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男性更年期とLOH症候群~テストステロンが関わる疾患とは~診察入門 L1.png

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サラリ医マン@泌尿器科

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テキスト全文

  • #1.

    講師 サラリ医マン

  • #2.

    医師、泌尿器科専門医、性機能専門医、性感染症専門医、医学博士。 都内での初期研修・後期研修ののち、 大学・基幹病院での臨床・研究に従事。 趣味が高じてファイナンシャルプランナー2級・ 福祉住環境コーディネーター3級を取得。 最近、「男性不妊戯画」と「目玉焼き」 がちょっと話題。

  • #3.

    「先生、LOH症候群疑いと書かれた紹 介状持って患者さんが来ています」 「ロー症候群…ハイ症候群もあるのかな」 「男性更年期」という言葉は少しづつ広まりつ つある。 しかし、男性更年期とされる人の中でテストス テロン補充療法の適応となる方は少ない。 外勤先や相談を受けた際に、対応できるように しよう。

  • #4.

    LOH症候群:Late-Onset Hypogonadism、加齢男性性腺機能低下症候群の略 • 文字通り、加齢に伴う男性の性腺機能低下にともなうもの • 国際的には「加齢によるアンドロゲンの低下に伴う症状を呈する状態」 • あくまで、LOH症候群はアンドロゲンの低下によるもの • メディアでの紹介時に多い表現だが、 男性更年期という言葉はLOH症候群を指すものではない 男性更年期≠LOH症候群

  • #5.

    男性更年期:男性ホルモン低下を含むより広い原因から生じる、 更年期前後の男性に起こる不定愁訴 • 具体的には以下のような症状を含む ・精神,心理症状 やる気の低下、抑うつ、イライラ、不安、疲労感 ・身体症状 肉体的消耗感、発汗、ほてり、睡眠障害、集中力低下 ・性機能関連症状 性欲低下、勃起障害、射精感の減退 など、症状は多岐にわたる。 男性更年期の 原因の1つが LOH症候群

  • #6.

    男性更年期という言葉の下に、誤解が多い • 男性更年期障害の病態は複雑で、加齢に伴うアンドロゲン不足だけでは説明で きないことが多いが、一部のメディアではLOH症候群と男性更年期障害が同 義語のように扱われている • 紹介元も、更年期男性の症状を全てアンドロゲン低下に結びつけて説明して いることも • 男性更年期外来には、LOH症候群のみならず、大うつ病や気分障害の方も受診 されている可能性があり、心療科との連携が重要 • 患者さんはご自身でさまざまな情報を得ていることも多く、テストステロン 補充ありきで相談されることもあるので、落ち着いて対応しよう

  • #7.

    減っていくことは確か 症状と結びつくかは別 テストステロンとは • 男性ホルモンは、アンドロゲンとも呼ばれるホルモン群の総称 • アンドロゲンの中で男性更年期に大きな役割を果たすものがテストステロン • テストステロンの約90%は精巣で産生され、様々な生理作用を持つ • 個人差はあるが、テストステロンは20代をピークに50歳を過ぎると年1%の 割合で徐々に減少していく • 症状をともなうテストステロン減少には対処が必要

  • #8.

    テストステロンの作用 「戦う」系の作用が多い 臓器 作用 脳 性欲などの精神作用 腎臓 エリスロポエチンの分泌 筋肉 筋肉量の維持・増加 皮膚 皮脂産生 骨髄 造血作用 脂肪 脂肪の燃焼 生殖器 性機能 造精機能 • その他、認知症・サルコペニアなどとの関連も指摘されている

  • #9.

    生物活性を持つものは フリーテストステロン テストステロンは、3つから構成される • Sex Hormone Binding Globulin (SHBG)とテストステロンの結合型 :総テストステロンの35~75%で、生物活性はない • アルブミンとテストステロンの結合型 :総テストステロンの25~65%で、容易にアルブミンから解離する • 遊離型(フリー)テストステロン :総テストステロンの1~2%で、生物活性を持つ

  • #10.

