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まっさん@精神科.児童精神科

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テキスト全文

  • #1.

    どう評価したらいい? ~自閉スペクトラム症の 方に精神的不調がみられ たとき~ まっさん@精神科.児童精神科

  • #2.

    本スライドの対象者 • 初期研修医 • 精神科専攻医 • 小児科医 • ASD(Autism Spectrum Disorder;ASD)の方の 支援に関わる人全般 “ASDの診断がある(ありそうな)人に精神 科的な問題起きてそう…でも何きけばいい の…”と一度でも思ったことがある方向け

  • #3.

    目次 ① ASDの精神科的併存症(総論) ② ASDの精神科的併存症(各論) ③ ASDの方に精神症状がみられた時の評価手順 ④ まとめ

  • #4.

    目次 ① ASDの精神科的併存症(総論) ② ASDの精神科的併存症(各論) ③ ASDの方に精神症状がみられた時の評価手順 ④ まとめ

  • #5.

    なぜ精神科的併存症の理解が大事なの?  精神科的併存症は、ASDの主要徴候と複合的に関 与しながら多彩な臨床像を形成する  併存症が顕在化した時に、医療・職場・学校など を含めた多職種連携の必要性が高まる  (ASD)未診断の人が併存症を主訴に医療機関を受 診する場合がある→ASD診断に基づく支援開始の きっかけ!  Diagnostic overshadowing(=診断の過剰投影)* を防ぐことに繋がる *)ある発達障害の診断名がいったんついてしまうと、その人に様々な問題が生じた場合に、 その背後にある諸要因を深く探ることなくその診断に基づく問題(障害の一部)と考えられ てしまい、必要な対応が取られかねない事態となる。発達障害の人に併存しやすい併存症と その捉え方を知ることでこれをある程度防ぐことが出来、誤診断や対応の遅れを防ぐことが 可能になります。

  • #6.

    ASDと精神科的併存症の合併 ASDにみられる 精神科的併存症 は併存率も高く かつ重複するこ とも! 56946人の一般母集団から抽出された112名のASD(10歳-14歳;平均12歳) に対し精神科的併存症の有無を包括的に評価(Simonof et al. 2012) ASD児の約70%がなんらかの精神科的併存症の診断に合致 する(41%の児が2つ以上の診断基準に合致) →ASDの人では、精神科的併存症の評価はルーチンで行 い、介入すべき併存症がないかを明確にする必要がある

  • #7.

    ASDの児童・青年の対応とサポートに 関するガイドライン 英国のNational Institute for Health and Clinical Excellence Guideline 170(2013) ASDの臨床に関わるあらゆる専門家が、ASDにみ られる身体的・精神的併存症の評価、マネージ メントに関するトレーニングを受け、併存症に 対する適切な心理社会的治療または薬物治療が 行われるべきである

  • #8.

    DSM5におけるASDの併存症評価 下記の“特定子(specifier)”を記述し、「どん な特徴や支援ニーズを有するASDの人であるか」 を明記すること 1. 知的障害の有無とその程度 2. 言語障害の有無とその程度 3. 既知の医学的または遺伝的病態、環境的要因の関与  遺伝的病態(例;Rett障害、脆弱X症候群、ダウン症候群)  医学的疾患(例;てんかん)  環境的要因の既往(例;胎児性アルコール症候群、超低出 生体重児) 4.他の神経発達障害、精神医学的障害あるいは行動障害 (American Psychiatric Association,2013)

  • #9.

    他の神経発達障害、精神医学的障害 あるいは行動障害(DSM5)  関連する他の神経発達症  注意欠如多動症  限局性学習症  運動症 (発達性協調運動障害・常同運動障害、チック障害群)  精神疾患  強迫性障害・睡眠障害・気分障害・精神病性障害・フラ ッシュバック・不安障害(限局性恐怖症、全般性不安障 害、社会不安障害)など  行動障害(パニック・癇癪・自傷行為)  カタトニア (→次の各論で説明します) (American Psychiatric Association,2013)

  • #10.

    目次 ① ASDの精神科的併存症(総論) ② ASDの精神科的併存症(各論) ③ ASDの方に精神症状がみられた時の評価手順 ④ まとめ 今回はASDに合併しやすい“関連 する他の神経発達症”以外の併 存症に焦点を絞ります。

  • #11.

    カタトニア(Catatonia) ASDのCatatonia診断基準:Wing(2000) ●基本症状 1. 運動と言葉の緩慢化 2. 活動を起こしたり完遂することの困難 3. 他者による身体的なあるいは言語的な促しに依存することの増加 4. 受動性の増加と自発性低下 ●しばしば伴う症状 昼夜逆転、反復的儀式行動の増加、パーキンソン症状、興奮と不安焦燥 ASDのCatatonia診断基準:太田昌孝(2004) ●基本症状 1. 思春期青年期になり、動作が途中で止まったままであったり、奇妙な 姿勢をとり続けたりする状態があること 2. その状態が起こると数分以上持続し、1日に何回も出現すること 3. 社会適応が障害を受け、それが少なくとも3か月以上持続すること (*除外基準として、明らかな薬剤性パーキンソン症状である場合や、あ るものに没頭している状況は除外) Wing L. Catatonia in autistic spectrum disorders. Br J Psychiatry 176: 357-362, 2000 太田昌孝. 自閉症と緊張病(カタトニア) 臨床精神医学 38(6):805-811、2009

  • #12.

    ASDにおけるCatatoniaの特徴 ・頻度;12-17%(思春期以降を対象にした研究より) ・好発年齢;10歳頃より発症し、ピークは15-19歳 ・知的能力に関係なく出現する。 軽症例も含めると“ASDではよくあること”と家族ですら気に留め ていない場合もあり、適切な介入を受けていない例も多い。 Catatoniaを起こす要因 1. 環境変化などのストレス因 2. 気分障害(特にうつ状態)の合併 3. 統合失調症の合併 4. 向精神薬によるパーキンソン症状(見かけ上のカタトニア) →ASD者は向精神薬(特に抗精神病薬)に対する過敏性が報 告されている Wing L, Shah A. A systematic examination of catatonia-like clinical pictures in autism spectrum disorders. Int Rev Neurobiol 72: 21-39, 2006

  • #13.

