#4.
症例をもとに考えてみましょう 4 40歳代女性
【主訴】 関節痛.半年前から起床時の手指のこわばりを自覚していた.
徐々に手を握るときのDIP,PIP関節の左右対称性の疼痛を自覚するようになった.
【生活背景】 喫煙:20本/日を20年,アルコール:機会飲酒
【家族歴】 リウマチ膠原病なし
【身体所見】 両側の2~5DIP,2PIP関節に軽度の圧痛あり,腫脹関節なし,
爪・付着部・皮膚病変を認めない
【血液検査】 CRP 0.03 mg/dL, RF 20 mg/dL (15 mg/dL未満),
ACPA 10.5 U/mL (4.5 U/mL未満),
抗核抗体・抗SS-A抗体陰性
【超音波検査】 滑膜炎(gray scale/power doppler)なし
【X線検査】 骨びらん・関節裂隙狭小化,骨棘形成を認めない
#5.
基礎知識:目次 RFと抗CCP抗体の産生機序と意義
関節炎所見が乏しいとき,RF,抗CCP抗体陽性をどう捉えるか
偶然のRFと抗CCP抗体陽性+関節リウマチ依以外の関節通を起こす鑑別疾患
RAの自然史と”CSA”
症例の診断プロセス
#6.
基礎知識①:RFと抗CCP抗体の産生機序と意義 リウマトイド因子(RF)と抗CCP抗体は関節リウマチで見られる最も代表的な自己抗体です.前者は変性したIgGに対する自己抗体で,IgM型,IgG型,IgA型の3つのアイソタイプがありますが,一般的にはIgM型が最も多いです.一方で後者はシトルリン化したさまざまな体内の蛋白質(フィラグリン,ヒストン,フィブリノーゲン,Ⅱ型コラーゲン,ビメンチンなど)に対する自己抗体の総称です.
関節リウマチでは遺伝的要因や,病原微生物,煙草,有害物質などの環境要因により,主に肺,歯肉,腸管などで局所的な炎症が起こります.その際に免疫グロブリンであるIgGやさまざまな生体内の正常な蛋白質が変性してしまったり,余計な修飾(シトルリン化)が起こったりします.炎症が局所だけにとどまらず全身に波及すると,変性した異常なIgGや蛋白質に対して自己免疫応答が起こります.その結果,RFや抗CCP抗体などの自己抗体が産生されます1).
これらの自己抗体は,関節リウマチ診療においては,診断や重症度判定,関節破壊の予後予測,治療薬の選択の際に参考になることがあります2,3).一方で,RFや抗CCP抗体は関節症状が出現するよりもはるか前に微弱ながら陽性となり,解釈が困難で,初診医や患者さんを混乱させる可能性があります.
それでは,日常診療でこれらの自己抗体が陽転化した際に,それが関節リウマチに関連するかについての解釈を本項の症例を通して深めていきたいと思います. 6
#7.
基礎知識②:関節炎所見が乏しいとき,RF, 抗CCP抗体陽性はどう捉えるか 7 本症例は,朝のこわばりや関節痛などの自覚症状があるものの,身体所見や画像所見で関節炎が乏しいことが特徴的でした.関節リウマチの診断には2010年の分類基準(表1)を参考にすることが重要です.
本分類基準はさまざまな注意点がありますが,6点以上で関節リウマチと分類できる優れものです.あまりにも有用のため,発表したDaniel 先生本人の談では,提唱されてから15年が経過しようとしていますが,今後もしばらく改訂されることはないとのことでした. 40歳代女性.
【主訴】 関節痛.半年前から起床時の手指のこわばりを自覚していた.
徐々に手を握るときのDIP,PIP関節の左右対称性の疼痛を自覚するようになった.
【生活背景】喫煙:20本/日を20年,アルコール:機会飲酒
【家族歴】 リウマチ膠原病なし
【身体所見】 両側の2~5DIP,2PIP関節に軽度の圧痛あり,腫脹関節なし,爪・付着部・皮膚病変を認めない
【血液検査】CRP 0.03 mg/dL,RF 20 mg/dL (15mg/dL未満),ACPA 10.5 U/mL (4.5 U/mL未満),抗核抗体・抗SS-A抗体陰性
【超音波検査】滑膜炎(gray scale/power doppler)なし
【X線検査】 骨びらん・関節裂隙狭小化,骨棘形成を認めない ※本症例再掲
#8.
基礎知識②:関節リウマチ分類基準2010(表1) 8
#9.
さて,分類基準を詳しく見てみると,6点以上で関節リウマチと分類できます.しかし,無理やり6点と分類した関節リウマチは往々にして他疾患の可能性も紛れています.
筆者の意見としては明らかな関節リウマチは8点以上であることが多いです.また,仮に自己抗体が陽性で,罹病期間が6週間以上,炎症マーカーが上昇していても,関節炎所見がない場合は関節リウマチと分類することはできません(最大5点).一方で関節炎のスコアは,6点で関節リウマチと分類できるなかで,最大5点と大きな割合を占めています.このことは関節リウマチ診療において,いかに関節炎の同定が自己抗体や炎症マーカーよりも重要であるかを示しています.
