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風邪の初期に迷わない漢方治療
#1. 風邪の治療と漢方理論 風邪の初期に迷わない!葛根湯・麻黄湯・桂枝湯・ 麻黄附子細辛湯の選び方から、仕上げまで。 聖マリアンナ医科大学 総合診療内科 中田佳延 1 1
#3. 『傷寒論』 • 漢方医学がよりどころとしている教科書の一つ • 後漢の張仲景によって編纂された • 作成のきっかけは,約200人いた一族が,10年の間 に主に急性熱性疾患によって2/3が死亡したこと. • 臨床に即した本であり,治療法の鑑別や,副作用の 対処方法についても触れられていることが特徴. • 現在『傷寒論』は急性期疾患についての本であるが, 以前は慢性疾患について書かれた『金匱要略』と セットであり,傷寒雑病論(傷寒卒病論)と称する. 3
葛根湯・麻黄湯・桂枝湯の特徴
#4. 葛根湯についての記載 葛根湯 太陽病項背強几几無汗悪風葛根湯主之 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ① たいようびょう. →漢方における病期(ステージ)の名称! 発病初期 ② こうはいこわばることしゅしゅ(もしくは、「きき」) 背筋に沿った凝り ③ むかん 汗が出ていない状態 ④ おふう 風に当ると寒い ⑤ かっこんとう ⑥ これをつかさどる 第一選択です つまり,発症初期で,首筋が凝って寒けがして汗がなければ 葛根湯を投与しなさいと教科書に書いてある 4
#5. 太陽病とは 太陽之為病脈浮頭項強痛而悪寒 ① ① ② ③ ④ ② ③ ④ たいようのやまいたる 太陽病とは みゃくふ 脈を軽く触って強く触れ(押し込むと弱くなり) ずこうきょうつうし 頭や首の後ろがこわばっていたく おかんす 寒けがする 太陽病の定義であり,これらがあれば太陽病 つまり,急性熱性疾患の初期症状 麻黄湯・葛根湯・桂枝湯という3種類の方剤が基本 5
#6. 六病位:漢方における 急性熱性疾患のステージング 太陽病少陽病陽明病太陰病少陰病 厥陰病 陽証(熱証) 陰証(寒証) この6つのステージに分けられる。 →実際の風邪は太陽病か少陰病で発病することが多い. →また,必ずしもこの順番通りに進むとは限らない. 6
麻黄湯と桂枝湯の適応症
#7. 麻黄湯 太陽病頭痛発熱身疼腰痛骨節疼痛悪風無汗 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ 而喘者麻黄湯主之 ⑨ ⑩ ① 太陽病 ② 頭痛 ③ 発熱 ④ 体が痛み ⑤ 腰が痛み ⑥ 節々の痛み ⑦ 風が吹くと寒い ⑧ 汗が出ず ⑨ ゼイゼイする ⑩ 麻黄湯が第一選択である 発症初期で,汗が出ず,熱が出て寒けがして,頭痛や体や腰,関節が痛み, ゼイゼイして脈を軽く触ってびんびんの状態. 適応:感冒・インフルエンザ・関節リウマチ・喘息・乳児の鼻閉感・哺乳困難 7
#8. 桂枝湯 太陽病頭痛発熱汗出悪風桂枝湯主之 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ① 太陽病 ② 頭痛 ③ 発熱 ⑤ さむけ ⑥ 桂枝湯が第一選択 ④ 発汗している (実際にはジトーッと発汗:手で触れて確かめる) 発症初期で,汗があり,熱が出て寒けがして,頭が痛ければ桂枝湯 (脈は軽く触っただけで触れるが,弱い.) 適応:闘病反応が弱い風邪の初期、妊婦の風邪 8
#9. 太陽病の漢方薬 比較 太陽病・発熱・頭痛・寒けまでは共通 麻黄湯 麻黄・桂皮 甘草 ・杏仁 汗出ず・体・腰・関節などが痛い・ゼイゼイする 葛根湯 重症感 葛根・麻黄・桂皮・芍薬・甘草・生姜・大棗 汗出ず・背筋に沿った凝り 桂枝湯 桂皮・芍薬・甘草・生姜・大棗 発汗あり 麻黄・桂皮:発汗させる。桂皮・甘草:のぼせを抑える。 9