    ≪治療≫ 1. 対症療法  心理行動療法(動作の手助け、励まし)  家族、支援者教育 (本人はかなり苦痛を感じていることを理解する)  ベンゾジアゼピン系抗不安薬  修正型電気けいれん療法(⇒劇的に効果を発揮する場合 あり!) 2.合併症の治療(Catatoniaの誘因を治療)  背景にあるうつ病や統合失調症の加療 ⇒抗うつ薬や抗精神病薬が奏功する場合もある

  • #14.

    ・重度catatoniaに陥った時の 当事者の心境を述べたもの。 →自発的に動いたり、疎通が取 れないことの苦しさが記述され ている。 14歳男性 高機能自閉症(FIQ 140) 主訴:進行性の動作緩慢、促し になしには動けない。 (6か月間かけて徐々に進行)

  • #15.

    ASDにおける重度Catatoniaの2例(自験例) 症例1)22歳女性 主訴)寝たきりで食事もとれない (経管栄養が必要なため入院) 最終診断)ASD+うつ病 経過)Sertraline(SSRI)内服で比較的すみやかに改善。退 院後、障害特性の理解が良好なバイト先で適応している。 症例2)17歳男性 主訴)スムーズに動けず失禁してしまう (栄養状態不良のため入院) 最終診断)ASD+強迫性障害 経過)抗うつ薬、抗精神病薬などはほぼ無効。ロラゼパムは効 果的。⇒修正型電気けいれん療法が奏功。ロラゼパム内服を継 続し、障害特性の理解が良好な職場で就労継続中。

  • #16.

    2症例への考察 1. 2例とも若年の高機能ASDであり、生命の危険が及ぶ範囲ま でCatatoniaが悪化、遷延化していた。 Catatoniaが長期 化していても背景病態を考慮した治療に反応した。 2. 症例1は、幼少期にASDの指摘も受けておらず、発達に関 する問題での受診歴がなかったため、当初は統合失調症と 誤診されていた。 3. 症例2は、過去に発達相談などの受診歴があり、既にASD の診断がなされていた。 Catatoniaという現象が、ASDで 比較的よく起きうることを知らないと、誤診や誤った対応 が続くことになる。幼少期の受診歴は非常に重要なヒント になる。

  • #17.

    気分障害  ASDでは大うつ病性障害、双極性障害ともに有病率が高い  抑うつ気分などの言語表現ができず、見過ごされているこ とが多い。  抑うつ症状が、常同行為の増加といった “(ASDの)主要徴 候の増悪”に見える症状として出現する場合やイライラ・ 自傷行為・攻撃性の増悪・catatoniaという形で表出する 場合もある(→一見するとうつっぽく見えない)。  気分障害の症状がASD症状にマスクされて他覚的に認識さ れにくいうえに、その症状の現れ方に個性があり過小診断 となる可能性がある。 ASDの人の気分障害を評価する際は“普段の行動特性との 相違”をより意識することが重要! (①睡眠時間・体重の変化は最低限確認 ②不調時に表れる個々人に特有の 症状を行動上の変化から評価する ③言明される訴えのみから判断しない) 山下洋. 気分障害と広汎性発達障害. 臨床精神医学 37:1525-1533,2008

  • #18.

    気分障害の治療上の留意点 心理社会的介入 ASDの認知特性とその特性ゆえに生じやすいライフイベント や社会状況での困難さを、医療者を含めた周囲の人間が理解 することが治療導入に不可欠である。その上で、環境調整を 本人・職場と協議しながら行う。他の併存症(不安障害な ど)の有無を含めた状態像を総合的に判断し、薬物治療の適 応等も検討する。 薬物治療 ASDに併存した気分障害に特化した薬物治療ガイドラインは 存在しないため、通常のガイドラインに従い標的症状に対す る薬剤選択を行うこととなる。基本的に少量より投与を開始 し、ASDにおける双極性障害の高い合併率も念頭に置きながら、 易怒性や衝動性の増悪の有無や他の併存症の変化も含めた慎 重なモニタリングを心掛け、効果判定を行う必要がある。

  • #19.

    睡眠障害  ASDにおいては、40-80%と他の発達障害に比しても高率にみられ、主 として入眠困難や睡眠維持の困難が報告されている。  常同行為の増加や社会的スキルの低下、イライラ・衝動性の増悪をも たらし、一見したところASD症状やAD/HD症状の増悪と捉えられる状態 を引き起こすことがある。衝動性の軽減等を目的に非定型抗精神病薬 やAD/HD治療薬が投薬されている例があるが、こうした対応は症状の 改善がみられないばかりか、日中の眠気をもたらすなど睡眠の質のさ らなる低下を招き、さらに状態像が悪化することがあるので注意を要 する。  ASDの状態像評価にあたり、日頃の睡眠状況を養育者から積極的に聴 取し、睡眠障害が日中の行動に何らかの悪影響を及ぼしている可能性 について注意深く検討する必要がある。  ASDを有する人に睡眠障害を認めた場合、精神科的併存症との関連性 がないかについて検討する。 Malow BA. et al. A practice pathway for the identification, evaluation, and management of insomnia in children and adolescents with autism spectrum disorders. Pediatrics 130: 106-124, 2012

  • #20.

    精神病性障害  知的障害を有さないASD成人122名(16歳-60歳;中央値29歳)において、 12%に精神病性障害を認めた。  ASDにおける精神病症状併存の要因として、いじめや環境への不適応 を契機として状況依存的に被害的な認知に傾いてしまうことやタイム スリップ現象注)、ASD特有の固執性の言動や反響言語が統合失調症に 特徴的な徴候(対話性幻聴、独語)と誤って判断されることなどが考 えられている  ASDと統合失調症の間には共通した遺伝的背景の存在も示唆されてお り、両者は相互排他的ではなく、実際に合併例もみられる。  ASDにおいて精神病症状を認めた場合、発達歴・臨床経過・精神病症 状の色彩を総合的に判断し、ASD特性を考慮しながら十分な横断的・ 縦断的評価を行いながら、環境調整や薬物治療の効果を注意深く観察 していくことが重要である。 注)ASDの児童・青年が突然過去の記憶を想起して、その出来事をあたかもつい最近のことの ように扱う現象。その出来事は数日前から時に数十年前のこともある。 岡田 俊. 精神病症状を伴う思春期・成人期の自閉症スペクトラム障害の診断と介入. 臨床精神薬理16:345-355, 2013

  • #21.

