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かたやまたかし@循内

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  • #1.

    かたやまたかし@循内 2022/12/23 初回投稿、2023/05/01 改訂2.0版 心不全の評価と治療改訂2.0版 Antaa Slide

  • #2.

    自己紹介 かたやまたかし@循内 2009年卒業(卒後15年目) 循環器専門医、総合内科専門医 200床規模の総合病院で循環器内科医として勤務 この数年は IABP や VA-ECMO など本気の心不全治療とは疎遠 本スライド内容に関連し開示すべき利益相反(COI)関係にある企業などはありません

  • #3.

    はじめに 本スライドの目標 心不全をその病態、原因、進行段階の視点で評価し、対処を考えられるようになる 心不全診療への抵抗感をなくす 本スライドの対象 心不全を一通り学んだが、実践的なところがいまひとつわからない先生 心不全の初期対応や安定後の外来管理を学びたい先生 初期研修医、内科専攻医、一般内科医 本スライドの内容 日本循環器学会のガイドラインに基づきながら、海外のガイドライン内容や、ガイドラインでは言い切れない実践的なことも私見を含めて記載しています

  • #4.

    目次 心不全とは 心不全診断における症状や徴候 心不全の分類と治療方針 療養指導

  • #5.

    心不全とは 「心不全」は病態であり、いろんな分類や名前があるので整理しておきます 循環動態の理解も重要ですが本スライドでは扱いません

  • #6.

    心不全とは 心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、 だんだん悪くなり、生命を縮める病気 日本循環器学会、日本心不全学会. 2017

  • #7.

    心不全とは 心臓が悪いために、 低灌流 心臓の先へ血液を十分送り出せない うっ血 心臓の手前で血液が滞る 肺うっ血 息切れ、起坐呼吸 静脈うっ血 むくみ、体重増加 末梢冷感、めまい、 倦怠感、尿量減少 息切れやむくみが起こる 器質的・機能的な心臓の異常 収縮して血液を押し出す力(EF)の低下 部屋の広がりやすさ(拡張能)の低下 部屋が異常に大きい、部屋の壁が厚い 弁の狭窄や逆流 原因 症状や徴候 右の欄は Universal definition and classification. Bozkurt B, et al. Eur J Heart Fail 2021; 23(3): 352-380 より引用し演者試訳。 EF <50% 異常な心腔拡大 E/E’ >15(拡張障害所見) 中等度以上の心室肥大 中等度以上の弁膜病変・閉鎖不全 *臨床研究やリスクスコアでよく用いられ感度や特異度が確認されているもの。 #低灌流・低心拍出量で一般的。##右心不全や両心不全の病態で典型的となりうる。 世界共通定義における具体的な所見

  • #8.

    心不全の世界共通定義 (2021) Universal definition and classification. Bozkurt B, et al. Eur J Heart Fail 2021; 23(3): 352-380 など。 器質的・機能的な心臓の異常を 原因とする 症状や徴候がある BNP高値 肺または全身の うっ血の 客観的証拠 または 心不全とは、現在または過去に下記が認められる臨床症候群です うっ血の客観的証拠 (evidence) 画像所見(胸部X線、心エコー図) 安静時や運動などによる負荷時の血行動態測定(右心カテなど) Universal definition 50年以上前から用いられてきた フラミンガム研究での診断基準に加え、 BNP または うっ血の客観的エビデンスが診断に求められるようになったのが特徴です

  • #9.

    心不全の分類は目的によって使い分ける 原因別 病態別 段階別 主に急性期の症状に対する治療を考えるとき 原因に対する治療を考えるとき 病状を俯瞰するとき 急性期 クリニカルシナリオ分類(血圧から 1~3 の 3 群に分類し治療) 急性期 Nohria-Stevenson分類(身体所見から 4 群に分類し治療) 慢性期 EF による分類(HFrEF, HFmrEF, HFpEF) NYHA 分類(重症度を自覚症状から I~IV の 4 段階に分類) ステージ分類(進展度を A~D の 4 段階に分類) にーは 虚血性 狭心症、冠攣縮、ACS 特発性心筋症 DCM, HCM, RCM, ARVC 心筋炎 感染性、非感染性 心毒性 薬剤性、アルコール性など 浸潤性 心アミロイドーシス、ファブリ 高血圧性 弁膜 MS... 先天 VSD... 演者作図 いろいろな切り口や分類があります… ※上記2つの分類が用いられることは近年少なくなってきました

  • #10.

    心不全管理は 代償化+疾患管理 基礎疾患 の管理 病態の 代償化 依存症 の管理 症状があるときに優先 急性期~安定期 予防段階から 心不全代償化の例 利尿薬による うっ血解除・体液量是正 強心薬による 血行動態の改善 基礎疾患に対する治療の例(専門医療機関への紹介が必要な場合もある) 心筋虚血に対する 冠動脈の血行再建術(PCI、バイパス術など) 弁膜症に対する 侵襲的治療(弁置換術・TAVI、僧房弁クリップ術など) 症候性徐脈に対する ペースメーカ移植術 依存症に対する治療の例(各診療科への紹介や併診が必要な場合もある) 糖尿病に対する 薬物治療や食事運動療法 COPD に対する 禁煙指導や吸入薬 慢性腎臓病に対する 尿蛋白抑制や腎性貧血是正 演者作図 手術などの非薬物治療が推奨される病態においてはタイミングを逃さず専門医療機関へご紹介ください。

  • #11.

    心不全診断における症状や徴候 心不全に特異的な自覚症状や身体所見はありません(そこが心不全の難しいところ) 可能性を疑う症状や徴候があればさらなる検査を追加して心不全の確からしさを確認していきます 本スライドではすべての内容を扱いきれませんが、主な症状や徴候の確認方法を説明します

  • #12.

    心不全診断の流れの概要(急がない場合) 問診 症状、運動能の低下 既往・患者背景 身体所見 ラ音、心雑音・過剰心音の聴診 頚静脈の視診 下腿浮腫 パルスオキシメータ (SpO2) 心電図 急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版 p16 図4 を参考に演者作図 器質的・機能的な心臓の異常を 原因とする 症状や徴候がある BNP高値 うっ血の画像所見 胸部X線 心エコー図 心臓カテーテル検査 または 心不全の世界共通定義 上記の流れで診断し、原因疾患や心不全ステージに応じた治療に進んでいきます。 心不全の可能性が高くないと判断された場合も、必要に応じて心不全の発症予防や経過観察を検討します。

  • #13.

    問診で心不全症状を聞き出す 日本心不全学会.急性・慢性心不全診療ガイドライン かかりつけ医向けガイダンス 2019. p20 を参考に一部抜粋・改変し演者作表。 心不全に特異的な自覚症状や身体所見はありません。 可能性を疑う症状や所見があれば、検査などを追加し心不全を診断していきます。

  • #14.

    労作時の症状(運動耐容能)の評価 急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版 p31 表19, 表20 より一部抜粋し演者作図. 慢性心不全では、自らの活動を制限し自覚症状が出ないようにして生活していることがあります。 具体的な質問で、普段の生活における身体活動度や、どの程度の身体活動で症状が出るかを確認しましょう。

  • #15.

    頚静脈視診による中心静脈圧の推定 演者作図 半臥位45度で、右側の前頚部を視診します 右の胸鎖乳突筋 右房 右の外頚静脈の怒張 右の内頚静脈の拍動 収縮期 拡張期 a v x y 心室 右房圧 a 内頚静脈は表皮が1拍で2回へこむ 半坐位45度にすると、右房から胸骨角までの高さがおよそ 5 cm になる 胸骨角から 外頚静脈怒張 内頚静脈拍動 頚動脈の拍動との鑑別 1拍で2回へこむ 拍動を触知できるほどの圧がない 以下は拍動がどこで見えるか探す時にも有用 呼吸性変動がある(上端が吸期に下降) 体位で変動がある(上端が臥位で上昇、坐位で下降) 「肝頚静脈逆流」による変動がある(右季肋部をじわーっと押すと上昇) 胸骨角 この足し算が 推定右房圧 の上端までの高さ ひくひくっ! ※外頚よりも内頚静脈の方が正確とされています ※太っている場合、首が短い場合は観察しにくいです 右房圧 8~10 cmH2O 以上を 中心静脈圧上昇としています 正しく評価するにはいろいろなことを理解する必要がありますが、習得すると有用のはずです。

  • #16.

