#4.
②疾患分類アルゴリズム(小分類) 液疱病変 紅色病変 内容液は透明? このように分けてから,各分類に属する 疾患で鑑別していくのがおすすめ 水疱性疾患 膿疱性疾患 Yes No 隆起している? Yes Yes 表面はザラザラ? No 圧迫で消える? No Yes No 非紅色病変 髪・爪病変 皮膚色(常色) 黒褐色 白色 黄色 紅色丘疹・結節 鱗屑性紅斑 非鱗屑性紅斑 紫斑 常色病変 黒褐色病変 白色病変 黄色病変
#5.
02 紅色病変の分類 皮膚炎症が赤かった場合の鑑別診断を考える!
#6.
平坦だった! 紅色病変の分類 ①隆起している? 紅色病変 Yes 隆起している? Yes 表面はザラザラ? No 圧迫で消える? No Yes No 紅色病変の分類法は病態に深くかかわっている。 紅色病変はまず皮疹が隆起しているか,それとも平坦 なのかを確認する。 皮疹がはっきりと隆起している場合は紅色丘疹・結節 のグループに分類する。 ただし,浮腫や角質の肥厚によるごくわずかな隆起は 平坦な病変と判断しよう。 紅色丘疹・結節 鱗屑性紅斑 非鱗屑性紅斑 紫斑
#7.
表面がツルツル! 紅色病変の分類 ②表面はザラザラ? 紅色病変 隆起している? Yes Yes 表面はザラザラ? No 圧迫で消える? No Yes No 平坦な病変は表面の性状に注目しよう。 皮疹の表面が薄く剥がれてザラザラしている場合は鱗 屑性紅斑である。皮膚の表面が剥がれて白く浮いてい る状態のことを鱗屑とよぶ。 鱗屑がない表面がツルツルした紅斑が非鱗屑性紅斑で ある。 紅色丘疹・結節 鱗屑性紅斑 非鱗屑性紅斑 紫斑
#8.
紅色病変の分類 ③圧迫で消える? 紅色病変 隆起している? Yes Yes 表面はザラザラ? No 圧迫で消える? No 表面がツルツルした皮疹は,紅斑(非 鱗屑性紅斑)と紫斑の鑑別を行う。 皮膚の中で出血が起こった場合,肉眼で 組織内の赤血球を確認することができ る(=紫斑) 。紫斑は必ずしも紫色とい うわけではない。 表皮に近い浅い出血は赤みが強く,深 いものは紫色になる。 Yes No 紅色丘疹・結節 鱗屑性紅斑 非鱗屑性紅斑 紫斑 赤みが強い紫斑で,紅斑と見た目では区別が難しい場合 は,圧迫(硝子圧法)で鑑別する。 圧迫して消えるものが紅斑,消えないものが紫斑。 紅斑の赤みは血流の増加によって起こるため,圧迫する と血管がつぶれて色調が消える。 紫斑の赤みは出血によるものなので圧迫では消えない。
#9.
紅色丘疹・結節の鑑別診断 結節だった! 考えられる疾患 紅色丘疹 〜 以下 5 10mm 紅色結節 〜 以上 5 10mm 隆起した皮疹だった場合 帯状疱疹(初期病変) 虫刺症 ⽑包炎・尋常性ざ瘡 ⽼人性⾎管腫 疥癬 粉瘤(炎症性粉瘤) 膿瘍 ⽑細⾎管拡張性⾁芽腫 汗孔腫 有棘細胞癌 頻度・危険度 紅色結節をみたら,まず炎症性粉瘤と膿瘍を考える。 これらの疾患は視診と触診から比較的容易に診断でき るが,難しい場合は画像検査を参考にするとよい。 次に,良性腫瘍(血管拡張性肉芽腫,汗孔腫など)と 悪性腫瘍(有棘細胞癌など)の鑑別を行う。視診で区 別するのは難しく,皮膚生検で診断を確定する。
#10.
03 膿瘍の特徴 切開排膿だけでは治らない膿瘍に注意!
#11.
膿瘍の見た目と特徴 初期対応 皮膚科紹介 視診と触診(+画像検査)で診断 切開して膿を確認 診断に迷う場合,切開ができない場合
#12.
膿瘍の診断 視診 検査 病歴 その他 C B - B A ⽪疹:紅色結節 部位:なし 画像検査(超音波,CT) なし 触診で柔らかく,波動を触れる ⾁眼で膿を確認(穿刺,切開) A:確定診断 B:推定診断 C:参考所見 紅色結節をみたら膿瘍を疑う。触診で柔らかく,波動を触れるのが特徴。 穿刺や切開を行い肉眼で膿を確認できれば診断が確定する。 超音波やCT などの画像検査も有用。
#13.
