テキスト全文
血中ケトン体測定の臨床的意義と必要性
#1. 臨床現場における
血中ケトン体測定の意義 ― DKAを見逃さないためのPOCT活用法 ― Clinical Need 糖尿病+嘔気・腹痛 血糖だけでは判断できない β-OHBで次の行動へ 順天堂大学医学部附属静岡病院
糖尿病・内分泌内科 伊藤 直顕 01
#2. 今日の問いは「測れるか」ではなく「行動が変わるか」 Opening Opening 外来でKetoneを測る目的は、診断名を増やすことではなく、
帰宅・再評価・紹介の判断を変えること。 Clinical Problem 具体的症例 Ketoneを測る理由 β-OHBとConsensus 自験データ POCTで行動が変わる Opening 02
#3. 講演後にできるようになってほしいこと Opening Opening 糖尿病患者の嘔気・腹痛・食事摂取不良・脱水で、血糖だけで安心しない。 その場で血中β-OHB測定を考える 血液ガス・Acidosis・全身状態へつなげる 必要な患者を救急施設/専門施設へ紹介する 製品紹介ではなく、臨床判断の話として理解する Opening 03
DKAの診断基準と臨床エピソード
#4. 尿Ketone 3+。DKAとして救急搬送――本当にDKA? Clinical Episode 1 Clinical Episode 1 外来/前医 尿Ketone 3+ 糖尿病+体調不良 尿Ketone 3+ DKA疑い 救急搬送 搬送後評価 AcidosisがDKAとして整合しない
/DKA診断基準を満たさない 最終的には尿路感染症を背景としたketosisと判断 D・K・Aで別途評価する D Diabetes / Hyperglycemia
K Ketosis
A Acidosis Clinical Pearl:尿Ketone陽性だけでDKAと決めない Clinical Episode 1 04
#5. 血糖は下がった。でもKetoneは改善した? Clinical Episode 2 Clinical Episode 2 前医で 高血糖+脱水 0.9% NaClで補液 Glucose
450 → 280 mg/dL Glucose ↓ 搬送後に初めてβ-OHB測定 β-OHB
? → 2.8 改善して2.8?
それとも上昇して2.8? ※β-OHB 2.8 mmol/Lは教育用に再構成した数値 Clinical Pearl:治療前に測らなければ、“改善したか”は分からない。 Clinical Episode 2 05
#6. 私が困ったのは、Ketoneを測れなかったことではない Clinical Problem Clinical Problem Episode 1 尿Ketone 3+ Ketosisは分かった でもDKAか判断しにくい Episode 2 補液後β-OHB 現在値は分かった でもTrendが分からない 必要だったもの:早い段階での Blood β-OHB 定量 Severity / Current state + Trend / Response Ketoneは“ある・ない”だけでなく、“どれくらい・どう動いたか”を見る。 Clinical Problem 06
外来でのDKA見逃しとその対策
#7. なぜ今Ketoneなのか Part 1 Part 1 血糖だけではDKAを拾えない時代になった。 糖尿病患者の高齢化 食事摂取不良/Sick day 糖質制限 SGLT2阻害薬 euglycemic DKA 外来で即日β-OHBが
得られない施設 Part 1 07
#8. 外来で困るのは「高血糖らしくないDKA」 Part 1 Part 1 DKAはいつも著明な高血糖で来るとは限らない。 従来のイメージ 見逃しやすい入口 強い高血糖 口渇・多尿 ぐったりして救急搬送 嘔気・腹痛 食事摂取不良 SGLT2阻害薬 血糖が高くない Part 1 08
#9. Ketoneを測る場面は救急だけではない Part 1 Part 1 外来で迷う患者ほど、測定結果が次の行動に効く。 糖尿病 嘔気・腹痛・食事摂取不良 脱水/頻呼吸 血糖だけでは判断困難 血中β-OHBを考える Part 1 09
#10. 糖尿病+嘔気・腹痛。血糖186 mg/dL。帰宅させますか? Part 2 Part 2 血糖186 mg/dLでも、DKAはまだ除外できない。 52歳前後・2型糖尿病 SGLT2阻害薬使用 前日から食欲低下 嘔気・腹痛 軽度脱水・頻呼吸 Glucose 186 mg/dL 参加者への問い 胃腸炎として帰宅?