    テストステロンの生物活性 • アルブミンに結合するテストステロンとフリーテストステロンはどちらも生 物活性をもち、BioAvailable Testosterone(BAT)と呼ばれる • 加齢によってSHBG型テストステロンが漸増するため、総テストステロンが変 化しなくてもBATは相対的に減少すると考えられている • 加齢・肥満・糖尿病などSHBGが増加あるいは低下する基礎疾患がある場合は 総テストステロン値の解釈に注意

  • #11.

    男性更年期の診療では、問診とともに以下のような身体診察もおこなう • 精巣容量や陰茎のサイズの減少 • 前立腺の縮小 • 女性化乳房 • 陰部および腋毛の減少 • 除脂肪量および脂肪量の変化 • 必要に応じて画像検査も組み合わせ、原発性性腺機能低下症も考慮する

  • #12.

    男性更年期の診療では、数種類の質問票を状況に応じて組み合わせる • LOH症候群の質問票で最も一般的なものは、Aging males’ symptoms(AMS) スコア • 泌尿器科では勃起障害についての相談も多く、国際勃起機能スコア (International Index of Erectile Function: IIEF)の短縮版、IIEF-5の利用 も推奨されるだろう • LOH症候群の精神症状はうつ病と類似しているため、うつ病の診断のために M.I.N.I.(Mini International Neuropsychiatric Interview)を用いることも • 実際の現場ではAMSとIIEF-5、アンドロゲン測定のうえ、テストステロン補 充の適応がない場合は心療科もしくは専門外来へ誘導するのが妥当だろう

  • #13.

    症状 総合的に調子が思わしくない 関節や筋肉の痛み ひどい発汗 睡眠の悩み よく眠くなる、しばしば疲れを感じる汗 いらいらする 神経質になった 不安感 からだの疲労や行動力の減退 筋力の低下 憂うつな気分 絶頂期は過ぎたと感じる 力尽きた、どん底にいると感じる ひげの伸びが遅くなった 性的能力の衰え 早朝勃起(朝立ち)の回数の減少 性欲の低下 症状の重症度 17~26点:なし なし 軽い 中程度 重い 非常に重い 1 1 2 2 3 3 4 4 5 5 1 2 3 4 5 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 27~36点:軽度 37~49点:中等度 50点以上:重症

  • #14.

    テストステロンは 朝高く、夜低い 採血:フリーテストステロンか、総テストステロンか • 日本では生理活性を持つ遊離テストステロンがLOH症候群の診断基準に用いら れてきた • AUA(American Urological Association)などの海外ガイドラインでは、 総テストステロンを基準とすることが一般的 • 男性の性腺機能低下症ガイドライン2022では、250 ng/dl(2.5ng/ml)未満を 性腺機能低下症と診断する基準として推奨した • 採血を行う場合は午前中、可能であれば空腹時に2回測定することが望ましい

  • #15.

    T/LH/(FSH)/PRL程度とし、 専門家の判断をあおぐのも可 テストステロン以外に採血が推奨される項目① • 性ホルモンは視床下部と下垂体によって調節されているため、下垂体ホルモ ンである黄体形成ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)の測定は必須 • プロラクチン(PRL)は性機能障害を引き起こすことがあるため推奨される • 必要に応じエストラジオール(E2)の測定も • 異常が見られた場合は下垂体腫瘍などを念頭に精査を行う • ホルモン補充を念頭に精査を進める場合はPSA(前立腺がん腫瘍マーカー)の 測定も必要だろう

  • #16.

    ここまで来ると 専門家レベル… テストステロン以外に採血が推奨される項目② • 加齢に伴う成長ホルモン(GH)/インスリン様成長因子(IGF-1)の減少は、 筋力の低下、内臓脂肪の増加、骨密度の低下と関連する可能性が • 副腎アンドロゲンであるdehydroepiandrosterone(DHEA)やDHEA-sulfate (DHEA-S)は加齢とともに徐々に減少し、LOHの症状や徴候の引き金となる ことも • 血中コルチゾール(cortisol)は生涯を通じて安定しているが、ストレスに よって変動することが知られておりLOH症候群と一過性のストレスとの鑑別 に用いることができる

  • #17.

