神戸市立医療センター中央市民病院
市中肺炎診療の考え方 ウィズコロナ時代
#市中肺炎 #感染症 #COVID-19
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最終更新:2020年12月12日
COVID-19治療 アップデート 2023年3月版
#ステロイド #COVID-19 #レムデシビル #コロナ #ソトロビマブ #モルヌピラビル #ニルマトレルビル・リトナビル #デキサメタゾン
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最終更新:2023年3月25日
診療に繋がるグラム染色
#感染症科 #グラム染色
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最終更新:2021年3月14日
新型コロナウイルス感染症_妊婦関連情報
#新型コロナウイルス感染症
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最終更新:2020年8月18日
2022.6.28時点 サル痘について
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最終更新:2022年6月28日
リンパ節腫脹を極める
#感染症 #リンパ節腫脹 #リンパ節生検 #腫瘍
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最終更新:2020年9月21日
経口抗菌薬の賢い使い方 ID-Gym2020〜感染症治療のイロハ〜 vol.5
#抗菌薬 #感染症 #オンライン配信 #ID-Gym2020
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最終更新:2021年6月30日
SNS初心者による初心者のための効率的な勉強法講座 - twitterを中心に -
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最終更新:2020年8月18日
新型コロナウイルスワクチン(COVID-19ワクチン)Q&A
#感染症科 #ワクチン #新型コロナウイルス感染症 #COVID-19
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最終更新:2021年2月1日
2023.3.30時点のCOVID治療薬と濃厚接触者の就業制限の考え方とワクチンまとめ
#COVID-19
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最終更新:2023年3月30日
入院患者の発熱の語呂合わせ
#発熱
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最終更新:2023年3月27日
A Case of Fever in the Mertopolitan Area
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最終更新:2023年3月27日
COVID-19治療 アップデート 2023年3月版
#ステロイド #COVID-19 #レムデシビル #コロナ #ソトロビマブ #モルヌピラビル #ニルマトレルビル・リトナビル #デキサメタゾン
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最終更新:2023年3月25日
5類感染症となるCOVID-19への対応 - 5類化への対応・院内感染対策・早期治療の重要性 -
#新型コロナウイルス感染症 #COVID-19 #感染対策 #5類感染症 #マスク
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最終更新:2023年3月25日
Principles of Antibiotic Selection: A Case of Recurrent Fever
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最終更新:2023年3月24日
内科(364)
消化器内科(55)
循環器内科(77)
呼吸器内科(78)
血液内科(32)
糖尿病内分泌代謝内科(46)
腎臓内科(29)
アレ膠リウマチ内科(28)
脳神経内科(93)
総合診療科(151)
救急科(345)
外科(33)
消化器外科(2)
呼吸器外科(3)
乳腺外科(0)
整形外科(81)
脳神経外科(16)
泌尿器科(21)
形成外科(19)
皮膚科(25)
眼科(19)
耳鼻咽喉科(13)
歯科口腔外科(8)
リハビリテーション科(8)
心臓血管外科(5)
小児科(48)
産婦人科(47)
精神科(61)
放射線科(51)
麻酔科(12)
緩和ケア科(23)
感染症科(200)
産業医(8)
初期研修医(333)
医学生(6)
その他(298)
COVID-19診断・治療・感染対策 神戸市立医療センター中央市民病院 感染症科 黒田浩一 2020.11.11作成 含まれていない内容 ・COVID-19罹患後の症状の残存 ・ワクチン ・クラスター事例のまとめ ・日本の医療体制について など 注:このスライドは、作者が個人的に作成したもので、所属施設の見解を代表したものではありませんので、ご了承ください。また、2020.11.11時点での作者の考えであり、今後変わる可能性があります。
COI開示 発表内容に関連し、発表者に開示すべきCOI関係にある企業などはありません
病院紹介 神戸市立医療センター中央市民病院 768床 医師325名・初期研修医34名、看護師1103名 第一種感染症指定病院(2床) 第二種感染症指定病院(10床) 救命救急センター 救急搬送 9684件(2019年) 手術件数 10426件(2019年)
本日お話する内容:COVID-19の... 疫学 症状 診断 治療 感染対策 含まれていない内容 ・COVID-19罹患後の症状の残存 ・ワクチン ・クラスター事例のまとめ ・日本の医療体制について など
用語の確認 新型コロナウイルス =severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 (SARS-CoV-2) 新型コロナウイルス感染症 =coronavirus disease 2019 (COVID-19) 5
COVID-19の疫学
COVID-19の疫学:日本での感染者数 厚生労働省wrbsite. 国内の発生状況など 2020年11月6日時点 感染者 104,782名 死亡者 1806名
COVID-19の疫学:年代別感染者数と比率 2020年8月19日時点のdata https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_13190.html https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/coronavirus-japan-chart/
COVID-19の疫学:年代別死亡数・致死率 2020年8月19日時点のdata https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_13190.html 致死率 :年齢階級別みた死亡者数の陽性者数に対する割合 全体で1.9% 40歳未満は致死率ほぼ0% 死亡者のほとんどは60歳以上 年齢が上昇するとともに致死率も上昇
COVID-19:世界での発生数・死亡数 WHO website 2020.11.7 access https://covid19.who.int/?gclid=Cj0KCQjwqrb7BRDlARIsACwGad6m6Te6l9fzM9jhdc9oiz1h9TqTfW5SYxnQe3SJ4GmoblbGRxVcAi0aAuD4EALw_wcB 2020年11月 発生数:約45万人/日 死亡数:約7000人/日
COVID-19:世界の地域別発生数 WHO website 2020.11.7 access https://covid19.who.int/?gclid=Cj0KCQjwqrb7BRDlARIsACwGad6m6Te6l9fzM9jhdc9oiz1h9TqTfW5SYxnQe3SJ4GmoblbGRxVcAi0aAuD4EALw_wcB
COVID-19:世界の地域別死亡数 WHO website 2020.11.7 access https://covid19.who.int/?gclid=Cj0KCQjwqrb7BRDlARIsACwGad6m6Te6l9fzM9jhdc9oiz1h9TqTfW5SYxnQe3SJ4GmoblbGRxVcAi0aAuD4EALw_wcB
第1波と第2波の違いは? 第1波:~2020年5月 第2波:2020年6月~
遺伝子(ゲノム配列)の分析 SARS-CoV-2は、変異を繰り返している 24.1塩基変異/ゲノム/年(1年間で24.1か所)と推定 SARS-CoV-2ゲノム配列を確定・塩基変異を抽出し、ウイルス株の親子関係を示すハプロタイプ・ネットワークを作成することによって、流行している株の由来が推定できる https://www.niid.go.jp/niid/ja/basic-science/467-genome/9787-genome-2020-2.html
日本各地の初期クラスター :中国武漢由来(1-2月) 3月中旬以降の流行株 :欧州系統 https://www.niid.go.jp/niid/ja/basic-science/467-genome/9586-genome-2020-1.html
遺伝子変異によって病原性は変わりうる シンガポールからの報告 382-nucleotide deletionを認めるSARS-CoV-2は、呼吸不全に至るリスク(重症化リスク)が低かった Lancet. 2020;396(10251):603-611.
第2波は致命率が低い可能性がある Transbound Emerg Dis. 2020 Sep 6. doi:10.1111/tbed.13819. 日本のCFR(case fatality rate)は約80%減少
日本のCOVID-19レジストリ中間解析 第2波では、全年齢層において致命率が低下した
第2波の致命率が低い理由(推測) 検査能力が向上して - 軽症患者や無症状患者を診断できるようになった - 早期診断・早期治療(特に重症患者)が可能となった 重症患者の呼吸管理の適正化(例:過剰に気管挿管をしない) 若年者の感染者の増加 重症化高リスク群(高齢者など)の活動自粛 ウイルスの毒性低下?感染力増大?
COIVD-19とインフルエンザどちらが危険? よく比較されています
COVID-19とインフルエンザの違い 感染伝播スピード(潜伏期間・serial interval)が違う serial interval:COVID-19(5-6日) vs インフルエンザ(3日) 基本再生産数が違う COVID-19(2-2.5) vs インフルエンザ(1.7:2009年pandemic) 感染伝播における小児の役割が違う COVID-19(主に成人→小児へ感染) vs インフルエンザ(小児から拡がりやすい) COVID-19は、重症化率が高い(症状出現した場合) 15%が酸素投与必要、5%が人工呼吸器必要 WHO website:https://www.who.int/westernpacific/news/q-a-detail/q-a-similarities-and-differences-covid-19-and-influenza Lancet Infect Dis. 2020;20(9):e238-e244.
致死率の比較は難しい(COVID-19 vs Flu) 2つの感染症の報告システムの差 COVID-19の死亡は全数報告、インフルエンザの死亡は推定値 COVID-19による死亡者数は、検査能力の制限や検査偽陰性によって、過小評価される可能性がある case fatality ratio:診断された患者数が分母 COVID-19:軽症例、無症候感染者の多くは診断されない(診断例の10倍以上)1) インフルエンザ:無症候感染者は、10-16%?85%? 2,3) infection fatality ratio:感染者が分母 WHO website:https://www.who.int/news-room/commentaries/detail/estimating-mortality-from-covid-19 JAMA Intern Med. 2020;180(8):1045-1046 1) Lancet. 2020;396(10247):313-319 2) Epidemiology. 2015;26(6):862-72 3) Clin Infect Dis. 2016;62(4):431-437.
COVID-19の致死率(IFR)は? infection fatality ratio(IFR):0.5%-1.0% 1,3-5) 高齢者施設の住民を除外した研究でのIFR:0.26% 7) 12-40歳 0.01%、40-59歳 0.12%、60歳以上 1.71%
COVID-19とインフルエンザの比較 COVID-19のcase fatality ratio(CFR):1.2~4% 1-3) COVID-19のinfection fatality ratio(IFR):0.5-1.0% インフルエンザのIFR 米国CDCの推定値は、0.10-0.13%程度 4) COVID-19:5-10倍のIFR 1) https://www.who.int/westernpacific/news/q-a-detail/q-a-similarities-and-differences-covid-19-and-influenza. 2) Euro Surveill. 2020 Mar;25(12):2000256. 3) JAMA. 2020;323(13):1239-1242 4) https://www.cdc.gov/flu/about/burden/index.html
COVID-19とインフルエンザの比較 有症状のCOVID-19は インフルエンザ(2009 pandemic)と比較して - 入院率が高い - ICU入室率は、5-6倍 - 今回のpandemicで、米国やイタリアではICUが不足! JAMA Intern Med. 2020;180(8):1045-1046. Lancet Infect Dis. 2020;20(9):e238-e244.
スペインかぜ(1918 H1N1)とCOVID-19 2020.3.11-5.11のNYでのCOVID-19の流行は、スペイン風邪(1918 H1N1)に匹敵する可能性がある 超過死亡の絶対値はスペイン風邪のほうが大きいが、前数年と比較した相対的な増加は、COVID-19のほうが大きい JAMA Netw Open. 2020 Aug 3;3(8):e2017527. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2020.17527.
2019/2020インフルエンザの流行は早期に収束 国立感染症研究所:https://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/813-idsc/map/130-flu-10year.html
2020年のオーストラリアの冬は...激減! 2020.3.20 渡航禁止, 3.23 ロックダウン, 5月中旬以降は緩和と制限を繰り返している
今シーズンのインフルエンザ流行状況に注目!
COVID-19の症状
新型コロナウイルス感染症 COVID-19 診療の手引き 第3版
BMJ. 2020 Oct 23;371:m3862. doi: 10.1136/bmj.m3862.
重症COVID-19はbiphasic illnessである 重症化 炎症cascade>ウイルス増殖 J Antimicrob Chemother. 2020 Oct 25;dkaa442. doi: 10.1093/jac/dkaa442.