何を追加で測る? Part 2 10
血糖値が正常でもDKAを疑う理由
#11. 次に見るのは血糖ではなく、AcidosisとKetosis Part 2 Part 2 血糖が高くないときほど、血液ガス・AG・β-OHBへ進む。 pH 7.27 HCO₃⁻ 14 mmol/L AG 22 Lactate 1.6 mmol/L β-OHB 5.4 mmol/L Acidosis AG開大 β-OHB高値 DKAを強く疑う Part 2 11
#12. 血糖だけでDKAを除外しない Part 2 Part 2 DKAは「糖」だけではなく「Ketosis+Acidosis」の病態として見る。 Glucose 186 pH低下・HCO₃⁻低下 AG開大 β-OHB 5 mmol/L台 DKAを強く疑う Part 2 12
#13. この症例で帰宅判断が危ない理由 Part 2 Part 2 嘔気・腹痛を胃腸炎だけで説明すると、Ketosisを見逃す。 SGLT2阻害薬使用中 食事摂取不良でKetogenesisが進みやすい 血糖が高くないためDKAらしく見えない 頻呼吸・脱水はAcidosisのサインになり得る Part 2 13
#14. DKAではKetoneそのものが病態の中心にある Part 3 Part 3 Ketoneは“結果”ではなく、Acidosisを作る主役。 インスリン作用不足 Lipolysis FFA 肝β酸化 Ketogenesis β-OHB / Acetoacetate Part 3 14
血液ガスとケトン体の関係性
#15. Ketoneが増えるとHCO₃⁻が消費される Part 3 Part 3 KetosisはHigh-AG metabolic acidosisへつながる。 Ketone body ↑ H⁺ ↑ HCO₃⁻ 消費 AG開大 代謝性アシドーシス Part 3 15
#16. 尿Ketoneがあるのに、なぜ血中Ketoneを測る? Part 4 Part 4 尿Ketoneは入口。β-OHBは現在のKetosisを定量する。 Urine ketone Blood β-OHB 簡便 スクリーニングに有用 主にacetoacetateを検出 時間差がある 主要ketoacidを直接評価 定量 現在のketosisを評価 経時変化を追える Part 4 16
#17. 尿Ketoneを否定しない。ただし役割は違う Part 4 Part 4 スクリーニングと定量評価を使い分ける。 尿Ketoneは外来の入口として有用 β-OHBを直接測る検査ではない 治療経過ではβ-OHBの経時変化が役立つ 尿陰性・弱陽性でも臨床像が合えば血中β-OHBを考える Part 4 17
#18. 血液ガスがあれば、Ketoneは要らない? Part 5 Part 5 Acidosisを見る検査とKetosisを見る検査は役割が違う。 Blood Gas β-OHB Acidosisを見る pH HCO₃⁻ PaCO₂ Ketosisを見る Ketone burdenを直接評価 診断と経過を支援 POCTが可能 Part 5 18
2024 Consensusに基づくDKA診断法
#19. pH正常 ≠ DKA除外 Part 5 Part 5 混合性酸塩基障害ではpHが正常に近く見えることがある。 代謝性アシドーシス
HCO₃⁻低下 呼吸性アルカローシス
PaCO₂低下 pHが正常方向へ Part 5 19
#20. 2024 Consensus:DKAはD・K・Aで考える Part 6 Part 6 DKA診断はDiabetes/Hyperglycemia、Ketosis、Acidosisの3要素で判断する。 D Diabetes / Hyperglycemia K Ketosis A Acidosis 3要素を満たしてDKAと診断 Part 6 20
#21. K:POCT β-OHB ≥3.0 mmol/Lの意味 Part 6 Part 6 POCT β-OHB ≥3.0は、DKAを強く疑いAcidosis評価と緊急対応を再検討する値。 POCT β-OHB
≥3.0 mmol/L 単独でDKA確定ではない
D・K・Aの3要素を満たして診断する Part 6 21
#22. Consensusは、血中β-OHBの直接測定を重視する Part 6 Part 6 Part 6 22 DKAを疑ったら、尿Ketoneだけでなく血中β-OHBを直接評価する Urine Ketone Blood β-OHB ・主にacetoacetate
・半定量
・時間差がある
・スクリーニングには有用 ・主要ketoacidを直接測定
・定量
・Current stateを評価
・Trendを追える
・POCTなら迅速に評価可能 DKAの診断・経過評価では Blood β-OHBを直接測る POCTの価値は、診察中にβ-OHBを定量できること
POCTの活用と診察中の判断
#23. euglycemic DKAを見逃さない Part 6 Part 6 血糖が200 mg/dL未満でも、KetosisとAcidosisがあればDKAを考える。 2024 Consensusでは糖尿病既往があれば血糖値だけで除外しない SGLT2阻害薬使用中は特に注意 嘔気・腹痛・食事摂取不良ではβ-OHBへ進む 高血糖が目立たないほど診断が遅れやすい Part 6 23
