#4.
症例 【主訴】発熱・咳嗽・息苦しさ
【現病歴】動悸を主訴に近医循環器内科を受診し,除細動器で洞調律に戻るも,再度動悸が出現したため,同日当院救急外来を受診した.体温が38.1℃で咳嗽があった.胸部単純CTで肺炎像を認め,喀痰グラム染色で起炎菌と思わしき微生物を認めた(図1). このような症例でセフトリアキソンが選択されるケースが多いが,その理由をロジカルに説明することはできるだろうか?
#5.
1. セフトリアキソンを深く理解しよう セフトリアキソンの特徴については表1にまとめた.以下,順に研修医として知っておくべきボトムラインを紹介する.
#6.
2. 系統・分類:β-ラクタム薬 一般に抗菌薬は「β-ラクタム系抗菌薬」と「非β-ラクタム系抗菌薬」に大別される.「β-ラクタム系抗菌薬」は,主にペニシリン系・セフェム系・カルバペネム系にさらに分類されるが,セフトリアキソンは第3世代セフェム系抗菌薬に分類される.セフェム系抗菌薬は第一世代~第五世代まで開発されているため,セフトリアキソンはちょうど真ん中に位置する薬剤である.β-ラクタム系抗菌薬の全貌については次稿で詳細に述べる.
#7.
3. 抗菌薬スペクトラム:中庸的スペクトラムを有するセフトリアキソン β-ラクタム系抗菌薬全体のスペクトラムを表2にまとめたため参照いただきたい.横方向には左から順にグラム陽性球菌→グラム陰性桿菌→嫌気性菌→ESBL産生菌→非定型細菌が並べられ,縦方向にはペニシリン系→セフェム系→カルバペネム系抗菌薬が配置されている.抗菌薬スペクトラムは実際にはここまでシンプルではないが,矢印( )の長さが各抗菌薬のスペクトラムの広さを表現していると理解してよい.
セフトリアキソンに注目してみよう.グラム陽性球菌に対しては,レンサ球菌およびMSSA(Methicillin-Susceptible Staphylococcus aureus:メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)に感受性を有する.グラム陰性桿菌のなかでは腸内細菌〔大腸菌(Escherichia coli)・クレブシエラ(Klebsiella)〕には有効だが,ブドウ糖非発酵菌である緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)やアシネトバクター(Acinetobacter)には無効であることがわかる.また,嫌気性菌・ESBL産生菌・非定型細菌に対しても無効であることがおわかりいただけるだろう.このセフトリアキソンのスペクトラムの広さを基準としてほかの抗菌薬を学習していくことで,多様な薬剤のスペクトラムの理解が進むだろう.
ここで臨床的に重要な微生物を表3にまとめたためご覧いただきたい.上下方向を染色性(グラム陽性/陰性),左右方向を形態(球菌/桿菌)で区別し,この4つのマトリックスに代表的な微生物を整理した.右列には特殊な微生物として,嫌気性菌・非定型細菌・薬剤耐性菌を配置した.このなかでセフトリアキソンが一般的に有効である微生物を赤字で表示した.おおよそ半数程度の微生物にはセフトリアキソンが有効であるという印象をもっていただければよい.
#8.
#9.
#10.
3. 抗菌薬スペクトラム:中庸的スペクトラムを有するセフトリアキソン(続き) 次に,もう少し具体的に考えていきたい.表4に各市中感染症において,一般的にセフトリアキソンが有効である微生物と無効である微生物を区別して列記した.これを見ると多くの市中感染症においてセフトリアキソンは代表的な起炎菌をカバーすることがわかる.すなわち,臨床的に頻繁に遭遇する市中感染症に対してセフトリアキソンを選択すれば,およそ合格点の診療ができるということである.次のステップとして,セフトリアキソンを軸に,それだけではカバーできない微生物(市中肺炎であればマイコプラズマ・レジオネラ,尿路感染症では腸球菌・緑膿菌など)をどこまで考慮して初期治療に含めるべきか,患者背景・臨床経過・アンチバイオグラムなどを総合的に考慮して判断できるように経験を積んでいただきたい.
#11.
4. 投与回数:“時間依存性”であるβ-ラクタム薬のなかで異端児 β-ラクタム系抗菌薬は一般に“時間依存性抗菌薬”とされている.その理由は,多くの場合体内での半減期が短く(約30分~1時間),有効血中濃度を保つためには1日3~4回といった複数投与が必要なためである.翻って,セフトリアキソンは1日1回投与が可能な薬剤である.セフトリアキソンは血中でアルブミンとの結合率が高く(通常80~95%),容易に体外排出されないため,半減期が7~8時間と非常に長いことがわかっている.そのため,1日1~2回の投与で十分な薬物動態を得られるというわけである.1日1回の投与で治療できるということは,外来加療で使用できるということである.さまざまな理由で外来加療を希望する患者さんに対してセフトリアキソンの連日点滴で治療ができるというのは,市中感染症を起こす微生物に対するスペクトラムを有していることに加え,半減期が非常に長いという特徴を有するがためである.