重症化する一般的な経過 N Engl J Med. 2020 May 15. doi: 10.1056/NEJMcp2009575. 時間単位で急速に 呼吸不全が悪化することがある
Lancet Respir Med. 2020;8(7):717-725. COVID-19の気管切開ガイダンス ・入院:16-20%(米国・欧州) ・挿管:5-12% ・長期間の人工呼吸器:6% ・気管切開:0.5%
COVID-19患者の症状 軽症・中等症81%、重症14%、最重症5% 1, 5)
1) JAMA. 2020;323(13):1239-1242. 2) https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/who-china-joint-mission-on-covid-19-final-report.pdf 3) N Engl J Med. 2020;382(18):1708-1720. 4) MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2020 Jun 19;69(24):759-765. 5) JAMA. 2020 Aug 25;324(8):782-793. 6) BMJ. 2020 May 22;369:m1985 7) https://www.who.int/publications/i/item/clinical-management-of-covid-19
嗅覚障害と味覚障害 急性発症する嗅覚または味覚障害は、COVID-19の特徴のひとつである 報告によって頻度にバラつきがある :重症度・人種・性別・聴取に仕方に影響を受けている可能性 嗅覚障害の頻度(メタ解析):41-53% 1-2) 味覚障害の頻度(メタ解析):38-44% 1-2) 鼻閉を伴うことは少ない(25-35%)3-5) 嗅覚または味覚障害がCOVID-19の初発症状であることは10-30%程度 3-5)
1) Otolaryngol Head Neck Surg. 2020;163(1):3-11. 2) Otolaryngol Head Neck Surg. 2020 Jun 9;194599820934761 3) Eur Arch Otorhinolaryngol. 2020;277(8):2251-2261. 4) JAMA. 2020;323(20):2089-2090. 5) Otolaryngol Head Neck Surg. 2020;163(1):132-134
嗅覚障害と味覚障害 症状が嗅覚または味覚障害のみのCOVID-19患者 :1.9-3%(分母は全COVID-19患者)1-2) COVID-19疑い患者の嗅覚または味覚障害の診断精度 :感度23-42%、特異度95-99% 3-5) 嗅覚障害のリスク 1,3,6-10) :女性、若年、軽症、アレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎
1) JAMA. 2020;323(20):2089-2090. 2) Eur Arch Otorhinolaryngol. 2020;277(8):2389-2390. 3) Mayo Clin Proc. 2020;95(8):1621-1631. 4) Eur Arch Otorhinolaryngol. 2020;277(8):2389-2390. 5) Lancet Infect Dis. 2020;20(9):1014-1015. 6) Eur Arch Otorhinolaryngol. 2020;277(8):2251-2261. 7) JAMA Neurol. 2020;77(6):683-690 8) Clin Infect Dis. 2020;71(15):889-890 9) JAMA. 2020;323(24):2512-2514. 10) Ann Allergy Asthma Immunol. 2020 Jul 24:S1081-1206(20)30514-7.
嗅覚障害と味覚障害:まとめ COVID-19患者の40-50%でみられる 通常は、発熱や気道症状と同時または後に出現する 軽症例、女性、若年者で多くみられる 急性気道感染症患者でのCOVID-19診断における特異度は高い COVID-19流行期の急性気道感染症で来院した患者では 必ず嗅覚障害と味覚障害の有無を確認する
COVID-19の年代別イメージ 診断された症例では.... - 小児・20歳未満:いわゆる風邪(数日-1週間で改善) - 20-30歳台:軽症(症状は長め)、嗅覚障害、時々肺炎 - 40-50歳台:肺炎多い、発熱7-10日以上はありえる - 60歳以上:呼吸不全を呈する肺炎が多い インフルエンザとは、臨床経過は異なるが、発症時の症状は似ているため区別は困難
他の感染症の合併(診断時・入院後) 細菌感染症(主に気道):2.2-7%(ICUに限定:11-15%)1-3,10-12) 血液培養陽性率(院内発症も含む):1.6-1.8% 4,10) ウイルス感染症:1.6-20.7% 1,2,5,6,10) 非定型肺炎: 0.15% 6) 院内感染:4.3-14.3% 3,11,13)、真菌感染症もありえる 7-9) :ICUで人工呼吸器管理中の患者では侵襲性肺アスペルギルス症に注意 報告によって、対象とする感染症(気道感染症のみ or すべての感染症)、時期(季節)、気道検体の提出率、重症患者の占める割合が異なるため、報告される細菌感染症合併率に違いが生じている
1) Clin Infect Dis. 2020 Jul 1;ciaa902. doi: 10.1093/cid/ciaa902. 2) J Infect. 2020 Aug;81(2):266-275. 3) Clin Microbiol Infect. 2020 Jul 22;S1198-743X(20)30423-7. 4) J Clin Microbiol. 2020;58(8):e00875-20. 5) JAMA. 2020 May 26;323(20):2085-2086. 6) JAMA. 2020 May 26;323(20):2052-2059. 7) Clin Infect Dis. 2020 May 2;ciaa530. doi: 10.1093/cid/ciaa530. 8) Clin Infect Dis. 2020 Aug 29;ciaa1298. doi: 10.1093/cid/ciaa1298. 9) Clin Infect Dis. 2020 Sep 5;ciaa1342. doi: 10.1093/cid/ciaa1342. 10) Clin Infect Dis. 2020 Aug 21;ciaa1239. doi:10.1093/cid/ciaa1239. 11) Clin Microbiol Infect. 2020 Jul 31;S1198-743X(20)30450-X. 12) Open Forum Infectious Diseases, ofaa484, https://doi.org/10.1093/ofid/ofaa484 13) Clin Microbiol Infect. 2020. https://doi.org/10.1016/j.cmi.2020.10.021
COVID-19と細菌感染症 入院が必要なCOVD-19患者は、インフルエンザ入院患者のように、高率に細菌感染症を合併するわけではない(一般病棟 5%未満、ICUでは11-15%) 注意点:どの報告も診断時の気道検体の培養提出率が低いため、市中発症の細菌感染症合併が過小評価されている可能性がある 原因となる細菌は、市中感染・院内感染ともに、それぞれ一般的な細菌であり、SARS-CoV-2患者に感染しやすい細菌は今のところ指摘されていない(市中感染:肺炎球菌、S. aureus、H. influenzae、院内感染:緑膿菌、腸内細菌科細菌、S. aureus、CNS) Clin Microbiol Infect. 2020 Sep 23;S1198-743X(20)30577-2. Clin Microbiol Infect. 2020 Jul 31;S1198-743X(20)30450-X. Open Forum Infectious Diseases, ofaa484, https://doi.org/10.1093/ofid/ofaa484
他の感染の合併:インフルエンザ インフルエンザとの混合感染は報告されている - 1%-50%と幅が大きい1-5) - 報告による頻度の差は、研究が行われた季節による? 混合感染は、COVID-19単独より予後が悪い可能性がある 5,7) 予防が重要:インフルエンザワクチンとマスク着用 8)
1) JAMA. 2020 May 26;323(20):2085-2086 2) Lancet. 2020;395(10236):e84. 3) J Med Virol. 2020;10.1002/jmv.25781. 4) Int J Infect Dis. 2020;96:683-687. 5) J Med Virol. 2020;10.1002/jmv.26163. 6) Clin Infect Dis. 2020 Jul 1;ciaa902. doi: 10.1093/cid/ciaa902. 7) BMJ. 2020;370:m3720. doi: 10.1136/bmj.m3720. 8) JAMA. 2020 Aug 14. doi: 10.1001/jama.2020.14661.
他の感染の合併(当院data) 2020年3月から9月までの218例の入院時の呼吸器感染症合併 - インフルエンザ合併なし(流行が収束していた) - 非定型肺炎合併なし - 細菌性肺炎(10例:4.6%) 全例、重症(6例:9.7%)または最重症(4例:13.8%) - その他:尿路感染症 2例・褥瘡感染症1例(うち2例は他院院内発生例)
COVID-19の診断
COVID-19の診断 症状:発熱、咽頭痛、咳、呼吸困難、嗅覚障害、味覚障害、など 曝露歴:家族内、職場、clusterが発生した場所、など 行動歴:clusterが発生しやすい場所(ナイトクラブ、カラオケ、ライブハウス、スポーツジム、大規模イベント) 画像検査:胸部レントゲン、胸部単純CT PCR検査(鼻咽頭ぬぐい液・唾液) 抗原検査(鼻咽頭ぬぐい液・唾液)
どんな時にCOVID-19を疑う? 症状(嗅覚・味覚障害 ± 発熱 or 気道症状) 症状(発熱 or 気道症状)+曝露歴 症状(発熱 or 気道症状) +高リスクの行動歴 症状(発熱 or 気道症状) +流行期 肺炎(主にスリガラス影)
特に早期に診断すべき患者群 重症化リスク・死亡リスクが高い 重症化リスク・死亡リスクが高い群と同居している 医療従事者
重症化・死亡リスク因子
重症化・死亡リスク 1-24) 高齢(65歳以上) BMI > 30-40(肥満) 呼吸困難 血痰 入院時の呼吸不全
COVID-19は高齢であるほど入院・死亡のリスクが増加する CDC:https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/covid-data/investigations-discovery/hospitalization-death-by-age.html
重症化・死亡リスク 1-24) COPD 糖尿病 CKD 高血圧 心血管疾患 脳血管疾患 悪性腫瘍(固形癌・血液系) 免疫不全(HIVを含む) 固形臓器移植後 control不良の喘息 フレイル
COVID-19患者の入院リスク:基礎疾患が多いほどリスク高い Clin Infect Dis. 2020 Sep 18;ciaa1419. doi: 10.1093/cid/ciaa1419. CDC:https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/downloads/covid-data/hospitalization-underlying-medical-conditions.pdf
重症化・死亡リスク 1-24) D-dimer上昇(1-2µg/mL以上) LD上昇 SOFA高値 AST高値 プロカルシトニン高値、CRP上昇、フェリチン上昇 心筋傷害(心筋マーカー上昇:CK、トロポニン) リンパ球減少
参考文献(重症化・死亡リスクについて) 1. JAMA Intern Med. 2020 Jul 1;180(7):934-943. 2. J Allergy Clin Immunol. 2020 Jul;146(1):55-57. 3. Intensive Care Med. 2020 Sep;46(9):1784-1786. 4. Lancet Respir Med. 2020 Sep;8(9):e70. doi: 10.1016/S2213-2600(20)30354-4. 5. Am J Respir Crit Care Med. 2020 Jun 1;201(11):1372-1379. 6. Lancet. 2020 Mar 28;395(10229):1054-1062. 7. Chest. 2020 Jul;158(1):97-105. doi: 10.1016/j.chest.2020.04.010. 8. N Engl J Med. 2020 Jul 2;383(1):85-88. doi: 10.1056/NEJMc2009567. 9. Clin Infect Dis. 2020 May 3;ciaa538. doi: 10.1093/cid/ciaa538. 10. J Thromb Haemost. 2020 Jun;18(6):1324-1329. doi: 10.1111/jth.14859. 11. J Infect. 2020 Jun;80(6):639-645. doi: 10.1016/j.jinf.2020.03.019. 12. Eur Respir J. 2020 May 7;55(5):2000524. doi: 10.1183/13993003.00524-2020
参考文献の続き(重症化・死亡リスクについて) 13. BMJ. 2020 May 22;369:m1966. doi: 10.1136/bmj.m1966. 14. Nature. 2020 Aug;584(7821):430-436. doi: 10.1038/s41586-020-2521-4. 15. Ann Intern Med. 2020 Aug 12;M20-3742. doi: 10.7326/M20-3742 16. JAMA Cardiol. 2020 Jul 1;5(7):802-810. doi: 10.1001/jamacardio.2020.0950. 17. JAMA Intern Med. 2020 Aug 1;180(8):1081-1089. 18. JAMA Cardiol. 2020 May 13:e202159. doi: 10.1001/jamacardio.2020.2159. 19. Lancet Public Health. 2020 Aug;5(8):e444-e451. 20. Clin Infect Dis. 2020 Aug 7:ciaa1097. doi: 10.1093/cid/ciaa1097. 21. Obes Rev. 2020 Aug 26;10.1111/obr.13128. 22. JAMA Intern Med. 2020 Sep 9:e205313. doi: 10.1001/jamainternmed.2020.5313 23. BMJ. 2020 Sep 9;370:m3339. doi: 10.1136/bmj.m3339. 24. Clin Infect Dis. 2020 Oct 23;ciaa1605. doi: 10.1093/cid/ciaa1605.
重症化・死亡予測スコア 入院患者における重症化予測:ICU入室、人工呼吸器、死亡 http://118.126.104.170/ 項目:年齢、胸部レントゲン異常、血痰、呼吸困難、意識障害、既往歴の数(COPD、高血圧、DM、冠動脈疾患、CKD、悪性腫瘍、脳血管疾患、HBV感染、免疫不全)、悪性腫瘍、好中球/リンパ球、LDH、直接ビリルビン JAMA Intern Med. 2020;180(8):1081-1089.
4C mortality score 入院時の8つの値 年齢、性別 基礎疾患数 (Charlson comorbidity index+obesity) 呼吸数、SpO2、意識レベル BUN、CRP BMJ. 2020 Sep 9;370:m3339. doi: 10.1136/bmj.m3339. 0-21点:15点以上 致命率62%、3点以下 致命率1%
ウイルス量(Ct値)と重症度 診断時のウイルス量が多い患者は、重症化・死亡リスクが高い可能性がある Open Forum Infectious Diseases, ofaa535, https://doi.org/10.1093/ofid/ofaa535 Cancer Cell. 2020 Sep 15;S1535-6108(20)30481-5. doi: 10.1016/j.ccell.2020.09.007. 22 <25-27 >30-22 鼻咽頭ぬぐい液
検査
検査 SARS-CoV-2 PCR検査または抗原検査(定性・定量) SARS-CoV-2抗体検査 血液検査 画像検査:胸部レントゲン、胸部CT 培養検査:血液培養、喀痰培養
SARS-CoV-2検査
発症2-9日目のみ 厚生労働省 COVID-19病原体検査の指針
各検査を行う目的 核酸検出検査(主にPCR検査)・抗原検査 現在の感染を診断 抗体検査 過去の感染を診断(疫学調査) 発症から10-14日以上経過している現在の感染を診断
核酸検出検査(PCR)
PCR検査 検体中のウイルス遺伝子を特異的に増幅して検出 検体:鼻咽頭ぬぐい液、唾液、鼻腔ぬぐい液、喀痰 感度・特異度が最も高い検査と考えられているが、真の感度・特異度は不明(感度70-80%という専門家がいる) 感度を検討した研究のreference standardは、繰り返しPCR検査を施行し1回でも陽性になった症例、または、SARS-CoV-2抗体検査陽性(ただし、抗体検査の感度・特異度も不明:通常PCR陽性例をreference standardとしている)
各検体の特徴:鼻咽頭ぬぐい液 標準的な検体 咽頭ぬぐい液よりウイルス量が高値で、感度が高い 採取する医療者が飛沫に曝露するリスクがある →採取時は、サージカルマスク・アイシールド・手袋・ガウン 患者の不快感が強い N Engl J Med. 2020;382(12):1177-1179. JAMA. 2020;323(18):1843-1844.