#24. POCTなら診察中に次の行動を決められる Part 7 Part 7 POCTの価値は“測れること”ではなく、“その場で次の行動を決められること”。 外注β-OHB
結果は後日 POCT β-OHB
診察中に結果 帰宅? 再評価? 救急紹介? Part 7 24
#25. 外来でKetoneを測ると、紹介の質が変わる Part 7 Part 7 紹介する/しないだけでなく、何を疑って送るかが変わる。 POCT β-OHB高値 Acidosis評価 全身状態・Vital確認 救急紹介を検討 DKA疑いとして情報共有 Part 7 25
#26. 診察中にβ-OHBを定量する選択肢 Part 8 Part 8 Part 8 26 臨床的必要性の先に、POCTという選択肢がある。 Clinical Need ↓ POCT ↓ StatStrip Glucoseとβ-OHBを、同じPOCTの診療フローで評価する StatStrip Glucose Ketone
自施設データによるDKAリスク評価
#27. GlucoseとKetoneを、その場で並べて読む Part 8 Part 8 Part 8 27 HyperglycemiaとKetosisを、同じ診療場面で評価する。 Glucose 10–900 mg/dL 院内POCTとして血糖を測定 β-OHB 0.1–7.0 mmol/L 10秒 | 0.8 μL KetosisのCurrent stateを定量 Glucose + β-OHB 血糖値だけでは見えないDKAを、β-OHBで補完する 国内公式公開資料を参照。LifeScan提供資料で最終確認予定
#28. 当院自験データ:何を見た研究か Part 9 Part 9 POCT β-OHBが、DKAを疑う外来・救急場面でどう役立つかを振り返る。 単施設 後ろ向き β-OHB測定例を解析 2024 Consensusとの関係を再整理 Part 9 28
#29. β-OHB ≥3.0 mmol/L群は高リスク集団だった Part 9 Part 9 当院の選択された高リスク集団では、DKA有病率が高かった。 38/45例 β-OHB ≥3.0 mmol/L群 84% 当院データにおけるDKA有病率 単施設・後ろ向き・症例数限定。一般化せず「当院の選択された高リスク集団において」と解釈する。 Part 9 29
#30. pH中心の評価では見逃し得る Part 9 Part 9 混合性酸塩基障害ではpHだけが正常方向に見えることがある。 混合性酸塩基障害 pHが正常方向へ HCO₃⁻低下 AG開大 β-OHB高値 Part 9 30
血中ケトン体の測定基準と背景評価
#31. AGは診断必須項目ではないが、病態理解の手掛かり Part 9 Part 9 2024 ConsensusではAGはDKA診断必須項目ではない。
増えた酸を探す補助として使う。 AG開大は診断名ではない 乳酸・ケトン・尿毒症・中毒を考える 混合性障害の理解に役立つ DKA診断はD・K・Aの3要素で判断する Part 9 31
#32. 外来で、この患者にはKetoneを測る Part 10 Part 10 Diabetes+症状・背景のどれかがあれば、血中β-OHBを考える。 DIABETES 嘔気/嘔吐 腹痛 食事摂取不良 脱水 頻呼吸 原因不明の倦怠感 高血糖 Sick day SGLT2阻害薬 Insulin中断 ↓ Blood β-OHB Part 10 32
#33. 血糖が高くなくても測る場面がある Part 10 Part 10 “糖尿病らしい高血糖”を待っていると、euglycemic DKAを見逃す。 糖尿病既往 SGLT2阻害薬 食事摂取不良 嘔気・腹痛 β-OHB測定 Part 10 33
#34. β-OHB <0.6:通常範囲でも患者へ戻る Part 11 Part 11 数値だけで帰宅を決めず、臨床像が合わなければ再評価する。 POCT β-OHB
<0.6 通常範囲
ただし症状・Vital・脱水が合わなければ再評価 Part 11 34
DKA治療中の評価と次の行動
#35. β-OHB 0.6–<3.0:Ketosisとして背景を探す Part 11 Part 11 食事摂取、脱水、薬剤、感染を見て、再検・相談を考える。 β-OHB
0.6–<3.0 Ketosis
背景評価・再検・専門医相談を検討 Part 11 35
#36. β-OHB ≥3.0:立ち止まる値 Part 11 Part 11 DKAを強く疑い、Acidosisと全身状態を評価して対応を決める。 β-OHB
≥3.0 pH / HCO₃⁻を確認
Vital・循環・意識を評価
救急対応/紹介を検討 Part 11 36
#37. 測定後の判断は単独数値では決めない Part 11 Part 11 β-OHBは、Vital signs・症状・Acidosis・循環・背景疾患と統合する。 β-OHB Vital signs 症状 Acidosis 循環 背景疾患 帰宅/再評価/紹介 Part 11 37
#38. Ketometer|いつ測る? Part 11 38 Diabetes+症状・背景があれば、血中β-OHBを考える。 DIABETES ↓ 嘔気/嘔吐 腹痛 食事摂取不良 脱水/頻呼吸 Sick day/感染 SGLT2阻害薬・Insulin中断 ↓ Blood β-OHB “DKAらしくなってから”ではなく、疑った最初の採血で測る 可能なら補液・Insulin前にbaselineを測る ※治療を遅らせない
