#4.
「やけど」から考えられること 灯油が触れた部位に特徴的な紅斑がみられるのが灯油皮膚炎です(図1C).基本的には一次刺激性接触皮膚炎ですが,灯油との接触時間が長いと,水疱,びらんを呈し,熱傷に準じた治療が必要になります.
寒冷曝露による凍傷は,血栓形成による微小血管傷害に伴う壊死が本態です.適切な復温が重要ですが,水疱やびらんを呈した場合は熱傷と同様の処置を行います. 4 図1C
灯油皮膚炎
#5.
Note:温熱性紅斑(火ダコ,erythema ab igne)の発症機序 下腿などの網状の色素沈着,紅斑を主訴に受診される方がいます(図2).「机の下の足元にヒーターを置いてないですか?」と聞いて,「置いています」という回答が得られれば,それが原因ですねとドヤ顔で説明できるでしょう.最近はノートパソコンを大腿に乗せて,連日長時間作業することで生じた症例も報告されています※1. 5 文献 温熱性紅斑は,持続的に低温の熱が当たることにより,その部分の静脈叢が傷害され,網状の色素沈着を生じます.前癌病変にもなるので注意しましょう. 図2 温熱性紅斑 ※1 Riahi RR & Cohen PR:Laptop-induced erythema ab igne: Report and review of literature. Dermatol Online J, 18:5, 2012(PMID:22747929)
#6.
「やけど」からあげられる鑑別疾患 6 熱傷
凍傷
化学熱傷
温熱性紅斑(火ダコ)
灯油皮膚炎
#7.
機転となった熱源,受傷してからの時間,その後の冷却状況などを確認しましょう.
熱傷は熱が到達した深さと,広さによって,その重症度が変わってきます.受傷直後は冷却が最も大切です.
受傷早期では重症度の正確な判定は難しく,受診時は紅斑だけであっても,時間の経過とともに水疱,びらんとなってくることもあるため,その旨をきちんと説明し,経過を追う必要があります. 7 担当医としてこれをする!
#8.
また,初診時から感染していることは少ないと思いますが,特に深達性Ⅱ度熱傷(DDB)からⅢ度熱傷では壊死組織への感染のリスクが高いことを認識しておきましょう.
受傷面積が広かったり,深達度が深く,壊死が多かったりする場合には,早めに皮膚科へのコンサルトを検討してください. 8 担当医としてこれをする!
#9.
①熱源,受傷からの時間,冷却状況は?
→病院に来るまでにどれくらい冷やせているかな?
②水疱,びらんの形成はあるか?
→熱傷の深達度を確認しよう
③熱傷の深達度がまだよくわからない
→早めに再診してもらおう 9 皮膚科医的思考
#10.
外用薬の選び方・使い方:コンサルトできない場合の外用療法 熱傷の深さがはっきりしていない段階では,創面を保護しつつ経過を見ていきましょう.
発赤だけであれば,短期間のステロイド外用で炎症を抑えることも有用ですが,翌日など早めに再診してもらい,水疱やびらんの出現など進行がないかどうかを確認してください.
#11.
外用薬の選び方・使い方:コンサルトできない場合の外用療法 多くの場合は初診時から水疱やびらんも混在していると思います.その場合は生食洗浄を行い,軟膏基剤の外用薬をガーゼに伸ばして貼付します.どこの医療施設でも置いてあることが多いゲンタマイシン(ゲンタシン®)軟膏でもよいですし,ジメチルイソプロピルアズレン(アズノール®)軟膏などでもよいと思います.「皮膚外用薬の使いどころ・使わずどころ」4章-3の通り,ゲンタシン®軟膏は使い勝手のよさで選択しており,抗菌作用を期待しているわけではありません.
水疱を破るかどうかも議論になりますが,私は穿刺して,包膜を残して水を抜きます.その方が患者の自覚的な痛みも和らぎます.
#12.
皮膚科コンサルト前の処方例 発赤のみの場合(Ⅰ度熱傷),①で処置.
①クロベタゾールプロピオン酸エステル軟膏 紅斑全体に塗布し,ガーゼ保護で処置.翌日再診.
水疱・びらんを伴う場合(Ⅱ度熱傷),②に加えて③か④で処置.
②生食洗浄
③ジメチルイソプロピルアズレン(アズノール®)軟膏0.033% 20 g,1日1回 やけど
④ゲンタマイシン(ゲンタシン®)軟膏0.1 % 10 g,1 日1 回 やけど
#13.
熱傷 患者の訴えや状況から熱傷の診断に迷うことはないと思います.本症例はお湯のかかった部位に一致した紅斑,水疱,びらんから熱傷と診断しました.