    強迫性障害  ASDの強迫関連行動は“自我親和的”であるとみなされて きたが、近年、高機能のASDの人の中に、“自我異和的” な強迫症状を呈し自ら医療機関を受診するものが存在する。  難治例の強迫性障害を呈する者の一部にASD特性を有する 一群が存在することをうけ、強迫性障害の下位分類として “autistic dimension”が提案されている。  ASDをベースに持つ強迫性障害の臨床上の特徴 → “hoarding(溜め込み)”の存在  ASDとOCDの双方に見られる併存症の類似点 (カタトニアor強迫性緩慢、チック、不安障害) →共通するetiology!? Bejerot S. An autistic dimension: a proposed subtype of obsessive-compulsive disorder. Autism 11: 101-110, 2007 山下陽子.広汎性発達障害を伴う強迫性障害の特徴についての研究.精神神経学雑誌112:853-866,2010

  • #22.

    不安障害  児童・青年期のASDでは、その11-84%において不安症状が合併する (全般性不安障害・社交不安障害・限局性恐怖症など様々なタイプ)。  不安障害の併存は、臨床サンプルにおいて高率に認められるだけでな く、地域ベースの疫学調査においても高率である。  ASDにおける不安症状は、日常生活スキルの低下や他者との関係性構 築に支障をきたし、抑うつやひきこもりの要因となりうる。→ASDを 有する児・成人の状態像を把握するにあたり、不安症状の評価を意識 的に行う必要がある。  ASDの不安症状は他覚的に把握しにくく、質問紙でもスクリーニング しにくいとする報告もあり、早期発見の手法に関する課題が残る。 Vasa RA, et al. A Systematic Review of Treatments for Anxiety in Youth with Autism Spectrum Disorders. J Autism Dev Disord., 2014

  • #23.

    Challenging behavior (対応を要する行動、問題提起行動)  (定義)特定の症状や行動を示すのではなく、本人自身や 周囲の人間に悪影響を及ぼし、著しく生活の質を低下さ せ、社会生活への参画を阻害する行動  癇癪、攻撃性、パニック、自傷行為、興奮、破壊的行動 など  知的障害を有する者にとっては目的ある行動として表出 しうるものであり、個々の要因と本人を取り巻く諸要因 との相互作用のもとでしばしば生じる行動 当事者の障害特性やニーズ、本人を取り巻く諸要 因を総合的に考えた上で周囲の人達による対応を 要する行動であると捉える (NICE guideline 2015)

  • #24.

    Challenging behaviorの評価と介入 (NICE guideline 2015) 1. Challenging behaviorの程度の評価 (重症度、持続時間、日常生活機能への影響、症状の推移) 「どのような状況で具体的にどのような行動として出現し、 日常生活にどのような悪影響をもたらしているのか?」 2. Challenging behaviorを助長する可能性のある要因の 評価        コミュニケーション障害、感覚の問題 併存する身体的問題(疼痛・生理周期など) 精神科的併存症 物理的環境(光や雑音) 環境変化 認知機能にそぐわない教育面または行動面での周囲の期待 予測可能性や構造化のなさ

  • #25.

    Challenging behavior =癇癪 パニック 自傷行為 【氷山モデル】 外在化した行動上の問 題の背後には複雑な要 因が相互に影響しあっ て存在している。 本人に起きる心身 状況の変化 • 身体的変化(疼痛/生理周期など) • 身体的併存症 • 精神科的併存症 本人の特性 • • • • コミュニケーション障害 感覚の特異性 想像力の問題(予測困難性) 独特な認知パターン 本人を取り巻く状況 • 物理的環境(光・音・臭いなど) • 状況変化 • 認知機能にそぐわない教育面また は行動面での周囲の期待 • 予測可能性や構造化のなさ

  • #26.

    Challenging behaviorの評価と介入 (NICE guideline 2013) 3. Challenging behaviorへの介入 →「1・2の評価によりどのような環境調整、心理社会的 介入、身体的治療が必要かを検討」 〈介入を行う際の留意点〉       標的行動を具体的に明確にする 標的行動を系統的に評価する QOL向上に結びつく結果に焦点を当てる 効果判定をするのに十分な観察期間の設定 あらゆる環境下で一貫した介入が行われること 介入方針についての養育者、専門家の間での同意

  • #27.

    目次 ① ASDの精神科的併存症(総論) ② ASDの精神科的併存症(各論) ③ ASDの方に精神症状がみられた時の評価手順 ④ まとめ 具体的に起きてること を聞き出すだけでも十 分です!何もかもでき なくていいんです! なんか色々併存症があるの はわかったけど難しいしも う無理そうな気がするんだ けど・・・

  • #28.

    精神科的併存症の評価のポイント ① 頻度の高い精神科的併存症について知っておく ② 当事者のASDの特徴を把握する ③ 具体的にどんな困りごとがあるのか?(事実をありのまま に記述する。無理に専門用語に落とし込む必要はない。) ④ 困りごとに関与しうる要因は? ・環境変化(季節、学期の切り替わり)・不適切な対応 ・体調変化や身体疾患(睡眠障害、胃腸障害、アレルギー) ・精神疾患の有無 ⑤ “不調時”に現れやすい特徴的症状や行動はないか? ⑥ 睡眠状況や食欲、活動性など日常生活上の変化がないか? (Adams D et al. 2011)

  • #29.

    困りごとに関する相談を受けたら… 困りごとの具体的な評価 に基づく支援ニーズの明確化 ←助言や対応可能な 治療があればかかり つけ医が行う 支援ニーズに対応可能な地域資源 (多職種)へのコンサルテーション  各地域でどんなニーズに対応可能な地域資源があるかを明確にし ておき、かかりつけ医に周知しておくことが理想的(せっかくの アセスメントを無駄にしない)  かかりつけ医の評価を基に適切な紹介先に繋げるシステムが望ま れる

  • #30.

    Challenging behaviorを呈した一例 (6歳男児)  主訴 :パニック、他の子に手を挙げる、興奮し出すと止 まらない  家族歴:なし  既往歴:3歳時に自閉症の診断  現病歴:3歳時健診で言葉の遅れを指摘され、近くの専門 医療機関を受診し、自閉症の診断を受けた。その後、言葉 もよく出るようになった。幼稚園では一人遊びが多く、集 団場面では泣き出したりすることが多かった。小学校進学 後まもなく、他の子に手を挙げる、興奮し出すと止まらな いなどの指摘を担任から受けるようになり、担任から受診 をすすめられ、かかりつけの小児科医に相談することとな った。

  • #31.