    [参考]むくみの心不全以外との鑑別方法は? 身体所見、年齢、身体活動度、併存疾患などから事前確率を考慮の上で、鑑別するための検査項目を選定します 全身性か局所性・片側性か、発赤や疼痛を伴うか 服薬内容(カルシウム拮抗薬、NSAIDsなど) 血清Cr(両下肢全体の浮腫は腎不全でよくみられます) D-dimer、下肢静脈エコー(片側性の場合は DVT の可能性が高まります) Alb、尿蛋白、肝不全、低栄養、蛋白漏出性胃腸症による下痢など Hb 甲状腺ホルモン(非圧痕性が有名です) 胸部X線、BNP、心エコー図 個人的な印象では廃用性浮腫が多いですが、あくまで除外診断

  • #17.

    BNP の解釈 BNP 35~40 以上、NT-proBNP 125 以上を目安に、基礎疾患や危険因子があれば心エコーでの病態評価をお勧めします 高齢、腎不全、貧血、感染・全身炎症で BNP は上昇するので注意 肥満で BNP は低下し過小評価となるので注意 日本心不全学会 「血中BNPやNT-proBNP値を用いた心不全診療の留意点について」 の内容から作表 なお、心不全の世界共通定義では、外来患者のBNP 35以上、NT-proBNP 125以上が診断を支持する基準値とされています。

  • #18.

    心不全の分類と治療方針 急性期(代償不全) 急性心不全への対応 クリニカルシナリオ分類 Nohria-Stevenson分類 利尿薬の投与方法 慢性期 EF による分類 心エコー図 進行段階別の分類 心不全ステージ (A~D)

  • #19.

    急性心不全の評価と対応(概要) 本邦のガイドライン2017、ESC 2021、AHA 2022 pe960 を参考に演者作成 うっ血に対する急性期治療の基本は フロセミド 20 mg (1A) 静注 すでに利尿薬を内服中なら同用量を静注 低灌流・心原性ショック の徴候 ”cold” 四肢が冷たい、網状皮斑(特に膝周辺) 意識障害 収縮期血圧 <90 mmHg が30分以上持続 尿量が少ない (<30 mL/h) 乳酸値が上昇 (Lac >2 mmol/L) うっ血 の徴候 “wet” 起坐呼吸 頚静脈怒張 浮腫 肺うっ血所見 循環動態を維持し臓器低灌流を改善 強心薬の持続静注(ドブタミン、ノルアドレナリンなど) 専門医療機関での集学的治療(IABP, VA-ECMO, IMPELLAによる機械的循環補助) 急性心不全の 多くはこれ これらの徴候を 見逃さない!

  • #20.

    急性心不全への対応(最初の10分) トリアージ 血圧・四肢冷感 心拍数・心電図モニター SpO2・呼吸数 体温 病態評価(クリニカルシナリオ) 10分以内 血行動態は不安定か 血圧90未満・末梢低灌流 血行動態を改善 体液貯留がなければ生食を補液 強心薬 ドブタミン持続静注150mgシリンジ0.3%シリンジ(150mg/50mL) 2mL/h (2γ)で開始 昇圧薬 イノバン注0.3%シリンジ0.3%シリンジ(150mg/50mL) 2mL/h (2γ)で開始 血管収縮薬 ノルアドレナリン注1mg5A組成 (5mg/50mL) 2mL/h (0.067γ)で開始 機械的循環補助 (IABP, VA-ECMO, IMPELLA) 呼吸不全はあるか SpO2 90%未満 酸素化を維持 酸素吸入 NPPV(フルフェイスマスクなど)(S/Tモード、IPAP 8、EPAP 5、呼吸数 15/分) 気管挿管 ACSか 胸痛、心電図 (心エコー図、トロポニン値) 緊急CAG/PCIの手配 不安定 呼吸不全 ACS 急性心不全 急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版 p79 図11 を参考に演者作図.

  • #21.

    急性心不全への対応(次の60分) 迅速評価 うっ血・末梢低灌流の評価 血液検査、BNP 12誘導心電図 心エコー図(+肺エコー図) 胸部X線/CT 次の60分以内 CS1 の肺水腫か クリニカルシナリオ 1:血圧140以上 血管拡張薬 ミオコールスプレー0.3mg ニトロール舌下錠 ニトログリセリン点滴静注バッグ(50mg/100mL) 2mL/h (0.33γ)で開始 ハンプ注(注射用水で希釈、単独ルート推奨)4V組成 (4000µg/40mL) 3mL/h (0.1γ)で開始 うっ血(wet)はあるか 肺うっ血、浮腫、頚静脈怒張 利尿薬 フロセミド注20mg (2mL/A) 1A 静注 サムスカOD錠 7.5~15mg 内服 サムタス点滴静注用 8~16mg 点滴※サムスカ、サムタスは入院中のみ開始可。高Naに注意 アルダクトンA錠25mg 1錠 血圧 140以上 wet 再評価 病態と治療効果を再評価する 基礎心疾患の診断と、特殊病態の探索 心筋炎 右心不全、収縮性心膜炎 ACS 高血圧緊急症(臓器障害) 不整脈 機械的合併症(ACS後心破裂、大動脈解離、感染性心内膜炎) 肺塞栓 高心拍出心不全(敗血症、甲状腺中毒、貧血、脚気) 次の60分以内 急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版 p79 図11 を参考に演者作図. ※血管拡張薬静注は明らかな高血圧性の場合のみに使用します。 高血圧性か判断つかない場合は先に利尿薬を静注しましょう(私見)

  • #22.

    クリニカルシナリオ (CS) 分類 収縮期血圧 (mmHg) CS1 肺水腫 血管拡張薬(ニトロール、ハンプ) ±利尿薬(ラシックス) 140 CS2 体液貯留 利尿薬(ラシックス注20mg 1A) 血管拡張薬(ニトロール、ハンプ) 100 CS3 低心拍出 体液貯留がない場合は容量負荷(輸液) 強心薬(ドブダミンシリンジ) 血管収縮薬(ノルアドレナリン) 心原性ショック 薬物治療+補助循環 (IABP, Impella) 90 最初の10分で 血圧から治療薬を判断 CS4 急性冠症候群 CS5 右心機能不全 急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版 p81 図12 を一部改変. 高血圧性の急性心不全では、 初期治療として血管拡張薬による症状やうっ血の改善を考慮します。 (推奨は限定的です) 急性心不全の多くの場合は 体液過剰があるので、 利尿薬による是正が 初期治療の基本となります。 ※さすがに血圧だけで治療方針を決めるのは無理があるので、最近はあまり用いられていません。

  • #23.

    Nohria-Stevenson 分類 ノーリア スティーブンソン Profile A: dry-warm うっ血なし、血圧・末梢循環維持 (^-^) warm 低灌流所見なし cold 低灌流所見あり wet うっ血所見あり dry うっ血所見なし Profile L: dry-cold 脱水、血圧低下・末梢循環不全 Profile C: wet-cold うっ血、末梢循環不全 Profile B: wet-warm うっ血、末梢循環不全 四肢冷感、傾眠傾向 身の置きどころのない様相 腎機能悪化 血圧維持→利尿+血管拡張 血圧低下→強心薬のあと利尿 血圧上昇→血管拡張±利尿 血圧維持→利尿+血管拡張 輸液 強心薬 起坐呼吸、発作性夜間呼吸困難 頚静脈怒張、浮腫、腹水 身体所見から 治療方針を決める 急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版 図12 を一部改変. ※うっ血と低灌流という概念は治療方針を考える上で重要ですが、4分割は用いられなくなってきました。

  • #24.

    急性期における利尿薬の投与方法(例) 2021 ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure を参考に多少簡潔化して演者作成 トルバプタンに関しては サムスカ錠、サムタス点滴静注用の電子添文、日循他の適正使用ステートメント2023年改訂版(*1)をもとに記載 フロセミド 20 mg (1A) 静注 すでに利尿薬を内服中なら同用量を静注 尿量の目標 ≥100~150 mL/h 倍量を静注 (40 mg) 他剤併用 サイアザイド等 24時間ごと採血 Cr, Na, K, Mg うっ血・体液過剰が解除されたら 経口利尿薬へ切替 ボーラス投与→持続静注へ フロセミド20mg静注で利尿不十分なら... 慢性腎不全患者では最初から… フロセミド40mg静注で利尿不十分なら... 1日2回 6時・18時 ラシックス(20mg/A) 1A 静注。 ただし 静注前の収縮期血圧90未満の場合、10mg (0.5A) を静注 静注前の収縮期血圧110以上かつ、12時間尿量1500mL未満の場合、40mg (2A) を静注 病棟指示の一例(私見) 毎朝チェック;  静注量、尿量、体重、血圧、血液検査結果、  うっ血・体液過剰が軽快したかもチェック 血圧90未満が続くようなら治療内容を再考 1回40mg静注でも利尿不十分なら、持続静注(100mg/50mLを2mL/hで開始)、他剤併用などを検討 トルバプタン投与の併用も考慮 血清Na値を確認後に... まずは! 12時間ごと静注 ※本邦で頻用されるカルペリチド(ハンプ)は、個人的には血管拡張薬として用いる扱いです 初回投与 5(±1)時間後、10(±2)時間後、以後1週間は毎日、採血チェック (Na, K)*1

  • #25.