膿瘍の治療例 ・切開排膿 ・セファレキシン(ケフレックス®)カプセル(250mg) : 1 回 1~2錠,1日4回内服,7日間 切開排膿を行い,抗菌薬を投与する。
#14.
04 膿瘍の疾患基本データ
#15.
膿瘍の疾患情報 膿瘍は化膿性炎症によって組織が破壊され,その空間に膿が貯留した状態。 皮膚や皮下の膿瘍では,炎症を反映して表面の皮膚に発赤を認めることが多 い。 膿の貯留が顕著になると,表面を押したり離したりすることで内部の液体が 波打つように触れるようになる(波動を触れる) 。 一般的に局所の細菌感染症が原因となり,癤(せつ:毛包の細菌感染症)や 蜂窩織炎が進行して膿瘍が形成される。 感染症以外にも,炎症性粉瘤が進行して膿瘍が生じる場合もある。
#16.
05 膿瘍の診断攻略
#17.
Q1. 視診だけで判断できますか? A1. 診断がはっきりしない場合は穿刺吸引で膿の存在を確認する。 膿瘍の診断は一般的に視診と触診によって行われる。 しかし臨床的に診断がはっきりしない場合は,膿の存在を肉眼で確認する必 要がある。 膿を確認する方法として,まず切開よりも侵襲の少ない穿刺吸引を行う場合が 多い。18 ゲージの針と10mL 以上の注射器を用いて膿を吸引する。 ただし深在性の血管腫や動静脈瘻などと診断を間違えると,出血などの予期 せぬトラブルに見舞われる可能性がある。場合によっては,穿刺を行う前に超 音波やCT などの画像検査を行うのが望ましいだろう。
#18.
Q2. 炎症性粉瘤との鑑別法は? A2. 視診と病歴から鑑別。わからなければ切開時に嚢腫壁と角質を確認。 炎症性粉瘤の炎症が進行すると膿瘍を形成し,細菌感染症との鑑別が必要に なる。中央部に皮膚開口部(ヘソ)を認めれば鑑別は容易だが,そうでない と外観のみでの鑑別は難しい。 その場合,炎症をきたす前から病変があったかどうかの病歴を確認しよう。 以前から存在する結節に炎症が生じた場合は,炎症性粉瘤の可能性が高い。 粉瘤に超音波検査を行うと,嚢腫壁に超音波が当た り,無エコー帯(側方陰影)が観察される。ただし, 炎症で嚢腫壁が完全に破壊されると側方陰影は消失す るので,診断が難しくなる。 わからなければ切開を行い,内部の嚢腫壁,角質の存 在を確認することで粉瘤の診断を確定するしかない。 炎症性粉瘤の発症機序
#19.
Q3. 注意が必要な鑑別疾患はありますか? A3. 切開排膿では治癒しない疾患に注意。 皮膚や皮下に膿瘍を生じるもののなかには,切開排膿では治癒しない特殊な 局所疾患がある。想起できないと診断が難しく,その存在を知らないと対応 を誤ることになる。発症部位に特徴があるため,これらの場所の膿瘍には注 意しておきたい。 次で詳しく解説
#20.
Q3. 注意が必要な鑑別疾患はありますか? ①涙嚢炎 涙嚢から鼻へと続く鼻涙管が閉塞し,涙嚢に貯留した分泌物に感染を起こし て発症する。鼻涙管閉塞に対する処置(涙嚢鼻吻合術)を眼科に依頼する。 ②外歯瘻 歯根部に起因する炎症が顔面皮膚との間に交通路を作り, 皮膚表面に瘻孔を形成したもの。まず歯科治療を行う必要 がある。顔面の膿瘍は口腔内と連続している可能性を念頭 におき,歯科治療歴を確認することが重要。 ③耳瘻孔 耳介の発生異常で耳前部に生じる瘻孔。感染すると瘻孔から やや離れた位置に膿瘍を形成する。根治には瘻孔の上皮管を 全摘出する必要がある。
#21.
Q3. 注意が必要な鑑別疾患はありますか? ④尿膜管遺残 胎児のときに膀胱と母体をつないでいた管(尿膜管)が,生後も閉じずに残 っている状態。感染を起こすと臍部に膿瘍を形成することがある。 根治には臍から膀胱に至る尿膜管遺残組織を腹腔鏡を用いて完全に切除する 必要がある。 ⑤滑液包炎 関節の周囲にある少量の滑膜を含んだ袋(滑液包) が炎症を起こし,発赤,腫脹が生じて疼痛を伴う。 細菌感染や外傷,慢性の刺激などが原因で生じる。 皮膚の膿瘍のようにみえるが整形外科に紹介するの が望ましい。
#22.