    Q:具体的にどのような状況でどのような行動として 出現し、日常生活にどのような影響が出ていますか? ③具体的にどんな困りごとがあるのか?  授業の予定が急に変更になると大騒ぎして興奮し出すんです  ゲームや発表で一番になれないとパニックになって他の子に手をあ げるんです  学校で大きな声で注意されると耳をふさいで大声で泣き出します  最近、朝になると学校に行きたくないと言い出すようになりました  目を何度もぱちくりすることが増えてきました。ストレスがかかっ ているなというときはよく出るんです。  困りごとが起きやすいのはどうも学校場面が中心?  一番になることのこだわりが強いのかも?  大きな声が苦手なのかな?(聴覚過敏?)  チックが出てきた? 登校しぶり?

  • #32.

    Q:お子さんはどんなお子さんですか? 得意なことや苦手なことはありますか? ② 当事者のASDの特徴を把握する  こだわりが強くて、予定はきちんと伝えていないと怒ります。急に予 定が変更になった時はいつも納得させるのが大変ですが、理由をきち んと説明すれば大丈夫な場合が増えてきました。  一番になることがとても好きで、ゲームでも勝つまでやり続けます。 負けるとカードとか投げ散らかしたり…。  甲高い大きな声(赤ちゃんの泣き声など)が昔から苦手で耳をよくふ さいでいました。今も苦手です。  勉強は好きみたいです。やり始めると一心不乱にやっています。勉強 はクラスでも一番できるみたいです。 予定の変更が苦手・一番になることへのこだわりが強い・特定の 感覚刺激(甲高い声)への過敏性・好きなことに対する集中力が 高いなどが本児の特徴としてあり、学校で主に起きている困りご とに大きくかかわっていることがわかる。

  • #33.

    Q:今回調子が悪くなった原因で思い当たることはあり ますか? ③困りごとに関与しうる要因は?  小学校に入ってからなので、やっぱり学校生活のパターンに慣れ ていないというのが一番の要因だと思います。こだわりに基づく 行動を起こした時に学校でどんな対応をしていただいているのか が気になっています。家では機嫌はいいんですけどね…。  担任からは、「とても優秀ですが、わがままなところもあるのか 一番になれないと急に泣き出したりで大変です…」と言われてま して、一度子どもの障害について担任にわかりやすくお伝えした いと思っています。 ASD特性に配慮した学校での対応(合理的配慮)がまだ不十分であること が不調の要因ではないかと母親が捉えていることがわかります。障害特性 についてまだ母親から学校側に伝えられていない状況もわかります。専門 医療機関への紹介を保護者が今後希望された際も、困りごとの概要、保護 者の感じている不安や障害への理解度、受診の動機などを明確に専門医に 伝えることができます。

  • #34.

    まとめ  ASDの人は様々な精神科的併存症がみられるので 具体的に知っておくことが大事  ASDの人では精神症状はその障害特性とあいまっ て複雑な病像を呈し、その評価が難しいため評価 の手順を知ることが大事  具体的にどんなことに困っているかを聞き出し、 出来る範囲で“困りごと”に関する評価を行うこ とが支援の第一歩です。

  • #35.

    参考資料 1. Simonoff E, et al. J Am Acad Child Adolesc Psychiatry. 2008 Aug;47(8):921-9. Psychiatric disorders in children with autism spectrum disorders: prevalence, comorbidity, and associated factors in a populationderived sample. 2. American Psychiatric Association : Diagnostic and statistical manual of mental disorders, 5th Edition. Washington, DC,2013 3. Wing L. Catatonia in autistic spectrum disorders. Br J Psychiatry 176: 357-362, 2000 4. 太田昌孝. 5. 山下洋. 気分障害と広汎性発達障害. 臨床精神医学 37:1525-1533,2008 6. Malow BA. et al. A practice pathway for the identification, evaluation, and management of insomnia in children and adolescents with autism spectrum disorders. Pediatrics 130: 106-124, 2012 7. 岡田 俊. 精神病症状を伴う思春期・成人期の自閉症スペクトラム障害の診断と介入. 臨床精神薬理16:345-355, 2013 自閉症と緊張病(カタトニア) 臨床精神医学 38(6):805-811、2009 8. Bejerot S. An autistic dimension: a proposed subtype of obsessive-compulsive disorder. Autism 11: 101110, 2007 9. 山下陽子.広汎性発達障害を伴う強迫性障害の特徴についての研究.精神神経学雑誌112:853-866,2010 10. Vasa R

どう評価したらいい?~自閉スペクトラム症の方に精神的不調がみられたとき~

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投稿者プロフィール
まっさん@精神科.児童精神科

単科精神科病院

概要

ASDの人は様々な精神科的併存症がみられるため、具体的な内容と評価方法を知っておくことが大事です。初期研修医、精神科専攻医、小児科医、ASDの方の支援に関わる方など、“ASDの診断がある人に精神科的な問題起きてそう…でも何きけばいいの…”と一度でも思ったことがある方へ向けたスライドです。

◎目次

・本スライドの対象者

・目次

・なぜ精神科的併存症の理解が大事なの?

・ASDと精神科的併存症の合併

・ASDの児童・青年の対応とサポートに関するガイドライン

・DSM5におけるASDの併存症評価

・他の神経発達障害、精神医学的障害あるいは行動障害(DSM5)

・カタトニア(Catatonia)

・ASDにおけるCatatoniaの特徴

・2症例への考察

・気分障害

・睡眠障害

・精神病性障害

・強迫性障害

・不安障害

・Challenging behavior

・Challenging behaviorの評価と介入

・精神科的併存症の評価のポイント

・困りごとに関する相談を受けたら…

・Challenging behaviorを呈した一例(6歳男児)

・Q:具体的にどのような状況でどのような行動として出現し、日常生活にどのような影響が出ていますか?

・Q:お子さんはどんなお子さんですか?得意なことや苦手なことはありますか?

・Q:今回調子が悪くなった原因で思い当たることはありますか?

・まとめ

本スライドの対象者

研修医/専攻医

参考文献

  • Simonoff E, et al. J Am Acad Child Adolesc Psychiatry. 2008 Aug;47(8):921-9. Psychiatric disorders in children with autism spectrum disorders: prevalence, comorbidity, and associated factors in a population-derived sample.