ここで懸命な読者の皆さんならピンときたかもしれないが,低アルブミン血症の場合は,半減期が短くなるのではないだろうか,という疑問が生じる.セフトリアキソンと結合するアルブミンが減少することで,遊離型セフトリアキソンが増え,代謝・分解が進むことで,目標とするTime above MIC(最小発育阻止濃度を超えている時間)の確保が難しくなることは容易に想像される.論理的には確かにその通りであるが,低アルブミン血症の場合に3~4回投与にした方がよいという確立したエビデンスはなく,臨床的には現場判断に任されている部分である.筆者は,ICUに入室しているような重症患者で低アルブミン血症が顕著な場合(例:2 g/dL未満),セフトリアキソンを1日3回投与にしてみる,といった工夫をすることもある.
#12.
5. 投与経路:セフトリアキソンは点滴製剤 セフトリアキソンは点滴製剤のみである.もし経口吸収率が100%のセフトリアキソン内服薬が存在していたら,臨床現場で乱用されていたに違いない.そう考えると,セフトリアキソンの内服製剤は存在しなくてよかったのかもしれない.
#13.
6. 薬物動態:ほぼほぼ全臓器へ移行良好 セフトリアキソンは基本的に多くの臓器に対する移行性が良好である.セフトリアキソンは腎排泄が少ないため尿路感染症に使えないという噂を聞くこともあるが,臨床的には問題なく治療可能である.blood-brain barrier(血液脳関門:BBB)を有する中枢神経組織や眼組織でも治療有効濃度を達成することが可能であり,髄膜炎・脳膿瘍・眼内炎といった難治性感染症の場合も選択可能である.ただし,これらの薬剤移行のしにくい臓器をターゲットにする場合は,1日投与量を2 gから4 gに増量する必要がある.
唯一,セフトリアキソンの移行性が期待できない臓器をあげるとすれば前立腺だろう.一般的に前立腺組織への移行性が良好とされるのは,ニューキノロン系抗菌薬・ST合剤・ホスホマイシンであり,慢性化した前立腺感染症ではβ-ラクタム系抗菌薬ではなくこれらの薬剤で治療することが推奨されている.
#14.
7. 用量調節:基本的に調節不要…例外的に用量調節が必要なケースとは? セフトリアキソンの体内分解・体外排泄は肝臓と腎臓でおよそ半々の割合とされている.多くの抗菌薬は腎機能低下に伴い用量調節が必要とされているが,セフトリアキソンの場合,通常投与量の1日2 gであれば,透析患者を含めた慢性腎臓病患者でも用量調節が不要である.高齢化社会日本においてセフトリアキソンが重宝される理由がこの点であり,腎機能低下が進んだ多くの高齢者に対しても特に用量調節を考えることなく投与することができるということは,特に多忙な臨床現場にとっては大きなアドバンテージである.
例外として,セフトリアキソンの用量調節を考慮するべき場面を2つ紹介する.
① 中枢神経感染症を透析患者(末期腎不全)が発症した場合
中枢神経感染症の場合,通常は1日4 gを投与するべきだが,さすがに腎排泄機能が全くない透析患者(末期腎不全)では薬剤が体内に蓄積してしまうため,1日2 gを上限とするべきである.筆者は過去にセフトリアキソン治療を受けた透析患者が薬剤性脳症を発症した事例を経験している1).
② 進行した肝硬変(Child-Pugh分類 Cなど)
一般に,肝機能障害時における抗菌薬投与量のスタンダードな調整方法は定まっていない.しかし,セフトリアキソンは半分が肝代謝のため,Child-Pugh分類(肝硬変の重症度を評価する指標)Cに相当するような肝硬変の患者では投与しない方が賢明とされている.
#15.
