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46歳男性のふらつきの経過と症状
#1. 46歳男性 ふらつき 一宮西病院総合内科 リウマチ膠原病内科
若山 裕人
〜病態生理で紐解く/脱キーワード診断〜
#2. 【主訴】ふらつき
【現病歴】X年7月8日午前2時に突然の右大腿部のしびれ、ふらつ
きが出現。近医受診し頭部MRIを撮影され異常を認めなかった。
7月9日右大腿部のしびれは改善。夕方に“左眼瞼の腫れぼった
さ”に気づいた。7月10日歩行時に左に寄ってしまい上手く歩けな
いとのことで当院を受診した。
【既存症】高血圧(10年前から内服治療)
【内服歴】カンデサルタン
【アレルギー】なし
【症例】46歳、男性
#3. X/7/8 X/7/10 【現病歴】 X/7/9 昼からふらつきが増悪。歩行時に左に体寄っていく。 ふらつきのみ残存。しびれは消失。夕方に左眼瞼の腫れぼったさに気がついた。腰部MRIは正常。 午前2時に突然の右大腿のしびれ、ふらつきが出現、救急要請し近医受診。頭部MRIは正常。 再度前医で頭部MRI撮影、精査希望して受診した。
身体診察と初期検査結果
#4. BT 37.5℃, BP 168/107 mmHg, HR 62 回/分
SpO2 98%(room air), RR 15回/分
左眼が右眼に比較して細い(開きが悪い)
眼球結膜: 黄染なし、充血なし 体表のリンパ節触知しない
頸静脈拍動胸骨角+2cm 心音リズム整, 心雑音なし
呼吸音:清
腹部: 軽度膨満, 軟, 腸雑音30秒間で5回低張な腸雑音聴取
四肢: 浮腫なし
※診察時免許証を確認したが免許証では左右の差はなし 【身体診察】内科専攻医が診察
#5. 脳神経:Ⅰ〜Ⅻ正 対光反射正
感覚:右大腿外側で痛覚・触覚・冷覚が低下
振動覚正 痛覚正 位置覚正 左手の指鼻がやや稚拙
運動:MMT5/5 筋トーヌス正 容積正 不随意運動なし
高次機能:見当識正 記憶正
反射(R/L):下顎- 上腕二頭筋+/+ 橈骨+/+
上腕三頭筋+/+ 尺骨+/+ 膝+/+ 踵-/-
【歩行】左に寄っていきまっすぐ歩けない 足元見ながら歩行する
【身体診察】内科専攻医が診察
血液検査と画像診断の所見
#7. 【血液検査 】X/7/10 APTT 19.7 秒 PT-INR 1.02 Dダイマー 6.95 μg/ml ビタミンB12 6.95 μg/ml 亜鉛 80 μg/ml 銅 118 μg/ml
#9. 【頭部MRI】(7月10日) 頭部MRI 正
#10. 【所見のまとめ】 高血圧の既往のある46歳男性 突然発症の右大腿部の感覚障害 ふらつき 左眼瞼の開きが悪い
鑑別診断と診断方法の考察
#12. ふらつき 感覚障害 【思考回路】 組み合わせで診断名を想起 その病気に当てはまる・当てはまらない推論 1つ1つの事象の分析が甘く、事実からかけ離れる 左眼瞼の開きの悪さ
#13. 【思考回路】 野球ボールだとすると・・ テニスボールだとすると・・ 大きさ・形・重さ・硬さ等
この物質に関して分析
#14. 【思考回路】 野球ボールだとすると・・ テニスボールだとすると・・ 大きさ・形・重さ・硬さ等
この物質に関して分析
#15. 【診断とは】 ・診断は根拠事象を持って集合を右に進めていく作業。 血小板減少の集合の1例 ・集合は絶対的で互いに重複があってはならない。 ・集合はカテゴリーを意識して作成する。
診断の根拠と症例分析
#16. 【診断とは】 ・事実と解釈の分離を徹底的にする。 例1)胸部CTで2cm程度の腫瘍(解) 例2)骨髄穿刺で白血病細胞あり(解) ・解釈を事実として捉えているような記載の例。 2cm×2cmの境界明瞭・辺縁整・内部30HUの腫瘤(事) 細胞質が赤血球の2倍で薄い紫色で類縁形で核が細胞質の90%程度をしめ核小体が目立つ濃い紫色の細胞を認める(事)