  • American Psychiatric Association : Diagnostic and statistical manual of mental disorders, 5th Edition. Washington, DC,2013

  • Wing L. Catatonia in autistic spectrum disorders. Br J Psychiatry 176: 357-362, 2000

  • 太田昌孝. 自閉症と緊張病(カタトニア) 臨床精神医学 38(6):805-811、2009

  • Wing L, Shah A. A systematic examination of catatonia-like clinical pictures in autism spectrum disorders. Int Rev Neurobiol 72: 21-39, 2006

  • 山下洋. 気分障害と広汎性発達障害. 臨床精神医学 37:1525-1533,2008

  • Malow BA. et al. A practice pathway for the identification, evaluation, and management of insomnia in children and adolescents with autism spectrum disorders. Pediatrics 130: 106-124, 2012

  • 岡田 俊. 精神病症状を伴う思春期・成人期の自閉症スペクトラム障害の診断と介入. 臨床精神薬理16:345-355, 2013

  • Bejerot S. An autistic dimension: a proposed subtype of obsessive-compulsive disorder. Autism 11: 101-110, 2007

  • 山下陽子.広汎性発達障害を伴う強迫性障害の特徴についての研究.精神神経学雑誌112:853-866,2010

  • Vasa RA, et al. A Systematic Review of Treatments for Anxiety in Youth with Autism Spectrum Disorders. J Autism Dev Disord., 2014

  • Adams D, Oliver C. The expression and assessment of emotions and internal states in individuals with severe or profound intellectual disabilities. Clin Psychol Rev31: 293-306, 2011

  • National Collaborating Centre for Mental Health (UK).London: National Institute for Health and Care Excellence (UK). Challenging Behaviour and Learning Disabilities: Prevention and Interventions for People with Learning Disabilities Whose Behaviour Challenges. NICE guideline Published: 29 May 2015

テキスト全文

  • #1.

    どう評価したらいい? ~自閉スペクトラム症の 方に精神的不調がみられ たとき~ まっさん@精神科.児童精神科

  • #2.

    本スライドの対象者 • 初期研修医 • 精神科専攻医 • 小児科医 • ASD(Autism Spectrum Disorder;ASD)の方の 支援に関わる人全般 “ASDの診断がある(ありそうな)人に精神 科的な問題起きてそう…でも何きけばいい の…”と一度でも思ったことがある方向け

  • #3.

    目次 ① ASDの精神科的併存症(総論) ② ASDの精神科的併存症(各論) ③ ASDの方に精神症状がみられた時の評価手順 ④ まとめ

  • #4.

    目次 ① ASDの精神科的併存症(総論) ② ASDの精神科的併存症(各論) ③ ASDの方に精神症状がみられた時の評価手順 ④ まとめ

  • #5.

    なぜ精神科的併存症の理解が大事なの?  精神科的併存症は、ASDの主要徴候と複合的に関 与しながら多彩な臨床像を形成する  併存症が顕在化した時に、医療・職場・学校など を含めた多職種連携の必要性が高まる  (ASD)未診断の人が併存症を主訴に医療機関を受 診する場合がある→ASD診断に基づく支援開始の きっかけ!  Diagnostic overshadowing(=診断の過剰投影)* を防ぐことに繋がる *)ある発達障害の診断名がいったんついてしまうと、その人に様々な問題が生じた場合に、 その背後にある諸要因を深く探ることなくその診断に基づく問題(障害の一部)と考えられ てしまい、必要な対応が取られかねない事態となる。発達障害の人に併存しやすい併存症と その捉え方を知ることでこれをある程度防ぐことが出来、誤診断や対応の遅れを防ぐことが 可能になります。

  • #6.

    ASDと精神科的併存症の合併 ASDにみられる 精神科的併存症 は併存率も高く かつ重複するこ とも! 56946人の一般母集団から抽出された112名のASD(10歳-14歳;平均12歳) に対し精神科的併存症の有無を包括的に評価(Simonof et al. 2012) ASD児の約70%がなんらかの精神科的併存症の診断に合致 する(41%の児が2つ以上の診断基準に合致) →ASDの人では、精神科的併存症の評価はルーチンで行 い、介入すべき併存症がないかを明確にする必要がある

  • #7.

    ASDの児童・青年の対応とサポートに 関するガイドライン 英国のNational Institute for Health and Clinical Excellence Guideline 170(2013) ASDの臨床に関わるあらゆる専門家が、ASDにみ られる身体的・精神的併存症の評価、マネージ メントに関するトレーニングを受け、併存症に 対する適切な心理社会的治療または薬物治療が 行われるべきである

  • #8.

    DSM5におけるASDの併存症評価 下記の“特定子(specifier)”を記述し、「どん な特徴や支援ニーズを有するASDの人であるか」 を明記すること 1. 知的障害の有無とその程度 2. 言語障害の有無とその程度 3. 既知の医学的または遺伝的病態、環境的要因の関与  遺伝的病態(例;Rett障害、脆弱X症候群、ダウン症候群)  医学的疾患(例;てんかん)  環境的要因の既往(例;胎児性アルコール症候群、超低出 生体重児) 4.他の神経発達障害、精神医学的障害あるいは行動障害 (American Psychiatric Association,2013)

  • #9.

    他の神経発達障害、精神医学的障害 あるいは行動障害(DSM5)  関連する他の神経発達症  注意欠如多動症  限局性学習症  運動症 (発達性協調運動障害・常同運動障害、チック障害群)  精神疾患  強迫性障害・睡眠障害・気分障害・精神病性障害・フラ ッシュバック・不安障害(限局性恐怖症、全般性不安障 害、社会不安障害)など  行動障害(パニック・癇癪・自傷行為)  カタトニア (→次の各論で説明します) (American Psychiatric Association,2013)

  • #10.

    目次 ① ASDの精神科的併存症(総論) ② ASDの精神科的併存症(各論) ③ ASDの方に精神症状がみられた時の評価手順 ④ まとめ 今回はASDに合併しやすい“関連 する他の神経発達症”以外の併 存症に焦点を絞ります。

  • #11.