    利尿薬が効きにくい原因と対処 利尿薬が効きにくい背景を探り、条件を整えていきます 腎臓の交感神経系亢進をいかに抑えるかがポイント 演者作表。低アルブミン血症や腸管浮腫がフロセミドの効果にどう影響するかはいろいろな研究報告や意見があります。ここでは多くの医療機関で用いられていると思われる対処の内容を記載しました。 利尿以外の方法も併用して、早期に うっ血(特に肺)を軽減します 血管拡張薬や補助循環による後負荷軽減 血液浄化療法による除水、アシドーシス改善、電解質補正など

  • #26.

    うっ血・体液過剰 解除の判断方法 労作時呼吸困難感のほか、肺音、胸部X線、心エコー図などから総合的に判断します 労作時呼吸困難感の改善(身体活動度が低い高齢者ではわかりにくい) 肺ラ音の消失(誤嚥合併例などでは判別しにくい) 胸部X線で肺血管周囲陰影などの改善 心エコー法で推定肺動脈圧や下大静脈径などの改善 浮腫の軽減(浮腫には他の要因が重複していることもあるので、浮腫消失が必ずしも体液量是正の目標とはならない) ※ 肺うっ血解除から胸水消失まで数日程度の時間差があるので、その間の過剰な利尿に注意

  • #27.

    経口利尿薬への切り替え *1 Circ J 2012; 76: 833-842 “J-MELODIC study” においては、アゾセミド最大120mgまで投与可能とされていました。 *2 臨床医薬 1997; 13(8): 2055-2096 ではトラセミド8mg>フロセミド40mgの浮腫改善効果となっていますが、臨床研究では上記の換算が多いです。 フロセミド(ラシックス) アゾセミド(ダイアート) トラセミド(ルプラック) フロセミド注(ラシックス注) 20 40 60 8 20 30 4 6 時間 40~80 mg 12 時間 8 時間 60 mg 4~8 mg 腎機能不全等の場合にはさらに大量に用いることもある。 トルバプタン(サムスカ) 7.5~15 mg 年齢・症状により適宜増減する。*1 年齢、症状により適宜増減する。 20 mg 腎機能不全等の場合にはさらに大量に用いることもある。 12 時間 以前は、腎不全による乏尿の場合 「1回500mg、1日1000mgまで」とされていました(現在は記載がないようです) 利尿薬 通常用量 作用時間 換算量 添付文書での最大用量 一般に言われる換算量です*2 ※位置がちょっとずれているのは私見です うっ血・体液過剰が解除されたら、 それを維持できる最小量の経口利尿薬へ切り替えます。 後述の、EF による分類に基づいた基本薬もしっかり導入し、漸増します。 退院後は 1~2 週間後に再診とし、心不全徴候・症状、体重、血圧、Cr・電解質 などを確認します。

  • #28.

    うっ血解除後の利尿薬の量 うっ血解除に必要十分かつ最小限*1の用量にしましょう 高用量のループ利尿薬は生命予後悪化につながるという報告が多くあります*2 一方で、うっ血が残存した心不全患者の再入院率が高い*3ことから、十分にうっ血解除した状態で退院することが重要ともされています*4*5 *1 日本循環器学会.急性・慢性心不全診療ガイドライン *1 p84, *2 p37. *3 Eur Heart J. 2013; 34(11): 835-843, J Card Fail 2016; 22: 753-760. *4 ESC Guidelines, Eur Heart J 2021; 42: 3599-3726 p3657 11.3.11. *5 AHA Guideline. Circulation. 2022; 145(18): e895-e1032 pe964 9.3 うっ血解除・体液量是正のためには腎機能 (Cr) にもある程度は犠牲になってもらいましょう*5 (是正後が本来の Cr 値)

  • #29.

    外来での病態評価 血圧手帳に記録された 血圧、脈拍数、体重 を確認しましょう 家庭血圧は 125/75 mmHg未満か、症候性低血圧はないか 心房細動患者やベータ遮断薬投与患者は、脈拍数にも注意 体重が、うっ血や体液量過剰がない状態でのベース体重を大きく逸脱していないか 非代償性心不全の徴候がないか、症状、身体所見などで確認しましょう 労作時の息切れ、起坐呼吸はないか 血液検査で電解質(Na, K, Cl, Mg)異常、貧血などはないか 薬物の用量が適正かどうか、毎回確認しましょう 利尿薬は減量できないか? 腎機能低下や体重減少により減量が必要な薬はないか? 基本薬(ベータ遮断薬、ARNI)は増量できないか? 多職種と連携して病態に関する情報を補い患者へ関わることも有用です 病態が安定している時は 基本薬増量のチャンス

  • #30.

    EF による分類と治療 慢性期の心不全増悪予防や 予後改善などが目的 HFpEF ヘフペフ 収縮能が保たれている (preserved EF) 左室駆出率(EF) 50%以上 41%~49% HFmrEF エムレフ 収縮能が軽度低下している (mildly reduced EF) 40%以下 HFrEF ヘフレフ 収縮能が低下している (reduced EF) ACE阻害薬/ARB ベータ遮断薬 ミネラルコルチコイド拮抗薬 基本薬 SGLT2阻害薬 ACE阻害薬/ARB から ARNI への切替え 併用薬 うっ血に対する利尿薬 洞頻脈へ コララン 必要に応じ ジギタリス 血管拡張薬 + 非薬物治療 植込み型除細動器 (ICD)、心臓再同期療法 (CRT) 経皮的僧房弁接合不全修復術 (MitraClip) うっ血に対する利尿薬 依存症に対する治療 個々の病態に 応じて判断 HFpEFは、左室収縮障害と血管硬化が主体 降圧による拡張障害の抑制 血管硬化予防による心負荷軽減 SGLT2阻害薬 SGLT2阻害薬 ベリキューボ ARNI すべての心不全において 疾病管理、運動療法、緩和ケア 2021年ガイドラインフォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療 図2 に、universal definition and classification を反映し演者改変修正。 HFpEFへのSGLT2阻害薬についてはEMPEROR-Preserved試験やDELIVER試験の結果を踏まえ JAMA 2023; 329(10): 827-838 を参考に記載。 EFが改善した心不全は HFimpEF (improved EF) “Fantastic Four”

  • #31.

    EF が低下した心不全における主な治療薬 Fantastic Four

  • #32.

    HFrEF における基本薬 4 剤の導入方法 ベータ遮断薬は うっ血を解除後に開始や漸増をします 心不全時にすでに投薬中のベータ遮断薬は通常休薬しません*1 それ以外はどれも早期から開始し最大用量を目指します 下表の内容はすべて個人の経験等に基づく私見です! 使用時は必ず電子添文をご確認ください。 *1 急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版 p81 *2 臨床試験で用いられた、エンレスト1回50mgから100mgへの増量時の基準.*3 イバブラジンの目標安静時心拍数から転用。

  • #33.

    心臓にエコープローブを当ててみよう 突起を 右肩向きに たすき掛け 90度 時計回転で 突起は左肩向き プローブを 外へ寝かせる (「あおる」) 左室 左房 右室 右房 長軸像 短軸像 四腔像 厚さと動き 弁の開き 大きさ 左室全体の動き特に心尖部 逆流の程度 左室壁全体の動き(asynergy) 演者作図 心エコーの プローブは セクタ走査 突起/ マーカー 心尖拍動部 心電図のV5あたり 胸骨左縁第3~4肋間 心電図のV2~3あたり 左側臥位で 心臓を胸壁に 密着させると 見やすくなります

  • #34.

    弁はざっくりいうと 心エコー図レポートの読み方 急性・慢性心不全診療ガイドライン 2017 p23, 地域のかかりつけ医と多職種のための心不全診療ガイドブック p20 を参考に演者作表 2020年改訂版 弁膜症治療ガイドライン p13, p30, p56

  • #35.