#17. 【診断に関して】 ・診断は病気を当てるゲームではない。 ・診断は患者の体に何が起こっているのかを正確に
把握すること。 ・自分が形態の評価をしているか機能の評価をしてい
るのか意識して診療に当たる。
#18. #1 高血圧症
#a ふらつき
#b 片側性下肢感覚障害
#c 片側性眼瞼狭小化 【プロブレムリスト】 ※プロブレムリストは疾患の開始順とする
#19. ふらつき ⊃小脳・前庭の異常 ⊃深部覚の異常 ⊃筋力低下(錐体路の異常) 【考察】#a ふらつきに関して
#20. ふらつき ⊃小脳・前庭の異常 ⊃深部覚の異常 ⊃下肢筋力低下(錐体路の異常) ・振動覚、位置覚正 ・ ・MMT正、腱反射正 【考察】#a ふらつきに関して ・指鼻指試験が稚拙
ふらつきと感覚障害のメカニズム
#21. 【考察】#a ふらつきに関して 脊髄小脳路 同側固有感覚を伝達 側索の外側を上行 脊椎脊髄ジャーナル 33巻11号
#22. 後角から入って脊髄で交差 脊髄の外側を上行 視床のVPLから感覚野へ 【考察】感覚の経路
#23. 【考察】#b に関して 温痛覚障害⊃脳 ⊃脊髄 ⊃末梢神経
#24. 眼瞼狭小化 ⊃交感神経異常 ⊃動眼神経麻痺 ⊃神経筋接合部疾患 【考察】#c 眼瞼狭小化 に関して
眼瞼狭小化の原因と考察
#25. 【考察】 まぶたを上げる筋肉 挙筋腱膜ー動眼神経 ミュラー筋ー交感神経
#26. 眼瞼狭小化 ⊃交感神経異常 ⊃動眼神経麻痺 ⊃神経筋接合部疾患 【考察】#c 眼瞼狭小化 に関して ・眼球運動正、対光反射正 ・日内変動なし ・左目の縮瞳
#27. 1次ニューロン 2次ニューロン 3次ニューロン 視床下部から頸髄側角に下降。 内頚静脈の外膜内を海綿静脈洞、上眼眼瞼筋や瞳孔散大筋へ 交感神経節から上顎神経節へ。 【考察】#c 眼瞼狭小化 に関して
#28. 【考察】 これら3系統を同時に障害する病変が中脳~胸髄に存在
延髄外側症候群の診断と経過
#29. 【頭部MRI】7月11日 延髄外側にDWIで高信号
#30. 病因の時間経過 突発性:血管・外傷 急性:炎症・中毒・免疫・代謝 慢性:腫瘍・変性・炎症 再発性:内分泌・脱髄・中毒 【病気の性質に関して】
#31. X/7/11 X/7/14 【現病歴】 X/7/13 左顔面の温痛覚低下、右半身全体に温痛覚低下としびれ、ふらつきが増悪、嚥下障害が出現。 頭部MRIで延髄外側症候群の診断でDAPT、スタチン開始。 症状は軽快しリハビリを行い7/28に退院となった。
脳幹梗塞のMRI所見と診断の重要性
#32. 【延髄外側症候群】 ①Ⅷ→眼振・めまい ②Ⅸ Ⅹ→球麻痺 味覚障害 ③三叉神経脊髄路→顔面の温痛覚障害 ④下小脳脚→小脳失調 同側の症状 反対側の症状 ⑤ホルネル症候群 ①頸部以下の温痛覚障害 臨床のための神経機能解剖学より引用
#33. 【延髄外側症候群】 Brain, Volume 126, Issue 8, August 2003, Pages 1864–1872
#34. 【延髄外側症候群】 Brain, Volume 126, Issue 8, August 2003, Pages 1864–1872
#35. 【脳幹梗塞のMRIに関して】 ・病変小さい脳幹梗塞は初診時に頭部MRIで偽陰性 になることがある。 ・Thinスライスの冠状断を加えることで検出感度が
向上する。 ・脳幹病変は直径が小さく骨に近くアーチファクト
が生じやすい。 Neurology. 1999 Jun 10;52(9):1784-92. Stroke. 2021 May;52(5):1843-1846. AJNR Am J Neuroradiol. 2000; 21:1434–1440
#36. #1 高血圧症
#a ふらつき
→#2 延髄外側症候群
#b 片側性下肢感覚障害(#2)
#c 片側性眼瞼狭小化(#2) 【プロブレムリスト】 ※プロブレムリストは疾患の開始順とする
発表のまとめと今後の連絡先