    カタトニア(Catatonia) ASDのCatatonia診断基準:Wing(2000) ●基本症状 1. 運動と言葉の緩慢化 2. 活動を起こしたり完遂することの困難 3. 他者による身体的なあるいは言語的な促しに依存することの増加 4. 受動性の増加と自発性低下 ●しばしば伴う症状 昼夜逆転、反復的儀式行動の増加、パーキンソン症状、興奮と不安焦燥 ASDのCatatonia診断基準:太田昌孝(2004) ●基本症状 1. 思春期青年期になり、動作が途中で止まったままであったり、奇妙な 姿勢をとり続けたりする状態があること 2. その状態が起こると数分以上持続し、1日に何回も出現すること 3. 社会適応が障害を受け、それが少なくとも3か月以上持続すること (*除外基準として、明らかな薬剤性パーキンソン症状である場合や、あ るものに没頭している状況は除外) Wing L. Catatonia in autistic spectrum disorders. Br J Psychiatry 176: 357-362, 2000 太田昌孝. 自閉症と緊張病(カタトニア) 臨床精神医学 38(6):805-811、2009

  • #12.

    ASDにおけるCatatoniaの特徴 ・頻度;12-17%(思春期以降を対象にした研究より) ・好発年齢;10歳頃より発症し、ピークは15-19歳 ・知的能力に関係なく出現する。 軽症例も含めると“ASDではよくあること”と家族ですら気に留め ていない場合もあり、適切な介入を受けていない例も多い。 Catatoniaを起こす要因 1. 環境変化などのストレス因 2. 気分障害(特にうつ状態)の合併 3. 統合失調症の合併 4. 向精神薬によるパーキンソン症状(見かけ上のカタトニア) →ASD者は向精神薬(特に抗精神病薬)に対する過敏性が報 告されている Wing L, Shah A. A systematic examination of catatonia-like clinical pictures in autism spectrum disorders. Int Rev Neurobiol 72: 21-39, 2006

  • #13.

    ≪治療≫ 1. 対症療法  心理行動療法(動作の手助け、励まし)  家族、支援者教育 (本人はかなり苦痛を感じていることを理解する)  ベンゾジアゼピン系抗不安薬  修正型電気けいれん療法(⇒劇的に効果を発揮する場合 あり!) 2.合併症の治療(Catatoniaの誘因を治療)  背景にあるうつ病や統合失調症の加療 ⇒抗うつ薬や抗精神病薬が奏功する場合もある

  • #14.

    ・重度catatoniaに陥った時の 当事者の心境を述べたもの。 →自発的に動いたり、疎通が取 れないことの苦しさが記述され ている。 14歳男性 高機能自閉症(FIQ 140) 主訴:進行性の動作緩慢、促し になしには動けない。 (6か月間かけて徐々に進行)

  • #15.

    ASDにおける重度Catatoniaの2例(自験例) 症例1)22歳女性 主訴)寝たきりで食事もとれない (経管栄養が必要なため入院) 最終診断)ASD+うつ病 経過)Sertraline(SSRI)内服で比較的すみやかに改善。退 院後、障害特性の理解が良好なバイト先で適応している。 症例2)17歳男性 主訴)スムーズに動けず失禁してしまう (栄養状態不良のため入院) 最終診断)ASD+強迫性障害 経過)抗うつ薬、抗精神病薬などはほぼ無効。ロラゼパムは効 果的。⇒修正型電気けいれん療法が奏功。ロラゼパム内服を継 続し、障害特性の理解が良好な職場で就労継続中。

  • #16.

    2症例への考察 1. 2例とも若年の高機能ASDであり、生命の危険が及ぶ範囲ま でCatatoniaが悪化、遷延化していた。 Catatoniaが長期 化していても背景病態を考慮した治療に反応した。 2. 症例1は、幼少期にASDの指摘も受けておらず、発達に関 する問題での受診歴がなかったため、当初は統合失調症と 誤診されていた。 3. 症例2は、過去に発達相談などの受診歴があり、既にASD の診断がなされていた。 Catatoniaという現象が、ASDで 比較的よく起きうることを知らないと、誤診や誤った対応 が続くことになる。幼少期の受診歴は非常に重要なヒント になる。

  • #17.

    気分障害  ASDでは大うつ病性障害、双極性障害ともに有病率が高い  抑うつ気分などの言語表現ができず、見過ごされているこ とが多い。  抑うつ症状が、常同行為の増加といった “(ASDの)主要徴 候の増悪”に見える症状として出現する場合やイライラ・ 自傷行為・攻撃性の増悪・catatoniaという形で表出する 場合もある(→一見するとうつっぽく見えない)。  気分障害の症状がASD症状にマスクされて他覚的に認識さ れにくいうえに、その症状の現れ方に個性があり過小診断 となる可能性がある。 ASDの人の気分障害を評価する際は“普段の行動特性との 相違”をより意識することが重要! (①睡眠時間・体重の変化は最低限確認 ②不調時に表れる個々人に特有の 症状を行動上の変化から評価する ③言明される訴えのみから判断しない) 山下洋. 気分障害と広汎性発達障害. 臨床精神医学 37:1525-1533,2008

  • #18.

    気分障害の治療上の留意点 心理社会的介入 ASDの認知特性とその特性ゆえに生じやすいライフイベント や社会状況での困難さを、医療者を含めた周囲の人間が理解 することが治療導入に不可欠である。その上で、環境調整を 本人・職場と協議しながら行う。他の併存症(不安障害な ど)の有無を含めた状態像を総合的に判断し、薬物治療の適 応等も検討する。 薬物治療 ASDに併存した気分障害に特化した薬物治療ガイドラインは 存在しないため、通常のガイドラインに従い標的症状に対す る薬剤選択を行うこととなる。基本的に少量より投与を開始 し、ASDにおける双極性障害の高い合併率も念頭に置きながら、 易怒性や衝動性の増悪の有無や他の併存症の変化も含めた慎 重なモニタリングを心掛け、効果判定を行う必要がある。

  • #19.

    睡眠障害  ASDにおいては、40-80%と他の発達障害に比しても高率にみられ、主 として入眠困難や睡眠維持の困難が報告されている。  常同行為の増加や社会的スキルの低下、イライラ・衝動性の増悪をも たらし、一見したところASD症状やAD/HD症状の増悪と捉えられる状態 を引き起こすことがある。衝動性の軽減等を目的に非定型抗精神病薬 やAD/HD治療薬が投薬されている例があるが、こうした対応は症状の 改善がみられないばかりか、日中の眠気をもたらすなど睡眠の質のさ らなる低下を招き、さらに状態像が悪化することがあるので注意を要 する。  ASDの状態像評価にあたり、日頃の睡眠状況を養育者から積極的に聴 取し、睡眠障害が日中の行動に何らかの悪影響を及ぼしている可能性 について注意深く検討する必要がある。  ASDを有する人に睡眠障害を認めた場合、精神科的併存症との関連性 がないかについて検討する。 Malow BA. et al. A practice pathway for the identification, evaluation, and management of insomnia in children and adolescents with autism spectrum disorders. Pediatrics 130: 106-124, 2012

  • #20.