    総テストステロン 遊離テストステロン 同時採血は保険算定される テストステロン低値はARTの適応 • 米国内分泌学会のConsensus Committeeのガイドライン ⇒総テストステロン値が2ng/mL未満をARTの適応基準 • ISA/ISSAM/EAU ⇒総テストステロン値が8nmol/L(2.31ng/mL)未満をARTの適応基準 • 日本では遊離テストステロンを長く基準値としてきた • 8.5pg/mL未満を正常下限値としARTの適応基準 • 8.5pg/mL~11.8pg/mL未満まではボーダーラインとして考慮 • しかし、男性の性腺機能低下症ガイドライン2022では世界基準へ ⇒総テストステロン2.5ng/ml未満が推奨された

  • #18.

    治療の中心はテストステロン補充療法(Androgen Replacement Therapy: ART) ①エナント酸テストステロン(エナルモンデポー®) 125mgを2〜3 週ごと、250mgを3〜4週ごとに筋注 投与4〜7 日目頃に血中テストステロンが最高値となる 可能であれば投与後1週間程度&数か月ごとを目安に採血を行う コレステロール値や血算などもフォローしよう ②男性ホルモン軟膏(グローミン®) 1回3gを1日1〜2回陰囊皮膚に塗布(1回3mgテストステロン相当) 投与が容易でかつ安定した血中テストステロン濃度が得られる ネットや指定された薬局での購入も可能 海外では経口薬も存在する(以前は日本でも販売されていた)

  • #19.

    以下の場合はテストステロン補充療法(ART)は行わない • 前立腺癌 • ART前PSAが2.0ng/mL以上 (2.0ng/mL以上4.0ng/mL未満の場合は慎重に検討し治療する) • 中等度以上の前立腺肥大症 • 妊活中の方(ネガティブフィードバックにより造精機能に影響する)

  • #20.

    以下の場合はテストステロン補充療法(ART)は行わない • 乳癌 • 多血症 • 重度の肝機能障害や腎機能不全 • うっ血性心不全 • 重度の高血圧 • 夜間睡眠時無呼吸 禁忌ではないが ニキビの増加にも注意

  • #21.

    テストステロン補充をすると、前立腺癌になりますか? • 動物モデルではテストステロンが前立腺癌を引き起こすことが知られている • 前立腺生検を用いた研究では、血中テストステロン値と前立腺癌リスクの関 連はみられていない • ARTを受けた患者を観察した臨床研究では14/1365人のみ前立腺癌を発症し、 いずれも根治が可能だった • メタ解析では、ARTによる前立腺癌リスクの上昇は否定的である • 現段階で明らかな因果関係はない、という表現に

  • #22.

    元気が出ないんですが、とりあえず泌尿器科に行けば(送れば)いいですか? • まずは内科疾患や精神疾患がないことを確認しよう • 男性更年期外来の患者の多くにうつ病が含まれており、心療科との連携は重要 • 泌尿器科でも、対応できる場合とできない場合が • 私自身も若い頃は「?」だった • 日本Men’sHealth医学会のサイトでは医療機関の検索が可能

  • #23.

    補充の適応がないならどうすればいいんですか! • テストステロンの産生を期待し、漢方薬を処方することがある (柴胡加竜骨牡蛎湯や補中益気湯) • 勃起不全をともなう場合にはバイアグラ等のPDE-5阻害薬を使用することも • そのほか生活習慣の改善やカウンセリングを行う事が多い • 抗うつ薬の使用判断を含めて難渋する場合は、 心療科やメンズヘルス外来といった専門外来への紹介を検討する

  • #24.