    [参考]主な基礎疾患の表現型パターン 演者作表ですので、誤りなどあればご指摘ください 同じ基礎疾患でも、程度や時間経過によって表現型が異なります。複数の基礎疾患が関与していることもしばしばあります。 原因の鑑別と治療方針の吟味は難しいことも多いため、初発の心不全は、ぜひ一度は専門医へご紹介ください。

  • #36.

    この段階での予防が重要! 心不全 ステージ分類 進行段階別の分類:心不全ステージ ステージ A 心不全リスク AT RISK for HF 危険因子がある ステージ B プレ心不全 PRE-HF 器質的心疾患がある ステージ C 心不全 (Symptomatic) HF 心不全症候がある (既往も含む) ステージ D 進行性心不全 ADVANCED HF 治療抵抗性 危険因子のコントロール(減塩、食事運動療法、 血圧・血糖・脂質管理) 器質的心疾患の発症予防 器質的心疾患の進展予防(冠動脈血行再建、降圧薬、 抗不整脈薬など) 心不全の発症予防 症状コントロール QOL改善 入院予防・死亡回避 緩和ケア 再入院予防 終末期ケア 「危険因子」 高血圧 糖尿病 動脈硬化性疾患 身体機能 時間経過 急性 心不全 慢性心不全の急性増悪 (急性心不全)を反復 (突然死) 「器質的心疾患」 狭心症 左室肥大、EF低下 弁膜症 治療目標 急性・慢性心不全診療ガイドライン 2017年改訂版 図1 に universal definition and classification of heart failure を反映し演者改変 Bozkurt B, et al. Eur J Heart Fail 2021; 23(3): 352-380, Tsutsui H, et al. Heart View 2022; 26(1): 4-10 心不全のステージ分類を患者さんや他職種で共有することで、早い段階からの目標を持った心不全治療につながります。

  • #37.

    療養指導 薬物治療と同じくらい重要です 個々の病態に合わせて要点を押さえ的確に指導します 病態悪化の徴候を早期に察知し再入院を防ぎます

  • #38.

    個々の病態や理解度に合わせた指導 自らの症状を振り返ってもらい、心不全とのつながりを理解してもらう 「トイレ歩行だけで息が切れてしまうのは、心不全による症状だったんです」 心不全の病態を理解してもらう(体の状態と症状とを結びつける) 「心臓が悪いと血流が滞って、上流にある肺が水びたしになり息苦しくなる」 「体内の余分な水分を尿として出すことで、心臓の負担が減って楽になる」 心不全が悪化する誘因を知ってもらう 医学的因子(心筋虚血、不整脈、貧血、感染など) 生活因子(塩分・水分の摂取過多、怠薬、過活動、精神的ストレスなど) 心不全悪化に気づくためのセルフモニタリングや受診行動を身につける 息切れしている時に「今、肩で息をしていますね、症状に気付いていますか?」

  • #39.

    セルフモニタリング 血圧 と 脈拍数 朝 起床後 1 時間以内、排尿後、朝食や服薬の前 夜 就寝前 1~2分は座位安静にし、呼吸を整えてから測定する(できれば 2 回測定) 食後、入浴後、運動後は避ける 体重 1 日 1 回、起床して排尿した後 うっ血症状(息切れ、むくみ、疲れやすさ、食欲低下、不眠) 自分で意識して気づけるよう、代償不全前の徴候を思い起こさせる

  • #40.

    心不全増悪時の早期受診の目安 急性呼吸不全・意識障害を伴う 安静時の心不全症状、耐えがたい苦痛症状の持続 例 夜間の咳、横になると息苦しい、血圧が低くフラフラする 直ちに救急車を要請し、救急病院を受診 電話相談の上で直ちに受診 心不全症状が軽度だが、悪化し改善しない 安静時にも心不全症状が出現するようになった 例 3 日間で 2 kg 以上の体重増加、足のむくみ、  疲れやすい、だるい、食欲がない 電話で受診相談→すぐ受診が必要かどうか判断し指示 心不全症状はあるが軽度で、労作時など一過性で、安静や塩分・水分管理で改善する 例 体重増加が至適範囲内、または一過性、  夕方のみ足がむくむ、息が切れるが安静ですぐ落ち着く 生活調整(安静、塩分・水分管理) それでも症状増悪する場合は電話で受診相談 すぐ受診が必要! 予約より早めの受診が必要 定期受診まで経過をみてよい状態 心不全療養指導士認定試験ガイドブック 初版 p125

  • #41.

    運動制限? → 適切な「運動療法」を 「心不全は安静にする」は、血行動態が安定するまでの話です どの疾患でもそうですが、長期臥床・筋力低下は不利益が大きいです 血行動態が安定したら早めに 離床・リハビリテーション を始めましょう 運動「療法」で、筋力や心肺機能を維持しましょう 持続性の有酸素運動(ウォーキング、自転車エルゴメータ) レジスタンストレーニング(自重負荷、チューブや軽量のダンベルなど) 「苦しくならない程度の運動」が目安です 楽~ややつらい(Borg 指数 11~13)のレベル 過度な活動は心負荷増大による不利益が大きいので避けましょう 過剰負荷の例:20 kg以上の重い荷物を持ち上げて運ぶ、信号を走って渡る 回復する間もなく持続する負荷の例:息が切れても休息なく階段を登りきる 心不全療養指導士認定試験ガイドブック 初版 p118, p147

  • #42.

    塩分の目標は 1 日 6 g 未満 まずは、各食品の食塩相当量がどれくらいかを知ってもらいます 濃口しょうゆ 大さじ 1 に 2.6 g( 1 食分近く!) カップラーメンシーフード 1 杯に 4.8 g(2 食分をオーバー!) 無理なく楽しく減塩する工夫を患者本人と一緒に考えましょう 料理の「味付け」ではなく、素材そのものの味を楽しむよう意識してみましょう レモン、酢、香辛料、ねぎ、しそ、にんにく、しょうが などを活用しましょう 水分制限が必要なケースは限られています 軽症の慢性心不全では自由水の排泄は保たれているので水分制限不要です*1 重症心不全で希釈性低Na血症をきたした場合は水分制限が有用です カップヌー◯ルには 食塩 4 g 以上が 含まれています *1 日本循環器学会.急性・慢性心不全診療ガイドライン p105

  • #43.

    まとめ心不全は... いろんな視点での分類があります 病態により治療方針を決めます 原因の鑑別は専門医へ紹介 進行段階を意識しましょう 病態に合わせて指導しましょう

  • #44.

    参考文献、更新内容など 主な参考資料(2023年4月閲覧) 日本循環器学会ほか.2017年改訂版 急性・慢性心不全診療ガイドラインhttps://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/06/JCS2017_tsutsui_h.pdf 日本循環器学会ほか.2021年フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Tsutsui.pdf イラストはすべて「いらすとや」から引用しています Vol. 2.0 (2023/5/1) のおもな更新内容 Universal definition (2021)、ESC 2021、AHA 2022 各ガイドラインを一部反映 「心不全の症状や徴候」の章を追加 利尿薬の投与方法関連、静脈圧推定のスライドを追加、心エコー図での部位説明を加筆 心エコー図の正常値の出典を「循環器超音波検査の適応と判読ガイドライン2021」から「地域のかかりつけ医と多職種のための心不全診療ガイドブック」p20へ変更 実際の診療にあたっては、ガイドライン、電子添文等をご確認ください ご意見・改善点をぜひお寄せください (TwitterのDMなど) 2022/12/23の投稿以来、4か月で20万回近くの閲覧と1000人以上の先生方に保存いただき感謝申し上げます。

心不全の評価と治療

  • 内科

  • 循環器内科

  • 初期研修医

  • 心不全
  • 利尿薬
  • 心エコー
  • Award2023受賞

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投稿者プロフィール
かたやまたかし@循内
Award 2023 受賞者

北海道内の総合病院

概要

【本スライドの目標】

 心不全をその病態、原因、進行段階の視点で評価し、対処を考えられるようにしましょう

 心不全診療への抵抗感をなくしていただけると幸いです

【本スライドの対象】

・心不全を一通り学んだが、実践的なところがいまひとつわからない先生

・心不全の初期対応や安定後の外来管理を学びたい先生

・初期研修医、内科専攻医、一般内科医

【本スライドの内容】

日本循環器学会のガイドラインに基づきながら、海外のガイドライン内容や、ガイドラインでは言い切れない実践的なことも私見を含めて記載しています

【目次】

・心不全とは

・心不全診断における症状や徴候

・心不全の分類と治療方針

・療養指導

【更新内容 Vol.2.0 (2023/5/1)】

・Universal definition (2021)、ESC 2021、AHA 2022 各ガイドラインを一部反映

・「心不全の症状や徴候」の章を追加

・利尿薬の投与方法関連、静脈圧推定のスライドを追加、心エコー図での部位説明を加筆

・心エコー図の正常値の出典を「循環器超音波検査の適応と判読ガイドライン2021」から「地域のかかりつけ医と多職種のための心不全診療ガイドブック」p20へ変更

【お問い合わせ先】

ご意見、改善点をぜひお寄せください。

スライドデータをご希望の方は、twitterのダイレクトメッセージ(DM)などでご連絡ください。

本スライドの対象者

医学生/研修医/専攻医

参考文献

  • 日本循環器学会ほか. 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)

  • 日本循環器学会ほか.2021年フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療

テキスト全文

  • #1.