    精神病性障害  知的障害を有さないASD成人122名(16歳-60歳;中央値29歳)において、 12%に精神病性障害を認めた。  ASDにおける精神病症状併存の要因として、いじめや環境への不適応 を契機として状況依存的に被害的な認知に傾いてしまうことやタイム スリップ現象注)、ASD特有の固執性の言動や反響言語が統合失調症に 特徴的な徴候(対話性幻聴、独語)と誤って判断されることなどが考 えられている  ASDと統合失調症の間には共通した遺伝的背景の存在も示唆されてお り、両者は相互排他的ではなく、実際に合併例もみられる。  ASDにおいて精神病症状を認めた場合、発達歴・臨床経過・精神病症 状の色彩を総合的に判断し、ASD特性を考慮しながら十分な横断的・ 縦断的評価を行いながら、環境調整や薬物治療の効果を注意深く観察 していくことが重要である。 注)ASDの児童・青年が突然過去の記憶を想起して、その出来事をあたかもつい最近のことの ように扱う現象。その出来事は数日前から時に数十年前のこともある。 岡田 俊. 精神病症状を伴う思春期・成人期の自閉症スペクトラム障害の診断と介入. 臨床精神薬理16:345-355, 2013

  • #21.

    強迫性障害  ASDの強迫関連行動は“自我親和的”であるとみなされて きたが、近年、高機能のASDの人の中に、“自我異和的” な強迫症状を呈し自ら医療機関を受診するものが存在する。  難治例の強迫性障害を呈する者の一部にASD特性を有する 一群が存在することをうけ、強迫性障害の下位分類として “autistic dimension”が提案されている。  ASDをベースに持つ強迫性障害の臨床上の特徴 → “hoarding(溜め込み)”の存在  ASDとOCDの双方に見られる併存症の類似点 (カタトニアor強迫性緩慢、チック、不安障害) →共通するetiology!? Bejerot S. An autistic dimension: a proposed subtype of obsessive-compulsive disorder. Autism 11: 101-110, 2007 山下陽子.広汎性発達障害を伴う強迫性障害の特徴についての研究.精神神経学雑誌112:853-866,2010

  • #22.

    不安障害  児童・青年期のASDでは、その11-84%において不安症状が合併する (全般性不安障害・社交不安障害・限局性恐怖症など様々なタイプ)。  不安障害の併存は、臨床サンプルにおいて高率に認められるだけでな く、地域ベースの疫学調査においても高率である。  ASDにおける不安症状は、日常生活スキルの低下や他者との関係性構 築に支障をきたし、抑うつやひきこもりの要因となりうる。→ASDを 有する児・成人の状態像を把握するにあたり、不安症状の評価を意識 的に行う必要がある。  ASDの不安症状は他覚的に把握しにくく、質問紙でもスクリーニング しにくいとする報告もあり、早期発見の手法に関する課題が残る。 Vasa RA, et al. A Systematic Review of Treatments for Anxiety in Youth with Autism Spectrum Disorders. J Autism Dev Disord., 2014

  • #23.

    Challenging behavior (対応を要する行動、問題提起行動)  (定義)特定の症状や行動を示すのではなく、本人自身や 周囲の人間に悪影響を及ぼし、著しく生活の質を低下さ せ、社会生活への参画を阻害する行動  癇癪、攻撃性、パニック、自傷行為、興奮、破壊的行動 など  知的障害を有する者にとっては目的ある行動として表出 しうるものであり、個々の要因と本人を取り巻く諸要因 との相互作用のもとでしばしば生じる行動 当事者の障害特性やニーズ、本人を取り巻く諸要 因を総合的に考えた上で周囲の人達による対応を 要する行動であると捉える (NICE guideline 2015)

  • #24.

    Challenging behaviorの評価と介入 (NICE guideline 2015) 1. Challenging behaviorの程度の評価 (重症度、持続時間、日常生活機能への影響、症状の推移) 「どのような状況で具体的にどのような行動として出現し、 日常生活にどのような悪影響をもたらしているのか?」 2. Challenging behaviorを助長する可能性のある要因の 評価        コミュニケーション障害、感覚の問題 併存する身体的問題(疼痛・生理周期など) 精神科的併存症 物理的環境(光や雑音) 環境変化 認知機能にそぐわない教育面または行動面での周囲の期待 予測可能性や構造化のなさ

  • #25.

    Challenging behavior =癇癪 パニック 自傷行為 【氷山モデル】 外在化した行動上の問 題の背後には複雑な要 因が相互に影響しあっ て存在している。 本人に起きる心身 状況の変化 • 身体的変化(疼痛/生理周期など) • 身体的併存症 • 精神科的併存症 本人の特性 • • • • コミュニケーション障害 感覚の特異性 想像力の問題(予測困難性) 独特な認知パターン 本人を取り巻く状況 • 物理的環境(光・音・臭いなど) • 状況変化 • 認知機能にそぐわない教育面また は行動面での周囲の期待 • 予測可能性や構造化のなさ

  • #26.

    Challenging behaviorの評価と介入 (NICE guideline 2013) 3. Challenging behaviorへの介入 →「1・2の評価によりどのような環境調整、心理社会的 介入、身体的治療が必要かを検討」 〈介入を行う際の留意点〉       標的行動を具体的に明確にする 標的行動を系統的に評価する QOL向上に結びつく結果に焦点を当てる 効果判定をするのに十分な観察期間の設定 あらゆる環境下で一貫した介入が行われること 介入方針についての養育者、専門家の間での同意

  • #27.

    目次 ① ASDの精神科的併存症(総論) ② ASDの精神科的併存症(各論) ③ ASDの方に精神症状がみられた時の評価手順 ④ まとめ 具体的に起きてること を聞き出すだけでも十 分です!何もかもでき なくていいんです! なんか色々併存症があるの はわかったけど難しいしも う無理そうな気がするんだ けど・・・

  • #28.

