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術中低血圧の影響と管理方法
#1. Computer-assisted Individualized Hemodynamic Management Reduces Intraoperative Hypotension in Intermediate- and High-risk Surgery: A Randomized Controlled Trial Anesthesiology. 2021;135(2):258-272. doi:10.1097/ALN.0000000000003807
#2. Introduction 術中低血圧の大きさと持続時間は術後転機に悪影響を及ぼす。 Br J Anaesth. 2019; 122:563‒74 大規模(n=292)な多施設RCTにおいて,手術中の血圧管理の方法として,血圧を基準値から10% 以内に個別化して維持すると,術後臓器機能不全が減少することが示されている。 JAMA 2017; 318:1346‒57 循環動態を最適化するためには,血圧と心拍出量を繰り返し測定し,昇圧剤と輸液の必要性を判 断し,流速や投与量を頻繁に調整する必要があり,麻酔科医の負担となる。 本研究では,コンピュータ支援システムを用いて昇圧剤と輸液を制御することで,手動で管理し た場合と比較して,術中低血圧(患者ごとの平均動脈圧がベースラインの90%未満)が少ないこ とを証明した。 2
研究デザインと麻酔方法の詳細
#3. Methods ① 研究デザイン,対象患者 デザイン:ランダム化比較試験 施設:単施設(Bicêtre病院,フランス) 期間:2019年10月〜2020年6月 組入基準:中〜高リスク(ESC/ESA guideline,下図)の腹部または整形外科の予定手術 橈骨動脈カテーテルを用いて血圧を測定し,循環動態管理プロトコル(後述)に従う 除外基準:18歳未満,妊娠,不整脈,参加拒否 Eur J Anaesthesiol. 2014;31(10):517-573. 3
#4. Methods ② 麻酔方法 術前:ACE阻害薬とARBは術前48時間前までに中止 モニター:心電図,パルスオキシメータ,カプノグラフ,体温,BIS,NIBP A-line,一回拍出量係数 導入:スフェンタニル(2μg/kg),プロポフォール(2mg/kg) 挿管:アトラクリウム(0.6 mg/kg,TOFを2未満に維持するために10mgまでボーラス) 維持:セボフルラン(BISを40~60で維持),スフェンタニル(必要時,0.1〜0.2μg/kg) 換気:ボリュームコントロール(TV 7~8ml/kg,EtCO2 34~38cmH2O) 抗菌薬・制吐薬:手術開始30分前 術後疼痛管理:開腹術には全例硬膜外麻酔を併用 4
循環動態管理プロトコルとシステム
#5. Methods ③ 循環動態管理プロトコル 昇圧剤:ノルアドレナリン(MAPがベースラインの90%以上かつ65mmHg以上) 輸液:乳酸リンゲル液(2~4ml/kg/h。その他に,一回拍出量係数が10%以上低下した場合に, 100mlを1分間でボーラスし,10%以上の上昇が無くなるまで繰り返す。) 5
#6. Methods ④ コンピュータ支援システムの構成 6
主要および副次的アウトカムの結果
#7. Methods ⑤ アウトカム 主要アウトカム 術中に低血圧となった時間の割合 (MAPがベースラインの90%未満となった時間が麻酔時間に占める割合) 副次アウトカム 術後軽度合併症(POD30)の発生率 (術後の悪心・嘔吐、せん妄、創感染、尿感染、肺炎、急性腎障害、麻痺性イレウス、その他の 感染、術後30日以内の再入院など) 探索的アウトカム(抜粋) MAPが65mmHg未満となった時間の割合、総輸液量,総ノルアドレナリン投与量,術中のノルア ドレナリン流速変更回数,術前と術後の乳酸値,入院期間 7
#8. Results ① Patient flow 8
#9. Results ① Patient flow 両群ともに19名の患者が割付られた 9
#10. Results ② Patientsʼ characteristics 2群間で患者背景に大きな差は見られなかった。 MAPのベースライン 90 [IQR, 85 ‒ 90] vs. 90 [IQR, 85 ‒ 90] 腹腔鏡下手術 6人 vs. 4人 硬膜外麻酔 13人 vs. 13人 10
術中データとコンピュータ支援の効果
#11. Results ③ Primary and secondary outcomes 11
#12. Results ③ Primary and secondary outcomes コンピュータ支援群で術中低血圧と手術部位感染の頻度が減った 12
#13. Results ④ Intraoperative data 13
#14. Results ④ Intraoperative data 麻酔時間と輸液量に有意差は無かった コンピュータ支援群の方が, ノルアドレナリンの投与量は少なく,流速の変更回数が多かった コンピュータ支援群の方が,術後の乳酸値が低かった 14
探索的アウトカムと議論
#15. Results ⑤ Exploratory outcomes 15
#16. Results ⑤ Exploratory outcomes コンピュータ支援群の方が手術終了時の拍出量が多かった コンピュータ支援群の方がより血圧が目標の範囲内に収まっていた 主要な合併症と入院期間に有意差はなかった 16
#17. Discussion コンピュータ支援群の方が術中低血圧が少なく,血圧が目標の範囲内に収まっていたことから, コンピュータ支援による血行動態管理が手動での血行動態管理より優れていることを実証した。 コンピュータ支援群では術後創部感染が少なく,術後の乳酸値も低かったことから,酸素需給バ ランスが手動調整群よりも上手く保たれていたと考えられる。 コンピュータ支援システムは,医療従事者の負担を軽減しながら,エビデンスに基づく介入を一 貫した形で提供できる可能性がある。 17
研究の限界と今後の展望
#18. Limitations このシステムを広く普及させるためには,幅広い医療従事者が安全に使用できることを保証する ことが必要である。本研究ではコンピュータシステムを麻酔科医とは別で研究責任者が監視して いた。また,事前にシミュレーションや動物実験・臨床でテスト運用を行っていた。加えて,予 備のノルアドレナリンシリンジと,ノルアドレナリンと輸液の反応が悪い場合はドブタミンが使用 できるよう準備していた(本研究では使用しなかった)。 中・高リスクの腹部および整形外科手術に限定されており、今回の知見は他の環境(心臓手術や 集中治療)には適用できないかもしれない。 18
結論と感想
#19. Conclusions & 感想 コンピュータ支援による血行動態管理は,中または高リスクの腹部および整形外科手術を受ける 患者において,手術中に適切な血行動態目標を維持するのに役立つ。 疾患によって手術時間や侵襲が異なると考えられるので,サンプルサイズを大きくし層別化した 結果が得られれば,コンピュータ支援での管理をすべき症例が決めやすいと思った。 19