各検体の特徴:唾液 鼻咽頭ぬぐい液とほぼ同等の精度が期待できる 自己採取できるため、医療従事者の曝露のリスクがない →行政検査(スクリーニング検査)や診療所で有用性が高い 1-2ml必要:高齢者や脱水患者の場合は採取が難しいことがある 飲食・歯磨き・うがいの後、最低10分できれば30分あけてから採取 採取に時間がかかるため、検体数の多い施設では鼻咽頭ぬぐい液のほうが効率的に診療をすすめることができるかもしれない
唾液PCRのエビデンス 有症状COVID-19患者におけるPCRの感度は、鼻咽頭ぬぐい液PCRの80-90%程度 1-6) 無症状COVID-19患者(空港検疫・接触者調査)におけるPCRの感度は、鼻咽頭ぬぐい液PCRと同等 7) 唾液PCRは、鼻咽頭ぬぐい液PCRより早く陰性化する 4-5) 唾液PCRは発症から10日目以降の感度が低い 6)
1) Clin Microbiol Infect. 2020 May 15;S1198-743X(20)30278-0. 2) J Clin Microbiol. 2020 Jul 23;58(8):e00776-20. 3) J Infect. 2020 Jul;81(1):e45-e50. 4) J Infect. 2020 Jul;81(1):147-178. 5) J Infect. 2020 Aug;81(2):e145-e147 6) Clin Microbiol. 2020 Aug 24;58(9):e01438-20. 7) Clin Infect Dis. 2020 Sep 25;ciaa1388. doi: 10.1093/cid/ciaa1388.
各検体の特徴:鼻腔ぬぐい液 検出感度は、鼻咽頭ぬぐい液と同等またはやや低い 鼻孔から2cm程度スワブを挿入して、5回程度回転させ、十分湿らせる 被験者本人で採取可能で、医療従事者の曝露を減らすことができる N Engl J Med. 2020;383(5):494-496 J Clin Microbiol. 2020;58(6):e00721-20. J Clin Virol. 2020 Jul;128:104417. doi: 10.1016/j.jcv.2020.104417.
各検体の特徴:下気道検体 喀痰 - 痰の喀出時に、飛沫が発生するため、周囲への感染リスクがあるため、陰圧採痰室などの個室で行う(初回のPCR検査で選択されることはない) - 咽頭ぬぐい液より感度が高い(PCR検査を繰り返す場合に考慮される) 気管内吸引痰、気管支肺胞洗浄液(BALF) - BALFの感度は最も高いとされるが、エアロゾル発生させる気管支鏡検査は周囲への感染リスクが高く、COVID-19診断のために行うことはない JAMA. 2020;323(18):1843-1844 https://www.idsociety.org/practice-guideline/covid-19-guideline-diagnostics/
PCRの感度(偽陰性)の問題
上気道検体(鼻咽頭ぬぐい液・咽頭ぬぐい液)の PCR検査の偽陰性率は、発症4日目がもっとも低い 発症日 Ann Intern Med. 2020 Aug 18;173(4):262-267. ※無症状病原帯保有者(1度も症状がでない)における感度は不明
PCR検査の感度は不十分では何回まで繰り返す?
上気道検体のPCR検査1回の感度は不十分? PCR検査(上気道検体)は連日3回施行すると感度が上昇する 発症3日目の咽頭ぬぐい液PCR検査で陰性の場合、2日後に再検すると陽性率が70%から95%に上昇する 鼻咽頭ぬぐい液PCRは2回行うと95.7%が診断される(発症から8日以内の場合) PCRの感度は、BALF>喀痰>鼻咽頭ぬぐい液 ウイルス量は、喀痰>鼻咽頭ぬぐい液>咽頭ぬぐい液 Clin Infect Dis. 2020 Feb 29;ciaa199. doi: 10.1093/cid/ciaa199. Radiology. 2020 Feb 19:200432. doi: 10.1148/radiol.2020200432. Clin Infect Dis. 2020 Apr 19. doi: 10.1093/cid/ciaa459. JAMA. 2020 Mar 11. doi:10.1001/jama.2020.3786. Clin Infect Dis. 2020 Mar 28. pii: ciaa345. doi: 10.1093/cid/ciaa345. N Engl J Med. 2020 Mar 19;382(12):1177-1179. COVID-19の診断基準:複数回施行したPCR検査で1回でも陽性になればCOVID-19と診断
PCR検査は本当に2回以上必要? COVID-19患者(5700名)の98.1%は最初のPCR検査で診断された。再検査で診断されたのは1.9%のみ。流行期のNYのため、2回目の検査がそもそも施行されなかった可能性がある。 COVID-19の診断目的で施行された1回目のPCRが陰性であった患者で、PCRが再検された患者のうち、3.7%(4/108)のみが再検査で陽性と判明した(米国の大学病院)。 別の米国の大学病院では、3.5%(22/626)だった。 当院ではこれまで再検で陽性になったのは2例のみ(明らかな濃厚接触が確認されていた患者で、発熱・肺炎像あり)。 JAMA. 2020 May 26;323(20):2052-2059. Infect Control Hosp Epidemiol. 2020 Aug 10;1-3. doi: 10.1017/ice.2020.413. Clin Infect Dis. 2020 Jun 7;ciaa722. doi: 10.1093/cid/ciaa722.
米国感染症学会のガイドライン 推奨5:COIVD-19の可能性が臨床的に低いと判断される症状のある患者において、ウイルスRNA検査は1回行うこと、繰り返さないことを提案する 臨床的に可能性が低いかどうかは、その地域の疫学と臨床判断に基づいて判断する https://www.idsociety.org/practice-guideline/covid-19-guideline-diagnostics/
推奨6:COVID-19の臨床的疑いが中程度または高度にある症状のある患者において、初回検査が陰性の場合、1回だけ検査を行うのではなく、ウイルスRNA検査を繰り返すことを提案する。 中等度または高度の臨床的疑いとは、入院settingの状況で適応され、COVID-19に一致する症状と徴候の重症度・数・タイミングに基づいて判断される 2回目の検査は、初回検査から24-48時間後に行う 2回目の検査の場合、下気道感染症の症状・徴候がある患者の場合は、下気道検体を採取することを考慮する 米国感染症学会のガイドライン https://www.idsociety.org/practice-guideline/covid-19-guideline-diagnostics/
COVID-19疑いの入院患者でCOVID-19を除外する条件 神戸市立医療センター中央市民病院の場合 症状と画像(スリガラス影)のある患者
COVID-19をどうやって除外?(1) 症状や画像所見からCOVID-19が鑑別に挙がる患者を対象 1回目のPCR検査(鼻咽頭ぬぐい液)が陰性の場合 - 代替診断あり→感染対策終了 - 代替診断なし→翌日に2回目のPCR検査 - 鑑別に有用な場合、胸部単純CT検査施行
2回目のPCR検査(鼻咽頭ぬぐい液)が陰性の場合 - 代替診断あり→感染対策終了 - COVID-19の検査前確率が低い場合→感染対策終了 - COVID-19の可能性が引き続き疑われる場合 3回目のPCR検査を検討する(発症から4-7日目がベスト) PCR検査の検体は、喀痰・吸引痰/BAL(挿管患者)を考慮 発症から10-14日目以降の場合は、抗体検査も検討する COVID-19をどうやって除外?(2)
COVID-19疑い患者 PCR検査(鼻咽頭ぬぐい液) COVID-19確定 陽性 代替診断なし 代替診断あり 陰性 COVID-19除外 PCR検査(鼻咽頭ぬぐい液)※1 COVID-19確定 陽性 代替診断なし 代替診断あり・検査後確率が高くない 陰性 COVID-19除外 PCR検査(鼻咽頭ぬぐい液 or 喀痰)※2・抗体検査※3 COVID-19除外 陰性 ※1:検体は喀痰でもよい ※2:発症から4-7日目が望ましい ※3:発症から14日目以降がよい 陽性 COVID-19確定 各evidenceを参考に作成した私案
外来患者 or 肺炎像のない患者 PCR検査は1回陰性確認したら除外
PCR検査:いろいろな検体から検出 1-10) 尿、血液、便、胸水、精液、結膜ぬぐい液、透析排液 これらの臨床的意義は不明 便中SARS-CoV-2は培養で検出された事例の報告がある 1,3,7) エアロゾル化した便中SARS-CoV-2が高層マンションの排水管を通じて拡散したことが原因と思われるCOVID-19 outbreak事例がある 7) COVID-19の可能性がある患者の気道検体を検査室外でグラム染色してはいけない(エアロゾル発生するリスク→安全キャビネットで行う必要がある)
1) JAMA. 2020;323(18):1843-1844. 2) Am J Infect Control. 2020;48(8):969-971. 3) Emerg Infect Dis. 2020;26(8):1920-1922. 4) Emerg Infect Dis. 2020 Jul 30;26(11). doi: 10.3201/eid2611.201956. 5) JAMA Netw Open. 2020 May 1;3(5):e208292. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2020.8292. 6) Chest. 2020 Jun 11;S0012-3692(20)31660-3. doi: 10.1016/j.chest.2020.05.583. 7) Ann Intern Med. 2020 Sep 1;M20-0928. doi: 10.7326/M20-0928. 8) Gastroenterology. 2020;159(1):81-95. 9) Ann Intern Med. 2020;173(3):242-243. 10) BMJ. 2020 Apr 21;369:m1443. doi: 10.1136/bmj.m1443.
抗原検査(定量・定性) 利点:迅速性、夜間でも施行可能 欠点:精度はPCRより劣る 定量検査:感度はPCRとほぼ同等?、特異度は低いかもしれない 定性検査:感度は低い、特異度も低い(偽陽性事例多い) 唾液抗原定性検査の感度は鼻咽頭ぬぐい液PCRの10%程度 Clin Microbiol. 2020 Aug 24;58(9):e01438-20.
抗原検査の問題点 偽陰性 →PCRで確認すればよいので問題はそれほど困らない 偽陽性(検査閾値を下げると問題になる事例が増加する) →COVID-19らしくない経過の場合どうするか? 例:発熱のみ・濃厚接触歴なし・肺炎像なし PCR検査して陰性の場合は?除外できる? →病院として、抗原検査陽性例のフローを作成する必要がある
抗原定性検査の「偽陽性」問題 検査前確率10%、感度50%(80%)、特異度98%とすると 陽性的中率= 50/68 × 100 = 73.5%(81.6%) 1000人の来院患者のうち18名が過剰診断される 陰性的中率= 882/932 ×100 = 94.7%
過剰診断は患者/家族/社会への害が大きい 発症から10日は隔離(宿泊施設 or 入院)、軽症であれば入院は不要 独居または同居メンバー全員が感染していれば、自宅療養はよいかもしれないが、そうではない場合、罹患していない家族への感染伝播のリスクがある 濃厚接触者調査(保健所によるPCR検査)が必要となる(行政の仕事の増加) 本人・家族のストレス(疾患そのもの、社会的なもの) 濃厚接触者も、仕事を休む必要がある(最終曝露から14日間) 経済活動への影響(休業、業務縮小、風評被害)
抗体検査 1-12) 主にIgGとIgMを測定 検査方法や標的とする抗体によって多少の違いはあるが、発症から7-14日から陽性率が上昇傾向となり、14日以降で感度が高く、発症から3週間経過した時点で、感度ほぼ100%、特異度も高い(例:アボット社のIgG 99.9%) 急性期の診断には不向きであるが、発症から2週間が経過し、PCR陰性化してしまった症例の診断には有用 過去の感染を診断する場合に有用(疫学調査) 抗体検査陽性となる時期はすでに感染性はない
抗体検査の参考文献 1. Clin Infect Dis. 2020 Jul 28;71(15):778-785. 2. Lancet Infect Dis. 2020 May;20(5):565-574. 3. Clin Infect Dis. 2020 Mar 28;ciaa344. doi: 10.1093/cid/ciaa344. 4. J Clin Microbiol. 2020 May 26;58(6):e00461-20. 5. J Infect. 2020 Jul;81(1):e28-e32. doi: 10.1016/j.jinf.2020.03.051. 6. Clin Chem Lab Med. 2020 Jun 25;58(7):1081-1088. 7. Clin Chem Lab Med. 2020 Jun 25;58(7):1156-1159. 8. Clin Infect Dis. 2020 Apr 19:ciaa461. doi: 10.1093/cid/ciaa461. 9. Nat Med. 2020 Jun;26(6):845-848. 10. Nat Med. 2020 Jul;26(7):1033-1036. 11. JAMA. 2020 Jun 9;323(22):2245-2246. 12. J Clin Microbiol. 2020 Jul 23;58(8):e00941-20. doi: 10.1128/JCM.00941-20.