    精神科的併存症の評価のポイント ① 頻度の高い精神科的併存症について知っておく ② 当事者のASDの特徴を把握する ③ 具体的にどんな困りごとがあるのか?(事実をありのまま に記述する。無理に専門用語に落とし込む必要はない。) ④ 困りごとに関与しうる要因は? ・環境変化(季節、学期の切り替わり)・不適切な対応 ・体調変化や身体疾患(睡眠障害、胃腸障害、アレルギー) ・精神疾患の有無 ⑤ “不調時”に現れやすい特徴的症状や行動はないか? ⑥ 睡眠状況や食欲、活動性など日常生活上の変化がないか? (Adams D et al. 2011)

  • #29.

    困りごとに関する相談を受けたら… 困りごとの具体的な評価 に基づく支援ニーズの明確化 ←助言や対応可能な 治療があればかかり つけ医が行う 支援ニーズに対応可能な地域資源 (多職種)へのコンサルテーション  各地域でどんなニーズに対応可能な地域資源があるかを明確にし ておき、かかりつけ医に周知しておくことが理想的(せっかくの アセスメントを無駄にしない)  かかりつけ医の評価を基に適切な紹介先に繋げるシステムが望ま れる

  • #30.

    Challenging behaviorを呈した一例 (6歳男児)  主訴 :パニック、他の子に手を挙げる、興奮し出すと止 まらない  家族歴:なし  既往歴:3歳時に自閉症の診断  現病歴:3歳時健診で言葉の遅れを指摘され、近くの専門 医療機関を受診し、自閉症の診断を受けた。その後、言葉 もよく出るようになった。幼稚園では一人遊びが多く、集 団場面では泣き出したりすることが多かった。小学校進学 後まもなく、他の子に手を挙げる、興奮し出すと止まらな いなどの指摘を担任から受けるようになり、担任から受診 をすすめられ、かかりつけの小児科医に相談することとな った。

  • #31.

    Q:具体的にどのような状況でどのような行動として 出現し、日常生活にどのような影響が出ていますか? ③具体的にどんな困りごとがあるのか?  授業の予定が急に変更になると大騒ぎして興奮し出すんです  ゲームや発表で一番になれないとパニックになって他の子に手をあ げるんです  学校で大きな声で注意されると耳をふさいで大声で泣き出します  最近、朝になると学校に行きたくないと言い出すようになりました  目を何度もぱちくりすることが増えてきました。ストレスがかかっ ているなというときはよく出るんです。  困りごとが起きやすいのはどうも学校場面が中心?  一番になることのこだわりが強いのかも?  大きな声が苦手なのかな?(聴覚過敏?)  チックが出てきた? 登校しぶり?

  • #32.

    Q:お子さんはどんなお子さんですか? 得意なことや苦手なことはありますか? ② 当事者のASDの特徴を把握する  こだわりが強くて、予定はきちんと伝えていないと怒ります。急に予 定が変更になった時はいつも納得させるのが大変ですが、理由をきち んと説明すれば大丈夫な場合が増えてきました。  一番になることがとても好きで、ゲームでも勝つまでやり続けます。 負けるとカードとか投げ散らかしたり…。  甲高い大きな声(赤ちゃんの泣き声など)が昔から苦手で耳をよくふ さいでいました。今も苦手です。  勉強は好きみたいです。やり始めると一心不乱にやっています。勉強 はクラスでも一番できるみたいです。 予定の変更が苦手・一番になることへのこだわりが強い・特定の 感覚刺激(甲高い声)への過敏性・好きなことに対する集中力が 高いなどが本児の特徴としてあり、学校で主に起きている困りご とに大きくかかわっていることがわかる。

  • #33.

    Q:今回調子が悪くなった原因で思い当たることはあり ますか? ③困りごとに関与しうる要因は?  小学校に入ってからなので、やっぱり学校生活のパターンに慣れ ていないというのが一番の要因だと思います。こだわりに基づく 行動を起こした時に学校でどんな対応をしていただいているのか が気になっています。家では機嫌はいいんですけどね…。  担任からは、「とても優秀ですが、わがままなところもあるのか 一番になれないと急に泣き出したりで大変です…」と言われてま して、一度子どもの障害について担任にわかりやすくお伝えした いと思っています。 ASD特性に配慮した学校での対応(合理的配慮)がまだ不十分であること が不調の要因ではないかと母親が捉えていることがわかります。障害特性 についてまだ母親から学校側に伝えられていない状況もわかります。専門 医療機関への紹介を保護者が今後希望された際も、困りごとの概要、保護 者の感じている不安や障害への理解度、受診の動機などを明確に専門医に 伝えることができます。

  • #34.

    まとめ  ASDの人は様々な精神科的併存症がみられるので 具体的に知っておくことが大事  ASDの人では精神症状はその障害特性とあいまっ て複雑な病像を呈し、その評価が難しいため評価 の手順を知ることが大事  具体的にどんなことに困っているかを聞き出し、 出来る範囲で“困りごと”に関する評価を行うこ とが支援の第一歩です。

  • #35.

    参考資料 1. Simonoff E, et al. J Am Acad Child Adolesc Psychiatry. 2008 Aug;47(8):921-9. Psychiatric disorders in children with autism spectrum disorders: prevalence, comorbidity, and associated factors in a populationderived sample. 2. American Psychiatric Association : Diagnostic and statistical manual of mental disorders, 5th Edition. Washington, DC,2013 3. Wing L. Catatonia in autistic spectrum disorders. Br J Psychiatry 176: 357-362, 2000 4. 太田昌孝. 5. 山下洋. 気分障害と広汎性発達障害. 臨床精神医学 37:1525-1533,2008 6. Malow BA. et al. A practice pathway for the identification, evaluation, and management of insomnia in children and adolescents with autism spectrum disorders. Pediatrics 130: 106-124, 2012 7. 岡田 俊. 精神病症状を伴う思春期・成人期の自閉症スペクトラム障害の診断と介入. 臨床精神薬理16:345-355, 2013 自閉症と緊張病(カタトニア) 臨床精神医学 38(6):805-811、2009 8. Bejerot S. An autistic dimension: a proposed subtype of obsessive-compulsive disorder. Autism 11: 101110, 2007 9. 山下陽子.広汎性発達障害を伴う強迫性障害の特徴についての研究.精神神経学雑誌112:853-866,2010 10. Vasa R

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