    かたやまたかし@循内 2022/12/23 初回投稿、2023/05/01 改訂2.0版 心不全の評価と治療改訂2.0版 Antaa Slide

  • #2.

    自己紹介 かたやまたかし@循内 2009年卒業(卒後15年目) 循環器専門医、総合内科専門医 200床規模の総合病院で循環器内科医として勤務 この数年は IABP や VA-ECMO など本気の心不全治療とは疎遠 本スライド内容に関連し開示すべき利益相反(COI)関係にある企業などはありません

  • #3.

    はじめに 本スライドの目標 心不全をその病態、原因、進行段階の視点で評価し、対処を考えられるようになる 心不全診療への抵抗感をなくす 本スライドの対象 心不全を一通り学んだが、実践的なところがいまひとつわからない先生 心不全の初期対応や安定後の外来管理を学びたい先生 初期研修医、内科専攻医、一般内科医 本スライドの内容 日本循環器学会のガイドラインに基づきながら、海外のガイドライン内容や、ガイドラインでは言い切れない実践的なことも私見を含めて記載しています

  • #4.

    目次 心不全とは 心不全診断における症状や徴候 心不全の分類と治療方針 療養指導

  • #5.

    心不全とは 「心不全」は病態であり、いろんな分類や名前があるので整理しておきます 循環動態の理解も重要ですが本スライドでは扱いません

  • #6.

    心不全とは 心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、 だんだん悪くなり、生命を縮める病気 日本循環器学会、日本心不全学会. 2017

  • #7.

    心不全とは 心臓が悪いために、 低灌流 心臓の先へ血液を十分送り出せない うっ血 心臓の手前で血液が滞る 肺うっ血 息切れ、起坐呼吸 静脈うっ血 むくみ、体重増加 末梢冷感、めまい、 倦怠感、尿量減少 息切れやむくみが起こる 器質的・機能的な心臓の異常 収縮して血液を押し出す力(EF)の低下 部屋の広がりやすさ(拡張能)の低下 部屋が異常に大きい、部屋の壁が厚い 弁の狭窄や逆流 原因 症状や徴候 右の欄は Universal definition and classification. Bozkurt B, et al. Eur J Heart Fail 2021; 23(3): 352-380 より引用し演者試訳。 EF <50% 異常な心腔拡大 E/E’ >15(拡張障害所見) 中等度以上の心室肥大 中等度以上の弁膜病変・閉鎖不全 *臨床研究やリスクスコアでよく用いられ感度や特異度が確認されているもの。 #低灌流・低心拍出量で一般的。##右心不全や両心不全の病態で典型的となりうる。 世界共通定義における具体的な所見

  • #8.

    心不全の世界共通定義 (2021) Universal definition and classification. Bozkurt B, et al. Eur J Heart Fail 2021; 23(3): 352-380 など。 器質的・機能的な心臓の異常を 原因とする 症状や徴候がある BNP高値 肺または全身の うっ血の 客観的証拠 または 心不全とは、現在または過去に下記が認められる臨床症候群です うっ血の客観的証拠 (evidence) 画像所見(胸部X線、心エコー図) 安静時や運動などによる負荷時の血行動態測定(右心カテなど) Universal definition 50年以上前から用いられてきた フラミンガム研究での診断基準に加え、 BNP または うっ血の客観的エビデンスが診断に求められるようになったのが特徴です

  • #9.

    心不全の分類は目的によって使い分ける 原因別 病態別 段階別 主に急性期の症状に対する治療を考えるとき 原因に対する治療を考えるとき 病状を俯瞰するとき 急性期 クリニカルシナリオ分類(血圧から 1~3 の 3 群に分類し治療) 急性期 Nohria-Stevenson分類(身体所見から 4 群に分類し治療) 慢性期 EF による分類(HFrEF, HFmrEF, HFpEF) NYHA 分類(重症度を自覚症状から I~IV の 4 段階に分類) ステージ分類(進展度を A~D の 4 段階に分類) にーは 虚血性 狭心症、冠攣縮、ACS 特発性心筋症 DCM, HCM, RCM, ARVC 心筋炎 感染性、非感染性 心毒性 薬剤性、アルコール性など 浸潤性 心アミロイドーシス、ファブリ 高血圧性 弁膜 MS... 先天 VSD... 演者作図 いろいろな切り口や分類があります… ※上記2つの分類が用いられることは近年少なくなってきました

  • #10.

    心不全管理は 代償化+疾患管理 基礎疾患 の管理 病態の 代償化 依存症 の管理 症状があるときに優先 急性期~安定期 予防段階から 心不全代償化の例 利尿薬による うっ血解除・体液量是正 強心薬による 血行動態の改善 基礎疾患に対する治療の例(専門医療機関への紹介が必要な場合もある) 心筋虚血に対する 冠動脈の血行再建術(PCI、バイパス術など) 弁膜症に対する 侵襲的治療(弁置換術・TAVI、僧房弁クリップ術など) 症候性徐脈に対する ペースメーカ移植術 依存症に対する治療の例(各診療科への紹介や併診が必要な場合もある) 糖尿病に対する 薬物治療や食事運動療法 COPD に対する 禁煙指導や吸入薬 慢性腎臓病に対する 尿蛋白抑制や腎性貧血是正 演者作図 手術などの非薬物治療が推奨される病態においてはタイミングを逃さず専門医療機関へご紹介ください。

  • #11.

    心不全診断における症状や徴候 心不全に特異的な自覚症状や身体所見はありません(そこが心不全の難しいところ) 可能性を疑う症状や徴候があればさらなる検査を追加して心不全の確からしさを確認していきます 本スライドではすべての内容を扱いきれませんが、主な症状や徴候の確認方法を説明します

  • #12.

    心不全診断の流れの概要(急がない場合) 問診 症状、運動能の低下 既往・患者背景 身体所見 ラ音、心雑音・過剰心音の聴診 頚静脈の視診 下腿浮腫 パルスオキシメータ (SpO2) 心電図 急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版 p16 図4 を参考に演者作図 器質的・機能的な心臓の異常を 原因とする 症状や徴候がある BNP高値 うっ血の画像所見 胸部X線 心エコー図 心臓カテーテル検査 または 心不全の世界共通定義 上記の流れで診断し、原因疾患や心不全ステージに応じた治療に進んでいきます。 心不全の可能性が高くないと判断された場合も、必要に応じて心不全の発症予防や経過観察を検討します。

  • #13.

    問診で心不全症状を聞き出す 日本心不全学会.急性・慢性心不全診療ガイドライン かかりつけ医向けガイダンス 2019. p20 を参考に一部抜粋・改変し演者作表。 心不全に特異的な自覚症状や身体所見はありません。 可能性を疑う症状や所見があれば、検査などを追加し心不全を診断していきます。

  • #14.

    労作時の症状(運動耐容能)の評価 急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版 p31 表19, 表20 より一部抜粋し演者作図. 慢性心不全では、自らの活動を制限し自覚症状が出ないようにして生活していることがあります。 具体的な質問で、普段の生活における身体活動度や、どの程度の身体活動で症状が出るかを確認しましょう。

  • #15.