Q3. 注意が必要な鑑別疾患はありますか? ⑥毛巣洞 臀裂部の毛が皮膚に突き刺さり瘻孔を形成したもの。腰部付近の膿瘍を主訴 に受診するが,臀裂に開口する瘻孔が皮下でつながっている。根治には病巣全 体を摘出する必要がある。 ⑦肛門周囲膿瘍(痔瘻) 肛門歯状線に存在する肛門小窩に細菌が侵入する と,肛門周囲に皮下膿瘍を形成する。この膿瘍が皮 膚に開口すると痔瘻になる。切開処置にあたって括 約筋損傷に注意が必要なので,外科に紹介するのが 望ましい。
#23.
06 膿瘍の治療攻略
#24.
Q1. 穿刺吸引で治療できませんか? A1. 穿刺吸引は,侵襲は小さいが治癒率が低い。 穿刺吸引は診断のために行うほかに,治療の1 つとして排膿目的で行う場合が ある。切開は皮膚に傷をつけることになり,その後の創処置が必要になってし まうが,穿刺は侵襲が少なく処置が必要ないことが長所である。 忙しい外来では穿刺吸引で治療したくなってしまうが,穿刺による膿瘍の治癒 率は切開排膿と比べて低いことにも注意が必要である。もし穿刺吸引を試みて 最初はうまくいったとしても,後に切開が必要になる可能性があることは意識 しておきたい。 穿刺吸引 切開排膿 治療率 26% 80% 両群間の差(95%CI) :54(35-69)% 穿刺吸引と切開排膿治癒率の比較 Gaspari RJ, Resop D, Mendoza M, et al. A randomized controlled trial of incision and drainage versus ultrasonographically guided needle aspiration for skin abscesses and the effect of methicillin-resistant Staphylococcus aureus. Ann Emerg Med 2011;57:483–91.(PMID) 21239082
#25.
Q2. 切開排膿の方法は? A2. 皮膚が最も菲薄化している部位を切開する。 膿を圧出した後は洗浄を行い,ドレナージ用のガーゼを詰める。 切開は皮膚が最も菲薄化している部位を選ぶ。まずは最小限の短めの切開を行 い,膿瘍の範囲が広ければ切開線を延長するとよいだろう。 貯留していた膿を圧出した後は,内部の膿がなくなるまで生理食塩水で洗浄を 行い,ドレナージ用のガーゼを詰める(ガーゼパッキング) 。 術後は膿汚染がなくなるまで毎日ガーゼの交換を行う。 著者 Points ただし5cm 以下の膿瘍では, ガーゼパッキングを行わなくても治癒率に有意差はないというデータが ある1)。著者は基本的にガーゼパッキングを行うようにしているが,小さな膿瘍に対してガーゼを詰め るかどうかは意見が分かれているようだ。 1)O'Malley GF, Dominici P, Giraldo P, et al. Routine packing of simple cutaneous abscesses is painful and probably unnecessary. Acad Emerg Med 2009;16:470–3.(PMID)19388915
#26.
Q3. 抗菌薬は必要ですか? A3. 不要という記載もあるが,意見が分かれる。 蜂窩織炎の合併がない膿瘍は,切開排膿だけで85% が治癒するとされる 。 2) 抗菌薬使用の有無で治癒率に有意差がないという研究もあり ,米国感染症学 会(IDSA)のガイドライン3)には,基本的に(発熱などの全身症状を伴う場合 を除いて)抗菌薬は不要と記載されている。 しかし2cm 以上の膿瘍では抗菌薬を投与したほうが治癒率が有意に高いという 4) 研究もあり ,意見が分かれている。 抗菌薬が必要な膿瘍(IDSAガイドライン,文献3) 1 Signs or symptoms of systemic infection(全身性炎症の所⾒) 2 Severely impaired host defenses(免疫不全状態) 著者は基本的に抗菌薬を投与しているが,2cm 3 Multiple abscesses(多発性の膿瘍) 以下の小さな膿瘍で蜂窩織炎の合併がない場合 4 Extremes of age(超高齢者) は切開排膿のみでもよいかもしれない。 5 Lack of response to incision and drainage alone(切開排膿が無効) 1) 著者 Points 1) Singer AJ, Talan DA. Management of skin abscesses in the era of methicillin-resistant Staphylococcus aureus. N Engl J Med 2014;370:1039–47.(PMID)24620867 2) Schmitz GR, Bruner D, Pitotti R, et al. Randomized controlled trial of trimethoprim-sulfamethoxazole for uncomplicated skin abscesses in patients at risk for communityassociated methicillin-resistant Staphylococcus aureus infection. Ann Emerg Med 2010;56:283–7.(PMID)20346539 3) Stevens DL, Bis
#27.