    問診・質問票の記入 介入すべき全身疾患の精査 身体診察 介入すべき全身疾患の精査 採血 総テストステロン 2.5ng/ml未満 総テストステロン 2.5ng/ml以上 ARTの適応を再検討 (ボーダーライン例) ARTの適応禁忌 なし あり ARTの開始 採血フォローとART中止・継続の判断 ARTの適応禁忌 生活習慣の改善 漢方 その他の 内服薬 専門医への 紹介を考慮 • • • • • • • • • • • 前立腺癌 PSA2.0ng/mL以上 中等度以上の前立腺肥大 妊活中 乳癌 多血症 重度の肝機能障害 重度の腎機能不全 うっ血性心不全 重度の高血圧 夜間睡眠時無呼吸

  • #25.

    50歳代男性 • 近医心療科通院中 • うつ症状に悩み主治医に相談したところ、LOH症候群を疑われ泌尿器科へ紹介 • 採血ではテストステロン低値を認める • 本人の治療意欲も強く、適応禁忌も無し • エナルモンデポー®125mgの注射を開始し症状改善、その後250㎎へ増量 • PSAを含めた定期的な採血を6か月ごとに行っている

  • #26.

    60歳代男性 • 週刊誌で男性更年期の情報を目にし、自分の症状に当てはまるため来院 • AMSは軽度 • 採血でテストステロン値は正常上限をわずかに超える(ボーダーライン) • 治療適応を含め専門外来を紹介 • PSA値が高かったが、前立腺がんの否定のうえでテストステロン補充を検討す ると返書が届いた

  • #27.

    40歳代男性 • 近医からうつ症状に対してLOH症候群を疑われ紹介 • AMSは中等度 • テストステロン値は正常 • 気分の落ち込みが強く、M.I.N.I.では大うつ病の診断基準を満たす • 心療科を紹介し、抗うつ薬の治療が開始された

  • #28.

    男性更年期は様々な原因、症状が複雑に関係し ており分かっていないことも多い 問診や身体診察など行うべき検査も多く、テ ストステロン補充に関しては禁忌も多いため 慎重に判断する 相談できる医師がいる場合は複数人で治療方針 を検討し、一人で抱え込まず専門外来(メン ズヘルス外来)へ誘導するのも一手だろう アンチエイジングを目的に 必死にサプリを飲む泌尿器科医

  • #29.

    【参照】 男性の性腺機能低下症ガイドライン作成委員会編:日本内分泌学会、 日本メンズヘルス医学会 男性の性腺機能低下症ガイドライン2022 https://www.mens-health.jp/wp-content/uploads/2021/10/c95fe605f4e4127722b302a0213fc301.pdf 日本泌尿器科学会/日本Men’s Health医学会「LOH 症候群診療ガイドライン」検討ワーキング委員会, 加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)診療の手引き, 2007 https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/30_loh_syndrome.pdf 岩本晃明, 日本人成人男子の総テストステロン,遊離テストステロンの基準値の設定, 日泌会誌 2004;95:751-760 Muller RL, et al. Serum testosterone and dihydrotestosterone and prostate cancer risk in the placebo arm of the reduction by dutasteride of prostate cancer events trial. Eur Urol. 2012;62:757-764 Feneley MR et al. Is testosterone treatment good for the prostate? Study of safety during long-term treatment. J Sex Med. 9:2138-49. 2012. Boyle P, et al. Endogenous and exogenous testosterone and the risk of prostate cancer and increased prostate-specific antigen (PSA) level: a meta-analysis. BJU Int 2016;118:731–41., Calof OM, et al. Adverse events associated with testosterone replacement in middle-aged and older men:

男性更年期とLOH症候群~テストステロンが関わる疾患とは~診察入門

  • 泌尿器科

  • その他

  • 加齢男性性腺機能低下症候群
  • テストステロン補充療法
  • AMS
  • LOH症候群
  • 男性更年期

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投稿者プロフィール
サラリ医マン@泌尿器科

匿名希望

概要

「先生、LOH症候群疑いと書かれた紹介状持って患者さんが来ています」「男性更年期」という言葉は少しづつ広まりつつあります。しかし、男性更年期とされる人の中でテストステロン補充療法の適応となる方は少ない現状です、外勤先や相談を受けた際に、対応できるようにしましょう。