Clin Infect Dis. 2020 Sep 12;ciaa1343. doi: 10.1093/cid/ciaa1343.
IDSAガイドライン:抗体 発症から2週間以内のCOVID-19診断目的の抗体検査:× 発症から3週目以降に感染の証明目的のIgG測定:○ SARS-CoV-2 PCR検査が繰り返し陰性だが、症状が持続し、臨床的にCOVID-19の疑いのある患者に対するIgGの測定(発症から3週目以降だと感度が高い):○ Clin Infect Dis. 2020 Sep 12;ciaa1343. doi: 10.1093/cid/ciaa1343.
当院での抗体検査の適応 急性期の診断における有用性は低く、ほぼ使用なし 以下のすべての条件を満たす場合に施行を検討する - 臨床的にCOVID-19の可能性が高い - PCRが2回陰性 - 症状が10-14日以上持続し入院継続が必要 発症から10日以上経過して症状が改善しているCOVID-19患者は適応でない(感染性が消失しているため)
抗体価は時間とともに低下する JAMA. 2020 Sep 11. doi: 10.1001/jama.2020.16656.
抗体価の低下 急性期の抗体価(IgG)は、有症状>無症状、重症例>軽症例 抗体価は、時間とともに低下(特に無症状感染者で治癒から8週間後の陰性化率が高い) 疫学調査における有用性は限定的かもしれない 再感染のリスクがあるかもしれないが、抗体価のみが免疫の指標ではない Nature. 2020 Aug;584(7821):437-442 Nat Med. 2020 Aug;26(8):1200-1204. JAMA. 2020 Sep 11. doi: 10.1001/jama.2020.16656.
抗体検査の偽陽性の問題 偽陽性の問題(日本で使用可能なキット製品) ELISA法で測定したIgGをreference standardとすると 感度100%、特異度98.4%(当院data:論文投稿中) →1000人検査して18人陽性、うち16人は偽陽性と判定された 有病率が低いと、特異度が高くても偽陽性の割合が大きくなる
インフルエンザシーズンどうする? 発熱・気道症状のある患者が来院した場合
一般社団法人日本感染症学会提言:今冬のインフルエンザとCOVID-19に備えて(2020.8.1) ほぼ全例どちらも検査?
インフルエンザシーズンはどうするか? 症状からCOVID-19とインフルエンザを鑑別することは困難 流行状況にもよるが、大都市圏のCOVID-19の流行が収束するとは考えにくいため、どちらも検査する状況が想定される COVID-19が過去2週間発生していない自治体では、COVID-19を考慮する必要性は低い(ただし、人の移動は増加しており、田舎であっても時々clusterが発生している...) インフルエンザが流行しなければ、話はシンプルになる...
私のおすすめ 診察、検体を採取・処理する場所が確保可能な場合 - 換気のよい部屋(空気の流れに注意)、屋外にテント etc - SARS-CoV-2 PCR(鼻咽頭ぬぐい液 or だ液):全例 - インフルエンザ:managementが変わるときのみ 場所の確保不可能な場合 - 風邪診療・発熱患者の診察は控えたほうが安全
どの検査を選択するか 症状、流行状況、曝露状況からの検査前確率 インフルエンザ診断は、検査前確率が高ければ検査不要 インフルエンザの重症化リスクの有無 どこまで感染対策できるか(マンパワー、場所、PPEの在庫) SARS-CoV-2抗原定性キットの供給状況
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神戸市立医療センター中央市民病院では... 検体採取スペース・検査室は充実 感度・特異度の高い検査が望ましい 休日夜間も、迅速な結果が求められる 唾液の採取は時間がかかる 日勤帯:PCR(鼻咽頭ぬぐい液) 休日夜間:FilmArray®呼吸器パネル(鼻咽頭ぬぐい液)
血液検査 COVID-19の診断目的で行うことはない COVID-19の重症化予測因子の測定 発熱を来す他疾患の検討のための項目 COVID-19患者とインフルエンザ患者の血液検査dataを比較した報告では、いくつかの項目で有意な差はみとめたが、臨床で使えるほどのどちらかに特異的なdataはみとめなかった Int J Infect Dis. 2020;95:436-440.
画像検査 胸部レントゲン:34-40%は正常 胸部単純CT:11-14%で正常 初診時:肺炎を疑った場合にCXR撮影 →肺炎像あれば、他の疾患との鑑別目的でCT撮影 N Engl J Med. 2020 Apr 30;382(18):1708-1720 Clin Infect Dis. 2020 Sep 28;ciaa1470. doi: 10.1093/cid/ciaa1470.
画像検査:胸部単純CT 限局性のスリガラス影で始まり、両側びまん性に拡がり、経過とともにconsolidationに変化していく1,2) 肺炎の典型例では、発症から10-14日目で陰影が最も広範囲となる1,2) COVID-19肺炎の発症早期(3日以内)において、胸部CTの感度は、咽頭スワブ検体のPCR検査よりも感度が高い可能性3) COVID-19らしくない所見:結節影・嚢胞性変化・気管支拡張像・胸水・リンパ節腫大の頻度・Tree-in-bud signs(小葉中心性の粒状影・分岐状影)・空洞性病変・腫瘤影・石灰化1) 1) Lancet Infect Dis. 2020 Apr;20(4):425-434. 2) Radiology. 2020 Jun;295(3):715-721. 3) Radiology. 2020 Aug;296(2):E115-E117.
Lancet Infect Dis. 2020;20(4):425-434. Invest Radiol. 2020;55(6):332-339. 異なる患者
培養検査(血液・喀痰培養) COVID-19と確定している場合は、通常不要 COVID-19と確定していない状況で、細菌性肺炎の可能性が想定される場合は、血液培養と喀痰培養を採取(市中肺炎と同様の対応) COVID-19の疑いのある非重症例では、PCRまたは抗原検査の結果を待つ(喀痰採取はエアロゾル発生のリスクである)
喀痰培養の提出率の低下 COVID-19の可能性が極めて低いと考えられる患者でも、潜在的なリスクを懸念して、喀痰培養を採取せずに、経験的抗菌薬治療を開始する事例が増加した COVID-19を除外できていなければ、陰圧隔離室(または個室)での採取が必要 医療従事者は、サージカルマスク・アイシールド・ガウン・手袋を装着する 必ず採取すべき状況 1. 重症肺炎 2. MRSAまたは緑膿菌をカバーする抗菌薬で治療開始する場合
PCR検査についてのQ&A
Q1:症状のない人におけるPCR陽性の意味は? 検査前確率の高い人(発熱や気道症状のある患者、濃厚接触者)では、陽性者は真の感染者と考えてよい(陽性的中率が高い) 無症状病原体保有者(症状のないPCR陽性者)から、実際に感染伝播が起こることが示されている(asymptomatic/pre-symptomatic transmission)ため、診断する意義はある
PCR陽性の意味:COVID-19疑い患者 検査前確率:10%、感度50%、特異度99.9%とした場合 1万人検査して、1000人の患者のうち500人診断・500人見落とし 1万人検査して、500人を正しく診断し、9人が偽陽性(陽性的中率98%)
無症状の感染者は存在する 正確な数は不明 - どの程度PCRを広く行うかで結果は異なる - 「有症状」の定義でも変わってくる 当初は、ほとんど無症状者はいないとされていた1) ダイアモンド・プリンセス号のoutbreakの研究:18-32%が無症状2, 3) ベルギーの施設入所者の研究:75%が無症状4) 1) JAMA. 2020 Feb 24. doi: 10.1001/jama.2020.2648. 2) Euro Surveill. 2020 Mar;25(10):2000180. 3) Lancet Infect Dis. 2020 Jun 12;S1473-3099(20)30482-5. 4) Lancet Infect Dis. 2020 Jul 3;S1473-3099(20)30560-0. 121
無症状者と有症状者でウイルス量(PCR)の推移は同等 JAMA Intern Med. 2020 Aug 6. doi: 10.1001/jamainternmed.2020.3862. 122 PCR陰性化までの時間
発症前(潜伏期間):45% 発症後:40% 環境接触:10% 無症状感染者:5% 感染伝播:感染(曝露)から10-12日頃まで Science. 2020 May 8;368(6491). doi: 10.1126/science.abb6936. 123
無症状の感染者からの感染伝播 無症状患者からの感染伝播の報告は、presymptomaticとasymptomaticを厳密に区別していないものが多い 1)2) 多くはpre-symptomatic transmissionと考えられている 無症状病原体保有者(経過中症状出現なし)からの感染伝播報告はある:CT異常所見がある場合3-5)と、ない場合5)どちらも報告されている 無症状病原体保有者の気道検体でウイルス培養は陽性になりうる 6)
1) Emerg Infect Dis. 2020 Sep;26(9):2176-2179. 2) Clin Infect Dis. 2020 Aug 12;ciaa1180. doi: 10.1093/cid/ciaa1180. PMID:32785683 3) Sci China Life Sci. 2020 May;63(5):706-711. PMID:32146694 4) JAMA. 2020 Apr 14;323(14):1406-1407. PMID:32083643 5) Clin Infect Dis. 2020 May 22;ciaa629. doi: 10.1093/cid/ciaa629. PMID:32442265 6) N Engl J Med. 2020 May 28;382(22):2081-2090. PMID: 32329971
有病率が低い集団に対するPCR検査の問題 陽性的中率が低く、偽陽性の問題を考える必要がある 検査の特異度が99.9%であっても、偽陽性率は高くなる スクリーニングの場合(例:希望者する住民全員、入院患者全員)、検査前確率が低いため、検査陽性率と陽性的中率が低い。また偽陰性率も高い。 →検査意義は小さく、個人・社会への悪影響を考慮する必要がある Lancet Respir Med. 2020 Sep 29;S2213-2600(20)30453-7. doi: 10.1016/S2213-2600(20)30453-7. Clin Microbiol Infect. 2020 Oct 14;S1198-743X(20)30614-5. doi: 10.1016/j.cmi.2020.10.003.