    頚静脈視診による中心静脈圧の推定 演者作図 半臥位45度で、右側の前頚部を視診します 右の胸鎖乳突筋 右房 右の外頚静脈の怒張 右の内頚静脈の拍動 収縮期 拡張期 a v x y 心室 右房圧 a 内頚静脈は表皮が1拍で2回へこむ 半坐位45度にすると、右房から胸骨角までの高さがおよそ 5 cm になる 胸骨角から 外頚静脈怒張 内頚静脈拍動 頚動脈の拍動との鑑別 1拍で2回へこむ 拍動を触知できるほどの圧がない 以下は拍動がどこで見えるか探す時にも有用 呼吸性変動がある(上端が吸期に下降) 体位で変動がある(上端が臥位で上昇、坐位で下降) 「肝頚静脈逆流」による変動がある(右季肋部をじわーっと押すと上昇) 胸骨角 この足し算が 推定右房圧 の上端までの高さ ひくひくっ! ※外頚よりも内頚静脈の方が正確とされています ※太っている場合、首が短い場合は観察しにくいです 右房圧 8~10 cmH2O 以上を 中心静脈圧上昇としています 正しく評価するにはいろいろなことを理解する必要がありますが、習得すると有用のはずです。

  • #16.

    [参考]むくみの心不全以外との鑑別方法は? 身体所見、年齢、身体活動度、併存疾患などから事前確率を考慮の上で、鑑別するための検査項目を選定します 全身性か局所性・片側性か、発赤や疼痛を伴うか 服薬内容(カルシウム拮抗薬、NSAIDsなど) 血清Cr(両下肢全体の浮腫は腎不全でよくみられます) D-dimer、下肢静脈エコー(片側性の場合は DVT の可能性が高まります) Alb、尿蛋白、肝不全、低栄養、蛋白漏出性胃腸症による下痢など Hb 甲状腺ホルモン(非圧痕性が有名です) 胸部X線、BNP、心エコー図 個人的な印象では廃用性浮腫が多いですが、あくまで除外診断

  • #17.

    BNP の解釈 BNP 35~40 以上、NT-proBNP 125 以上を目安に、基礎疾患や危険因子があれば心エコーでの病態評価をお勧めします 高齢、腎不全、貧血、感染・全身炎症で BNP は上昇するので注意 肥満で BNP は低下し過小評価となるので注意 日本心不全学会 「血中BNPやNT-proBNP値を用いた心不全診療の留意点について」 の内容から作表 なお、心不全の世界共通定義では、外来患者のBNP 35以上、NT-proBNP 125以上が診断を支持する基準値とされています。

  • #18.

    心不全の分類と治療方針 急性期(代償不全) 急性心不全への対応 クリニカルシナリオ分類 Nohria-Stevenson分類 利尿薬の投与方法 慢性期 EF による分類 心エコー図 進行段階別の分類 心不全ステージ (A~D)

  • #19.

    急性心不全の評価と対応(概要) 本邦のガイドライン2017、ESC 2021、AHA 2022 pe960 を参考に演者作成 うっ血に対する急性期治療の基本は フロセミド 20 mg (1A) 静注 すでに利尿薬を内服中なら同用量を静注 低灌流・心原性ショック の徴候 ”cold” 四肢が冷たい、網状皮斑(特に膝周辺) 意識障害 収縮期血圧 <90 mmHg が30分以上持続 尿量が少ない (<30 mL/h) 乳酸値が上昇 (Lac >2 mmol/L) うっ血 の徴候 “wet” 起坐呼吸 頚静脈怒張 浮腫 肺うっ血所見 循環動態を維持し臓器低灌流を改善 強心薬の持続静注(ドブタミン、ノルアドレナリンなど) 専門医療機関での集学的治療(IABP, VA-ECMO, IMPELLAによる機械的循環補助) 急性心不全の 多くはこれ これらの徴候を 見逃さない!

  • #20.

    急性心不全への対応(最初の10分) トリアージ 血圧・四肢冷感 心拍数・心電図モニター SpO2・呼吸数 体温 病態評価(クリニカルシナリオ) 10分以内 血行動態は不安定か 血圧90未満・末梢低灌流 血行動態を改善 体液貯留がなければ生食を補液 強心薬 ドブタミン持続静注150mgシリンジ0.3%シリンジ(150mg/50mL) 2mL/h (2γ)で開始 昇圧薬 イノバン注0.3%シリンジ0.3%シリンジ(150mg/50mL) 2mL/h (2γ)で開始 血管収縮薬 ノルアドレナリン注1mg5A組成 (5mg/50mL) 2mL/h (0.067γ)で開始 機械的循環補助 (IABP, VA-ECMO, IMPELLA) 呼吸不全はあるか SpO2 90%未満 酸素化を維持 酸素吸入 NPPV(フルフェイスマスクなど)(S/Tモード、IPAP 8、EPAP 5、呼吸数 15/分) 気管挿管 ACSか 胸痛、心電図 (心エコー図、トロポニン値) 緊急CAG/PCIの手配 不安定 呼吸不全 ACS 急性心不全 急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版 p79 図11 を参考に演者作図.

  • #21.

    急性心不全への対応(次の60分) 迅速評価 うっ血・末梢低灌流の評価 血液検査、BNP 12誘導心電図 心エコー図(+肺エコー図) 胸部X線/CT 次の60分以内 CS1 の肺水腫か クリニカルシナリオ 1:血圧140以上 血管拡張薬 ミオコールスプレー0.3mg ニトロール舌下錠 ニトログリセリン点滴静注バッグ(50mg/100mL) 2mL/h (0.33γ)で開始 ハンプ注(注射用水で希釈、単独ルート推奨)4V組成 (4000µg/40mL) 3mL/h (0.1γ)で開始 うっ血(wet)はあるか 肺うっ血、浮腫、頚静脈怒張 利尿薬 フロセミド注20mg (2mL/A) 1A 静注 サムスカOD錠 7.5~15mg 内服 サムタス点滴静注用 8~16mg 点滴※サムスカ、サムタスは入院中のみ開始可。高Naに注意 アルダクトンA錠25mg 1錠 血圧 140以上 wet 再評価 病態と治療効果を再評価する 基礎心疾患の診断と、特殊病態の探索 心筋炎 右心不全、収縮性心膜炎 ACS 高血圧緊急症(臓器障害) 不整脈 機械的合併症(ACS後心破裂、大動脈解離、感染性心内膜炎) 肺塞栓 高心拍出心不全(敗血症、甲状腺中毒、貧血、脚気) 次の60分以内 急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版 p79 図11 を参考に演者作図. ※血管拡張薬静注は明らかな高血圧性の場合のみに使用します。 高血圧性か判断つかない場合は先に利尿薬を静注しましょう(私見)

  • #22.

    クリニカルシナリオ (CS) 分類 収縮期血圧 (mmHg) CS1 肺水腫 血管拡張薬(ニトロール、ハンプ) ±利尿薬(ラシックス) 140 CS2 体液貯留 利尿薬(ラシックス注20mg 1A) 血管拡張薬(ニトロール、ハンプ) 100 CS3 低心拍出 体液貯留がない場合は容量負荷(輸液) 強心薬(ドブダミンシリンジ) 血管収縮薬(ノルアドレナリン) 心原性ショック 薬物治療+補助循環 (IABP, Impella) 90 最初の10分で 血圧から治療薬を判断 CS4 急性冠症候群 CS5 右心機能不全 急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版 p81 図12 を一部改変. 高血圧性の急性心不全では、 初期治療として血管拡張薬による症状やうっ血の改善を考慮します。 (推奨は限定的です) 急性心不全の多くの場合は 体液過剰があるので、 利尿薬による是正が 初期治療の基本となります。 ※さすがに血圧だけで治療方針を決めるのは無理があるので、最近はあまり用いられていません。

  • #23.

    Nohria-Stevenson 分類 ノーリア スティーブンソン Profile A: dry-warm うっ血なし、血圧・末梢循環維持 (^-^) warm 低灌流所見なし cold 低灌流所見あり wet うっ血所見あり dry うっ血所見なし Profile L: dry-cold 脱水、血圧低下・末梢循環不全 Profile C: wet-cold うっ血、末梢循環不全 Profile B: wet-warm うっ血、末梢循環不全 四肢冷感、傾眠傾向 身の置きどころのない様相 腎機能悪化 血圧維持→利尿+血管拡張 血圧低下→強心薬のあと利尿 血圧上昇→血管拡張±利尿 血圧維持→利尿+血管拡張 輸液 強心薬 起坐呼吸、発作性夜間呼吸困難 頚静脈怒張、浮腫、腹水 身体所見から 治療方針を決める 急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版 図12 を一部改変. ※うっ血と低灌流という概念は治療方針を考える上で重要ですが、4分割は用いられなくなってきました。

  • #24.