#39. Ketometer|測ったら、次にどうする? Part 11 39 Ketoneは“測って終わり”ではなく、次の行動を決める検査 CASE A 軽い倦怠感
Glucose 220 β-OHB 0.3 mmol/L 通常範囲 → 症状・Vitalと整合確認 CASE B 嘔気・摂取不良
SGLT2阻害薬 β-OHB 1.2 mmol/L Ketonemia → 背景評価
→ 必要なら再測定 CASE C 嘔吐・頻呼吸
脱水 β-OHB 4.1 mmol/L DKAを強く疑う → Acidosis評価
→ 救急対応/紹介 測定 → 背景と統合 → 次の行動
#40. β-OHBは診断だけでなく、治療目標になる Part 11 40 測る価値は診断時だけではない。改善したかを数字で追える。 <0.6 mmol/L Normal / Resolution目標 0.6–<3.0 mmol/L Ketonemia ≥3.0 mmol/L DKAを強く疑う β-OHB trend 6.2 → 3.8 → 1.4 → 0.5 Baseline → Trend → Resolution DKA Resolution:β-OHB <0.6 + pH ≥7.3 OR HCO₃⁻ ≥18
DKA管理のための重要なポイント
#41. DKAと診断した。その次に何を見る? Part 12 Part 12 DKAと診断した時点で終わらない。治療しながら6つを見る。 循環
まずVolume K
低下を先読み Ketone
血糖よりKetone Na/Osm
Naだけで動かない 誘因
原因を同時に治す 治療後
新しい異常を読む Part 12 41
#42. Glucose ↓ ≠ DKA resolution Part 12 Part 12 血糖が下がっても、KetoneとAcidosisが止まっていなければ終わっていない。 Glucose ↓ Ketone / Acidosis 治療終了ではない Part 12 42
#43. 治療のClinical Pearl Part 12 Part 12 循環を戻し、Ketoneを止め、KとTonicityを安全に保つ。 Volumeを戻す InsulinでKetogenesisを止める K低下を先読み Tonicityを安全に管理 再評価を続ける Part 12 43
#44. POCTは“その場で判断する”ための検査 Part 13 Part 13 Part 13 44 Glucoseとβ-OHBを並べると、「糖」と「Ketosis」を同時に読める。 Glucose 糖代謝の現在地 高血糖・低血糖
HHS評価の入口 β-OHB Ketosisの現在地 DKA疑いの強さ
経過評価の補助 Glucoseだけではなく Glucose + β-OHB 「糖」と「Ketosis」を同時に読む StatStrip Glucose Ketone
#45. Take Home 1:血糖だけでDKAを除外しない Take Home Take Home 糖尿病+嘔気・腹痛・食事摂取不良では、Ketosisを見に行く。 1 血糖だけで
DKAを除外しない Take Home 45
#46. Take Home 2:DKAを疑ったら血中β-OHBを直接測る Take Home Take Home 尿Ketoneは入口。β-OHBで現在のKetosisを定量する。 2 DKAを疑ったら
血中β-OHBを直接測る Take Home 46
#47. Take Home 3:β-OHBを測ったら、Trendを見る Take Home 47 3 β-OHBは
“ある・ない”ではなく
“どれくらい・どう動いたか”を見る 0.6–<3.0:背景評価・再検 ≥3.0:DKAを強く疑う Resolution:<0.6
#48. POCTの価値は“その場で次の行動を決められること” Take Home Take Home 測れることではなく、行動が変わることが価値。 「測れること」ではなく、 「その場で次の行動を決められること」 がPOCT Ketometerの価値。 Take Home 48
#49. 明日の外来から、ここまでできれば十分です Take Home Take Home Take Home 49 1 糖尿病患者の嘔気・腹痛・食事摂取不良・脱水・Sick dayで
「血糖だけで安心しない」 2 その場で Blood β-OHB を考える 3 β-OHB + pH / HCO₃⁻ + Vital / 循環を統合する 4 必要なら再測定・救急対応・専門施設へ紹介する Ketoneを測る目的は、数値を知ることではなく、
次の行動を決めること。
#50. Backup:参考文献 Backup Backup 医学的根拠は2024 Hyperglycemic Crises Consensus Report。 Hyperglycemic Crises in Adults With Diabetes: A Consensus Report. Diabetes Care 2024 β-OHB直接測定の推奨 D・K・Aの3要素 euglycemic DKAの扱い Backup B01