◎目次

・自己紹介

・LOH症候群とは

・男性更年期とは

・男性更年期の名のもとに…

・LOH症候群各論

・男性更年期・LOH症候群の身体診察

・男性更年期・LOH症候群の問診

・AMS

・LOH症候群各論

・LOH症候群の治療

・ARTと泌尿器科疾患

・ARTと全身疾患

・ARTでよくある質問

・診察の流れ

・仮想症例

・まとめ

本スライドの対象者

医学生/研修医/専攻医

テキスト全文

  • #1.

    講師 サラリ医マン

  • #2.

    医師、泌尿器科専門医、性機能専門医、性感染症専門医、医学博士。 都内での初期研修・後期研修ののち、 大学・基幹病院での臨床・研究に従事。 趣味が高じてファイナンシャルプランナー2級・ 福祉住環境コーディネーター3級を取得。 最近、「男性不妊戯画」と「目玉焼き」 がちょっと話題。

  • #3.

    「先生、LOH症候群疑いと書かれた紹 介状持って患者さんが来ています」 「ロー症候群…ハイ症候群もあるのかな」 「男性更年期」という言葉は少しづつ広まりつ つある。 しかし、男性更年期とされる人の中でテストス テロン補充療法の適応となる方は少ない。 外勤先や相談を受けた際に、対応できるように しよう。

  • #4.

    LOH症候群:Late-Onset Hypogonadism、加齢男性性腺機能低下症候群の略 • 文字通り、加齢に伴う男性の性腺機能低下にともなうもの • 国際的には「加齢によるアンドロゲンの低下に伴う症状を呈する状態」 • あくまで、LOH症候群はアンドロゲンの低下によるもの • メディアでの紹介時に多い表現だが、 男性更年期という言葉はLOH症候群を指すものではない 男性更年期≠LOH症候群

  • #5.

    男性更年期:男性ホルモン低下を含むより広い原因から生じる、 更年期前後の男性に起こる不定愁訴 • 具体的には以下のような症状を含む ・精神,心理症状 やる気の低下、抑うつ、イライラ、不安、疲労感 ・身体症状 肉体的消耗感、発汗、ほてり、睡眠障害、集中力低下 ・性機能関連症状 性欲低下、勃起障害、射精感の減退 など、症状は多岐にわたる。 男性更年期の 原因の1つが LOH症候群

  • #6.

    男性更年期という言葉の下に、誤解が多い • 男性更年期障害の病態は複雑で、加齢に伴うアンドロゲン不足だけでは説明で きないことが多いが、一部のメディアではLOH症候群と男性更年期障害が同 義語のように扱われている • 紹介元も、更年期男性の症状を全てアンドロゲン低下に結びつけて説明して いることも • 男性更年期外来には、LOH症候群のみならず、大うつ病や気分障害の方も受診 されている可能性があり、心療科との連携が重要 • 患者さんはご自身でさまざまな情報を得ていることも多く、テストステロン 補充ありきで相談されることもあるので、落ち着いて対応しよう

  • #7.

    減っていくことは確か 症状と結びつくかは別 テストステロンとは • 男性ホルモンは、アンドロゲンとも呼ばれるホルモン群の総称 • アンドロゲンの中で男性更年期に大きな役割を果たすものがテストステロン • テストステロンの約90%は精巣で産生され、様々な生理作用を持つ • 個人差はあるが、テストステロンは20代をピークに50歳を過ぎると年1%の 割合で徐々に減少していく • 症状をともなうテストステロン減少には対処が必要

  • #8.

    テストステロンの作用 「戦う」系の作用が多い 臓器 作用 脳 性欲などの精神作用 腎臓 エリスロポエチンの分泌 筋肉 筋肉量の維持・増加 皮膚 皮脂産生 骨髄 造血作用 脂肪 脂肪の燃焼 生殖器 性機能 造精機能 • その他、認知症・サルコペニアなどとの関連も指摘されている

  • #9.