    急性期における利尿薬の投与方法(例) 2021 ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure を参考に多少簡潔化して演者作成 トルバプタンに関しては サムスカ錠、サムタス点滴静注用の電子添文、日循他の適正使用ステートメント2023年改訂版(*1)をもとに記載 フロセミド 20 mg (1A) 静注 すでに利尿薬を内服中なら同用量を静注 尿量の目標 ≥100~150 mL/h 倍量を静注 (40 mg) 他剤併用 サイアザイド等 24時間ごと採血 Cr, Na, K, Mg うっ血・体液過剰が解除されたら 経口利尿薬へ切替 ボーラス投与→持続静注へ フロセミド20mg静注で利尿不十分なら... 慢性腎不全患者では最初から… フロセミド40mg静注で利尿不十分なら... 1日2回 6時・18時 ラシックス(20mg/A) 1A 静注。 ただし 静注前の収縮期血圧90未満の場合、10mg (0.5A) を静注 静注前の収縮期血圧110以上かつ、12時間尿量1500mL未満の場合、40mg (2A) を静注 病棟指示の一例(私見) 毎朝チェック;  静注量、尿量、体重、血圧、血液検査結果、  うっ血・体液過剰が軽快したかもチェック 血圧90未満が続くようなら治療内容を再考 1回40mg静注でも利尿不十分なら、持続静注(100mg/50mLを2mL/hで開始)、他剤併用などを検討 トルバプタン投与の併用も考慮 血清Na値を確認後に... まずは! 12時間ごと静注 ※本邦で頻用されるカルペリチド(ハンプ)は、個人的には血管拡張薬として用いる扱いです 初回投与 5(±1)時間後、10(±2)時間後、以後1週間は毎日、採血チェック (Na, K)*1

  • #25.

    利尿薬が効きにくい原因と対処 利尿薬が効きにくい背景を探り、条件を整えていきます 腎臓の交感神経系亢進をいかに抑えるかがポイント 演者作表。低アルブミン血症や腸管浮腫がフロセミドの効果にどう影響するかはいろいろな研究報告や意見があります。ここでは多くの医療機関で用いられていると思われる対処の内容を記載しました。 利尿以外の方法も併用して、早期に うっ血(特に肺)を軽減します 血管拡張薬や補助循環による後負荷軽減 血液浄化療法による除水、アシドーシス改善、電解質補正など

  • #26.

    うっ血・体液過剰 解除の判断方法 労作時呼吸困難感のほか、肺音、胸部X線、心エコー図などから総合的に判断します 労作時呼吸困難感の改善(身体活動度が低い高齢者ではわかりにくい) 肺ラ音の消失(誤嚥合併例などでは判別しにくい) 胸部X線で肺血管周囲陰影などの改善 心エコー法で推定肺動脈圧や下大静脈径などの改善 浮腫の軽減(浮腫には他の要因が重複していることもあるので、浮腫消失が必ずしも体液量是正の目標とはならない) ※ 肺うっ血解除から胸水消失まで数日程度の時間差があるので、その間の過剰な利尿に注意

  • #27.

    経口利尿薬への切り替え *1 Circ J 2012; 76: 833-842 “J-MELODIC study” においては、アゾセミド最大120mgまで投与可能とされていました。 *2 臨床医薬 1997; 13(8): 2055-2096 ではトラセミド8mg>フロセミド40mgの浮腫改善効果となっていますが、臨床研究では上記の換算が多いです。 フロセミド(ラシックス) アゾセミド(ダイアート) トラセミド(ルプラック) フロセミド注(ラシックス注) 20 40 60 8 20 30 4 6 時間 40~80 mg 12 時間 8 時間 60 mg 4~8 mg 腎機能不全等の場合にはさらに大量に用いることもある。 トルバプタン(サムスカ) 7.5~15 mg 年齢・症状により適宜増減する。*1 年齢、症状により適宜増減する。 20 mg 腎機能不全等の場合にはさらに大量に用いることもある。 12 時間 以前は、腎不全による乏尿の場合 「1回500mg、1日1000mgまで」とされていました(現在は記載がないようです) 利尿薬 通常用量 作用時間 換算量 添付文書での最大用量 一般に言われる換算量です*2 ※位置がちょっとずれているのは私見です うっ血・体液過剰が解除されたら、 それを維持できる最小量の経口利尿薬へ切り替えます。 後述の、EF による分類に基づいた基本薬もしっかり導入し、漸増します。 退院後は 1~2 週間後に再診とし、心不全徴候・症状、体重、血圧、Cr・電解質 などを確認します。

  • #28.

    うっ血解除後の利尿薬の量 うっ血解除に必要十分かつ最小限*1の用量にしましょう 高用量のループ利尿薬は生命予後悪化につながるという報告が多くあります*2 一方で、うっ血が残存した心不全患者の再入院率が高い*3ことから、十分にうっ血解除した状態で退院することが重要ともされています*4*5 *1 日本循環器学会.急性・慢性心不全診療ガイドライン *1 p84, *2 p37. *3 Eur Heart J. 2013; 34(11): 835-843, J Card Fail 2016; 22: 753-760. *4 ESC Guidelines, Eur Heart J 2021; 42: 3599-3726 p3657 11.3.11. *5 AHA Guideline. Circulation. 2022; 145(18): e895-e1032 pe964 9.3 うっ血解除・体液量是正のためには腎機能 (Cr) にもある程度は犠牲になってもらいましょう*5 (是正後が本来の Cr 値)

  • #29.

    外来での病態評価 血圧手帳に記録された 血圧、脈拍数、体重 を確認しましょう 家庭血圧は 125/75 mmHg未満か、症候性低血圧はないか 心房細動患者やベータ遮断薬投与患者は、脈拍数にも注意 体重が、うっ血や体液量過剰がない状態でのベース体重を大きく逸脱していないか 非代償性心不全の徴候がないか、症状、身体所見などで確認しましょう 労作時の息切れ、起坐呼吸はないか 血液検査で電解質(Na, K, Cl, Mg)異常、貧血などはないか 薬物の用量が適正かどうか、毎回確認しましょう 利尿薬は減量できないか? 腎機能低下や体重減少により減量が必要な薬はないか? 基本薬(ベータ遮断薬、ARNI)は増量できないか? 多職種と連携して病態に関する情報を補い患者へ関わることも有用です 病態が安定している時は 基本薬増量のチャンス

  • #30.

    EF による分類と治療 慢性期の心不全増悪予防や 予後改善などが目的 HFpEF ヘフペフ 収縮能が保たれている (preserved EF) 左室駆出率(EF) 50%以上 41%~49% HFmrEF エムレフ 収縮能が軽度低下している (mildly reduced EF) 40%以下 HFrEF ヘフレフ 収縮能が低下している (reduced EF) ACE阻害薬/ARB ベータ遮断薬 ミネラルコルチコイド拮抗薬 基本薬 SGLT2阻害薬 ACE阻害薬/ARB から ARNI への切替え 併用薬 うっ血に対する利尿薬 洞頻脈へ コララン 必要に応じ ジギタリス 血管拡張薬 + 非薬物治療 植込み型除細動器 (ICD)、心臓再同期療法 (CRT) 経皮的僧房弁接合不全修復術 (MitraClip) うっ血に対する利尿薬 依存症に対する治療 個々の病態に 応じて判断 HFpEFは、左室収縮障害と血管硬化が主体 降圧による拡張障害の抑制 血管硬化予防による心負荷軽減 SGLT2阻害薬 SGLT2阻害薬 ベリキューボ ARNI すべての心不全において 疾病管理、運動療法、緩和ケア 2021年ガイドラインフォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療 図2 に、universal definition and classification を反映し演者改変修正。 HFpEFへのSGLT2阻害薬についてはEMPEROR-Preserved試験やDELIVER試験の結果を踏まえ JAMA 2023; 329(10): 827-838 を参考に記載。 EFが改善した心不全は HFimpEF (improved EF) “Fantastic Four”

  • #31.

    EF が低下した心不全における主な治療薬 Fantastic Four

  • #32.

    HFrEF における基本薬 4 剤の導入方法 ベータ遮断薬は うっ血を解除後に開始や漸増をします 心不全時にすでに投薬中のベータ遮断薬は通常休薬しません*1 それ以外はどれも早期から開始し最大用量を目指します 下表の内容はすべて個人の経験等に基づく私見です! 使用時は必ず電子添文をご確認ください。 *1 急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版 p81 *2 臨床試験で用いられた、エンレスト1回50mgから100mgへの増量時の基準.*3 イバブラジンの目標安静時心拍数から転用。

  • #33.