PCR陽性の意味:COVID-19疑わない患者 検査前確率:0.1%、感度50%、特異度99.9%とした場合 1万人検査して、10人の患者のうち5人診断・5人見落とし 1万人検査して、5人を正しく診断するが、10人が偽陽性(陽性的中率33%)
PCR検査偽陽性の原因で想定されるもの サンプリング中の汚染 (例:綿棒が誤って汚染された手袋や表面に触れる) PCRアンプリコンによる汚染 試薬の汚染 サンプルの交差汚染 他のウイルスや遺伝物質との交差反応 Lancet Respir Med. 2020 Sep 29;S2213-2600(20)30453-7. doi: 10.1016/S2213-2600(20)30453-7
PCR検査偽陽性による悪影響 各個人への悪影響 手術前検査の偽陽性:不必要な治療の中止や延期 緊急入院時検査の偽陽性:隔離病棟に入院による感染曝露のリスク 自己隔離、収入減、旅行のキャンセルなどに伴う金銭的損失 誤診、他人への感染伝播させてしまう恐怖、孤立、スティグマなどによる心理的ダメージ Lancet Respir Med. 2020 Sep 29;S2213-2600(20)30453-7. doi: 10.1016/S2213-2600(20)30453-7
PCR検査偽陽性による悪影響 社会への悪影響 検査と追跡のための資金(多くの場合税金)と人的資源の無駄遣い 不要な検査の増加 各種ビジネスへの悪影響(休業、風評被害、消費活動の低下など) COVID-19の発症率と無症候性感染の過大評価 不要なロックダウンや学校閉鎖 うつ病および家庭内暴力の増加 Lancet Respir Med. 2020 Sep 29;S2213-2600(20)30453-7. doi: 10.1016/S2213-2600(20)30453-7
Q2:PCRでウイルスが消えたら退院可能? 退院前のPCR陰性確認は不要であり、感染性の有無は、症状の経過・重症度・発症からの期間で評価可能 退院は、以下の2点が確認できた時点で可能となる - 患者の状態が改善している - 感染伝播リスクが消失している
いつまで感染するリスクがある? ただしく恐れる 132
「感染性がある」とは? PCR陽性→× ウイルス培養陽性→? 実際に起こったoutbreakの調査結果 133
軽症から重症のCOVID-19患者12例の検討 ・発症から9日目でウイルス培養陽性の症例があった ・10日目以降のウイルス培養は検討されていない ・気管挿管例は含まれていない Nat Med. 2020 Apr 23. doi: 10.1038/s41591-020-0877-5 134
軽症COVID-19(9例の検討)発症8日目までの喀痰ウイルス培養陽性 便のウイルス培養は全例陰性(PCRのウイルス量に関連なし) Nature. 2020 Apr 1. doi: 10.1038/s41586-020-2196-x. 135
米国のSkilled Nursing Facilityで起こったoutbreak。重症例も含めたCOVID-19の上気道検体を使用したPCRとウイルス培養を施行。SARS-CoV-2は、発症6日前から発症9日目で培養陽性となった。ウイルス量(PCR)が多い場合に培養陽性となる傾向があるようにみえるが、発症早期にウイルス量が多いことが原因と思われる。 N Engl J Med. 2020 Apr 24. doi: 10.1056/NEJMoa2008457. 136
発症前(潜伏期間):45% 発症後:40% 環境接触:10% 無症状感染者:5% 感染伝播:感染(曝露)から10-12日頃まで Science. 2020 May 8;368(6491). doi: 10.1126/science.abb6936. 137
COVID-19のヒト-ヒト感染77ペアを解析した研究。感染伝播は、発症2.3日前から出現し、発症前後でpeakとなり、その後発症7日目までに急速に減少する。感染伝播の44%は発症前に起こる(pre-symptomatic transmission)。 Nat Med. 2020 Apr 15. doi: 10.1038/s41591-020-0869-5. 138
100名の患者からの感染伝播を調査した台湾の報告。Secondary caseは、index case発症から初回曝露までの期間が5日以下までの症例のみだった。感染率が高いのは、発症前曝露(pre-symptomatic transmission)、家庭内曝露、重症例/最重症例。無症状感染者からの感染(asymptomatic transmission)はなかった。 JAMA Intern Med. 2020 May 1. doi: 10.1001/jamainternmed.2020.2020. 139 presymptomatic transmissionは発症4日前から起こりうる
主に軽症から中等症のCOVID-19患者の上気道検体のウイルス培養は、発症から10日まで陽性となりうる。無症状者も有症状者も同様の結果であった。 Euro Surveill. 2020;25(32):pii=2001483. https://doi.org/10.2807/1560-7917.ES.2020.25.32.2001483 140
141 重症または最重症のCOVID-19患者の上気道検体のウイルス培養は、発症から20日まで陽性となりうる。発症から15日を超えて陽性となる可能性は5%以下であった。 プレプリントのdata doi: https://doi.org/10.1101/2020.06.08.20125310
142 成人COVID-19患者(重症度や年齢・基礎疾患などの詳細なdataは提示されていない)の鼻咽頭または気管内検体のウイルス培養で、発症から8日以降は陽性例なし。Ct値>24でも陽性例はなかった。 Clin Infect Dis. 2020 May 22;ciaa638. doi: 10.1093/cid/ciaa638.
143 Clinical Infectious Diseases, ciaa1249 https://doi.org/10.1093/cid/ciaa1249
RT-PCRのCt値と感染性の関係 診断における一般的なCt値のカットオフ値は<40 Ct値が低いほどウイルス培養陽性率が高い Ct > 30-35でウイルス培養は陰性と予測できる Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2020 Jun;39(6):1059-1061. Clin Infect Dis. 2020 Aug 25;ciaa1249. doi: 10.1093/cid/ciaa1249. Emerg Infect Dis. 2020 Jul;26(7):e201595. doi: 10.3201/eid2607.201595 Clin Infect Dis. 2020 Oct 24;ciaa1579. doi: 10.1093/cid/ciaa1579. Ct=Threshold Cycle
Ct値はRT-PCR検査の結果報告に記載すべき?Ans. routineに行うことは推奨されない 同じウイルス量でも、Ct値は検査系によって異なる(cobasとXpertのCt=20のウイルス量copy/testは異なる) Ct値は、検体採取のqualityに左右される Ct値によって、感染性の有無を評価する十分なevidenceはまだない J Clin Microbiol. 2020 Oct 21;58(11):e01695-20. doi: 10.1128/JCM.01695-20.
感染伝播する期間:文献のまとめ 発症2-4日前から発症後5-10日目までがリスクが高い - 院内感染のリスクが高い感染症である それ以降に感染伝播が起こる可能性は非常に低い → 発症から11日目以降の感染リスクはほぼない 最重症例(人工呼吸器管理)は20日間までリスクあり 146
PCR検査は再度陽性になることがあるが感染伝播した例は報告されていない 2回PCR陰性確認された4名のCOVID-19患者で、5-13日後にPCRが再度陽性化した SARS-CoV-2 PCR検査2回陰性確認後退院となった患者の14.5%で再度陽性化した 韓国CDCは、COVID-19の症状が改善し、いったんPCR陰性化した患者で、再度陽性になった285名の追跡したところ、1例も感染伝播を起こさなかった Clin Infect Dis. 2020 Apr 8;ciaa398. doi: 10.1093/cid/ciaa398. JAMA. 2020 Feb 27;323(15):1502-1503. 147
COVID-19治癒後の患者へのPCR再検は原則不要 終生免疫はできない可能性が高い そのため、治癒後長期間(例えば3か月)経過してから 再度感染する可能性はある 148
感染伝播する期間:2020.5以前 発症から10日以上経過、かつ、解熱状態72時間以上経過していれば、感染性はないと考えてよいと思われるが、さらに安全な条件として、「症状改善、かつ、24時間以上の間隔をあけてPCR 2回陰性確認」(日本政府が決めた退院基準)。 149
退院基準の変更(日本) 2020年6月12日に「発症日から10日間経過し、かつ、症状軽快後72時間経過した場合」に変更 退院の適応を決定するにあたって、原則PCR検査は行わないことになった この基準は、重症度を考慮していない 150
院内感染対策終了の基準(米国) 軽症・中等症の場合(呼吸不全なし) 発症から10日以上、かつ、解熱24時間、かつ、症状改善 重症・最重症の場合(呼吸不全あり) 高度免疫不全の場合 発症から20日以上、かつ、解熱24時間、かつ、症状改善 ※退院基準ではない 151
院内感染対策終了の基準(WHO) 重症度に関係なく 発症から10日以上経過、かつ、症状消失後72時間 152 https://apps.who.int/iris/handle/10665/332196
院内感染対策終了の基準(欧州) 軽症・中等症 発症から8日以上経過、かつ 解熱後72時間以上、かつ、その他の症状改善 重症・免疫不全 発症から14日以上経過、かつ 解熱後72時間以上、かつ、その他の症状改善 153 https://www.ecdc.europa.eu/en/publications-data/covid-19-guidance-discharge-and-ending-isolation
感染伝播する期間:2020.8の当院 発熱を含めた症状が改善して72時間が経過、かつ - 軽症・中等症は、発症から10日以上 - 重症・最重症の場合は、発症から20日以上 経過していることが確認できれば、感染性はない と判断している(院内感染対策終了の判断に使用) 154
再感染の報告はある インドの2名の医療従事者 1)→2回とも無症状(スクリーニング検査) - 1回目の治癒確認から3-5か月後に再感染が判明 既往のない33歳男性 2)→初回:軽症、2回目:無症状 - 1回目の治癒確認から4ヶ月後に再感染が判明 喘息の既往のある51歳女性 3)→初回はSpO2 94%、2回目はより軽症 - 1回目発症から3ヶ月後に2回目を発症 上記の患者は、ゲノム配列の解析で、「再感染」と診断された 1) Clin Infect Dis. 2020 Sep 23;ciaa1451. doi: 10.1093/cid/ciaa1451. 2) Clin Infect Dis. 2020 Aug 25;ciaa1275. doi: 10.1093/cid/ciaa1275. 3) Clin Infect Dis. 2020 Sep 5;ciaa1330. doi: 10.1093/cid/ciaa1330.
再感染が軽症とは限らない 米国の既往のない25歳男性: 初回軽症、2回目重症(呼吸不全あり) Lancet Infect Dis. 2020 Oct 12;S1473-3099(20)30764-7.
Q3:術前・入院前・検査前のPCR/CTは必要? PCR検査(鼻咽頭ぬぐい液) 胸部CT ※無症状であることが前提 ※検査:消化管内視鏡、気管支鏡、肺機能検査など
スクリーニング検査の目的は2つ 院内感染予防 患者のoutcomeの悪化を防ぐ(術前)
院内感染予防 院内感染の目標は「院内感染ゼロ」 - アウトブレイクによって、病院機能は著明に損なわれる 気管挿管などのエアロゾル発生手技は高リスク
潜伏期間中の手術/全身麻酔はリスク高い COVID-19の潜伏期間に外科的手術(全身麻酔)を行った場合の予後が悪いことを示した中国武漢で行われた観察研究(N=34) 術前は全員COVID-19の症状なし ICU入室44% ARDS 32.4% 死亡20.5% EClinicalMedicine. 2020 Apr 5:100331. doi: 10.1016/j.eclinm.2020.100331.
手術前後のCOVID-19は呼吸器合併症と死亡リスクが高い 手術前7日以内または手術後30日以内にCOVID-19と診断された患者1128名を対象とした多施設観察研究 30日死亡:23.8% 呼吸器合併症(肺炎・ARDS):51.2% 呼吸器合併症のある患者の30日死亡:38.0% 30日死亡のリスク:男性、70歳以上、ASA III-V、悪性疾患、緊急手術、major surgery Lancet. 2020 Jul 4;396(10243):27-38.
無症状なのになぜPCR? 症状ないCOVID-19患者をみつける - pre-symptomatic transmission - asymptomatic transmission
実際どの程度の効果が期待できるのか 検査前確率:0.1%、感度50%、特異度99.9%とした場合 1万人検査して、10人の患者のうち5人診断・5人見落とし 1万人検査して、10人の偽陽性(陽性的中率33%)
実際どの程度の効果が期待できるのか 検査前確率:0.1%、感度50%、特異度99.99%とした場合 1万人検査して、10人の患者のうち5人診断・5人見落とし 1万人検査して、1人の偽陽性(陽性的中率83%)
実際どの程度の効果が期待できるのか 検査前確率:0.1%、感度30%、特異度99.9%とした場合 1万人検査して、10人の患者のうち3人診断・7人見落とし 1万人検査して、10人の偽陽性(陽性的中率23%)
スクリーニングPCR検査の利点と欠点 利点: - 職員の安心(安全ではない) - 検査前確率と結果解釈を正しく意識すれば無症状病原体保有者をみつけて、 診療・感染対策に活かすことができる 欠点: - 偽陰性例・偽陽性例の存在 - 検査陰性で安心して、標準予防策の遵守率が低下するリスク - コスト(金銭面、採取する医師・検査する技師の仕事の増加)
スクリーニングPCR検査 感度には限界があるので、偽陰性例は存在するため、結局入院患者全員に感染対策の徹底が重要:標準予防策とユニバーサルマスク(+アイシールド) 特異度が99.9%であっても、偽陽性は問題となる(99.99%であれば、偽陽性はほとんど問題にならない) 検査前確率が重要であり、過去2週間の症状と行動歴によって、検査前確率が高い群のみスクリーニング検査してもよいかもしれない
Risk-Benefitを考慮すると... 流行期は... - 術前は、全例PCR検査施行 - 予定入院のうち化学療法入院は、全例PCR検査施行 を考慮してもよいと思われる 非流行期は、PCR検査の有用性は低いため、行わない 「流行期」の決まった定義はない:各施設で設定すればよいと思われるが、例えば、「その医療圏の新規発症者数が増加傾向ではなく、1週間の感染経路不明新規患者が人口10万人あたり0.5人未満」(神戸市であれば、1週間で7人以下)を、「流行の収束とする」 Risk Benefit 注意:2020.11現在の個人的な意見です 検査能力の高い施設であれば、検査閾値は低くてもよい??
無症状なのになぜCT? PCRとどちらを優先?両方? 症状ないCOVID-19患者をみつける - 潜伏期間 - 無症状病原体保有者
胸部CTの有用性 無症状の患者において、胸部CTで異常所見を呈することがある - 濃厚曝露歴のある医療従事者(PCR検査のタイミング不明)1, 2) - ダイアモンド・プリンセス号に乗船かつPCR陽性者3) COVID-19患者(=症状あり)で、PCRより感度が高い可能性4-6) - 感度94%、特異度37%4) - 有病率が1%未満の場合の陽性的中率は非常に低い(1.5%)4) 1. Lancet Infect Dis. 2020;20(4):425-434. 2. Lancet Infect Dis. 2020;S1473-3099(20)30247-4. 3. Radiology: Cardiothoracic Imaging. 2020;2(2):2200110. doi:10.1148/ryct.2020200110 4. Radiology. 2020 Apr 17;201343. doi: 10.1148/radiol.2020201343 5. Radiology. 2020 Feb 19;200432. doi: 10.1148/radiol.2020200432 6. Radiology. 2020 Feb 26;200642. doi: 10.1148/radiol.2020200642.