    生物活性を持つものは フリーテストステロン テストステロンは、3つから構成される • Sex Hormone Binding Globulin (SHBG)とテストステロンの結合型 :総テストステロンの35~75%で、生物活性はない • アルブミンとテストステロンの結合型 :総テストステロンの25~65%で、容易にアルブミンから解離する • 遊離型(フリー)テストステロン :総テストステロンの1~2%で、生物活性を持つ

  • #10.

    テストステロンの生物活性 • アルブミンに結合するテストステロンとフリーテストステロンはどちらも生 物活性をもち、BioAvailable Testosterone(BAT)と呼ばれる • 加齢によってSHBG型テストステロンが漸増するため、総テストステロンが変 化しなくてもBATは相対的に減少すると考えられている • 加齢・肥満・糖尿病などSHBGが増加あるいは低下する基礎疾患がある場合は 総テストステロン値の解釈に注意

  • #11.

    男性更年期の診療では、問診とともに以下のような身体診察もおこなう • 精巣容量や陰茎のサイズの減少 • 前立腺の縮小 • 女性化乳房 • 陰部および腋毛の減少 • 除脂肪量および脂肪量の変化 • 必要に応じて画像検査も組み合わせ、原発性性腺機能低下症も考慮する

  • #12.

    男性更年期の診療では、数種類の質問票を状況に応じて組み合わせる • LOH症候群の質問票で最も一般的なものは、Aging males’ symptoms(AMS) スコア • 泌尿器科では勃起障害についての相談も多く、国際勃起機能スコア (International Index of Erectile Function: IIEF)の短縮版、IIEF-5の利用 も推奨されるだろう • LOH症候群の精神症状はうつ病と類似しているため、うつ病の診断のために M.I.N.I.(Mini International Neuropsychiatric Interview)を用いることも • 実際の現場ではAMSとIIEF-5、アンドロゲン測定のうえ、テストステロン補 充の適応がない場合は心療科もしくは専門外来へ誘導するのが妥当だろう

  • #13.

    症状 総合的に調子が思わしくない 関節や筋肉の痛み ひどい発汗 睡眠の悩み よく眠くなる、しばしば疲れを感じる汗 いらいらする 神経質になった 不安感 からだの疲労や行動力の減退 筋力の低下 憂うつな気分 絶頂期は過ぎたと感じる 力尽きた、どん底にいると感じる ひげの伸びが遅くなった 性的能力の衰え 早朝勃起(朝立ち)の回数の減少 性欲の低下 症状の重症度 17~26点:なし なし 軽い 中程度 重い 非常に重い 1 1 2 2 3 3 4 4 5 5 1 2 3 4 5 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 27~36点:軽度 37~49点:中等度 50点以上:重症

  • #14.

    テストステロンは 朝高く、夜低い 採血:フリーテストステロンか、総テストステロンか • 日本では生理活性を持つ遊離テストステロンがLOH症候群の診断基準に用いら れてきた • AUA(American Urological Association)などの海外ガイドラインでは、 総テストステロンを基準とすることが一般的 • 男性の性腺機能低下症ガイドライン2022では、250 ng/dl(2.5ng/ml)未満を 性腺機能低下症と診断する基準として推奨した • 採血を行う場合は午前中、可能であれば空腹時に2回測定することが望ましい

  • #15.

    T/LH/(FSH)/PRL程度とし、 専門家の判断をあおぐのも可 テストステロン以外に採血が推奨される項目① • 性ホルモンは視床下部と下垂体によって調節されているため、下垂体ホルモ ンである黄体形成ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)の測定は必須 • プロラクチン(PRL)は性機能障害を引き起こすことがあるため推奨される • 必要に応じエストラジオール(E2)の測定も • 異常が見られた場合は下垂体腫瘍などを念頭に精査を行う • ホルモン補充を念頭に精査を進める場合はPSA(前立腺がん腫瘍マーカー)の 測定も必要だろう

  • #16.