8. 副作用:胆泥に注意 β-ラクタム系抗菌薬は概して副作用が少ないところがよい点である.セフトリアキソンも多分に漏れず,副作用が少なく安全に治療が可能な抗菌薬である.唯一あげるとすれば胆泥(胆石)形成だろう.セフトリアキソンが胆汁に排泄され,胆汁中でカルシウムと結合することで胆泥(胆石)形成が進むことがわかっており,リスク因子は以下の通りである. 絶食中:胆汁が排出されることなく貯留するため
長期 or 高用量投与:セフトリアキソン曝露量が増加するため
末梢神経障害:糖尿病による神経障害,腹腔内手術後(胆嚢枝の神経障害)など 文献2に,筆者が過去に経験したセフトリアキソンによって著明な胆石形成をきたした症例の腹部エコー像を示す.ゆくゆくは胆嚢炎・胆管炎のリスクになり,胆嚢摘出術など侵襲的な医療介入を要する可能性もあり,可能な限り回避すべき副作用である.上述したリスク因子をもつ患者の場合,胆石形成のリスクが高く,セフトリアキソンと同一スペクトラムを有するセフォタキシムに変更することをお勧めする.
#16.
9. 薬物相互作用:薬物相互作用は少ないがランソプラゾールには注意 β-ラクタム系抗菌薬のもう一つの利点として薬物相互作用が少ないことも知っておきたい.セフトリアキソンも特に注意を要する併用薬はないと理解していただいて構わない.しかし,近年,プロトンポンプ阻害薬のランソプラゾールとセフトリアキソンを併用することでQT延長症候群のリスクが高くなることが報告されており,胃酸抑制薬を処方する場合にはランソプラゾールは避けるべきである3).
#17.
症例に対する治療の提案 ●処方例
〈体重50 kg以上,腎機能正常の場合〉
低アルブミン血症がない場合:セフトリアキソン 1回 2 g 1日1回 点滴 5日間
(前述の通り,著明な低アルブミン血症がある場合,セフトリアキソンの半減期が短くなることが予想されるため,分割投与[1回 1g 1日2回など]が望ましいかもしれない)
#18.
Advanced Lecture 前述の通り薬物動態(半減期が7~8時間)を考えると,セフトリアキソンは1日1回投与でよいとされている.しかし,「β-ラクタム系抗菌薬を1日に1回しか投与しないのは本当に大丈夫なのか?」という疑問をもつ人もいるだろう.この点に一つの答えを出した研究を紹介する4).
【研究デザイン】国内・単施設・後ろ向き研究(2010年10月~2018年12月)
【方法】市中肺炎で入院しセフトリアキソン2 g/日を投与された成人患者のうち,分割投与群(1 g 1日2回)と一括投与群(2 g 1日1回)の臨床的な有効性・安全性を評価
【結果】457人のうち,分割投与群が186人,一括投与群が271人であった.
〈主要評価項目〉初期治療失敗率:分割投与群 2.4% vs.一括投与群 4.5%(p=0.27)
〈副次評価項目〉30日死亡率:分割投与群 2.9% vs.一括投与群 6.4%(p=0.13)
副作用の頻度:分割投与群 1.04% vs.一括投与群 4.20%(p=0.08)
単施設・後ろ向き研究のためさまざまなリミテーションはあるが,分割投与と一括投与で治療失敗率・30日死亡率・安全性に大きな差はないことが示された.であれば,わざわざ分割投与を選択する理由はなく,セフトリアキソンは1日1回の一括投与でよいのではないかと筆者は考えている.
■ 市中肺炎に対するセフトリアキソンは1回投与と分割投与のどちらがいいのか?
#19.
おわりに 抗菌薬を勉強する登竜門としてセフトリアキソンの理解は避けて通れない.セフトリアキソンを使いこなせるようになるだけで,研修医としての感染症対応能力は飛躍的に前進するだろう.その利点・欠点・注意点をしっかり理解して抗菌薬学習のよいスタートダッシュを切っていこう!
#20.
引用文献 1) Hagiya H, et al:Ceftriaxone-induced Neurotoxicity in a Patient after Pancreas-Kidney Transplantation. Intern Med, 56:3103-3107, 2017(PMID:28943562)
2) Hagiya H, et al:Ceftriaxone-induced biliary sludge in a patient with uncontrolled diabetes. Intern Med, 53:2549-2550, 2014(PMID:25366021)
3) Bai AD, et al:Ceftriaxone and the Risk of Ventricular Arrhythmia, Cardiac Arrest, and Death Among Patients Receiving Lansoprazole. JAMA Netw Open, 6:e2339893, 2023(PMID:37883084)
4) Nakanishi Y, et al:Comparative prospective cohort study of efficacy and safety according to dosage and administration of ceftriaxone for community-acquired pneumonia. J Infect Chemother, 31:102516, 2025(PMID:39251134)
#21.
プロフィール 萩谷英大(Hideharu Hagiya)
岡山大学学術研究院医歯薬学域 感染症学分野 教授
セフトリアキソンは,抗菌薬の呼吸“壱の型”です.最も基本的な型を身につけて,応用した技を展開していけるように修行していきましょう.
#22.
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