本当に有用?? 無症状で曝露歴のない人における精度は不明 症状ある場合、PCRより感度が高い可能性がある。しかし、特異度は低く、有病率が低い地域では、陽性的中率は非常に低い 無症状の場合のdataはないが、検査前確率とCT検査の感度・特異度は低いと想定されるため、陽性的中率は非常に低いと予想される 放射線曝露・コスト・ availabilityの問題も存在する
慶応大学からの報告 2020.4.6-2020.5.29に全身麻酔の予定手術目的で入院する無症状の患者(292名)の術前胸部CTとRT-PCR検査(鼻咽頭ぬぐい液)を施行 PCR陽性の3名(全員その後2週間症状なし)のCTは正常 CT異常は9名で、全員PCR陰性(うち7名は2回目のPCRを施行し陰性) CTの精度:感度0%、陽性的中率0%、特異度96.9%、陰性的中率98.9% 小規模な観察研究であるが... 東京の有病率では、術前CTの有用性は低い可能性が高い Journal of Infection and Chemotherapy. https://doi.org/10.1016/j.jiac.2020.09.025. Available online 29 September 20
原則スクリーニング胸部CTは不要 無症状かつ待機手術の場合は、原則CT検査不要 胸部CTを考慮する状況(下記は「スクリーニング検査」ではない) - COVID-19の症状(発熱、気道症状など)がある場合 - COVID-19への濃厚曝露歴がある場合 - 重症な状態での緊急手術で、症状や曝露歴の確認が不十分な場合 - その地域の有病率が非常に高い場合 注意:2020.11現在の個人的な意見です
スクリーニング検査の重要なポイント 地域の流行状況 症状の有無 過去2週間の曝露歴・行動歴 COVID-19であった場合のリスク(院内感染・重症化) 検査のavailability、施設の財政状況、職員の思い(?) →施設ごとに総合的に判断して指針を作成する
当院での術前・入院前PCRの実績... 2020.5.7-2020.7.28(術前PCR) - 347例中1例陽性(0.28%):神戸市繁華街への頻回の外出歴 2020.7.29-9.30(術前+入院前PCR) - 3069例中2例陽性(0.07%) - 2例とも術前PCR(2例とも神戸市繁華街への外出歴あり)
抗原定量検査によるスクリーニング COVID-19を疑わない夜間緊急入院患者のスクリーニング :2020.10.5-10.31:360例中陽性例なし 2020.10.5-10.16:「判定保留(1-10 pg/mL)」はPCR施行 :157件施行、陽性0例、判定保留10例 判定保留例は全例PCR陰性 2020.10.17-10.31:「判定保留」の場合、遠心して再測定 :203例施行、陽性0例、判定保留4例 4例中3例は再測定で陰性、1例は再測定行わずにPCR施行し陰性
結果の解釈 陽性例は0.1%程度 事前の診察のある入院前の症例では1例も陽性例なし 事前に診察のない術前スクリーニングで3例陽性 神戸市の有病率では、入院前のスクリーニングPCRは不要な可能性が高い 術前2週間の問診票(症状と行動歴を記載)によって、検査の必要性を検討してもよいかもしれない
COVID-19の治療
COVID-19に対する治療 呼吸管理 - 酸素療法、high-flow nasal cannula、人工呼吸器、ECMO 薬剤 - 効果が示されたもの:デキサメタゾン、レムデシビル - 効果が検討中のもの:ファビピラビル、トシリズマブ etc その他
呼吸管理 酸素投与 High-flow nasal cannula 挿管の適応 - 呼吸数・呼吸困難感の有無は重要 - 呼吸状態・画像所見・呼吸状態の悪化のスピードを総合的に判断 - 当初は急激な悪化を危惧して、O2 5L/分以上で挿管検討していた
High-flow nasal cannula(HFNC) 当初エアロゾル発生が危惧されていたが、現在は臨床現場で多用されている 細菌性肺炎患者の研究やマネキンとスモーク(長径 1µm未満)を使用した実験では、通常の酸素マスクと同等のエアロゾル発生リスクであった 1) 一般病棟のCOVID-19患者に対するHFNCの有用性と安全性(空気予防策で対応)を示した観察研究がある 2) ただし、直接COVID-19患者におけるHFNCによるエアロゾル発生リスクを評価した研究や臨床効果を検討した比較研究はない 3) 1) Eur Respir J. 2020 May 14;55(5):2000892. doi: 10.1183/13993003.00892-2020. 2) Eur Respir J. 2020 Sep 9;2001154. doi: 10.1183/13993003.01154-2020. 3) Can J Anaesth. 2020 Sep;67(9):1217-1248.
当院でのHFNCの使用方法 適応 - 酸素投与5L/分以上でSpO2 93%未満 - 挿管回避が期待できる 除外基準 - 不穏状態などで、HFNCとサージカルマスクの継続使用不可 使用方法 - 陰圧個室、空気予防策、患者はサージカルマスク着用
病態に合わせて治療薬を選択する? 初期 :抗ウイルス作用 過剰炎症反応期 :抗炎症作用 J Heart Lung Transplant. 2020 May;39(5):405-407.
各治療薬の標的 BMJ. 2020 Oct 23;371:m3862. doi: 10.1136/bmj.m3862.
レムデシビル Day 1 200mg/日、Day 2-5(10まで延長可) 100mg/日 先進国で行われたRCT(ACTT-1)では 1) - 臨床的改善までの期間短縮(10日 vs 15日) - 死亡は減少する傾向(11.4% vs 15.2%) - 人工呼吸器やNIVが不要な呼吸不全例で効果が期待できる 重症COVID-19に対して5日 vs 10日投与は同等 2) - 5日目に人工呼吸器使用中の場合は、10日間まで延長してもよいかもしれない 効果を認めなかった研究もある(中国、WHO) 3)4)
WHOはレムデシビルに否定的? Solidality研究 規模は、ACTT-1より大きい 参加国:先進国と途上国(アジア・アフリカ・ラテンアメリカが主体) 最重症例(人工呼吸器管理)が少ないが、致命率はACTT-1と同等 Repurposed antiviral drugs for COVID-19 –interim WHO SOLIDARITY trial results doi: https://doi.org/10.1101/2020.10.15.20209817 https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.10.15.20209817v1
中等症COVID-19に対する効果は微妙... 肺炎像があるがSpO2 94%以上のCOVID-19患者を対象 標準治療 vs レムデシビル 5日間 vs レムデシビル 10日間 Day 11での症状の改善がレムデシビル 5日群で標準治療群 と比較してわずかに多かった 改善(Day 14):73% vs 80% vs 79% 臨床的に意義のある差かどうか微妙なところ 酸素投与が不要な患者に末梢routeを確保すること自体のリスク(患者、医療者双方)やコストを考慮すると、中等症COVID-19への使用は推奨されない JAMA. 2020;324(11):1048-1057.
現時点でのレムデシビルの位置づけ 呼吸不全を呈するCOVID-19の標準治療のひとつである 酸素投与が必要な重症COVID-19患者の酸素化の改善・入院期間の短縮が期待できる 人工呼吸器の適応となるほどの最重症例では効果が期待できない可能性が高い 抗ウイルス作用を期待して使用する薬剤であることからも、早期投与が望ましい 5日間投与を基本として、5日目の時点で人工呼吸器を装着している場合は、10日間まで延長を検討する 医療体制が整っており、適切な集中治療を受けることができる場合に、効果が期待できる
ファビピラビル(アビガン®) 無症状または軽症COVID-19(呼吸不全なし)におけるファビピラビルの効果を検討したRCT 早期投与群 vs 遅延投与群(day 6に開始)を比較 Primary outcome:day 6でのPCR陰性化率 投与方法:初日1800mg 1日2回、その後800mg 1日2回 合計10日間 発熱出現と無作為化までの期間:中央値7日間 PCR陰性化を早めない 解熱を早める可能性 2.1日 vs 3.2日 Antimicrob Agents Chemother. 2020 Sep 21;AAC.01897-20. doi: 10.1128/AAC.01897-20.
ファビピラビル(アビガン®) ロシアでのオープンラベルRCT ファビピラビル vs 標準治療 対象:18歳以上の中等症COVID-19患者 (60名、25%が酸素投与必要、25%が発熱) primary endpoint:day 10までのPCR陰性化率 day 5のPCR陰性化率 62.5%vs 30%(有意差あり) day 10のPCR陰性化率 92.5% vs 80%(有意差なし) 解熱(37度未満)までの期間:2日 vs 4日(有意差あり) Clin Infect Dis. 2020 Aug 9;ciaa1176. doi: 10.1093/cid/ciaa1176.
ファビピラビル(アビガン®) 治療中に高率に一過性の高尿酸血症が出現する(84.1%) アビガンで治療中に痛風発作が出現した症例報告(痛風発作の既往のあるCOVID-19患者)がある ICUで人工呼吸器管理を必要としているCOVID-19患者でのファビピラビルの血中濃度は非常に低く、効果は期待できない Clin Transl Sci. 2020 Sep;13(5):880-885. Intern Med. 2020 Sep 15;59(18):2327-2329. Antimicrob Agents Chemother. 2020 Sep 21;AAC.01897-20.
ファビピラビル(アビガン®) 富士フィルム富山化学株式会社のwebsite:https://www.fujifilm.com/jp/ja/news/list/545
ファビピラビル(アビガン®) 非重篤な肺炎を有するCOVID-19患者を対象としたRCT ファビピラビル vs プラセボ primary outcome:症状(体温、酸素飽和度、胸部画像)の軽快、かつ、PCR陰性化までの時間 ファビピラビル投与群 11.9日、プラセボ投与群 14.7日(有意差あり) 体温や気道症状の改善のみをoutcomeとした場合の効果は不明(胸部画像の改善やPCR陰性化までの時間は重要なoutcomeではない) 富士フィルム富山化学株式会社のwebsite:https://www.fujifilm.com/jp/ja/news/list/545
ファビピラビルのまとめ 重症COVID-19におけるdataはほぼない 軽症または中等症COVID-19のPCR陰性化を早める可能性はあるが、差がなかった研究もある 軽症または中等症COVID-19の症状の改善を1-2日早める可能性がある 重症化予防効果は不明 軽症例はそもそも治療不要。中等症(低酸素血症のない肺炎を呈するCOVID-19)における症状改善効果がわずかに期待できる可能性が期待される薬剤(現時点では、臨床的に有用な薬剤とは言えない)。
トシリズマブの使用が検討される背景 トシリズマブ:ヒト化抗ヒトIL-6受容体モノクローナル抗体 IL-6高値(>100 pg/mL)は、重症度とウイルス血症の存在に関連する 1) IL-6高値(>6.75 pg/mL)は、長期間のウイルス排泄(PCR)に関連する 2) IL-6高値(来院時のIL-6 >35 pg/mL、IL-6の最大値 >80 pg/mL)は、人工呼吸器管理の必要性(最重症例)に関連する 3) IL-6高値(入院時>70 pg/mL)は、死亡に関連する 4) 最重症のCOVID-19でIL-6は高値で、非生存者で有意に高い(中央値 61.1 pg/mL) 5) 1) Clin Infect Dis. 2020 Nov 5;71(8):1937-1942. 2) Clinical Infectious Diseases, ciaa490, https://doi.org/10.1093/cid/ciaa490 3) J Allergy Clin Immunol. 2020 Jul;146(1):128-136.e4. 4) Nat Med. 2020 Oct;26(10):1636-16 5) Am J Respir Crit Care Med. 2020 Jun 1;201(11):1430-1434
本当にCOVID-19でIL-6は上昇している?他の病態と比べると... COVID-19 with ARDS(ICU入室48時間以内) 細菌によるseptic shock with ARDS (診断から24時間以内) 細菌によるseptic shock without ARDS (診断から24時間以内) 院外心停止(ICU入室から24時間以内) 多発外傷(受傷から24時間以内) JAMA. 2020 Sep 3;324(15):1565-1567. 48 376
本当にCOVID-19でIL-6は上昇している?他の病態と比べると... 重症COVID-19では、IL-6などの炎症性サイトカインは上昇しているが、その「程度」は、他の炎症性サイトカインが上昇する病態(cytokine release syndrome、sepsis、COVID-19以外のARDS)と比較して小さい(重症化の病態は、cytokine stormではない) Lancet Respir Med. 2020 Oct 16;S2213-2600(20)30404-5.
トシリズマブ(重症例:酸素投与) 3つのRCTの結果が論文として発表されている すべての研究で、死亡減少効果は示されなかった ステロイドとの併用の効果は検討されていない 感染は増加しなかった
トシリズマブ(重症例:酸素投与) 一般病棟で酸素投与が必要な患者(N=243) トシリズマブ 8mg/kg単回 vs placebo ステロイドは両群約10%で投与された 発症から中央値9-10日目(IQR 6-13) Primay outcome:死亡+挿管 致死率5%程度、挿管率7-10% N Engl J Med. 2020 Oct 21. doi: 10.1056/NEJMoa2028836
トシリズマブ(重症例:酸素投与) 一般病棟のCOVID-19患者131名(酸素3L以上、かつ、HFNC・人工呼吸器使用なし) トシリズマブ(8mg/kg day 1) vs 標準治療 改善乏しい場合はday 3に 400mg追加検討 発症10日目に無作為化(IQR 7-13) Primary outcome:14日以内の人工呼吸器使用または死亡(24% vs 36%) 28日死亡同等(11% vs 12%) 標準治療群の方が、ステロイド(33% vs 61%)と抗ウイルス薬の使用患者数が多かった JAMA Intern Med. 2020 Oct 20;e206820. doi: 10.1001/jamainternmed.2020.6820.