    ここまで来ると 専門家レベル… テストステロン以外に採血が推奨される項目② • 加齢に伴う成長ホルモン(GH)/インスリン様成長因子(IGF-1)の減少は、 筋力の低下、内臓脂肪の増加、骨密度の低下と関連する可能性が • 副腎アンドロゲンであるdehydroepiandrosterone(DHEA)やDHEA-sulfate (DHEA-S)は加齢とともに徐々に減少し、LOHの症状や徴候の引き金となる ことも • 血中コルチゾール(cortisol)は生涯を通じて安定しているが、ストレスに よって変動することが知られておりLOH症候群と一過性のストレスとの鑑別 に用いることができる

  • #17.

    総テストステロン 遊離テストステロン 同時採血は保険算定される テストステロン低値はARTの適応 • 米国内分泌学会のConsensus Committeeのガイドライン ⇒総テストステロン値が2ng/mL未満をARTの適応基準 • ISA/ISSAM/EAU ⇒総テストステロン値が8nmol/L(2.31ng/mL)未満をARTの適応基準 • 日本では遊離テストステロンを長く基準値としてきた • 8.5pg/mL未満を正常下限値としARTの適応基準 • 8.5pg/mL~11.8pg/mL未満まではボーダーラインとして考慮 • しかし、男性の性腺機能低下症ガイドライン2022では世界基準へ ⇒総テストステロン2.5ng/ml未満が推奨された

  • #18.

    治療の中心はテストステロン補充療法(Androgen Replacement Therapy: ART) ①エナント酸テストステロン(エナルモンデポー®) 125mgを2〜3 週ごと、250mgを3〜4週ごとに筋注 投与4〜7 日目頃に血中テストステロンが最高値となる 可能であれば投与後1週間程度&数か月ごとを目安に採血を行う コレステロール値や血算などもフォローしよう ②男性ホルモン軟膏(グローミン®) 1回3gを1日1〜2回陰囊皮膚に塗布(1回3mgテストステロン相当) 投与が容易でかつ安定した血中テストステロン濃度が得られる ネットや指定された薬局での購入も可能 海外では経口薬も存在する(以前は日本でも販売されていた)

  • #19.

    以下の場合はテストステロン補充療法(ART)は行わない • 前立腺癌 • ART前PSAが2.0ng/mL以上 (2.0ng/mL以上4.0ng/mL未満の場合は慎重に検討し治療する) • 中等度以上の前立腺肥大症 • 妊活中の方(ネガティブフィードバックにより造精機能に影響する)

  • #20.

    以下の場合はテストステロン補充療法(ART)は行わない • 乳癌 • 多血症 • 重度の肝機能障害や腎機能不全 • うっ血性心不全 • 重度の高血圧 • 夜間睡眠時無呼吸 禁忌ではないが ニキビの増加にも注意

  • #21.

    テストステロン補充をすると、前立腺癌になりますか? • 動物モデルではテストステロンが前立腺癌を引き起こすことが知られている • 前立腺生検を用いた研究では、血中テストステロン値と前立腺癌リスクの関 連はみられていない • ARTを受けた患者を観察した臨床研究では14/1365人のみ前立腺癌を発症し、 いずれも根治が可能だった • メタ解析では、ARTによる前立腺癌リスクの上昇は否定的である • 現段階で明らかな因果関係はない、という表現に

  • #22.

    元気が出ないんですが、とりあえず泌尿器科に行けば(送れば)いいですか? • まずは内科疾患や精神疾患がないことを確認しよう • 男性更年期外来の患者の多くにうつ病が含まれており、心療科との連携は重要 • 泌尿器科でも、対応できる場合とできない場合が • 私自身も若い頃は「?」だった • 日本Men’sHealth医学会のサイトでは医療機関の検索が可能

  • #23.