#10. レベルアップ風邪の初期: エキス剤での漢方薬の組み合わせ 麻黄湯の状態+じっとしていられない →大青竜湯(麻黄湯:越婢加朮湯=1:1) 発汗有 さむけ麻黄湯よりは軽度 熱感が強い →桂麻各半湯(桂枝湯:麻黄湯=1:1) 発汗有 さむけ軽度 熱感有 口渇 →桂枝二越婢一湯(桂枝湯:越婢加朮湯=2:1) 10
漢方薬の成分とその効果
#11. 西洋医学を漢方の病期にはめると -太陽病期- ウィルス疾患の場合 インフルエンザ 抗インフルエンザ薬 COVID-19 抗コロナ薬 感冒 対症療法が中心 熱に対しアセトアミノフェンや、咳などへの対症療法の薬が 出されることが多いであろう 11
#12. ちょっとブレイク 漢方は粉薬!? 参考:ツムラ 12
#14. 漢方は多成分系 例えば葛根湯 7種類の生薬 葛根・麻黄・桂枝・芍薬・甘草・生姜・大棗 さらに 葛根:デンプン・フラボノイド(ダイゼインなど)・トリテルペノイドなど 麻黄:アルカロイド(エフェドリンなど)・タンニンなど 桂皮:アルデヒド(ケイヒアルデヒドなど)・ジテルペン類など 芍薬:モノテルペン・モノテルペン類(ペオニフロリンなど)など 甘草:トリテルペノイド配糖体(グリチルリチンなど)・フラボノイドなど 生姜:精油成分(ジンゲロール・ショガオールなど)・モノテルペン化合物など 大棗:トリテルペノイド類・サポニン類・糖類など 14
少陽病とその治療法
#15. つまり、いろいろな状態に効果を発揮 風邪薬の葛根湯ですが、それ以外にも適応があります ツムラの手帳から抜粋 生薬構成を見ながら、何に効きそうかを考えるのも面白いです
#16. 少陽病 少陽之為病口苦咽乾目眩也 ① ① ② ③ ④ ② ③ ④ しょうようのやまいたる 少陽病とは こうく くちがにがくなる いんかん のどが渇く もくげんなり めまいがする これらがあれば少陽病.ちょっと時間が経った状態である. 午後になると寒けがして熱が出て, そのうちに熱く感じて,発汗とともに熱が下がると訴えることもある. 小柴胡湯・柴胡桂枝湯など 16
#17. 柴胡剤と疾患への目標 急性期:傷寒論には体質の虚弱の記載無し→症状に対して処方 慢性期:虚実を考える 小柴胡湯を投与したが、 まだ嘔気が強い 上腹部痛がある 大柴胡湯 小柴胡湯 柴胡桂枝湯 わずかに悪寒 節々の痛みや違和感 かすかな嘔気 寒気と熱感が交互 食欲低下 嘔気 胸部の煩わしさ 口渇 腹痛 動悸 咳 柴胡加 竜骨牡蛎湯 動悸・胸苦しい ちょっとしたことに驚く うわごと 体が重い 寒気と熱感が分離して存在 (頭汗+足の冷え など) 口渇 胸部の煩わしさ 柴胡桂枝 嘔気は無い 乾姜湯 動悸
#18. 西洋医学を漢方の病期にはめると -少陽病期- 対症療法が主体 気管支炎・肺炎・副鼻腔炎など,細菌による二次感染が生じたら, 新たに診断して抗生剤の必要性を検討する. 18
少陰病と麻黄附子細辛湯の選択
#19. 少陰病 少陰之為病脈微細但欲寝也 ① ② ③ ① 少陰やまいたる ② 脈がとても弱く ③ただ寝ていたい 少陰は“陰”なので、理論上本来は熱感や熱がない。 19
#20. 麻黄附子細辛湯 少陰病始得之反発熱脈沈者麻黄細辛附子湯主之 ① ② ③ ④ ① 少陰病始め之を得て 少陰病で始まって ② 発熱 ③ 脈は強く触れないと分からない (浮いていない) ④ 麻黄附子細辛湯が第一選択 少陰病で始まったにもかかわらず発熱して、脈が沈んでいる 顔色が悪く、寒気がして元気がない。 20
風邪薬の比較と使用法
#21. 風邪やインフルエンザの薬の比較 太陽病・発熱・頭痛・寒けまでは3剤共通 麻黄湯 麻黄・桂皮 甘草 ・杏仁 汗出ず・体・腰・関節などが痛い・ゼイゼイする 葛根湯 重症感 葛根・麻黄・桂皮・芍薬・甘草・生姜・大棗 汗出ず・背筋に沿った凝り 桂枝湯 桂皮・芍薬・甘草・生姜・大棗 発汗あり 少陰病 麻黄附子 細辛湯 顔が赤い・熱が出ていそう 寒気がして、倦怠感が辛いといった経過 附子・細辛 麻黄 顔色悪い・冷えていそう 21