トシリズマブ(重症例:酸素投与) COVID-19:126名(P/F=200-300;ベンチュリーマスク or HFNC) トシリズマブ 8mg/kg投与、その後12時間後に2回目投与 Primary outcome:14日以内の臨床的悪化(死亡 or 人工呼吸器使用・ICU入室 or P/F 150未満)→同等 発症から無作為化まで8日(IQR 6-11) JAMA Intern Med. 2020 Oct 20;e206615. doi: 10.1001/jamainternmed.2020.6615.
トシリズマブ(重症例:酸素投与) 文献化されていないが、企業が行った治験(トシリズマブ vs プラセボ) - 死亡は減少しない - 人工呼吸器の導入率は低下する可能性がある - 感染は増加しない https://www.chugai-pharm.co.jp/news/detail/20200925153001_1025.html https://www.chugai-pharm.co.jp/news/detail/20200729151500_1006.html
トシリズマブ(重症例:酸素投与) 効果の可能性を示した観察研究は数多く報告されている 重症COVID-19(CRP >10mg/dL、フェリチン>900 µg/L、D-dimer >1.5µg/mLのうち2つ以上を満たす):メチルプレドニゾロン(初日250mg、その後80mg/日 4-6日間)で改善ない場合に、トシリズマブ(8mg/kg)追加した群は、どちらも投与しない群よりも死亡が少なかった 1) ほとんどの観察研究で、発症から4-14日以内にトシリズマブは投与されている CRP>15 mg/dLの場合、トシリズマブの効果が期待できるかもしれない 2) 1) Ann Rheum Dis. 2020 Sep;79(9):1143-1151. PMID:32719045 2) Clin Microbiol Infect. 2020 Sep 23;S1198-743X(20)30573-5. doi:10.1016/j.cmi.2020.09.021.
トシリズマブ(最重症例:人工呼吸器) 単施設観察研究、対象は人工呼吸器管理中のCOVID-19患者 トシリズマブ投与群(78名):8mg/kgを1回投与。約半数が挿管後24時間以内に投与された 非投与群(76名):標準治療(ステロイドは推奨されなかった) primary outcome:挿管後の死亡が45%減少(28日死亡 18% vs 36%) 感染は増加した(54% vs 26%) 主にVAPが増加(45% vs 20%):S. aureus 50%、緑膿菌 12-18% グルココルチコイド:トシリズマブ投与群29%、非投与群20% 結論:人工呼吸器を使用したCOVID-19に対するトシリズマブは、VAPを増加させるが、死亡を約50%に減少させる可能性がある Clin Infect Dis. 2020 Jul 11;ciaa954. doi: 10.1093/cid/ciaa954
米国の68病院のICUに入院したCOVID-19患者(人工呼吸器使用約60%)を対象とした大規模観察研究(3924名) ICU入室後2日以内のトシリズマブ投与群 3日目以降の投与または非投与群 両群とも約15%でステロイドが投与された 30日死亡はトシリズマブで少なかった:27.5% vs 37.1% Subgroup解析では、人工呼吸器かつP/F<200でトシリズマブの効果をみとめた 2次感染の頻度は両群で同等(32.3% vs 31.1%) トシリズマブ(最重症例:人工呼吸器) JAMA Intern Med. 2020 Oct 20;e206252. doi: 10.1001/jamainternmed.2020.6252.
トシリズマブのまとめ 人工呼吸器を必要としない呼吸全患者への効果は期待できない 重症COVID-19では、感染を増加させない可能性が高い 最重症COVID-19では、感染を増加させる可能性がある 最重症COVID-19は、IL-6が著明に上昇する病態ではない ステロイド使用下のトシリズマブの効果を検討した報告はない 人工呼吸器を必要とする最重症COVID-19で、炎症反応の上昇が著明で、ステロイドへの反応が乏しい(2日程度で判定)場合は、ICU入室から早期に(例えば、4日以内)に投与を検討してもよいかもしれない
デキサメタゾン:RECOVERY試験 入院が必要なCOVID-19患者(6425名)を対象としたRCT デキサメタゾン 6mg/日(内服 or 点滴)vs 標準治療 投与期間:10日間または退院まで(中央値7日間) primary endpoint:28日死亡 22.9% vs 25.7% 死亡減少効果は、呼吸不全例でのみ示された 人工呼吸器が必要になる患者も減少した レムデシビルは両群でほとんど投与されなかった N Engl J Med. 2020 Jul 17;NEJMoa2021436. doi: 10.1056/NEJMoa2021436
その他のグルココルチコイドの研究 ハイドロコルチゾン(主に最重症例を対象):REMAP-CAP 1) 50mg 6時間おき 7日間 vs 50mg 6時間おき(shock時) vs 投与なし primary endpoint:organ support-free day、途中で試験終了 デキサメタゾン(最重症例):CoDEX 2) 20mg 5日間→10mg 5日間 vs 投与なし primary endpoint:ventilator-free days during the first 28 days 介入群で治療成績が有意に優れていた(6.6日 vs 4.0日) 副腎皮質ステロイドの効果を検討したメタ解析 3) 最重症例で28日死亡が減少する(OR 0.66) どの研究もレムデシビルをほとんど使用していない 1) JAMA. 2020;324(13):1317-1329. 2) JAMA. 2020;324(13):1307-1316. 3) JAMA. 2020;324(13):1330-1341.
副腎皮質ステロイドのまとめ デキサメタゾン 6mg/日(内服・点滴) 7-10日間(第1選択) 代替薬 メチルプレドニゾロン 1回10mg 1日4回 or ハイドロコルチゾン 1回50mg 1日3回 呼吸不全を呈している重症例・最重症例で使用する 病態を考慮すると、発症から7日目以降からの開始が目安となるが、重症化した時点で開始するのが現実的 遷延する呼吸不全に対して、投与期間を延長すべきかどうかは不明 BMJ. 2020 Sep 4;370:m3379. doi: 10.1136/bmj.m3379.
その他:検討されてきた治療 回復期血漿 ヘパリン ヒドロキシクロロキン× クロロキン× ロピナビル/リトナビル× イベルメクチン? その他の免疫調整薬
回復期血漿 オープンラベル多施設RCT N=103(予定の200例に届かなかった) 重症または最重症COVID-19を対象 primary outcome(28日以内の症状改善) 全体:51.9% vs 43.1%(有意差なし) 重症例:91.3% vs 68.2%(有意差あり) 最重症例:20.7% vs 24.1%(有意差なし) secondary outcome:28日死亡(15.7% vs 24.0% ) 発症から無作為化まで:27-30日 JAMA. 2020 Aug 4;324(5):460-470. - 投与のタイミングは遅い - 重症例では効果がある可能性がある
回復期血漿 米国、単施設の観察研究(投与群 vs 非投与群) 重症または最重症COVID-19を対象(N=39) 投与群:投与14日後の呼吸の悪化↓(17.9% vs 28.2%)、死亡↓(12.8% vs 21.6%) 発症から入院までの期間の中央値 7日(0-14) 入院から輸血までの期間の中央値 4日(0-7) 挿管していない患者、入院から7日以内に投与した場合に、効果がみられやすかった Nat Med. 2020 Sep 15. doi: 10.1038/s41591-020-1088-9.
回復期血漿 N=35322(52.3%がICU患者で、27.5%が人工呼吸器患者)の観察研究 診断から3日以内 vs 4日目以降:30日死亡 21.6% vs 26.7%(有意差あり) 輸血した血漿中のIgG価が高いほど、効果が高かった(死亡が減少) 重症(約90%)または最重症COVID-19を対象 投与群138名 vs 非投与群1430名、発症から治療まで 45日 死亡減少 2.2% vs 4.1%、ICU入室減少 2.4% vs 5.1% medRxiv. 2020 Aug 12;2020.08.12.20169359. doi: 10.1101/2020.08.12.20169359. (プレプリント) Blood. 2020 Aug 6;136(6):755-759. doi: 10.1182/blood.2020007079.
回復期血漿のまとめ 効果についてはまだ不明 重症例(呼吸不全、かつ、人工呼吸器未使用)に効果が期待される 早期の投与の場合に、効果が高い可能性がある 最適な投与量、必要な抗体価、最適な献血のタイミングなどは不明 今後の無作為比較試験の結果に期待
ヘパリン:COVID-19と血栓 入院中のCOVID-19患者では抗凝固薬予防中でも高率にDVTが発生する(20-46%) 1)3) ICU患者で特に頻度が高い(遠位DVT 85%、近位DVT 10%というdataもある) 2) 入院から7-10日程度で診断されることが多い 2)3) DVTの発生は、死亡との関連を認めている 1)3) 臨床現場の実感としては、ヘパリン皮下注を予防投与していれば、ほぼDVTは経験しないが...?? 1) J Thromb Haemost. 2020 Aug;18(8):1995-2002. 2) Circulation. 2020 Jul 14;142(2):181-183 3) Circulation. 2020 Jul 14;142(2):114-128.
人工呼吸器管理中のCOVID-19への治療量の抗凝固療法は、予防量または投与なしと比較して、死亡を減らす可能性がある(観察研究) 人工呼吸器管理中のCOVID-19患者にタウする治療的抗凝固薬は予防投与よりも、ガス交換を改善し、人工呼吸器離脱を早める可能性がある(N=20のRCT) ヘパリンの可能性 J Am Coll Cardiol. 2020 Jul 7;76(1):122-124. Thromb Res. 2020 Sep 21;196:359-366.
その他:経験的抗菌薬治療 細菌感染症の合併1-5):2.2-7% ICU入室患者の細菌感染症の合併1-5) :11-41% 最重症例を除いて... 抗菌薬の経験的投与は不要なことがほとんどである しかし、抗菌薬の使用率は56-72%と報告されている 1,4,6,7)
1) Clin Infect Dis. 2020 Jul 1;ciaa902. doi: 10.1093/cid/ciaa902. 2) J Infect. 2020 Aug;81(2):266-275. 3) Clin Microbiol Infect. 2020 Jul 22;S1198-743X(20)30423-7. 4) Clin Infect Dis. 2020 Aug 21;ciaa1239. doi:10.1093/cid/ciaa1239. 5) Clin Microbiol Infect. 2020 Jul 31;S1198-743X(20)30450-X. 6) Clin Infect Dis. 2020 May 2;ciaa530. doi: 10.1093/cid/ciaa530. 7) Clin Microbiol Infect. 2020 Jul 22;S1198-743X(20)30423-7.
その他:経験的抗菌薬治療 軽症から中等症COVID-19では抗菌薬は、原則不要 経験的治療の対象 - 画像所見と炎症マーカーが細菌感染症を示唆する - 高度免疫不全者 - ICU入室患者?(当院ではICU入室のみを理由として抗菌薬投与は行っていない) 治療開始前に、喀痰培養・血液培養・(尿中抗原提出) 抗菌薬選択は、市中肺炎のガイドラインに従う(ただし、非定型肺炎のカバーは不要) 治療開始後48時間の時点で検査陰性の場合は、抗菌薬終了を検討する Recommendations for antibacterial therapy in adults with COVID-19 – An evidence based guideline. https://doi.org/10.1016/j.cmi.2020.09.041
Intensive Care Med (2020). https://doi.org/10.1007/s00134-020-06278-x ICU入室 septic shock or CTで細菌性肺炎を疑う場合 培養検査を行う 治療期間は5-7日、de-escalationを行う
COVID-19の感染対策
SARS-CoV-2の感染経路 飛沫感染(主要な感染経路) くしゃみ・咳・会話(2m以内) 接触感染(汚染された手で眼や鼻粘膜を触る) 痰や鼻水などの体液への接触(手・眼など) 体液で汚染された環境への接触(手) 空気感染? 可能性はある(ただし、証明されていない) 3密空間で、換気をしない場合にリスクが高い 3密(密閉・密集・密接) 222 Ann Intern Med. 2020 Sep 17:M20-5008. doi: 10.7326/M20-5008.
院内感染対策
Withコロナの院内感染対策(一般論) 標準予防策の徹底 ユニバーサルマスキング 感染経路別予防策 ⼀般社団法人 日本環境感染学会. 医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第3版. https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/downloads/COVID-19_PPE_illustrations-p.pdf COVID-19対応 224
患者 職員 225
標準予防策の徹底(コロナに限らず) 適切なタイミングの手指衛生 適切な個人防護具の使用 - 吸痰時のサージカルマスク - 体液に触れる場合の手袋 - 衣服が汚染する可能性がある場合のエプロン/ガウン 226
アルコールとCOVID-19とインフルエンザ 皮膚の上で、SARS-CoV-2は9.04時間、インフルエンザは1.82時間 どちらも80%エタノールで15秒以内に失活する Clin Infect Dis. 2020 Oct 3;ciaa1517. doi: 10.1093/cid/ciaa1517.