    心臓にエコープローブを当ててみよう 突起を 右肩向きに たすき掛け 90度 時計回転で 突起は左肩向き プローブを 外へ寝かせる (「あおる」) 左室 左房 右室 右房 長軸像 短軸像 四腔像 厚さと動き 弁の開き 大きさ 左室全体の動き特に心尖部 逆流の程度 左室壁全体の動き(asynergy) 演者作図 心エコーの プローブは セクタ走査 突起/ マーカー 心尖拍動部 心電図のV5あたり 胸骨左縁第3~4肋間 心電図のV2~3あたり 左側臥位で 心臓を胸壁に 密着させると 見やすくなります

  • #34.

    弁はざっくりいうと 心エコー図レポートの読み方 急性・慢性心不全診療ガイドライン 2017 p23, 地域のかかりつけ医と多職種のための心不全診療ガイドブック p20 を参考に演者作表 2020年改訂版 弁膜症治療ガイドライン p13, p30, p56

  • #35.

    [参考]主な基礎疾患の表現型パターン 演者作表ですので、誤りなどあればご指摘ください 同じ基礎疾患でも、程度や時間経過によって表現型が異なります。複数の基礎疾患が関与していることもしばしばあります。 原因の鑑別と治療方針の吟味は難しいことも多いため、初発の心不全は、ぜひ一度は専門医へご紹介ください。

  • #36.

    この段階での予防が重要! 心不全 ステージ分類 進行段階別の分類:心不全ステージ ステージ A 心不全リスク AT RISK for HF 危険因子がある ステージ B プレ心不全 PRE-HF 器質的心疾患がある ステージ C 心不全 (Symptomatic) HF 心不全症候がある (既往も含む) ステージ D 進行性心不全 ADVANCED HF 治療抵抗性 危険因子のコントロール(減塩、食事運動療法、 血圧・血糖・脂質管理) 器質的心疾患の発症予防 器質的心疾患の進展予防(冠動脈血行再建、降圧薬、 抗不整脈薬など) 心不全の発症予防 症状コントロール QOL改善 入院予防・死亡回避 緩和ケア 再入院予防 終末期ケア 「危険因子」 高血圧 糖尿病 動脈硬化性疾患 身体機能 時間経過 急性 心不全 慢性心不全の急性増悪 (急性心不全)を反復 (突然死) 「器質的心疾患」 狭心症 左室肥大、EF低下 弁膜症 治療目標 急性・慢性心不全診療ガイドライン 2017年改訂版 図1 に universal definition and classification of heart failure を反映し演者改変 Bozkurt B, et al. Eur J Heart Fail 2021; 23(3): 352-380, Tsutsui H, et al. Heart View 2022; 26(1): 4-10 心不全のステージ分類を患者さんや他職種で共有することで、早い段階からの目標を持った心不全治療につながります。

  • #37.

    療養指導 薬物治療と同じくらい重要です 個々の病態に合わせて要点を押さえ的確に指導します 病態悪化の徴候を早期に察知し再入院を防ぎます

  • #38.

    個々の病態や理解度に合わせた指導 自らの症状を振り返ってもらい、心不全とのつながりを理解してもらう 「トイレ歩行だけで息が切れてしまうのは、心不全による症状だったんです」 心不全の病態を理解してもらう(体の状態と症状とを結びつける) 「心臓が悪いと血流が滞って、上流にある肺が水びたしになり息苦しくなる」 「体内の余分な水分を尿として出すことで、心臓の負担が減って楽になる」 心不全が悪化する誘因を知ってもらう 医学的因子(心筋虚血、不整脈、貧血、感染など) 生活因子(塩分・水分の摂取過多、怠薬、過活動、精神的ストレスなど) 心不全悪化に気づくためのセルフモニタリングや受診行動を身につける 息切れしている時に「今、肩で息をしていますね、症状に気付いていますか?」

  • #39.

    セルフモニタリング 血圧 と 脈拍数 朝 起床後 1 時間以内、排尿後、朝食や服薬の前 夜 就寝前 1~2分は座位安静にし、呼吸を整えてから測定する(できれば 2 回測定) 食後、入浴後、運動後は避ける 体重 1 日 1 回、起床して排尿した後 うっ血症状(息切れ、むくみ、疲れやすさ、食欲低下、不眠) 自分で意識して気づけるよう、代償不全前の徴候を思い起こさせる

  • #40.

    心不全増悪時の早期受診の目安 急性呼吸不全・意識障害を伴う 安静時の心不全症状、耐えがたい苦痛症状の持続 例 夜間の咳、横になると息苦しい、血圧が低くフラフラする 直ちに救急車を要請し、救急病院を受診 電話相談の上で直ちに受診 心不全症状が軽度だが、悪化し改善しない 安静時にも心不全症状が出現するようになった 例 3 日間で 2 kg 以上の体重増加、足のむくみ、  疲れやすい、だるい、食欲がない 電話で受診相談→すぐ受診が必要かどうか判断し指示 心不全症状はあるが軽度で、労作時など一過性で、安静や塩分・水分管理で改善する 例 体重増加が至適範囲内、または一過性、  夕方のみ足がむくむ、息が切れるが安静ですぐ落ち着く 生活調整(安静、塩分・水分管理) それでも症状増悪する場合は電話で受診相談 すぐ受診が必要! 予約より早めの受診が必要 定期受診まで経過をみてよい状態 心不全療養指導士認定試験ガイドブック 初版 p125

  • #41.

    運動制限? → 適切な「運動療法」を 「心不全は安静にする」は、血行動態が安定するまでの話です どの疾患でもそうですが、長期臥床・筋力低下は不利益が大きいです 血行動態が安定したら早めに 離床・リハビリテーション を始めましょう 運動「療法」で、筋力や心肺機能を維持しましょう 持続性の有酸素運動(ウォーキング、自転車エルゴメータ) レジスタンストレーニング(自重負荷、チューブや軽量のダンベルなど) 「苦しくならない程度の運動」が目安です 楽~ややつらい(Borg 指数 11~13)のレベル 過度な活動は心負荷増大による不利益が大きいので避けましょう 過剰負荷の例:20 kg以上の重い荷物を持ち上げて運ぶ、信号を走って渡る 回復する間もなく持続する負荷の例:息が切れても休息なく階段を登りきる 心不全療養指導士認定試験ガイドブック 初版 p118, p147

  • #42.

    塩分の目標は 1 日 6 g 未満 まずは、各食品の食塩相当量がどれくらいかを知ってもらいます 濃口しょうゆ 大さじ 1 に 2.6 g( 1 食分近く!) カップラーメンシーフード 1 杯に 4.8 g(2 食分をオーバー!) 無理なく楽しく減塩する工夫を患者本人と一緒に考えましょう 料理の「味付け」ではなく、素材そのものの味を楽しむよう意識してみましょう レモン、酢、香辛料、ねぎ、しそ、にんにく、しょうが などを活用しましょう 水分制限が必要なケースは限られています 軽症の慢性心不全では自由水の排泄は保たれているので水分制限不要です*1 重症心不全で希釈性低Na血症をきたした場合は水分制限が有用です カップヌー◯ルには 食塩 4 g 以上が 含まれています *1 日本循環器学会.急性・慢性心不全診療ガイドライン p105

  • #43.

    まとめ心不全は... いろんな視点での分類があります 病態により治療方針を決めます 原因の鑑別は専門医へ紹介 進行段階を意識しましょう 病態に合わせて指導しましょう

  • #44.

    参考文献、更新内容など 主な参考資料(2023年4月閲覧) 日本循環器学会ほか.2017年改訂版 急性・慢性心不全診療ガイドラインhttps://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/06/JCS2017_tsutsui_h.pdf 日本循環器学会ほか.2021年フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Tsutsui.pdf イラストはすべて「いらすとや」から引用しています Vol. 2.0 (2023/5/1) のおもな更新内容 Universal definition (2021)、ESC 2021、AHA 2022 各ガイドラインを一部反映 「心不全の症状や徴候」の章を追加 利尿薬の投与方法関連、静脈圧推定のスライドを追加、心エコー図での部位説明を加筆 心エコー図の正常値の出典を「循環器超音波検査の適応と判読ガイドライン2021」から「地域のかかりつけ医と多職種のための心不全診療ガイドブック」p20へ変更 実際の診療にあたっては、ガイドライン、電子添文等をご確認ください ご意見・改善点をぜひお寄せください (TwitterのDMなど) 2022/12/23の投稿以来、4か月で20万回近くの閲覧と1000人以上の先生方に保存いただき感謝申し上げます。

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