#22. 風邪薬まとめ 太陽病 (急性期) 少陽病 (亜急性期) 少陰病 麻黄湯 無汗・脈浮緊・発熱・寒け・頭痛・体腰関節痛・喘 葛根湯 無汗・脈浮緊・発熱・寒け・頭痛・後頚部痛 桂枝湯 汗有・脈浮弱・発熱・寒け・頭痛 柴胡剤 食欲低下. 嘔気・動悸など.熱が上がったり下がったり. 食事が美味しくない・口が苦い. 麻黄附子細辛湯 脈沈・寒けと倦怠感が主,熱が出ても少しで, 喉が痛くてもちくちくする程度の地味な感じを受ける風邪 高齢や体力の無いものに認めやすい 22
#23. 風邪薬(ウィルス感染) 西洋薬と漢方薬の処方の違い 西 総合感冒薬 洋 対症療法 ★二次感染(急性副鼻腔炎・肺炎など) 抗生剤の使用 (解熱薬?・咳止め?) 初 期 漢 方 (急性期) (亜急性期) 麻黄湯 柴胡剤 葛根湯 桂枝湯 麻黄附子細辛湯 (仕上げ) 補中益気湯・六君子湯 竹茹温胆湯・麦門冬湯 辛夷清肺湯・柴朴湯 滋陰降火湯 など 23
咳の種類と漢方薬の選び方
#24. 咳 (空咳) 麦門冬湯 滋陰降火湯 こみ上げてくるような発作性の咳嗽・ 喉の詰まった感じ・乾燥感 『金匱要略』 肺痿肺癰咳嗽上気病脈証治 空咳・布団に入ると咳が出るなど 『万病回春』虚労篇 無効なら 大逆上気 咽喉不利 咽が突然イガイガして しばらく咳が止まらない 注意:乾性咳嗽になってからでないと効きません 麦門冬湯より潤す作用が強い 24
#25. 咳 (心因性咳嗽) 柴朴湯 空咳 話そうとしたときや、 思い出すと咳が出る。 気にすると咳が出る。 出てほしくないときに咳が出る。 本朝経験方 小柴胡湯+半夏厚朴湯 寝ているときには咳が出ない もしくは、咳で起きたことがない 半夏厚朴湯:『金匱要略』婦人咽中如有炙臠 小柴胡湯:『傷寒論』・『金匱要略』 25
#26. 咳 (湿性咳嗽) 首から下 清肺湯 色の付いた、痰を伴う咳。 気管支炎・肺炎 『万病回春』咳嗽篇 治一切咳嗽上焦痰盛 辛夷清肺湯 首から上 後鼻漏のたれ込みによる咳。 後鼻漏・鼻閉・膿性鼻汁・副鼻腔炎 『外科正宗』鼻痔門 治肺熱鼻内瘜肉始如榴子 日後漸大閉塞孔竅気不宣通者服之 甘生大茯陳桑桔杏貝竹当五麦天山黄 草薑棗苓皮柏梗仁母筎帰味門門梔芩 皮 子冬冬子 麦 山黄 石升百枇知辛 門 梔芩 膏麻合把母夷 葉 冬 子 清 肺 湯 清 肺辛 夷 湯 こんなに違う 26
風邪の漢方治療のまとめ
#27. 疲労感・食欲低下 疲労感>食欲低下 食欲低下>疲労感 補中益気湯 六君子湯 手足倦怠・言葉が弱い・目力がない・口に泡 が溜る・食事に味がない・熱いものを好む・ 臍の周りに動悸を触れる・脈が力がない 朝起きるのがつらい・食後に眠い 疲れやすい・常にだるい 『内外傷弁惑論』 疲労倦怠にも効果があるが,どちらかという と食欲低下や胃のあたりの症状が得意 食欲低下・心窩部違和感 機能性ディスペプシアに伴う上腹部症状 ・早期膨満感 『万病回春』 補益篇 27
#28. 咽の痛み 熱がある 小柴胡湯加 桔梗石膏 小柴胡湯+桔梗石膏 熱が無い 桔梗湯 石生大桔甘人半黄柴 膏薑棗梗草参夏芩胡 10 1 3 3 2 3 5 3 7 基本的には少陽病の薬→熱(感)有り。 桔甘 梗草 2 3 少陰病。二三日。咽痛者。可與甘草湯。不差者。與桔梗湯。 28
#29. 風邪の漢方のまとめ 風邪の引き初め 麻黄湯:インフルエンザのような激しい状態。 葛根湯:風の引き初めでゾクゾク。 桂枝湯:闘病反応の弱い風邪。妊婦の風邪。 麻黄附子細辛湯:寒けと倦怠感の地味な風邪。顔色悪い。 ちょっと時間がたった 小柴胡湯・柴胡桂枝湯:食欲が落ち、熱に波が出てきた。 仕上げ 風邪が治った後の体調不良にも対応できる。 29