Q4. 抗菌薬はどれを選べばよいですか? A4. 黄色ブドウ球菌に感受性がある抗菌薬を使用する。 著者 Points 細菌培養の結果判明まで数日かかるので,抗菌薬選択は過去の文献を基に行う。 1) 皮膚膿瘍の原因菌は約80%が黄色ブドウ球菌である ため,黄色ブドウ球菌に感 受性がある抗菌薬を使用するのが望ましい。 2) 米国では耐性菌が増加し,MRSA(CA-MRSA)が63% を占めるとされる 。 IDSA のガイドライン3)では,CA-MRSA に活性をもつ薬剤が第一選択とされる。 ただ,日本でも初期からMRSA のカバーが必須かは明確な指針がない。 CA-MRSAに感受性がある抗菌薬(文献1) ⼀般名 商品名 著者はまずMSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)に対し ST合剤 バクタ® て有効な第一世代セファロスポリン(内服薬セファレキシン, クリンダマイシン ダラシン® 注射薬セファゾリン)を使用し,改善が乏しい場合は培養検査 ミノサイクリン ミノマイシン® の結果を参考にして抗菌薬を変更している。 ドキシサイクリン ビブラマイシン® 1) Singer AJ, Talan DA. Management of skin abscesses in the era of methicillin-resistant Staphylococcus aureus. N Engl J Med 2014;370:1039–47.(PMID)24620867 2) Talan DA, Krishnadasan A, Gorwitz RJ, et al. Comparison of Staphylococcus aureus from skin and soft-tissue infections in US emergency department patients, 2004 and 2008. Clin Infect Dis. 2011;53:144–9.(PMID)21690621 3) Stevens DL, Bisno AL, Chambers HF, et al. Practice guidelines for the diagnosis and management of skin and soft tissue infections:2014 upd
#28.
まとめ 一般的な皮膚科の教科書ではあまり触れられていない が,膿瘍は日常診療でよく遭遇する疾患である。治療 の基本は切開排膿で処置法に精通しておく必要があ る。また発症部位によっては特殊な局所疾患の可能性 があるため注意しておきたい。
#29.
液疱病変の分類 水疱性疾患の鑑別診断 小水疱 単純ヘルペス 帯状疱疹 白癬(足白癬) 湿疹(異汗性湿疹・汗疱) 水疱 伝染性膿痂疹 熱傷 褥瘡 湿疹(接触皮膚炎) 薬疹(SJS・TEN) 水疱性類天疱瘡 膿疱性疾患の鑑別診断 毛包炎・尋常性ざ瘡 薬疹(急性汎発性発疹性膿疱症) 掌蹠膿疱症 て べ す 患 この疾 ! す ま べ 1冊で学 紅色病変の分類 紅色丘疹・結節の鑑別診断 紅色丘疹 帯状疱疹 虫刺症 毛包炎・尋常性ざ瘡 老人性血管腫 疥癬 紅色結節 粉瘤(炎症性粉瘤) 膿瘍 毛細血管拡張性肉芽腫 有棘細胞癌 鱗屑性紅斑の鑑別診断 白癬(体部白癬・股部白癬) 湿疹 日光角化症 Bowen病 乾癬 非鱗屑性紅斑の鑑別診断 境界明瞭 蕁麻疹 薬疹(紅斑丘疹型・多形紅斑型) ウイルス性発疹症 帯状疱疹 水疱性類天疱瘡(非水疱型) 境界不明瞭 蜂窩織炎 結節性紅斑 紫斑の鑑別診断 老人性紫斑 血管炎 非紅色病変の分類 常色病変の鑑別診断 角化性 鶏眼・胼胝 ウイルス性疣贅 皮角 非角化性 伝染性軟属腫 尖圭コンジローマ 粉瘤 脂肪腫 黒褐色病変の鑑別診断 色素細胞母斑 脂漏性角化症 基底細胞癌 悪性黒色腫 白色病変の鑑別診断 尋常性白斑 黄色病変の鑑別診断 黄色腫 毛髪・爪病変 円形脱毛症 白癬(爪白癬) 著 松田光弘 あさひ皮膚科クリニック 院長 福岡県福岡市生まれ。2007 年に久留米大学医学部卒業後,久留米大学病院で初期臨 床研修。2009 年に久留米大学皮膚科へ入局。2015 年より公立八女総合病院や大牟田 市立病院などで医長を務め, 地域医療に従事。 2020 年よりブログ(皮膚科の豆知識 ブログ https://www.derma-derma.net)などで情報発信を行う。2025年より現職。