    補充の適応がないならどうすればいいんですか! • テストステロンの産生を期待し、漢方薬を処方することがある (柴胡加竜骨牡蛎湯や補中益気湯) • 勃起不全をともなう場合にはバイアグラ等のPDE-5阻害薬を使用することも • そのほか生活習慣の改善やカウンセリングを行う事が多い • 抗うつ薬の使用判断を含めて難渋する場合は、 心療科やメンズヘルス外来といった専門外来への紹介を検討する

  • #24.

    問診・質問票の記入 介入すべき全身疾患の精査 身体診察 介入すべき全身疾患の精査 採血 総テストステロン 2.5ng/ml未満 総テストステロン 2.5ng/ml以上 ARTの適応を再検討 (ボーダーライン例) ARTの適応禁忌 なし あり ARTの開始 採血フォローとART中止・継続の判断 ARTの適応禁忌 生活習慣の改善 漢方 その他の 内服薬 専門医への 紹介を考慮 • • • • • • • • • • • 前立腺癌 PSA2.0ng/mL以上 中等度以上の前立腺肥大 妊活中 乳癌 多血症 重度の肝機能障害 重度の腎機能不全 うっ血性心不全 重度の高血圧 夜間睡眠時無呼吸

  • #25.

    50歳代男性 • 近医心療科通院中 • うつ症状に悩み主治医に相談したところ、LOH症候群を疑われ泌尿器科へ紹介 • 採血ではテストステロン低値を認める • 本人の治療意欲も強く、適応禁忌も無し • エナルモンデポー®125mgの注射を開始し症状改善、その後250㎎へ増量 • PSAを含めた定期的な採血を6か月ごとに行っている

  • #26.

    60歳代男性 • 週刊誌で男性更年期の情報を目にし、自分の症状に当てはまるため来院 • AMSは軽度 • 採血でテストステロン値は正常上限をわずかに超える(ボーダーライン) • 治療適応を含め専門外来を紹介 • PSA値が高かったが、前立腺がんの否定のうえでテストステロン補充を検討す ると返書が届いた

  • #27.

    40歳代男性 • 近医からうつ症状に対してLOH症候群を疑われ紹介 • AMSは中等度 • テストステロン値は正常 • 気分の落ち込みが強く、M.I.N.I.では大うつ病の診断基準を満たす • 心療科を紹介し、抗うつ薬の治療が開始された

  • #28.

    男性更年期は様々な原因、症状が複雑に関係し ており分かっていないことも多い 問診や身体診察など行うべき検査も多く、テ ストステロン補充に関しては禁忌も多いため 慎重に判断する 相談できる医師がいる場合は複数人で治療方針 を検討し、一人で抱え込まず専門外来(メン ズヘルス外来)へ誘導するのも一手だろう アンチエイジングを目的に 必死にサプリを飲む泌尿器科医

  • #29.

    【参照】 男性の性腺機能低下症ガイドライン作成委員会編:日本内分泌学会、 日本メンズヘルス医学会 男性の性腺機能低下症ガイドライン2022 https://www.mens-health.jp/wp-content/uploads/2021/10/c95fe605f4e4127722b302a0213fc301.pdf 日本泌尿器科学会/日本Men’s Health医学会「LOH 症候群診療ガイドライン」検討ワーキング委員会, 加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)診療の手引き, 2007 https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/30_loh_syndrome.pdf 岩本晃明, 日本人成人男子の総テストステロン,遊離テストステロンの基準値の設定, 日泌会誌 2004;95:751-760 Muller RL, et al. Serum testosterone and dihydrotestosterone and prostate cancer risk in the placebo arm of the reduction by dutasteride of prostate cancer events trial. Eur Urol. 2012;62:757-764 Feneley MR et al. Is testosterone treatment good for the prostate? Study of safety during long-term treatment. J Sex Med. 9:2138-49. 2012. Boyle P, et al. Endogenous and exogenous testosterone and the risk of prostate cancer and increased prostate-specific antigen (PSA) level: a meta-analysis. BJU Int 2016;118:731–41., Calof OM, et al. Adverse events associated with testosterone replacement in middle-aged and older men:

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