基礎知識②:関節炎所見が乏しいとき,RF, 抗CCP抗体陽性はどう捉えるか 9
#10.
日常診療で身体所見や関節エコーで関節炎が同定できない場合でも,微小な滑膜炎は造影を含むMRIで同定できる可能性があります.しかしながら,日常診療では頻繁にMRIを撮影することはできません.その際には,疼痛関節に滑膜炎があるものとして関節炎の鑑別を行っていくことが重要です.本症例は両側の第2PIP関節に圧痛があり,ここに滑膜炎があるとしても,自己抗体と罹患期間と合わせても合計5点となり,関節リウマチと分類できません.その場合,筆者は以下のことを考えます. 基礎知識②:関節炎所見が乏しいとき,RF, 抗CCP抗体陽性はどう捉えるか 10 40歳代女性.
【主訴】 関節痛.半年前から起床時の手指のこわばりを自覚していた.
徐々に手を握るときのDIP,PIP関節の左右対称性の疼痛を自覚するようになった.
【生活背景】喫煙:20本/日を20年,アルコール:機会飲酒
【家族歴】 リウマチ膠原病なし
【身体所見】 両側の2~5DIP,2PIP関節に軽度の圧痛あり,腫脹関節なし,爪・付着部・皮膚病変を認めない
【血液検査】CRP 0.03 mg/dL,RF 20 mg/dL (15mg/dL未満),ACPA 10.5 U/mL (4.5 U/mL未満),抗核抗体・抗SS-A抗体陰性
【超音波検査】滑膜炎(gray scale/power doppler)なし
【X線検査】 骨びらん・関節裂隙狭小化,骨棘形成を認めない ※本症例再掲
#11.
基礎知識③:偶然のRFと抗CCP抗体陽性+関節リウマチ依以外の関節通を起こす鑑別疾患 11 RFや抗CCP抗体は関節リウマチの診断に有用であるというものの,ほかの疾患でも陽性になることはしばしばあります(表2).RFのRAにおける感度と特異度はそれぞれ75.9%,78.7%であり,実は決して高くありません4).
また健常者や高齢者,他疾患でも陽性となることが知られているため,「RF陽性=関節リウマチ」と短絡的に判断してはいけません5).
一方,RFと異なり,抗CCP抗体は健常者などでの陽性率が低く,感度と特異度は78.5%,95.9~97.9%とRFよりもRAに特異的であるといえます4).ただし,シェーグレン症候群(33.3%)や全身性エリテマトーデス(16.1%)などの膠原病や乾癬性関節炎(10.7%)などの脊椎関節炎などでも陽性になることが知られており,注意が必要です6).
#12.
基礎知識③:RFが陽性となる疾患(表2) 12
#13.
基礎知識③:関節リウマチの鑑別疾患リスト 13 関節リウマチの鑑別には日本リウマチ学会が提唱する鑑別疾患リスト(表3)が非常に有用です.分類基準がぎりぎり6点となった場合でもその他の鑑別を常に考えていきます.日常診療のほとんどの関節痛をきたす疾患は本リストに含まれていると言っても過言ではありませんが,いくつか付け加えるとすると,その他の疾患として甲状腺機能亢進症・低下症,ビタミンD欠乏症に伴う骨軟化症,副腎不全があげられます.
#14.
基礎知識④:RAの自然史と "CSA" 14 関節リウマチは突然発症するわけではありません.前述の通り,遺伝的な要因と環境要因が合わさり,局所炎症から全身の自己免疫反応が生じることで自己抗体が産生され,関節痛,未分類関節炎を経てRAが完成します(図1).RFは最長で関節リウマチ診断の7.2年前から,抗CCP抗体は17.9年前から微弱ながら陽性となる可能性があることが近年報告されており,特に2つの自己抗体が強陽性で,関節痛がある場合はその後にRAに進展する可能性が残存します9).したがって,現時点で明らかな関節炎がなくても今後RAに進展する可能性があることは患者さんに説明しておく必要があります.
#15.
関節リウマチの自然史において,遺伝的要因,環境要因を経て自己抗体が産生された後,関節炎まで至らずとも関節痛が生じる段階があります.
関節リウマチへの早期介入による発症予防に注目が集まるようになり,2016年に研究を進めるために,この関節炎はないが, ”関節リウマチに進展するリスクが高い関節痛” の段階を "clinical suspect arthralgia(CSA)” として分類基準を欧州リウマチ学会(EULAR)が定めました(表4)10).このCSAの段階では67%がRAに進展することが注目されていますが11),特にRFや抗CCP抗体などの自己抗体が高値の患者12) や,エコーで見られる腱鞘滑膜炎13),MRIで見られる滑膜炎,腱鞘滑膜炎,骨髓浮腫14)が,CSAにおけるRA進展リスクとされています.
この段階への治療介入試験はいくつか存在しますが,唯一薬剤としてはアバタセプトが介入期間中はRAへの進展率を有意に減少させました15,16).しかし,中止後にRAへの進展率が上昇したことから,現時点で完全にRA発症予防ができる薬剤は認められていません.