ユニバーサルマスキング COVID-19患者は - 症状出現の2-4日前からウイルス排泄あり - 症状出現前の感染伝播が50%弱 ユニバーサルマスクの目的 - 「気道症状のない職員/患者」から他の職員/患者への伝播を防ぐ すべての医療従事者・患者・訪問者はマスクを着用する ⼀般社団法人 日本環境感染学会. 医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第3版. https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/hcp/infection-control-recommendations.html#minimize Infect Control Hosp Epidemiol. 2020 May 6;1-2. doi: 10.1017/ice.2020.202. 228
マスクを着用できない・しない患者 認知症、子供、精神発達遅延、せん妄、家からマスクを持ってくるのを忘れた、マスクする習慣がない...etc 患者の飛沫の眼の粘膜曝露を減らすため、医療従事者は、患者に対応する場合フェイスシールドまたはアイシールドを必ず着用する 229
目の防護は重要かもしれない:病院内のデータではありませんが... COVID-19でメガネを常用している人の割合(5.8%)は、一般人口の近視率より低い(31.5%)→メガネをすることによって、目を触る回数が減少するから? COVID-19の濃厚接触者調査をしているcommunity health worker(CHW)が、訪問時サージカルマスクに追加してフェイスシールドを着用するように方針を変更したところ、CHWが新規で感染することがなくなった(インド) JAMA Ophthalmol. 2020 Sep 16;e203906. doi: 10.1001/jamaophthalmol.2020.3906. JAMA. 2020 Oct 6;324(13):1348-1349.
ウイルス感染症予防におけるマスク・目の防護・身体的距離の効果 Lancet. 2020 Jun 27;395(10242):1973-1987.
感染経路別予防策(対コロナ) 接触予防策 飛沫予防策 空気予防策(エアロゾル発生手技の時に必要) 新型コロナウイルス感染症(COIVD-19) 診療の手引き・第2版 ⼀般社団法人 日本環境感染学会. 医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第3版. 232
COVID-19の可能性のある患者の感染管理 個人防護具 1. 眼・鼻・口を防護するもの サージカルマスク or N95マスク ゴーグル or フェイスシールド 2. 長袖ガウン 3. キャップ(必須ではない) 4. 手袋 新型コロナウイルス感染症(COIVD-19) 診療の手引き・第2版 ⼀般社団法人 日本環境感染学会. 医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第3版. 233
N95マスクを使用する状況 エアロゾル発生手技を行う場合 気道吸引 NIV 喀痰誘発 気管支鏡 胸骨圧迫 用手換気 気管挿管・抜管 咳が強い患者の診察(当院) 新型コロナウイルス感染症(COIVD-19) 診療の手引き・第2版 ⼀般社団法人 日本環境感染学会. 医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第3版. 234
エアロゾル=空気感染? 235
エアロゾルとは? 気体中に微粒子が多数浮遊した状態(ほこり、花粉、霧など) その微粒子の大きさは、数nmから100μm程度まで様々 「エアゾロル感染」≒飛沫感染+空気(飛沫核)感染 「エアロゾル感染」の世界的に統一された定義は存在しない 「エアロゾル感染」は、空気感染(飛沫核感染)とは異なる ※飛沫核=長径5μm未満 236
病室・病室の空気中のウイルス 患者の頭から4m離れた場所の空気からSARS-CoV-2がPCR検査で検出された1) 患者の頭から2-4.8m離れた場所の空気のウイルス培養が陽性となった2) 隔離病棟・人工呼吸器患者の病室の空気中のSARS-CoV-2 RNA濃度は非常に低かったが、患者ベッドから約3m以内の床はウイルスで汚染されていた3) →「エアロゾル」は、患者から4-5m離れたところまで到達する可能性 実験室の環境におけるエアゾロル(この実験では、5μm未満の飛沫核)中のウイルスは、3時間以上viabilityを保持する(半減期は1.1-1.2時間)4) 1. Emerg Infect Dis. 2020 Apr 10;26(7). doi: 10.3201/eid2607.200885. 2. Int J Infect Dis. 2020 Sep 16;100:476-482. 3. Nature. 2020 Apr 27. doi: 10.1038/s41586-020-2271-3. 4. N Engl J Med. 2020 Apr 16;382(16):1564-1567. doi: 10.1056/NEJMc2004973. 237
空気感染のリスク エアロゾル発生手技 換気不良の3密(密閉・密集・密接)空間 https://www.who.int/news-room/commentaries/detail/transmission-of-sars-cov-2-implications-for-infection-prevention-precautions 238
キャップは必須? キャップ装着は、必須と考えられていない ただし、髪に触れた際に、⼿指に付着したウイルスによる粘膜汚染が懸念されるため、特に髪を触りやすい人は着用したほうが安全と思われる 239
シューズカバーは必要? 集中治療室で最重症COVID-19診療している医療従事者の靴の裏のウイルスPCRが50%で陽性であった報告がある1) COVID-19診療している医療従事者の靴の前面のウイルスPCRが陽性であった報告がある2) しかし、シューズカバーを脱ぐ際に⼿指が汚染するリスクを考慮すると、シューズカバーの着用は推奨されない3,4) 1. Emerg Infect Dis. 2020 Apr 10;26(7). doi: 10.3201/eid2607.200885. 2. JAMA. 2020 Mar 4;323(16):1610-1612. doi: 10.1001/jama.2020.3227. 3. ⼀般社団法人 日本環境感染学会. 医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第3版. 4. 国立感染症研究所. 新型コロナウイルス感染症に対する感染管理 2020年5月20日改訂. 240
外来での対応
COVID-19疑い患者の外来診察前 発熱、呼吸器症状、味覚障害・嗅覚障害がある場合は、事前に連絡を入れてもらう(ホームページに記載、入り口に掲示) すべての外来患者に、事前問診表(過去2週間の発熱、気道症状、流行地域への移動の有無など)と体温測定を行う すべての外来患者にマスクを着用してもらう 疑いのある患者の導線を決めておく 242
COVID-19疑い患者対応のポイント 基本は、サージカルマスク・ガウン・手袋・フェイスシールド キャップは必須ではないが、したほうが安全かもしれない 直接の診察(特に聴診)は最小限にする 鼻咽頭ぬぐい液を採取する場合 - 正面に立たない(患者の右側または左側に立つ) - 患者にはマスクしてもらう(鼻だけ出す) 気管挿管/吸痰をする可能性がある場合は、N95マスクを使用 243
COVID-19疑い患者の帰宅後 十分換気(換気良好な場所で診察することが望ましい) 環境消毒:患者周辺の高頻度接触環境表面と患者に直接接触した機材(血圧計や体温計)を、アルコール(濃度60-70%以上)または次亜塩素酸ナトリウム溶液(濃度0.1-0.5%)で拭く 日本環境感染学会. 医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド 第3版
病院環境からの感染の懸念 245
ウイルスが検出される場所
病院内のどこが汚染? レッドゾーン 床(70%で陽性)・コンピューターマウス・ゴミ箱・ベッドの手すり・ドアノブ・患者マスク・排気口フィルター・テーブル・ロッカー、椅子・照明のスイッチ・聴診器・洗面台(外側・内側)・窓・シンクの上のPPE置き場・トイレのドアノブ・便器の表面 隔離病棟のグリーンゾーン 受話器と手指衛生消毒薬のプッシュボタン Emerg Infect Dis. 2020 Apr 10;26(7). doi: 10.3201/eid2607.200885. JAMA. Published online March 4, 2020. doi:10.1001/jama.2020.3227 J Hosp Infect. 2020 Apr 15;S0195-6701(20)30195-X. 247
JAMA. Published online March 4, 2020. doi:10.1001/jama.2020.3227 248
グリーンゾーンの汚染対策 レッドゾーンを出たときに手指衛生 高頻度接触面の定期的な消毒 249
環境表面のウイルスのviabilityがある期間 いつまで生存(残存)? PCR陽性≠感染伝播 ウイルス培養のほうが感染性をより反映 250
SARS-CoV-2の環境表面での安定性 プラスティック:72-96時間以内(半減期6.8時間) ステンレス:48-72時間以内(半減期5.6時間) 銅:4-8時間(半減期1時間未満) ダンボール:24-48時間以内(半減期3-4時間) N Engl J Med. 2020 Apr 16;382(16):1564-1567. doi: 10.1056/NEJMc2004973. 251
4℃の環境で安定(14日以上感染性が確認された) 70℃の環境では5分以内に不活化される ウイルス培養が陽性となる期間 紙・ティッシュペーパー:3時間以内 木・布:2日以内 ガラス、紙幣:4日以内 ステンレス、プラスティック、サージカルマスク内層:7日以内 サージカルマスク外層:14日以上 SARS-CoV-2の環境表面での安定性 Lancet Microbe 2020 Published Online April 2, 2020. https://doi.org/10.1016/S2666-5247(20)30003-3https://doi.org/10.1016/S2666-5247(20)30003-3 252
環境表面のウイルスのviability 汚染された物品はいつから触れることができるか? 紙・ティッシュペーパー・ダンボール:24-48時間以内 木・布:2日以内 ガラス:4日以内 ステンレス・プラスティック:3-7日以内 253
紙・布:2日表面がつるつる:7日 254
院外での感染対策
職員の市中感染予防 屋内や人混みでのマスク着用 身体的距離の確保(最低1m、可能なら2m) 手洗い 3密(密集・密接・密閉)の回避 感染が流行している地域への移動を控える どの範囲まで要請するか、病院ごとで検討する必要がある 256
厚生労働省HP:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html#sankou 閉鎖空間にいる感染者は、換気できている空間の感染者より、18.7倍感染させやすいという報告がある(https://doi.org/10.1101/2020.02.28.20029272) 257
3密+2 Closed spaces Crowded places Close-contact setting Duration(継続期間) Volume(音量) https://www.asahi.com/articles/ASNBD7SKBNBDUHBI03P.html
具体的に気をつけること
新型コロナウイルス感染症対策分科会. 分科会から政府への提言. 感染リスクが高まる「5つの場面」と「感染リスクを下げながら会食を楽しむ工夫」2020.10.23. https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/teigen_12_1.pdf
会食をする場合に気をつけること 会食禁止はやりすぎ(だと思います) 飲酒する場合は、少人数・短時間・なるべく普段一緒にいる人と、深夜・はしご酒は控える 箸やコップの使いまわしは禁止 咳の配置は斜め向かいがよい(正面・真横はなるべく避ける) 会話するときはなるべくマスク着用 換気が適切になされているなどの工夫をした店で 体調が悪い人は参加しない 新型コロナウイルス感染症対策分科会. 分科会から政府への提言. 感染リスクが高まる「5つの場面」と「感染リスクを下げながら会食を楽しむ工夫」2020.10.23. https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/teigen_12_1.pdf
家庭内感染予防 気道症状のある家族がいる場合 - Social distanceの確保 - マスクの着用 - 高頻度接触面の消毒 - 部屋の換気(窓を開ける) BMJ Glob Health. 2020 May;5(5):e002794. doi: 10.1136/bmjgh-2020-002794. 2次感染が減少することが示されている
患者 職員 職員 市中感染 263
医療施設内での職員間感染予防の実際 具体的にどのような対策が必要か
手指衛生 全員マスク 3密(密閉、密集、密接)を避ける 院内の職員間感染を予防する 国立感染症研究所. 新型コロナウイルス感染症に対する感染管理 2020年5月20日改訂. 厚生労働省HP:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html#sankou 265
院内職員間感染予防の工夫 頻回の手指衛生(標準予防策の徹底) ユニバーサル・マスキング - 特に2m以内で会話する場合は、サージカルマスクを着用 - 休憩室・ロッカー・カンファレンスルーム・帰り道に注意! 引き継ぎは少人数で(例えば3人以下) 食事は、2m以上の間隔をあけてとる(対面はダメ) 休憩時間の分散化 266
微熱や軽度の気道症状がある場合 →出勤しない or 業務中なら業務を中断する COVID-19担当の医療従事者が、発熱・気道症状・嗅覚/味覚異常がでた場合の対応方法 →例:「1-2週間休む±(保健所に相談した上で)受診してPCR検査」を行う 院内の職員間感染を予防する ※PCR検査の適応は、流行状況や保健所・コロナ対応病院の方針によって異なる 267
体調不良時に「休む」文化が大切 自分のため 同僚のため 患者さんのため 268
院内では.... ユニバーサルマスキング 手指衛生 症状がでたら病院の中に入らない 269
日常生活では... 3密回避 マスク着用 身体的距離の確保 流行地域への移動を避ける 270
本日お話した内容:COVID-19の... 疫学 症状 診断 治療 感染対策 含まれていない内容 ・COVID-19罹患後の症状の残存 ・ワクチン ・クラスター事例のまとめ ・日本の医療体制について など