熱傷は傷害される深さにより,I度からⅢ度に分類されます.Ⅰ度:表皮のみの傷害(図3A),Ⅱ度:真皮までの傷害〔浅層までならsuperficial dermal burn(SDB),図3B,深層に至ればdeep dermal burn(DDB),図3C〕,Ⅲ度:皮下組織(図3D)までの傷害です.もちろん熱傷は均一ではないので,さまざまな深さの熱傷が混在しています. 13 図3A Ⅰ度熱傷 図3B Ⅱ度熱傷(SDB) 図3C Ⅱ度熱傷(DDB) 図3C Ⅲ度熱傷
#14.
熱傷 病変の深さは経過を見る必要がありますが,本症例の場合,この時点では紅斑のみのところはⅠ度,水疱からびらんになっている一部はⅡ度(SDB)と考えられます.
外用療法としては,一番深いところに合わせて行うことになります.
SDBであればアズノール®軟膏,アルプロスタジル アルファデクス(プロスタンディン®)軟膏をガーゼに伸ばして貼付し,創面を保護します.滲出液が多いときには吸水性のマクロゴール基剤であるブクラデシンナトリウム(アクトシン®)軟膏を用いることもありますが,痛みを訴える患者もいるので注意しましょう.
治癒期間の短縮や瘢痕形成予防のために,トラフェルミン(フィブラスト®)スプレーの併用も有用です. 14
#15.
熱傷 感染徴候のないⅡ度熱傷では創傷被覆材もよい適応となりますが,滲出液が多いため,デュオアクティブなどのハイドロコロイドよりも,アクアセルAgアドバンテージなどの親水性ファイバーやメピレックスAgなどのポリウレタンフォームが使いやすいと思います.
ただ,創傷被覆材は「真皮に至る創傷用」と「皮下組織に至る創傷用」に分けられており,Ⅱ度熱傷に対して,「皮下組織に至る創傷用」の創傷被覆材を使用すると査定される可能性があります.アクアセルAg BURNは「真皮に至る創傷用」ですが,アクアセルAgアドバンテージやメピレックスAg,ハイドロサイトジェントル銀などは「皮下組織に至る創傷用」なので注意が必要です(「皮膚外用薬の使いどころ・使わずどころ」4章-9 表3参照). 15
#16.
熱傷 DDBやⅢ度熱傷では壊死組織の除去が治療として重要です.必要に応じて,外科的デブリドマンを行います.化学的デブリドマンとして頻用するのはスルファジアジン銀(ゲーベン®)クリームですが,より強力に壊死組織を軟化させたいときはブロメライン軟膏を使います.
近年,熱傷潰瘍の壊死組織の除去に特化した外用薬としてネキソブリッド®外用ゲルが使われるようになっています.ただ,塗布方法が煩雑なことと,外用時の痛みが非常に強いため,外来で行うことは困難で,私もまだ多くの経験はありません. 16
#17.
皮膚科医の処方例 SDBの場合,①または②+③で処置.
①アクアセルAg アドバンテージ 熱傷の大きさに合わせて1枚貼付し,ガーゼ保護
②アルプロスタジル アルファデクス(プロスタンディン®)軟膏0.003% 10g,1日1回 やけど
③トラフェルミン(フィブラスト®)スプレー500 1本 やけど
※フィブラスト® スプレーを噴霧後,ガーゼに伸ばしたプロスタンディン® 軟膏を貼付
#18.
皮膚科医の処方例 DDB 〜Ⅲ度熱傷の場合,④または⑤+⑥で処置.
④スルファジアジン銀(ゲーベン®)クリーム1 % 50g,1日1回 やけど,ガーゼに伸ばして貼付
⑤ブロメライン軟膏 10g,1日1回 やけど
⑥白色ワセリン(プロペト®) 50g,1日1回 やけどの周囲,正常
※皮膚の傷害を避けるため,熱傷周囲にプロペト® で土手をつくり,熱傷面のみにブロメラインを塗布し,ガーゼ保護
#19.
皮膚科医的にしてほしくないこと くり返しになりますが,熱傷の深さ,重症度は初診時だけでは判断できません.
ゲーベン®クリームは非常に使いやすい外用薬ですが,細胞毒性により上皮化を遅らせるというデータ1)もあり,SDBでの使用は避けた方がよいでしょう.
創傷被覆材は,創傷治癒期間も速くなり,患者の利便性は上がるので有用なのですが,感染徴候には注意が必要です.長時間被覆されてしまうことにより,感染が増悪するリスクがあるので,やはり観察が大切となります. 19 文献 1)Wasiak J, et al:Dressings for superficial and partial thickness burns. Cochrane Database Syst Rev, 2013:CD002106, 2013(PMID:23543513)
#20.
20 書籍案内 皮膚外用薬の使いどころ・使わずどころ
皮膚科医が伝えたい、外用療法の診療プロセス 安田正人/著
■定価4,620円(本体4,200円+税) ■発行:羊土社 ■ 2026年06月30日発行 病棟・救急外来・一般外来など,日常診療で欠かせない「皮膚外用薬」を適切に使うために必要な基本知識,使いどころを,研修医・若手医師向けに皮膚科医がホンネを交えて語りました.
#21.
21 書籍案内