ここがポイント:clinical suspect arthralgia(CSA) 15
#16.
clinical suspect arthralgia (CSA)の分類基準 16
#17.
症例への診断アプローチ 17 ※本症例再掲 40歳代女性.
【主訴】 関節痛.半年前から起床時の手指のこわばりを自覚していた.
徐々に手を握るときのDIP,PIP関節の左右対称性の疼痛を自覚するようになった.
【生活背景】 喫煙:20本/日を20年,アルコール:機会飲酒
【家族歴】 リウマチ膠原病なし
【身体所見】 両側の2~5DIP,2PIP関節に軽度の圧痛あり,腫脹関節なし,
爪・付着部・皮膚病変を認めない
【血液検査】 CRP 0.03 mg/dL, RF 20 mg/dL (15 mg/dL未満),
ACPA 10.5 U/mL (4.5 U/mL未満),
抗核抗体・抗SS-A抗体陰性
【超音波検査】 滑膜炎(gray scale/power doppler)なし
【X線検査】 骨びらん・関節裂隙狭小化,骨棘形成を認めない
#18.
最終診断へのプロセス 18
更年期障害に関連した関節症
■最終診断に至ったプロセス
RFと抗CCP抗体は陽性であるものの,診察や画像検査で関節炎所見が乏しいことが気がかりであった.関節リウマチの鑑別を再考し,病歴聴取を詳しく行うと,“ホットフラッシュ” や “イライラ”,“倦怠感”,“寒がり” などの更年期症状を自覚していた.さらに半年前から月経量と間隔の不順があり,関節症状も月経不順がはじまった後から自覚しはじめたという.更年期障害に関連した関節症状を疑い,血液検査を実施すると,卵胞刺激ホルモン値100 mIU/mL, エストラジオール値4 pg/dLと更年期に矛盾しない結果であった.RAの前病段階の可能性も説明したうえで,まずは加味逍遥散を開始したところ,1ヵ月ほどでホットフラッシュとともに関節痛も軽減し,消失した.
#19.
本症例からの学び 19
ここがポイント : 更年期障害に関連した関節痛
前述の関節リウマチの鑑別診断リストにも含まれていますが,更年期の女性では関節痛は半数以上に生じるといいます17).
エストロゲン受容体は滑膜組織で認められており,マクロファージの成熟と活性化を調整する働きがあるとされています.さらにエストロ ゲンなどの性ホルモン直接的に相互作用することに加えて,動物モデルでは脊髄の抑制性の疼痛経路を活性化させることで,疼痛を軽減する可能性があります.
そのため,閉経に伴いエストロゲンが不足することにより,滑膜炎や疼痛が制御できなくなる可能性があります.
#20.
RF,抗CCP抗体が陽性でも関節所見が一致するまでは関節リウマチと診断しない ひとことパール
#21.
おわりに 21 関節リウマチ診療において自己抗体はあくまでも診療の補助であり,ほかの疾患で偽陽性と なる場合もあるため,関節炎の証明が最も重要であることを再確認する必要があります.
関節リウマチの診断にも分類基準が有用であることが多いですが,単なる当てはめ診療をしてはいけません.基準点よりもはるかに高い点数の場合は関節リウマチの診断におおよそ矛盾することはありませんが,基準点ぎりぎりの場合や満たない場合は常に関節痛・関節炎を起こす疾患の鑑別が必要です.
#22.
書籍紹介 「この患者さんリウマチ・膠原病かも?」と迷ったときの診断のカンどころ
〜専門医に聞きました!
一般内科外来でよくある症例の見分け方
(シリーズGノート)
吉田常恭/編
2025年04月16日発行
発行 : 羊土社
5,500円(本体5,000円+税)
【「これって膠原病ですか?」一般外来からコンサルトされた症例を,専門医はどうやって見分けている?「自己抗体陽性」にだまされず,膠原病ミミッカーを見抜くヒントが詰まった1冊!】
URL:https://www.yodosha.co.jp/yodobook/book/9784758123617/
#23.
参考文献 Malmström V, et al:The immunopathogenesis of seropositive rheumatoid arthritis: from triggering to tar- geting. Nat Rev Immunol, 17:60-75, 2017 [PMID:27916980]
Smolen JS, et al:EULAR recommendations for the management of rheumatoid arthritis with synthetic and biological disease-modifying antirheumatic drugs: 2019 update. Ann Rheum Dis, 79:685-699, 2020 [PMID:31969328]
Aletaha D, et al:2010 rheumatoid arthritis classification criteria: an American College of Rheumatology/European League Against Rheumatism collaborative initiative. Ann Rheum Dis, 69:1580-1588, 2010 [PMID:20699241]
Hayashi N & Kumagai S:Anti-cyclic citrullinated peptide antibodies and rheumatoid arthritis. Rinsho Byori, 58:466-479, 2010 [PMID:20560456]
Ingegnoli F, et al:Rheumatoid factors: clinical applications. Dis Markers, 35:727-734, 2013 [PMID:24324289]
Payet J, et al:Anticyclic citrullinated peptide antibodies in rheumatoid and nonrheumatoid rheumatic disor- ders: experience with 1162 patients.J Rheumatol, 41: