
大腿骨近位部骨折の背景と治療結果
#27. 年齢;歳 84±7
性別;男:女 56:185
大腿骨近位部骨折部位 頚部;n(%) 118(49.0)
転子部;n(%) 113(46.9)
その他;n(%) 10(4.1)
併存疾患 認知症;n(%) 131(54.1)
心疾患;n(%) 79(32.8)
7剤以上の内服薬あり;n(%) 109(45.2)
介護環境 介護者あり;n(%) 92(38.2)
施設入居;n(%) 33(13.7)
老々介護;n(%) 44(18.3)
日中一人;n(%) 39(16.2)
独居;n(%) 33(13.7) Table 1 対象症例背景(n=251)
#29. A. 退院時ADL B. 転帰 Fig. 2 全症例の退院時ADLと転帰
#30. 手術治療例 保存治療例 p値
(n=162) (n=79)
年齢;歳 84±8 86±7 0.090
性別;男:女 34:128 22:57 0.237
受傷前介護度
要支援1-2:要介護1-5 28:134 5:74 0.020
認知症あり;人(%) 78(48) 53(67) 0.006
心疾患あり;人(%) 55(34) 24(30) 0.579
多剤服用あり;人(%) 76(47) 33(42) 0.453 Table 2 手術治療例対保存治療例の背景
大腿骨近位部骨折の予後と治療の考察
#31. B. 保存症例 A. 手術症例 Fig. 3 受傷前ADL p < 0.01 vs 手術症例 *
#32. B. 保存症例 A. 手術症例 Fig. 4 退院時ADL * * p < 0.05 vs 手術症例 * * *
#33. B. 保存症例 A. 手術症例 Fig. 5 転帰 * * p < 0.05 vs 手術症例 * * *
#34. 全体 手術治療例 保存治療例 p値
(n=241) (n=162) (n=79)
平均在院日数(日) 83±48 89±31 72±7 <0.001
在宅復帰率(%) 78 91 64 <0.001
死亡率(%) 11 8 16 0.048
p値:手術治療例対保存治療例 Table 3 手術治療例対保存治療例の予後指標
#35. Fig. 6 保存療法比率の年次推移 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 (%)
#36. Fig. 7 死亡率の年次推移 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 (%) (2/2) (5/8) (1/3) (1/6) (1/3) (3/4) (保存療法死亡数/全死亡数)
#37. 【まとめ】 本調査で得られた知見 大腿骨近位部骨折を受傷した介護保険利用傷病者において
保存治療が選択された背景には、認知症の存在や、受傷前ADLの低下(介護必要度が高いこと)が関与している可能性が高い
手術治療は、死亡率が低く、機能的転帰も改善するが、入院期間は有意に延長する
#38. 【考察】 標準治療から逸脱した大腿骨近位部骨折要介護傷病者を、整形外科専門医との協働の下、非専門医(病院総合医)による保存治療を行っている
対象となる症例数は年々増加傾向にある
予後・転帰の違いはSelection biasである可能性が高いが、症例数が増加しても、保存治療による明らかな死亡症例の増加は確認されていない
病院総合医による包括管理は、① PICS予防において有利である可能性がある ② 早期に生活予後の判定がなされ、至適介護環境調整が行われていることが、在院期間短縮に関与している可能性がある
#39. 【結語】 発症前より認知機能障害を合併する要介護傷病者における、大腿骨近位部骨折保存治療の妥当性を評価する必要がある